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66話 目覚める野生と女子力~真香見参~

 

 力が………力がみなぎる!!


 体の内側から沸き上がる力。


 だが、暴力的ではなく、どこか慈愛と自然の温もりを感じるような力だ。


 その力は全身に行き渡り、筋肉が肥大化していく。


 鎧が軋む音が聞こえたが、一瞬のこと。

 呪いの鎧であるこれは、持ち主のサイズに自動で合わさるので問題はない。


 やがて気付けは視界が高くなり、目の前のボッキーもやや縮んだようだ。


 だが、この沸き上がる力の前には、そんなものは些細なものでしかない。


 私は目の前で犬〇家状態で地面にめり込むボッキーの片足を掴むと、ヒョイと持ち上げる。


 軽い。


 こいつはこんなに軽かったかのか。


 しっかり飯を喰えと注意したい。


 が、今更言っても無駄だろう。


 ボッキーを掴んだらまま腕を振り上げ、天井目掛けて軽く投擲した。


『ひっ?イギャアアアアアァァァァァ?!』


 ズガァァァン。


 軽く投げただけだと言うのに、ボッキーは勢い良く飛んでいき、宙を覆う古木の太い枝へと頭から突き刺さった。


「…………落ちてこないか」


 どうやらかなり深く刺さったようだ。

 ボッキーはいつまでたっても落ちてこない。


 ただただ枝から足がダラリと力なく垂れ下がっていた。


 落ちてこないなら仕方がない。

 こちらから迎えに行こう。


 その場で軽く屈伸をし、両足を開く。

 それから足に力を込めながら屈んだ。


 そして………力を一気に力を解放し、大地を蹴ってボッキー目掛けて跳躍した。


 途中、宙で半回転し、枝に足から着地。


 素早くボッキーを掴んで引き抜き、勢いをつけて落下。


 更にここでも半回転して姿勢を戻し、ボッキーの両足を掴み、下にある頭の傘の部分に足をかけ、身動きできないようにした。


 そして…………。


「カオリドライバァァァァァァァ!!!!」


「ギィヤアアアアアァァァァ?!?!」


 ズカァァァァァン!!!


 星の引力を利用した落下攻撃。


 抵抗もできぬままに頭からモロに落ちたボッキーは、再び地面にめり込んで犬〇家状態となった。


「弱し」


 ボッキーから離れて地面に降り立ち、ボッキーの胴体部を逆手に掴んで引き抜く。

 それから手首を回転させ、ボッキーの態勢を元に戻すと、そのままボッキーを片手に持って掲げ上げた。


 ボッキーは既にボロボロであり、傘はぐちゃぐちゃ。胴体部には風穴。足は片方、曲がっちゃいけない方向に曲がっていた。

 それでもピクピクと痙攣しているあたり、まだ息はあるようだ。


「こんなものか」


『も、もう………許ひて…………』


 驚いたことに意識があるようだ。


 一人言で呟いたつもりだったが、自分に言われたと思い勝手にこたえてきた。


「意識があったか」


『も、もう……無理です………ど、どうかお許ひくだはい………』


「フム…………」


 さて、どうしたものか。


 ボッキーからチラリとミソビッチへと視線を移す。


 ミソビッチは驚きと困惑が入り雑じったような顔でこちらを見ていた。


 ミソビッチに処遇を聞いた方がよかろう。


「ミソビッチよ」


「えっ?は、はい!って、誰がミソビッチよ?!と、というか、あなた本当にカオリ………?」


 何を当たり前の事を言っているのだろうか。


「香よ」


「い、いやいやいや!体型とか、雰囲気とか、モロに色々と違うじゃないのよ?!もう、別人じゃないのよ?!てか、別の生き物?!」


 確かにスキルを発動したことにより、多少は変化したかもしれない。


 だが、別人と言われる程まで変わっただろうか?


 すると、ゴアに乗ったアベッちがミソビッチの元までやって来て、その腹目掛けてドロップキックを放った。


「ブエッ?!」


『あなたは何を馬鹿なことを言っているのよ。どこからどう見てもカオリじゃないのよ。目でも腐ってるの?そんな目ならくり抜いて、代わりに空き瓶でも摘めておきなさい』


「この、糞人形?!腹を蹴るな?!ちょ、ナイフで目を狙うな!?ちょ、やめ?!」


 ふむ。アベッちとミソビッチがじゃれ合いを始めたな。


 これでは暫く処遇は聞けまい。

 暫し様子を見るか。


 アベッちとミソビッチのほのぼのとしたやり取りを眺めていると、ハンナが近くへとやって来た。


『凄いですね、カオリ。圧倒的でしたよ』


「スキルのおかげよ。力がみなぎって仕方ないの」


『スキルの……。どんなスキルかは知りませんが、確かに凄まじい力を感じます。例えるならば、野性的でありながらも、敵から子を守る親のような雰囲気。そう、圧倒的女子力を感じる偉容です』


 圧倒的女子力………。

 成る程。合点がいった。

 この内から溢れながらも、どこか静かさと優しさを併せ持つ力。


 野生と母性が入り雑じった力。


 これこそが女子力というものだったのか………。


 今ならば理解できる。


 グッと拳を握り、自身の力を確かめる。


「我、開眼せり」


『カオリ。本当に凄い女子力だわ。圧倒的でありながら、どこか儚げで、慈愛が溢れる雰囲気。今、あなたは女子力の頂きにいるのよ』


 ミソビッチをいじり終わったアベッちが、ゴアに乗ってやって来た。


 向こうではミソビッチが踞って震えているが、大した問題ではなかろう。


「頂き………いえ、アベッち。今なら分かる。女子力に頂きなんてものはない。ただ、どこまでも永遠と続く山があり、それをどこまで登れるかが肝心なのよ。途中で諦めたらそこまで。そこまでの女になってしまう。如何に自分を磨き、如何に流行に乗り、如何にどこまで挑戦できるか。その上を目指す気持ちこそが女子力であり、延いては女子道となるのよ」


 私はボッキーを掴んでいる手とは逆の手を高く掲げ、その指先を天へと向けた。


「我、女子の真髄ここに視たり」


『カオリ………』


『カオリっち……。それでこそ、貴女が頂点なのよ』


「いや………あんたら、絶対に女子力の意味を履き違えているわよ………」


 踞ったままのミソビッチが何かほざいているが、開眼せぬ者の戯れ言であろう。


 と、そこで何者かがやって来た。


 それはザッドハークを筆頭とした男性陣で、皆が唖然と私を見ていた。


 ジャンクさんの背中には、銀ビッチが背負われていた。


「ザッドハークか。遅かったわね。もう、全て終わったわよ」


「カオリ…………なのか?」


「香よ」


「むぉう…………」


 溢れる女子力で変化した私に、ザッドハークは気付かなかったようだ。


 言葉も無く、ただただ私に見惚れている。


 まあ、無理もないだろう。

 この女子力を前にすれば、男などイチコロである。


 そんなザッドハークの脇では、ジャンクさんが頭を抱えていた。


「どうした、ジャンクさん?」


「待ってくれ……。どこから何を言えばいいのか、検討もつかねぇ……その前に聞くが、嬢ちゃんなのか?」


「香よ」


「わぁお…………」


 私の女子力の変化に戸惑っているようだ。


 無理もない。


 この女子力の前には、誰もが言葉をなくす。


『あら?あの人の姿が見えないけど、どこに行ったのかしら?隠れんぼ?なら、鬼は私。見つけたら、ご褒美に剥製になってもらうの』


「ここにいます!アベッカ愛してる」 


 ジャンクさんの影からジェフリーさんが飛び出した。


 何故か前屈みになっているが、どうしたのだろうか。


『あら、そこにいたの。うん?どうして前屈みになっているのかしら?あら?まさか………』


「いやー!!実は、君と結婚した後の初夜のことを考えたら、興奮が冷めやらなくてね!!ほら!さっき抱きついた時に、人形とはいえ君を抱きしめたようなものじゃないか?それで色々と妄想しちゃったら、もうもう!決して、他の女に興奮したとかじゃないよ?他の女なんて君と比べたら糞味噌さ!興奮どころか吐き気を催すよ!!ああ、今から君との甘い一時が楽しみでならないよ!アハハハハハ!!アベッカ愛してる!!」


『あなた…………。変な勘繰りしてごめんなさいね。私は妻失格ね…………』


「えっ?いや、そ、そこまで気にする必要はないさ!アハハハハハ!アベッカ愛してる」


『だから、帰ったら挽回するわ。まず、料理であなたを持て成し、同時に精力をいっぱいつけてもらわなきゃ。そして初夜を最低でも3日……いえ、7日は連続で頑張ってもらわなきゃいけないものね。取り敢えず、食材を厳選して集めなきゃ。集めるのはバジリスク、万年スッポン、皇帝熊、千刃鮫、フェニックス、不死イモリ、百足竜、アークタイラントスパイダー、大悪魔ジャギリアン、地龍皇ガイランド、紅蓮竜皇グロレシアとその他諸々と………あっ、ここのボ〇キノコもよさそうね。食材達は、強さは大したことないけど、種類が多いのが難点ね。でも然したる問題じゃないわね。それと、夜のことを考えたら、寝具も新調した方がよさそうね。まずはベッドは勿論拘束用ベルト付きで、枕は『yes or yes』枕に変えて、シーツやカバーは完全防水性にしなきゃ。後は電気ショッカーと、新しい拘束椅子と審問椅子も買って…………あぁ、準備するものが一杯ね。でも、任せてね、あなた。私、あなたのために頑張って見せるわ』


「ハハ……そうか………アハハハハ……ありがたいな………アハハハ……ハハ……アハハハハハ!アベッカ愛してるハハハハハハ!!」


 愛されてるなジェフリーさん。


 ジェフリーさんも、あんなに泣いて喜んでいる。


「愛とは真に素晴らしい」


 アベッちとジェフリーさんの愛に感動していると、私の周囲を何かキラキラしたものが舞っていた。


「?…………なんだ、これは?」


「?!カオリ!逃げてぇぇぇ!?」


 ミソビッチが慌てたように叫ぶ。


 私は急ぎ、ハンナを安全な方へと突飛ばし、自身も防御をとろうとした。


 が、その前に、視界が全て真っ白に染まる。


「「『カオリイイイイイ!!』」」


 ハンナ、アベッち、ゴルデの声が、やけに響いた…………。













 ◇◇◇◇


【ボ〇キング視点】


 ズガァァァン!!


 凄まじいまでの爆発音が辺りに響き渡る。


 我が空気中に放った菌糸爆弾が爆発したのだ。


 菌糸爆弾は文字通り、小さな小さな極小の菌糸状の爆弾で、我の傘から散布できる。

 この爆弾は我の意思によって自由に爆破することができ、どんなに距離があっても、念じるだけで簡単に爆破することが可能だ。

 一粒一粒での爆発威力は大したことがないが、これが幾千、幾万、幾億もの菌糸が集まれば、その威力は竜をも容易く殺せるほどだ。

 風に飛ばされたり、火に弱いという弱点はあるが、湿った密室においては、類い稀なる威力を発する。


 我はその菌糸爆弾を目の前の化け物………カオリとかいう奴にバレぬよう、こっそりと大量に散布したのだ。


 幸い奴は仲間達との会話に夢中で、我が菌糸爆弾を散布していることに気付いていなかった。


 馬鹿めが。


 散々我を痛めつけおって、ざまあをみやがれ。


 ありったけの菌糸爆弾を集めての爆発をモロに喰らったカオリ。

 その姿は土煙と爆煙に隠れて見えないが、一瞬だが身体をよろけさせたのを見た。

 そして、やはり流石に耐えられなかったのか、我を掴む手から力が抜けた。


 流石の化け物も、これで終わりよ。


 この隙を逃さず、我はカオリから離れた。


 同時に周囲に漂う菌糸を集め、肉体を瞬時に再生した。


『グハハハハ!馬鹿めが!油断しおって!!愛だの女子力だのと、訳の分からぬことをほざいているからそうなるのだよ!!だいたい、いまだ処女の癖に、偉そうに女子カブフォ?!』


 カオリの側から離脱しつつ、その愚かさを嘲笑っていたら、何かが煙の中から伸びてきて、我の身体へと突き刺さった。


 見れば、無数の真っ赤で鋭い杭のようなものが、我が身体を貫いていた。


『な、なんだこれは?!一体何が?!』


『反逆の時、きたれり』


 ゾッとする程に恐ろしい声が響く。


 それは煙の中から響いた。


 カオリか?いや、カオリの声とは違う。


 何かもっと無機質で、感情のないような………。


 そして煙が晴れた先。


 羅刹がいた。


 あれだけの爆発でも傷一つ無く、カオリは悠然とその場でに立っていたのだ。


 更に、その身に纏う不気味な鎧の全身からは、赤い杭………そう、我を串刺しにしているものと同じものが、無数にあちらこちらから伸びていた。


 鎧に元々付いていた刺が伸びたようだ。


 その様はまるで山嵐。人の形をした山嵐であった。


『おま………おま………な、なんなんだ?そ、その姿は…………?』


『反逆の時きたり』


 カオリへと問う我が耳に、あの声が再び聞こえた。


 その声は鎧…………カオリが纏う鎧の胸元。

 そこに埋め込まれた、赤く光る宝石から聞こえてきていた。


『今、反逆の時きたり。我が主に仇為す者よ。己の愚かさを、己の力で知るがいい』


 胸元の赤い宝石が一際輝きだした。


血には血を(スカーレット)痛みには痛みを(ペイン)。』


 瞬間。


 我を突き刺す杭を通し、凄まじい威力の爆発が我が身を襲った。


 まるで、我の放った菌糸爆弾の爆発が反ってきたような爆発が。


 ズカァァァァァン!!


『ガボッ?!グアアアアアアアア?!』


 全身を焼く痛みと衝撃に悶えながら、我は吹き飛んだ。


 その際、爆発によって飛ばされたことで、幸いにも杭から抜けることができた。


 だが、モロに爆発を受けた我は、無様に地べたをゴロゴロと転がった。


『い、一体…………何が?』


 やっと止まったところで、何とか立ち上がろうとする我が耳に、足音が聞こえた。


 ズシン。ズシン。


 重く響く足音が。


 恐る恐ると足音がする方を見てみれば、悠然とした足取りでこちらへと近付くカオリの姿が………。


『ヒイイイイイイイイイイイイイ?!』


 思わず悲鳴を上げ、腰を抜かして尻餅をつく。


 恐怖。


 生まれてこのかた感じたことの無い程の圧倒的恐怖に、我は震えた。


「やってくれたなボッキー。一瞬ヒヤッとした」


 こちらに向かいながら、カオリが威圧的な声で語りかけてくる。


「だが、私ですら忘れていた鎧の効果で助かった。というか、初めて発動した」


 自身の鎧の胸元をコツコツと叩くカオリ。


  同時に、杭が元の長さに戻る。


 どうやら我が菌糸爆弾を防ぎ、逆に我を爆破してきたのは、あの鎧の効果によるものらしい。


「まあいい。もう油断はしない。遊びなく、貴様に止めを刺そう」


『ヒ、ヒイイ?!』


 拳を握り込み、そこに力を溜め込むカオリ。


 その姿に恐怖し後退るも、近付くカオリの方が圧倒的に早い。


 やがて、距離を詰め、我の目の前までやって来たカオリ。


 そこで立ち止まると、問いかけてきた。


「止めを刺す前に聞いておきたいことがある。答えろ」


『は?は、はいぃ!?な、なんでしょう??』


「貴様は先程、私に向かい『処女の癖に』と言っていた。何故私が処女だと分かった?答えろ」


 答えねば、痛めつけて殺す。


 ありありとそう語るカオリの目に気圧され、我はカオリの質問に急いで答えた。


『は、はいぃ!そ、それは私の持つスキル『処女童貞探知』によるものです!!周囲1000メートル以内にいる童貞及び処女の正確な位置を探知できるもので、それで貴女様方5名の気配を察知した訳です!!わ、私は種族的というか、何と言いますか、そういった下関係に敏感でして、そういったスキルを持っていたのです。はい』


 我がそう答えると、カオリがピクリと反応した。


「待て………今なんて言った?」


『へっ?ですから、私のスキルは………』


「違う。そのスキルで探知した人数だ」


『えっ?に、人数?ご、五人……ですが?』


 恐る恐ると答えると、カオリは暫し考え込んだ。


 それからゆっくりと腕を上げ、謎の眼球生物と人形を指差した。


「あの二名も探知に入っているのか?」


『えっ?い、いえ入ってません。人形は無生物ですから対象外。眼球は……何故か、そもそも探知できないですね』


 今更だが、なんだ、あの眼球は?


「…………なれば聞く。誰が処女か?」


『えっ?それは…………』


 まず、カオリに顔を向け。


『貴女と』


 次に少し離れた位置にいる青白い顔の女に向き。


『彼女と』


 最後に、後ろを向いた。


『あそこの金髪と、銀髪と、銅褐色の女達ですが』


 と、踞る金髪と、背負われる銀髪と、倒れ伏す銅褐色の女達へと顔を向けた。


「?!………馬鹿な」


 カオリはその答えに、はじめて動揺を表した。


 金髪の方も金髪の方で、顔を真っ赤に染め、アワアワと慌てている。


「ミソビッチ…………お前…………」


 信じられない者でも見るような目で見るカオリ。


 そんな目を向けられた金髪は暫し黙っていたが、やがて自棄になったように叫びだした。


「そうよ!!処女よ!!私も……私達も処女よ!!未だ男性経験無し!!年齢=彼氏いない歴を誇る、貴女達以上の処女よ?!何よ!?悪い?!」


 金髪は涙目になり、狂ったように地面をバンバンと叩き出した。


「何よ何よ!!都会に憧れ、田舎から幼馴染のシルビと飛び出し、いざ都会に来てみれば『芋っぽい』だの『田舎臭』なんて蔑まれ、そんな奴等を見返してやりたくて必死にお洒落を学び、女らしさやモテる方法を研究し、冒険者としての地位を上げ、自他共に認められる立派な女子力を身に付けた女冒険者になれた!なのに、今度は『高嶺の華』だの『俺は君に釣り合わない』だのと男達から遠巻きにされ、気付けば結構ないい歳!!他の同期や田舎の友達が次々と結婚してく中、私達だけ彼氏無し!経験無し!無し無しの無し人生!!恋人は仕事だけ!!いっそ、国から離れてやり直そうと思えば、その矢先に訳分からん化け物茸に殺されかけるし!?てか、ブロズのスキルが効かなかったのは、そんな訳分からんスキルが原因だったの?!なんなのよ、もう!!どんだけツイてないのよ私達は?!シルビは間延びした喋り方をするマイペース系、無表情系、クール系魔法使いはモテると聞いて全部実践し、あんな良く分からない喋り方が定着しちゃったし、今回雇ったブロズも、山や草木の研究ばかりしてて、気付けば生き遅れてしまい、もしかしたら同じ山好きのジェフリー相手ならワンチャンあるかもと思って来てみれば、とんだ人形愛好家(ピグマリオン)で絶望し、『私は山と結婚する』なんて言い出すし…………ああぁぁあああ!!私達の人生なんなのよ!?こんな筈じゃなかったのにぃぃぃ?!」


 髪を振り乱し、狂ったように叫ぶ金髪。


 よく見れば、背負われた銀髪や、踞る銅褐色の女達の背中が震えていた。


 …………正直、ドン引きだ。


 我だけでなく、黒い骸骨騎士も、顎髭の男も、モジャ髭の男も………男共は皆が引いていた。


 そんな中、ポツポツと水滴が垂れる音がした。


 見れば、羅刹が………カオリが泣いていた。


「そうか………そうだったのか………ミソビッチ。いや、ゴルデよ。貴女もまた、私達と同じ悲しみを背負う者だったか………」


「カオリ…………」


「真に雲っていたのは我が眼だったのか。我以上の悲しみを持つ者の苦しみを理解せず、ただ外見だけで判断するとは…………。我が生涯最大の不覚。許してくれ………」


 カオリはそう謝罪し、金髪へと頭を下げた。


「カオリ…………そんな…………」


『私も謝らせてください。同じ苦渋を舐めていたにも関わらず、知ろうともしなかった………。無理解も甚だしい行為でした………』


「ハンナ…………」


『私もよ。貴女達の怒りや苦しみは、私も知るところだったのに………。なのに私はゴルデは剥製に、シルビはホルマリン浸けに、ブロズは骨格標本にして、男の同性愛者が集う店に飾ろうだなんて考えてしまって………。自分が恥ずかしいわ………』


「いや、そんな事考えてたの………」


 唖然とする金髪達。


 何か知らないが和解していく女性陣をなんとなしに見ていると、カオリの闘気の高まりを感じた。


「相分かった。ゴルデ、シルビ、ブロズ。貴女方は間違っていない。己を高め、磨くことのどこが間違いだと言うのか。真に間違えているわ、見る目の無い世の男共。これ程の魅力溢れる女性を前に、何も感じず、何もせず、何も言わぬ。何たる罪深いことであるか………」


「カオリ…………」


「故に、我は全身全霊全力をもって、ボッキー。貴様を葬ると決めた」


『?!?!?!今の流れでは、我関係無くないじゃないですか?!?!』


「そこは、ほら。見た目があれだし、世の中の男性の象徴代表として罰を受けてくれ」


『生まれて初めて自分の姿を恨んだ?!』


「あと、なんか綺麗に収まりそう」


『ついでの理由ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?!』


 我の叫びも虚しく、カオリはその拳に力を溜め込み、大きく振りかぶった。


「全世界の処女の怒り。悲しみ。嘆き。苦しみを、この一撃に込める」


 カオリの拳が赤く一際、光り輝く。


「さあ、逝け」


 そして………その拳が振り下ろされた。


「我、目指すは乙女の夢の花道。覇亜神露優怒(バージンロード)


 赤く、黒く、形容しがたい感情の光の渦に我は飲まれ、一瞬にして意識が断たれた。


 だが、その意識が断たれる寸前、フッと思い出した。


 我が友。我が同胞。先日、負傷し、現在療養中の同士の言葉を。






『カオリという女に気をつけろ。マジ、やべぇ』



 ああ、トゥルキング。

 カオリとは、あれの事だったか…………。


 そして意識が途切れた。





 ◇◇◇◇





「我、目指すは乙女の夢の花道。覇亜神露優怒(バージンロード)


 我が拳から、赤き力の奔流が迸る。

 その猛る力のままに拳を振るえば、ボッキーの全身が拳の一撃で弾け、赤き光に飲まれていく。


 やがて光が止めば、遥か彼方の木の幹に、黒く細く焼け焦げたボッキーだったものが張り付いていた。



「女罰完了。せめて来世は女心の分かる男となれ」


 深く息を吐き、構えを解いた。


 瞬間。この身を襲うは虚脱感。


 全身から空気が抜けるかのように力が抜け、代わりに凄まじい疲労感がやってきた。


 筋肉が萎んでいき、身体が縮む。


「ぐああ………力が………我が力が…………」


『カオリ?!』


『カオリっち!?』


「カオリ!?」


 ハンナ達が慌てて駆け寄ってくる。


 その間にも力は抜けていき…………。


「グアアアアアァァァァいだぁぁぁい?!?!」


 絶叫と共に地面に倒れた。


「痛い?!痛い痛い痛い!?全身の筋肉が痛い?!何これ?!馬鹿じゃないの!?」


 何、これ!?めちゃくちゃ身体が痛いんだけど?!全身バッキバッキなんだけど?!


『カオリ!大丈夫ですか?!』


「大丈ばない!?身体痛い!筋肉が痛いよ?!」


『カオリっち!しっかりして?!』


「駄目!死ぬ!ちょっと動かしただけで死ぬ程痛いんだけど?!」


「しっかりしなさい!ほら、深呼吸して!ヒッヒッフーヒッヒッフーって!」


「それ、ラマーズ法!別に陣痛じゃないし、処女だから暫く縁はない………って、何言わせるんだ!痛っだぁぁ?!」


 いや、本当になんなの?!

 なんかいきなり全身筋肉痛なんだけど?!

 どうすりゃいいのよ、これ?!


 ハンナ達が側に来て励ましてくれる中、ゆったりとして足取りでザッドハークが近付いてきた。


「フム。恐らくはスキルによる弊害であろう」


「スキルの弊が痛っだあぁぁぁぁぁぁ?!」


「ウム。先程カオリが使っていたスキルは肉体を強化するもののようだが、それの効果に身体が耐えられなかったのであろう。それでスキルが解けると同時に、その反動がきたのであろう。その痛みは暫しはとれまい」


「マジ痛でえええぇぇぇぇ?!」


 スキルの反動とかマジか?!

 確かにかなり強力なスキルだったけど、そんなリスクがあるだなんで?!

 この痛み、マジ半端ないんだけど?!

 筋肉痛、半端ないんだけど?!


「回復薬!そうだ、回復薬だ!?あれなら筋肉痛も和らぐのでは?!」


『カオリ。残念ながら回復薬では筋肉痛は消えません。あれは外傷等には効果はありますが、こういったものには……。神官などが使える自然治癒力上昇(リラクゼーション)ならば何とかなるでしょうが…………』


「神官を!!神官プリィィィィィズ!!」


『山だからいません。申し訳ないないですが、暫し我慢してください』


「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!」


 この筋肉痛を我慢だと?!

 我慢できる範疇を越えてるんだけど?!?!

 動くことすらできないんだぞ?!

 チクショウめぇぇぇぇぇぇぇ!?!?


「フム。しかし困ったものだ。動けぬならば誰かが担ぐしかあるまいが………」


『そうですね。ゴアは滑るし、私だと生命力を吸ってしまいますし、ジャンクは既に一人担いでいるし、ジェフリーはアベッちが許さないでしょうし………』


「気を使っていただいて、マジ感謝。アベッカ愛してる」


『友人を助けるためだから、私ら構わないわよ。ただ、感触を忘れてもらうために、あなたの背中の皮は剥ぐけど』


「誰か?!彼女を!?彼女と私を助けてくださああぁぁぁぁぁい!!アベッカ愛してる!!」


 ジェフリーさんが切羽詰まったような声で周囲を見回した。


「フム。となれば我が担ぐしかあるまい。力もあるし、カオリとは付き合いが長いし適役であろう」


「もう、誰でもいい……。誰でもいいから早く神官のもとまで………」


『そうですね。それが………』


「私がやるわ」


 満場一致でザッドハークが私を担ぐのに決まろうとした時、ゴルデが手を上げた。


「私が彼女を担ぐわ。回復したおかげで人一人担ぐくらいの力はあるし、同性だから気兼ねしなくていいでしょう」


「フム。しかし、仮にも我らは依頼で対立しているのではなかったか?」


 ザッドハークの言葉にゴルデは肩を竦める。


「もういいわ。こんな満身創痍じゃ、私達パーティーは依頼を完遂できそうにないから降りるわ。だから、あなた達の補助に回る。その代わり、山を降りるのを手伝ってほしいの」


「フム……それならば良いが」


 ゴルデはコツコツと私のもとへと歩み寄ると、屈みこんだ。


「だいたい、山を降りるとなれば山中の魔物とも必然戦うことにもなる。その時、身軽で戦える者が必要となる。私はもう装備がボロボロで戦えないし、シルビは魔力が無い。ブロズも戦力として劣るし、そうなると情けない話、そこの黒騎士さんに頑張ってもらわなきゃならない。だから、せめて私が担ぐわ」


 ゴルデはそう言うと、優しい手つきで私を起こして背負った。


「それに、散々助けられて何もしないだなんて、貴女風に言うなら『女が廃る』わ…………」


「ゴルデ…………」


 ツンと顔をそむけるゴルデ。

 その耳飾りは真っ赤に染まっていた。


「ありがとう…………」


「何で礼を言うのよ。それは私達の台詞よ」


 ゴルデに背負われながら礼を言うと、更に、耳が真っ赤になった。


 出会いは最悪だったが、本来は優しい人なんだろう。


「フム。では話は纏まったな。なれば、そこのブロズと言う女を起こし、茸を回収し、山を降りようぞ」


 ザッドハークの言葉に皆が頷き、行動を開始しようとした。


 その時…………。





 ズゴゴゴゴゴゴ!!


 空気全体が激しく揺れだした。



「えっ?ちょ?何?!地震?!」


『そんな筈はないわ。私の調べでは、ここらの地殻は安定しているから、こんな地震なんて起きる筈がないわ』


「じゃ、じゃあ、なんなの、この揺れ?!」


『分かりません……分かりませんが、何らかの強大化な魔力を感じます?!それに空間の揺らぎ?!恐らく何かが、何か強大な存在が、この空間に顕現しようとしています!?』


「何かって何?!ボ〇キング関連は止めてよ!?モモ〇ナルとか出ないでよ?!」


「訳分かんないこと言ってないで貴女は私に掴まってなさい!!なんとしても、貴女だけは守るから!」


『あなた。私も守って』


「守るから!絶対守るから!!だからナイフを私に突き立てて、取って代わりに掴まないでぇぇ!?アベッカ愛してる!?」


「ムウ?見よ、何かかが現れるぞ?!」


 ザッドハークが空間の中央を指差す。


 皆がそこに視線を集めると同時に…………。







 淡くも強力な緑の光が空間全体を塗りつぶした。

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