7話 1人目『忠義の剣』
Q1・どんな戦闘スタイルですか?
「俺は剣を使った近接戦だな。一応は剣がなくなった時の為に格闘術も使えるぜ!」
「遠距離からの……魔法。水と火……あとは風の属性魔法が得意。近接戦は……ちょっと無理」
「基本は補助や回復魔法を得てとしていますが、護身術としてメイスや槍を使った戦いも心得ています」
「アタシは弓が得意ニャ!遠距離からの攻撃ニャ!だけど、ナイフを使った近距離も多少はイケるニャ!」
「鏖殺よ」
Q2・戦闘以外の特技は何ですか?
「剣もそうだが……泳ぎも得意だな!もとは川沿いの田舎出身だから、毎日泳いでたぜ」
「速読…………」
「戦闘以外ですと………料理が得意ですね。教会では自炊が基本ですから」
「狩りだニャー!獲物を狩って捌くのが得意ニャー!」
「焼き討ちよ」
Q3・趣味は何ですか?
「食い歩きかな?この国の旨い店なら色々と知ってるぜ!」
「………静かに……読書」
「似合わないでしょうが………花を育てるのが………」
「寝るのが好きニャー!お気に入りの場所で、日向ぼっこして寝るのが一番ニャー!」
「首狩りよ」
Q4・森で道に迷っているおばあさんがいたらどうしますか?
「もちろん道を教えるぜ!」
「一緒に……目的地の近くまで行く」
「目的地まで案内しますね」
「護衛を兼ねて、送っていくニャ!」
「速やかに老婆を拘束すべき也」
Q5・捨てられている子犬を見つけました。どうしますか?
「騎士団では飼えないからな。飼い主を探してやるぜ!」
「私も……犬は……苦手だから……飼ってくれそうな人を……探す……」
「フム……犬によっては教会で飼えそうですが、基本は私も飼い主を探しますね」
「ニャー!アタシだったら飼うニャー!冒険のお供にピッタリニャー!ただ、根なし草だから苦労をかけそうニャー」
「己の力のみで生きれぬ者に価値なし。されど、険しき崖より突き落とし、這い上がってくる気概あらば我が手元に置く一考の余地はあり」
Q6・最後に、自由にアピールをして下さい。
「俺は剣となり盾となり勇者様を守る覚悟がある!たとえこの身を犠牲にしようとも、貴女のために戦うぜ!」
「私……自分の魔法を……みんなの為に……役立てたい……。貧しい生活の中で……私を魔術学院に行かせてくれた……両親や兄妹……村の皆を……魔王から守りたい……」
「神の導きに従い、微力ながら貴女をあらゆる厄災から守り、支えましょう。この身が朽ちぬ限りは、勇者を支える大樹の根となる覚悟です」
「一緒に冒険するニャー!そんで魔王をぶっ倒して世界を平和にするニャー!そんで、美味しいものを一杯食べるニャー!」
「我が手を取れ、勇者よ。さすれば魔王を倒せしあかつきには、世界の半分を汝にくれてやろう。汝が命運の星は我が手中にあり。さぁ……腕を出せぃぃぃ!!」
「どうでしょうか?質問をしてみた結果は?」
「やっぱザッドハーク、邪悪に類する何かですよね?」
質問を終えて確信する。絶対にあの骸骨騎士は邪悪な何かだ。
見た目で判断しちゃいけないと思ったけどそんなことはない。もう見た目通りだわ。見た目通り邪悪だわ。
寧ろ、奴が魔王だわ。
鏖殺?
焼き討ち?
首狩り?
信長か?第六天魔王か?
もう完全に悪人でしょ?悪や闇に属する不穏な存在でしょう?
それに質問の4番と5番に対しての回答は何?5番は獅子か?獅子の子供か?這い上がってきた強き子供を育てる的なやつか?子犬に何を求めてんだよ?4番に関しては意味が分からん?何で拘束する?おばあさん何をした?森歩ってただけだろう。おばあさんに罪ないよ。
最後のアピールに関しては宣言してるじゃん?『世界の半分をくれてやろう』って。
もう半分、支配する気満々じゃないの?完全に某魔王と同じ台詞吐いてるじゃないの?
魔女っ子のアピール見習え。
なんでこんな見た目も中身も魔王魔王しい奴が勇士候補に紛れてんの?おかしいでしょうが?
「おや?やはりザッドハーク殿が気になりますか?確かに、魔王を彷彿させる力はありそうですからね。ハハハハ」
ハハハハ……じゃないよ?!彷彿とかじゃなくてそのものじゃん?! もう魔王じゃん?!それよか何で私がザッドハークを狙ってるみたいな感じになってるの?しないよ?仲間にしないよ?なんでこんな魔王っぽいの引き連れなきゃならんのよ?!
「おや?何やら不満な様子ですが……どうかなさいましたか?」
おっと。不満と言うか何と言うか。ザッドハークに対する警戒心みたいなのが顔に出てしまっていたようだ。
だが、それも仕方ないでしょう。こんな怪しさの塊を前にしたら。
しかし王子様よ。あなたはあの質問の返答に関し、思うところはないのだろうか?明らかに不穏なワードを口にしていたのだと思うんだけど?
特に老婆の拘束と世界の半分とか。
「いえ……その……ザッドハークさんの回答に不審というか、不穏なものがあったので………」
「不穏?そのようなものがありましたか?」
おい!気づいてないんかい!?大丈夫かよ王子様?!なんか王様の遺伝子が蘇ってきてないかい?
「あの………おばあさんが森で迷っていたら……に対して、『老婆を拘束する』など……如何にも不穏では?」
直でそう言うと、王子様は腕を組んで思案顔となる。
「言われてみればそうかもしれませんね……。いきなりお年寄りを拘束するというのは些か荒事過ぎますね……」
おぉ?!同意してくれたよ!言われなきゃ気付かないというのはどうかと思うけど、一応はそれなりの良識は持ってくれていたよ!
「ということなのですがザッドハーク殿。どういった意図でご老人を拘束するのですか?」
王子様がにそう聞くと、ザッドハークは『やれやれそんな事も分からんのか?』と小馬鹿にしたような雰囲気で首を振ってきた。
腹立つコイツ。
「知れたこと。老いさらばえ、足腰効かぬ死人同然の老婆が獣巣食う森の中に1人でいるなど余りに不自然。そのような老婆は人を騙して食らう悪鬼か魔物の変装に違いあるまい」
「なるほど……一理ありますね。どうですかカオリ様?」
「えっと………」
う……うわぁお……。い、一応それなりに考えていた訳ね。た、確かに森でお婆さんが1人でいるのは不自然だったか……。しかも、異世界の森の事情は良くは知らないけど、獣や魔物がいるならより一層不自然だったかもな……。
言動があれなだけで、意外と良識があるのか………な?
「す……すげぇぜ………ザッドハーク様。そこまで考えていたなんて……。俺なんてお婆さんを助けることしか考えていなかったよ………」
「わ、私………も…………」
「恥ずかしながら…………」
「そこまで深く考えてなかったニャ」
ザッドハークの意見を聞いて、次々と候補の皆が感心したり反省を示したりしている。
皆が、言われてから気付き、思うところがあったらしい。
しかし、そんな面々をザッドハークは一瞥すると、吐き捨てるように言った。
「それが魔物の変装だったならば、貴様らは既に腹の中よ」
「「「「うっ…………」」」」
うわ……厳しいな。
なんの遠慮もせずに言っちゃってるよ……。
シュナイゼル君は悔しそうに歯噛みしてるし、魔女っ子は泣きそうだし、神官は神に祈り、猫耳娘は耳ペタん………ちょ、ちょっと流石に言い過ぎじゃないかな……?耳ペタんは目の保養だけど。
いや、まぁ……よくよく考えれば皆の言ってることは浅はかだったかもしれないよ?それ言ったら私が一番浅はかだしね……。浅すぎて座礁するぐらいにね。
でも、そこまで言わなくても……まさか、何気なく質問したことで、こんなに空気が重くなるとは思いもしなかったよ。責任感じ……。
「然れど、騎士としての行動であらば、そなたの行いは正に騎士道に違わないこと。故に、そなたを咎めることもできぬわ」
「ザ、ザッドハーク様……」
「魔の使い手の娘も、幼き者故の純真溢れる判断。それを無下や無策と卑下する口を我は持たぬ。それに加え、経験少なきこと故に仕方なし……としか言えぬ。今後、学んでゆけば良い」
「ザッドハーク……さん……」
「神官については分からぬ。もっと飯を喰えということしか分からぬ」
「ザッドハーク様……」
「獣の血を引きし末裔は、利益と信頼を糧とせし冒険者の判断とすれば悪くなし。然れど、もう僅か他者を疑えし目を養えば尚良し」
「ザ、ザッドハークしゃま……」
ツンデレか!?下げてから上げるってツンデレか!?この骸骨、ツンデレの技を使いおる!?敢えて意気消沈させてからの誉め殺しと適切な改善策だとぉ??こ、こやつ……やりおる。
いや、神官さんについては違うと思うよ。何だよ飯喰えって?雑だな?
しかし、見ろ!効果は抜群だ!!シュナイゼル君達が羨望の眼差しをしてるよ!!跪きそうな勢いだよ!!
いや、神官さん?あなたは羨望の眼差しを送んなくていいと思うよ?飯喰えって食堂のおばちゃんでも出来るアドバイスだから?
だから、皆してそんなキラキラした目で……。
「くっ……ザッドハーク様。貴方を見ていると如何に自分が自惚れていたのかが分かりました……」
……んっ?あれ?な、なんか流れがおかしくないですか?シュナイゼル君?おーい?シュナイゼル?
「私……も。どれだけ……甘い……考えでいたのか……理解できた……」
あれ?魔女っ子?魔女っ子よ?どうしたんだい?顔を上げなよ?上げてくれ。
「私もです。ザッドハーク様に諭されるまで己の至らなさにさえ気付かなかった……」
至らないって、飯喰ってなかったってことか?いや、そこ反省しなくともいいよ?君は君のままでいてくれていいんだよ?
「ニャー……周りに期待の新人なんて持て囃されて浮かれてしまってたニャー。アタシには、もっとやっておくべきことがあるニャ……」
いや待て猫耳娘。もっとやっておくべきは私との旅で経験して学べばいいんじゃないかい?そんな諦め顔をしないで…………。
「俺はまだここにいるべき人間ではありません!こんな未熟者が勇士になろうなどおこがましい事でした!また一から出直し、きっと貴方のような騎士になります!!王太子に勇者様!せっかくの機会でしたが私は辞退致します!!御前失礼致します!!」
「私も……まだまだだと……実感した。お師さんのところで……一からやり直す……」
「私もこんな情けない力で支えようだなんて自惚れていました。今一度、本山に赴いてから自身と食生活を見直します」
「アタシもだニャ。もう一回、下のランクからやり直す気持ちで仕切り直すニャー。こんな力と頭じゃ、とても勇士なんて名乗れないニャ……」
「えっ?あの?ちょ…………?」
そう言うと、シュナイゼル君達は唖然とする私達に一礼をし、足早に玉座の間を出て行ってしまった。
ノォォォォォ!?こ、候補が!?勇士の候補達がザッドハークを残して辞退しちまったぁぁ!?
な、なんて事だ?!よりによってザッドハークに諭されたような形で勝手に出ていっちまったぁぁ?!なんてことしてんだザッドハーク!!貴様が勇士になっちまうじゃねぇかザッドハーク!!
み、皆戻ってこぉぉい!!そんな程度で諭されてんじゃないよ!!特に神官!!『食生活を見直す』って何だ!?意味が分からん!諭すとかそんな話じゃないよね?!神の教えを広める神官が、そんな簡単に諭されてんじゃないよ!
いくら多少の良識あろうと、骸骨騎士と旅なんて嫌だよぉぉ!!
カムバッーク!シュナイゼル!!アリス!ククル!
心の中で必死に彼等を呼び止める声を上げたのだが、私の悲痛な叫びは届くことなく、彼等は新たなる目標を胸に玉座の間を後にしていった……。
ザッドハークを残して。
「こ、候補の者達が……皆辞退してしまいましたね……1人を残して」
と、苦笑する王子様。
「フム………己が未熟を理解し、皆が出ていったか。と……なれば必然的に我が勇者に付き従う勇士ということになるな……」
はシュナイゼル達が去って行った扉の方を見ながら、そう溢してくるザッドハーク。
そして…………。
「では……そういう事だ。これからよろしく頼むぞ?勇者殿よ………」
ザッドハークは眼窩の青白い炎を凛々と燃やしながら、私の手を握って握手をしてきた。
「い、いや………私は………」
既に勇士としての確信を得て握手してくるザッドハーク。しかし、私的には彼?を仲間として迎えるには抵抗があるのだが…………。
い、今からでもやり直しを……。
と、思っていたら、突然にザッドハークの手の甲が淡く光出した。
「えっ……な、何?」
「こ、これは……?」
「ムゥ……」
いきなりの事態に私は戸惑い、王子様は驚き、ザッドハークは不快そうな顔をしながらそれぞれにその光を見ていた。
やがて光が収まると、ザッドハークの手の甲には白い剣のような紋様が浮き出ていた。
「えっ……?な、なんですかこれ?」
突然に浮き出た謎の紋様に尚も戸惑う私であるが、王子様は歓喜に満ちた目でその紋様を見ていた。
「こ、これは……聖印です!」
「へっ?セイイン?」
セイイン?な、なんだっけかそれ?なんか知りたいような、知りたくないような………。
「聖印とは、女神様から送られる正式な勇士として認められた証である紋章です!それぞれに、剣・書・杖・槍・盾・十徳ナイフを模した聖印が現れると言われていますが……これは『忠義』を表す剣の紋章ですね!ザッドハーク殿は、女神様から正式に忠義の勇士として認めらたのです!」
「えっ……?あの……それって?」
「いやぁ……まさか、この目で聖印が浮かぶ瞬間を見られるとは………貴重な瞬間に出会えて大変に光栄ですよ」
戸惑う私を他所に、興奮気味に語る王子様。
いや、あのちょっと?私は認めてないんですが?えっ?勇士って私が決めるんじゃなかったの?私の意思無視ですか?あの王子様?
「王子様………あの…………」
ガシッ!
いまだに興奮してる王子様に抗議を申し立てようとすると、何者かに肩をガシッと掴まれた。
ビクッと驚きながらも、ソッーと後ろを振り向き、肩を掴んできた者を確認すると……。
「決まりであるな」
満面の笑み?のザッドハークがそこにはいた。
やり直し……やり直しを要求するうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
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