74話 襲いくる災害達
遂に溜めていたものが尽きました。
明日からは、暫く更新が遅くなると思います。
大変申し訳ありません。
『……………?!』
突如、ハンナがビクリと肩を震わせた。
「?………どうしたの、ハンナ?何かあった?」
『全滅です…………』
「……………はっ?」
『アンデッド部隊が全滅です。しかも一瞬で全て同時にやられました………』
深刻そうに語るハンナの言葉の意味が、最初よく分からなかった。
少し遅れて理解が追い付くと、驚きと困惑が同時に溢れてきた。
「は、はあ~~~~??ぜ、全滅?全部やられたってこと?」
コクリと頷くハンナ。
その表情はハンナ自身も信じられないといった様子であり、若干慌てたようでもあった。
「だ、だって、残りってジャンクさんだけだよね?ジャンクさんが全部倒したってこと?!」
スケルトン、デュラハン、ザッドハークは既に倒しており、残るはジャンクさん唯一人のはずだった。
だが、そのジャンクさんはハッキリ言って私達の中で一番弱い。経験値は高いが、戦力としては弱い部類だ。
単体のハーピーゾンビには負けないだろうが、オーガゾンビには敵わないはず。
そのオーガどころか、全ての魔物のゾンビが全滅したと?
あまりにも信じられないことだ。
『アンデッド達には手加減をし、痛めつける程度にと指示を出していました。ですが、だからと言って遅れをとるとは………。しかも、損傷がかなり激しいのか、再生にも時間が………』
「むぐ……………」
再生に時間がかかる程の損傷とは………。
ますます信じられない。
一体どういうことだと考えるも、答えなどでる筈もない。
周りで話を聞いていたゴルデ達も、何やら不穏なものを感じて押し黙っている。
浴室にはルミアちゃんのはしゃぐ声だけが響く。
「………状況は分からないけど、取り敢えず外に出ましょうか。もう、身体も洗い終わったし、充分に温まったわ」
静寂を破り、ゴルデがそう提案をしてきた。
確かにゆっくりと温泉には浸かれたし、これ以上ここにいる必要はないだろう。
それに、実際に外に出て状況を確認すべきだ。
「そうしよう。着替えてここから出たほうがいいわね」
そう決断を下すと、皆もコクリと頷く。
ゴルデの肩を借りて湯から上がると、早速脱衣場へと向かった。
が…………。
「?!まってー!何かいるー!!」
先に脱衣場へと向かっていたシルビが、中に入った瞬間に叫んだ。
「えっ?な、何、どうしたの?!」
ゴルデの肩を借りてゆっくりと歩きながら脱衣場に入り、警戒態勢をとるシルビの背後から中の様子を窺う。
脱衣場の真ん中。
そこには何かが立っていた。
何をするわけでなく、此方を向きながら悠然と佇んでいる。
その立っていたものを見て、私は目を丸くした。
「えっ?ス、スケルトン?」
そこに立っていたのはスケルトンだった。
だが、ただのスケルトンではなかった。
まず、骨が赤い。
骨全部が血のように赤黒くなっている。
目の部分の眼窩からは涙のように血が流れ、止めどなく血涙を流していた。
頭の部分だけには真っ白な逆三角形の模様があり、端から見ればまるで純白のパンツを頭から被っているかのように見える。
うん?パンツ?
な、なんだか嫌な予感がする…………。
妙な胸騒ぎを感じつつ、ジッと目の前のスケルトンを見据えながら呟いた。
「『鑑定』」
【鑑定結果】
名前:スケルトン134号
種族:スケルトンロード【特殊個体】
称号:『パンツロード』
職業:パンツハンター
加護:勇者の加護
状態:怨念
Lv:60
HP:550/550
MP:300/300
筋力:C-
知恵:E
旋律:S
魔力:A
幸運:E
種族スキル
【状態異常耐性:A】
【毒無効:--】
【骨再生:A】
【王の指揮:B】
特殊スキル
【勇者の加護:E】
なんか凄い加護。
【下着への執着:EX】
狙った下着はどんなに離れていても関知できる。
【下着ドロ:--】(通常スキルを統合化)
下着の盗難に関してのみ、あらゆる身体能力が5倍となる。
【脱服の波動:--】
特殊な波動を周囲10メートル以内に発生させる。波動に触れた範囲内の、パンツ以外の女性用衣類を全て焼きつくす。(人体に影響なし)
【パンツ補食:--】
パンツを喰えば喰う程に強くなる。
【パンツ装備化:--】
パンツを装備化できる。高純度のパンツであればあるほど、より強力な装備となる。
【剥ぎのツキ:--】
下着の入手獲得率が大幅アップ。
【捕捉説明】
通常のスケルトンが何らかの要因により、尋常ならざる強大な怨念を宿して進化した上位アンデッド。格下のスケルトンを自在に操る力を持ち、強化することも可能。
また、この個体は下着に対する並々ならぬ執着と欲望を持っており、通常のスケルトンロードを遥かに凌ぐ力を持った特殊個体となっている。その危険度は災害級と目される。
『パンツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』
「最悪なタイミングで最悪な進化をしやがったぁぁぁぁぁぁ?!?!」
監視に出し、爆弾変わりに出してたスケルトン134号が最悪な進化しやがったぁぁ?!
しかも、この様子を見る限り、多分念のために仕掛けておいたメル婆のパンツトラップが影響してやがる?!
ハンナのとこに仕掛けてたけど、多分引っ掛かりやがったな?!引っ掛かって騙されて、怨念をより溜め込んで進化したって寸法か?
これ、もしかしなくても私のせいか?!
私を含めた全員が唖然とスケルトンを見ていると、スケルトンがおもむろに両手を広げた。
そして……………。
『パンツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』
スケルトンが雄叫びを上げると共に、全身から赤黒い波動が周囲へと発せられた。
「な、なにー!?これー!?」
シルビが慌てたように防御をとる。
ゴルデも私を庇うように防御をとった。
が、派手な演出で発せられた割に、軽いビリっとした静電気のような衝撃しか訪れなかった。
特に何のダメージも受けなかったことに、皆が安堵の息を吐く。
な、なんだ?なんともないけど、こけおどしか?それなら…………。
って、まさか?!
嫌な予感がし、バッと私達の衣服を入れた篭を見れば、篭の中の衣服が激しく燃え上がっていた。
「ふ、ふくぅぅぅぅぅぅ?!」
やりやがったぁぁぁぁぁ?!
スキルにあった脱服の波動の波動ってやつか?!
あの野郎、早速使いやがったぁぁぁ?!
私達が驚いている間に、篭の中の衣類は瞬くに燃え散り、後には綺麗にパンツしか残っていなかった。
スケルトンは一つの篭に目をやり、その中に残された縞模様のパンツに手を伸ばしハシッと掴んだ。
「な?!私のパンツー!?とらせないよー!アイシクルバレット!!」
衣類が燃えたことに皆が唖然としていたが、自分のパンツを手に取られたことで、シルビがいち早く我に返る。
そして、掌をスケルトンに翳し、そこから氷の礫を放った。
放たれた氷の礫は真っ直ぐに、かつ高速でスケルトンの頭部に向かい、その頭蓋を粉々に砕く。
そう思われたが……………。
ガキィィィィィィィン!!
硬質な音が室内に響く。
同時に、シルビの放った氷の礫が砕けて辺りに飛び散った。
「なっ……………?!」
瞠目するシルビ。
私も何が起きたのか分からなかった。
ただ、スケルトンが素早く何かを振ったと思えば、氷の礫が粉々に砕けていたのだ。
一体なにが?!
スケルトンの手を見る。
そこには美しい輝きを放つ、青と白の縞模様の刃の剣が握られていた。
どうやらあの剣で迫る氷の礫を一閃し、砕いたようだ。
いつの間に、あんな剣を手に?
んっ?縞模様の剣?
まさか……………。
「『鑑定』」
【鑑定結果】
【シルビパンツソード】
効果:氷魔法
説明:シルビのパンツが剣になったもの。
シルビに愛用され、その魔力を溜め込んだことにより、本人と同じ氷魔法を宿した。
「装備化しやがったぁぁぁぁ?!」
あの野郎!早速とばかりに手にしたシルビのパンツを装備にしやがった?!
しかも、無駄に高性能な?!
何なのよ、あいつ?!
「シルビ!あいつの持ってる剣、あれあんたのパンツよ!?あいつ、下着を武器化するスキルを持ってやがる!!」
「ハッ?…………ハアァァァァァ?!」
私の叫びにシルビは一瞬キョトンとした後、その顔を羞恥に染めて叫んだ。
それはそうだろ。
自分の下着を武器化して振り回されたら、誰だって恥ずかしいに決まってるいる。
「こ、このー!?ふざけ…………」
シルビが鬼の形相となってスケルトンに魔法を放とうとしたが、もう遅かった。
スケルトンは篭に残ってたパンツを素早く掴むと、颯爽と駆けて逃げ出したのだ。
その素早さたるや、まさに風の如しだ。
「に、逃げたー!?わ、私のパンツー!?」
「ちょ?!あ、あいつ私のパンツまで?!」
「私のパンツも盗まれています!!」
「わ、私のパンツもですぅ…………」
『一瞬ですが、私のパンツを大事そうに肋骨の中にしまい込んでいました………』
「あの野郎?!私のパンツだけ残していきやがった?!」
皆が等しくパンツを盗まれている中、私のパンツだけがポツンと残されていた。
これはこれでメチャクチャ腹立つ!?
だが、そんな腹を立ててる悠長な暇はない。
服が無い!!
私達全員の服が焼かれ、無くなっているのだ!?
いや、どうすんだよこれ?!
せいぜい身体を拭くタオル………しかも、ハンドタオルサイズのしかないよ?!
皆も服がなくなった事に慌てふためいている。
唯一、ルミアちゃんだけはキャキャと未だ浴場で騒いでいるが、幼児だから危機感がなくとも仕方あるまい。
し、しかし本当にどうしよう………。
こ、こんな………服がないなんて…………。
『そ、、そうだ!カオリ!収納………収納空間に予備の服は無いのですか?!』
ハンナが思いついたとばかり聞いてくるが、私は首を左右に振った。
「さっき洗濯をしてくれるって言うから、まとめて全部預けてきた…………」
『バッドタイミィィィィィング!?』
ハンナが天を仰ぎ、絶望に満ちた声で叫んだ。
いや、だって、今回は移動ばかりで洗濯が全然できなかったから、やってくれるっていうなら出すでしょ?
「ちょっとカオリ!あんただけパンツあるんだから、それ履いて胸にタオルでも巻いて、村長宅に服を借りにちょっとダッシュしてきてよ!」
「んな痴女みたいな真似できるかぁぁ?!だいたい筋肉痛でまともに動けんわ!!それならゴルデが裸でダッシュしてきてよ!見た目痴女っぽいし!」
「できるかぁぁぁぁ?!裸でダッシュなんて恥知らずな真似できるかぁぁ?!てか、あのスケルトンはあなたの配下でしょ?だったら責任とって、あなたが服を借りに行くべきでしょ?!」
「糞が!痛いとこ突きやがって!!私だって何とかしたいけど、まともに動けないんだって!?」
「じゃあ、どうするのよ?!」
解決方法が見つからず、ギャーギャーと皆でどうすかと騒いでいると、不意に何やら地面が僅かに揺れていることに気付いた。
「……ねえ、待って。なんか地面が揺れてない?」
そう聞くと、皆が騒ぐのを止めて地面へと目を視線を向けた。
『そう言われれば、なんだか地面が微妙に揺れているような?』
「地震………のような揺れじゃないわね?なんだか地響きのような?」
「というかー………足音?みたいな感じー?」
シルビが何気なく発したであろう言葉に、皆がピタリと止まる。
そう言われると、なんだかズシンズシンと規則的な揺れに感じる。まさにシルビが言ったような、大きな足音のような感じに…………。
だが…………だとしてだ。
もし、これが足音だとして、一体何の足音?
皆も同じことを考えているのか、揃って青い顔をしている。
尚も足音らしきものは響き、気のせいか段々と近付いてきている気さえする。
服も無く、謎の足音が迫るという状況に皆が困惑して立ち尽くしていると、脱衣場の入口からドタドタと慌ただしい音が聞こえた。
そして……………。
「嬢ちゃぁぁぁぁぁぁん!?助け…………」
「「「「『死ねぇぇぇぇぇ!!!』」」」」
「ガボハゴハァバアァァァァ!?!?」
脱衣場に侵入してきた不埒者………ジャンクさんに向けて、皆が手当たり次第に近場の物を投げつけた。
「この腐れロリコンがぁぁ!?とうとう来やがったなぁぁぁぁ!?!?死ねぇぇぇぇぇ!!」
「いや、ちょ?!まカボ!?」
『私達の裸体を覗いた罪、その命を持って償えぇぇぇぇぇぇ!!!!』
「ま、待って?!お願いまっボゴッ?!」
「死ねぇぇぇぇぇ!!女の敵がぁぁ!!」
「たの………頼む………まバキャル?!」
「アイシクルバレットォォォォォォ!!」
「イギャアアアアアア?!?!」
「念のためにピッケルを持ってきてよかったぁ!」
「ギャバ?!アゴバァ?!」
「し、し、し、死ねぇぇ!!」
「ブホッ?!」
「ちねぇ!」
「はい、喜んでぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ルミアちゃんが笑いながら投げたタオルを丸めたものに当たると、ジャンクさんが喜びの声を上げた。
ハッ?!しまった!!物を投げるのに夢中になりすぎて、ルミアちゃんが脱衣場に出てきてしまっていた!?
「総員!ルミアちゃん防御陣!!」
私の指示に皆が反応し、自身の胸などを隠しながら素早くルミアちゃんを取り囲んだ。
「よし!囲んだわね!後はジャンクさんに止めを刺すわよ!!」
皆が手に手に洗面器やらブラシやらを持って構えた。
ジャンクさんといえば、既に先の攻撃で大分ダメージを受けていたようで、四つん這いになり、這う這うの状態となっていた。
「ま、待ってぐれ………は、話を………聞いてくれ………頼む…………」
「遺言なら聞きますが?」
「ち、違う………き、緊急事態だ………じょ、嬢ちゃん達にしか対処できねぇ、緊急事態が発生した。頼む……助けてくれ…………」
頭を下げ、必死な様子で懇願してくるジャンクさん。
そのあまりにも真剣な様子に、私達は顔を見合わせた。
「どうする?」
『まあ、話ぐらいは聞いてもいいのでは?』
「顔を上げさずに、このままなら………まあ」
話し合いの結果、取り敢えずはジャンクさんの話を聞くことにした。
顔を上げてはいないが、ジャンクさんから安堵のため息が漏れている。
私達は手にした桶やブラシを下げ……………。
「人間!!救援はドウなって……………」
「「「「『死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!』」」」
再び手にした桶やブラシを、突如として侵入してきた大柄な緑肌のデブとジャンクさん目掛けて全員で全力投擲する。
「グバッ!?な、なんだグベガッ?!?!」
「テ、テメェェ!?俺がバァ?!せっかグァァ?!場をおさめデアアア?!何してくれてんダァァァァァァアベシッ?!」
「いや、知らなベシッ?!どうにか死ぬゥゥ?!やめて?!痛い?!イタイ!?ヤメデェェ?!」
頭を抱え込んで踞るデブとジャンクさん。
だが、手を休めることなく近場にある物を投球し続ける。
だが、流石に投げ過ぎたのか、周りに手頃なものがなくなってきたな…………。
「アイスボール×100!!皆さんー!これを投げてー!!」
空気を読んだシルビが、急かさず大量の氷の玉を出現させた。
「「「「『ナイス!シルビ!!』」」」」
皆でシルビにグッと親指を立てて…………。
「「「「『死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!』」」」」
再び全力投球した。
「「も"う"や"め"でぐ れ"ぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
嗚咽混じりに許しを乞うジャンクさんと謎のデブ。
だが、手を緩めることなく投げ続け…………。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
凄まじい轟音が響いた。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
だが、直ぐにその轟音の正体が分かった。
というか…………目の前でそれが起きていたから、分からない方がおかしい。
というのも……………。
浴場の屋根が全て吹き飛んでいたのだ。
「……………はっ?」
唖然と見上げれば、夜空に輝く星と二つの月が綺麗に見えた。
えっ?いや、何が起きたの?
あれ?てか、屋根?えっ?
まったく訳が分からず、目をパチクリとさせながら見上げていると、直ぐ近くで何か巨大なものが蠢いた。
そして……………。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
大音量の吠え声と共に、無くなった浴場の天井部分から、何かが私達を覗き込んできた。
それは、何とも形容しがたいものだった。
巨大な頭に巨大な口。
黄色くまん丸で小さな目が四つ。
肌の色は異常に明るい緑色で、その巨大な頭の左右からは、これまた巨大で異様に長く太い腕が生えていた。巨大な顔の割には異様に身体は小さく、筋肉質で象のような足が四本生えている。
これまで結構な魔物や異様な植物などを見てきたが、これはダントツに異様で気持ち悪い魔物だった。
「ちょ?!こ、これ、何よ?!か、『鑑定』!」
【鑑定結果】
名前:グラトニーゴブリン
種族:ゴブリン【特殊個体】
称号:突然変異種
職業:なし
加護:なし
状態:飢餓・狂化
Lv:75
HP:850/850
MP:0/0
筋力:A+
知恵:E-
旋律:D
魔力:E-
幸運:E
特殊スキル
【暴飲暴食:--】
何でもかんでも喰らい、即座に消化する。
【大剛力:--】
瞬間的に、腕力を10倍にする。
大量のカロリーを消費。
通常スキル
【猪突猛進:B】
【噛み砕き:A】
【溶解液:B】
【狂化:B】
【超嗅覚:A】
【捕捉説明】
ゴブリンの突然変異種。最早、ゴブリンという枠から逸脱しており、既に別種とも言える。
自我や理性が無く、ただただ目の前のものを何でも食らう悪食な魔物。胃袋が無く、口に入れた瞬間に消化してしまうため、常に飢えている。
異常なまでの腕力を持ち、大抵のものを破壊することが可能。その危険度は災害級と目される。
「なんかヤベェのきたァァァァァァ?!」
見た目・スキル・状態。そのどれもがヤバ過ぎる危ない奴だった。
いや、なんだよ、コイツ?!この見た目でゴブリンなの?!肌が緑っぽい以外にゴブリンらしい要素ないよ?!?!
しかも災害級って………なんでこんな危ないのが村付近に前振りなく出てきてんのよ?!
てか、この短時間で災害級が連続して出過ぎだろ?!バーゲンセールか?!
グラトニーゴブリンとかいう化け物を唖然と見上げていると、ジャンクさんと謎デブが這う這うで私達の足元へとやって来た。
「ひ、ひい?!馬鹿やってる間に、も、もう、お、追い付いてきやがった!?」
「も、モウ駄目ダぁぁ?!ワシら全員喰われて死ぬゥゥ?!だから嫌ダッタのにぃぃ?!」
ハッと我に返り、足元の二人を見る。
こ、この二人の様子。なんかこの化け物について知ってる感じなんだけど?
というか、関わっている感じの匂いがプンプンするんだけど??
てか、この謎のデブって良く見れば、ゴブリンじゃないの?!肌緑色だし!!
「ちょっとジャンクさん?!なんですか、あの化け物は?!それにそこのデブは?!顔は上げないで、簡潔明瞭に状況の説明を!?」
と、ジャンクさんに向かって説明を求める。
すると、ジャンクさんとゴブリンらしきデブは互いに指を差し合いながら叫んだ。
「コイツはゴブリンキング!覗きだ!アンデッド共を倒す為、化け物の封印を解きやがった!」
「コイツはロリコン!覗きダ!アンデッド共を倒す為!化け物の封印を解かせおった!」
簡潔明瞭に清々しい程に、互いに責任転嫁する一人と一体。
どちらが悪いかは分からない。
だが、分かったことは一つある。
それは……………。
「テメエらが原因かぁぁぁぁぁぁぁ?!?!」
ビクリと肩を跳ねさせる一人と一体。
目の前の化け物出現の原因は、間違いなくこいつらにある。
説明を聞くに、私達を覗きに来たこいつらは、番兵として配置したアンデッド達を倒す為に、どっかに封印されてたグラトニーゴブリンだかいう目の前の化け物を解き放った。
そしてアンデッド達を倒させたはいいが、今度はコイツが暴れてどうしようもなくなり、ここに逃げ込んで来たということか……………。
私以外の皆も同じ結論に至ったようで、目の前で踞る一人と一体を、ゴミでも見るかのようなさげすんだ目で見ていた。
「ジャンクさぁぁん??あんたぁぁ?覗きに来るは、化け物を誘導してくるわ………。本当に録なことしないわねぇぇ??」
ゴキゴキと指の間接を鳴らしながらジャンクさんを睨めば、分かりやすい程に狼狽えだした。
「い、いや!ま、待ってくれ!!ち、違うんだ!覗きに来たことは謝る!だ、だが違うんだ!?そうだ!全部コイツが悪いんだ!このゴブリンキングが!!コイツが封印なんて解いたから!俺はやめろって言ったのに!!」
全身を震わせ、見苦しい言い訳をしながら隣のデブ………ゴブリンキングを指差すジャンクさん。
てか、そいつゴブリンキングなのかよ?
いや、まあ、大したことなさそうだし、然したる問題ではなさそうだけど………。
すると、ゴブリンキングが信じられないものでも見るような顔でジャンクさんを見た後、必死な様子で叫びだした。
「オマッ?!ふ、ぶざけるなよ!?どっちカト言えば、止めたのはワシだろうが?!ワシは、お前が『グラトニーゴブリンを倒す当てガある』と言うカラ信じて封印を解いたダケダ!?災害級ナンテ目ジャナイ天災みたな奴らがいるカラ、そいつらに処理させようッテ………」
「ちょ?!お前馬鹿?!い、いや違うんだ嬢ちゃん!!それはコイツが……」
「シルビ」
「ブリザードボール!!」
「「ギィヤアアアアアア?!」」
醜い言い合いをする一人と一体を、まとめて巨大な氷の塊を放って吹き飛ばす。
ジャンクさん達は氷塊を抱え、遥か彼方へと飛んでいった。
クソが!誰が天災じゃ!!身体が完全回復したら覚えとけよ、あの野郎共!!
内心で舌打ちをしつつ顔を上げると、ダラダラと涎を垂らしながら、ギョロリとした目で私達を見ているグラトニーゴブリンと目が合う。
気持ち悪っ。
ただでさえ見てるだけでSAN値が下がりそうな気持ち悪さだと言うのに、私達の尊い裸体を金も払わずにタダ見しやがって…………許せねぇ。
「何が何だか分からないし、色々と釈然としないけど、やるしかないわね。よし、ハンナ!あの顔面偏差値最底辺のクソゴブ野郎に派手なのかましてやって!」
災害級だかなんだか知らないが、ハンナの魔法の敵ではなかろう。
ハンナはエルダーリッチの魔法使い。
たかだかゴブリンの変異種など、敵ではないわ!
そう考えてハンナに指示を出すも、いつまで経ってもハンナから魔法が放たれることはなかった。
妙に思ってハンナを見れば、非常に気まずそうな顔をしていた。
「……………ハンナ?」
『いや、あのう…………非常に言いにくいのですが、その……………魔力切れちゃって』
「……………はい?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
言葉が理解できなかった。
だが、ジワジワと脳が言葉の意味を理解すると、同時にダラダラと冷や汗が全身から流れだした。
「……………えっ?あの、マジ?」
『マジもマジで………。流石にあれだけの数のアンデッドを運用し、再生やら自爆やらさせていたら、魔力がすかんピンに………すみません』
申し訳なさそうに謝るハンナだが、よくよく考えれば当然かもしれない。
魔法は詳しくないが、あんだけのアンデッドを作って運用してれば、そりゃあ素人目に見ても無くなるわな。
そういや、ジャンクさんが侵入してきた時も、魔法を放たずに物を投げつけていたし、魔法はシルビだよりだったな…………。
うーん。……………どうしよう?
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
待ちくたびれたのか、グラトニーゴブリンが両手を高く掲げながら、大地が震える程の雄叫びを上げた。
コイツ理性無い割には何か結構待っててくれた気がする
いや、そんなこと考えてる場合じゃないわ。
「いやぁぁぁ?!ちょ?!これ、マジでどうするのよ?ゴルデ、どうしよう!?」
「わ、私に聞かれても?!そうだ、シルビ!!」
「さっきのーブリザードボールでー私も魔力がすかんピンにー…………」
「マジで!?いや、ど、ど、どうするのよ!?私だって筋肉痛で動けないってギャアアア?!」
アワアワと慌てる私達の前で、グラトニーゴブリンが浴場の壁を壊しながら迫ってきた。
いや、これマジヤバい?!
「と、取り敢えず、か、『解放』!!ポンゴ!!お願い、時間を稼いで!!」
『グガオオオオオ!!』
プルプルと震える腕を上げて手を翳し、困った時のポンゴ先生をグラトニーゴブリンの前へと繰り出した。
天を仰ぎ見ながら、雄叫びと共に意気揚々と出現したポンゴ。咆哮を轟かせ終えると、悠々と首を降ろして前を見据えた。
が…………。
そんなポンゴに対し、グラトニーゴブリンはその異様に筋肉が発達した腕を振り上げていた。
『ガル?あっ、これ、いつものパターンのや……』
『カルシウムゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』
『アベガァァァァァ!?』
明らかにポンゴを意識した雄叫びを上げながら、グラトニーゴブリンは易々とポンゴを殴り砕いた。
コイツ、やっぱ理性あんじゃね?
そんなことを思っている内に、グラトニーゴブリンは砕いたポンゴの破片を集めてムシャムシャと食べ始めた。
「よし!今よ!あいつが食べるのに夢中になってる間に、ここから脱出よ!!」
「えっ?ちょ?!い、いいの?!ポンゴ食べられてるけど?!あれ、放っておいていいの?!」
「いいの!もう、ポンゴはやられるのは折り込み済みだから!!あんだけ砕けた破片なら、集めて食べるのに時間かかるでしょうし、今がチャンスよ!」
「時間を稼ぐって、そういうこと?!前にあなたが言ってた盾兼身代わりって言ってた意味を嫌という程に理解したわ!?」
驚愕を露にするゴルデの肩を借り、皆で反転して浴室へと戻る。
出入り口にはグラトニーゴブリンがいるため、浴室側から何とか逃亡しようとの考えだ。
というか、逃げ道がそれしかない。
ルミアちゃんを回収し、恥は覚悟で真っ裸で逃げるしかないわ!!ちくしょうめぇぇ!!
皆が急いで逃げようとする中で、不意にピノピノさんがある提案をしてきた。
「そ、そう言えば、ゴアさんに頼めばいいのでは?ゴアさんなら、あの気持ち悪いのも倒せるんじゃないんですか?」
その提案に皆が一瞬キョトンとしたが、直ぐにピノピノさんを指差しながら叫んだ。
「「「「『それだ!!』」」」」
どうしてそれを忘れていたのか!!
私達にはゴアという頼れる姐さんがいたではないか!!
一緒に風呂に入ってたけど、一言も喋っていなかったから存在をすっかり忘れていた!!
完全に温泉を楽しむことと、ザッドハーク達を排除するのに意識がいってたわ!!
そうだ!ゴアならあんな奴一瞬だわ!!
「ゴアだ!ゴアの姐さんに助けてもらおう!それで、ゴアはどこに?!」
『まだ浴室から出てないはずです!!』
ハンナが浴場を指差す。
確かにここにいないなら、浴室にいるのが必然!
私達は急ぎ浴室に戻り、ゴアへと救援を求めることにした。
「ゴア!助け……………」
「わあ~~い!プニプニ!」
浴場に入った私達が見たもの。
それは、ルミアちゃんがお湯の中に浮かぶ、黒いクラゲのようなものをプニプニとつつく姿だった。
そして、その黒いクラゲのようなもの。
それの真ん中には見覚えのある赤い目が………。
「ゴアァァァァァァァァァァァァ!?!?」
なんかゴアがふやけてるぅぅぅ?!
ふやけて溶けて、クラゲみたいにふよふよと浮かんでるんだけどぉぉぉぉ?!?!
なんだ?何があったぁぁぁ?!
「ゴ、ゴア?!ちょ?えっ!?大丈夫なの?!」
慌ててゴアに声をかけると、虚ろに空を見上げていた目が此方を向いた。
『あっ…………カオリちゃん?ごめんね。なんかお姉さん、のぼせたみたいで……………』
「いや、のぼせたっていうレベルじゃないんだけど?!ドロッとしてんですけど?!ゲル状になってんすけど?!」
『アハハ……冗談。実は水に長時間浸かると、こんな風になって暫くまともに動けなくなるし、思考も定まらなくなるの………。水から上げて日干しにすれば一時間くらいで乾くとは思うんだけど……』
「寒天かぁぁぁぁ?!?!つか、そんな弱点があんのに、なんで風呂に入ってんのよ?!」
『いや、だって……仲間外れは寂しいじゃない?』
「寂しいからって身を削りすぎぃぃぃぃ?!」
何をやってんだコイツはぁぁぁぁ!?
この一大事になんでふけてんのよ?!
思考が定まらないって、そりゃあ入浴中に喋んないはずだわ?!
てか、そんな弱点があるなんて初耳だわ?!
『あら?そういえば………いつの間に露天風呂に移動したのかしら?星が綺麗ねぇ…………』
今更屋根が無いことに気付いたらしく、ゴアがうっとりと星空を眺めはじめた。
「露天じゃないからね?!屋根吹き飛ばされただけだから!!てか、その状態で戦える?ちょっと熱戦を放ってほしい奴がいるんだけど?!」
『熱戦を?打てないことはないけど、この状態だと照準が定まらないから、辺り一帯が焦土になっちゃうけど、それでいいなら…………』
「いいわけないね!!」
辺り一帯焦土ってなんだよ?!おっかないわ?!
グラトニーゴブリンを倒せるだろうけど、もれなく私達と村も道連れだわ?!
ここで頼りにしていたゴアが使えないことが判明してしまった。
ヤバい………どうしよう?!一気に希望が失われた!!
ハンナは魔力切れ。ザッドハークはいない。ゴアは使えない。私は筋肉痛で動けない。ついでに言えば、服も無い!!
あれ?………何気にこれって、これまでで一番のピンチじゃね??
いや、これ本当にどうし……『ガシッ』…えっ?
どうしようかと狼狽えていると、私とゴルデの二人を何か巨大なものが包んだ。
一瞬、辺りが真っ暗になり、激しい圧迫感が襲ってきた。そして次に浮遊感を感じた。
何が起きたの?
そう思うと同時に、事態を把握した。
私とゴルデの二人は、いつの間にか背後から迫ってきていたグラトニーゴブリンの巨大な手に捕まり、まとめて掴まれて持ち上げられていたのだ。
グラトニーゴブリンは私達を掴むと、その手に力をギュッと込めてきた。
「なっ?!ちょ?!痛っ?!」
「ぐあ!?ああぁ………」
ギリギリと身体全体を締め付けてくる痛みに、私とゴルデは苦悶の声を上げた。
や、やばい!?本当にヤバい!?
ま、まじで潰れる!?これヤバい!?
身体がギリギリと圧迫され、内臓が飛び出しそうだ。激しい痛みに声すら出なくなる。
一緒に握られているゴルデも、顔が真っ青となって苦悶の表情を浮かべている。
や、やばい………私も………ゴルデも………このままじゃ………し、死ぬ…………。
『カ、カオリ?!』
「ゴルデー!カオリー!」
「くそ!離しなさい!」
「カ、カオリ様!ゴルデ様!」
『カ、カオリちゃん?!ちょ?!な、なにが!?』
「お、おねえいちゃん?!う、うぇぇ………」
下からはハンナ達の慌てた声や、ルミアちゃんの涙声が聞こえてきた。
だが、その声が段々と遠くなっていく気がする。
こ、これ………本当にまずい。
い、意識が……………。
不意に私達を握るグラトニーゴブリンの手が動く。
だが、手を緩めたとかではなく、その逆。
グラトニーゴブリンがその巨大な口に私達を放り込むべく、手を口元へと移動させたのだ。
生臭い息が顔にかかり、大口を開けたグラトニーゴブリンの顔が目に入った。
ご馳走を目の前にしたような、嬉しそうな表情をするその顔と……………。
やば………これ………本当に喰われて………。
意識が朦朧とする。もう……駄目かもしれない。
そう思った瞬間、目の前に白い何かが降り立った。
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