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75話 災害の後…………。

小説を楽しみにしてくれていた方々。

仕事の都合で、大分投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。今回、なんとか新作を書き終えることができました。

ただ、これからも遅れることはあると思いますが、ちょくちょくと更新は致します。

それでは、前回の続きをお楽しみください。


 前回までのあらすじ。

 

 香とゴルデがグラトニーゴブリンに捕まりピンチに!?

 だが、その時、天から白衣を纏った何者かが現れて…………。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲には煙と土埃が舞い、更には肉の焼け焦げた臭いと血生臭さが混じった、何とも言えない異臭が漂う。

 

 辺りには元が何だったのか分からないほどに細かくミンチになった肉片や大量の血が、ある一点………巨大なクレーターを中心に、四方八方へと爆散したように無惨に散らばっていた。

 

 いや………事実爆散したのだ。

 

 あの巨大なモンスター……グラトニーゴブリンが………。

 

 私達を握り締め、その手で潰そうとしていた恐るべきモンスターが………だ。

 

 一瞬のことだった。

 ほんの一瞬で、あのグラトニーゴブリンが爆散し、ただの肉片へと変貌してしまったのだ。

 

 信じられないかもしれないが、これは間違いない事実である。

 

 幸いにも何とか無傷で解放された私は、暫し唖然と肉片となったグラトニーゴブリンを眺めていた。

 

 だが、直ぐに気を取り直し、鼻につくその異臭と凄惨な光景に眉をしかめつつ、この光景を引き起こした人物へと目を移した。

 

 今も私の傍らにいる人物へと…………。

 

 そう……………。

 

 

 

 

 

 

 

 すぐ真横でビクンビクンと痙攣しながら転がるザッドハークへと。

 

 尚、その脛はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。

 

「………悪は滅んだわね」

「いや、あの……もう大丈夫なの?そいつ?」

 

 倒れ伏すザッドハークを一瞥していると、同じくグラトニーゴブリンの魔の手から逃れたゴルデが、たわわな胸を隠しながら恐る恐ると近寄ってきた。

 

 糞が……もげてしまえ………。

 

「うん。念入りに脛を砕いておいたから暫くは大丈夫なはずよ。とはいえ、ハーピー爆弾の爆破からも短時間で復活してきたし、油断はできないわね」

 

 一応足でザッドハークの頭をガゴンと蹴ってみるが反応はない。

 

 ただのしかばね(仮)のようだ。

 

「よし…………大丈夫」

「扱いが雑ね。というか、あなた……筋肉痛で動けないんじゃなかったの?」

 

 先ほどまで筋肉痛でまともに動けなかった私が普通に立ち、普通にザッドハークの頭を蹴っている。

 その様子に、ゴルデが不思議そうな目を向けてきた。

 

「ああ………これはね。そこに転がっているやつのおかげかな?」

 

 そう言って私が目を向けた先………。

 

 そこにはこの村の村長が白目を剥き、ビクンビクンと痙攣しながら転がっていた。

 

 尚、その脛はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。

 

「………村長のおかげ?いや、意味が分からないんだけど?てか、なんか全身が粘液まみれなんだけど?何よこれ?」

 

 ゴルデの言うとおり、村長の全身は謎の黄色い粘液まみれになっていた。

 

 不思議そうと言うか、気色悪そうに見ているゴルデだが、その粘液こそが私達を助けてくれたのだ。

 

 そう………あのピンチから。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ここより回想◇

 

 

 グラトニーゴブリンに握り潰されんとする私達の前に、フワリと白い何かが舞い降りた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思った、その時。

 

「カオリィィィィィィィィィィィ!!」

 

 天から腹に響かんばかりの怒声を上げながら、何かが凄まじい勢いで落下してきた。

 

 見上げて確認したそれは……………。

 

「げっ?!ザ、ザッドハーク?!」

 

 天から落ちてきたもの。

 それは怒りのオーラを纏い、巨大な剣を掲げているザッドハークであった。

 

 あ、あの野郎、ハーピー爆弾で吹っ飛ばしたのにもう復活しやがったのか!?

 なんて回復力!?いや、今はそれよりも、あの明らかな怒りのオーラは一体……?

 

 ま、まさか、私を傷つけるグラトニーゴブリンに怒りを感じて………。

 

「カオリィィィィィィィィィィィ!!よくも男の純情を弄んでくれたなぁぁぁ!!さしもの我も頭にきたわぁぁぁ!!ここで汝を塵芥にしてくれようぞぉぉぉぉぉぉ!!」

「チクショウゥゥゥ!?グラトニーゴブリン(そっち)じゃなく、(こっち)を殺る気だぁぁぁぁぁ?!」


 

 落下しながら剣の切っ先を私へと向けてくるザッドハーク。

 

 どうやら奴の逆鱗に触れてしまったようだ。

 

 糞がっ!?マジで殺る気だなあいつ?!

 それほどの殺気をみなぎらせてやがる!?

 

「ザッドハークゥゥゥ?!タンマ!ストップ!!話せば分かるぅぅぅ!!まずは話し合いを………」

「ぬかせ!!既に話し合いができる余地など無し!!この我が憤り!怒り!無念!その全てを汝にぶつけてやろう!!」

 

 私の叫びに応じることもなく、落下してくるザッドハークの全身が蒼い炎に包まれる。

 やがて、その姿は天より落ちる蒼い流星の如きものへと変化していった。

 

「我が男の純情を!おっぱいに対する熱意を!ハーレムへの夢を!!弄び、うち壊した者に制裁を!!喰らうがよい!!天を墜とし、星を喰らう我が剣!!

 

 

 蒼天墜星剣(そうてんついせいけん)

 

 

 

 塵芥と化せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「味方相手にはじめて必殺技的なもんを使いやがったなあいつぅぅぅぅぅぅ!?!?」

 

 魔物相手にも技らしきものを使ったことないくせに、今この場で私に向かって使いやがった!?

 

 どんだけハーピーハーレム爆弾のことを根にもってんだよ?!

 

 蒼い彗星となって迫るザッドハークに私は愕然とするしかなかった。

 

 が、流石にこのままじゃ不味いと我に返る。

 

 これ、喰らったら普通に死ぬんじゃね?

 

 そう考えて逃げようとしようにも、体はガッチリとグラトニーゴブリンにホールドされて逃げられない。

 

「ちょ?!離せ!死ぬ!死んでしまう!?離さなきゃザッドハーク(やつ)に殺される!?」

 

 ジタバタともがくも、グラトニーゴブリンの手は全く微動だにしない。

 

「糞がっ!?ならせめて……離さなくていいから、せめて逃げてくれぇぇ?!じゃなきゃ一緒に塵芥にされてしまうぅぅぅ!?」

 

 離さなくとも、せめてこの場から逃げてくれ。

 

 切実にそう叫ぶも、私とゴルデに夢中(食欲的意味)なグラトニーゴブリンの耳には私の声も届かず、天から落ちてくるザッドハークの姿も目に入らぬらしい。

 

 駄目だ!このままじゃ死ぬ!!

 せめて、この場から少しでも離れなければ!!

 だけど体はまともに動かないし、そもそも握り締められて逃げられない!?

 

 そうこうしているうちに、彗星と化したザッドハークが目前まで迫ってきていた。

 

「いやぁぁぁ!?死ぬぅぅぅぅぅぅ?!」


 そんな迫りくるザッドハークを見上げながら、私は腹の底から絶叫を上げた。

 

 そして…………。

 

 

 

 キィィン───────────。

 

 チュドオオオオオオオオオオン!!!

 

 

 ザッドハークが着弾すると同時に辺り一帯が爆発。凄まじい爆音と共にキノコ雲が上がり、爆破の衝撃で周囲のものが吹っ飛んでいった。

 

 そんな爆風が吹き荒び、吹き飛んでいくガラクタ等の中に私とゴルデの姿があった。

 

「「イャアアアアアアアアア!?!?」」

 

 幸いにも狙いが外れたのか、ザッドハークは私ではなくグラトニーゴブリンへと着弾し、直撃を免れた私達は無事であったのだ。

 

 その直撃を受けたグラトニーゴブリンだが、ザッドハークが着弾すると断末魔を上げる間もなく爆散し、無惨な肉片と化した。しかし、絶命したおかげで手から力が抜け、私達はすっぽ抜けて脱出できたのだ。

 

 まさに不幸中の幸いだが、凄まじい爆風に吹き飛ばされて裸で転がるのは最悪である。

 

「ちょっと!?な、なに?!なんなのこれ?!」

 

 ゴロゴロと転がっていると、先ほどまで締め付けられて意識が朦朧だったゴルデが、衝撃で目を覚ましたらしく、錯乱したように叫んでいた。

 

「ザッドハークよ!!あの野郎がやりやがったのよチクショウが!!」

「あの骸骨が?!納得だけど、あんたを助けるにしてはやり過ぎじゃないの?!」

「違うわ!!私を殺るためにやりやがったのよ糞がっ!!」

「私が気を失っている間に何があったのよううううううう!?」

 

 二人で叫びながらゴロゴロと転がっていると、背中に何かがぶつかった。

 

「へぶっ?!な、なんじゃ?!」

「痛たた……。これは…壊れた浴場の壁よ!!」

 

 ゴルデに言われて良く見れば、ボロボロになってはいるが微かに見覚えのある浴場の壁であった。

 

「なんだ、ただの壁か……痛たた……めっちゃ背中打った……。吹き飛ばされる瞬間、なんかがぶつかって頭をぶつし最悪だわ……」

「そう言えば額にでっかいコブができてるわよ?後で冷やしなさい。でも、これはラッキーね。この壁の陰に隠れれば爆風を防げるわ」

 

 凌ぐ?なるほど、その手があったか。

 

 ゴルデの機転に感心していると、そのゴルデは私の両脇に手を入れ、爆風に耐えながらズリズリと壁の陰へと運んでくれた。

 

「ぐっ………重っ!ちょっとは自分でも動いてちょうだいよ!」

「めんぼくねぇ。あと、お尻が擦れてるから、もっと優しく運んで」

「注文が多いわねぇ!?」

 

 ゴルデはなんだかんだで尻に気を使ってくれながら壁の陰まで運び、私をうつ伏せに寝かせた。そして、その私の上に覆い被さるように伏せてきた。

 

「ちょっと重いかもしれないけど我慢しなさいよ。あんたを守るのに一番この状態が効率がいいんだから」

「重いのは我慢できるし、守ってくれるのはありがたい。けど、背中にデカイ胸が当たってるのが恨めしい………」

「それを一番我慢して!?」

 

 背中に伝わる柔らかな2つの肉塊の感触にギリギリと歯を食い縛って耐えながら、爆風が止むのを待った。

 

 やがて数秒?数十秒?どれくらい時間が経ったかは分からないが爆風が止み、辺りが恐ろしいまでの静寂に包まれた。

 

「爆風は………止んだみたいね?」

「ええ、そうね。ただ、土埃が酷いから、視界が開けるまで、もう少しここで大人しくしていた方がよさそうね……」

「そうね。でも、取り敢えず上から下りてくれる?そろそろ悔しくて憤死しそうだから………」

「どんだけコンプレックス抱えてんのよ……」

 

 呆れたような顔をしながら私の上から下りるゴルデ。

 

 あんたには一生分からない悩みでしょうね!!

 

 そんな歯軋りをする私を横目に、ゴルデは崩れかけた壁に背をもたれかけ、ホッと息をついた。

 

「フウ……なんとか難は逃れた。けど……シルビやハンナ達は大丈夫なのかしら?うまく爆風から避難してくれてればいいけど………」

「二人とも魔力が切れているのが問題ね。でも、ハンナなら問題ないと思うわ。なんだかんだで近くにはゴア姐さんもいるし、何とかなってると思う」

「そのゴア姐さん溶けてたけど………って、なんか足音が聞こえるわね?シルビ達かしら?」

 

 ゴルデに言われて耳を澄ませば、確かに足音が聞こえた。

 

 ズシリ………ズシリ…………と足音が………。

 

「………いや、シルビ達にしては足音重くない?てか、あいつら私達と同じ裸だし、こんな鎧着てるみたいな足音するわけないよね?」

「えっ………?じゃあ、この足音って………」

 

 まさか……と顔を見合わせる私達。

 そんな私達の耳に、低く唸るような声が聞こえてきた。

 

「カオリィィィ?何処だ?何処におるぅぅぅ?」

 

((やべぇ!!ザッドハークだぁぁぁぁぁ))

 

 思わず二人して両手で口を塞いだ。

 

 どうやらザッドハークが私達………いや、私を探しているようだ。

 ズシリズシリと重苦しい足音を土煙の中を響かせながら、そこらを歩き回っているようだ。

 

「カオリィィィィ。汝があの程度でくたばらぬ事を我は良く知っている。今もどこかで隠れておるのだろう?大人しく出てくるがいいぃぃ。今なら優しく首を断ってやろうぞ」

 

 そんな言葉とともに、ヒュンヒュンという剣が空を切るような音が聞こえた。

 

(優しく首を断って意味不明なんですけどっっ!?)

(あんた!どうすんのよ?!アレ、完全に怒ってるんじゃないの?!)

 

 ゴルデが肘で私の肩をつつきながら、ボソボソと呟いてきた。

 

(私も予想外の怒りようよ!流石にハーピーでハーレムしてからの爆破はやり過ぎたかしら……)

(それで怒らない方がおかしいわよ!?それでどうすんのよ!?どうやって事を納めるのよ!?)

(いつもだったこういう時は、有無を言わさず脛殺しで脛を砕いてうやむやにするんだけど……今は身体が動かないし………)

(あんたも大概よね………)

 

 呆れと恐れが入り交じったような目で私を見てくるゴルデから目を逸らす。

 

 まあ、自分でも大概なことをしてる自覚はあるが……。

 

「カオリィィィィィィ。何処だ?何処にいる??」

 

((ヒイッ!!))

 

 ヤバい!結構近くにいる!!多分、声からして10メートルは離れてない!!

 

(ちょ!ど、どうすんのよ!?結構近いわよ!?)

(ゴルデに色仕掛けを仕掛けてもらえば怒りが収まると思うけど………)

(流石にぶっ殺すわよ?!あんなのが初めてなんて絶対嫌だからね!!)

(デ、デスヨネー?冗談ですよ?じゃ、じゃあ、奴が通りすぎるまで息を潜めましょうか?)

(あんた結構本気だったでしょ?まあ取り敢えず、息を潜めるのは賛成ね………)


 ジロリとこちらを睨んでくるゴルデの視線にいたたまれない気持ちになりながらも、二人してなるったけ気配を出さないように息を潜めた。

 

 我は石………我は空気………気配なんてないよーないよーないよー……。

 

 そんな事を必死に念じながら、ザッドハークの足音が遠退くのを待った。

 

 ズシリ………ズシリ………ズシリ…………。

 

 ザッドハークの足音がこちらに近付いてきた。

 

 ドクンドクンと緊張から心臓が早く鳴る。

 

 お願い………気付かないで…………。

 

 両手を握って必死に願った。

 

 しかし、無情にも足音は直ぐ間近まで聞こえてきた。

 

 ああ…………駄目か…………。

 

 もう見つかってしまう。

 諦めかけたその時………。

 神様に願いが届いたようだ。

 壁か土煙によりものかは分からぬが、私達の姿を見つけられなかったようだ。ザッドハークの足音が少しずつ離れていったのだ。

 

 やがて足音が完全に遠退き、聞こえなくなった。

 

 フゥ………と私とゴルデは安堵の息を吐いた。

 

 なんとかやり過ごすことができた。

 この後はどうするか………そう考えた時………。

 

「ザッドハーク様ァァァ!!ここじゃ!!ここにカオリ様とゴルデ様が隠れておるぞぅぅぅぅ!!」

 

 隠れている私達の正面。そこに、どっからか現れた村長(ジジイ)がおり、私達を指差しながら大声で叫んでいた。

 

「「糞ジジイィィィィィィィィ!!!!」」

 

 あの糞ジジイ!!ハンナがゾンビで処分したって言ってたが無事だったのか!?なんてしぶといジジイだ!!

 

「このジジイ生きてたのか!黙りやがれ!?」

「黙らないと、その髭で唇を縫うわよ!?」

 

「ヒィィィ?!こわやこわや!!こっちじゃ!!ザッドハーク様!こっちに隠れておるじゃよ!!早く来てくだされ~」

 

「だから黙れ糞ジジイ!それ以上叫ぶ………」

「そこかカオリィィィィィィィィィィィ!!」

 

「「ヒィィィ?!」」

 

 ジジイの叫びにザッドハークが駆けつけ、私達の背後よりその巨体を現した。

 

「見つけたぞぅぅぅカオリィィィィィィィィィ!!我が純情を踏みにじった元凶よぅぅ!!」

 

 目から蒼い炎を噴出させながらザッドハークが叫ぶ。

 

 奴がこんなにも怒っているのを見るのは初めてのことだ。相当に頭にきてるなコレ………。

 

「ザ、ザ、ザッドハーク!?ちょい待って!?ハーピーのことは私がやり過ぎた!!反省してる!だからここは話し合おう!!」

 

 後退りしながら懇願してみるが、ザッドハークの怒りが収まる気配はなかった。

 

「黙れ!!夢半ばで全てを奪われた男の怒りが!絶望が!!そう簡単に収まると思っておるのか!!甘い!砂糖を振り掛けた蜜菓子よりも甘いわぁぁぁ!!」

 

 更に激昂するザッドハークに、私はたじろぐことしかできない。

 

「全てをってのは………ちょい言い過ぎでは?」

 

「ならば!!貴様に分かりやすく言えば、イケメンハーレムに囲まれてこれからと言う時に、実はドッキリでしたと言われたときの絶望と言えば分かるかぁぁぁぁぁ!!」

 

「?!……………ぐっ」

 

「なんで納得顔してるの?!てか、そもそもそいつらが覗きなんかしようとしてたのが悪いんでしょう!?手段はともかく、正義はこちらにあるわ!貴女が引く必要なんてない筈よ!?」

 

 ゴルデの言葉にハッとする。

 

 そうだ!そういえばそうだ!ハーピー爆弾はやり過ぎたかもしれないが、そもそも悪いのは向こうだ!!私が下手にでる必要なんてないわ!!

 

「そうよ!ゴルデの言う通りよ!!ザッドハーク!あんたが悪いのに私が謝る要素も媚びる必要もないわ!!今なら許しあげるから大人しく反省して引きなさい!じゃないと………」

「黙れ!そんな説教は聞きたくもない!!そもそも覗きをしようという男がそんな良識を持つ会わせていると思うかぁぁぁ!!」

「糞がぁぁ!!これ以上ない説得力のある反論ありがとうございますぅぅぅぅぅ!!」

 

 覗きをするような奴が反省するほどの良識ある訳がなかったね!!コンチクショウ!!

 

 ザッドハークの清々しい程のグズっぷりに愕然としていると、背後から誰かが私を羽交い締めにしてきた。

 

 誰かと思って見れば………村長だった。

 

「ちょ?!村長!?」

「儂も男の夢を邪魔された身!ザッドハーク様に助けられた恩もある故に助太刀いたすぞ!!」

 

 どうやらゾンビに襲われたのをザッドハークに助けられたらしい。道理で奴に肩入れするわけだ。

 

 というか…………。

 

「なんかジジイの全身ベタつくんだけど?!てか、なんか全身が粘液にまみれてない?!」

 

 背中に伝わるジジイの感触がおかしいのでよく見れば、なんだか全身が黄色い粘液に覆われテカテカしていた。

 

「これはマンドラゴラの蜜じゃ!!奴に全身すっぽり吸い込まれたおかげで蜜まみれじゃわい!!ホッホッホッホッ!!」

 

「何かと思えば蜜かよ?!ジジイの全身蜜まみれって誰得だよっ!?」

 

 全身ベッタリしてるジジイに抱きつかれるって最悪すぎんだけど?!

 

「ちょ!?キショイキショイ!?離してよ?!ただでさえ裸の身体にジジイが密着してるだけで気持ち悪いのに、さらに粘液まみれってなんの罰ゲームよ!?」

「ホッホッホッホッ!!その程度の言葉では響きませんぞ!!普段から孫やら娘やら息子の嫁やら近所の奥様方から気持ち悪いと言われ続けてる儂の耐性を舐めんでほしいの!!」

「今更だけど、ちょっとは生き方を改めろよ!!」

 

 このジジイはもう駄目だ!!色々と手遅れすぎる!!

 

「ゴ、ゴルデ!た、助けてよ!!」

 

 取り敢えず、ジジイを何とかしてもらおうと、近くにいるゴルデに助けを求めた。

 が、なんだかゴルデの様子がおかしかった。

 具体的にはうつ伏せになったまま動かないのだ。

 

「ゴ、ゴルデ?!」

「ご、ごめん………カオリ………身体が………うまく動か………ない………」

 

 そう言って喘ぐゴルデは、苦しそうな表情で震えていた。まるで、何かの重圧に耐えてるような……。

 

「ククク………助けを求めても無駄よ。既にゴルデは我が暗黒闘気による超威圧で動きを封じている故にな………」

 

「お前かよ!?なんか色々と聞き逃せない初耳なスキルっぽいものが出てきてんだけど?!」

 

 こいつ、仮にも味方相手にどんだけ初スキル披露してんだよ?!もっと重要な場面で使えや!?

 

 しかし、ゴルデに助けを求めることができなくなったのは痛い………。

 

 ザッドハークはそんなゴルデの裸を舐め回すように凝視してやがるし………………………って!?

 

「てか、私さっきから全裸を披露してるんだけど?!あんた、それに対してなんか言うことはないのか?!」

 

 自分も裸だったの忘れてたわ!!

 

 ジジイに抑えつけられているせいで、隠すべき箇所も隠せない状況の私。

 おかげで私の全てを余すことなくさらけ出してしまっていた。

 

 羞恥から顔が真っ赤になり、熱くなる。

 恥ずかしさに身悶えし、涙目になりながらザッドハーク達の反応を伺うと………。

 

「…………………………」

「…………………………」

 

 恐ろしい程の虚無の表情だった。

 

「オイ。その顔はなんだ?どういう意味だ?説明しろよ?」

 

 そう説明を求めると、二人を顔を見合わせてから、

 

「ムッ………。いや…………説明…………まあ、一言で申すなら………何を言ってるんだ?………と」

「それこそ『誰得?』みたいな話じゃないかのう?」

 

 と……………。

 

「オイィィィ!!テメーらまとめてぶっ殺してやるよ!!かかってこいやぁぁぁ!!」

 

 必死にジダバタと手足を振るも、ああ無情……。

 ジジイに簡単に抑えつけられる程に今の私は弱っていた………。

 

 くぅぅぅ!!これほど身体が動かないのが恨めしいことはない!!今すぐこいつらをぶっ殺してやりてぇぇ!!

 

 グギギと歯軋りをしながらザッドハークを睨み付けていると、ザッドハークが手にした剣を横に構えながら、ゆっくりと近付いてきた。

 

「フム。あれほどに凶暴なカオリもこうなってしまえば可愛い……………いや、可愛くはないな」

「ぶっ殺すぞ?!?!」

 

 こいつはどんだけ私を女として見てないんだよ!?見られても困るが、少しは意識しろや!?

 

 そんな私の思いも虚しく、ザッドハークは剣をユラユラと揺らしながらジリジリと距離を縮めてくる。

 

「ククク……。さて…まずはどうしてくれようか?このような機会はまずあるまいし、我の気が済むまで存分に懲らしめてくれようぞ」

 

 不気味な笑いを漏らし、悪意に満ちた波動を放ちながら近付いてくるザッドハーク。

 

 ヤバい……マジでヤバい!!報復される!今回のことを機会に、これまでの所業を返されてしまう!

 

 何とかしようにも身体は動かないし、ジジイにも捕まっているしで何ともできない。

 

 このままではあんなことやこんなことをされてしまうやもしれん!!

 

「グアア!離せ!ジジイ離せ!」

「これ!暴れるでない!!」

 

 ジタバタと頭や手足を振ってもジジイに簡単に抑えつけられる。

 それどころか、ジジイに付いた蜜がヌチョヌチョと私にも絡み付いてきて気持ち悪い!!

 

 プッ?!頭を振った拍子にジジイの頬の蜜が口に入った!?甘い!!本当に蜜だこれ!?

 

 口に入って舐めてしまった蜜を吐き出そうとした瞬間………身体に異変が起きた。

 

 ドクン。

 

 身体が熱くなった。

 

 ドクン。

 

 心臓の鼓動が早くなる。

 

 ドクン。

 

 手足に力がみなぎってきた。

 

 ドクンドクン。

 

 全身から痛みが……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムッ?どうしたのだ?急に大人しくなりおったが?」

 

 急に顔を伏せて大人しくなった私に、ザッドハークが訝しむような視線を送ってきた。

 

 そんなザッドハークに対し、村長は朗らかに笑ちながら、

 

「ホッホッホッ!流石に観念したので───」

 

 と何か言おうとしたが、その言葉を全て言うことはできなかった。

 

 なぜならば…………。

 

 ガバリ!!

 

 私が羽交い締めにしてる村長の腕を、易々と振りほどいたのだ。

 

「ほへっ?」

 

 振りほどかれた腕を掲げたまま、何が起きたのか分からず間抜け面を晒す村長。

 

 私はそんな村長に振り向くと、ニッコリと微笑んだ。

 

 そして…………。

 

「死ねや!!エロ蜜ジジイィィィィィィィィ!!」

 

 全力の脛殺しを放った。

 

「ヒギィヤアアアアアアア!?」

 

 脛殺しを喰らったジジイは断末魔の悲鳴を上げながら吹き飛んで転がり、やがて白目を剥いて動かなくなった。

 

「な、な、な、なん………だと……………」

 

 吹き飛んだジジイを一瞥しながら、動くようになった身体の間接をポキポキと鳴らしていると、背後から驚愕したような震え声が聞こえた。

 

 ゆっくりとそちらを向けば、ガクガクと震えるザッドハークの姿が。

 

「あぁぁぁぁらぁぁぁザッドハァァァァク。どぅぅしたのぉぉぉぉ?そんなに震えてぇぇぇぇ??」

 

 ニンマリと笑いながら尋ねると、ザッドハークは後退りしながら震えた声で問うてきた。

 

「な、な、汝……な、な、な、何で動け………」

「何で動けるかぁぁぁぁ? さぁぁぁ何でかしらねぇぇぇぇぇぇぇぇ???」

 

 ザッドハークの質問に曖昧な返事をしながら、ゆっくりと近付いていく。

 

 対し、ザッドハークはワナワナと震えながら後退りしていく。

 

 それはまさに、先程とは反対の絵面だった。

 

「ま、待て………話せば分かる………。カオリよ、まずは互いに話し合って……………」

「ザッドハークゥゥゥゥ?」

 

 ザッドハークの言葉を切り、私はギョロリと目を見開きながら言葉を発した。

 

「さっきぃぃぃそう言ったぁぁぁ私にぃぃぃあんたは何てぇぇぇ言ったぁぁぁぁ??」


「それ……は……ま、待て…待ってくれ……カオリ……カオリ………カオリィィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「という訳よ」

「いや、ますます意味分からないから」

 

 私の説明に、ゴルデは心底理解できないといった顔をしてきた。

 

 まあ、当事者の私ですら、あの瞬間、自分に何が起きたのかは理解できなかったのだから、第三者に理解できないのも無理はない。

 

 が、よくよく考え、自分の身体が急に回復した要因を思いだしたのだ。

 

 それは………。

 

「要は、スキルに助けられたのよ」

「スキルに?」

 

 怪訝な顔をするゴルデに、私は頷きながら、そのスキルについて教えた。

 

 そのスキルとは………。

 

 

 

 【ハチミツ大好き!】

 ハチミツがあれば何でもできるスキル。

 ハチミツを舐めるだけで、ステータス全アップ!更に、どんなケガや病をも完全に治癒し、瀕死状態でも一瞬にして回復することができる。

 

 

 これだ。

 

 あの時、ジジイの頬に蜜。あれを舐めたことで、このスキルが発動したようだ。

 おかげで筋肉痛が治り、身体を動かせるようになったのだ。マジでハチミツ万歳だ。

 

 しかし、あれは正確にはハチミツではなくマンドラゴラの蜜だったけど、発動していいのかな?という思いもある。

 

 まっ。私的には助かってよかったけど。

 この辺のスキルの発動条件のユルさ?的なものは理解できないな。蜜は蜜ってかな?知らんが。

 

「と言い訳で、このスキルのおかげで筋肉痛が回復した訳」

「あんた………また、よくもそんな凄いスキルを忘れてたものね………」

 

 ゴルデが疲れたような顔で「これまでの苦労は一体……」などと呟きながら項垂れた。

 

 ゴメンね。だって、急にスキルが増えすぎたから私も頭が整理できてなかったんだもん。てへっ!

 

「でも、このスキルって本当に凄いわ。蜜を一舐めしただけで回復した上に、力が身体の奥から溢れてくるんだもの」

 

 腕をグルグルと回して身体の調子を確認するが、先程までの筋肉痛が嘘のように消えてる。

 それどころか、力が湧いて湧いて今なら24時間戦える気さえするわ。

 

「私も初めて聞くスキルだけど確かに足音凄いわね。でも、副作用とかは大丈夫なの?そういう強力なスキルにリスクは付きものよ?」

「いや、別にこれといって何も…………」

 

 と言いつつ、不意に視界の隅にいる村長が目に入った。

 

 全身蜜まみれで倒れ伏す村長が…………。

 

「……………ところでゴルデ。ちょっと村長舐め回してきていい?」

「あんた何言ってんの?!」

 

 ゴルデが心底理解できないものでも見るような目を私に向けてきた。

 

 

※ハチミツ大好き!副作用。

 

 ただし、一回舐める度にハチミツ依存度が上がり、最終的にはハチミツなしでは生きれない重度のハチミツ依存症の廃人となる。

 


 

「はあ……はあ……いや、ちょっと舐めるだけだから?ちょっと……先っぽだけ………」

「いや、あんたどうしたの?!目がマジでヤバいから?!昔、場末の酒場で見た薬物中毒者みたいな目をしてるから?!」

 

 どうしても蜜を舐めたい衝動を抑えられず、村長に寄っていく私を止めようとするゴルデ。

 だが、そんなゴルデの制止を無視し、私は少しずつ村長へと迫っていった。

 

「へへ………蜜………蜜……………」

「説明がなくとも分かった!!これ絶対副作用よね?!スキルの副作用に違いないわよね!!」

「うへへ…………蜜………『ガツン』って、んっ?なんだ?」

 

 蜜に夢中になる私を背後から抑えようとするゴルデを引きずりながら歩いていると、不意に何かがぶつかった。

 

 瓦礫か何かか?と思って目線を下げれば、それは靴を履いた人間の足であった。

 

「へっ?」

 

 驚き、硬直しながらも、視線を横にずらせば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには白いローブに身を包んだ美女が仰向けに倒れていた……………。


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