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89話 不持者解放戦線

今日はこれで終わります!

暫く投稿が遅れます!

 

 トンと軽い着地音と共に屋根に降り立ったのは二人の女性だった。


 片方は茶髪の女性で年齢は僕達の少し上くらい。

 もう片方は銀髪をした青白い肌をした女性だ。


 二人は何とも厳めしい紫色の軍服姿であり、茶髪の方は眼帯を付けてマントまで羽織っている。

 頭には手を繋いだ男女のシルエットに×印が描かれた奇妙な紋章が付いた帽子を被っている。


 なんというか……まるで悪の組織の幹部のような格好であった。


「カオリ!!やっぱりいたわね!」


 ゴルデさんが茶髪の女の子に対して叫んだ。


 どうやらあの茶髪の子が件の黒幕であり、僕達を陥れようとした張本人のようだ。


 しかし……あんな女の子が?

 格好はあれだけど、見たところ普通の女の子のようだが?


 僕が訝しげに思っていると、そのカオリという子と目があった。


 瞬間…………僕は理解した。


 あれは……ヤバいと。


 カオリという子の目には光が無かった。

 死んだ魚の方がマシだと思えるほどに光がなかったのだ。


 その目は、まるでどこまでも続く底の無い穴を覗いたような……深淵を感じさせる闇に染まった目だった。


 冷や汗が吹き出る。

 心臓がバクバクと鳴り、全身の毛穴が開き、鳥肌が立ち、毛という毛が総毛立った。


 あれは……ヤバい。あれは人間じゃない。

 人間の女の子の皮を被った別のナニかだ。

 僕の本能がそう警鐘を鳴らしてくる。


 不意に、カオリが弧を描くような不気味な笑顔を見せた。


「これはこれは……ゴルデじゃないの?奇遇ね、こんなところで会うなんて?」


「何が奇遇よ!!この子達を襲撃することは最初から分かってたわよ!!というか二人共、何よその格好は?!悪の組織か?!」


「メル婆のとこで買った。私は形から入る女なの」


『同じく』


「馬鹿か?!似合わないわよ!!」


 なんだか気の抜けるような馬鹿っぽいやり取りをするゴルデさん達。

 だけど、そんな軽いやり取りとは裏腹に、二人からはとてつもない殺気が溢れていた。


 こ、これは……気が抜けそうで抜けないぞ。


 僕はゴクリと唾を飲み込み、気持ちを改めた。


「さて……ゴルデがそこにいるということは、本気で私達を邪魔する気なのね?」


 カオリが目を細めて僕らを見据えた。


「当たり前よ!淡く甘い恋を育もうとしている二人を邪魔するような行為……断じて見過ごせないわ!」


 とても恥ずかしいことを言いながら、ゴルデさんが剣を構えた。


 ゴルデさん……気持ちは嬉しいけど、もっと言いようが……ローズも顔が真っ赤だし……。


 そんな事を思っていると、カオリが盛大な舌打ちを鳴らした。


 いや、それは舌打ちというには大きすぎる音だった。耳をつんざくような鋭い音で、あまりの音に僕や冒険者達は耳を塞いでいた。


 辺りを見れば、建物の窓ガラスに罅が入っていた。


 な、なんて舌打ちなんだ?!鼓膜が破れるかと思ったぞ?!


 そんな驚く僕を他所に、カオリは高らかな良く通る声で叫んだ。


「淡く甘い恋……ハン!下らないわね!そんなものはただの夢想!ただ現実から逃れ、一時的に二人だけの夢の世界に浸っているだけ!私はそんな現実を直視しない甘ったれた奴に!世界に!現実の厳しさと、持たざる者の想いを知らしめているだけよ!!それを邪魔するならば、たとえゴルデが相手であろうと容赦しないわよ!!」


 そのあまりの迫力に圧倒される。


 な、なんなんだこの女の子は?!

 僕と変わらない年齢だというのに、何でこんな圧倒的な威圧感を醸し出しているんだ?!

 それにこのあまりにも暗い感情……彼女に一体何があったんだ!?


 若干腰が引けてしまった僕。


 だが、流石は冒険者だ。

 ゴルデさんや他の冒険者は圧倒されつつも腰は引けていない。しっかりと武器を構え、真っ直ぐにカオリを見据えていた。


 やはり修羅場を潜っているだけはある。


「上等よ!こっちだって容赦しないわ!それにこちらはそれなりに腕の立つ冒険者を集めたわ!いくらあなた達二人でも、簡単に勝てると思わないことね!」


 ゴルデさんがそう言いながら武器をカオリへと向ける。

 冒険者達も臨戦態勢をとり、まさに一触即発な雰囲気となった。


 が、そんな中、カオリともう一人はニヤリと笑った。


「クフフフフ…私達二人ね…どう思うハンナ?」


『滑稽としか言えませんねぇ』


「何がおかしいのよ!」


「いやだって…いつ私達が二人だけと言ったの?」


 そう言いながらカオリはパチリと指を鳴らした。


 すると、辺りから何かが飛び出してきた。


「「「「「ジェラシイイイィィィ!!」」」」」


 謎の叫び声を上げながら飛び出してきたのは、全身黒づくめの集団だった。

 全員がピッチリした揃いの真っ黒な全身タイツを身に纏い、顔にはカオリの帽子に施されているものと同じ×印のシンボルマーク的なものがあった。


 そんな奇妙な格好をした約50人程の集団が僕達を囲むように現れたのだ。


「な、なによ……こいつらは?!」


「紹介しよう!彼らこそは私と志を同じくする者達!持たず!持たされず!虐げられ!人から…世界から理不尽な扱いを受け続けた不遇な者達だ!」


「「「「「ジェラシイイイィィィ!!」」」」」


 カオリの紹介に黒づくめ達が統率の取れた動きで敬礼しながら応える。


 こ、これがゴルデさんの言っていた人を集うってやつか?!集うって言うからせいぜいが五、六人かと思っていたが、これは集うなんてレベルじゃないぞ?!これじゃまるで……。


「今、この時を持って宣言しよう!我らこそは持たざる者の共同体にして世界に真実を知らしめる者!我らの名は『不持者解放戦線』である!同士達よ!今こそ世界に蔓延る糞リア充共に現実を!恐怖を!我らの憤りを知らしめようぞ!!」


「「「「「ジェラシイイイィィィ!!」」」」」


「「「我らの偉大なる総統!!」」」


「「「真の導き導き手よ!!」」」


「「「解放の母にして世界の変革者よ!!」」」


「「「総統閣下万歳!総統閣下万歳!」」」


「「「アイハーラカッオリー!!アイハーラカッオリ!!アイハーラカッオリー!!アイハーラカッオリー!!」」」


 黒づくめ達が熱狂したように叫ぶ。


 カオリもそれに腕を広げて応える。


 そこにはあまりにも異様な光景が広がっていた。

 流石の百戦錬磨の冒険者達もあまりの事態に呆然としていた。


 そんな中、ゴルデさんが髪を振り乱しながら叫んだ。


「なんで昨日の今日でもう組織化してんのよ?!おかしいでしょうが?!」


「私の溢れるカリスマ性が為せる技よ。けど、正直ここまでなるとは思ってなかったから少し引いてる」


「でしょうね?!」


 話の内容からして昨日今日でこれだけの組織を作ったってことなの?!おかしだろ?!組織って、そんな簡単にできるもんじゃないでしょ?!


 そりゃゴルデさんだって叫びたくなるよ!!


「さて……そんな訳でゴルデ。邪魔する者は容赦なく排除させてもらうわ……」


 カオリがスッと腕を上げた。そして次の瞬間にはその手を勢いよく下ろしながら叫んだ。


「さあ!やってしまいなさい同士達!冒険者達は全員排除し、ローズという女は拘束!ハンスという男は捕まえた上で筋肉マッチョの兄貴の園に放り込み、拘束したローズの前で『逆NTRプレイ!彼氏が彼女の目の前で兄貴に掘られちゃった!』を生配信するわよぉぉぉ!!」


「「「「「ジェラシイイイィィィ!!」」」」」


「あの女!!とんでもないことを考えてやがったぁぁぁぁぁぁ!!」


 僕目掛けて殺到する黒づくめ。

 僕はそれを見ながら叫ぶことしかできなかった。


 あのカオリって女、マジにぶっ飛んでやがる?!

 まさかの僕が標的だなんて?!

 このままではローズの前でとんでもない痴態を晒してしまうぅぅぅぅぅ!!


 僕は思わずギュッとお尻に力を入れた。


「くっ!!みんなやるわよ!!」


「しかしゴルデ!!あの数は流石に……」


「やらなきゃハンスくんのお尻が大変なことになるわよ!!それでいいの!?」


「くっ……やるしかねぇか!」


「ハンスのケツを守るためには仕方ねぇな!」


「ハンスくんのお尻の為に、皆力を合わせましょう!!」


「「「ウオオオオ!!」」」


 あまりの敵の数に圧倒されていた冒険者達だが、僕のお尻のために皆が奮い立ってくれた。


 凄く嬉しいが……やはり複雑な心境である。


 そんなこんなしてるうちに黒づくめ達が僕達へと迫ってきていた。


「「「「「ジェラシイイイィィィ!!」」」」」


「うるさい!!ちょっと黙ってなさい!!」


 棒のようなものを片手に襲い来る黒づくめに、冒険者達が応戦する。

 ゴルデさん達を中心に黒づくめ達を次々と打ち倒していく。手練れを集めたというだけあって、素人目にも彼らの動きは熟練した動きであることが分かる。


 だが、数は圧倒的に向こうが上だった。

 少しずつであるが皆が圧されていく。

 しかも、向こうの黒づくめはどんなにきつく打ち倒されても、直ぐに立ち上がって向かってくるのだ。まるでゾンビのようだ。

 だから数は一向に減る様子はないし、逆にどんどんと勢いが増しているような気さえする。


「「「「「ジェラシイイイィィィ!!」」」」」


 彼らからはに肉体の限界を超越した恐るべき力のようなものを感じる。これが執念が成せるものなのだろうか?


「くっ?!ゴルデ!こいつら一体?!明らかに様子がおかしいぞ?!」


「これは……カオリ!あんた何かしたわね!?」


 剣を振るいながらゴルデさんが叫ぶと、カオリは高笑いを上げた。


「アハハハハハ!流石はゴルデ!ご名答よ!!」


「やっぱり!何をしたのよ!!」


「簡単なこと……私の力……勇者の力を使ったまでよ!!」


「なんですって?!」


 驚くゴルデさん。

 だが、僕はそれ以上に驚いていた。


 勇者?今、彼女は勇者って言ったのか??あの伝説の勇者?それが彼女だってことなのか?!そんな馬鹿な?!


 あまりの事実に混乱する僕を他所に、カオリは更なる説明を続けた。


「私には『勇者の加護』というものを与える力がある!最近知ったんだけど、この加護は私となんらかの深い関わりを持った者に自動的に与えられるもなの!そしてその効果は、勇者である私と共に戦う者の身体能力を著しく向上させることができるの!」


「な、なんですって!?」


「それだけじゃないわ!私は加護下にある者に、私が持つスキルの一部を付与することができるの!そして彼らに与えたスキルは『狂化』!今の彼らは痛みも疲れも恐怖なく戦い続ける最強の兵士!叩き、打ち、斬れば、怯むどころか逆にそれを怒りに変えてパワーアップする!この最強の兵を打ち破る手段は無いわよ!!」


「なっ……」


 ゴルデさんは絶句した。

 ゴルデさんだけじゃない。

 僕も……他の冒険者達もその説明に唖然とした。


 ただでさえ身体強化というだけでとんでもないのにスキル付与?しかも『狂化』?そんなの最早ズルとしか言い様がなかった。


 そんな唖然とする僕らの前に強化……いや狂化された黒づくめ達がボロボロの姿で立ち上がった。

 その姿はズタボロだが、破れたマスクから覗く瞳には、ギラギラと溢れる凄まじい闘志が見てとれた。


「お、おいゴルデ……これは流石に……」


「くっ……カオリめ……」


 流石の冒険者達も劣勢を感じたらしく及び腰となっていた。

 ゴルデさんも悔しそうにカオリを睨み付けていた。


「おやおや?観念したようね!なら同士諸君!そこの冒険者達に引導を渡してやりなさい!」


「「「「「ジェラシイイイィィィ!!」」」」」


 カオリの指示に黒づくめ達が応える。

 全員が一斉に飛び掛かってきた。


 ああ……最早ここまでか……。


 そう思った瞬間……。


 

 バリバリバリーン!!


 ビュオオオオオ!!


「「「「「ジェラシイイイィィィ!?」」」」」


 凄まじい轟音と共に、雷と竜巻が発生した。


 雷と竜巻は黒づくめ達を襲い、次々と粉砕または吹き飛ばしていった。


 狂化している黒づくめ達だが雷によって体が麻痺したり、吹き飛ばされて壁にめり込んだりと、次々と戦闘不能へと陥っていった。


「な、何?!何が起きたの?!」


 動揺し叫ぶカオリ。

 彼女にも何が起きたのか分からなかったらしい。


 しかし僕にも何が起きたのか分からなかった。

 雷と竜巻は明らかに黒づくめ達だけを襲っている。ということは誰かが操っているということだが一体誰が?


 そう考えていると、背後から誰かが近付いてきた。


「全く……俺の愛弟子の様子がおかしいと思っていたが……随分と酷い目に逢わせてくれるじゃないか」


「本当だよ。私の可愛いローズが変だとは思っていたが……こんなことになっているとはね……」


 それは男女二人の声だった。


 そして、その男性の声は聞き覚えのある声だった。


 まさかと思い振り向けば……。


「よおハンス。テメェがフラフラと出かけてくから何処に行くのかと思えば……なんだか面倒なことになってるじゃねーの!!助太刀するぜ!」


「親……方?」


 そこには巨大な戦鎚を構えた親方と、鞭を持ったエルフの女性の姿があった。

 

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