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91話 悪夢降臨

「「全ては総統閣下の為に!皆、行くぞ!」」


「「「ジェラシイイイィィ!!!」」」


 モサシ達の号令に黒づくめ達が続く。


 黒い雪崩れとなって僕達を飲み込まんと飛び掛かってきた。


「くっ!!こいつはマジでヤバいぞ!?」


「数が違いすぎる上に煌めく魔鉱金級ミスリル冒険者のモサシ達がいるなんて反則だぜ!!」


「泣き言言ってないで武器を構えなさい!気を抜いたら一瞬でやられるわよ!?」


 冒険者達が僕達を囲むように円陣を組む。


 明らかな劣勢で愚痴を溢す人もいるが、全員が僕らを守ろうとしてくれる。


 それが嬉しくもあり、情けなくもある。


 僕は……こんな時に何もできないのか?!


「くっ!数ばかりの雑魚共めが!全員儂の鎚で…」


「させぬ。お主の相手は俺だ」


 戦鎚を振り下ろそうとした親方だが、それはモサシのカタナによって止められてしまった。

 しかも片手でだ!!

 親方は力の強いドワーフの中でも相当な腕力の持ち主だ。その親方の振り下ろしを片手で止めるなんて……なんて力をしているんだ。


「チッ!面白いわい!元煌めく魔鉱金級ミスリルと現煌めく魔鉱金級ミスリル。どっちが上か勝負じゃ!!」


「面白い」


 そこから親方の鎚とモサシのカタナによる怒涛の打ち合いが始まった。


「ドリック!何やってんだい!戦力が少ないってのにそんな……」


「ヒョホホホ!他人より自分を心配したらどうじゃ?エルフの女よ」


「なっ?!」


 親方を気にしながら鞭を振るっていたシルフィさんの下に、突如としてどこからともなくドンブルダーが至近距離に現れた。


 そして何やら呪文らしきものを呟くと、周囲に浮かぶ水晶が炎を纏い、シルフィさん目掛けて勢いよく飛んでいった。


「チィ!!」


 シルフィさんが鞭を振るうとそこに竜巻が発生した。水晶は竜巻によって巻き上げられ、上空高くに飛んでいった……かと思えば、ヒュンヒュンと動いてドンブルダーの側に戻っていった。


「ヒョホホホ……風使いか。それもかなり高位の聖霊と契約しておるようじゃ。なんとも厄介だのう」


「ハン!あんたには言われたくないね!その水晶の魔法……まだ全然本気を出してないだろう?」


 シルフィさんがそう言うと、ドンブルダーがニヤリと笑った。


 そこからは、シルフィさんとドンブルダーの壮絶な魔法合戦が始まった……。


「くっ!!ドリック様もシルフィ様もモサシ様達の相手で手一杯か!」


「だかモサシ達の相手なんてあの人達ぐらいしかできねぇ!俺達は俺達のやれるだけのことをやろうぜ!」


「「オオオー!!」」


 親方達がモサシ達の相手をすることで戦力が減ってしまった。

 だが、冒険者の人達は一切悲観することなく武器を振るい続けた。


 そんな戦ってくれる冒険者達には感謝の念しか感じない。


 冒険者の人達も数で圧倒されているが、それでも善戦してくれている。しかし相手の数が数だし、徐々に押されつつあった。


「くっ!これ以上はまずいぞ!早く対さ─グアッ?!」


 突如、盾役で攻撃を防いでいた冒険者の人が吹き飛んだ。


 何があったかと思えば、なんとそこにはカオリが剣を構えて佇んでいた。


 どうやらカオリが冒険者を弾き飛ばしたらしい。


 しかし何だ、あの手にしている剣は?!ドス黒い紫色をしていて明らかに普通じゃないぞ?!


「ヒャハハハハ!隙有りだよ!馬鹿め!!」


「「「ウオオオ!!総統閣下が直々に戦線に出られたぞおおお!!」」」


 指揮官であるカオリが出てきたことで、黒づくめ達のボルテージがどんどん上がっていく。


 これは……本格的にヤバい!!


「総統自らお出ましかよ!!だが、テメェの首を取れば俺達が勝ったも同然だ!!」


「いくぜ!女だからって手加減しないぜ!」


 二人の冒険者が果敢にもカオリへと斬りかかった。だが、カオリはそんな冒険者達の剣をスルリとかわすと、継いで冒険者達の無防備な脇腹へと剣を振るった。


「ヒャッハー!喰らいな!肝臓轟打リバーボア!!」


「「グボエエエエ!?」」


 それはエグい技だった。

 剣で脇腹を斬るのではなく、剣の腹で脇腹を強打したのだ。しかも肝臓がある部位を殴られたことで、冒険者達はあまりの激痛にのたうち回る。

 更に腹を強打されたことで、彼らは口から大量の吐瀉物を辺りに吐き散らかしていた。


「ヒャハハハハ!これぞ痛みと羞恥を合わせた技!相手に激痛だけでなく、恥までかかせる最低最悪な技だよ!」


「「「流石は総統閣下!あまりにゲスい!ゲス過ぎる!だが、そこに痺れる憧れるぅぅぅぅぅ!」」」


 黒づくめ達が興奮したように声を上げた。


 な、なんて奴だ?!ただ相手を倒すだけでなく恥までかかせるなんて!!あまりにもゲスすぎる戦い方だぞ!?


 カオリの相手を貶めるような戦い方に僕や冒険者達は少ないない憤りを感じた。

 冒険者は戦士ではないが、それでもよっぽどでない限り、戦う相手には敬意を払うべきだ。


 それを……。


「カオリィィィィイ!!」


 冒険者達の集団からゴルデさんが飛び出す。

 ゴルデさんが振るった剣を、カオリは易々と受け止めた。


「ヒャハハハハ!ゴルデじゃない!なんだい私とそんなに踊りたいの?」


「うるさい!あんたよくもこんなゲスい真似ができたわね!というか、その剣は何よ!」


「メル婆のとこで買った!なんかアスモデウスって剣で、嫉妬のエネルギーを力に変えることができる剣よ!これ持ってからすんごい剣技の腕が上がったのよね!ただなんか肩凝りが酷くなって、更に悪寒も……」


「それ絶対魔剣の類いぃぃぃ!!憑かれてるから!間違いなく取り憑かれてるから!てか、またメル婆かよ?!今度会わせなさい!そのババアにガツンと言ってやるわ!あと、剣助って剣はどうしたの?!」


「えっ……?」


 


 ◇◇◇◇


 とある村にて……。


 

「おねーちゃーん!見て見てー!」


「あらー?どうしたのルシア?そのノコギリだか剣だか分からない禍々しいものは?」


「分かんなーい?なんか馬小屋のロッカーに入ってた!」


「そう?じゃあ捨ててらしっしゃい。なんかバッチいし」


「はーい!」


(あの糞女ぁぁぁぁ!俺を置いていきやがったぁぁぁぁぁぁぁ!?)


 


 


 ◇◇◇◇◇


 

「……なんかどっかいった」


「なくしてんじゃないの!?あれ、大聖霊の加護をもらったんでしょう!?どうすんのよ!!」


「知らんわ!そのうちどっかから出てくるでしょう!!」


「それ一生見つからないやつだからぁぁぁ!!」


「うるせぇぇぇぇぇぇ!!」


 ゴルデさんとカオリが剣を押し付け合いの鍔競り合いがはじまる。

 辺りに二人の闘気が溢れ、剣がギギギと擦れる鈍い音が響いた。


「ゴルデー!今援護に行くよー!」


 銀髪の魔法使いらしきゴルデさんの連れが、杖を片手に何やら呪文を唱えだした。


 だが、その呪文を唱え終わる前に、銀髪さんに向かって黒い炎が飛んできた。


「───なっ?!くっ!!」


 間一髪で黒い炎をかわした銀髪さん。

 黒い炎が着弾した地面は、そこが石であるにも関わらずメラメラと紙でも燃やしているかのように燃えていた。


「これは……ハンナね!!」


 銀髪さんが上空を見上げる。

 僕もつられて見上げれば、そこには宙に浮かぶ軍服姿の銀髪の女性がいた。


 あれは……確かカオリの側に控えていた副官らしき銀髪の女か?!


 その副官らしき銀髪の女は、生気を感じない無表情な目で銀髪さんを睨んでいた。


『フフ……ついにこの時がきましたね。私達の因縁に決着をつける日が……』


「因縁ー?なんのことー?」


 副官の言葉に銀髪さんが首を傾げる。


 副官は何か銀髪さんに因縁があるようだが、銀髪さんの方には思い当たる節がないようだ。


『フフ……私は一目あなたを見た時から危機感を抱いていたのです。そしていつか決着をつけねばと考えていた……。だから、今回その機会を得たことを嬉しく思っているのです……』


「だからなんのことよー!?」


 銀髪さんが訳が分からないとばかりに怒鳴った。


 すると、銀髪の副官がクワッと目を見開きながら叫んだ。


『銀髪……ショートヘアー……巨乳……そして魔法使い…………キャラがめちゃくちゃ被ってんだよ!!このパクり女がぁぁぁぁぁ!!』


「知るかぁぁぁぁぁぁ!!」


 銀髪さんと副官が互いに魔法を撃ち合った。


 いや……キャラが被ってるって……いや被ってるけどさ……。


『後からポンと出てきた癖に私と同じ特徴しやがって!!描写書くときの書き分けが大変なんだよ!その間の抜けた『キャラ作り』の喋りがなきゃ、読者が見分けつかないんじゃぁぁぁ!!』


「おい!キャラ作り言うんじゃないよ?!テメェこそ『』の喋りがなきゃ特徴ねぇじゃねぇか!!ちょっと前までポンゴと同じ死にキャラだったらしい癖に調子こいてんじゃねーよ!!」


『テメェ言ったな?!ぶっ殺してやる!?その髪をピンクに染めて、間の抜けた天然ドジっ子魔法使いキャラにしてやんよ!!』


「上等!!その青白い肌にブルーベリージャムを塗りたくって血管の中をジャムが流れてたみたいにしてやんよ!!」


 こうして銀髪魔法使いと銀髪魔法使いによる銀髪魔法使い最強決定戦が巻き起こることとなった。


 というか、銀髪さんの素の喋りが怖い……。


「「ジェラシイイイィィ!!」」


 銀髪さんの戦いに呆気にとられていると、二人の黒づくめが僕達に飛び掛かってきた。


「うわっ!?」


 驚き、体が硬直する僕。


 このままでは黒づくめ達に捕まってしまうと思った時、銅褐色の髪色をした女性が飛び出してきた。


 あれは……確かゴルデさんの連れの人だ!


「シィ!!」


「「ジェラシイイイィィ?!」」


 女性が両手に持ったナイフを振るう。

 たちまち二人の黒づくめが吹き飛ばされた。


「あなた達、大丈夫!?」


「は、はい……なんとか……」


 黒づくめ達を吹き飛ばした後、女性が僕達へと駆け寄ってきた。


 すると、この様子を見ていたカオリが盛大な舌打ちを鳴らした。


「クソッ!ゴルデ達の気を引いてるうちにその男を確保するはずだったのに……ブロズの存在を忘れてたわ!存在が薄いから!」


『すっかり忘れてましたね!存在が薄いから!』


「「「ウスィィイイイイイ!!」」」


「うっさい!存在感無くて悪かったわね!?」


 ブロズと呼ばれた女性が涙目で叫んだ。


 すると、ゴルデさんがカオリと剣をぶつけ合いながら、ブロズさんへと指示を出した。


「ブロズ!そのままハンス君とローズさんを連れて逃げなさい!ここはもう保たないわ!」


「なっ?!ぼ、僕達だけ逃げろって言うんですか?!」


 ゴルデさんの指示に僕は驚愕した。

 皆が僕達の為に戦ってくれているというのに、その皆を残して逃げろというのだ。


 そんなことができる訳ないじゃないか!!


「そんなの嫌です!ゴルデさん僕も戦───」


「甘ったれたこと言ってんじゃないわよ!!」


 ゴルデさんの怒声が響いた。


 突然の怒声に呆気にとられる僕。

 そんな僕にゴルデさんは更に続けた。


「ここに残って戦う?戦う武器も力もないあなたに何ができるって言うの!!」


「でも──」


「でもじゃない!ハンス君!既にあなた達を守る為に多くの冒険者達が散ったのよ!ここであなたが捕まれば、皆の犠牲が無駄になる!あなたはそれでいいの?!」


「それは───」


 確かに僕が捕まれば彼らの犠牲は無駄になる。

 だけど、やっぱり皆を置いて逃げるなんてことが……。


「それにあなたには何よりやらなきゃいけないことがあるでしょ!あなたが今、守らなきゃいけないのは何!!」


 ゴルデさんの言葉にハッとする。

 そして僕が手を握っている人を見た。


 そこには不安そうな表情をする愛するローズがいた。


 ああ……そうだ。

 僕には守らなきゃいけないものがあった。

 僕がローズを守らなきゃいけないんだ。


 僕は意を決し、グッと歯を噛み締めてからゴルデさんへと振り返った。


「分かりましたゴルデさん!僕は───」


「そうよ!あなたはあなたのケツの守りなさい!」


「───って、そっちですか?!」


 いや確かに僕のお尻も狙われているけど、ここはローズを守れとか感動的なシーンじゃないの?!

 なんか色々台無しなんだけど?!そんな動機じゃ皆のやる気が……。


「ゴルデ!ハンス君のお尻は私に任せてください!きっと守りきります!」


「嬢ちゃんや!俺の愛弟子の尻を頼むぜ!」


「ローズの好いてる男の尻はあんたに託したわよ!」


「必ずそいつのケツを守ってくれ!!」


「皆!ハンスのケツを守るためにもう一踏ん張りだ!」


「「ウオオオ!!」」


 やる気が上がってるよ?!

 凄くありがたいけど、それ以上に複雑な心境なんだけど?!


 僕のお尻の為に奮起する冒険者達に唖然としていると、グイッと手をひかれた。


「ハンス!皆の頑張りの為にも行こう!ハンスのお尻をあいつらに渡すなんて絶対に駄目だよ!早く逃げよう!」


 ローズ!?君までもか!?

 もしかしてさっきの不安そうな顔って、僕のお尻を心配しての表情だったの?!


 ローズは唖然とする僕の手を引き駆け出した。

 その前にはブロズさんがいて、逃走の邪魔になる黒づくめ達をナイフで捌いていた。


 す、凄く複雑な心境だけど……取り敢えずここはついて行くべきだろう……うん。複雑だが。


 色々と気になることはあるが、僕はそれらをグッと飲み込んで走り出した。


 すると、背後からカオリの不気味な叫びが轟いた。


「ハンスくぅぅぅぅぅん!逃がさないわよぉぉぉ!既にエマリオさんに『超!兄貴の園!』という同性愛者専用風俗店のNo.1男娼のフレディ=ビッグコック(34歳)を手配してもらっているのよぉぉぉ!観念して抱かれなさいいい!」


「う、うわあああ?!」


 ヤバい!本当にヤバい!複雑な心境とか言ってる場合じゃなかった!!本当に僕のお尻がヤバい!


 僕はローズの手を力強く握りながら、更に速く駆け出した。


 


 


 


 そんなハンス達が必死に逃げ出す中、ゴルデとカオリは激しい剣の打ち合いをしていた。


「ヒヒヒ!ハンスくぅぅぅぅぅん!今度は鬼ごっこかい?逃がさないよぉぉぉぉ!!」


「私がいる限りハンスは追わせないわよ!」


 ゴルデは力の限り剣を振るいカオリの足止めをしていた。


 が、カオリはハンスが逃げているにも関わらず、妙に余裕そうな顔であった。


「ヒヒヒ!ゴルデさんよう!何か重要なことを忘れていないかい?」


「重要なこと?何を─────」


 ゴルデがそう聞いた瞬間、カオリはニンマリと邪悪な笑みを見せた。


「じゃあ教えてあげるわ」


 カオリはそう言ってからスゥゥゥと深く息を吸い込んだ。


 そしてその息を吐き出しながら、辺りに木霊する程の大声で叫んだ。


「さあ出番よ!ハンス君を捕まえなさい!!ミロク!!」


 


 

 ハンスとローズにとっての最大の悪夢が降臨した。

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