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 四人集まったときの行動はいつもパターン化されている。

 昼間はどこかで思い切り遊んで、夜は酒屋をやっている卓也(たくや)の実家に集まってワイワイ飲む。

 居酒屋やバーに行くよりもよっぽど安上がりだし、他の客や席の時間を気にする必要もないから、四人が飲むときは専ら卓也の家なのだ。


 昼間に遊ぶ場所は、気分や季節によって毎回違う。

 花見だったり、海だったり、水族館だったり、遊園地だったりしたこともあった。

 しかし今日は驚くほどの猛暑日。涼しい場所がいいだろうという満場一致の意見により、(じゅん)らはボウリングとカラオケを梯子して夜まで遊び尽くしたのだった。


 そして、日も沈んだ今はお決まりのように卓也の家。

 コンビニでつまみになるものだけ買って、酒は卓也の実家で買う。テレビCMでよく見るような定番の酒から、地方でしか売っていないような変わり種まで取り揃えた卓也の酒屋(いえ)は、酒の味を覚えてからは天国のような場所だ。


「――で、その講義で見た教材VTRの子たちがめっっっっちゃ可愛くてさー! 見惚れすぎて内容が全然頭に入ってこなかったの。もうほんと天使だよ……」


「ははは。杏奈(あんな)はほんとに子ども好きだよな、昔から」


「そもそも子ども嫌いなら、最初から保育士なんか目指さないだろうしな」


「当ったり前じゃーん! 子どもはこの世の宝だよ! 財産だよ!」


 少し手狭だが、四人で集まるのにも慣れた卓也の部屋。

 真面目な彼の部屋はいつだって整理整頓されているから、卓也は急に「飲もうぜー!」と押しかけてもまるで動じない。たまには「部屋散らかってるから片付けさせてくれ!」なんてありきたりな展開でも見てみたいくらいだ。


「はあー、私も子ども欲しいなあー」


「学生で産むと苦労するぞ」


「わかってるってー! 言ってみただけじゃん、卓也はほんっと真面目だなあ」


「てか杏奈、今彼氏いないんならどのみち無理じゃないか?」


「純までそゆこと言うー! それもわかってるのー!」


 酒が入ると、長い付き合いの四人はなんでも打ち明け合ってしまう。いいことも悪いことも全部だ。

 だがその空間の居心地が良かったりする。他の人には絶対に話せないようなデリケートな話まで口からこぼれ出てしまうのは、この四人の親しさ故だろう。


「ていうか、産むなら最愛の旦那の子がいいし。だから私、結婚するまでは絶対処女守り抜くからね」


「いつの時代の人間なんだ、お前。それだけモテて未だに処女とか信じられないんだけど」


「そうか? ただれた恋愛をするよりは賢明だと思うがな」


「卓也は真面目すぎるんだって。もう少し遊ぶこと覚えたら?」


「十分遊んでる。今がまさにそうだろう、純?」


 本当に、こんな話は彼らとしかできないと常々思う。

 それが楽しくて仕方がないし、何度でもこうして集まりたいと思う理由だ。

 ちなみに今、純と卓也と杏奈の三人で話が盛り上がっているが、英彦(ひでひこ)はいつの間にか酔いつぶれていびきをかいている。

 酒に弱くて一番にダウンするのが英彦なのもお決まりのシナリオだ。スポーツ万能のヒーローも酒には勝てないらしい。


「おい英彦、床で寝られると足元が邪魔だ。ベッド貸してやるから上がってくれ」


「……うい~。んじゃ起こして~」


「まったく……」


 卓也に介抱されてベッドまで移された英彦。その様子が面白くて、杏奈はスマートフォンで動画を撮りながら大笑いしている。これはあとでグループチャットに貼られる流れだ。


「……う~ん、卓也優しい~。愛してる~」


「やめろ、気持ち悪い。僕にそんな趣味はない」


「うへへ。親切(・・)にどうも~」


 酔い潰れた英彦の何気ない一言で、純は昨日のことを思い出してハッとなった。

 バイト終わりに届いた謎のメッセージ――その先の占いサイトのことを。


「……なあ、みんな。昨日こんなメッセが来たんだけど、見てくれるか?」


 考えないようにしていたことが脳裏に蘇った純は、ついその話題を切り出してしまっていた。

 スマートフォンを取り出し、届いたメッセージを見せる。最も、英彦はベッドで寝てしまっているから、見ているのは卓也と杏奈だけだったのだが。


「あっ、それ私も来たよ。占いのやつでしょ?」


「ああ、昨日僕にも届いた。シンセツ(・・・・)がどうとかいう占いだろう?」


「えっ、マジ? てか、占い結果まで同じなのかよ」


 まさかの返答に凍り付く純。ここまで自分にとって心当たりのあるメッセージだったのは偶然だと割り切っていたのに、同じものが親友たちにも届いていたなんて。

 まるで、これは偶然ではなく必然だと、何者かに示唆されているような、そんな風に思えてくる。


「なんか、気味悪いよね、これ……」


「ああ。悪趣味極まりない」


「だよな。よりによって『座敷童』に『シンセツ』……だもんな」


 彼らがそう思うのもそのはず。

 なにしろ高校時代、同級生の大山(おおやま)(しのぶ)を自殺に追いやったいじめ――『シンセツ』を行ってきたのは、ここに集まっている四人だったのだ。


「ねえ、まさかとは思うけどさ……これって、自殺した大山さんの幽霊が……とかじゃないよね?」


「そんなはずないだろう。幽霊がどうやってメールを送るんだ。非科学的にも程がある」


「うん。俺も卓也と同じ意見だけど……」


 そんなわけがないと思う反面、もしかしたらという予感もする。だが現時点ではどちらとも結論がつかないのも事実だ。


「まあ、気にしすぎるのもよくないか。忘れよう、こんな迷惑メールのことなんて。はい、削除削除」


「そうだな。生きていればこんな偶然もあるだろう」


「えええ、でも……。あっ、私そろそろ終バス来ちゃう」


「じゃ、今日はここでお開きにしようか」


 杏奈が帰るのに合わせて、楽しい日曜日の集まりは解散とすることに決まった。

 まあ、おそらく帰るのは純と杏奈だけで、潰れてしまっている英彦は朝まで卓也の家で厄介になるのだろうけど。

 ほら起きろ、なんて卓也に頬を叩かれても目覚めない英彦を笑いながら、純は杏奈をバス停まで送り、そのまま家路についたのだった。

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