84話 乙女が往くは華の戦場
「『│超怪力巨獣化』!メェェェクアッップゥゥゥゥ!・」
スキルを発動すると、体に力がみなぎってくる。
肉体にミチミチと力が溢れに溢れ、今にも爆発しそうだ。
みなぎる女子力!溢れる母性!煌めく魅力!
私の姿はどんどんと女として格上の存在へと変わっていく。
視線が高くなり、辺りにいたゴルデ達が子供のように小さくなる。
ゴルデや竹ノ皇帝。それにギルドの冒険者達が驚いたように目を見開いて私を見ていた。
どうやら爆発的に上がった私の女子力に驚いているようだ。無理もなかろう。
私はズイっと立ち上がると、先程私を好き放題侮辱してくれた竹羽へと視線を向けた。
竹羽は唖然と私を見上げていたが、私の視線に気付くと咄嗟に矛を構えてきた。
「貴様!なにも───」
竹羽が何か言う前に私は拳を振るった。
私の拳は竹羽の持つ矛を砕き、更に正面からまともに竹羽自体も殴りつけた。そして、そのまま竹羽を天高くかち上げた。
「ブグワァァァァァァ!?」
竹羽は汚い悲鳴を上げながらギルドの天井を突き破り、そのままどこかへ飛んでいった。
ギルド内の私以外の誰もが、唖然と穴の空いた天井を見上げる。
そんな中、いち早く我に返ったのは竹ノ皇帝であった。
「き、き、貴様!何も───」
ガシッ!
私は竹ノ皇帝の言葉を制するように、その長い竹頭を柄か何かのように掴んだ。
その暴挙に、竹ノ皇帝は一瞬茫然としていた。
が、直ぐに烈火の如く怒りだした。
「き、貴様ぁぁ!!な、なんたる不敬者!!こ、このような無礼をよくも!?な、名を名乗れぇぇ!」
私の手から逃れようとジタバタともがく竹ノ皇帝を見据えながら、ゆっくりと口を開いた。
「我が名は香。貴様らが探せし者よ」
「へっ?貴様がカオ──」
「一目見た時から思っていた」
「──リ……って、はっ?何を───」
「良い武器だなと」
そのまま私は竹ノ皇帝を持ち上げると、大きく振りかぶった。
そして……。
「ルァァァァァァァァァ!!」
大きく叫びながら、未だ唖然と棒立ちの筍兵達に向かって竹ノ皇帝をハンマーのように振り回した。
「な、何を──ギィヤァァァァァァァ?!」
「えっ?ヒッ!?ギィヤァァァァァァァ!?」
振り回された竹ノ皇帝と、その竹ノ皇帝と激突した兵達との両名から悲鳴が上がった。
竹ノ皇帝ハンマーの直撃を受けた兵達は勢いよく後方へと吹き飛んでいった。
そのあまりの勢いに、ギルドの入り口を壊すほどだ。
「フム……やり過ぎたか」
壁を壊す気はなかったのだが……。
予想以上に力を込めてしまったようだ。
私は手にした竹ノ皇帝へと目をやった。
竹ノ皇帝はピクピクと小刻みに痙攣し、着ていた服は既にボロボロとなっていた。
そんなボロボロの竹ノ皇帝の懐に指を入れ、ゴソゴソと漁る。すると、指先に何かが当たった。
その何かを慎重に取り出してみれば、それは高級そうな赤い袋であった。
その袋を開けてみると、中にはギッシリと金貨が入っていた。もしかしたらと思ったが、やっぱり持っていたか。財布。
私はその財布をニーナに向けてポンと投げた。
「えっ?お金?あの……これ?」
「修理代だ。迷惑をかけた」
足りるか分からないが、穴を開けた建物の修理代に使ってほしい。
まあ、足りなければ、これから│狩り《・・》に行けば良いのだが。
「さて、行くか」
「あ、あの……!!」
歩を進めようとする私に、ニーナが声をかけてきた。ゆっくりと振り向けば、彼女はビクリと肩を震わせた。
「なんだ?」
「いや、あの……カオリさん……なんですか?」
そうか。どうやら女子力の高まり過ぎて、私が誰だか分からないようだ。
「香よ」
「Wow……」
彼女は何故か英語で驚きの声を上げて唖然とした。
フフ……私の女子力に完敗といった様子ね。
『「カオリ!」』
また声をかけられて見れば、今度はハンナとゴルデだった。
「ちょっと、あんた!馬鹿にされて腹立ったのは分かるけど、またそんなゴ……凄い姿になって大丈夫なの?また筋肉痛になるわよ?!」
「無論、対策はしてる。『解放』。見よ、この蜂蜜を」
そう言って収納空間から壺に入った大量の蜂蜜を見せた。
「既に対策は完璧也」
「いや、それ依存性になるんでしょ?」
「否。些か蜂蜜を禁じ得ぬ身になるのみ」
「否が否よ。それが依存と言うの」
いや、まだ大丈夫。きっと。
『カオリ。これからどうするんですか?』
大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせながら蜂蜜を舐めていると、ハンナがそう聞いてきた。
「決まっている。我を侮辱せし者も、我に歯向かいし者も、皆尽く滅ぼすのみ」
『武運を祈ります……』
「祈ります……じゃないわよ!止めなさいよ!この娘この姿になると性格変わりすぎじゃない?いや、見た目も変わりすぎだけど……」
話の早いハンナはともかく、ゴルデは未だ私の女子力についていけないようだ。
まあ、無理もない。時代の最先端を行きすぎた私を理解できる方が難しいのだろう。
それほどまでにこの姿の私の女子力は急上昇しているのだ。
「案ずるなゴルデよ。雑草共を文字通り根絶やしにしたら戻ってこよう」
「いや、案じずにはいられないんだけど?気付いてる?なんか無骨な将みたいな喋り方になってるしさ……ってハンナ。あんたも敬礼してないで、なんか言って───」
「では、行って参る」
「ちょ───」
ゴルデの言葉を無視し、私は先程開けた穴から外に出る。ただ、ちょっと穴が小さかったので、殴って穴を拡張した。
そうして出ていった外。そこにはギルドを囲むようにウジャウジャと筍共が揃っていた。
フム。やはり随分と数を揃えていたようだ。
さて……どこから攻めたものかと考えていると、筍兵達が「竹ノ皇帝様ぁぁぁ!」と叫びだした。
ウン?そういえばこやつを手にしたままであったな。しかし、中々に使い勝手が良い。
軽くて丈夫でそれでいて適度な堅さ。
理想的な武器だ。
暫し、このまま武器として使わせてもらおう。
竹ノ皇帝をしっかりと握りしめると、正面にいる筍達へと堂々と向かいあった。
そして……。
「我、女子王香也。我、侮辱に対し、武力をもって応えよう」
そう宣言すると同時にスキル『│刹迅行進曲』を発動。一気に筍達の方へと突撃していった。
「きさま!竹ノ皇てギィヤァァァァァァァ!?」
突撃により吹き飛ぶ筍共。まるで紙のように軽いな。飯を食え、飯を。
そんな筍共の陣形内に入り込んだ私は、更に腕を振るいながらスキルを発動した。
「『ドラゴンパンチ』『ベアークロー』合成!!合技発動!!『巨獣拳《ベヒモスパンチ』!!」
まるで鋼鉄のような色に変色し、更には約2倍程でかくなった拳で筍共を殴りつけた。
ボゴォ!
「「「ギィヤァァァァァァ!?」」」
筍共が弾け飛ぶ。
鎧や武器は砕け、手足をあらぬ方向に曲げながら遥か彼方へと吹き飛んでいった。
「フム。軽いな」
スキルを解除し戻った拳を見ながら感想を述べていると、ピョンと矢が飛んできた。
「おのれ!よくも兵達を!我が弟を!そして何より竹ノ皇帝様を!絶対に許さぬぞ!行くぞ竹飛!」
「おお!行くぞ竹備兄者!竹羽兄者の敵をとるぞ!化け物め、我ら竹林の誓いを立てた兄弟の力を見るがいい!」
「私も混ぜて頂きますよ。さあ、兵達よ!竹翼の陣であの化け物に引導を────」
「邪魔だ」
ボゴォ!
「「「ギィヤァァァァァァ!!」」」
なんかゴチャゴチャ言いながら向かってくる筍共を竹ノ皇帝ハンマーで薙ぎ払う。
面白いように吹き飛んだ筍達は地面に転がり、そのままピクピクと痙攣するだけで動かなくなった。
「さて……」
残りの筍共に目をやる。
筍達がビクリと震えている。
中には構えた武器を落とすものまでいる。
どうやら私の女子力にあてられたらしい。
だが、だからといって手を抜く訳もない。
私はゆっくりと歩みを進めながら、竹ノ皇帝ハンマーを構えた。
「さあ。蹂躙の始まりだ」
※ここより香無双の様子を曲でお送りします。
─題名・乙女歌─
そーれそそれそれ
そーれそ!
【打ん!】バキッ!(ギャアアア!)
そーれそそれそれ
そーれそ!
【打ん!】バキッ!(ギャアアア!)
そーれそそれそれ
そーれそ!
【打ん!】バキッ!(ギャアアア!)
そりゃ そりゃ そりゃ そりゃ オッシャア!!
(特殊効果音:筍達「ギャアアアア!!」)
乙女 乙女 乙女が萌える
それが定めよ 乙女
槍だと?弓だと?効かぬな!
【打ん!打ん!打ん!打ん!打ん!】バキッ!
(ギャアアア!)
渋谷は乙女の華舞台!
【打ん!打ん!打ん!打ん!打ん!】バキッ!
(ギャアアア!)
肉断て!骨断て!体かませ!
ゆけや愛原
修羅を一騎駆け
幾千万の
敵陣目掛け斬り込め
崩せ!叩け!潰せ!(ギャアアア!)
崩せ!叩け!潰せ!(ギャアアア!)
地獄の槍 竹ノ皇帝と駆ける
淑女に候う
崩せ!叩け!潰せ!(ギャアアア!)
崩せ!叩け!潰せ!(ギャアアア!)
撮って見せようぞインスタ映え
そーれそそれそれ
そーれそ!
【打ん!】バキッ!(ギャアアア!)
そーれそそれそれ
そーれそ!
【打ん!】バキッ!(ギャアアア!)
そーれそそれそれ
そーれそ!
【打ん!】バキッ!(ギャアアア!)
そりゃ そりゃ そりゃ そりゃ ヨッシャア!!
(特殊効果音:筍達「ギャアアアア!!」)
乙女 乙女 乙女が惚れる
命短し恋せよ乙女
Uooooo!!(ビブラートを良く効かせた咆哮)
乙女 乙女 乙女が萌える
それが定めよ 乙女!
※歌詞二番目についてはご想像にお任せします。
竹ノ皇帝ハンマーを振るう度に、筍共は断末魔と共に吹き飛んでいく。そこからは何か頭の中で流れる曲に合わせ、夢中で竹ノ皇帝ハンマーを振り続けた。
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ギィヤァァァァァァ!」
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ギィヤァァァァァァ!」
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ギィヤァァァァァァ!」
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ムッ?!待てカオリ!一体何がギィヤァァァ!」
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ちょ?!嬢ちゃん止まギィヤァァァァァァ!」
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ま、待ってくれ!それ儂死ギィヤァァァァァ!」
ボゴォ!
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ナンで儂まで?!待っギィヤァァァァァァ!」
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ンハァ!キモチィィィィィィィィィィィ!」
竹ノ皇帝ハンマーを振るう。
ボゴォ!
「ギィヤァァァァァァ!」
途中なんか異物があった気がしたが、次々と筍共を成敗し、遂にはギルド周辺で立っている筍共はいなくなった。
「フン。こんなものか……んっ?」
竹ノ皇帝ハンマーを肩に担ぎながら辺りを見回せば、こちらに背を向けて逃亡する筍共が見えた。
「逃亡か。だが、誰一人逃さぬ」
│刹迅行進曲を発動し、筍共を追いかける。
そうして追い付いた筍共から愛用の竹ノ皇帝ハンマーで次々と殴り倒していった。
「ひぃ?!助けガフッ?!」
「がんべんじでぐガファ?!」
「こんな……こんなアバブツ?!」
「嫌だ!嫌だァァアビシ!?」
「おがあちゃぁぁぁぁぁん!?」
追いかけながら右へ左へと竹ノ皇帝ハンマーを振るう。時には直接掴んだ投げたり、踏みつけたりと筍共を処理していった。
筍共をこうやって処理していると、筍処理に苦戦する料理人の気持ちが分かるようだ。
※全国の料理人の皆様、こんなのと一緒にされて大変申し訳ありませんでした。
そして最後の筍を竹ノ皇帝ハンマーで殴り倒すと、辺り立っている筍共はいなくなった。
「フム。これで全部か?否。確か、門を封鎖している筍共がいると申していた筈」
ならばまだ筍共の処理は終わっていない。
そう考えた時、こちらに向かって土煙を上げながら迫ってくる一団があった。
それは竹でできた馬のような物体に乗った筍共で、殺気を撒き散らしながら私へと向かってきた。
その筍騎馬兵達の先陣を駆ける筍が、よく通る高らかな声で叫んだ。
「ウオオ!竹信隊ここに参上!そこの化け物!この俺、竹信隊の隊長信が相手してやる!」
矛を構え、真っ直ぐに突っ込んでくる筍隊長。
フム。筍にしてはよい気迫だ。
だが……。
「よかろう。なれば我が一撃を喰らうが良い」
腕に力を込め、腰の回転力を最大源に使って竹ノ皇帝ハンマーを叩き込んだ。
ブォン!!
ドゴッ!!
「ヌオッ!?クッ……グアアア!!」
竹信隊隊長は矛で私の一撃を受けようとしたが、乗っていた馬ごと吹き飛ばされた。
ゴロゴロと地を転がり、無様に大地へと倒れ伏す隊長の信とやら。
「フム。気迫は良いが随分と軽いな」
思ったよりも軽かった一撃に若干の落胆を感じる。まあ所詮この程度か。
そう思っていたらその隊長が矛を杖代わりにヨロヨロと立ち上がった。
「信!」
隊長に駆け寄る隊員達。
だが、隊長はそれを手で制した。
「近寄るな!手を出すなよお前ら!!」
「し、しかし!!」
「こいつは間違いなく大将軍級の力を持っていやがる!さっきの一撃…かつての竹六将の竹騎将軍を彷彿とさせたぜ……」
ブルブルと震えながら矛を構える筍隊長。
立っているのがやっとだろうに、何という根性なのだろうか。
「だから俺はこいつを越えなくちゃならねぇ!俺が天下の大将ぐ───」
ブォン!
「茶番に付き合う気はなし。ココココ」
竹ノ皇帝ハンマーを容赦なく振るった。
「ヒシィィィィィィィィィ!!」
隊長各の筍は悲鳴を上げながら遥か彼方へと飛んでいった。
「シィィィィィィィィン!?」
「隊長ぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
周りにいた他の筍共が隊長が飛んでいった方を見ながら叫んでいるが、まずは自身の身の心配をした方がいいぞ。
瞬時に筍共との距離を詰めた私は、自身を軸にして竹ノ皇帝をハンマー投げのようにグルグルと振り回した。
「フンフンフンフン!!」
回る回る回る。とにかく回る。
その様は正に竜巻であり、今の私は天災そのものとなっていた。
「へっ?!な、何をギャバ?!」
「と、止めばごはっ!?」
「逃げゴデュバ!?」
振り回された竹ノ皇帝によって、広範囲の筍共が次々と吹き飛んでいく。
「フハハハ!!これぞ竹ノ皇帝を用いた我が奥義!その名を竹輪暴!止められるものなら止めてみよ!!」
「「「そんなの無理アイェェェェェェ?!」」」
奥義・竹輪暴に成す術なく筍共が蹂躙されていった。
そして数分後には、その場に立っているのは私のみであった。
「フンフンフンフーン!!フンハッ!!」
バヒューン!
そして最後とばかりに、これまで共に戦った竹ノ皇帝ハンマーを投げ捨てて回転を止めた。
投げ捨てられた竹ノ皇帝は勢いよく飛んでいき、建物の壁に激突した後に落ちていった。
辺りを見回せば死屍累々と転がる筍共。
死んではいないと思うけど、誰も身動きひとつぜずに倒れていた。
「フッ……これが本当の筍狩り……なんてな」
そんな決め言葉を言っていると、唐突に地面が震え出した?
なんだ?地震か?それにしては妙な……。
瞬間、地面から大量の何かが突き出してきた。
「これは!?竹!!」
地面から出てきたのは先端が鋭利な刃物状となっている竹であった。その竹が私目掛け、無数に地面から突き出てきた。
「フン!ハッ!!」
だが、それがどうした。
私は向かってくる竹を即座に捉え、手刀でスパスパと切り捨てていく。
次々と輪切りになっていく竹。
しかし、竹もまた次々と生えてくる。
その速度は凄まじく、段々と私の処理が追い付かなくなってきた。
「くっ!これは……」
「クハハハハ!!」
そんな悪戦苦闘する私の耳に、狂ったような笑い声が聞こえた。
竹を処理しながら笑い声のした方を見れば、そこにはボロボロの姿で片手を地面をつけるかつての相棒……竹ノ皇帝がいた。
どうやらこの竹を操っているのは奴らしい。
「相棒……」
「誰が相棒だぁぁぁぁ!?朕を棒キレみたいに好き放題振り回し、その上朕を使って朕の部下を倒しおってぇぇぇ!!このような屈辱は生まれて初めてのことよぉぉぉぉぉ!!」
激昂し、怒りのままに叫ぶ竹ノ皇帝。
そんなに武器扱いは嫌だったのか……。
「そんな……共に戦うと誓ったのでは?途中から『気をつけろ!背後から敵がくるぞ!』とか『へへ…お前は俺がいなきゃ本当に駄目だな』なんて語りかけてきたではないか?」
「誰が言うかぁぁぁぁ!!幻聴だ幻聴!!終始、悲鳴しか上げておらんわぁぁぁ!!一度耳の…いや、頭の治療をしてもらえ!中身の!!」
「中身スカスカの竹に言われたくないな。後、朕朕五月蝿い。お前はチ○チ○で喜ぶ小学生か」
「絶対殺す!!」
竹ノ皇帝からの殺意が増した。
どうやら完全にキレさせたらしい。
竹ノ皇帝は両手を地面につけると、高らかに叫んだ。
「これが朕が十大植傑に選ばれた力!!竹を自在に操り、その形や性質までをも変えることができるのだ!こんなふうにな!!」
竹ノ皇帝が叫ぶと同時に、これまでと違う浅黒い竹が私の顔目掛けて生えてきた。
私の直感が『これはアカン!』と警鐘を鳴らし咄嗟に避けた。同時に手刀で切り捨てようとした。
が、私の手刀が弾き返された。
「なんだと?」
「フハハハ!驚いたか!それは硬度を限界まで上げた竹!その堅さはオリハルコンに匹敵する!そしてその竹は一本だけではないぞ!!」
すると、地面から次々と浅黒い竹が生えてきた。
しかも先端が刺状のものばかり。
これこそまさに竹槍というやつか。
なんとか襲いくる竹をかわしていくが、不意に背中に痛みが走った。
見れば、先程避けた筈の竹が針金のように曲がり、私の肩に突き刺さっていた。
「フハハハ!言ったであろう?形も自在であると!それは確かにオリハルコン級の硬度であるが、竹本来のしなやかさも持ち合わせているのだ!」
成る程、油断した。
奴は先程ヒントとなることを言っていたにも関わらず、それを聞き流していた。
フッ……私の女子力もまだまだだな。
自身の修行不足に苦笑していると、竹ノ皇帝が勝ち誇ったような高笑いを上げた。
「ククク!今になって竹の恐ろしさを知ったか!竹とは堅さとしなやかさ。相反する二つの性質を持つ優秀な植物!それは奇しくも、古来から貴様ら人間が武器や日用品に使っていることが示している!そしてその竹の力を最大限に使った朕の竹技の最大奥義を喰らうが良い!」
竹ノ皇帝が一際力を込めて叫ぶと、辺りが大きく振動した。
そして……。
「竹最大奥義『万里ノ竹城』!!」
地面から数千……いや数万もの浅黒い竹が勢いよく私へと向かって突き出してきた。
しかも、それらは私を逃がさないように周囲を囲い、四方八方あらゆる角度から次々襲いくる。
「なんて数なんだ……」
なんとか対処をしようとするも、時既に遅し。
私はその竹の波とも言うべき暴流に飲み込まれた……。
「ククク……やったぞ……。やってやったわ……」
目の前にある巨大な黒い竹。
正確には幾万本もの竹が絡み合ってできた竹の巨体オブジェを見ながら竹ノ皇帝はほくそ笑む。
幾万もの竹による波状攻撃。
更にはその伸ばした竹によって完全に敵を密閉して封じ込める彼の最大奥義。万里ノ竹城。
これで仕留めきれなかった敵はいなかった。
竹ノ皇帝は勝利を確信した。
この巨大な竹のオブジェは、同時に自分に不遜を働いた愚かな女の墓標となったのだ。
彼はそう確信し、ユラリと立ち上がった瞬間。
バギン!!
凄まじい破壊音を鳴らしながら、巨大な竹のオブジェが砕け散った。
「なっ?!」
驚きのあまりに唖然とする竹ノ皇帝。
だが、更に驚きの光景がそこにはあった。
なんと、その砕け散った竹の中央から香が現れたのだ。しかも無傷で。先程肩に負った傷も綺麗さっぱりに消えていた。
「な、な、な、な、……」
「フゥゥゥゥゥ……我もまた、まだまだ女子としての修行が足りぬ。この程度を自力でどうにもできぬとはな」
香は体に付いた竹の破片をパンパンと払いながら、ヤレヤレとため息を吐いた。
あれ程の猛攻を受けたというのに、その様子はまるで小雨に降られた程度の困り顔であった。
そんな香に我に返った竹ノ皇帝が震える声で尋ねた。
「き、き、貴様……。な、な、なんで無事……?それに傷が……」
自分の最大奥義が通じなかったことに大きなショックを受けた竹ノ皇帝だが、それ以上に何故香が無事なのか?という疑問と興味のほうが僅かに勝っていた。
「フン。その秘密はこれだ」
そう言って香がどこからともなく取り出したのは、何の変哲もない壺だった。
「壺……?」
「否。これは蜂蜜だ」
「蜂……蜜?」
「そうだ蜂蜜。これに我は守られた」
「………………はっ?」
ますます意味か分からなかった。
竹ノ皇帝は香が何を言っているか理解できず、狂人でも見るかのような目(目はないが雰囲気的に)を向けた。
そんな混乱する竹ノ皇帝に、香はヤレヤレと首を振り、そうして聞き分けのない子供を諭すように、優しくも厳しい声で言った。
「つまり、女子と甘味は切っても切れぬ関係ということよ」
「いや意味がわからぬぅぅぅぅぅ!?」
※単純にスキル『ハチミツ大好き』にる効果で、ステータスアップによる力任せの防御と、怪我の回復をしただけです。
香のスキルなんて知るよしもない竹ノ皇帝は絶叫を上げながらその場に座り込んだ。
もとから武器代わりに使われボロボロだったのに、そこに最大奥義を使った無理が祟ったようだ。
香はそんな竹ノ皇帝へと悠然とした足取りで近付いていった。蜂蜜を舐めながら。
「ひぃ!?く、来るな!?な、なんで蜂蜜を舐めながら近付いてくるんだ!?やめろ!ペロペロと舐めながら朕に近付くな!!」
必死に後退りする竹ノ皇帝だっが、その距離は直ぐに縮まる。
香はガタガタと震える竹ノ皇帝を蜂蜜を舐めながら見下ろし、厳かな口調で語りかけた。
「さあ。贖罪のときだ」
「しょ、贖罪だと!?」
「左様。貴様は我を侮辱した。なれば、罰を受けるは必然。覚悟はいいか?」
香はそう宣言し、拳を強く握った。
「覚悟はいいか?」
私は拳を強く握り込み、竹ノ皇帝に向かって構えをとった。
「か、覚悟?!ま、ま、待て!?話し合いを!?話し合いをしようぞ!!朕は─────」
「問答無用。既に言葉は無用也」
何かほざいてくる竹ノ皇帝を無視し、私は拳を力一杯連続で繰り出した。
「ジョォォォォシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「ゴボアアアアア!?」
『10コンボ~』
私の拳は容赦なく竹ノ皇帝の身体を打ち抜く。
一発一発に殺意を乗せた重い拳に竹ノ皇帝は堪らず醜い悲鳴を上げる。
が、まだ止める気はない。
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「ギャババババ!?」
『20コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「オバゴッ!?」
『30コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「ジョフ……」
『40コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「アベッ……」
『50コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「ウッ……アッ……」
『60コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「も……やめ……」
『70コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「う……」
『80コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!」
「……」
『90コンボ~』
「ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシ!ジョシィィィィィィィィィィィィ!!」
「───────」
『フルコンボ~』
気合いを込めた最後のアッパーを喰らった竹ノ皇帝が天高く飛んでいく。
やがて重力に従って地面へと落ちた竹ノ皇帝。
その姿はボロボロのズタボロであり、最初に見た威厳ある姿はどこにも見受けられない。
だが、その姿になったのも自業自得である。
「竹ノ皇帝よ。貴様の犯した過ちはただ一つ」
私は倒れ伏す竹ノ皇帝に背を向け、懐から蜂蜜を取り出した。
「この私を怒らせたことだ」
そう呟き、筍共が死屍累々と転がるその場を後にした。
やはり闘いとは虚しいものだな……。
あと、なんか殴ってる途中で妙な太鼓っぽいキャラが見えたのは気のせいだろうか?
まあ、いっか。帰って寝直そう。
こうして後に『筍闘神戦争』と呼ばれる毒にも薬にもならない伝説がアンデル王国に生まれたのだった……。
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