65話 聖域の守護者vs乙女達
『ビッチ狩り…………だと?』
訝しむような声で呟く謎の声。
土煙で見えないけど、声の位置からして、かなり大きいみたいだ。
「あ、あなた…………たち?なんで?」
足元から声が聞こえる。
見下ろせば、ゴルデが驚きと困惑が入り雑じったような顔で、こちらを見上げていた。
「あら金ビッチ?随分と質の良い泥パックをしているようで。流石はビッチ。使うものも一味違いますなぁ」
『よく似合ってますよ。血化粧が』
『なんなら、そこらの苔も足しましょう』
「なっ?!誰が金ビッチよ?!いや、ちょ?!苔をかけるな?!なんなの、この人形?!カオリって言ったわね?!これ、なんとかして?!」
挑発してみたが意外に元気そうだ。
私に顔を向けて助けを求めてる。
さっき見た時は今にも死にそうに見えたけど、命に別状はなさそうね。
「って?!それより早く逃げなさい!あんた達が勝てる相手じゃないわよ!?あれは化け物よ!」
土煙舞う方向を指差し、焦ったように叫ぶゴルデ。
私は収納空間から2つの瓶を取りだし、ゴルデへと放り投げた。
「ちょ?!わっ?!な、何よ?!」
「回復薬。飲みな」
慌てて瓶を受けとるゴルデ。
更にそんなゴルデの脇に、ゴアが触手に抱えていたものをソッと置いた。
「私達の心配より、自分の心配でもしてなさい。金ビッチ。取り敢えず、そこの銅ビッチとそれでも飲んでいなさい」
「ど、銅ビッチ?って、ブロズ?!」
ゴルデの脇に置いたのはブロズとかいう案内人だ。
さっき来る途中に落ちてたから、ついでにゴアが回収していたのだ。
気を失ってはいるが、幸い命に別状はなさそうだ。
「早く飲んで、そいつにも飲ませなさい。死んでも知らないわよ」
「わ、わかったわよ!」
早くしろと急かすと、ゴルデは瓶の蓋を取って一息で中身を飲み干す。
すると、ゴルデの身体が淡く光り、身体中の傷が瞬時に癒されていった。
「なっ?!こ、これは?ただのポーションじゃなくてフルポーション?!超高級品の貴重品じゃないの?!」
驚きに目を見開き、私を見上げるゴルデ。
私は無言で傷が直っていくのを見ながら、ブロズを顎で差し、早く飲ませろと指示する。
ゴルデはブロズの上半身を抱え、ゆっくりとフルポーションを飲ませると、ブロズの傷や火傷も瞬時に回復していった。
「ブロズ。よ、よかったぁ……。私、もう駄目かと…………あ、あんたらありがとうね。い、一応は礼を…………」
『カオリ。それって確か?』
「うん。メル婆の店で消費期限切れで貰ったやつ。効果はあるけど必ず腹を壊すから、よっぽどじゃない限り使うなって………」
グキュゥゥゥゥゥゥ。
「は、腹がぁぁぁぁぁぁぁ?!は、嵌めたわねぇぇぇ?!あ、あんたら………後で覚えてなさいよぅぅぅ?!」
腹を押さえて踞るゴルデ。
その隣ではブロズが青い顔で踞っていた。
ハッ。ざまぁ。
『流石ねカオリっち。救助と復讐を同時にやりとげるなんて。あとは腹を蹴れば、こいつらは女として終わりよ。今からあんたはミソビッチよ』
「ちょ?!は、腹を狙うな!蹴るな?!この人形をどうにかして?!てか、ミソって何よ?!」
「前向きに検討します」
「それ、絶対止めないやつぅぅぅぅ?!」
ズシン。ズシン。
と、そこで辺りに地響きが響き渡る。
どうやら土煙の向こうから、ゴルデ達を痛めつけた奴が近付いているようだ。
『我を置いて随分と楽しそうだな、侵入者。新たに最低2人は侵入していたとは感じてはいたが、そうか……貴様がそれか』
威厳と自信に満ちたような声が響く。
「まあ、そうね。で、あんたが私の獲物を奪った奴ってわけね?」
『獲物だと?はて、なんのことだ?』
「こいつらよ、こいつら。ここにいる金と銅のビッチ共よ」
足元のゴルデ達を指差す。
すると、土煙の中から一瞬キョトンとしたような雰囲気が伝わった。
だが直ぐに大声量の笑い声が辺りに響いた。
『グ、グハハハハ!そうか、その女共が狙いであったか。ならば悪いことをしたな人間。ついつい興が乗り、痛め付けてしまったわ!グハハハハ!』
無駄に大声で笑う奴だな。
なんだか知らないが腹が立つな。
絶対まともな面してないだろ?
『クックックッ……それでわざわざそいつらを追って、このように山深い地まで来たと?』
「いや、違うわよ。ビッチ共の始末はついでで、一応は依頼でやってきたのよ。ここにある気持ち悪い茸を取りに」
瞬間。凄まじい威圧感が放たれた。
笑い声が止み、怒気を孕ませた声が静かに響いた。
どうやら琴線に触れたようだ。
『成る程。貴様も結局は、我が神域にして聖地を汚しにきた愚か者ということか。少しはおもしろい奴が来たかと思ったのだが…………残念だ』
ズシン。ズシン。
足音らしい地響きが近くなってくる。
『この神域を汚し、愚かにも侵入してきた者よ。我は貴様らを、全霊を持って滅ぼしてやろうぞ!!』
ズシン。ズシン。
更に足音が近付く。
「…………ハンナ。結界は?」
『万全。既に金ビッチを中心に、半球状の結界を多重に設置。よっぽどじゃない限りは壊れません』
「そっ、ありがとう。という訳で、ミソビッチ。あんたらは結界の中で引き込もってなさい。あいつは私達がやるわ」
足元にいるゴルデにそう言うと、彼女は一瞬キョトンとしてから、慌てたように叫びだした。
「ちょ?!まさか戦うつもり?!無理よ、無理!?あれは本物の化け物よ?!あんたらが束になったって敵う訳がないわ!ここは隙を見て、逃げましょう?!てか、誰がミソビッチよ?!」
ワーワーと騒ぐゴルデを尻目に、私達は結界の外へと出ていった。
「ちょ?!あんたら!?」
「まあ、そこで大人しく見てなさい。こいつをブッ倒して、茸を回収してやるから」
『ええ。どのみち茸回収には邪魔な存在のようですしね』
『カオリっち達が邪魔だと言うならば、私はマブダチとして手伝うだけよ』
「あ、あんたら…………」
唖然とするゴルデ。
私達が死地にでも赴くと思っているのだろうか。
だが、生憎こちとら生きるき満々。
彼氏も作らず死んでたまるかってんだ。
「安心して待ってな。茸の一本くらいは分けてやるわよ」
「いや、茸なんてもういいわよ!依頼なんかより、あんたらが…………」
「まあ、そんなのは建前で、本当はちょっとあいつに教えたいことがあってね」
「えっ?教えたい…………こと?」
困惑するゴルデ。
私は横目でゴルデの姿に目をやる。
ボロボロの衣服。
壊れた装備。
今は回復したが、全身の火傷や怪我が酷かった。
下手をすれば後々に残ってしまうかもしれない程の傷だった。
「…………チッ」
ゴルデから目を離した私は、土煙で隠れる不届き者を真っ直ぐに睨んだ。
「ちょいと女の扱いを知らない糞野郎に、女の正しい扱いを教えてやろうかなっと」
『賛成です。随分と女性への扱いが差別的な方なようですから、しっかりみっちり教えませんと』
『女は陶器のように壊れやすく、絹のように繊細で、果実のように傷付きやすい。そんな花のように可憐でか弱き乙女の扱い』
『『「骨の膸まで刻みこんだらぁぁぁぁ!!」』』
一斉に武器を構え、土煙の向こうへと雄叫びを上げた。
『『「かかってこいやぁぁぁぁぁぁ!!!」』』
『グハハハハ!愉快、愉快!今日は本当に愉快なり!!まさか、この我に正面から挑もうとする者がいようとは、真に愉快である!!』
ズシン。ズシン。ズシン。
こちらに近付く足音が速まった。
『よかろう!久方の客だ!この我が、全身全霊をもって、貴様らに絶望を与えてやろう!』
ズシン。ズシン。ズシン。ズシン。
足音は走るような音となる。
更には土煙が晴れ、此方に近付く謎の存在の姿が露となった。
『さあ、我が威容に恐怖し、平伏すが良い!
我が名は─────── 。
─────── ボ〇キング。
偉大なりし世界樹様に支えし大地の守り手。
栄えある十大植傑が一柱よ!!』
土煙が晴れた先。
そこには推定8メートル程の超巨大ボ〇キノコに、筋骨隆々の足を生やした異形がいた。
「………………………ゴメン。もう一回言って?」
『我が名はボ〇キング。偉大なりし世界樹様に支えし大地の守り手。十大植傑が一柱よ!!』
「うん、ありがとう。聞き間違いじゃなかった。そんでちょいタンマ」
ハンナとアベッち達にチョイチョイと手招きをし、私のもとへと集合してもらう。
「ハンナ…………どう思う?」
『いや……どうもこうも間違いなく関係者ですよね。アレの』
『えっ?どうしたの?あの歩く公然猥褻物と知り合いなの?』
「いや、知り合いではないし、知り合いたくない。ただ先日、あれの関係者とやりあってさ……。なんか言ってたじゃん?十大しょくなんちゃらなんちゃらって?あれのお仲間と」
『我々が勝ちましたが、まさかこうも早く同じ関連関係者のやつが出てくるとは………』
「私もびっくりだわ。トゥルキングと戦ってまだ数日だよ?普通、ナンバーズとか十二神将とかのシリーズものの敵でも、もうちょい出番に間開けるっての………」
『何が言いたいか分かりませんが、気持ちはわかります』
『そう。そんなことがあったの。確かに関連関係者が出てくるにはまだ時期尚早ね。でも、相手にしない訳にはいかないんじゃないの?』
『おい。まだか?』
「もうちょい待って。直ぐ終わらせる…………で?やっぱ相手しなきゃいけないよね?啖呵切ったからには」
『ですね。あれだけイキッちゃったからにはやらなければいけないでしょう。後には引けません。あれとはやりたくないですが………てか触りたくない』
『まあ、仕方ないわね。私もあんな歩く男性器を相手どりたくないけども、カオリっち達を放っておくなんてできないわ』
「ありがとね。ゴアも、今回は手伝ってよ?」
『x5了t21か』
「よし。じゃあいきましょう」
「待たせたわね」
『本当に待ったぞ』
憮然とした態度で仁王立ちするボ〇キング。
見れば見る程あれだ。酷すぎる。絵面が酷い。
正視に耐えん。
見苦しいの一言だ。
トゥルキングのが万倍マシだ。
それに名前。
この名前………口にもしたくないし、考えたくもないんだけど………。
「えーと………その………何とかキング」
『ボ〇キング』
「知ってる。言うな。ただ、私の心のコンプライアンス的に略称で呼ばせてもらうわ。ボッキー」
『加速度的に軽々しさが上がったのだが?というか、フレンドリー?あと、その呼び方は、一歩間違えればなんらかの圧力がかかりそうな………そんな畏怖を感じるのだが?』
「それは私も思う」
主に某、チョコレート系菓子の商標登録名的なもので。
「という訳でボッキー。私はこれからあんたに女の扱いってものを骨の膸まで叩き込んでやるわ」
『我、骨無いが?』
「生真面目か。言葉の綾よ。いちいち揚げ足をとんな、この歩くセクハラが」
『セクハラの意味は知らぬが、侮辱されていることは理解したぞ』
「理解してない。むしろ、侮辱されてんのはこっち。セクハラ概念の奥深さと闇の深さを舐めんじゃないわよ」
チャキリと剣助を構え、真っ直ぐにボッキーを睨んだ。
「まあ、なんでもいいわ。取り敢えず、ボテクりかまして泣かせたるわ。剣助、久々に暴れるわよ。準備いい?」
手に持つ剣へ語りかけると、剣助の刀身がピカピカと明滅する。
『本当に久々なんですが?一部の方々には私の存在すら忘れ去られているのでは?』
「一部の方々って誰よ?何の話よ?今日はとにかく暴れて一発かますから、しっかりサポートしなさいよ!」
『言われずとも!!ただでさえ死ぬだけのポンゴより出番に遅れをとっているのですから!喋る剣というファンタジー界定番要素の一角を飾るものとして、敗ける訳にはいきません!!』
「何を言ってるのかは分からないけど、いい気迫よ。帰ったら手入れしてあげるわ!」
『できれば鍛冶屋での手入れを!!ご主人のヤスリを使った素人手入れはご勘弁を!!刀身と精神がダブルの意味でゴリゴリ削れます!!』
「前向きに検討します」
『それ、絶対止めないやつぅぅぅぅ?!』
手元から聞こえる剣助の叫びを無視し、チラリと横目でハンナ達を見やる。
「ハンナ。ゴア。アベッち。準備はいい?」
『こちらはいつでも。ただ、カオリが突然一人で語りだしたので心配でしたが』
『私もいつでもいけるわ。カオリが精神でも病んだのかと心配だっただけで』
『まtU5堂ゃ01』
「だから嫌なのよ、この剣使うの!自分にしか剣の声が聞こえないって、そりゃ端から見れば頭おかしい奴よね!!サ〇コだもんね!!」
もしくは厨二病患者かもしれない。
取り敢えず、気を取り直し、ボッキーへと相対する。
私は剣助を手に。
ハンナは背後に複数の魔法陣を展開し。
アベッちは肉切包丁を背に、ゴアの触手をハンドルのように掴み。
ゴアは触手を回される度に目をピカピカと明滅させ。
それぞれが戦闘態勢を整えた。
「よし!じゃあ、いくわよ!覚悟しなさいよ、このセクハラ茸!その気持ち悪い胴体を半ばから折ってやるわ!」
『凍らし、焼いて、溶かして、痺れさせて、最後は串刺しの標本にして差し上げます。魔導の真髄を見せてやりましょう!』
『洗って、裂いて、切って、炊いて、煮込んで、茸のフルコースにして、あの人に食べてもらうわ!さあ、ゴア、フルスロットル!ブンブン行くわよ!』
『部ー!bUー!ぶー!』
やる気満々な私達。
ボッキーはそんな私達を見下ろしながら、高らかに笑いだした。
『グハハハハ!良いぞ!良い気迫だ!!我もこれ程にたぎるような気「逝けやぁぁぁぁ!!」危ねぇぇぇぇぇぇぇ?!?!』
惜しい。
全力で投擲した剣助を間一髪で避けられた。
ちょっと胴体部の右側が斬れた程度だ。
なんか口上述べて隙だらけに見えたから投げたけど、意外にも周囲を警戒してたみたいだ。
剣助が飛んでいった方向から『こんなこったろうと思ってたけどねえぇぇぇぇ!!』とドップラー効果をきかせた叫びが聞こえてきたが、予想してたのなら気にすることもなかろう。
『ちょ?!きさ、貴様、マジか?!今、完全に殺りにきただろう?!口上述べているのに殺りにきただろう?!ちょっと斬れ『地獄灼熱球!!』あづぅ!?危っ?!』
再び何か言おうとしてたボッキーの隙を突き、ハンナが巨大な炎の玉の魔法を撃ち出した。
が、意外と反射神経が良いようで、これもギリギリかわされた。
私が斬ったのとは反対側が、ちょっと焦げた程度だ。
『待て!待て待て待て!!ちょっと待て!?貴様ら、常識ってものがないのか?!いきなり何の前触れもな『ゴア!フルスロットル全開よ!』く功『ビガァァァァァァ!!』あい"やぁぁぁぁぁぁ!?』
今度はゴアの熱線が避けられた。
左右に回避できないように確実に頭を狙ったものだったが、両足を左右に広げて開脚し、低い姿勢となってギリギリ避けやがった。
見た目によらず、意外と柔軟らしい。
『ちょ、待てよ?!待て待て?!少しは話を聞け?!先っちょ、少し焦げただろ?!なんだよ、今の熱線?!貴様ら、なんでそんなに生き急ぐような戦いをするのだ?!もっと、こう、劇的な『オラァァ!!一斉攻撃だぁぁ!!』展か『『『ウオオオオ!』』』頼むから話を聞けよぉぉぉ!!??』
ボッキーが悲痛な声で叫ぶも問答無用。
私達は勢いよく走り出し散開。
左右正面に別れて攻撃を開始した。
『凍てつきし氷の刃よ!闇を纏いて槍となり、我が敵を討て!暗黒氷鋭槍!』
左へと回ったハンナが、魔法陣から大量の黒い氷の槍を照射した。
氷の槍はボッキーの体を穿ち、次々と風穴を空けていった。
『ヌグッ?!ヌァァァァァ?!じょ、上位氷魔術と闇魔術の合わせ技だと!?しかも、この数!?只者であるまい!?貴様……一体?!』
『かつての大賢者、ハンナ=ミュラコスフなり!』
『えっ?ゴメン。知らない』
『殺す!!』
『グキャアアアア?!』
結構知名度を気にしてるハンナ。
怒りに狂った彼女は、更に魔法陣を展開し、膨大な量の氷の槍を照射していった。
『ウヌヌヌ!!舐めるなよ、小娘が!!菌糸再生!!』
氷の槍で結構な数の風穴が空いたボッキー。
だが、急にその体が光だしたと思えば、その風穴がみるみると再生していった。
『なっ?!再生した?!』
驚きの声を上げるハンナ。
すると、背後からゴルデが叫んできた。
「気をつけて!そいつは茸の菌糸を自在に操れるわ!!空気中の菌糸を集めて再生したり、地面から茸を生やしたり、菌糸を爆破させたりと多種多様よ!!」
『このミソビッチが!!もっと早く教えなさいよ!使えないな!!』
「親切に教えてやったのに何よその言いぐさ!?それに誰がミソビッチよ!?」
言い合いをするハンナとミソビッチ。
その間にもボッキーの穴はふさがり、やがて完全に再生し、高笑いを上げた。
『グハハハハ!その通りわ『ビガァァァァァァ!』………………………………』
が、背後から放たれた熱線により、上半身部分が一瞬で吹き飛んだ。
『ナイスよ、ゴア。このまま残った粗末な下半身も纏めて処分よ』
『了ka1!』
バイクのようにゴアを乗り回し、右手に回っていたアベッちがボッキーの隙を突き、背後からゴアに熱線を放たせたのだ。
アベッちは素晴らしい触手捌きでゴアを操作し、残ったボッキーの下半身に止めを刺すべく走り出した。
だが、そんなゴア達の進む先の地面が揺れだし、次の瞬間には巨大な茸が次々と生えてきた。
そして、巨大な茸の壁となってゴア達の行く手を防いだ。
その隙に、ボッキーの下半身が走り出し、逃亡を開始した。
「くっ!?茸を壁にして時間を稼ぎ、身体を再生するつもりよ!!直ぐに茸の壁ごと、さっきの熱線で焼き払いなさい!!さっきの威力ならできるはず!よ!」
結界の中からミソビッチがアベッちに向かって叫ぶ。
先程の熱線の威力ならば、壁の茸ごと残った下半身を倒すことができると考えたようだ。
確かにそれは可能。今はまさに千載一遇のチャンスである。
そして茸の壁に突き進むアベッちは…………。
『なっ?!茸の壁!?しかも、エリンギに舞茸、ブナシメジ!?椎茸に松茸、ナメコにキクラゲにトリュフまで?!こんなの、帰りに狩っていくしかないじゃないの?!ゴア、迂回よ!あれは無傷でそのまま確保よ!!終わったら持ち帰るわ!』
『はt20ら是』
ゴアに急ブレーキをかけてドリフトさせ、茸の壁を大回りに曲がった。
「ちょっと待てぇぇ!?なんで曲がるのよ?!大チャンスだったのに何でみすみす逃すのよ?!馬鹿なの?!茸ごと焼き払いなさいよ?!」
『うるさいわね、ミソビッチ!!こんな立派な茸を無駄にできる訳がないでしょ!!食材を無駄にするのは女の恥よ!!』
「いや!?今はそれどころじゃないでしょ?!カオリからも何か言ってやって?!」
「流石はアベッち。時期によっては値段が高い茸を無傷で確保し、家計の足しにする。いよっ、妻の鏡!女子力高いよ!」
「あんたら、女子力勘違いしてないっ?!」
ミソビッチが何か叫んでいるが無視。
だが、正面にいたおかげで壁に阻まれなかった私は、逃げていくボッキーの下半身を素早く追いかけた。
すると、逃げるボッキーの下半身が光だし、焼け落ちたところからモコモコと上半身が生え、元通りに再生したのだ。
『はぁ………はぁ………危なかったぁぁ?!本当に危なかったぁぁ?!危うく死ぬところだったぁぁ?!というか、あればなんなんだ?!あの熱線は?!火に弱い我とはいえ、ちょっとやそっとの火炎魔法では傷もつかぬのに!それを…………』
「待てやコラァァァァァァァ?!」
『ひっ?!』
逃げるボッキーを全力で追う。
両腕を降り上げ、ランナーのように駆けていく。
ボッキーはそんな私に気付くと、声を引きつらせ、更に逃げる速力を上げた。
『な、なんなんだ、奴は?!くっ、無様だが、一度距離をとって態勢を立て直す!これだけ距離が開けば逃げき…………』
「『猪突猛進』『デスタックル』合成!!合技発動!!『刹迅行進曲』!!」
私はボッキーを追いかけながら、自身の中にある二つのスキルを意識する。そして、新スキル混沌タル超獣ノ王で合成し、発動した。
瞬間、足腰に凄まじいまでの力がみなぎり、一気に急加速する。更には全身が硬化し、より強靭となった。
周囲がスローに見える程の速度。
ボッキーにも直ぐに追い付いた。
そして…………。
「ブモオオオオオオオ!!」
『えっ?ひっ?ギィヤアアアアアァァァァ?!』
身体全体を使ったぶちかましを喰らわせた。
ぶちかましを喰らったボッキーは、トラックにでも跳ねられたかのように激しく飛び、そのまま勢いよく回転しながら地面へと着地。めり込んだ。
犬〇家状態となり、結構なダメージなのかピクピクとしか動かないボッキー。
しかし!こんな簡単には終わらせはしない!!
あのミソビッチが受けた痛みはこんなものじゃないはず!!
再びボッキー目掛けて走り出し、勢いをつけて跳躍。
空中を跳びながら、再びスキルを発動する。
「オラァァ!!『クラブチョッパー』『デスクロー』合体!!合技発動!『蟹蟹大回転』!!」
スキルを発動すると、私の体がドリルのように回転。更に伸ばした手が蟹の爪に瞬時に変化し、鋭く赤い爪先を持つドリルとなって、地面にめり込むボッキーへと襲いかかった。
「カァァニィィィィィィィィィ!!!!」
「グアアア?!ヘブシッ?!」
ボッキーの胴体部へと到達すると同時に、その体に易々と巨大な風穴を空けた。
そして、着地。
そのまま踵を返してピクピクとするボッキーへと走り寄る。
そして…………。
「ウオオオ!『ベアマックスパワー』『ゴリマックスパワー』合体!合技発動!!『超怪力巨獣化!!」
全身の筋肉が波打つ。
体の中から力が止めどなく湧き上がる。
腕が。足が。胸筋が。腹筋が。あらゆる筋肉が肥大化し、力が込み上げてくる。
力が…………力が…………。
野生の力が目覚める!!
ビキビキビキビキ。
「ウボオォォォォォォォォォォォ!!」
我、今開眼せり。
◇◇◇◇◇◇
遡ること少し前…………。
ボ〇キノコが大量に生える広場を、三人の影が走っていた。
それはザッドハーク、ジャンク、ジェフリーと、ジャンクに抱えられたシルビ達だった。
彼らは香達に遅れ、ゴルデ達の下へと走り急いでいた。
「ジャンク、ジェフリー急ぐのだ。既に戦いは始まっているようだぞ」
「ハァハァ……こちとら人一人抱えて走ってんだぞ?!その上、お前の回復を待ってたから遅れたんだろうが?!ピクピクと痙攣しながら気絶しやがって!」
「仕方なかろう。カオリめの肘打ちが的確かつ強力に鳩尾へと入ったのだ。あれを喰らわば気絶もやむを得ん。そういうならば、汝一人で先行すればよかろう」
「馬鹿野郎!?あのとち狂った四人を俺一人でどうにかできる訳がないだろ?!死ぬわ?!」
「ウム。まあ、そうであるな。時にジェフリーよ。汝は大丈夫なのか?何やら前屈みになっておるが?」
ザッドハークはそう言うと、やや遅れて前屈みで走るジェフリーをチラリと見やった。
「大丈夫じゃない………大丈夫じゃないですよ。さっきアベッカに無理矢理に茸を口にねじ込まれ、少し飲み込んだだけでこの有り様………何だ、あの茸?大丈夫な訳がない。アベッカ愛してる」
ジェフリーは先程アベッカを羽交い締めにした際、彼女が手にしたボ〇キノコを口にねじ込まれていた。
そして、その茸の効能なのか、先程から股間が大変なこととなっていたのだ。
以来、ジェフリーことペトラは、何故か顔面蒼白となり、仕方なしに前屈みで走っていたのだ。
「フム。しかし、かなりの効能があるようだな。ここまでの速効性と効果となれば、王も欲しがるというものだ」
「王が欲しがるって………あの、あなた方の任務って確か国の運命を左右するってのは、やっぱり?アベッカ愛してる」
「ウム。子作り的問題だ。王の〇ンコが〇〇なくなったので、それを直す薬の素材たるボ〇キノコを採りにきたのだ。しかし、子が無いならともかく、既に王太子もいるので、国の運命とは少しばかり言い過ぎであろうが」
「チックショオオオオオオオオオオオ!!アベッカ愛してるぅぅぅぅぅぅ!!」
ペトラは激怒した。
同時にやるせなさを感じた。
諜報部が掴みし情報のままに潜入し、案内人の山男に殺されかけ、香達ヤバい系と出会い、ヤンデレストーカーに外堀を埋められ、山でも死にかけた。
だが、そんな苦難も任務の為と己を殺して励んだ。
全ては、国の命運を左右するアイテムを手に入れるため。
だのに、そのアイテムとやらの全容は『王様の勃〇不全を直すための精力剤』。
国…………関係なくね?
ペトラはやるせなさと、行き場所の無い怒りのままに叫んだ。
前屈みで。
「チックショオオオオオオオオオオオ!!アベッカ愛してるぅぅぅぅぅぅ!!」
「おい、急にどうしたんだ?!擦れて痛いのか?」
「痛いよ?!心も!股間も!?アベッカ愛してる!!」
「いっそ、そこの影で一度抜いた方が良いのでは?我らは見なかったことにするし、ジャンクがちょうど良いネタを背負っておるし、それを見ながらシコ……」
「できるかぁぁぁぁ?!んな、恥ずか鬼畜な事ができるかぁぁ?!ただでさえ服破れた女が近くにいて、俺の股間がこんなことになっているという言い訳ができない状況になってるのに、そんな事をしたなんてアイツにバレた日には…………オボゲベゲベェェェェ?!」
「おい?!こいつ吐いたぞ?!走りながら吐いてるぞ?!」
「急激なストレスによるものであろう。前屈みになったり、走ったり、吐いたりと、こやつも難儀なものよのう…………」
哀れみの視線を受けながら、ペトラは走る。
前屈みでゲロを吐きながら。
「ムッ?見よ。何やら轟音やら熱線が見えるぞ。カオリ達に追い付いたようだ」
「やっとか?!結構離されていやがったな。おい、ジェフリー。お前、大丈夫か?」
「オボゲエエェ………ダイ"ゾヴ………アベッガあイ"ジデル"……」
「大丈夫じゃねぇな………お前は後ろに隠れてろ。そんで落ち着いてから出てこい!!」
「バイ"………アベッカアイ"ジデル"………」
えづくジェフリーを宥めながら走るジャンク。
すると、前を走るザッドハークが前方を指差しながら叫んだ。
「ムッ?あの巨大な岩の向こうのようぞ。もう直ぐぞ」
「取り敢えず、嬢ちゃん達が負けるとは思わないが、その化け物ってのにも警戒はしなきゃな」
「ウム。準備は万全よ」
大剣と盾を構えるザッドハーク。
ジャンクもシルビをしっかりと抱えつつ、腰にある剣の位置を確認する。
ジェフリーはようやく吐き終わり、水袋から水を口に含んで口をゆすいでいた。
そうして遂に、ザッドハーク達は香達のもとへと辿り着いた。
そこには…………。
香の着ていた悪魔のような鎧を纏った推定5メートル程の筋肉質な巨人の化け物が、男性器に足を生やした謎生物を片手で軽々と掲げていた。
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