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72話 温泉の守護者達

「よもや、デュラハン自体を爆弾にしてくるとは予想以上ぞ………」


 浴場の裏側にある山。

 その暗い山の茂みを掻き分けながら、ザッドハーク達一行が慎重な足取りで進んでいた。


 彼らはデュラハン爆弾の爆発を何とか生き延び、再び浴場を覗くべく行動を開始していた。


「まったくですじゃ。デュラハン殿が爆発した時は、死を覚悟しましたぞ」


「ああ。咄嗟にザッドハークがデュラハンを勢いよく蹴飛ばしたおかげで助かったが……直前まで熱いやり取りを交わしていた相手に、よくあんな真似できたな?」


「あやつも申していたであろう。犠牲になるのも本望………と。これもあやつが望んだこと。我は奴の意思を尊重したまでよ」


「その割に、アイツ、最後『おのれぇぇ』とか、恨みがましい断末摩だったようだが…………」


「気にするでない。それよりも、スケルトンの方は大丈夫なのであろうか?あやつにもデュラハンと同じ仕掛けがされているであろうに」


「ああ。背骨に術式が埋め込まれていたが、あのスケルトンの野郎、迷いなく摘出しやがった。男だぜ。まあ、おかげで下半身が崩れて動けなくなっていたが」


「じゃが、何かしらの目的があったのか、儂らとは別の遊撃隊として動くようじゃったな。あの這う這うの身体で何をするつもりかは分からぬが、あやつの意思を尊重しよう」


 デュラハンと同じ術式を埋め込まれていたスケルトンであったが、仕掛けられた部位をちぎることで難を逃れていた。


 が、そのせいでまともに動けなくなり、ザッドハーク一行から離脱し、別働隊として動くこととなっていた。ぶっちゃけ、足手まといを切り捨てたと言ってもよい。


 そんなザッドハーク達が何故山にいるのかと言えば、正面からの覗きを断念したからである。


 先程のデュラハン爆弾の件もあり、正面に他に何が仕掛けられているか分かったものではなかった。

 それに、爆発の音は間違いなく香達に聞こえており、内部の警戒心は上がっている。となれば、正面からの覗きはリスクが高いと判断し、裏手の山側に回ったのであった。


 それに正面ならともかく、あの短時間で山側に何か仕掛けをするなどできる筈もないとの考えもあった。


 それを証明するように、ザッドハーク達は何の問題もなく進めていた。多少、暗くて歩き難いが、大した問題ではなかった。


「カオリめ………。あのような手段に出るとは成長したものよ。だが、最後に笑うのはこの我よ。汝の裏の裏をかき、貴様らの裸を見事に見てやろうぞ」


 


 


 


 


 


 ◇◇◇◇◇◇


 

「な~んて事を言ってるはず」


 キャキャと騒ぐルミアちゃんを横目に、ザッドハークの行動と心情を予測する。


 恐らく………いや、間違いなくザッドハークは爆発ではやられていないはず。

 あの爆発を逃れ、正面からの侵入は困難だと判断し、裏手へと回ると思われる。


 あれは馬鹿だが間抜けじゃない。


 危険と分かれば、それを避けて別ルートを模索する筈である。


「まあ、そう考えると、やっぱり山側よね。そこしかないし、罠を仕掛ける暇なんてなかったしね」


 私がそんな予想をしていると、ゴルデが怪訝な表情をしてきた。


「でも、裏の山っていったら相当に茂みやらが深い山よ?そんな所を抜けてくるかしら?」


「そこはジャンクさんが活躍するわね。あれで冒険者経験が豊富だから、山道も夜道も慣れている。何の問題もなく来るでしょうね」


「あの中年が………。って、あいつの狙いってのはこの娘なのよね?」


 ゴルデが泡だらけでハシャいでいるルミアちゃんを指す。


 ルミアちゃんは年上の私達に洗われたり、遊んでもらって大変ご機嫌だ。

 今もブロズとシルビに洗ってもらってキャキャと騒いでいる。


「そうね。ジャンクさんは生粋のロリコン。あの男にとって、ルミアちゃん以外の私達は腐った果実も同然。だから、ルミアちゃんを狙うし、確実に愛らしいルミアちゃんを覗きに来るわね」


「業が深い………。それで、山の方はどうするのよ?何の対策もしてないんでしょ?」


 不安そうにするゴルデ。


 フフ……そんな不安そうな顔をしなくていいのに。


 確かに罠やらを山に仕掛けている暇はなかった。


 が、仕掛けている暇がなかっただけで、何の対策も講じていない訳ではないのだ。


「そこは大丈夫よ。ねえ、ハンナ?」


『はい。招かれざる客には、相応の出迎えをもってあたるだけですから…………』


 ハンナと見つめ合い、互いにニヤリと笑う。

 それからハシャぐルミアちゃんへと目をやった。


 このルミアちゃんの笑顔を守る為なら、私達は修羅になろう。


 ザッドハーク達よ………地獄を見るがいい!!


 


 


 


 


 


 

 ◇◇◇◇◇◇


 

「よし、バッチリ浴場の裏側に出たようだ。浴場の明かりが見えてきたぞ」


 ジャンクの先導のもとに、危険な山道を踏破したザッドハーク一行は、浴場から漏れる明かりが視認できる位置までやって来ていた。


「フム。途中、大岩やら茂みがあって大分迂回したが、何とかたどり着いたか。見事な案内であるぞ、ジャンクよ」


「まあ、一応は長年冒険者をやってからな。マタマタみたいな山は無理だが、これぐらいの浅い山ならこんなもんよ」


 鼻を掻きながら自慢気に語るジャンク。


 だが、彼が自慢気に語るだけに、ここまでの道案内は見事であった。

 まるで昔からこの山を知っているかのようにスイスイと進み、ここまで来たのだ。見事な山読みである。


 これには村長も感嘆の息を漏らした。


「いやはや、本当に見事な道案内でしたな。まるで地元の人間のようでしたな。冒険者の方というのは、ここまで山に詳しいとは………。孫の婿に欲しいくらいですな」


「ルミアちゃんのか?」


「前言撤回です。鋤で突いてよろしいかのう?」


「許す」


「グワッ?!痛っ??何すんだ爺?!尻を突くんじゃねぇよ!!」


 バサッバサッバサッ。


 ジャンクが村長に尻を突かれた拍子に木にぶつかると、木の上から鳥が羽ばたく音が闇夜に響いた。


「なんだ、鳥か?木を揺らして驚かせたか?」


「フム、そのようであるな。羽音が響いたが、これぐらいならば然したる問題もあるまい」


「はて?この付近に巣を作っている鳥はいなかったような?それに随分と数がおるような?」


 村長が上を見上げれば、姿は見えないが多数の鳥達がバサバサと羽ばたく音が聞こえてきていた。


 結構な数が上にいるようだ。


「まあ、鳥ぐらい何の問題もないだろ。それより先に進もうぜ。ルミアちゃんが上がっちまうぜ」


「孫娘の名を出されるのは釈然としませんが、その通りですな。先を急ぎ…………ムウ?」


 視線を戻した村長が先を行こうとするジャンクに続こうとした時、足に何かが引っ掛かった。


 何かと思って足元を見れば、いつの間にか蔦のようなものが足に巻き付いていた。


「?……はて、どこで蔦など巻き付けたかのう?」


「おい、爺さん。何やってんだ?早く行くぞ………って、何だ?急に霧が出てきたな?」


 立ち止まった村長に振り向いたジャンクだったが、そこで異変に気付く。


 フッと辺りを見れば、いつの間にやら霧がもうもうと立ち込めていたのだ。


「なんだ、この霧は?ここらはこんな霧が出るような場所なのかよ?」


「いえ。そのような事はありませんぞ。雨が降った後などには希に出ることもありますが、最近は雨も降っておりませんし、まして夜にこんな突然には………ムウ?この蔦、中々ほどけませぬ………」


「フム………しかして、魔法で発生させたような霧ではないようであるが…………」


「というか、この霧。妙にベタつかねぇか?肌に張り付くというか………」


「フム。言われて見れば確かに……………」


 そう言ってフッと自分の手を見たザッドハーク。


 その手には、確かに妙なベタつく感覚がある。

 しかも、何やら気のせいか、手にツヤツヤとした光沢があるように感じた。


 手を握ったり開いたりと暫し観察していたザッドハークだが、フッとあることを思い出し、不意にその動きを止めた。


「ジャンクよ。一つ聞きたいことがあるのだが」


「あん?どうした?」


「霊峰マタマタを登っている途中、結構な数の魔物に遭遇したであろう?」


「ああ、したな。まあ、暴走した嬢ちゃん達がほとんどぶっ倒していて、俺達は見ていただけで……」


「その倒した後の魔物達を如何していた?」


 ザッドハークの問いにジャンクがキョトンとする。


 一瞬、何を言われたのか理解できなかったのだ。


「魔物……か?確か、あのアベッカとかいう人形が刻んでいたような?」


「それは我も見ていたが、そのまま放置はしておるまい。我は、その魔物の死体を、カオリ達がどうしていたのかを知りたいのだ」


 何やら切迫したようなザッドハークの声に、ジャンクは真剣に考える。


 確か、アベッカがバラバラにしようとしたのをカオリが宥めて、その死体を収納……………。


 瞬間。ある事に思い至り、ジャンクの顔色が一気に真っ青となった。


「おい……………まさか……………」


「思い至ったか。時折忘れがちではあるが、向こうにはあの魔物(・・・・)のハンナがおるし、カオリの判断ならばやりかねまい」


「だからって、そんな………そこまで………」


「ギャアアアアア?!」


 ジャンクが何かを言おうとした瞬間、悲鳴が響いた。


 慌てて見れば、村長が宙に浮いている。

 よく見れば、逆さ吊りにされていたのだ。


「な、なんじゃあ、これは?!」


 叫ぶ村長。その村長の足には蔦がギチギチと巻き付いていた。


「た、たすけ………ブゴッ?!」


 助けを求めようとした村長だが、周囲から更に伸びてきた蔦によって口を塞がれる。

 更には手に、足に蔦が巻き付いていき、村長は蔦でグルグル巻きにされていった。


「ジジイ?!なんだこれ……イダッ?!」


 唖然と村長を見ていたジャンクだが、直ぐに我に返って村長を助け出そうとした。

 が、羽音とともに何かがジャンクの横を素早くすり抜けた。


 その瞬間、ジャンクの腕に鋭い痛みが走った。


 腕を見れば、まるで鋭利なナイフで斬ったかのような切り傷ができていた。


「な、なんじゃこれ?!」


『キャハハ!キャハハ!』


 痛みに喘ぐジャンクの頭上から笑い声がした。

 女性特有の高い笑い声が。


 だが、こんな木の上から女の笑い声がするわけがない。


 ジャンクは恐る恐ると上を見上げ、よくよく目を凝らす。


 頭上には、何か大きな………人間大の何かが空を舞っていた。


 それは女性の身体に鳥の翼と足を付けたような姿の異形。


 俗に言う、ハーピーとよばれる魔物であった。


 それも、目算で五十羽はいるであろう大群で。


 更に追い討ちをかけるように、目の前に轟音と共に木の上から何かが降りて着地した。


 その何か…………。


 それは巨大な蜘蛛であった。

 白い体毛に覆われた、推定10メートルはあるであろう大蜘蛛。

 その大蜘蛛の頭部分には、女の上半身が生えていた。蜘蛛の身体と比べると小さく、だが人間としてはやや高めであろう長身の女の上半身が。

 ダラリと垂れ下がっていた女の上半身が顔を上げた。

 長く、白い髪を三つ編みに束ねており、顔立ちも酷く整っている。

 ただ、瞳は赤く、額には六つの複眼が存在していた。


 その種族名はアラクネ。蜘蛛の下半身と人間の女の上半身を持つ魔物である。

 ただし、目の前のアラクネは、通常のものとは違う特殊個体であった。


 アラクネはしっかりと。だが、妙に虚ろな目でザッドハーク達を見据えた。


 そして、その口がゆっくりと開かれた。


『不埒者に死を。不埒者に死ヲ』


『『『不埒者に死を!不埒者に死ヲ!』』』


 アラクネの言葉に続くように、空を舞うハーピー達が同じ言葉で大合唱を始めた。


 明らかにニ種族は同じ目的で動いていた。


 そして、目の前のアラクネとハーピー。

 本来は違う種族でありながら、その姿には唯一の共通点があったのだ。


 それは、妙に肌が青白いという事と、目が虚ろということであった。


 白いアラクネは両腕を広げながら、ザッドハーク達へと虚ろな瞳を向け、宣告した。


『我が名ハ、プリモリア。深き霧の女王プリモリアなリ。我は、我が新たな主の命にヨリ。不埒な覗きを行ウ者ニ速やかナル死を与エン』


『『『覗きに死ヲ!覗きニ死を!』』』


 青白い肌のハーピー達が、ケタケタと笑いながら大合唱した。


 


 


 


 


「あやつら、やりおったなぁぁぁぁ?!倒した魔物を、ハンナの不死者創造(クリエイトアンデット)で、アンデッドにして復活させおったわぁぁ?!」


 最悪の予感的中にザッドハークが叫ぶ。


 目の前にいるプリモリアとハーピー達は、霊峰マタマタで香達が討伐した魔物であった。


 それをリッチであるハンナがアンデッドとして復活させ、浴場周辺に番兵として配置していたのだ。


「あの外道どもぉぉぉぉ?!普通、思いついてもやらねぇぇだろぉぉぉ?!あいつ、それでも勇者かよぉぉぉぉぉ?!」


 ジャンクは余りにも非人道的な行いに嘆いた。


 と、その背後の地中から何かがせり上がってきた。


 それは巨大な花の蕾。

 美しくも、どこか毒々しい色の蕾であった。


 蕾は地中から出てくると、その花弁をゆっくりと開く。

 すると、中から緑色の肌をした妖艶な美少女が現れた。

 だが、美少女の身体は痛々しい継ぎ接ぎだらけで、生きているのが不思議な程の傷痕だった。


 いや、生きているというのは語弊があった。


 何故ならば、その少女の目も酷く虚ろだったから。


「アルラウネまで?!確か、アベッカが一番ぐちゃぐちゃにしてた筈?!あれまで回収してたのかよ?!」


 ジャンクの叫びに呼応したのかは知らないが、アルラウネの少女はニッコリと微笑むと両手を広げ、蕾でグルグル巻きの村長を自らの胸元へと抱え込んだ。


 そして……………。


 バクン。


 正にバクンという勢いで花が閉じ、村長を蕾の中へと閉じ込めてしまった。


「ジジイィィィィィィィィィィ!!」


『ハモアバウパプウウ??』


 蕾の中からは、村長のものと思わしき呻き声が聞こえた。


「ザッドハーク!ジジイが!アルラウネに!!」


「ジャンクよ!気持ちは分かるが前を見よ!!そちらに構っている場合ではないぞ!」


 ジャンクは村長を助けようとしたが、ザッドハークによって否定される。


 周囲からはプリモリアやハーピー達が迫り、それどころではなかったからだ。


「村長は諦めよ!今は目の前の敵に集中せよ!」


「チクショウ!?なんでこんなことに………!?」


『アパ……サヨナラァァァァァァ?!』


「ジ、ジジイィィィィィィィィィィ!?」


 混戦極める戦場に、村長の断末摩が響き渡った。


 


 


 


 


 男性覗き連合1名脱落。

 脱落者:『尻が一番』村長。

 脱落理由:INアルラウネ。

 【現在のメンバー。】

『巨乳大好き』ザッドハーク。

『パンツがあれば何でもデキる』スケルトン134号。

『業深き中年竜』ジャンク。


 残り3名。


 


 


 


 


 

 ◇◇◇◇◇


 

 闇夜が支配する山の中を、ゴブリンの軍勢が進んでいく。


 数百に及ぶゴブリン達やホブゴブリン等が、粗末な剣やら棍棒を片手に山地を下っていく。

 彼らの目指す目的地はただ1つ。

 人間の村であった。


 既にゴブリン達は村を視界に捉えていた。


 人の営みの明かりを、その目に。


 あの村こそ目的地。あの村こそ新たな餌場。


 ゴブリン達は我知らずに下卑た笑いを浮かべながら、山を進む。


 散々山で待たされた鬱憤をどう晴らそうか?

 ゴブリン達は考える。

 女子供は拘束しろとは言われているが、一匹くらいは犯して喰ってもバレないだろう。


 程よい年頃の女がいいな。


 ゴブリン達は密かな野望を胸に抱き、山を下る。


 と、ゴブリン達は足を止めた。


 前方に何かの影を見つけてたからだ。


 人間か?!


 ゴブリン達は武器を構え、臨戦態勢を調える。


 ジリジリと影へと近付き、警戒するゴブリン。

 だが、その影の正体が分かると、手にした武器を下ろした。


 影の正体はオーガであった。


 通常のオーガが二体に、やや大きめの青い肌を持つ、上位種のジェネラルオーガだ。


 三体のオーガ達は、ゴブリン達の眼前に悠然と佇んでいた。


 ゴブリン達は合流予定のオーガが来たのだと考えた。


 内心は『もう来たのか』と舌打ちしたが、戦力という意味では心強い。


 ゴブリン達の中から指揮官クラスのホブゴブリンが歩み出て、ジェネラルオーガへと話し掛けた。


「グキ………ジェネラルオーガ様と見受けマス。私はこのゴブ……」


 バシャ。


 何かが弾ける音がした。


 オーガ達の近くにいたゴブリン達の顔に何かの液体が飛び散った。

 ゴブリン達はキョトンとしながら顔にかかったそれを手で拭う。

 そして手を見れば、それは真っ赤な血だった。


 遅れてドサリと音がした。


 次にそちらを見れば、指揮官のホブゴブリンが倒れている。


 どうしたのかとよくよく見れば、ホブゴブリンの首から上がなくなっていた。


 次にソッと上を見上げれば、血の滴る巨大な棍棒を振り上げているジェネラルオーガの姿が目に入った。


『覗きニ死を。覗きニ死を』


 オーガ達は虚ろな目でゴブリン達を見据えながら、そう呟いた。


 そして蹂躙がはじまった。


 


 


 


 


 


「グギャアアア?!」


 一匹のゴブリンの骨が砕け、断末摩の叫びを上げる。


 ゴブリンの骨を砕き、絞め殺したのは赤く長い髪をした美女だった。

 だが、その美女の下半身は蛇のそれだった。

 その蛇の尾によって骨を粉々に砕かれ、ゴブリンが絶命する。周囲には同じように骨を砕かれたゴブリンが、無数に転がっていた。


 その美女は、後退りするゴブリン達を見ながらチロチロと赤い舌を伸ばした。


 その美女の魔物の名はラミア。


 蛇の半身を持つ妖艶な魔物だ。

 異形の美女は、その虚ろな瞳に逃げ惑うゴブリン達を写し、酷薄な笑みを浮かべながら囁いた。


『覗きニ死を。覗きニ死を』


 


 


 


 



「グキ………アア………」


「ガアア…………」


「ウギイ…………」


 とある林の中の空中には、多数のゴブリンが浮いていた。

 否。よく見れば、ゴブリン達の身体は何か細い糸のようなもので拘束されている。

 更によく辺りを見れば、周囲には巨大な蜘蛛の巣が形成されており、その巣に引っ掛かったゴブリン達が糸によって絡みとられていたのだ。


 ゴブリン達が糸をほどこうともがくも、逆に身体に糸がまとわりつく。


 そんなもがくゴブリン達の前に、何の苦もなく糸の上を滑るように歩く者が現れた。


 黒い蜘蛛の下半身に、美女の上半身を持つ魔物。


 名をアラクネ。


 アラクネは、その指先から伸びる異様に長くて鋭い爪を交差させながら呟いた。


『覗きニ死を。覗きニ死を』


 


 


 


 


 とある場所ではゴブリン達が石の石像となり、森の中のオブジェと化していた。


 そんな石化したゴブリンを踏みつけ、砕きながら、異形の魔物が突き進む。

 前方を逃げ惑うゴブリンに向け、口から紫のガスを噴射する。

 ガスを吸ったゴブリンは一瞬にして石と化し、踏み砕かれた。


 異形の魔物は突き進む。

 逃げ惑うゴブリンを追って、どこまでも。


 巨大な鶏の身体に蛇の尾を持つ異形の魔物コカトリスは、虚ろな目でゴブリンを見定め追いかけながら、狂ったように叫ぶ。


『覗キニ死ヲ!覗キニ死ヲ!』


 


 


 


 


「??」


 そのゴブリンは何が起きたのか分からなかった。


 一瞬、何かが横切ったと思えば、視界が地面と同じ位置にあった。

 そのゴブリンは何が起きたのか分からなかった。そして、分からぬままに意識を手放し、もう二度と目覚めることはなかった。


 シャキン。シャキン。


 たった今斬り落としたゴブリンの頭を踏みつけながら、その巨大な魔物は自慢の鎌を交差させる。

 そして虚ろな………それでいて何を考えているかもわからない瞳をゴブリン達へと向けた。


 次はお前だと言わんばかりに。


 逃げ惑うゴブリンを追いかけ、闇夜を疾走する。

 ゴブリン達は次々に斬り裂かれ、肉片となる。

 その魔物………ビックマンティスは止まらない。

 視界に写る、全てのゴブリンを排除するまでは。


 ビックマンティスは声にならない声で叫ぶ。


『ギョギョキギギジヲギョギョキギギジヲ』


 


 


 


 ◇◇◇◇◇



 

『おや?アンデッド達が交戦状態に入りましたね』


 ルミアちゃんに背中をゴシゴシと洗ってもらっていると、隣で身体を洗っていたハンナが不意に声を上げた。


「あ~~そこそこ……やっぱ来たね……ああ、いいよルミアちゃん。うまいうまい。それで、配置的にはどこのが動いたの?」


 ハンナは自身が作成したアンデッドのある程度の位置や状況が離れていても分かるらしく、リアルタイムで戦況を知ることが可能なのだ。


 ハンナは暫しウンウン唸った後、難しい顔を向けてきた。


「ゴシゴシでしゅ~」


『そうですね………配置的にはここの真裏のプリモリアが一番初めに動きましたが、ほぼ同時期に散らばめて配置した全アンデッドが動いて交戦状態になってますね』


「ゴシゴシでしゅ~」


「ああ、最高………何、それ?あいつら散らばって行動でもしてるの?ああ、もう、ルミアちゃん最高過ぎるわぁ~~~~」


『逃げ回ってる内に全アンデッドと遭遇したという可能性もありますが、それでも全てが交戦状態というのはおかしいですし………』


「ゴシゴシでしゅ~」


「う~ん?分からんね……アフホフッ!最高!!まさか、村中の男達が参戦している訳じゃないし……ハフアアア!?ルミアちゃん最高っっっ!!」


『理由は分かりませんが、取り敢えず暫く様子を見ますか』


「カオリ………仲間を爆弾にしたり、アンデッド使ったり、あんた本当に勇者なの…………?」


「手段を選ばずーどんな事もー恐れずに決断できるーって意味なら間違いなく勇者ー」


「でも、それって、なんか意味が違ってくるような気がしますが?」


「こ、ここまで悪気なくやってると、逆にこっちが間違えているような気もしますね………」


 周りが何か言ってるが気にしない。

 今はルミアちゃんに身を委ね、泡だらけになるまでだ。


 いや、マジやべぇなルミアちゃん?!アフッ!


 


 


 


 

 ◇◇◇◇◇


 

 そのスケルトンはひたすら這っていた。


 這って、這って、這って、這い回って、上半身だけでズリズリとほふく前進をしていた。

 下半身は、背骨に付けられた罠を諸共千切った際に砕けてしまった。故に上半身だけだ。


 腕だけでズリズリと進む距離は、遅く、短い。


 だが、スケルトンはただ真っ直ぐ、確実に目的の場所へと向かって諦めずに這い進む。


 脱衣場目掛けて。


 既に、脱衣場の入り口までは何とかついた。

 後は、周囲を警戒しながら『お宝』まで一直線。


 スケルトンは息を殺し───元々してない───身を潜めながら、脱衣場へと侵入する。


 奥の浴場からは人の気配と『アフホフッ』と全く色気の無い声が響いているが、彼に女性の裸体を見たいという欲望はない。


 あるのはただ一つ。『聖遺物(パンツ)』が欲しい。


 その一念だけである。


 だから彼は目指す。生前から背負い続ける己の欲望を果たす為に。


 脱衣場に置かれた衣服を入れる篭に向かって。


 そして彼はついに見つけた。

 衣服が畳んで納められた篭を。

 しかも、幸いなことに、篭は床に直接置かれた状態で、上半身だけのスケルトンでも容易に手の届く範囲である。


 スケルトンは歓喜した。


 だが、まだ油断しない。

 パンツを手にするまでは。


 彼はズリズリと篭に近付き、その中に納められた衣服の特徴から、目的の人物のパンツを探す。


 ピノピノの服………若すぎる。

 ゴルデの服…………保留。

 シルビの服…………第2優先。

 ブロズの服…………保留。

 ルミアの服…………対象外。

 香の服………………なんか呪われそう。

 ハンナの服…………見つけた!!


 彼は歓喜する。

 ついに目的の人物。ハンナの衣服が納められた篭を見つけたのだ。


 彼はゆっくりと丁寧な手付きで衣服を取りだし、遂にそれを見つけた。


 赤い、レース付きのスケスケパンツを。


 彼はあまりの喜びに、一瞬成仏しそうになる。


 マジか?!スッゲーエロ下着じゃん?!

 と喜び勇み過ぎたのだ。


 が、根性で現世に留まった。


 被りも、匂いも嗅がず、成仏してたまるかと。


 彼は酷く丁寧な手付きでパンツを取ると、まずは匂いを嗜んだ。


 嗅覚はない筈だが、甘く豊潤な香りがする気がする。


 次に手触りを楽しみ、ついに頭から被った。


 訪れるのは至福。


 ああ、この自分の為にあつらえた様な装着感。なんと素晴らしいことか…………。


 彼は暫し恍惚とした様子で質感を楽しんでいたが、不意に壁に立て掛けられている小さな鏡を発見する。


 恐らく、村の女性達の身嗜み用の鏡であろう。


 彼は思いつく。


 そうだ。今の自分の勇姿を鏡で見よう。と。


 善は急げ。彼は鏡に向かって這っていく。


 そして鏡の前まで来ると、己の姿を写す。


 そこには、真っ白な骸骨が、真っ赤なパンツを被っている姿が写っていた。


 おお!真っ白な色に、真っ赤な色が映えるな!


 彼は自画自賛し、色んな角度から自分の姿を見て楽しんだ。


 フッと、被っているパンツに、何かが書いてあることに気づく。


 手にした時は気付かなかったが、はて?何が書いてあるんだ?


 スケルトンは鏡にまじまじと近付き、そこに書かれていた文を読んだ。


 そこには……………。


 


 


 


 


 


 


 


 

『メル婆勝負用下着:使用済み』


 


 


 


 


 


 


 男性覗き連合1名脱落。

 脱落者:『パンツがあれば何でもデキる』スケルトン134号。

 脱落理由:憤死。

 【現在のメンバー。】

『巨乳大好き』ザッドハーク。

『業深き中年竜』ジャンク。


 残り2名。

 

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