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63話 いざ霊峰へ!襲いくる魔物達の危機!!

【ペトラ視点】


 『なぁに?二人で話したいことがあるって?』


 私は今、ちょっぱーくんことアベッカの通信水晶が入った人形を連れ、ジェフリーの部屋へときていた。


「ああ、かなり重要な案件だ」


『重要な案件?結婚式の日取りかしら?それなら安心して。既に、湖のほとりにある小さくて可愛い教会での結婚式の予約は済んでいるわ。私達の仕事場の関係部署や親族友人一同にも連絡は済んでいるし、日取り、ウェディングドレスやスーツの準備、当日の移動手段、宿泊場所、お食事、宴会場、余興の順番、三次会までのお店の予約まで、全て完璧に調っているわ』


「安心できないし、ある意味頼もしすぎる」


 もはや外堀を埋めるどころか、不落の城塞を築かれていた。


 そろそろ本当に覚悟を決めた方が良さそうだ。


「いや、結婚式のことじゃない。それも気掛かりというか、不安が半端ないが今はいい。それ以上の問題があるんだ」


『問題?お金のことかしら?なら、問題ないわ。私、これでもかなり貯蓄はあって、それなりに裕福なのよ?例えあなたが収入のない甲斐性なしだとしても、未来永劫飼っていられるだけの貯蓄はあるわ。それどころか、あなたの親族一同全員を囲えるだけあるわね。個人財産の額ならそれなりで、多分魔王国でも上位10位以内には入るかしら?』


「全く話したい事とは違うが、私が思わぬ逆玉に乗っていたのは理解できた。あと、甲斐性無し言うな。生活に不自由のない程度は稼ぐわ」


『あら。頼もしい。私に頼りきらず、自分でどうにかしようと頑張るそんなあなたの姿、私は好きよ』


 ほんの少し。

 ほんの少しだけ、可愛いと思ってしまった。

 声しか知らず、顔も知らない相手なのに、一瞬ときめいてしまった。


「……………………」


『あら?もしかして照れてる?可愛いわね。そのまま剥製にしてリビングに飾りたいくらいだわ』


 撤回する。

 先程のはトキメキではなく、ただの緊張からくる心臓の動悸であろう。


「それで話したいことだが………事前に言っておくが、結婚でも貯蓄でも家でも子作りのような私用な話ではないからな?仕事だからな?仕事で任務に必要な話だからな?」


『あら?子作りのことまで考えてくれてるのは嬉しいわね。まあ、それは追々拘束ベッドの上で聞いてあげる。それで、話ってなに?』


「今、ベッドの前に聞き捨てならないものがついたような?い、いや、今はいい。それでだが、この後にカオリ達を連れて山へと入るだろう?」


『ええ。あの糞ビッチ共を奇襲し、始末し、処理するために山へと入るわね』


「違う。違うからな?なんか女共を始末するのがメインみたいになってるが、全然違うからな?人間の国の命運を左右する何らかのアイテムを手にするために山へと入るんだからな?」


 忘れがちだが私の任務はアイテムの破壊または回収であり、決して死体処理でも身を呈した特効でもない。


『あー……そういえば、ついでにそんな話もあったような気がするわね』


「ついでじゃない。メインだ。それでだが、アベッカ。山に入るにあたり、君にはそれとなく霊峰に関する情報を適宜私に教えてほしいんだ」


『霊峰に関する情報?でも、それなら山の専門家のあなたなには必要ないのでは?』


「だから!?私は山の案内人に変身している隠密部隊の者であって、本物の山の専門家じゃないんだ!?知識も技術も経験も乏しい一般人……いや、それ以下の素人なんだ!?」


 カオリとかはともかく、何故にこちら側で事情を知っているであろうアベッカまでもが私をプロだと思っているのか?


 色々と盲目になり過ぎではないだろうか?


『そう言えばそうでしたね。ついついそうだと思い込んでしまいました。剥製にした方がよろしいですかね?』


「期待に応えられず、すみませんでした!!後ほど、別の方法で必ずや挽回しますので、どうかここは穏便に!とくに剥製はご勘弁を!!」


 迷わず剥製にしようとするあたり、ほんとにとんでもないのに目をつけられたようだ。


 前の男が他に女をつくったのが分かる気がする。


 そしてよく裏切れた。ある意味勇者だ。


『仕方ないですね。取り敢えず、『アベッカ愛してる』と語尾に必ずつけることで許しましょう』


「ありがとうございます!アベッカ愛してる」


『いい子』


 ある種、とんでもない罰を抱えてしまった。


 毎回言葉を話すたびに惚気ているようになってしまった。


 実際は呪縛のようなものだが。


『それで?どういった具合に私は情報を送ればいいのかしら?』


「取り敢えず、私が偽物だとばれないようにしてほしい。具体的には、カオリ達を私が道案内し、向こうが私に山について何か聞いてきたならば、小声かなんかでその情報を調べて教えてもらいたい。アベッカ愛してる」


 最初は出来る限りで情報を頭に詰め込もうとしたが、無理だった。

 ジェフリーの部屋にある霊峰やら山に関する資料が膨大すぎて、何を覚えればいいのか全く検討がつかなかった。


 だって霊峰の資料って書かれた極太の書物が、でかい本棚にぎっしり百冊はあるのだ。


 こんなん短時間で覚えられる訳がないし、何をどこから見ればいいのかも分からんわ!


『成る程。つまりはカンニングの手伝いのようなものね』


「例えが微妙だが、概ねそうだ。アベッカ愛してる」


『でも、あまり気がすすまないわね。友人達を騙すのは気が引けるし…………』


 既に変身して騙している時点で今さらだし、これから更に任務で騙さなきゃならんのだぞ。


 アベッカもアベッカで騙してはいないが、魔王軍関係者だと話していないしな。


 アベッカは乗り気じゃないが、彼女の助けなしには乗り切れそうも…………。


 …………劇薬だが、背に腹は代えられぬ。


「そこは、ほら………こ、これが私達の初めての共同作業ということで、一つやってもらえないだろうか?!アベッカ愛してる」


『さあ、あなた。霊峰に関する情報を寄越しなさい。3分……いえ2分で全て頭に叩き込むわ』


 よし、チョロい。


「流石はアベッカ。愛すべき妻だ。君の働きに私の脛やアンデッド化がかかっているから、是非とも頼むよ。アベッカ愛してる」


『ああ、あなた………そこまで私のことを?ああ、不味いわ。あなたがあまりに愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛が溢れ、今すぐ連れ帰って地下の施設に拉致監禁し、一生私の手元で飼ってあげたいわ』


 劇薬が過ぎた。


 チョロいからと調子に乗ったら過剰反応してしまった。


 ヤバい。拉致られ監禁され飼われる。


 というか、地下の施設ってなんだ?何があるんだよ?知りたくないが。


『さあ、あなた。私は今やる気に満ち溢れたわ。資料をここへ。霊峰の地理・気候・環境・生息生物・名所・生えてる木の本数まで、余さず記憶するわよ』


「ほどほどでいいですよ。アベッカ愛してる」


 


 その後、本気を出したアベッカは、あの膨大な量の資料を僅か1分で全て記憶してしまった。


 嫁があまりに優秀で頼もし過ぎて、逆に背筋が凍る程に怖すぎる……。


 


 

 ◇◇◇◇

【香視点】


 

「さあ、早くあのビッチ共を追いかけるわよ」


『奴らは茸狩りのつもりだが、狩られるのは己自身だと身をもって教えてやりましょう』


 目の前に聳える霊峰を見ながら、ハンナとビッチを狩るイメージトレーニングを行う。


 忍び寄り、隙を探し、奇襲をかけ、始末する。


 流れは概ねこうだ。

 まあ、奇襲をかけれなければ強襲に変更するだけであるが。


「嬢ちゃん……俺らも目的は茸だからな?決してあの女共を始末するのが目的ではないからな?」


 疲れた顔のジャンクさんが嗜めてくる。


 依頼のことが心配なようだが、言われずともそれは分かっている。


「分かってますよジャンクさん。最良のプランとしては、奴らが茸を手に入れたところを、私達が奴らごと茸を狩る。これが一番でしょう」


「それはただの盗賊行為だからな?!」


 頭を抱えて叫ぶジャンクさん。


 どうしたのだろう?

 旅の疲れでも出ているのだろうか?


「やあやあ、お待たせして申し訳ありません。アベッカ愛してる」


『待たせたわね、友よ』


 なんやかんやとやっていると、山小屋から案内人のジェフリーさんと、その肩に乗ったマブダチのアベッカが荷物を背負って出てきた。


「出てきて早々に見せつけてくれますね」


『愛されてますね、アベッカ』


『彼は私にぞっこんですから』


「仕方がないとはいえ、心のダメージが既にピークですね。アベッカ愛してる」


 虚ろな目をしたジェフリーさんが、何かうわ言のように呟いた。


 アベッカ。朝、出会ったばかりの謎の人物だが、何故だか彼女とは十年来の友人であるような親近感を覚える。


 理由は知らないが、今は本体はここには来れないとのことで、通信水晶だかを入れた人形────メル婆のとこで気の迷いで買った不気味なヌイグルミ。ちょっぱーくん────越しでの会話だけの関係だが、いつかは直接会ってお茶をしたいものだ。


「フム。全員揃ったようだな。それでは早速山へと赴こうぞ」


 ザッドハークが最後のメンバーのジェフリーさんが来たことを確認すると、霊峰マタマタへと向かって歩き出した。


 それに続き、私達も歩き出した。


 どうでもいいけど、あいつ頭を完全にかち割ったはずなのに、普通に再生しているな。


 あいつの生命力はどうなっているのだろうか。


「そ、それでは皆様、いってらっしゃいませ!」


 背後からピノピノさんが手を振っていた。


 ピノピノさんは山小屋までの道案内人で、ただの一般人だ。そのため、山に入るのは危険であり、ここで留守番をして、私達の帰りを待ってもらうこととなった。


 私はピノピノさんへと振り返り、大きく手を振った。


「なるべく早く戻るようにしますので、留守をお願いしますね?あと、ポンゴにデュラハン2号・3号!スケルトンズ!ピノピノさんをしっかり守りなさいよ!」


『ギュルゴアアアアアアア!!』


『主よ、お任せあれ!』


『命にかけ、任務を全うしまする!!』


『『『『お任せあれ!』』』』


 ピノピノさんの背後にいるポンゴと、彼女を挟むように左右に並ぶデュラハン達や大量のスケルトンが、手やら尻尾を振ってくる。


 彼等はピノピノさんの護衛を任せたメンバーだ。

 流石に山小屋に女の子一人を残しておくわけにもいかないので、適当に腕の立ちそうなデュラハン達と、雑用の手伝いとしてスケルトンを残してきたのだ。


 ピノピノさんは気をつかわれるのが苦手だったのか、涙目で断ってきたが、遠慮することはないと置いてきた。


 まあ、あいつらなら彼女に変なことをする訳もないし、そこらの魔物や犯罪者が襲ってきても返り討ちにできるだけの力はあるから安心だろう。


「ほ、本当に早く帰ってきてくださいねぇぇ!!」


 切羽詰まったようなピノピノさんの声を背後に、私達は遂に霊峰マタマタへと足を踏み入れた。


 


 


 


 


 


 歩くこと数十分。


 緩やかな傾斜の道を歩いていくと、何やらユラユラとオーロラのように揺らめく透明な壁がある場所へとたどり着いた。


 七色の光が反射する光景は、何とも神秘的である。


「綺麗ですが、ここは?観光名所ですか?」


「違います。霊峰に張ってある結界を潜るための、入り口となる場所の一つです。アベッカ愛してる」


「はあ、ここが………」


 観光名所ではないらしい。


 どうやらこの山を覆うようにして目の前のオーロラのような結界が張られ、外部からの侵入を防いでいるようだ。


「山の周囲にはいくつかの入り口があり、ここはその一つです。山に入るにはこの入り口を通るしかなく、他からは結界が阻んで決して入ることはできません」


 ジェフリーさんはそう説明すると、懐から何かの紙を取り出した。


「更にこの入り口部分の結界を解くためには、この通過許可書が必要となります。これは私達のような調査や管理のために山への立ち入りを国から許可された、ごく一部の者にしか渡されないものです。これがなければ山に入ることすらできません。アベッカ愛してる」


「ほえ………成る程ね」


 許可書がないと入れない結界ね。


 こんなうっすい光で侵入なんて防げるものかと試しに近付いてみる。そして恐る恐ると光に手を翳すと、ペタリと確かな質感を感じた。


 目には見えないが、光の壁のようなものがあるらしい。その壁の質感はかなり固く、ちょっとやそっとでは壊れなさそうである。


「はあ~。これが結界ね。前にハンナが出したやつと同じようなものかな」


 トゥルキング戦の苦い思い出にある、ハンナが出した結界。色は違えど、あれと似たような感じはする。


 結界をペタペタと触っていると、私の隣にハンナがやってきた。


『属性こそは違いますが、性質的には似ていますね。ただ、これは幾重にも陣を築いて構築されたもので、かなり強力な結界です。あの時の簡易的に出した私の結界とは比べ物になりませんね』


「ふ~ん。強力ね。どれだけ頑丈なのかしら?」


「一説には、災害級のドラゴンのブレスにも耐えられそうで、並みの魔物や攻撃魔法では破壊は不可能とされています。アベッカ愛してる」


「ふ~~ん」


 災害級のドラゴンがまずどれだけ凄いかは知らないから、その凄さは分からない。が、かなり硬いらしい。


 しかし、こうゆう説明って昔から思ってたけど、絶対地方差別だよね。

 よく使われる、『東京ドーム何個分の広さ』とか言われても、東京にいる人達ならともかく、地方の田舎にいる東京ドームを見たことのない人間には伝わりづらいよね。

 なんで東京ドームの広さを知ってる前提で語るのだろうか?


 私としては、まだイ〇ンの駐車場何個分と言われた方が、なんとなくピンとくるのだけど。


 というか、先程からアベッちがジェフリーさんの耳元で何か囁いているが何だろう。


 愛でも囁いているのだろうか。


 熱つ過ぎだろ。


「まあ、凄いんですね」


「あまり凄さが伝わっていない気がします。アベッカ愛してる」


 ジェフリーさんの説明を適当に聞き流しながら結界を見ていると、背後から影が差した。


 ザッドハークだ。


「ほう。災害級のドラゴンさえ防ぐとは大したものよ」


「ザッドハーク。災害級のドラゴンって奴を知ってるの?」


「ウム。一度手合わせをしたことがある。黒髪に黄色い上下繋がった奇妙な服を着た男で、やたらと『ホァァァァ』などと叫ぶ者であった」


「それ、ドラゴン違い」


 異世界に転生でもしたのだろうか?


「残念ながら決着はつかなかったが、かなりの剛の者よ。あのヌンチャクだかという武器は軌道が読みにくく、かわすのに一苦労したものよ。恐るべきドラゴンだった」


「強いのは認めるけど、ドラゴン違い」


 それが一般的なドラゴンなら、ポンゴも人型になるわ。


「フム。しかし、この結界。確かに見た目程に脆くは見えぬ。中々に強力なもののようだ」


 光の結界におもむろに近付いたザッドハークは、その結果をノックするように拳で軽く叩いた。


 瞬間。


 


 

 ガッシャアアアアアアアアアアン。


 盛大な音とともに山を覆っていた結界が砕け、バラバラと崩れ去っていく。

 崩れた光は地面へと落ちる前に光の粒子となって霧散し、あとには何も残らぬ裸となった霊峰マタマタだけが取り残された。


「…………」


「…………」


『…………』


『…………』


「…………」


『…………』


「…………アベッカ愛してる」


 静寂が辺りを支配した。


「…………フム」


「まあ…………」


『これは………』


『いtuも野』


「なんというか」


「「「『『いつも通りの展開だな』』」」」


 


 


 


「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇアベッカ愛してる!」


 うんうんと頷く私達に、ジェフリーさんが絶叫を上げた。


「いや、ちょ??えっ?な、なにしてんの?!いつも通りの展開ってなに?!これなにしてくれてんの?!つか、どうして結界が割れてんのよ?!アベッカ愛してる」


 割れた結界を指差しながら、アワアワと戸惑い叫ぶ者ジェフリーさん。


 あー………そういえば、私達と違ってザッドハークに免疫ないんだよな、この人。


 これぐらいはザッドハークといれば日常茶飯事だから、最近じゃ私達も慣れて反応が薄くなってるんだよなぁ。


 だからか、なんか逆に新鮮。


「あー……と。ほら、あれじゃないですか?ちょうど結界の耐久限界がきてたとか?」


「タイミングよすぎでしょーが?!明らかに叩いたと同時に割れたでしょうが?!アベッカ愛してる」


「存外脆かったのではあるまいか?それか不良品の結界でも掴まされたとか」


「不良品の結界って何?!掴まされたって誰に?!アベッカ愛してる」


『いや、もう、下手に詮索するのはやめましょう。深入りするだけ気苦労が増えるだけですから』


「気苦労って何?!なんなの一体?!アベッカ愛してる」


「俺みたいになるってことだ。良識ある常識人が割を喰うってことよ。友よ」


「ロリコンが常識語るなよ?!あまつさえ同類にすんなっ?!」


『あなた。語尾が抜けてるわよ?』


「はい。すみません。以後気を付けますので包丁を下ろしてください。アベッカ愛してる」


『いい子』


 


 


 


 


 

 結界の入り口でゴタゴタが多少はあったが、私達一行はジェフリーさんの案内のもと、霊峰マタマタの山間部へと入っていた。


 人の手がほとんど入っていない山の中は木々が生い茂り、歩くのも一苦労だ。

 しかも山を登るにつれて霧が濃くなり、視界も悪くなってくるという悪条件だ。


 そんな道なき険しい山を、私達はゆっくりと慎重に進んでいった…………。


 


 

「さて。無事に山には入ったが、むしろここから先こそが本番。ここには危険な地形や魔物があちこたに潜んでおる。皆、決して注意を怠るでないぞ」


「分かってるわよ。どこにビッチが潜んでいるか分かったものじゃないからね。決して見逃さないわ」


『はい。全身全霊をもってビッチを探しだし、必ずや討ち取ってみせましょう』


『殺るわよ。殺るわよ。あのビッチの首を獲ってやるわよ。生首を数珠繋ぎにして、素敵なビッチ飾りをつくってやるわ』


『ジャンク、ゴア、ジェフリー。その二人と人形の動きにも注意を怠るでないぞ」


「「了解…………(アベッカ愛してる)」」


『h8葉………』


 そんなこんなと言い合いながら、私達は細心の注意を払いつつ、山道を進んでいった。


 だが、その道中には、様々な魔物達が私達を待ち受けており、その牙を剥いてきた。


 


 


「霧の中に人影が現れたからビッチだと思って飛び付いたけど、これは何?」


『ラミアですね。見ての通り、上半身は人間の女で、下半身は蛇の魔物です。人間の男を誘惑して喰らう狡猾な魔物で、恐らく霧に紛れて我々を襲うつもりだったのでしょう』


『ラミア。どおりで私のビッチセンサーが働いた訳ね。あいつらじゃないけど、彼に近寄るビッチは皆駆逐してやるわ』


「ジャンク!ジェフリー!しかと抑えておけと申したではないか?!」


「無理だ!獣みてぇに動きが早えぇ!?特にその人形!猿みてぇに木から木へ移動し、一撃で首を落としたぞ?!なんなんだよ、あいつ!?」


「私が聞きたいよ?!ちょ?!やめて!?アベッカ、それ以上死者に鞭打つような真似はやめてあげて?!アベッカ愛してる」


 


 


 


 山に潜む危険な魔物は、時に狡猾な罠を仕掛けて私達を待ち受けていた。


 


 


「銀髪っぽいのが見えたから先制したけど、外れだったわね。ところでこの下半身虫っぽい魔物は?」


『アラクネですね。ラミアの下半身が蜘蛛バージョンです。男を自身の巣へと招き入れ、その精と肉と血を啜る魔物ですね。上半身が美女なだけに、騙される男があとをたたないとか』


『まあ、ビッチモンスターですからね。始末しても誰も文句は言わないでしょう』


「ジャンクよ!吹き矢はどうした!?何故吹かぬのだ!?」


「吹こうとしたらゴアが邪魔してきたんだよ!?一体どうしたってんだゴア?!」


「アベッカ!?もうやめてあげて?!なんでそんな追い討ちをかけるの?!何が君をそうさせるの?!ちょ?!血が飛ぶからやめてぇぇぇぇ?!アベッカ愛してるぅぅぅ?!」


 


 


 

 魔物達は時に木々などの周囲の植物に擬態し、我々の目を欺いて襲いかかってきた。


 


 


「思わず剣助で斬っちゃたけど、それは?」


『アルラウネですね。植物に擬態し、近付く獲物に襲いかかったり、人間の女を模した雌しべで男を誘って捕らえ、養分にする魔物です』


『成る程。なら、大いに栄養を蓄えてるでしょうから、逆に森の養分にしてしまいましょう。さぞや良い肥料になるでしょう』


「あやつ………取り敢えず女の人影を見ただけで躊躇わずに斬りおったぞ」


「全く確認してなかったよな?おい………やつら本当の本気だぞ?やべぇよ…………」


「アベッカ!?だからやめて?!植物だと分かっていても人型だからオブェェェェ!?ア"べッ"ガあ"い"じでる"ぅぅぅ………」


 


 


 

 魔物達は地上だけでなく、時に空から我々へと襲いかかってきた。




 


「ふう………金髪だったから、ついつい熱が入っちゃった。で、こいつらは?」


『ハーピーですね。人間の女の体に鳥の翼と足がついた姿の魔物で、繁殖のために男を拐い、用がなくなれば卵を産む栄養源として補食するという、見た目に反して残虐な魔物です』


『アハハハ。見て見て。数珠繋ぎー。素敵なネックレスができたわ。それに、ちょうど羽毛布団が欲しかったから助かったわ。羽がいっぱいあるし、あなたと私の二人分ができるわ。ビッチも滅ぼし、素敵な小物や布団が手に入る。これぞ一石三鳥ね』


「ジャンクよ。確と麻酔薬を打ち込んだのであろうな?」


「間違いねぇ………。ドラゴン用を2発。間違いなく首筋に打ち込んだ。あれだ。多分、脳内麻薬が出過ぎて効いてないんだよ………。どうすんだよ、これ?魔物のとはいえ、(コロニー)が一つ滅んだぞ?」


「やめて………それを持ってこないで………目が、目がこっちを………やめ、やめて首にかけないでぇぇ?!アベッカァァァあいじでるぅぅぅぅぇぇぇえ?!」


 


 


 魔物達の襲撃は熾烈を極め、ついには強大な力を持つ魔物達も現れはじめた。


 


 

「あっ。わかるわかる。甘いのも好きだけど、私は浅漬けとか糠漬けとかの、素朴な味の漬物の方がすきなんだ」


『私も甘いものは好きは好きですが、ピクルスなどの酢漬けが一番好みですね』


『私、結構料理するんですが、この間良いキュキューリが手に入って、ちょうど漬けていたんです。今度持ってくるので皆で食べましょう』


「ジャンクよ!そちらに行ったぞ、気をつけよ!」


「ウワァァァァァ!?なんであいつら、オーガには一切興味もたねぇでガールズトークに花咲かせてんだよ?!完全に女型の魔物しか狙ってねぇぇぞ?!うわっ、こっちくんなぁぁぁぁぁ?!」


「しかも、こいつ上位種のジェネラルオーガ?!いや、無理?!死ぬ?!助けてぇぇぇ!?アベッカァァァ愛してるから助けてぇぇぇぇ!?」


 


 


 

 なんとか死闘の末に魔物達を倒していく私達。


 だが、そんな私達の進撃が、山に住まう魔物の主の逆鱗に触れてしまった…………。


 


 


 


「んで?この口上を長々と語ってた口ほどにもない腐れたビッチは?」


『さあ?私も初めて見ますが、恐らくは魔物の特殊個体かと。魔物には稀に既存の種族を上回る者が唐突に現れるのですが、それがこれでしょうね。無駄に力があるので、傲慢な性格のものが多いんですよねぇ。生意気な』


『こいつ資料で見ましたね。確か『霧の女王プリモリア』とかいう山の主です。二百年程前に現れたアラクネの特殊個体で、蜘蛛糸を霧状にして獲物を絡めとる災害級の魔物ですね。まあ、噂程じゃありませんでしたがね。口だけの蜘蛛ビッチが』


「敵をこれ程哀れと思ったことはない。プリモリアとかいう魔物は決して弱くはなかった。が、相手が悪すぎた」


「馬鹿野郎が………。口上を言うのは悪いとは言わないが、調子に乗って触れちゃいけないところに触れやがって。今のこいつらには容赦も慈悲もねえ。そんな奴らにあんな………」


「無惨……としか言えない。こんな………戦いにすらなってなかった………。あんなのただの一方的な蹂躙じゃないか………。なんで、こんな………アベッカ………愛してる………」


 


 


 こうして私達は数々の苦難を乗り越え、目的の茸があるであろう山の中腹地点へとたどり着いた。

危機は危機でも、魔物達の方の危機でした。

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