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 翌日は日曜日。天気も良く、絶好のお出かけ日和だ。

 今日はいつもつるんでいる友人たち四人で遊びに出かける予定を組んでいる。この日をずっと楽しみにしてきた(じゅん)は、待ち合わせ場所に一時間も早く到着して笑われる羽目となってしまった。


「まったく。早すぎるのも考えものだろうに」


「あはは。まあ遅れるよりはいいじゃんか」


 純に続いて二番目。待ち合わせ時間の五分前という模範的な時間管理能力を見せたのは、真面目な性格の堀田(ほった)卓也(たくや)である。

 彼は実家の酒屋を継ぐために大学には行っておらず、四人組の中で唯一の高卒だ。


 今では学歴こそ純の方が上であるが、高校時代の卓也は常に校内で五本の指に入る学力だった。

 故に担任も含めあらゆる教師から進学を勧められたものだが、一度決めたことを曲げない芯の強さを持つ卓也は、親孝行のために実家の店を継ぐのだと言って聞かなかった。

 担任はかなり残念がっていたが、卓也本人は進学せずに就職したことに満足しているようだ。


「あーっぶねー! ギリギリセーフッ!」


「いや、僕の時計では一分遅刻だ」


「一分なんて誤差じゃねーか。細けえこと言うなって! 俺の携帯(とけい)ではセーフだったんだってほら!」


 時間ぴったりに現れたのは、純と中学高校の六年間一緒だった那須(なす)英彦(ひでひこ)

 彼は遅刻だと指摘する卓也にスマートフォンの時計を見せつけながら大きな声で騒いでいた。

 うっすら笑っている卓也を見るに、彼も本気で英彦の遅刻を咎めているつもりはなさそう。英彦もこれが冗談だとわかっているのか、へらへら笑って楽しそうにしていた。まあ、時間ぴったりは遅刻ではないわけだし。


英彦(ヒデ)はまたスポーツウェアなのかよ。他に服持ってないのか?」


「あるにはあるけど、これが一番楽なんだもんよー。どうせ会うのもお前らだし、おしゃれすることもねーかなーって」


 純が目にとめた、黒地に黄色のラインが入ったシャツと短パンは、どう考えても彼が普段の部活動で使っているものだ。

 というのも、彼は純とは別の大学でサッカーサークルのエースストライカーをしているのである。


 四人組の中では純と一番付き合いの長い英彦は、昔から運動神経抜群で、体育の授業ではいつだってヒーローだった。

 走れば陸上部と互角、投げれば野球部に冷や汗をかかせ、泳げば水泳部と肩を並べていた英彦。そんな彼が最もその才能を開花させたのがサッカーだった。


 英彦は中学一年でいきなりレギュラーの座を掴み、数々の大会でチームを勝利に導いてきた。

 高校時代には都道府県選抜大会の選手にも選ばれ、今の大学にもスポーツ推薦で入学した。

 彼は特にプロを目指すつもりはないようだが、本気でサッカーだけに専念すれば日本代表も夢ではないのではなかろうかという予感がする男だ。


「おー! みんないるいるー!」


「これは言い逃れようのない遅刻だろ」


「ああ、そうだな。これは完全に遅刻だ」


「えー、たった五分くらい大目に見てよー。バスが遅延してたんだってー」


 ゆるいウェーブをかけた黒髪をひらひらと揺らしながら小走りで現れたのは、四人組の紅一点である種田(たねだ)杏奈(あんな)だ。

 彼女は純と同じ大学に進学していて、保育士を目指して日々実習に励んでいる。大学内で純と顔を合わせることもしばしばだ。


 そんな彼女は高校時代、クラスで男子に最も人気のある女子の一人だった。

 整った顔つきはもちろんのこと、誰にでも気さくで明るい性格は多くの男子を勘違いさせたものだ。

 細身でスタイルもよく、まさに完璧の一言。にもかかわらず高校時代に一人も彼氏を作らなかったことは、同級生の間では半分伝説になっている。


 まあ、それは純ら四人でいつも一緒にいたことが原因だろうが。

 学力トップの卓也に、スポーツで右に出る者のいない英彦。この二人がいたのではそんじょそこらの男子が手を出せなくても仕方がない。


 そんな学校の有名人三人と純がつるんでいたなど、普通に考えれば信じられないだろう。

 特に取柄もなく平凡な彼だが、気がつくといつも彼らと一緒にいたため、彼自身そのようなことを深く考えたことは一度もなかった。


「じゃ、行くか」


 純の一声に三人が頷き、待ち合わせ場所から歩き出す。

 この四人でこうして集まるのも何回目――いや、高校時代から数えれば何百回目だろうか。

 生涯の友と呼べる仲となった彼らは、今日一日を全力で遊び尽くすために集まった。その時間の一分一秒を惜しむように、純らは最初の目的地へと向かったのだった。

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