8話 見なきゃよかった
「いやぁ……とにかく、無事に勇士となる仲間ができたことは喜ばしいことですね」
私の前で王子様が朗らかな顔をしながら仲間ができたことを喜んでくれている。
確かに、旅をする上で共に歩み、共に戦う仲間という存在はかけがえの無い大切なものである。
だから、仲間が出来たことは素直に喜ばないといけない。
そう……喜んで……。
「我が勇者の同胞となったからには最早何も案ずることはない。勇者に降りかかりし如何なる災いも闇も、我が全て斬り裂き、地獄に送ってくれようぞ。クハハハハ!!」
既に私の隣を自分の定位置と定めた仲間第1号こと異形の騎士。骸骨面の暗黒殲滅騎士ザッドハークが、高らかに笑い声を上げながら意気込みを叫んでる。
無理ぃぃぃぃ!喜べないぃぃ!
記念すべき最初の仲間がこんな邪悪な骸骨騎士なんて喜べる筈がないでしょうが!?
なんでイケメン×2・魔女っ娘・猫耳娘と個性豊かで絵的にも嬉しい仲間候補達がいた中で、個性が天元突破してる絵的に辛い魔王みたいな奴が仲間になるの?
なんで旅の出だしからラスボスみたいな奴を引き連れなきゃならんのよ?
もう意味が分からんわ!?
それもこれも、シュナイゼル君達が辞退なんかしたせいだ!!
確かにその辞退するような質問をしちゃったのは私だけど、まさかそこからシュナイゼル君達がザッドハークに諭されてしまうなんて思いもしないでしょう!?
ちくしょう!あんな安っすい言葉でコロッと簡単に諭されんなよ!詐欺にあったら簡単に騙されるぞ!!特に神官!食生活について指摘されただけで辞退すんなよ!
そんな私の心情など他所に、王子様とザッドハークは尚もこれからの話を続けている。
いや、私を無視すんなよ。
「さて。では我が介入したことにより一段落はついたが………この後は先立つものに必要な金銭を受け取った後に、市井で準備を整えて出発といったところか……」
「はい、そうなりますね。女神様からの神託で、余りにも大量の金銭や貴重な道具などを与えることは勇者に対しての不公平感を生む……との事で多くのものをお渡しはできないのが心苦しいですが……。充分な装備と道具の購入、当面の生活費となるだけの金額はお渡しすることはできます」
だから無視すんなよ。ま、まぁ、先にそういった事を聞いてくれるのはありがたいけどね……。
しかし金額はそれほど貰えないとか……。いや、装備揃えての生活費貰えるのはありがたいし恵まれているんだろうけど、それでも世界を救う勇者に対しての支援が余りできないってのはどうなのよ?
まぁ、ひのきの棒と鍋のふたに10ゴールドだけ渡されて旅立たされる某ゲームの勇者よりかはマシだが。
だが、女神様よ……そういったところは少し甘くしてもいいんじゃなかろうか?
保険・保証が効くのもいいが、現段階での活動資金にも多少の融通をきかせてくださいよぅ。
などと願う間にも、話は進んでいく。
「ということで、早速先立つものをお渡ししたいと思います。よろしいですね?陛下?」
と、王様に確認をとる王子様。
あっ。一応は王様から許可は取るのね。
実質、王子様が実権握っているようだけど、一応は今の頂点は立てるようだね。
まぁ、流石にこれ以上、王様を無視するわけにはいかないか。てか、王様が仲間の紹介の当たりから一言も喋ってないし。完全に空気になってるし。
やっぱり、お金を渡すのはゲームや漫画・小説でも王様の役割だからね。
ここぐらいは花を持たせ……。
「……………………」
…………なんか王様の顔面が蒼白なんですが?メチャメチャ尋常じゃなく震えてるんですけど?
明らかに何かに怯えた顔をしているんですけど?
えっ?王様どうしたのよ?なんでそんなガクブルしてんのよ?お腹でも痛いの?
「ち、父上?どうなさいましたか?」
王子様も王様の異変を感じたのか、慌てたように声を掛ける。
や、やっぱり様子が変だよね?い、一体どうしたと…………?
すると王様は、震える指を持ち上げ、真っ直ぐに私を………いや、私の背後にいるザッドハークを指差した。
えっ?何?こいつがどうかしたの?
「ど、ど、どうしたもこうしたも……あ、あるものか?お、お、お前達はな、何を言っておるんじゃ!?そ、そやつはどう見ても……」
「ムゥ!!」
カッ!!
「うわぁ?!」
王様が何かを言いかけた直後。何かを察したらしきザッドハークが唸り声を上げながら、その眼窩の青白い炎を瞳をより一層に怪しく光らせだした。
すると、辺りは目が眩むような青白い光に包まれる。私は驚きの声を上げながら目を閉じるも、光は一瞬で収まり、次に目を開けた時には、先と変わらない玉座の間が目の前に広がっていた。
「な、なんだったのよ………」
チカチカとする目をこすりながら再び王様を見ると、王様は先程と同じくザッドハークを指差した状態で固まったままだった。
あ、あれ?な、なんか王様固まってない?何か言いかけていたようだけどなんだったんだろう………。
そんな固まったままの王様を訝しんでいたら、王様は突然動きだし上げていた指をスッと下ろした。
そして、先程までの恐怖にひきつった顔面蒼白の顔が嘘のような満面の笑みを浮かべると……。
「ウム。ワシノキノセイダッタヨウジャ。ソノモノハ、ワガクニキッテノアンコクセンメツキシノザッドハークジャッタナ。ワシトシタコトガ、ナニカトミマチガエタヨウジャ。ハ・ハ・ハ・ハ・ハ」
王様がおかしくなってるぅぅぅぅ?!
な、なに?王様がおかしくなっちゃってるよ?!いや、最初からちょっとおかしい雰囲気はあったけど、斜め上方向におかしくなってんだけど?!
口調が棒読みのカタコトになってるし、目は瞳孔が開いて明後日の方向を見てるし、鼻水と涎が垂れてるしぃぃぃ!!
もう、明らかな精神異常状態の集大成みたいになってるよ!!精神異常のデパートや!!いや、言ってる場合じゃない!
ど、どうしちゃったのよ王様ぁぁ!?
はっ!王子様!王子様よ!王様がおかしくなってますよ!
「ケ、ケテイール王子様!!お、王様の様子がなんか変なんで………」
「ハハハハ!父上よ、しっかりしてくださいませ。我が国の強者を代表せしザッドハーク殿の顔を見間違えないで下さいませ」
「ハ・ハ・ハ・ハ。ソウジャノウ。シッカリセントイケナイノウ」
王子様ぁぁぁぁ?!
なんで普通に朗らかな顔で会話してんの?
あなたのお父さん明らかにヤバい状態よ?!危ない薬をキメた感じになってるよ?!ブリキ人形みたいな喋り方してますよ?何故に疑問に思わないのよぉ?!
周りの………駄目だ!周りの宰相や騎士団長も特に疑問に思っていないようだ………。
どうやら、私だけが違和感に気付いているようだけど………。てか、明らかにザッドハークが何かしたよね?なんか目がピカッて光っていたし……。
でも何をして………そうだ!鑑定だ!!鑑定を使えば対象の状況も分かる筈!!今の危ない王様の状態だって知ることができるし、ザッドハークが何をしたのかが分かる筈だ!
そうとなれば………。
「『鑑定』!」
『鑑定結果』
名前:アンデール=ナンデール=ネルネール=アンデル15世
種族:人間
称号:『アンデル国王』
職業:王様
状態:洗脳
Lv:22
HP:65/180
MP:30/30
筋力:F
知恵:E
旋律:F
魔力:E
幸運:F-
スキル:号令・王気(小)
捕捉:アンデル国の15代国王。洗脳されちゃってますわ。いやぁ、怖い怖い。
王様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
王様洗脳されてるよ?!状態が洗脳なっちゃってるよ!?なんなのよこれぇ?!しかも、捕捉でも洗脳されてるって………文章軽いな!?『怖い怖い』で済まねぇよ!!
えっ?じゃ、じゃあ……王様の発言がおかしいのも洗脳のせいっとこと?えっ?じゃあ……まさか………。
「『鑑定』………」
『鑑定結果』
名前:ケテイール=ナンデール=ネルネール=アンデル
種族:人間
称号:『光の御子』
職業:王太子
加護:光の大精霊
状態:洗脳×2
Lv:40
HP:320/320
MP:150/150
筋力:D
知恵:B-
旋律:C
魔力:AA
幸運:A
特殊スキル:光の奏者
スキル:号令・王気(大)・光気闘法・光魔法・執務(大)・交渉(大)・指揮(大)・政務(大)
捕捉:アンデル国の次代を担う王太子。洗脳が二重掛けされていますね。これ以上の洗脳は何らかの副作用が出るんで危険だね。
王子様ぁぁぁぁぁぁ?!
こっちはもっと酷かったぁ!!洗脳が重ね掛けされてるぅぅ?!
道理で王様の状態にも無関心な訳だよぉぉぉ?!
しかも、これ以上の洗脳は危険って、かならヤバい状況だし!?私の王子様がぁぁ…………。
………えっ?えっ?こ、これって、多分とかじゃなく、確実にザッドハークがやったんだよね??あいつが洗脳を掛けた………ってことだよね?さっきのピカッて光るやつで…………。
てことは、王子様は事前に洗脳されていたからザッドハークに違和感を感じなかったと……。だから仲間として紹介してきたし、ザッドハークの外見や発言にも特に反応しなかった。その上でさっきの光で重ね掛け。
そうなると、必然的に周囲の臣下の人達や衛兵達。シュナイゼル君達も洗脳されていたわけ……?
だけど、王様だけは洗脳を逃れていたけど……それが……今……。
ちょ?!あ、あいつ一体何者なの?せ、洗脳とか普通じゃないでしょうが!!確実にヤバいでしょ!!私はどういう訳か洗脳は効いていないみたいだけど、それでもかなりヤバイでしょ!
そ、そういえば、王様が洗脳される前にザッドハークを見てガクブルしていたけど………。
な、何か知っていたのかな?そんな様子だったけど………。
そ、そうだ。か、鑑定をしてみよう!ていうか、最初からすればよかったわ。そうすれば、あいつの正体とかに最初から気付けたのに!色々と重なりすぎて忘れてたわ。
とにかく鑑定だ。あの謎の骸骨野郎の秘密を全部暴いて、丸裸にしてやる。仲間面して隠している本性を見てやる。
「『鑑定』」
『鑑定結果』
名前:ザッドハーク=エンペレント
種族:秘密
称号:『冒険に憧れる暗黒騎士』
職業:暗黒殲滅騎士兼勇士
加護:必要無し
状態:最高潮
Lv:限界突破
HP:宇宙空間でも生きられる
MP:ほぼ無限
筋力:メッチャ強い
知恵:メッチャ天然
旋律:メッチャ速い
魔力:メッチャ高い
幸運:メッチャ良い
スキル:大概なんでも出来る。
捕捉:メッチャヤバい。
とんでもねぇ本性隠してやがったぁぁぁぁぁぁぁ!?
ザッドハーク《あいつ》、マジでとんでもねぇ奴だったぁぁ!!
ツッコミ所が多すぎるけど……。
まず、なんだよ正体秘密って!?隠匿してる辺り完全に敵側じゃないの!?秘密って何なの?鑑定したのに暴けないってありなの?それに『冒険に憧れる騎士』って何??冒険に憧れてんのこの骸骨?何を可愛らしい部分を見せてくれてんのよ?!いや、別に可愛くないけど!?
後、ステータス!!
鑑定が鑑定の仕事をしてないよぉ!!全部文章表記じゃん!?何だよレベル限界突破って?『宇宙空間でも生きられる』生命力って?!ほぼ無敵じゃねーかぁぁ?!
スキルなんか大概何でも出来るだし、捕捉については『メッチャヤバい』の一言だしぃぃ!!
とんでもない奴の本性暴いちまったぁぁぁ!?これ、見ない方がいいやつだったよぉぉぉぉぉ?!こいつ、絶対に魔王よりも強いよ!?
正体は未だ不明だけど、絶対に魔王に類する何かだよこいつぅぅ!?
もう、魔王討伐どころじゃないよぉぉぉ!!
魔王どころか、初っぱなから隠しボスと邂逅しちまった気分だよぉぉぉ!!
……だからか?!だから王様があんなにメチャメチャビビってたのね?!多分、私とおんなじ心境だったんだろうね……そりゃ、目の前にこんな骸骨騎士がいたらビビるよね。
いまや文字通り、やつの術中に堕ちたけど。
どうすんのよ?!これ、どうすればいいのよぉぉ?!私、こんなヤバい奴と世界を救う旅に出なきゃいけないの?
絶対に無理ぃぃぃぃぃぃ!?!?
「ムッ?どうしたのだ勇者よ?何やら顔色が悪いようだが?」
見ちゃいけないものを見て頭を抱える私に、頭を抱えさせる原因そのものが心配そうに声をかけてきた。
「ひゃ?!あの……別に………」
「何やら悪いものでも見たような顔をしているぞ?まるで、何者かの見たくない本性を見てしまい後悔しているようだぞ?」
具体的に正確な答えを導いてくるなこいつ?!
なんだ?本当は心を読んでるんじゃないの!?大概何でも出来る……っていうし、本当に心を読めんじゃないの!?
いや、そうなると、私ヤバいんじゃないの?
洗脳とか、ステータスとか………こいつが知られたくないような事を知ってしまったんだし………。
私が勇者……のせいなのかは分からないけど、洗脳が効かないようだし……。
そうなると…………。
消される?
私、もしかして消されちゃう?
邪魔な存在として消されちゃう……ってことにならない?
こいつが何が目的かは知らないけど、大まかな本性を知ってしまった私はザッドハークにとっては邪魔な存在の筈。ならば、変に行動される前に殺してしまった方がいいと考えるのでは?
そんな思いが頭を霞めると、全身から血の気が引いていく。
多分、他から見れば、今の私の顔は顔面蒼白になっているだろう。
それほどに、私は目の前の強大過ぎる存在を認識してしまった故からの、死への恐怖を感じてしまっていた。
すると、ザッドハークはそんな私の怯えた視線に気づいたのか、その青白く燃える炎の瞳をこちら向けてきた。
「ひっ…………」
まるで心臓をギュと握られたような気分となる。足がすくみ体が震える。
恐怖から思うように顔や体を動かせず、必然的にザッドハークと視線が交差する。
そのチラチラと燃える青白い炎の瞳からは、一切の感情を感じず、一体何を考えているのかは伺い知ることはできない。
だが、逆にそれがより一層の恐怖を駆り立ててくる。
もしかしたら私の心を読んでいるのではないか?私の処分方法を考えているのではないか?若しくは拷問?ほんの一瞬の間だが、様々な嫌な想像が頭の中を巡っていく。
できるならば視線を外して逃げ出したい。
しかし、金縛りにあったかのような体は、足を動かすことも視線を外すことを許さない。
私は暫し、ザッドハークと見つめ会う形となってしまう。
重苦しい空気が流れているようで、1秒が数時間にも感じるような感覚を覚えていると、ザッドハークがスッと右腕を動かした。
それに対して私の体がやっと動いたが、それはビクリとした反応であり、未だに思うように体は動かない。
なんで動かないのよ。
自分を必死に叱咤するものの、それでも体は精神を裏切ったように動いてくれない。
その間にもザッドハークの動きは止まらない。右腕を上げ、頭へ持っていくと、頭頂部を前から後ろへと二・三回撫でていく。
な、なんの動作だ?何かの呪い?それとも、手刀を振り下ろす予備動作?!
まるで意図できないその動きに戸惑う私。すると、これまで黙っていたザッドハークは、突然に重苦しい口調で語り掛けてきた。
「ほぅ……そのように見つめて………早速、我に惚れたか勇者よ?」
動くことが可能となった私の体は、まず真っ先にザッドハークへと向けて『脛殺し』を発動した。
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