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68話 プレッシャー

「いだだだだだだ?!ちょい、ゆっくり?!」


 霊峰マタマタの麓。


 私達一行は無事に山を降り、山小屋へと向かっていた。


 そんな中、私は筋肉痛で動けず、ゴルデに背負ってもらっていたのだが………。


「ちょ?!イダイイダイ?!ゴルデ!もっと持ち上げて!シルビは足持ち上げて?!ブロズは尻上げすぎ?!」


「注文が多いわね…………」


「こうーかなー?」


「尻が重いのよ…………」


 ゴルデ一人による山道での運搬は困難を極めることと、姿勢が安定しないと私が痛みに悶えるため、回復したシルビとブロズの三名によって運ばれていた。


 具体的には騎馬戦状態で。


 正直、どうかと思う態勢だが、これが一番安定したスタイルなのだ。


 って、イタッ?!


「ちょ?!だから痛い?!尻が割れる?!」


「尻は元々割れてるわよ?!もう、うるさいから黙ってなさいよ?!」


「それは割れてるけど、更に割れそうなのよ?!察しろや、処女ビッチ!!」


「誰が処女ビッチよ?!純潔なのか不潔なのか、とちらかはっきりしなさいよ?!」


「仲いいなー」


「いいの、これ………?」


 左右で私達のやり取りを見ているシルビとブロズが、片や嬉しそうに。片や諦めたような表情で呟いた。


「フム。特に何もなく、皆で無事に山を降りれたようで何よりぞ」


 先行するザッドハークが大剣を肩に担ぎ直しながら、皆の顔を見回した。


「いや………何もなかった訳ではないわよね?」


「ええ………オーガにいる、コカトリス、ビックマンティスとかの魔物に普通に遭遇していましたが……」


「全部、黒騎士さんがー、一薙で葬ってたよー。かれー規格外過ぎないかなー」


 ザッドハークの戦いぶりを思い出したのか、ゴルデ達が疲れたような表情でため息を吐いた。


「それに、一番の驚きは…………」


 そう言いながらゴルデが横を………隣を行くゴアへと目を向ける。


「この眼球なんだけど?なんなのよ、この眼球?」


『nな8宜iわ05』


「眼球じゃなくてゴアよ」


「名前じゃなくて、その存在について聞いてるんだけど?」


 当初、ゴアの幻術によってその姿が魔法少女に見えていたゴルデ達であったが、あのマタマタの放つ神気だかなんだかっていう力によって幻術が解け、その真の姿が見えるようになっていた。


 最初、ゴアを見た瞬間にゴルデは私に覆い被さって『私はいいけど、この娘の命だけは!』と私を庇って命乞いをしていた。


 存外、熱い女性のようだ、ゴルデ。


「存在と言われてもね…………目?」


「その理屈なら私達全員もゴアなんだけど?」


『存在なんてどうでもいいでしょ。人間だって、自分の存在の証明をすることができないのだから、そんなことを言い合っていたって時間の無駄よ。ミソ女』


「誰がミソよ?!漏らしてないからね?!てか、あんたの存在も不思議なのよっ?!なんなの、この人形は?!」


『人を指差すんじゃないわよ、ミソ女。その指を切り取って樹脂加工し、あの人の箸置きにしてやるわ!!』


「やめてくれ?!飯が喰えなくなる?!アベッカ愛してる!?」


「こいつはある意味、俺よりも苦労性だな………」


 ゴアの眼球の上に座るアベッちが、肉切包丁片手にゴルデへと飛びかかった。


 じゃれ会うのはいいが、ゆれて筋肉痛がヤバイんで程々にしてほしい。


「はあー。いきなり美少女がー巨大眼球に変わったときはー。心臓が飛び出るかとー。思いましたー」


「私なんか、もろに漏らしそうになりましたよ……。変化前と変化後のギャップが激しすぎですよ……」


「だねー。今にして思えばー。私達ー。とんでもないのに喧嘩売ってたねー」


「いや、私は途中参加なので関係ないんじゃ?」


『いえ、結構普通に喧嘩売ってましたよ?』


「…………気を付けます」


 ガヤガヤと騒がしくも賑やかに先を進む一行。


 そんな皆の様子を、騎馬の上から眺めながら、無事に山を降りれたことに安堵の息を吐く。


 ゴルデ達も敵対していたと思えない程に、今や結構うちらと馴染んでいる。


 まあ、互いに誤解があっただけで、私達やゴルデ達とは同じ悲しみを背負う者同士で気が合うのかもしれない。というか、根はかなり良い奴等だ。


 予想外の事が起きたりと、色々となんだかんだあったけど、なんとか無事平和に終えることができそうだな。


 筋肉痛以外は。


『おや?山小屋が見えましたよ、カオリ』


 フッと、隣を歩くハンナが声をかけてきた。


 見れば、確かに山小屋が見えてきていた。


「あぁ………やっと着いた。寝れる。帰ったらマッサージよろしく、ゴルデ」


「どこまでこき使う気よ?!やってあげるけど?!」


 やるのかよ。ツンデレか。


「んっ?あれ?なんか、山小屋からこっちに何か来てない?」


「ムッ?確かに何か来ておるな」


 山小屋の方。

 そちらから、何か大きなものが土煙を上げて、こちらへと急速に向かって来ていた。


 凄い勢いで、辺りに激しい土煙を辺りに撒き散らしている。


 ここが街中ならば、間違いなく人様に迷惑がかかるレベルだ。


 いや、なんだあれ?

 トラクターか?それともデコトラか?

 土煙凄すぎない?


『あれは……ポンゴですね。この気配は間違いなく、留守を任せていたポンゴです』


 こちらに迫るものの正体をいち早く察したハンナが声を上げた。


 確かによく見れば、あの独特すぎるフォルムはポンゴに間違いなかろう。


 というか、あの蜘蛛の足や百足の尾を持つ骨竜が、他にいるとは考えたくない。


 こちらに凄い勢いで近付いているため、その禍々しい様子が肉眼でもハッキリと分かるようになった。


 間違いなくポンゴである。


「ちょ!な、何よ、あれ?!なんかよく分からない化け物が迫ってきてるんだけど!?な、何よ、あれは?!」


「うちの乗り物兼盾兼身代わりのポンゴよ」


「また貴女の関係者?!どうなってるのよ、あんたのところは?!てか、乗り物はギリ分からなくもないけど、盾兼身代わりって何?!」


「考えるだけー疲れてーきたなー…………」


「思考停止しても咎められないでしょう………」


 ゴルデ達、ポンゴ初見組は、騒いだり、諦めたり、悟っていたりと反応がそれぞれだ。


 私も前はそうだったなぁ。懐かしい。


「フム。我々を出迎えにきたのであろうか。何とも感心なことよ」


『それにしては、ちょっと急ぎ過ぎな気が………。というか、良く見れば、背中にデュラハン達とピノピノさんもいますね。あと、更に後ろに誰かいますが?』


「えっ?どれどれ?」


「ちょっと!?重い?!」


 ゴルデに体重をかけて前へと身体を乗り出し、ジッとポンゴの背中へと目をやる。


 確かによく見ると、背中にはピノピノさんと、その左右を固めるように二体のデュラハン達が。

 そして、そのピノピノさんの背に、誰か男の人らしき影が……………………。


「……………………あれ?ジェフリーさん?」


「「「「『えっ?』」」」」


 私の言葉に皆がキョトンとした。


 というか、私もキョトンとしてる。


 だって、こちらに迫るポンゴの背中には、今回案内人をしてくれたジェフリーさんが、当然のように乗っていたのだ。


 ずっと近くにいたし、顔を見間違うなんてないはず。


「いや、嬢ちゃん………何言ってんだ?ジェフリーならここに………あれ?いねぇ?」


「ムッ?あの人形も消えておるぞ?!」


『二人ともいなくなってますよ?いつの間に?』


 ジャンクさん、ザッドハーク、ハンナの声に、慌ててみんなが周囲を探す。


 だが、いない。


 先程まで話していたジェフリーさんとアベッち。

 その二人の姿が忽然と消えていたのだ。


「えっ?ちょ?ど、どういうこと?」


 まったく訳が分からない。

 状況が理解できず、ただただ唖然とする。


 一体二人はどこに?


 そして、あのポンゴの背にいるジェフリーさんは誰?双子?


 そんな困惑する私達の耳に、ピノピノさんの警戒心を露にした叫びが響いた。


「み、みなさん!そちらにいるジェフリーさんから離れてください!!それは本物ではなく、魔王軍のスパイが変身した偽物です!!」


 


 


 


 


 


 


 霊峰マタマタの麓から少し離れた場所。


 そこを、一頭の狼が疾走していた。


 狼は脇目も振らず、ただ真っ直ぐに突き進む。


 そして、その背には、紙袋を被ってオーバーホールを着た不気味な人形を乗せていた。


 その狼の正体はペトラ。

 魔王軍に所属するドッペルゲンガーのペトラが、変身能力で狼となったものであった。


 彼は、ポンゴが背中に本物のジェフリーを連れてきたのに気付き、隙を見て狼に変身して逃亡したのだ。


「はあ……はあ……あ、危なかった!あ、後少し逃げるのが遅れていたら、捕まるところだった……」


『捕まるだけで済めばいいわね。私だったら四肢をもいで、動けなくし、薬物を投与して、麻痺させ、後は拘束して煮るなり焼くなりするわ。特に約束ごとを忘れる人とか?』


「すんっませんでした!アベッカ愛してる!アベッカ愛してる!」


『いい子』


 アベッカか操る人形は巧みにペトラの背に乗りつつ、片手でその頭をスリスリと撫でた。


『でも、本当に危なかったわね。まさか本物を連れてくるなんて…………。なんで始末しておかなかったの?』


「えっ?いや……こ、殺す必要の無い人間や、戦う意思の無い人間。それに民間人等を無為殺すのは私のポリシーに反するからだよ。必要なら戦うが、私はなるべく、争わずに済むならそれで良いと考えているので………アベッカ愛してる」


『随分と臆病なのね』


「えっと………まあ、良く上司からは言われるな。アベッカ愛してる」


『でも、そういう拘りを持ち、実践できる人。私は好きよ?』


「うっ…………」


 アベッカは子供を宥めるようにペトラのフサフサの毛皮を撫でた。


 ペトラはそんなアベッカの言葉に照れ、声を詰まらせた。


『まあ、あなたがそう言うなら、私は深く追及はしないし、従うわ。それに、一番の任務の目的は果たしたし、特に問題はないでしょう』


 アベッカは背中から卑猥な形の茸………ボ〇キノコを一本取りだして高々と掲げた。


「あ、あまり堂々と掲げないでくれ。誰かに見られたら死ぬる。というか、任務を遂行したにはしたが、内容がこんなものでは…………アベッカ愛してる」


『確かにね。国家の命運を左右するアイテムが精力剤だなんて格好がつかないわ。でも、その代わり、とんでもない情報を得たじゃないの?』


 アベッカのその一言に、ペトラはゴクリと息を飲んだ。


 勇者………。


 魔族が仕えし魔王の宿敵であり、神に選ばれし人類最強の戦士。


 その存在の出現を捉えたとあれば、その情報の価値は計り知れないものである。


「あ、ああ………まさか既に勇者が現れており、それがあのカオリだなんて………。あまりの情報の価値の大きさと重要性に、身体の震えが止まらないよ………。アベッカ愛してる」


『そうね。私もカオリが勇者なんてビックリだったわ。驚き過ぎて、声も出なかったわ。でも、この情報を魔王様に伝えれば、間違いなくあなたは昇進できるわね。やったじゃない』


 ポンポンと背中を叩きながら、嬉しそうに語るアベッカ。


 ペトラはそんな背にいるアベッカをチラリと身やると、探るような口調で話しかけた。


「その………君はいいのかい?アベッカ愛してる」


『うん?何がかしら?』


「いや……あのカオリ達と随分仲良さそうにしていたのに、こんな友人を売るようなことをして?アベッカ愛してる」


 その言葉にアベッカは一瞬キョトンとした後、クスクスと笑いだした。


『なぁに?私の心配をしてくれるの?』


「茶化さないでくれ。立場的には君の行いは正しいだろうが、その………感情的に、君は大丈夫なのだろうかと………その………アベッカ愛してる」


 モゴモゴと言い淀むペトラ。


 ああ…………なんて優しい人をなのだろう。アベッカは歓喜に身震いした。


 アベッカはペトラの姿を愛おしそうに見つめると、ギュッと背中に抱きついた。


『フフ……ありがとうね、あなた。でも、心配しないで。私は大丈夫よ』


「いや、でも………アベッカ愛してる」


『フフ。確かにカオリは大切な親友よ。今でも親友と思ってる。もし、見知らぬ魔族がカオリを襲うなら、私はカオリを助けるわ』


「だ、だったら………… アベッカ愛してる」


『でもね……カオリとあなた。そのどちらかを選べと言われれば、私は迷いなくあなたを選ぶわ。なんなら、あなたが殺せと言うならば、躊躇わずカオリを殺してみせるわ』


「えっ…………」


 ギョとするペトラ。


 アベッカはそんなペトラの反応ですら愛しいとばかりに身体を撫で、耳元で甘く蕩けるような………それでいて、どこかゾッと寒気がする声で囁いた。


『だって、女の子は恋に生きるもの。友情より愛情。友人より恋人。両親より旦那様。それが当然でしょう?向こうで本体で会えるのが楽しみで仕方ないわ。愛してるわよ、あ・な・た♥』


 絶句するペトラ。その全身が先程とは別の意味で震える。


 アベッカはそんなペトラの反応にクスクスと笑いながら、耳元から離れた。


 そして青い空を見上げ、今は遠くにいる友人へと語りかけた。


『カオリだって分かってくれるわ。だって私の親友になれる程、似通った性格だもの』


 


 


 

 ねっ?カオリ。


 


 


 


 アベッカの人形を背に乗せたペトラは、一路、魔王軍領へと、ひた駆けていくのであった………。


 


 


 


 





 

 ◇◇◇◇◇


 

「まさか………あれが偽物だったなんて」


 山小屋の食堂。


 そこに私達一行やゴルデのパーティーメンバーを含めた全員が集まり、話し合いをしていた。


 内容は偽ジェフリーさんと、魔王軍のことであった。


 ついでに私は筋肉痛のため、椅子を数脚並べ、そこにうつ伏せで寝そべっていた。


 筋肉痛、マジやべぇ。


「は、はい。デュラハンさんが摘まみ食いをしようと、食糧庫を漁っていたら、たまたま隅の方で簀巻きにされたジェフリーさんと魔法使いさん達を見つけて…………」


「デュラハンは後でシメるとして、あんな人間そっくりに化けれるなんて何者なの………」


「んだぁ。あんれはたすか、どぺるへんがぁーだいっへたなぁ」


 私の呟きに答えたのは、その件の偽物が化けていた本物のジェフリーさんだ。


 興奮したように語る彼の話をウンウンと頷きながら聞くと、私は真剣な目をピノピノさんへと向けた。


「ごめん。通訳して」


「えっと……『あれは確か、ドッペルゲンガーだ』と、自ら名乗っていたようです」


「ありがとう」


 訛りひどんだよ、この人。

 何言ってるのか全然分からん。

 近所の婆ちゃんでもここまで酷くなかったよ?

 どっちかっていうと、こっちが偽物じゃないの?

 人間の言語じゃないもの。


「フム。ドッペルゲンガーか。あれなる種は、対象の肉体の一部……血や髪の毛があれば、寸分変わらず変身できる者達。身長・体重・声色から股間の長さまで完璧にだ。見抜けなくとも仕方あるまい」


「股間は見ても、もとから分からないと思う」


 ビッチならともかく。


「あのやろうば、あんだらがなぬさがすてっかってすらべにきたさっていってただ。んで、あんだらさがすてるものをすらべ、あわよぐばとるがごわすてまおーにやぐだでっどって、ゆーとった」


「『あいつは、あなた方が何を探しているか調べていて、その探しているものを、あわよくば盗むか破壊し、魔王様の為に役立てると言っていた』と言ってます」


「成る程。話の内容より、酷すぎる訛りが大いに気になる」


 さっきから事の深刻さが訛りの酷さでいまいち実感できないのよね。


「フム。我らが調べていたもの、つまりはこのボ〇キノコを探していたと」


 包みにくるまれた一本のボ〇キノコをザッドハークが取りだし、それをマジマジと眺めた。


 そして何か考えるように顎を撫でてから、厳かな口調で自身の推測を口にした。


「そこから察するに、魔王は王と同じ勃〇不全障害に悩んでいたのでは?」


『単純に、探しものが何か知らなかったのでは?』


「その推測が当たってたとして、そんな障害を抱えた魔王と戦うなんて、私嫌だからね?」


 魔王と戦う際に、常に頭にチラつくわ。

 魔王、男として終わってるって。


「は、はい。お、おそらく、魔王軍は、わ、我々が何を探していたのかは理解していなかったと。た、多分、情報が中途半端にしか入っておらず、王からの命令という情報のみで、な、何か重大なものではとスパイを送ったのでは…………」


「そうね。なんだかんだで情報には規制が入っていて、うちらの雇い主も大分苦労したと言ってたから、その推測は間違いじゃなさそうね」


 ピノピノさんの予想に、ゴルデが賛同する。


 成る程。何を探しているかは知らないが、一国の王が探す程のものならば余程のものに違いないからと、スパイを送り込んで奪いにきたと。


 それならば色々と理解できるし納得だ。


 そして間違いなく、今回の件での一番の被害者はそのスパイだろう。


 その時、ダンッという音が響いた。


 それはジャンクさんが憤りも露に、机を叩いた音だった。


「くそっ!ジェフリー……いや、偽ジェフリーめ!せっかく友として分かりあえたと思ったのに………あの野郎め!!」


「ジャンクさん…………」


 ジャンクさんは今回、あの偽物と結構意気投合していた。短い間ではあったが、何か通ずるものがあったのか、最後の方では互いに肩を支えあっていた程の仲だ。


 そんなジャンクさんからすれば、今回の裏切りは相当に堪えるようであった。


 ジャンクさんは更に二回、三回と机を殴った。


「くそっ!くそっ!せっかくの常識人枠が!これじゃあ、またこいつらズッコケ非常識組の面倒で苦労するのは俺だけじゃないか!?」


「ジャンクさん。後で山小屋の裏に来いやぁ」


 単純に道連れが欲しかっただけかよ、この糞野郎が。そして誰がズッコケ非常識組だ。


「フム。我もあやつには一目置いていた故に、少々くるものがあるな。して、案内人よ。あのドッペルゲンガーは、自身の名は申していたか?」


 顎を撫でながら問うザッドハークに、ジェフリーさんが大きく頷いた。


「あいづは、ずぶんを『ペド野郎』いってただ」


「あいつは自分をペド野郎と名乗っていたと」


「今のは通訳いらなかった」


 何でペド野郎だけハッキリしてんだよ。

 てか、あいつペドだったのかよ?!

 闇深いな?!


「フム。ペド野郎か…………。何の恐れも恥ずかしげもなく、そう名乗るとは。ジャンクに並ぶ、恐るべき存在よ」


「ペド野郎。その名前………絶対に忘れねえ」


 顎を撫でながら厳かな口調で名前を呟くザッドハークと、ギリッと歯を食いしばって両の拳を打ち鳴らすロリ野郎。


 絵面は熱いが、中身がゲスいな。


「じゃあ、あの人形………確かアベッカとか言ったわね。あいつも魔族側の奴だったってこと?」


 フッとゴルデの放った言葉に、私とハンナの顔が強張った。


「フム。状況的に見ればそうであろう。ペド野郎とかいうドッペルゲンガーの補助なのか、それとも指揮者なのかは分からぬが、間違いなく魔族とみるべきであろうな」


 チラリとこちらの様子を窺いながら、予想を述べるザッドハーク。


 正直、信じたくはない。

 あんなに語り合い、協力してきたアベッカ。

 短い間しか一緒にいなかったが、それでも迷いなく友人……いや、親友と言える存在だった。

 その彼女が………信じたくはないが、ザッドハークの言う通り、魔族側に属する者だったのだろう。


『………ザッドハーク様の言う通りですね。私達は彼女に利用され、裏切られたのですね』


「ハンナ…………」


『正直、かなりキツいですね。彼女とは色々と分かりあえていたので………』


 うつむき、悲しげな表情をするハンナ。


 そんなハンナの冷たくも、しっかりと人間としての温かさがある手を、そっと握った。


「ハンナ……確かにアベッちは、私達を裏切っていた。嘘も言っていたでしょう。だけど……彼女が私達に語った言葉や想いは、間違いなく本物だと思うよ」


『カオリ…………』


 ハンナが少し目を見開いて私を見た。


「アベッちの世の男を恨む言葉。見る目のない男を根絶させたい気持ち。ビッチというビッチを殲滅したい欲求。モテる女を妬む呪詛。此方を蔑む糞ビッチ共に対する怒り………その、どれもこれもが本物だった。そして、それを理解し合える私達の友情も、間違いなく本物だったと思うの。ハンナはそうじゃないの?」


 そう問うと、ハンナはハッと目を見開き、それから直ぐに力強い目付きとなった。


『いいえ。あれは間違いなくアベッカが心から語っていた本心。言霊が宿る程に強い想いを宿した、心の叫びでした。あれが偽物な訳がない!断じて!』


「うん、私もそう思う。アベッちは心から他の女を憎んでいた。憎悪していた。怨念を抱いていた。それは間違いない。彼女はそこに裏表がなかった。実際、ゴルデ達が処女だと分かった後も、対応は蛆虫からナメクジに変わった程度。だけど、私達にはそれを示さなかった………」


『私達は認められていた…………』


 コクリと頷き、ハンナに優しく微笑んだ。


「うん。彼女も私達を親友と思ってるはず。今回はそれぞれの立場が私達を分けてしまったけど、敵味方無しにアベッちは間違いなく私達の親友。今も、これからも。本音をぶつけ合える真のマブダチ。だから今度また会ったら二人で文句を言ってあげましょう?『よくも騙しやがったな!ぶっ殺してやる!』って」


「そうですね。彼女は間違いなく私達の親友です。例え敵と味方に別れても、彼女との友情は永遠です。私も会ったら『この糞が、利用しやがって!腸を引きずりだしてやる!』って言ってやりますよ」


「その意気よ!ハンナ!」


『ありがとうございます。カオリ』


『「ウフフフフフ」』


 


 


 


 


 

「闇が深すぎるな…………」


「深遠の底を覗いた気分ぞ………」


『ぶL震66ょa…………』


「おんなって、こぇぇべ………」


「い、いえ。あれは同性から見てもちょっと……」


「ナメクジ………そんな風に思われてたの、私?」


「同じ処女でもー抱えてる闇の量が違うなー……」


「結局、許したのか許してないのか分からないわ」


 外野が何かほざいているが無視だ無視。

 これは、同じ想いを抱えてる者にしか分からないだろう。


「………ところで、気になってたんだけど。あのアベッカとかいうのが、やたら偽ジェフリーにアピールしてたけど………あれは私達を油断させる演技だったのかしら?」


「「「『いや、間違いなく本心』」」」


「そう…………敵ながら同情するわ」


 ゴルデが腕組みしながら諦めたように、天を仰ぎみた。


 確かにアベッちの愛の深さは尋常ではないからね。


 ああ、私も恋人が欲しいわ…………。


「フム………。しかし、此度の件。これは些か厄介なことになりそうぞ」


 唐突にザッドハークが腕組みしながら、難しい顔で呟いた。


「厄介なこと?魔王の股間が元気になるとか?」


「それはそれで厄介ではあるが、違う。正直、此度の依頼の件は魔王に漏れようが、何の痛痒もない」


「じゃあ、何が厄介なの?」


 そう聞くと、ザッドハークは私を見ながら、指を真っ直ぐに向けてきた。


「汝が勇者だとバレたことだ」


「あっ!」


 ザッドハークの言葉にハッとする。


 そうだ。そうだった。アベッちと筋肉痛のことで頭が一杯だったけど、マタマタの一件で私が勇者だと、あの場にいた皆にバレていたのだ。


 敵である、ペド野郎とアベッちにも。


「奴等は間違いなく魔王に嬢ちゃんのことを報告するだろうな。別に俺ら人間側にバレても問題はないが、魔族側……魔王にバレたとなれば………」


「ウム。間違いなく魔王軍が動く。カオリ。汝を消すために」


 ジャンクさんとザッドハークが厳しい目を向けてくる。


「これまで勇者がいることも、汝がその勇者であることも魔王側には一切バレてはいなかった。故に、魔王軍が攻めてくることも、汝が狙われることもなかった。が、勇者が現れ、その正体まで分かったとなれば、間違いなく魔王は来る。汝を殺すためにだ。その動きは大規模なものとなろう」


 抑揚のない声で告げられる事実に、サァーと血の気が引く。


 これまでも色々と衝撃的なことや命の危機的なこともあったが、それは全て魔王と関係のないところでのことだった。


 今まで魔王軍関係が攻めてくることも、命を狙われることもなかった。


 つまるところ、今までのことは日常の延長上だったのだ。


 ゲームで言うところのチュートリアルだ。


 だが、これからは状況が変わる。


 より厳しく、より激しく、状況が一変するのだ。


 私の宿敵…………魔王によって。


 確実に命を狙われることになるのだ。


『カオリ……顔が真っ青ですよ?大丈夫ですか?』


 ハンナが私の手を握り、心配そうに声をかけてくる。


 だが、今はその声も、手の感覚も曖昧に感じる。


 何だか現実感がないのだ。

 妙に喉が渇き、膝が震える。


 なんだか胸が苦しい。


「あ、あの?カ、カオリ様が勇者って?」


「それは後で説明するわ。それよりカオリ。貴女大丈夫なの?身体が震えているわよ?」


 ピノピノさんやゴルデが何か言っているのは分かるが、何を言っているのか分からない。


 何だか頭が熱い。


 クラクラする。


 視界がグニャリと歪む。


 あれ?なんか変だな?


 上と下が分からない。


「ムッ?カオリ!?如何した?!」


 なんかザッドハークがさわいでる。


『カオリ!しっかり!す、凄い熱です!?』


 ハンナもどうしたの?そんにあわてて。


『?!ゃ5香?!』


 ゴアもしょくしゅをひろげてどうし…………。


『『「カオリ?!」』』


 


 

 皆が私の名前を呼ぶ声を聞きながら、そこで意識が途絶えた。

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