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60話 ペトラの受難

 

【ペトラ視点】


「クックック……そろそろか』


 夕暮れ時。山の案内人に変装した私は、今日訪れる予定の冒険者を山小屋の前で待っていた。


 時刻的に、そろそろ来るはずだ。

 今回の私の任務の要…………。

 重大な何らかのアイテムのヒントを持つ人間の冒険者がのこのこと…………。


 


 私………ことペトラは、栄えある魔王軍の隠密部隊に所属している。

 隠密部隊は主に敵地へと忍び込んでのスパイ活動や情報収集を行う諜報部隊と、暗殺や工作活動などを行う実行部隊に別れている。


 私はそんな隠密部隊の実行部隊に所属し、ドッペルゲンガーの変身能力を用いた工作活動や暗殺などを任務としている。


 そんな私に先日、上司から命令が下った。


 隠密部隊の諜報部が仕入れた報告により、人間達が住まうアンデル王国において、国の命運を左右する程の力を持った何らかのアイテムを探索する命令が冒険者共に出ている…………と。

 そして、その何らかのアイテムの詳細を調査し、可能であれば破壊。または奪還をせよ…………とな。


 アンデル王国は人間の国の中でも中々大きな国。

 そんな国の命運を左右するものとなれば、かなりの強大なアイテムなのは間違いない。

 まして、諜報部が全く情報を入れられない程に秘密にされてるなど、余程である。

 故に、魔王軍上層部でも無視する訳にいかず、あわよくば人間共からそのアイテムを奪おうと考えたようだ。うまくいけば、逆に我が魔王軍の強化に役立つかもしれなっすからね。

 そんな訳で、人間に変身することができ、ある程度の実力があるこの私に、白羽の矢が立ったという訳だ。


 なんとも誉れなことよ。魔王軍の更なる強化に繋がるかもしれない任務に携われるなど、光栄以外の何ものでもない。


 幸先よく…………はなかったが、冒険者達に近寄っても怪しまれない山の案内人に変身することができた。通行許可証も手にし、山のある程度の知識も入れた。まず、よっぽど親しくない限りは偽物だとバレないだろう。


 あとは冒険者を適当に山へ案内し、アイテムを探させ、隙を見て奪う。場合によっても実力行使も視野に入れねばな。


 さあ、いつでも来るが良い、冒険者共よ!!

 せいぜい私の役に立ってくれたまえ!!


 グハハハ…………おっと。あまり変に気を昂らせては怪しまれるからな。少々落ち着かねば。


 そうだ。今一度例の手紙で来訪する冒険者の情報を確認しておこう。こういうのは何度も確認することが大事だからな。


 えっと………冒険者の人数は5名。

 パーティー名は『カオリと愉快な仲間達』と。

 …………人様のパーティー名にとやかく言いたくはないが、いいのかこれ?もっとこう……考えようはあったんじゃなかろうかな?

 まあ、いいが………。


 そして、ランクは『路傍の石』級。

 毎回思うが、これって軽いイジメじゃないのか?

 路傍の石って………目に入らない程、どうでもいい存在ってことだよな?どうなんだ、それは?

 人間のセンスは分からん。


 それで………リーダーがアイハラ カオリ。

 性別は女。歳は17と。若いな。

 パーティー名にもなってる奴か。

 変わった名前だな。異国の人間かもしれない。

 職業は戦士…………と。

 まあ、特に然したる問題はあるまい。


 次が、ザッドハーク=エンペレスト。

 職業は、暗黒殲滅騎士。なんだこれは?

 最初に読んだ時から思ったが、なんだこれは?

 暗黒で殲滅で騎士ってなんだ?色々と盛りすぎではなかろうか?特に殲滅って。

 ま、まあ、騎士なのは間違いないだろう。後は、これについては実物を見てから対策を考えよう。名称からは想像がつかん。


 で、次は………ゴア=マユラ。

 魔砲使い…………と。

 全く………人間は本当に馬鹿だなぁ。こんな単純な表記ミスをするとは。

 『砲』じゃなくて『法』だろうが。

 もっとしっかり仕事をしろと言いたい。

 これは表記ミス以外は特に気にする必要もないだろう。


 ハンナ=ミュラコスフ。賢者。

 こいつは一番の要注意人物だな。

 賢者ってのは様々な魔法を使う上に、文字通りかなり賢く観察力がある。

 下手をすれば、私の変身がバレるかもしれない。

 よく警戒しなければ。


 そして、最後が………これは正式なメンバーではなく助っ人か。

 どれどれ………職業は…………ロリコン。

 ………おい。人間の衛兵は何をやっているのだろう?堂々と犯罪者を野放しにしておくとは。

 こいつは違う意味で警戒する必要があるのではないか?主に社会的使命感で。

 というより、職業欄に書くことか、これ?

 やはり人間の感性は分からん。我々とは相容れないな。


 さて、全体的に見た限りは色々気になる点はあるが、特に問題視するような冒険者達ではなさそうだ。私でも何とか対処できよう。


 だが、逆にそれが気がかりだ。

 こんな低ランクの冒険者を国の命運を左右する事態に選出するものだろうか?

 何か裏が?それとも情報はフェイク?

 …………まあ、ここで推理しても仕方あるまい。

 実際に冒険者を見てから判断し、行動方針を練ろう。状況によっては援軍も頼まねばな。


 というか、遅くないか冒険者?

 もう来てもいい頃なのに。大量の湯と夕飯を準備したのに冷めてしまうじゃないか。


 って、むっ?おっ?何か馬車の影らしきものが見えてきたぞ?

 クックック……来たか冒険者よ。せいぜい盛大に歓迎してやろうぞ!!


 


 ◇◇◇◇◇


【香視点】


「あー………頭がクラクラするぅ」


 未だクラクラと目眩がする頭を抱える。


 なんか気付いたら馬車の中にいるし、目眩がするしで訳がわからない。

 確か、昼休憩中に新しく覚えてしまったスキルを確認していたはずだが…………。


 そっからどうしたんだっけ?記憶が曖昧で何も覚えていない。

 多分過去二時間分くらいの記憶がすっぽりと抜けている。


「………一体私の身に何が?」


「カオリよ。そうあまり気にするでないぞ」


 空白の時間に何があったのかと疑問を感じていると、本を読んでいたザッドハークが顔を上げてこちらへと視線を向けてきた。


 こんにゃろう。懲りずにまた官能小説を読んでやがるな。


「んな事言っても、気になるものは気になるわよ。昼休憩の後は何があったのよ?ハンナとゴアとピノピノさんに聞いても話を逸らされるし、ジャンクさんは苦笑いしかしないし………」


 ジッとハンナ達をジト目で睨めば、揃って口笛を吹きながら窓の外へと目を逸らす。まったく解せぬ。


「フム。知りたければ教えるが、大したことではないぞ。汝が何やら不穏なスキルを得たことで錯乱し、『ふざけんじゃないわよ、コンニャロウ!』と喚きながら地面に自らの頭を叩き付け、意識を絶ったのだ。目眩と記憶障害はその影響だろう」


「大したこと大有りだよ?!私、そんなことしてたの?!」


 記憶がないからそれが事実なのかは分からない。

 だけど、なんかあり得なくはないと言うか、やりかねないというか…………うん。否定する気が起きない。


 何となしにハンナの方へ目を向ければ、コクコクと頷いている。


「マジか…………」

 頭を抱えて項垂れる。


 まさか、そこまで錯乱していたとは…………。

 確かにショックはショックだったが、そこまでの行動に出るとは…………。

 なんか自分で自分が怖くなってきた………。

 もっと自重しないと、そのうち取り返しのつかないことになりそうだ………。反省しよう。


 


 


『ザッドハーク。よく誤魔化した!ナイスだ!』


『当然よ。よもや『通常一発の麻酔薬を、誤って三発程打ち込んで昏睡させた』などと言える筈があるまいて』


『だな。というか対巨人用の麻酔薬を三発喰らって二時間で目を覚ますって何だよ?普通は二週間は寝込むぞ?』


『異常なまでに耐性が上がっておるのだ。多少の記憶の混濁症状は見られるが、効果が既に薄くなっておる。次は巨人用でも効くか怪しくなってきたな』


『…………遂に使うか?ドラゴン用?』


『視野に入れよう』


『この二人……絶対その内バレて報復されますね』


『同i…………』


『もう、やだぁ…………』


 


 


 

 なんかザッドハーク達がヒソヒソ話をしているけど、どうしたのだろうか?

 まあ、何を話していたのか問い質す気はないが。

 というより気力がない。

 はあ、今日はもう布団に入ってゆっくり休みたいな………。


「……そう言えば、目的地にはまだ着かないのかな?」


 ピノピノさんへと問いかけると、彼女は一瞬ビクリと肩を跳ねさせてから、こちらへと向き直った。


 なんだかまるでどう猛な獣でも見るような目で見てくるような気がするんだけど…………いや、下手に勘ぐるのやめよう。

 自意識過剰と思われる上に、また錯乱する可能性がある。

 落ち着け愛原 香。深呼吸だ。Be cool。


「えっと、い、いえ!も、もう間もなく着くと思われます。あっ、ほら!馬車が減速したようです!目的地に着いたようです!」


 ピノさんに言われて気付く。

 馬車の車窓から見える景色の流れがゆっくりとしたものになっていた。

 揺れも収まり、馬車の速度が落ちていることが理解できた。


「あっ、ほんとだ。馬車の速度が遅くなってるね。ということは、目的地の山小屋だかに着いたのかな?」


「は、はい、恐らく。多少は遅れましたが、時刻的にもそうでしょう」


 ピノピノさんが頷きながらそう言ったと同時に、馬車の揺れが収まり、ゆっくりと停車。車窓からの風景も固定された。どうやら目的地に着いたようだ。


『ご主人様。目的地に着いたっす』


 扉をノックする音と共に、御者をしていたスケルトンからの到着を知らせる報告が聞こえた。


「そう、お疲れ様。どうやら目的地に着いたみたいですね。じゃあ、降りますか」


「い、いや……あの……初日から思っていましたが、それってあのスケルトンと会話してるんですか?私にはカタカタと顎を鳴らしているようにしか聞こえないんですが………」


「まあ、普通はそうでしょうね」


 私がスケルトンと普通に話していることに、ピノピノさんが頬をひくつかせているが、仕方ないだろう。


 普通はスケルトンと会話なんてできないしね。


 この道中も、私が案内役のピノピノさんと御者のスケルトンとの間に入って通訳をし、教えてもらった道の指示を出していたしね。


「私もちょい特殊な方法で会話できてますが、それがなきゃカタカタとした音にしか聞こえませんからね」


「と、特殊な方法ですか?す、凄いんですね」


「いや、そうでも。奴ら骨だけのくせに、暇さえあれば猥談ばっかりですから」


「えっ?」


「道中も酷かったですよ。ピノピノさんに道を聞きつつ、言葉が分からないのをいいことにあんな……あっ、気にしないでください」


「いや、気になりますよ?!私なんて言われてたんですか?!」


「さあ、降りましょうか」


「なんで無視するんですかー!?」


 そうは言ってもねぇ…………。

 これ以上はピノピノさんが心に傷を負いかねないからここまでにした方がベストなんだよ。

 スケルトン(あいつら)、結構エグい話ばかりだし。


 泣きつくピノピノさんを適当に流しつつ、馬車の扉に手をかけて開く。既に外は日没となり、夜の茅が落ちていた。


 馬車を降りて外に出ると、目の前には山小屋としてはかなり立派な二階建てのログハウスがあった。

 そして、そのログハウスの入り口付近。そこにはTha山男といった風情の髭モジャのおじさんが、ピクピクと頬をひくつかせて立っていた。


 あの人がピノピノさんが言ってた、山の案内人って人かな?


 てか、めちゃくちゃどん引いた顔をしてる。

 流石にポンゴで乗り付けてきたから驚き……というより、怯えてるよねー。ですよねー。

 普通は怖いっすよねー。

 やっぱ、ちょい手前で降りればよかったかなぁ?

 お世話になるかもしれない人だし、びっくりさせて悪いことしたなぁ………。


 そう思っていると、後から降りてきたピノピノさんがこちらの心を読んだかのように紹介してくれた。


「カ、カオリ様。あちらがこの山小屋の管理人兼、今回の案内人を務めてくれる方ですよ!」


 


 

 ◇◇◇◇◇


【ペトラ視点】


 

 なんかヤベェェェ奴が来たぁぁぁぁぁぁ?!


 冒険者を待っていた筈が、なんかすんごいのが来ちゃったんだけどぉぉぉ?!


 えっ?いや、あれなんですか?!

 なんで馬車をスケルタリードラゴンが牽いてんの?!いや、あれスケルタリードラゴンか?

 なんか蜘蛛の脚やら百足の尻尾やらが生えてるんですが?新種のキメラ????キモいだけど?!

 そんで御者はスケルトンだし………。


 違うよね?あれ、冒険者じゃないよね?

 多分、魔王軍(うちら)のやつだよね?

 あれーー?援軍要請したっけかぁ??

 覚えないけど…………。


 あっ、馬車止まった。スケルタリードラゴンが睨んでくる。コワイ。いや、普通にコワイ。

 こいつだけで私を越える力の魔物なんですが?

 なんでこんなんに馬車牽かせてんの?バカなの?

 いや、それより、中に何が乗ってんですか?いや、マジで。


 あっ。扉開いた。

 誰か降りてきて…………。


 

 ……………………………なんか、見た瞬間に私の本能が警鐘を鳴らしてるんですが?

 全力でカンカン鳴らしてくるよ??

 いや、あれ何ぃぃぃぃぃぃぃぃ?!

 なんなの、あの悪魔騎士?!めちゃくちゃ禍々しいオーラ漂わせてんすけど??

 魔将軍達が霞むくらいの凶悪な障気がだだ漏れてんすけど?!なによ、あれ?!


「あ、あのう………ど、どうもこんばんわ!!」


「うわっお?!」


「えっ?うわっお??」


「あっ、な、なんでもないよ?!」


 びっくりしたぁぁ??考え事をしてる間に、いつの間にかなんかちっこい奴が側に来てた?!

 あ、あかん。あの悪魔騎士に気をとられ過ぎた。

 こ、こいつは………普通の人間………だよな?

 うん。障気も禍々しさもない。普通の人間だ。

 よかった…………。

 というか、普通の人間がいるということは、やはり冒険者か。マジかよ。

 しかもこの他人行儀な様子を見るからに、この案内人とは初めてのようだな…………。


 んっ?人間の女……もしかしてこいつがカオリとかいう冒険者だろうか?

 やや幼いように見えるが、特徴は情報とあっているようだが…………。

 間違いもあるかもしれないから、確認をしておくか………。


 というか、頼む。こいつであってくれ。


「あ、あのう……あなたが山に登られるというカオリという冒険者さんでよろしいでしょうか?」


「あっ。いえ。私はここまでの道案内役で、カオリ様はあちら。あの鎧の方です」


「ファイ?!」


 アレカヨォォォォォォォォ?!糞がぁぁ?!


 一番最悪なパターンだぁぁ?!

 よりによってあれか、あの悪魔か?!

 えっ?あれがカオリなの??てことは女なの??

 悪魔にしか見えないんだけど??女的要素ゼロなんだけど??邪悪な禍々しさしか見えないんすけど??


 い、いや落ち着け。落ち着くんだペトラ。

 あれは単に鎧兜の外見が禍々しいから、そんな風に感じてしまうんだ。

 案外、中身は普通かもしれないだろ?

 そう中身は普通で…………んっ?ちょうど兜のバイザーを上げ…………しゃああぁぁぁぁぁ!!

 普通だ!?中身普通の人間の女だ!!可もなく不可もない、普通の女だ!!

 くそっ!ビビらせおって!!妙な兜のせいで誤解したじゃないか!!

 気のせいか、女自身からも凄まじい狂暴性が垣間見える気がするが、私の先入観からくる気のせいだろう。うん。


 しかし、この私をビビらせおって…………。

 ただではすまさぁぁぁぁぁんんん????

 あれぇぇぇ?!なんか、そのカオリさんの背後に巨大な骸骨騎士の姿が見えるんですがぁ???

 邪悪な障気が溢れ出過ぎな奴がいるぅぅ???

 えっと……もしかしなくても、多分あれだよね?あれが、情報にあった、あの暗黒殲滅騎士とかいうやつだよね?いや、間違いなくあれだ。見たまんまだもん。暗黒で殲滅する気満々な騎士だもん。逆にあれ以外のどれが暗黒殲滅騎士だっつうんだよ?


 あーー…………もう、帰っていいかな?

 なんかもう、お腹一杯なんだけど?

 お家帰って風呂入って寝たいんだけど?駄目?


 いや、落ち着け。落ち着いてくれ、ペトラ。

 あれも、もしかしたら鎧兜でそう見えてるだけで、中身は存外普通の人間のオッサンかもしれないじゃないか。

 そう。目を閉じ、集中し、外見からの先入観を捨て去るんだ。人間は見た目じゃない。中身だ。中身こそ大事なんだ。見た目なんて所詮あてにならない。


 よし。開眼。見た目からの先入観をなくしたぞ!これでぇぇぇぇぇぇぇぇぇい?!?!

 なんかいるよ!なんかでっかい眼球がいるよ?!触手を蠢かせる眼球がいるんだけど?!?!

 あれは心の弁護できないよ?!擁護できる境界線を越えてるよ?!先入観云々とかの理屈抜きで、もう見た目のままの、なんかヤバイ奴でしょう?!古今東西、目玉と触手を合わせたもので、まともなやつはいないからね?!もう、邪悪さと不気味系の世界代表だからね???


 もうやだぁぁぁ!?お家帰りたいぃぃぃ!?


 って、まだ誰か降りてくるよ?!

 これ以上はなんだよ?!もう誰が来ても驚かないぞ?!もう自棄だ!!くるならこいやぁぁぁ!?


 


 

 ◇◇◇◇◇


【香視点】


「………ねえ。あの山の案内人って人?こっちを死を覚悟したような瞳で見ながら、めっちゃ身構えてるんだけど?」


「ウム。よくは分からぬが、系統は違うが、自棄になった時のカオリと、何か通ずるものがあるような気がする」


「どこがよ?どういう分析?………って、あれ?なんかハンナとジャンクさんを見た瞬間、スッゴいほっこりとした顔…………急激な緊張から解き放たれたような、良い笑顔になってるんだけど?涙流してるし?」


「やはりどこか、カオリと通ずるものがあるような気がする」


「だから、どこが?まったく………訳分からないこと言って。取り敢えず、お世話になる人だし、挨拶をしてこようか」


「ウム。そうであるな」


『挨殺da1じ』


 


 ◇◇◇◇◇


【ペトラ視点】


 よかったぁぁ………本当によかったぁぁ。

 残り二人が普通で。本当によかったぁぁ。


 どっからでもこいや………なんて意気込んだが、本当にきたら間違いなく心折れてた。ポッキリ逝ってた。


 ああ……でも、情報通りなら、あの二人の青白い少女が賢者で、中年がロリコンという、当初目をつけていた要注意人物か。


 だが、今なら然したる問題じゃない。

 前者三人と比べたら、大した驚異に感じない。

 あの三人のインパクトとやらヤバさやら危機感に比べたら、大概のものは小事にしか思えない。


 で、この五人でパーティーと。


 いや、これ、どんなメンバーだよ?

 悪魔騎士に暗黒殲滅騎士に巨大眼球に賢者にロリコン。前者三名の異物感が半端ないんだが。後者が完全に霞んでるんだが?ロリコンですら影が薄くなっているぞ。


 更にこのメンバーは冒険者最底辺の『路傍の石級』と。


 石じゃないよな?岩だよな?道を塞ぐ巨石。無視できないだろ、こんなの?よしんば無視したとして、それはただ見て見ぬふりをしてるだけだろう。


 それにこれが冒険者最底辺って、人間世界はどんだけ強者が乱立してんだよ?修羅か?修羅の国なのか?悪鬼羅刹が蔓延る弱肉強食世界かなんかか?


 どうすればいいんだ?

 こんなメンバーを監視しつつ、あわよくばアイテムを奪うと。


 無理無理。難易度鬼畜過ぎるだろ?


 こんな危ない奴らの目を盗むなんてできそうにない。特にあの巨大眼球。あれは絶対無理だ。視界絶対広いだろ?


 とかなんとか思っていたら、なんか奴らが近づいてきたんすけど?

 えっ?囲まれてぼこられるとかないよね?

 私、魔族ってバレてないよね?

 落ち着け。私の変身は完璧だ。うん、胸を張っていけば、バレることはない…………はず。


「どうも、こんばんは。依頼を受けて参りましたカオリと申します」


 悪魔騎士……ではなくカオリという女が、朗らかな顔で挨拶をしながら手を差し出してきた。


 ムウ……こうやって見れば普通の人間なのだが………気のせいだろうか?

 なにやら殺意の波動のようなものを感じるんですけど?


 …………気のせいってことにしよう。

 というより、気にしたら敗けだ。


「ど、どうも。この山の案内人をしてます、ジェフリーと申します。よろしくお願いします」


 この変身した案内人の名前を名乗り、ぎこちないながらも握手をする。


「色々と迷惑をかけるかもしれませんが、こちらこそよろしくお願いします」


「いえいえ。どうぞ、遠慮なく使ってください」


 フム。取り敢えず、怪しまれてはいないようだな。このカオリとやらも、話す分には普通そうだが………。


 カオリから手を離すと、影が差した。


「フム。我が名はザッドハーク。真なる闇の騎士なり。汝が如き羽虫が増えたところで何の足しにもならぬが、仕えることを許そう。せいぜいその命をもって、忠義を尽くすがよい」


「へへぇ!!」


 反射的だった。

 ほとんど反射的にひれ伏していた。

 本能が叫ぶ。逆らうな。従え…………と。

 いや、なんなのこの方?覇気が半端ないんすけど?魔王様以上に魔王様なんですが?


「こらっ!一般人を困らせるな」


「我はただ挨拶をがぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 その魔王様が吹き飛んだ。

 何をしたのか分からない。

 なんか突然飛んでいった。

 見れば、カオリという女が足をトントンと突いていた。


「すいませんね、うちのが迷惑をかけて。まあ、悪いやつではないと思いますので、よろしくお願いします」


「ハハァ!!なんなりとお申しつけて下さいませぇぇぇぇ!!」


「えっ?いや、あのジェフリーさん?」


「私のことはジェフリーではなく、犬とお呼び下さいませぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「え、えぇぇぇぇ?」


 必死で頭を下げた。

 地面に頭を擦り、穴が空くほどに下げた。


 駄目だ。死ぬ。


 逆らったら死ぬ。


 媚びろ。媚びなきゃ死ぬぞ。ペトラ。


『そn名む840やvN握te』


 頭を下げていると、今度は頭を響く謎の声がした。


 頭をゆっくりと上げて見れば、巨大な眼球が目の前にいた。


「……………………」


『手a9ゅf5滅01』


 何かを言いながら差し出された触手。


 どうやら握手のようだ。


 えっ?握らなきゃダメ?

 すっげぇジッと見てくるんだけど?

 これ、強制なの?


 うっ………うぅ…………ペトラ!任務のためだ!覚悟を決めろ!!


 私は意を決し、それを無心で握った。


 触手は酷く柔らかくぬめつき、それでいてザラついており、一言で言えば気持ち悪かった。


 触手を離すと眼球は去り、後には透明な謎の粘液だらけの私の右手が残った。


 次に、近くにいた青白い肌の賢者の少女と目が合うが…………。


『あっ。私は握手はパスで。そんなヌルついた手で触られたくないので』


 と、虫を見るような蔑んだ目で見られながら足早に去られ…………。


「俺もちょっとな………ヌメッた手の握手は、幼女とだけと決めてるんだ」


 と、ロリコンにまで避けられた。


 その後、皆が山小屋へと入り、明日に向けての簡単な話し合いをした後、夕食をとって各人の部屋で寝入ったのだった。


 


 


 


 


 


 

 ペトラ。本日の報告書。


『もう、やだ。お家帰りたい』


 

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