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83話 皇帝参上

 

 シャーンシャーン。

 ジャーンジャーン。

 シャーンシャーン。

 ジャーンジャーン。


 様々な銅鑼や楽器を鳴らしながら、それは我が物顔でギルドに入ってきた。


 それは、華やかな色合いをした軍隊だった。


 揃いの中華風の鎧を身に纏った百人程の部隊が槍を掲げ、綺麗な隊列を組んで入ってきたのだ。

 その周囲には音の発生源たる楽器を鳴らす部隊もあり、彼らは行進に合わせて楽器を奏でている。


 昔テレビで見た自衛隊の隊列行進のようだ。


 ギルド内に入ってきたのは百人程。

 だが、さっきの足音から察するに、恐らく外にはもっと多くの人数がいるはずだ。


 実際、扉の隙間から外にも同じような奴らが並んでいるのが見えた。


 そして、そんな軍隊の特筆すべきことは、その全員の顔が……。


 


 筍だった。


 


 

「うわぁ……」


 ゴルデが悲鳴に近い声を漏らした。

 が、それはここにいる全員の代弁だろう。


 ただでさえ筍顔が一人でお腹一杯なのに、ギルド内に入ってきた百人近い軍隊の顔が全員筍だったら胸焼けものだ。悲鳴の一つ二つ出ても仕方がない。


 いや、なんだったら食中りか食中毒さえ起こしそうな勢いだ。


 花形君……いまなら食中毒で倒れた君の気持ちが分かる気がするよ……。石塚君……死体蹴りはダメだよ。


 そんな事を考えていると、その入ってきた部隊はギルドの入り口上部の壁を壊し、穴を開けはじめた。


 何してんだあいつら?!


 呆気にとられる私達を他所に、あっという間にギルドの入り口は縦長に広がってしまった。


 そして作業を終えた部隊は、中央から左右に綺麗に別れ、中央に一本の道が出来上がった。


 それはまるで……。


「王の道……」


 誰かがそう呟いた。


 流れ的に間違いなくそうだろう。

 誰か上位者が通る為に道を空けたとしか思えない。


 それを見て、私はゴクリと息を飲んだ。


 まだか。まだいるのか。

 こんな筍顔だらけで一杯一杯なのにまだ来るのか?しかも、流れ的にこいつらの上位存在が。

 多分、話にあった竹ノ皇帝とかいうやつだろう。

 あのトゥルキングやボ○キングに並ぶ存在。

 つまり、筋肉樹木や歩く公然猥褻物といったものと同じようなものが……。


 ああ……頼むからもう帰してくれ。

 こちとらただの無力な海老なんで見逃してくださいよ……。

 筍なんかとはそんな相性良くない食材なんで関わりたくないでゴザル……。


 鋏と鋏を合わせて天に祈りを捧げていると、道の奥からシャーンシャーンと一際澄んだ鈴のような音が聞こえてきた。


 その音と共に奥から姿を現したのは、他の兵士達よりも華美な装飾がされた鎧を纏った精鋭らしき筍達と、屈強な筍の男達が抱える御輿であった。


 御輿は豪華でありながらどこか品のよい装飾がなされたもので、ところどころに金の龍や鳳凰の彫刻などの縁起のよいものが彫られていた。


 そして、その豪奢な御輿には、一目で高級だと分かる独特な金色の着物に身を包んだ人物が、これまた豪華な玉座に鎮座していた。


 やがて御輿がギルドの中央部で停まると、その御輿の前に竹羽が出てきて、御輿に乗る人物へと跪いて礼をとった。


「ご足労痛み入ります、陛下」


「ウム」


 御輿に乗る人物が厳かに頷くと、竹羽は立ち上がりこちらへと向き直った。


「皆の者!控えおろう!この御方をどなたと心得る!この方こと我等が王にして、偉大なる世界樹様の代弁者!その名を……」


 


 

「朕こそが竹族の唯一無二の王。竹ノ皇帝なるぞ」


 竹羽の言葉を引き継ぐように、御輿に乗った人物……顔面が長々とした青竹の謎生物が、偉そうにそう名乗った。


 思わず天を仰いだ。


 筍の次は青竹かよ……。

 いや、なんとなくそんな気はしたが……。

 だが、まさか顔がまんま竹……これまでの流れからして充分にありえるか。

 だからか。だから入り口壊したのか……。確かにあのままじゃ頭?がつかえて入れないわ。

 妙に納得している自分が腹立たしい。


 しかし、このシリーズの奴ら……体とかは無駄に人間らしいのに、顔とかは植物の自己主張強いからな。擬人化するなら全て擬人化してほしいな。


 ラノベだったら植物の擬人化なんて基本中の基本やろが……。


 しかし、今回の奴はしっかりと服を着ているな。

 そこら辺は私的に評価できるポイントだ。

 なんせ、これまで真っ裸と猥褻物しか見てなかったからね。


 そんな半端な擬人化竹野郎は、無駄に長い竹の顔を振って辺りを見回した。


「フム。それで竹羽よ。朕が探すカオリなる者はおったのか?」


 そうだと思ったけど、この青竹が私を探している張本人らしい。

 一体なんの用かは知らないが、ここは海老の姿で隠れさせてもらおう。


「ハッ!申し訳ありません!どうやら入れ違いとなったようで、この場にその者はおりませんでした!」


 恭しく頭を下げながら報告をする竹羽に、竹ノ皇帝はつまらなそうに息を吐いた。


「行き違いか……。せっかく朕が自ら出向いたというのに何とも不敬な者よ」


「「然り然り」」


 突然訪ねて来ておいて随分と勝手な言い分だが、奴らには当然のことらしい。周りにいる筍共が声を揃えて肯定した。


 ふざけんな!と一喝してやりたいが、今の私は無力な海老なんで黙っている他ない。


 というか、こいちら何しにきたんだ?

 報復?報復か?トゥルキングやボ○キングを倒した報復に来たのか?


 チラチラと横目で竹ノ皇帝なる竹野郎を見ていると、奴はギルドを一瞥した後、つまらなそうに深く息を吐いた。


「フウ……しかし、カオリとやらがここにいると言う話は、何かの間違いなのではないか?」


「はて?と、言いますと?」


 竹羽の質問に、竹ノ皇帝は手にした扇子をギルド内に向け、嘲りを込めた口調で言い放った。


「見てみよ。朕の探す者が、このように薄汚く、貧弱な女しかいないような組織に属する者とは思えぬでな」


 そんな言葉にギルド内が一瞬静まる。

 が、言葉の意味を理解した冒険者達が顔を真っ赤にして立ち上がった。


「ふざけるな!薄汚いだと!?」


「そうよそうよ!これでも身嗜みには最低限気を使ってるのよ!」


「貧弱ですって!腕っぷしで食べてる私達が貧弱?訂正しなさい!」


「別に女しかいない訳ではないわ!今、男共は…やっぱいいわ」


 女性とは言え血の気の多い冒険者達。

 竹ノ皇帝の暴言に、次々と野次や反論を飛ばす。


 ただ、今このギルド内に女しかいない訳については、皆が早々に説明を諦めていた。


 より侮辱されるのは目に見えてるからね。


 そんな途切れることなく反論する冒険者達だが、それを受ける竹ノ皇帝は涼しい顔だった。


 ※竹なので表情はないが、雰囲気に。


 というより、全く話を聞いていないみたいな?


 ズシーーン!!


 そんな冒険者達の声を遮ったのは、凄まじい衝撃音であった。


 ギルド全体が震える程の衝撃で、そのあまりの音と振動に冒険者達は一斉に押し黙った。

 中にはビックリして尻餅をついた娘もいる。


「静まらんか!この下朗共がぁぁ!!」


 そして更なる追い討ちをかけるように大気を震わす声で叫んだのは竹羽であった。

 その竹羽の手にはいつの間にか矛が握られており、その矛の石突きがギルドの床を破壊してめり込んでいた。


 どうやら先程の衝撃も、竹羽が矛で床を突いて起こしたもののようだ。


「あの筍……相当な実力者だな……」


「カオリ……。訳知り顔の傍観者みたいに格好つけてるとこ悪いんだけど、海老の姿でテーブルの下に隠れてたら説得力皆無よ?」


 衝撃にビックリしてテーブルの下に隠れてたら、ゴルデ達に酷く可哀想なものでも見るような目を向けられた。


 いや、違うんです。学校でやってた避難訓練の成果が出ただけです。私すごい。


「この下朗共が!!皇帝に対して何たる無礼!不敬を語る口ごと、その首切り落としてくれようか!」


 そう言って矛を構える竹羽の迫力に、冒険者達が後ずさった。


 うわぁ……ヤバイな……あれ、すっごく武将っぽいな……。いままで見た中で、一番戦士らしい戦士の雰囲気だよ。筍だけど。


 そんな殺気を振り撒く竹羽を止めたのは、意外にも主たる竹ノ皇帝であった。


「よせよせ竹羽や」


「しかし、主様……」


「あのような事を言われても所詮は野良犬共の遠吠え。朕の心には響かぬよ」


 野良犬と言われ冒険者達が苛つき、ムッとした顔になる。が、誰も何も言えないのは先程の迫力に圧倒されたからだろう。


 そんな黙り込む冒険者達一同を、竹ノ皇帝は愉快そうに見ていた。


「ほれ、見てみよ。先の汝の武威に圧され、何も申せなくなっておる。このような弱者など、塵漁りの野良犬以外の何者でもなかろうに」


「然り。正にその通りですな」


 扇子で口元(口が無いから正確には分からない)を覆いながら、愉快気に笑う竹ノ皇帝。

 まわりの筍もそれに合わせて笑っている。


 なんなんの、こいつら…腹立つ!

 来て早々に私を探してると思いきや、上から目線で冒険者を馬鹿にして。

 まったく行動が読めないというか、そもそも私に何の用があって来たのよ?

 植傑とか言ってたけど、あの竹野郎……これまでの二体と毛色が違うから何考えてるか分かんないのよね。


 トゥルキングが武闘派ヤクザなら、あいつはインテリヤクザみたいな?


 まあ、だからどうという訳じゃないけど、とりあえず帰ってくんないかな?絶対メンドイことになるし。


 そんな事を考えながら観察していると、これまで黙っていたニーナが前に進み出た。


 そしてプルプルと震えながらも、力の籠った目で竹ノ皇帝を睨み付けた。


「ぼ、冒険者の方々を馬鹿にするのはやめてください!彼女らは命をかけて依頼をこなし、人々の役に立っている無くてはならない存在です!そ、そんな彼女らを侮辱するのは私が許しません!」


 ニーナ!マジでイケメンかよ!?

 荒くれ冒険者達が萎縮する相手に正面から堂々とあんな……。すごい。

 そして、『彼女ら』と言っている辺り、男共が見限られるてる現実。当然か。


 さて、そんな正面から堂々と叫ぶニーナに、やはりというか、竹羽は怒りを露にした。


「貴様!皇帝陛下に対し、なんたる不敬な口を!」


「よいよい竹羽」 


「しかし皇帝陛下!」


「気にするまでもない所詮は下民の戯れ言よ」


 激昂する竹羽を諌める竹ノ皇帝だが、やはりその言葉や態度にはこちらに対する嘲りがあった。

 竹ノ皇帝は手にした扇子をピシャリと閉じると、それを真っ直ぐにニーナへと向けた。


「そこな女よ。先程、ここの冒険者は命懸けで…などと申したな?」


「は、はい……それが?」


 ニーナは怯えながらも、強い意思の籠った目を竹ノ皇帝へと向ける。


「フフ……いやなに。竹羽が放った軽い威圧程度に腰を抜かす者達が、果たして本当に命を懸けることなどできるのかと疑問に思ってな」


「!?……っ」


 その言葉にニーナが口ごもる。


 あの竹ノ皇帝の言う事に腹は立つが、事実としてギルド内の冒険者達は皆はさっきの威圧感にビビっていた。今も悔しそうな顔はしていても、誰も何の反論をしようとはしてない。

 これでは、『命懸け』という覚悟があるのか疑われても仕方がない。


 とはいえ……。


「あいつ腹立つな……」


「その台詞は机の下から出てきてから言いなさい」


 忠告痛み入ります、ゴルデさん。


「フフ……何も申せぬか?まあ、図星だった故に、そんな苦虫でも噛んだような面をしておるのだろうな」


 何も言えなくなったニーナを嗤う竹ノ皇帝。

 あいつ、まじで性格悪いな。


「性悪野郎め」


「だから机の下から出てきなさいよ」


 いや、違うのよ。机が私を愛しすぎてはなしてくれんのよゴルデさん。


「うっ…その…だ、だいたい!カ、カオリさんに何の用ですか!?あの方も、冒険者の一人ですよ冒険者!その冒険者カオリさんに何用があってきたんですか!」


 流石にニーナも黙っていられなくなったのか、話を変えつつ私への用件は何かと聞いた。


 これに私は『ナイス!ニーナ!これであいつが何の目的で来たのか聞ける!』と思いつつ、『話題を変える為に私を巻き込むなよ』という憤りもあった。


 というか、すげー『冒険者』を推すな。

 やっぱ悔しかったのかね……。

 彼女なりの反撃かな?


 さて、そんな話を振られた竹ノ皇帝だが、その雰囲気がピシャリと変わった。

 これまでの愉快そうな態度ではなく、一切のおふざけのない真剣な感じとなった。


「フム……カオリなる者に対する用件か。そんなもの、決まっておろう」


「決まってる……何が──」


「報復よ」


 たった一言。然れど、妙に力と憎悪の籠った一言に、ギルド内の空気が凍った。


 やっぱりかぁぁぁ!!

 あの竹野郎、やっぱ報復に来やがったか!!

 しかも軍隊連れてくるってガチじゃん!ガチガチのガチじゃん!やべぇぇよ!!


 竹ノ皇帝の報復という言葉に私は絶賛絶望中だが、事情を知らないニーナ達は戸惑っていた。


「ほ、報復?一体何が……」


「そのカオリなる者は、朕と同じ世界樹様から選ばれた名誉ある十大植傑のうち、その二柱を打ち倒したのよ。」


「た、倒した?!」


「左様。朕も何かの間違いかと思うたが、盟友たるトゥルキング。そして、宿敵ライバルたるボ○キングの二柱がカオリによって倒されたのだ。故に、朕らはその仇を討つために報復にきたのよ」


 憎々しげに語る竹ノ皇帝。

 顔は竹だから分からないけど、多分相当にお怒りのようだ。ますます前に出る気になれない。


 というか、宿敵って……やはりこの世界でも筍と茸は仲が悪いんだなぁ。

 里と山の戦争でもあるのかな?まあ、私はどちらかと言えばア○フォート派ですが。


 ※チョコ菓子系の論争って、絶対決着つきませんよね。


 そんなどうでもいいことを考えていると、ニーナが恐る恐ると口を開いた。


「あ、あの…事情は分かりました。けど、たった一人に報復するために、こんな軍隊を連れてくるのはやり過ぎでは?」


 そう彼女が言った瞬間、竹ノ皇帝から凄まじい怒気が溢れた。


「やり過ぎだと!?普段、朕達十大植傑は表に出ぬ故、一部の人間らを除いて朕らの存在は人間らに知れ渡っておらぬだろう!が、朕ら十大植傑は世界樹様の守護者にして大地の守護神!その神の如き朕らを倒すなど、絶対にあってはならぬこと!それは大地に対する反逆!!なれば、その大罪人を同じ植傑の一柱として裁かねばならぬ!この圧倒的力と数で蹂躙し、自身が何をしたのか後悔させねばならぬのだ!!」


 怒り心頭といった竹ノ皇帝の怒気を孕んだ声に、ギルド内がビリビリと震えた。

 その発せられた怒気は先程の竹羽とは比べものになら程の怒気で、奴が伊達に植傑に選ばれてないことを示していた。

 間近でそんな怒声を聞いてしまったニーナは驚き、その場に尻餅をついていた。


「ひ、ひぃ……」


「分かったか!朕らは絶対にカオリなる大罪人を滅さねばならぬ!そのためなら手段など選ばぬ!!」


「は、はい!わ、分かりました!!」


 完全に怯えてしまったニーナは、ガクガクと頭を振って頷いた。


 だが、それ以上にガクガクと震える者がいた。


 私だ。


 やべぇぇよ。想像以上にやべぇぇよ。

 完全に目を付けられたよ……。

 これ、見つかったらヤバイよ……。殺されちまうよ……。勇者なのに殺られちゃうよ……。

 今ならヤクザに追い込まれた人間の気持ちが分かる気がするよ……。


 海老の姿のままガクガクと震える私。

 そんな私の肩に、ハンナが安心させるように優しく手を添えてきた。


 ハ、ハンナ……。


 更に周りを見れば、ゴルデ達は私を竹ノ皇帝から隠すような位置に移動しており、腰にある剣に手をかけて警戒態勢となっていた。


 ゴ、ゴルデ……。ううぅ…みんなありがてぇ。ありがてぇよ。こんな私を守ってくれるのかい…。


 肩に置かれたハンナの手の温もり……いや、アンデッドだから温もりないわ。むしろ冷たいわ。

 いや、まあ…心の温もり?的なもんに癒されて安心していると、竹ノ皇帝は放っていた怒気を収めた。


「まあ、そういう訳よ。これで朕が何をしにきたか矮小な人間共にも分かったであろう」


 そう言って周囲を見渡す竹ノ皇帝。


 ニーナや冒険者達は先程の怒気に当てられ、完全に萎縮していた。


「フム……この程度の怒気で萎縮するとは。やはり、トゥルキング達を倒す程の豪の者が、このような弱小組織に所属しているというのは何かの間違いではないのか?」


「かもしれませぬな。とても強者がいる雰囲気ではありませんしな」


「フム。トゥルキングの情報では、ここにいると言う話であったが……。まあ、良い。取り敢えず、この周辺をくまなく探してみようぞ」


「ハッ!承知しました!既にこの都の出入りをする東西南北の門は封鎖しておりますし、時間をかけて炙り出しましょう!」


 マ、マ、マ、マジか?!

 門を封鎖って……。ほとぼりが冷めるまで王都から離れようかとも考えていたのに、これじゃ逃げられないじゃないの……。


 更なる絶望に頭を悩ませていると、追い討ちをかけるようなことを竹羽が言い出した。


「トゥルキング様やボ○キング様に聞いた特徴を示した人相書きも全ての兵達に配布済みです。カオリなる女が見つかるのも時間の問題でしょう」


 そう言って竹羽は懐から人相書きらしき紙を二枚取りだし、その一枚を竹ノ皇帝へと渡した。


「フム。よくできておる見事じゃ」


 満足そうに頷く竹ノ皇帝に戦慄する。


 に、に、に、人相書きだと??

 そ、そんなものまで準備を?!しかも全ての兵達に配布って、なにしてくれてんだよ!?

 完全に指名手配じゃん!追い込む気まんまんじゃないの!!


 幸い今は海老の姿でバレてはいない。

 けど、それでも何がきっかけで何時バレるかも分からない……。

 向こうは時間をかけてしらみ潰しに探すようだし、本当に見つかる恐れがある……。


 ああ……どうしよう……。

 なんか逃げる手段は……。


 そう必死に頭を悩ませていると、竹羽が手にした私の人相書きの紙を見ながら『プッ』と小さく吹き出した。


「しかし……本当にこんな女がいるのでしょうか?」


「フム。それについては汝に同意するが、トゥルキング達からの証言が一致する故に、信じざるを得まい。だが、これだけ特徴があれば、見つけるのも容易かろう」


 そう呟き、竹ノ皇帝は手にした人相書きを手離した。紙はヒラリヒラリと舞い、偶然にも私の前へと落ちてきた。


 チラリと落ちた人相書きを見て……私は目を見開いた。


 何故なら……。


「カオリの特徴……女だが胸は無し。寸胴短足の絵に書いたような醜女」


「そして、ゴリラのような顔と筋肉質の体で、獅子のように狂暴な性格。女らしさは一切皆無の蛮族女と。これなら強者として納得の容姿ですが、本当にこのような女がいるのですかね?」


「まあ、いるのだろう。本来なら視界にも入れたくない醜女であるな。おお怖や怖や」


「然り然り。このようなこともなければ出会いたくもない女ですな。というより、こんな女として終わってる者など、存在する価値はないでしょう。なれば、ここで滅するのも一つの慈悲でしょう」


「おお、そうであるな。まさにその通り!引導を渡してやるが故に感謝しろとな?」


「「フハハハハハハ!!」」


 

 人相書きに描かれた私の顔。


 それは、ラ○ウとブ○リーと範○勇○郎を足し、そこに僅かばかりに女っぽさを入れたような、ゴツく狂暴そうな戦闘民族顔負けのものだったからだ。

次回、香が無双します。

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