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61話 ペトラの苦難

 

「今日も元気な朝がきた」


『幸せ一杯朝が来た』


共犯(ともだち)み~んな揃ったら」


『復讐悲劇をはじめよう』


『「ウリィィィィィィィィィィ!!」』


「朝から不穏な歌を歌うでない」


 早朝、山小屋の食堂で朝食をとりながらハンナと歌っていたら、ザッドハークに咎められた。


「ごめんごめん」


『ついつい気が昂りました』


「頼むから、その昂りは消してくれ………」


 ジャンクさんがパンをかじりながら、拝むように頭を下げてきた。


「大丈夫ですよ」


『復讐がすめば』


「『昂りもおさまります』」


「事を成した後じゃおそいんだよぉ……」


 ガックリと項垂れるジャンクさん。

 まったく、情緒的不安定な人だ。


「フム。まあ、よい。それよりも、今日の動きを確認するぞ」


 項垂れるジャンクさんを横目に、ザッドハークが目玉焼きを食べながら、今日の予定について話し出した。


「はいはーい。まずは、あの糞ビッチが寄りそうなところに罠をしかけましょう」


『それだ!致死性の毒魔術を仕掛けましょう』


「女冒険者を嵌めるための話し合いではないぞ。まず、あのピノピノの話しでは、例のものは山の中腹ぐらいにあるのではとの話だ」


「例のもの……崖か!?ピノピノさん、ナイス!」


『これで事故に見せかけて処理できますね』


「誰ぞ、この二人に猿轡でも噛ませてくれぬか?」


 


 


 


 

「『モガッモグッ!』」


「話を続けるが、ピノピノが王国にある古い書物から確認したものによれば、例のものがある場所は山の中腹………ここだ。山の形で言えば、そう………ちょうど股のあたりだ」


「それ………絶対狙って生えてるよな………」


『同1しmA4』


「『モガッモグッ!』」


「この場所は山の形の影響上、年中湿気が高く、温かく、それでいて深い森の木々にモジャモジャと囲まれておるというから、可能性は十分に高い」


「山とは分かってる。分かってはいるが、あの形の、そんな環境の場所には行きたくないな………」


『死sU餓ぃ810た謀』


「左様。それも視野に入れねば」


「あの……なんか話の腰を折って悪いが、今ゴアはなんつったんだよ?」


「『モガッモグッ!』」


「だが、我らはあれを持ち帰らねばならぬ」


「さては話す気ないなこいつ。話し合いをしている三人中一人が言語的、もう一人が意思の疎通的問題で言葉が通じないんだが?ハンナと嬢ちゃんがいないだけで、こんな言葉の迷宮入りするもんなのか?」


『n5覇う0z00廼ゅ』


「フム。それも一理ある」


「話し合いに参加しているのにこの孤立感。嬢ちゃん達に噛ました猿轡外していいか」


「プハッ!はいはーい!まずは、邪魔な存在を消すことを提案します!具体的にはあの糞ビッチ共を崖から突き落とす!」


『プハッ!その提案に賛成票を!これで2票入ったので可決です!さあ、ビッチ共を狩りにいきましょう!』


「ジャンクよ。しかと通訳するので猿轡を戻せ」


「ああ。俺も外して後悔した」


「『モガッモグッ!』」


「さて、では行動としては、まずこの中腹地点まで向かうつもりぞ。だが、中腹と申しても、かなりの距離があり、更に険しい山岳地や森に囲まれた地。しかと用心を心掛けよ」


「道中、魔物や獣もいるだろうからな。油断は禁物だな」


「左様。故になるべく安全な道を行こうと思うのだが…………はて?あの山案内の羽虫はどこに?」


「羽虫………ってジェフリーさんか?そういや、朝食を準備した後、どっかに行ったが?」


 


 


 


 

 ◇◇◇◇


 山小屋の裏手。倉庫物陰において。


【ペトラ視点】


 

「あれは無理だ。あれは無理だ。あれは無理だ。あれは無理だ。あれは無理だ。あれは無理だ。あれは無理だ。あれは無理だ。あれは無理だ。」


 あれは無理だ。


 私にどうこうできる範囲を大きく越えてる。


 一晩考えたがやっぱ無理!

 あれから何を奪うだの無理!!

 ましてや戦って倒すのなんて絶対無理!!!

 自信があるのは死ぬことだけだわっ!!!!


 そもそも、あんな化け物共が来るなんて聞いてないぞっ!?なんだよ、あれ?!馬鹿だろ?!


 王国を左右する程のアイテムとは聞いてたから、多少の腕利きが来るとは考えてはいたが、悪鬼羅刹魑魅魍魎が来るとは想定外だわ!!


 あんなん私一人ではどうすることもできないわ!

 援軍を……援軍を呼ばねば!!

 援軍を呼んで、加勢してもらわねば!!


 救援連絡用の通信水晶で援軍を呼ぼう!


 えっと……連絡先は魔王軍本部通信所で……。


 これか!


『ジルルル…………はい、こちら魔王軍情報作戦本部のアベッカです。アベックではなくアベッカです。間違えたら殺します』


「いきなり物騒だな?!い、いや、まあいい。こちらは極秘任務で人間領に潜入中の隠密部隊所属ドッペルゲンガーのペトラだ」


『ペド野郎?待ってください。今、警備部に連絡しました』


「ペトラだ?!なんで皆して間違えるんだ?!しかも即通報?!警備部には誤報と言って!?」


『失礼しました。先日、彼氏に振られたばかりで気が動転してました。気が向いたら警備部には連絡しておきますので気にしないで話の続きを』


「気が気じゃないんだけど?!い、いや、よくはないが今はいい!!それより援軍を頼む!!大至急だ!場所はアンデル王国北部にある霊峰マタマタだ!大至急に援軍をよこしてくれ!!本当に急ぎで!?」


『アンデル王国……霊峰マタマタと。場所は分かりました。それで………あっ、私はオレンジ味で……援軍を呼ぶにあたって……それ違う。それはレモン。オレンジはその隣………の理由をお聞かせください』


「職場でお茶してんじゃねぇぇぇぇよ?!」


 こちとら、時間が惜しいっのに、通信しながらお茶菓子の選定なんてして…………。


「ジェフリーさん?」


 ゾクリ。


 何とも言えない寒気と、聞き覚えのある声に背筋が凍る。


 壊れた人形のように、ギギギと首だけ動かして背後を見れば、倉庫の角から顔半分を出して、こちらを見てくるカオリとハンナの姿が…………。


「ヒイイイィィィィィィィィィィィィィ!?」


『?どうしました?まるで不気味な幽霊でも見たような恐ろしげな悲鳴が聞こえてましたが?』


「ウワァァァァァ?!」


 びっくりしたぁぁ?!

 一瞬通信繋げてたの忘れてたから、声かけられてビビったぁ!?


 って、まずいまずい?!

 こんな通信繋げてるのなんか見られたら、私の正体がばれてしまう?!=殺される!?


 か、隠さなくて…………。


「あれ?それなんですか、ジェフリーさん?」


 グッバイ、現世。


 いつの間にか、カオリとハンナが私を囲むように立っていた。


 まったく気配を感じなかったんですが?

 結構距離あったはずが、一瞬で詰められた?!


「カ、カ、カ、カ、カオリ様?い、いかがしました?」


「いえ。今日の予定について話し合ってたんですが、ザッドハークが山についてジェフリーさんに聞きたいことがあるからと探してたんですが………その水晶みたいなの何です?」


「えっと…………これは…………」


 慌てて水晶を背後へと隠す。


 ヤバい…………まずい…………ヤバい。


『通信用の遠距離通話水晶ですね。誰かと連絡でもとってたんですか?』


「フワァウウウ?!」


 背後にいたハンナが私が屈み込むようにして隠した水晶を覗き込み、その正体を看破した。


 ヤバババババババ…………。


 ま、ま、まじゅい………な、なんとか誤魔化さなくては!!


 死ぬ。殺される。


 なんとか誤魔化し、この場を逃れなければ、間違いなく殺される!!


 考えろ!考えるんだ、ペトラ!!

 何か、この場を逃れられる程の一斉一代の言い訳を……………………!!


 


 


 


「あ、あの……と、遠くに住んでいる私の嫁に連絡を………」


「…………」


『…………』


 ど、どうだ?どうなんだ?誤魔化せたか、誤魔化せないのか?どっちなんだ?


 分からん。反応がないから分からん。

 目もなんか光がないし、なんか怖い。

 えっ。この娘ら、なんでこんなに目に光がないの?スケルトンでも、もうちょい光があるよ?


 ブラックホールみてぇ……………。


 てか、どっちなんだ?!騙せたの、騙せてないの?はっきりして!この無言の時間が怖いんだけど?


『いや、誰が嫁ですか?先日男に捨てられたばかりとはいえ、今日話したばかりの方と籍を入れる程、私は安くはないですよ』


「お前は喋るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 何で、水晶(おまえ)が喋るんだぁぁ!?

 少しは状況を察してくれぇぇ?!

 話聞こえてただろ?!こっちに合わせろよ?!

 どんだけ我が強いんだよ!そりゃあ、男も逃げるわさ?!


 チラリとカオリ達の目を見れば、光の無い奈落のような目でこちらを見ている。


 やめて?!その目で見ないで?!てか、バレたならバレたで何か言うなり、何らかの反応を示してくれ!!


『まったく、これだから男は……。ちょっと下手に出れば、女なんか皆が皆して尻を振ってなびくと勘違するクズ生物共め。その上、プライドばかり高く、自慢ばかり。誰もあんたの武勇伝なんて知りたくないっての。逆にこっちが有能だったり給料を多く貰っていると知るや、不機嫌になる。そして、これまでの優しい態度が嘘のように、掌を返してくる。そして、他に頭の悪い腰振るだけが取り柄の女をつくるときたもんだ。結局は自分をヨイショしてくれて、自分よりも劣り、性の捌け口にもなる都合のいい存在を求めているだけ。だから頭の悪い糞ビッチ共に騙されるのよ。だいたいあの糞ビッチも糞ビッチね。彼女がいるのを知ってながら、他人の男にちょっかいかける神経がわからないわ。もう、〇〇〇〇をやり過ぎて〇〇〇から毒が回って頭の中身が腐ってるんじゃないかしら?ほんとっ、迷惑な男とか糞ビッチとか絶滅してくれないかしらね』


 だからお前は喋らなくていいわぁぁぁ?!

 しかも長いぃぃ?!

 あれか、先日別れた男か?!男の愚痴か?!

 男、寝取られたのか?!

 そりゃ、災難だった。同情する。


 だが、今言うことじゃないだろ?!?!


 しかも通話で話すなよ?!近くの同僚とかに愚痴れよ?!なんで関係ない時と場で話すんだよ?!


 ほらっ?!あの二人がハイライトのない虚ろな目でこっちを見てるんだけど??怖いんだけど?!


 あれ?なんか近付いてくるんだけど?

 ゆっくり迫ってくるんだけど?


 やめて…………。

 こないで…………。

 やめ…………こな…………。


「ヒィヤァァァァァァァァァァァァァ!?!?」


 


 


 


 


 


「分かるわー。それ、めっちゃ分かる!」


『ええ。よく理解できます。それは許しがたいですね』


『ありがとう。私の気持ちを理解できる人がなかなかいなくて…………』


『そうですね。中々そういった気持ちを理解できる優しさを持った人は少なくなってますからね。ねっ?ご主人様』


「もう!ご主人様はやめてよ!これからはカオリって呼んでよ!変な誤解をされるしね。だよね、アベッち」


『そうだね、ご主人様?』


「も~~~~~う!」


『『アハハハハハ』』


 水晶玉を囲み、カオリとハンナと水晶が楽しげに会話を弾ませる。


 何故か知らないが、水晶の向こうのアベッカとかいう奴と意気投合したらしく、今や長年の友人同士のように会話をしている。


 その脇で、私は逃げるタイミングを失い、黙って正座をしていた。


 キャピキャピと楽しげに話す三名。

 だが、会話の内容は男が聞くべきものではない。聞いたら今後、間違いなく女性不振になりそうな内容だ。


 私に、女性に対する淡い希望や夢を捨てようと決意させる程に。


 女ってこぇぇぇ…………。


「そういえば、話に夢中になって流してたけど、結局あなたとジェフリーさんはどんな関係なの?」


 ギクリ。


 なんだか勝手に流してくれたから安心していたが、やはり忘れていなかったか。


 クッ…………ここはどう説明をしたものか?

 先程誤魔化した件もあるし、妙なことを言えばおかしく思われ…………。


『ただの仕事仲間です。向こうは私を嫁と勘違いしていますが』


「えっ。もしかして妄想ストーカー?」


「オィィィィィィィィ?!」


 水晶を手に、俺から距離をとるカオリとハンナ。


 距離をとることを願ってはいたが、これは違う。


 意味合いが違う!


「違います!!ただの仕事仲間です!!別にそんな勘違いはしてないですよ?!」


「でも……確かに最初、嫁に連絡って…………」


「あれは…………そう!こ、言葉の綾で、嫁じゃなくヨメーメーメーと羊が………ハハハ」


 俺は何を言ってるのだろう。


 周囲の様子を見るまでもなく、駄目だと理解する。


 こんなんで、赤子さえ誤魔化せるはずがないだろうに。


 俺は色々と諦め、ガックリと頭を下げて土下座した。


「アベッカさんが俺の嫁だと妄想してました」


「『やっぱり』」


 先程よりも感情のこもった目を向けられる。


 ただし、蔑みという感情の。


「………ねえ、アベッち。この人どうする?どこに埋める?」


 最早、殺すという過程を抜け、どこに埋めるかと相談するカオリ。


 既に死刑が確定らしい。


 スパイだと疑われて殺されることはなくなったようだが、別の疑いで殺されそうだ。


 ストーカーとして処分されるくらいなら、スパイとして死んだ方が名誉な気がする。


「い、いやちょっと待ってください?!命ばかりは!命ばかりはお助けを!?そ、それに私がいなくなれば山の案内も………」


『死んだら意思の無いアンデッドにして案内させるんで大丈夫です。用が済めば、自ら崖に飛び込むように指示し、後は事故・自殺で処理できるでしょう』


「いやぁぁぁぁぁ!殺されるぅぅぅぅ!!」


 どんな思考回路してんのハンナは?


 考え方が人間じゃない?!魔物のリッチみたいな考えをしてるんだけど?!


「確かに。それなら自分で穴を掘らせて自分で埋めさせたり、火の中に飛び込んだり、重しを付けて水の中に飛び込ませたりと、色々な処分方法がとれるわね!あっ!そうだ!爆弾持たせて、ビッチに自爆特攻させよう!」


「ヒィィィィ!?特攻させられるぅぅ?!」


 どんな思考回路してんのカオリは?!


 考え方が人間じゃない?!悪魔よ!純然たる悪魔族みたいな考え方をしてるんだけど?!


「待って!待ってください!!すいません!本当に出来心だったんです!!」


 もうこうなったら自棄じゃぁぁ!!押しても引いても死のリスクがあるならば、もう自棄糞じゃぁぁぁぁ!!!


 もう、どうなろうと知らん!!生き延びれるなら後先考えんわ!!犯罪者と思われようが、ストーカーと疑われようが知ったことかぁぁぁ!!


 命をかけた一斉一代の名演技を見せちゃるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 私は勢いよく飛び上がると、地面に着地すると同時に、これまでで最大にして最高の土下座を決めた。


「本当にすみませんでしたぁぁ!!あまりにもアベッカさんの御声が美し過ぎて聞き惚れ、ついつい魔がさしてしまったんですぅぅぅ!!あの美しく、軽やかで、鈴の鳴るような可憐な声。あの声で毎朝『あなた、起きて♥』なんて言われたらと馬鹿な妄想をし、ついつい嫁だなんて言ってしまったのですぅぅぅ!!ほんとっ一時の気の迷いだったんです!もう二度としません!だから……だからどうか、命ばかりはぁぁぁぁぁ!!」


 地面にこすり付けるくらいの勢いで頭を下げ、必死な声で叫びながら許しを乞う。


 我ながら何を言ってるのだろうか。


 こんな姿、両親親戚友人一同には絶対に見せられない。見せたら間違いなく疎遠になる。


 ああ………命が惜しいばかりに、俺は何をやってるのだろうか………。


 というか、これ………どうなんだろう?


 許してくれるのか?それともギルティなのか?


 顔を僅かに上げ、チラリと様子を見ると………。


 


 


 

『ま、まあ……そ、そこまで言うのなら、許してやらなくともないんだからねっ!!そ、それと、不束者ですが、これからよろしくお願いします……ポッ』


 朱に染まった水晶と、顔を真っ赤にするカオリとハンナの姿があった。


 はっ……………………?


「う、うわ!うわうわ!プ、プロポーズ?プロポーズだよね、これ?わ、私、他人の告白シーンなんて初めてみたよ!わぁ!顔が熱い!!」


『ちょ?!そ、そんなプロポーズなんて!?』


 はっ……………………?


『おめでとうございますアベッち。ちょっと悔しいですが、あなたの幸せを心より祝いますよ』


『も、もう!やめてよハンナまで!!で、でも………ありがとう』


 はっ……………………?


「ヒューヒュー!熱いね、お二人共!!」


『もう!からかわないでよカオリっち!」


『ヒューヒュー!結婚式はいつですかね?』


『もぅぅ~~~ハンナまで!!ちょ?!管制室のみんなまでやめてよぅ~~!恥ずかしいでしょう!』


 

 女性陣が非常に盛り上がる中、私は混乱の極みの中にいた。


 あれが告白に聞こえたのか?


 アベッカ、チョロ過ぎだろ?


 そろそろ戻らなくては。


 コイツらもなんで盛り上がる?


 通信独占して大丈夫なの?


 プロポーズってなんだ?


 ザッドハークに怪しまれるのじゃ?


 コイツら絶対恋愛経験ないだろ?


 先走りすぎしゃない?


 山には行かないのか?


 アイテムってなんだろう?


 などと様々な考えが浮かんでは消え浮かんでは消え、何をどうすればいいのか分からない。


 ただ、それでも分かったことはある。


 どうやら命の危機は去ったらしいということ。


 そして、人生の墓場行きが決定したということが…………。


 


 


 


 


 


「という訳で、ここにいるメンバーで糞ビッチ共を嵌めたいと思います」


『賛成です』


『よく分からんないけど、出来る限り力を貸すわ』


「私も入ってるんですか?」


「『『当然』』」


 何故か唐突に始まった作戦会議。


 またまた逃れるタイミングを失い、成り行きで会議に参加することになったが、完全にメンバーの一人として数えられている。


 正直逃げ出したいが、物理的にも将来的にも逃げらそうにない。


『まったく……。自分は蚊帳の外のつもりなんですか?私の友人なんですからしっかりと手伝ってあげてくださいよ、あなた』


 水晶からは、既に嫁気取りのアベッカの声が響く。


「はい、すみません」


『いい子』


 しかも何故か逆らう気が起きない。


 これが世に言う、『尻に敷かれる』というものなのだろうか…………。


「わあ、流石はアベッち。もう手綱を握ったね。夫婦生活の未來が見えるや」


『そんなに誉めないでよ、カオリっち。というか、良い男だからって彼にちょっかいを出さないでよ?友人だからって、ぶっ殺しちゃうわよ?』


『ハハハ。それは間違いなく大丈夫ですよ。私達の好みではないので』


『それならいいんだけど。あなたも、彼女らには手を出さないでよ?彼女らに手を出したり、私や彼女ら以外の女性に近づいたらオ〇ン〇ンをちょん切りますからね!』


「─────────ヒュ」


 どうやら未來の嫁はヤンデレという奴らしい。


 今は命は助かったが、今後常に命の危機が付きまとうというリスクを抱えたようだ。


 胃が痛い。


「と、というか……これは具体的にどんな会議で?糞ビッチがどうとかと言ってますが、まったく内容が分からないのですが………」


 手を上げながらそう言うと、一気に場の空気が重くなる。


 まるで強大な重力魔法でもかけられたのではと錯覚する程の重圧。


 全身からドッと汗が吹き出し、身体が震える。


 なんだ、これは?なんだ、この圧力は?

 いまだかつて、これ程の重圧を受けたことはない。


 ガクガクと震えながらカオリ達を見ると、あの光の無い目で私を見ていた。


「よく聞いてくれたわね」


『まず、事情を話ましょうか』


 カオリとハンナは、光の無い漆黒の瞳でこちらを見ながら、氷のように冷たい声で語りはじめた。


 


 


 


 


『許せないわね…………』


 地獄の底から響くような声が、水晶から響いた。


『まったく許せないわ。誰もがそれぞれの個性があり、それぞれの生き方がある。だというのに、それを罵り、あまつさえ嘲るとは……。更には触れてはならない傷に塩を塗り込むようなことを…………。その糞ビッチ共は万死に値す』


「分かってくれる?アベッち?」


『当然よ。そんな奴ら、百回殺しても足らないわ』


『ですよね?それを私達以外、誰も理解してくれなくて………』


『周囲の無理解が甚だしいわね。よほど女心というものを理解してないようね…………』


『「そうなの!!」』


 やたら盛り上がる女性陣。


 私はどうにも乗り切れない。


 侮辱されて腹立たしいというのは理解できなくもないが、それほど根にもつことなのだろうか……。


 女って、マジ怖い。


『はあ……そちらに行けない自分が恨めしいわね。私がいたならば、そのビッチ共をあの裏切り者共と同じように処理してやったものを………。ごめんね、直接力になれなくて』


「ううん。いいのよ。こうやって理解してくれるだけで嬉しいよ。ありがとう、アベッち」


『ええ。今回の依頼での最大の収穫は、あなたという友を得られたことですね』


『カオリっち……。ハンナっち………。私もあなた達に会えて嬉しいわ。声だけだけど?』


『『「アハハハハハ」』』


 気のせいだろうか?

 先程、アベッカが凄く気になることを言ったような気がするのだが?

 とても聞き逃せない……逃しちゃいけない、なにかを…………。


 ………取り敢えず、アベッカには絶対逆らわず、裏切らないようにしよう。


 処理される。


『取り敢えず、アドバイスとかはできるし、人手が足りないなら彼を使ってもいいわ』


 既に自分の所有物扱いか。


「ありがとう、助かるわ」


『ですが、それでも少々心許ないですね。我々の動きを妨害する奴ら……ザッドハークとジャンク。あいつらの目を盗んでビッチ共を始末するには人手不足ですね』


「確かに……。ザッドハークは言わずとも、ジャンクさんの吹き矢術は厄介だわ。どんどん腕を上げ、最近じゃ、動く私の鎧の隙間に打ち込んでくるものね」


『普段は非常識なくせに、こういう時だけ常識人振りますね、奴ら』


 いや、どちらも充分に非常識だと思いますが?


『他に手伝ってくれそうなは人はいないの?』


「う~~ん。やっぱりあいつしかいないかなぁ」


『アイツですか。正直、気が進みませんが、確かに戦力としては申し分ないですね』


『アイツ?誰?』


『「ゴア」』


 アイツか。

 あの眼球か…………。

 確かに見た感じ、戦力というか何というか、色々と凄そうな気がするが…………。


『ゴア?どんな人?』


「人ではないよ。年齢不詳。性別不詳。言語不詳。生物分類不明の巨大眼球生物」


『えっ、何それ?面白い』


 今の紹介のどこが面白いのだろうか?

 何もかもが未知の、ただの未確認生物の報告みたいだったが?


「とにかく、ゴアがいれば間違いなくことがスムーズに進むわ」


『そうですね。………正直ゴアとは因縁がありますが、ここはそれらを忘れて一時休戦としましょう』


『そのゴアっての、凄く気になる。あなた、後で映像かなんかでゴアの姿を送って』


「えっ?あれを?いや、あれは…………」


『もう!可愛い奥さんのお願いが聞けないの?プンプン!帰ったらチョッキンの刑だぞ?』


「最高の画質で映像を送ります」


 チョッキンの刑が何かはしらない。

 だが、確実に身体の一部がなくなるであろうことは予想できた。


「うわあ、ラブラブだなぁ」


『羨ましいですね』


 今のどこにラブラブ要素があったのだろうか?

 こいつらの感性はどうなっているのだろう?

 サ〇コじゃないかと疑いたくなる。


「じゃあ、取り敢えずゴアを私達の派閥に入れようか?」


 


 


 


 


 

「という訳で、ジェフリーさんや私達を探してうろうろしていたゴアを捕まえてきました」


『何n6まkわゅ7斗!?』


『本当だ。何を言ってるか分からないわ』


 ゴアという謎の眼球生物は、カオリとハンナに左右にある触手を抑えられ、半ば強引に連れてこられた。


『んa81円ifゃ宮?!』


 ゴアは謎の言語を叫びながらカオリ達を振りほどこうとするが無駄だ。


 そのゴアを抑えるカオリ達の手には、滑り止め付きの手袋がはめられ、ヌメリに対する完璧な対策が成されていた。


「ゴア。無駄だよ。逃げられやしない」


『もしもの時の為にメル婆様から購入した『対ヌメヌメ触手用手袋』です。これがあるうちは簡単には逃げらませんよ』


 ハイライトの消えた目でゴアを見ながら説明するカオリ達。


 なんだ、そのピンポイント過ぎる手袋は?

 絶対需要はないだろう。

 もしもって、何を想定してたんだよ?


 しかし、手袋はゴアには効果絶大だった。

 逃げることも叶わず、ゴアは二人の迫力と異常性に圧され、観念したのか暴れることをやめた。


 何故だろう。今ならこの化け物と、わかり合える気がする。


「さて、ゴア。私達から提案です」


『?ゃJ案5』


『今回、私達に手を貸して頂けるなら、私はこれまでのこと。過去のこと。その全てを水に流し、あなたと新たな関係を結びましょう』


『?!ma当40か!?』


 ハンナの提案に、ゴアは明らかに興奮している様子。


 理由や過去は知らないが、これはゴアにとって相当に嬉しい提案のようだ。


『ですが!!逆に、私達に手を貸さないとなれば~~~~』


「ジャジャ~~ン!こちら!レモン・唐辛子・洗剤・その他もろもろを混ぜた特製目薬を、その目に点眼しま~~~す!!」


『「さあ、あたなはどっち?!」』


『~~~~~~~~~~~~~~~!?!?』


 ゴアが声にならない悲鳴を上げた。


 あ、悪魔だ………。

 奴らは本物の悪魔だ。

 眼球系生物に絶対にかけてはならないもの全てをブレンドした目薬だと?!というか、そもそも『薬』成分が一切入ってない。

 ただの目への刺激物だ。

 そんなものを眼球しかない眼球生物に?

 よくもそんな非道な仕打ちを笑顔で語れるな?!

 こいつら、マジもんのサ〇コ野郎だ!!


 というか、こんなもん提案じゃなく、ただの脅迫じゃないか?!

 どっちじゃなく、答えは『協力する』しかないだろうが?!


 ゴアは暫し慌てたようにキョロキョロしていたが、笑っているのに笑ってないカオリ達の迫力に負け、力なく眼球を上下に揺らして頷いた。

 

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