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59話 目覚めし超獣の王


 馬車に揺られながら車窓から覗く景色を眺める。

 快晴の空はやや目に眩しく、山々の緑は太陽に照らされて青々と輝いている。

 道脇には森が鬱蒼と茂り、時折鹿の親子などが木々の間から顔を覗かせる。

 

 なんとも平和な光景だ。

 

 馬車の窓を僅かに開け、外の空気を取り込む。

 自然の森の木の香りがなんとも心地よい。

 耳を澄ませば、小鳥の囀ずりが…………。


『ギュアオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 小鳥の囀ずりではなく、怪物の咆哮が直ぐ近くから木霊した。

 

「台無しだぁ…………」

 

 馬車で出かける貴族の令嬢気分を味わっていたというのに、全て台無しである。

 

「何をブツブツと申しておる?気分でも悪くなったか?吐くならば馬車を止めるぞ?」

 

 ガックリと項垂れていると、正面に座るザッドハークが読んでいた本を閉じ、こちらへと目を向けた。

 

「別に吐きたくて項垂れてた訳じゃないよ。ただ、せっかくの馬車の旅なのに、今の咆哮で台無しだな………と」


「仕方あるまい。他に馬車を牽けるものがいなかったのだ。移動にこうやって馬車を使えるだけありがたく思うのだ」

 

「そうだけどさぁ…………」

 

 項垂れながら、チラリと馬車の前の方を見る。

 

 そこにはこの馬車を牽いてる生き物の姿が僅かに見える。

 

 白い身体。

 

 長い首。

 

 細長く、複数ある蜘蛛の足。

 

 百足のような尻尾。

 

 時折見えるは羽の無い翼の骨格。

 

 明らかに馬とは違うその生物。

 いや、生物とは言えない。

 

 だって、それは…………。

 

 

 

 

「なんでポンゴに馬車を牽かせるのよ!?」

 

『ギュアオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 私の叫びに呼応するように、馬車を牽引するポンゴが雄叫びを上げた。

 

 

※ポンゴとは?

 

 ハンナと一緒に地下遺跡を守ってた骨の竜。

 ザッドハークに心と骨を折られた後、香一派に加入。もっぱら、盾代わりに使われて、よく死ぬ。

 ハンナに蘇生してもらう度に、他の魔物の一部が混ざり、どんどん異形化が進む。

 現時点で混ざっているのは、ベースのスケルタリードラゴン。大蜘蛛。大百足。フォレストベア×2。トゥルの木【New】。

 

 

 

「フム。そう申しても、ポンゴしか馬車を牽けるものがおらぬので仕方あるまい。馬などは何故か軒並み我らに怯え、動こうともせなかったのだから」

 

「我らってか、ザッドハークでしょ?!ザッドハークに怯えてたんでしょ?!あんたが近寄った瞬間、馬が震えてたもん!!私、初めて見たわ!馬が腹を見せるとこなんて!!」

 

「それを申すならばカオリもであろう。次に借りようとした騎馬猫獣(ライダーキャット)が、カオリを見た瞬間、借りてきた猫のように大人しくなってたぞ。本来は獰猛なあの猛獣が」

 

「そ、それを言ったらゴアにだって責任あるもん!あのダチョウをでかくしたような二足の鳥!ゴアを見た瞬間、発狂したり逃亡したり泡吹いて倒れたり大変だったじゃん!」

 

『謝す1mA1000………』

 

「そうゴアを責めるでない。それならば、ハンナにも責任があることがある。騎乗竜(ライドリザード)など、ハンナが近くにいただけで硬直しておったぞ」

 

『あれは私の放つ冷気にあてられたんでしょう。爬虫類系と冷気を放つアンデッドは相性が悪いですからね』

 

「つまり、結局ポンゴしかなかったわけだ。諦めよ」

 

「こんな馬車の旅……私の考えてたのと違うぅ」

 

 移動に馬車を使うというから、映画にあるような優雅な馬車の旅を期待していたのに、なんでこんな珍道中に…………。

 

 ガックリと項垂れ、頭を抱えた。

 

 

 今日で馬車に揺られて三日経つ。

 

 あの日……依頼を受けた翌日。私達はエマリオさんが用意してくれた馬車に乗り、茸がある霊峰マタマタへ向けて出発した。

 

 途中で休憩や、宿泊するために村に泊まったりしながら目的地を目指す。

 

 道中、準備された馬がザッドハークに怯え、ポンゴに馬車を牽いてもらうことになったり、他の冒険者に魔物と間違えられたり、衛兵に追いかけられたりと、色々なトラブルはあったものの、取り敢えず特に大きな問題なくここまで来れていた。

 

「はあ……でも、そろそろ馬車も飽きたなぁ。車窓から見える景色も森・森・森の森ばかり。代わり映えしないし、刺激もなくてつまんないなぁ……」

 

「だから暇潰し用に本でも仕入れよと申したのだ。これだけで、良い暇潰しになるというに」

 

「…………だって字……読めないもん」

 

「…………そうであったな」

 

 それだけ言うと、ザッドハークは再び本を開いて読書へと戻った。

 

 いや、せめてもうちょい相手してよ?!

 話し相手になってくれてもいいじゃないの?!

 そんなにその本がおもしろいのかよ?

 

「……………………」

 

「………なんぞ?急に顔を覗かせて?」

 

「いや……何読んでのかな?って………」

 

 意外にも、ザッドハークは読書が好きらしく、馬車の移動中などは大人しく本を読んでいるのだ。

 それも、既に五冊目と、なかなかの速読ぶりである。

 

「しかも、それって続きものの小説でしょ?字は分からないけど、冊子部分の字みたいなやつって多分数字でしょ?」

 

「ほう……よくぞ分かったな。これは汝が申す通り、全10巻の連載小説よ。今、読んでおるのでちょうど折り返し地点の五巻目よ」

 

「へぇ、やっぱり。てか、こっちの世界でも連載系の小説ってあるんだ……。う~ん……本は好きだし、こっちの文字も本格的に勉強してみようかな?」

 

 ザッドハークが読み終えた本を手に取り、パラパラと流し読みしてみる。

 

 本好きの身としては、こっちの世界にある小説とかに興味がある。というか、むしろ異世界の小説がどんなもんか読んでみたい。

 

「ほう……随分と勉強熱心なことよ。確かに文字を覚えて損はないであろうしな。我であれば、いつでも教えてしんぜよう」

 

「それはありがたいね。というか、これどんな小説なの?ザッドハークは結構夢中になってるし、何か興味が引かれるんだけど………んっ?あっ、凄い、挿し絵もあるんだ」

 

 パラパラとめくっていると、途中で挿し絵らしきものが目に入った。

 少し通り過ぎたため、改めてその挿し絵の部分があったところらしきページに指を入れ、そのページを開いた。

 

「ウム?この小説か?これは…………。


 

 

 

 

 

 

『冒険者の妻~旦那がダンジョンに潜っている間に、ギルドマスターに抱かれる妻の日常~第五巻:旦那帰宅編』であるぞ」

 

 

 開いたページには、裸の女の人に跨がる男の人の絵が、やたら詳細に描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「グオオオオアァァァァァ…………」

 

 ゴロゴロと後方へ転がっていくザッドハークの姿を見届けてから、パンパンと手を叩いて埃を払い、馬車の扉を閉めて席へと戻った。

 

「さて……ハンナ、お茶でも飲もうか?」

 

「いや、嬢ちゃん切り替えよすぎだろ?走る馬車からザッドハークを放り投げたが……いいのか?」

 

 反対の窓際に座るジャンクさんが、流れいく馬車の後方を眺めながら、心配そうに呟いた。

 

「大丈夫でしょう。あいつのことだから、走って追い付いてくるでしょう。あっ、エマリオさんのとこで貰ったクッキーあるから出して出して」

 

「いや、まあ……大丈夫なんだろうが……。嬢ちゃんも逞しくなったもんだ…………」

 

 ジャンクさんは複雑そうな顔をしながらも、納得をしてくれたのか、それきり黙ってしまった。

 

「全く…大人しく本を読んでると思えば女の子の前で堂々と官能小説なんて読みやがって……。デリカシーのない奴たわ。めっちゃ挿し絵を凝視しちゃったじゃないの…クッキー美味っ?!」

 

『まあ、男なんてどいつもこいつもそんなもんですよ。現実でも空想でも、女性に対していかがわしい事を考え妄想する。非常に救いようのない愚かな生物ですね……クッキー美味っ?!』

 

「仲良いなぁ………お前ら」

 

 ハンナと二人でパクパクとクッキーを食べていると、ジャンクさんが妙に達観した目で見てきていた。解せぬ。

 

「ほら、ゴアもクッキー食べな。どっから食べるか分からないけど」

 

『あr1餓10う』

 

 クッキーの入った缶を斜向かいに座るゴアに差し出すと、ゴアは器用に触手でクッキーを一枚摘まんだ。そのまま摘まんだクッキーを触手で包むと、中から煙が漏れてきた。そして、煙が収まったところで触手を開くと、中には何も入っていなかった。

 

 …………エグイ食いかたするなぁ。

 

「ま、まあ、いいか。あっ、クッキーどうですか?美味しいですよ?ピノピノさん?」

 

 私はそう言うと、ピノピノさん……ゴアの隣で死を覚悟したような顔付きで座る、赤髪の少女にクッキーを差し出した。

 

 すると、ピノピノさんは目を見開き、涙声で叫んだ。

 

「ひゃ、ひゃい?!わ、私ですか?!さ、最後の食事ですか?!」

 

「最後じゃない、最後じゃない」

 

「わ、私を太らせて食べようと?!」

 

「食べない食べない」


「わ、私の、は、初めてを奪おうと?!」

 

「奪わない奪わない。そして同士よ」

 

 涙目で慌てふためくピノピノさんを宥め、クッキーを差し出す。

 

 彼女……ピノピノさんはエマリオさんの部下であり、今回この馬車の御者をする予定(・・)だった人であり、霊峰マタマタとかいう山までの道案内人だ。

 

 年齢は私と同じくらいだが、身長が私よりやや小さく、童顔なのもあって幼くみえる。赤いマッシュボブの髪型で、赤と白のシャツとズボンをはいている。なんか、全体的に庇護欲をそそられる雰囲気を醸し出している。

 

 本来は、彼女は御者台で御者をしつつ道案内をしてくれる予定であったが、ご覧のとおり、馬車を牽くのがポンゴとなり…………。

 

 

『ヒイイ!?こ、こんな化け物の手綱は握れませんんん!?』

 

 

 という至極全うな理由により、馬車内で待機してもらい案内だけに専念してもらっている。

 

 尚、現在御者台に座っているのは、生前御者経験のあるスケルトンだ。

 

 そんな彼女。旅が始まってからずっと死を覚悟したような顔で席に座っている。

 まあ、メンバーがメンバーだけにそんな顔をするのは仕方ないだろう。しかも席がザッドハークとゴアの間という席ならば。

 

 別にそんな席にしたのは嫌がらせではなく、対面にザッドハーク達が座ると『ヒイイ!』と叫んで気絶し、案内どころじゃなくなるのだ。

 だから、ならばいっそ隣にして正面だけ向けばザッドハーク達が視界に入らないだろうと、この席になった。

 

 随分と乱暴な理屈だが確かな効果はあり、ピノピノさんが気絶することはなくなった。

 ただ、じっと首を動かさずに正面を見つめるため、対面にいるハンナが凄く落ち着かなそうにしているが………。

 

「まあ、ピノピノさん。そんな緊張しないでクッキーでも食べな?美味しいよ」

 

「こ、こんな状態で緊張しないほうがおかしいですよう。だ、だって、魔王みたいなのと、邪神みたいなのに囲まれてるんですよ?そんな状態でクッキーなんて喉を通りませんよう!?」

 

 至極、最もな意見だ。

 

「いや、まあ……見た目は魔王みたいだけど、中身はそれ程悪い奴じゃないから。意外と話せば普通だし」

 

「話すも何も、魔王みたいな方は猥談しかしてこないし、邪神みたいな方はそもそも言葉が通じませんよ?!」

 

 なんとも正論だ。

 

 てか、あの糞野郎また猥談とかしてやがったのか。マジで見境ないクズだな。そろそろチョン切ることも視野にいれなければ。

 

「いや、ほら……ザッドハークは後で仕置きをするとして。取り敢えず、何か害をなす訳でもないし、そんな緊張しなくてもいいよ。ほら?ゴアだってよく見れば可愛いでしょ?」

 

「これが可愛いならば、世界中の大概の魔物は可愛いということになりますよっ!?」

 

 否定できない。

 

 ゴアが非常に悲しそうな目でこちらを見てくるが、何も言えない。ごめん、ゴア。

 

 あと、ハンナは笑わないように。自重して。

 

「まあ、無理に緊張を解くなとは言わないけどね。だけど、やっぱりこれが普通のリアクションなんだろうね~~……クッキー美味っ!?」

 

『大概、ご主人様も感覚が麻痺というか既に死んでますから。かくゆう私も、最近は慣れというか、感覚が休暇をとってますね……クッキー美味っ!?」

 

「俺も最近はよっぽどじゃねぇ限りは驚かなくなってきたからな……。というか、最近は嬢ちゃんの方に驚いている時が多い気がするな。……俺にはクッキーくれないんだ」

 

「う、うう……こ、ここにいる人達みんなおかしいですよぅ。早くお家帰りたいよぅ~!!おか~~さ~~~ん!!」

 

 ピノピノさんは両手で顔を覆うと、そのまま踞ってしまった。

 

 まあ、暫く放っておくか。

 そのうち落ち着くだろう。

 だから、ゴア。触手で背中をさすってやるのは止めよう。慰めてるようで止め刺しにいってるから。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 二時間後…………。

 

 休憩と昼食を兼ねて、一度馬車を停めることになった。

 

 スケルトンの御者がポンゴに指示し、道の端につくられた簡素な休憩用の馬車置き場に馬車を停めさせたところで私達は地面に降り立った。

 

 背筋を伸ばし、腰を振り、同じ姿勢をしてたせいで凝り固まった筋肉をほぐす。

 ポキポキグキグキと、小気味良い音が身体のあちこちから鳴り、筋肉が少しずつほぐされていく。

 

「あー……気持ちいいぃ!!馬車は楽だけど、ずっと座りっぱなしってのは腰に結構くるもんなぁ。あ痛たたた………」

 

『年寄り臭いですね。まあ、分からなくはないですね。私もずっと同じ姿勢をしてたせいで硬直して、関節が曲がりませんからね。まずは温めてからゆっくりほぐさないと………』

 

「いや、それって、私のとは別物だよね?多分、死後硬直の類いだよね?」

 

 空気椅子状態で器用に歩くハンナに驚愕する。

 忘れがちだが彼女は元・死体のアンデッドのリッチである。

 そのためなのか知らないが、あんま動かないと筋肉が固まり、関節が動かなくなるらしい。

 最近は私が教えたストレッチを実践して固まらないようにしているが、馬車のようなストレッチのできない閉鎖空間に長時間いると、このような状態となるのだ。

 

 しかし、すごいな。コサックダンスしてるみたいだよ………。

 

「…………なんか手伝う?」

 

『お願いします。ゆっくりと足を伸ばしてもらえますか?』

 

「オッケー。じゃあ、右からいくね」

 

『ゆっくりですよ?無理に力入れるともげますから』

 

「わぁお、責任重大だわぁ」

 

「さて……嬢ちゃん達が動けないようだから、俺らは飯の準備でもするか。俺は火を準備するからピノピノ嬢ちゃんは水を頼む」

 

「えっ?は、はい……。って、あの?あれ……」

 

『ぬ魔n48はやix01固う』

 

「ああ、何を言ってるか分からないが頼む」

 

「今帰ったぞ。ついでに土産だ」

 

「当然のように戻ってきて、当然のように自分の倍以上のデカさの熊を担いできたな。よく見れば、危険度A級のゴリアテベアーだし。……後で解体するから端にでも置いとけ」


「承知」

 

「あっ、足もげた」

 

「やっぱりこの人達、おかしいですよぅぅぅ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~~~あれが霊峰なんだぁ」

 

 食事の用意を終え、焚き火を囲んでジャンクさんとピノピノさんが準備してくれた昼食に舌鼓をうつ。

 

 尚、今日のメニューは硬いパンと干し肉と豆のスープ。それと急遽手に入った熊肉のフルコースである。

 

 フルコースと言っても焼いたものだけだが。

 なんかザッドハークが『ザッドハークゴハン!心臓焼きました!!』などと焼いた心臓を掲げたりしていたが、何がしたかったのだろう。

 

 まあ、心臓は血の味がしてうまかった。取れ立ては猟師の特権だね。猟師じゃないけど。

 

 そんな騒がしくも騒がしい昼食時、怯え、震え、顔面蒼白なピノピノさんを少しは和ませようと、適当に話しかけていた際、ピノピノさんが山間部の間から見える一際大きな山を指差しながら教えてくれた。

 

「は、はい。あ、あの大きな山が霊峰マタマタ。これから向かう最終目的地です」

 

 話をしていて大分緊張がほぐれたのか、少し顔色が良くなったピノピノさんが頷く。

 

「ほえ~~あれがねぇ~~………ガブジュ」

 

 獲れ立て新鮮な熊肉を頬張りつつ、改めて霊峰を眺める。

 

 最初、その霊峰を見た時の感想は『なんかオブジェみてぇ?』である。

 

 霊峰の形は他の山と大きく違っていて、かなり目立つのだ。ピノピノさんに教えられた時は山なのかと疑った程だ。

 山の形を具体的に説明するのならば、人間の下半身を逆さにした形……ようは、彼の有名な『犬〇家』状態だ。

 

 山というより、巨人が逆さに地面に突っ込んでいると言われた方がしっくりくる。

 

 なんなの、あの形?舐めてんの?

 

 てか………あれ、登るの?あの足のような部分なんて、こっから見てもかなり急勾配なんだけど?

 

 なんか既にダルくなってきた………。

 

「フム……あれが目的地であるか。もう随分と近いようだな。…ガブジュ」

 

 急勾配な山に登ることを想像し、そのダルさにため息をついていると、ザッドハークが熊肉を頬張りながら会話に混ざってきた。

 

「そ、そうですね。こ、ここからなら、休まず行けば、三、四時間程走れば山の案内人がいるという山小屋に到着します。」

 

「ふーん。じゃあ、日暮れ前に着くことを考えると、ここが最後の休憩の方がいいかもね」

 

 なるべくなら奴らよりも先に着きたい。

 休憩は最小限にし、少しでも早く現地について下見とかもしたいしね。

 私としては、よっぽどのことが無い限りは、ここから先は休みなしでいきたいと思う。

 

「は、はい。そ、その方がよろしいかと思います」

 

 私の質問にピノピノさんが首を振って肯定すると、ザッドハークが厳かな動きでこちらへと顔を向けてきた。

 

「なれば、ここでしっかりと食事をし、英気を養わねばな。カオリよ、熊肉のお代わりはどうか?」

 

「所望する」

 

「承った」

 

 ザッドハークが差し出してきた串に刺さった拳大の熊肉を受け取り、一気に食らいつく。

 

 うん。この肉肉しい感じが堪らない。

 

 ハグハグと熊肉を頬張っていると、ザッドハークとジャンクさんがジッと私を見ていた。

 

「な、なに?この肉はやらないわよ?」

 

「いや、別に肉を狙っちゃいないよ。どんだけ肉食なんだよ………」

 

「我らが気になってるのは別のことよ」

 

「別のこと?」

 

 ザッドハークの言葉の意味が分からず、キョトンと首を傾げる。

 

 一体何が気になってるというのか?

 

「何がどうしたっていうのよ?」

 

「いや…………さ…………その………」

 

「汝が喰らっているのは熊肉は熊肉でも、魔物の熊の肉であろう。なれば…………」

 

「……………………?!」

 

 ザッドハークの言葉の意味を理解し、慌てて懐からサッと手鏡を取り出す。

 その手鏡に自分の顔を写し、呪文を唱えた。

 

「か、『鑑定』!!」

 

 

 

 

【鑑定結果】

 

 

 

 名前:愛原 香

種族:人間??

称号:『狂鬼』

職業:勇者??

加護:女神?? 何か凄い奴等?

状態:85%

Lv:65

HP:666/666

MP:200/200

筋力:A+

知恵:E-

旋律:B

魔力:C

幸運:F-


勇者固定スキル

【鑑定:--】

【言語理解:--】

【勇者の証:--】

【収納:--】


転位ボーナススキル

【脛殺し:--】

【王殺し:--】

暴食王(ベル=ゼブル):--】

混沌タル超獣ノ王(キメラキング):New】

残り空欄ボーナススキルスロット 1


【小物作り:D】

【ツッコミ:B+】

【速読:D】

【冥府ノ波動:--】

トゥルの歌(トゥルーザソング):S】

【デスロール:B】

【鉄鱗:D】

【噛み砕き:B】

【超免疫:D】

【アイアンテイル:E】

【毒の息:B】

【蜘蛛糸:C】

【火の息:E】

【威嚇:B】

【ドラゴンパンチ:E】

【鉄爪:C】

【クラブチョッパー:E】

【バブルシャワー:D】

【大甲殻:C】

【海老反り:C】

【超投擲:B】

【ゴリマックスパワー:A】

【ドラミング:B】

【木登り:C】

【スイーツスラヴァー:B】

【咆哮:A】

【溶解液:E】

【締め付ける:D】

【毒の牙:E】

【猪突猛進:A】

【デスタックル:A】

【鉄甲毛:D】

【超嗅覚:C】

【アイアンヘッド:A】

【ブラッディーファング:C】

【舌槍:B】

【擬態:E】

【鱗カッター:D】

【水鉄砲:C】

【水流操作:E】

【クレイジーホーン:D】

【急加速:C】

【ミルクマスター:C】

【狂化:S+】

【脂肪の鎧:C】

【鎌鼬:D】

【超音波:D】

【羽ばたき:F】

【石化ノ魔眼:D】

【並列思考:E】

【ベアーマッスルパワー:A New】

【ベアーハッグ:B New】

【超剛毛:B New】

【ベアークロー:A New】

【ハチミツ大好き!:S New】

【冬支度:C New】


装備

【頭】デモンソウルヘルム【価値:A】

【体】反逆の鎧【価値:A】

【右手】破壊の剣【価値:A】

【左手】嘆きの盾【価値:A】

【アクセサリー】暴君のマント【価値:A】

【アクセサリー】無慈悲の指輪【価値:A】

【アクセサリー】寄せて上げるブラ【価値:-C】

【アクセサリー】恋愛運上昇の指輪【価値:笑】

 

 

 

 

「クッソゥゥゥゥゥゥ!!油断したぁぁ!?」

 

 自身の鑑定結果に絶望し、頭を抱えた。

 

 か・ん・ぜ・ん・に油断したぁぁ!?

 【暴食王(ベル=ゼブル):--】の効果を忘れ、なんの疑いも躊躇もなく、普通に熊肉喰っちまったぁぁぁ!?これも魔物なのにぃぃ!?

 散々あれだけ自分の人間離れに絶望してんのに、さらに拍車をかけてしまったぁぁ?!何してんだよ私?!意思と思慮が欠けすぎだろうがいぃぃ?!

 

「………な、なんか嬢ちゃんが頭を抱えながら仰け反ってるんだが………」

 

「やはり新たな魔物のスキルでも得たのだろう。大方、スキルを忘れて魔物を食らったことに対する自己嫌悪と絶望の狭間でさ迷っておるのであろうな」

 

 なんか横でザッドハークが冷静に分析してんのが腹立だしい!?当たってるだけに腹立だしい?!

 

 

 てか、なんなの、このスキルは?!

 特に『ハチミツ大好き!』と『冬支度』って?!

 いや、これスキルなの?スキルって言っていいの?ただの感想と習性じゃないの?

 一体どんな効果が…………。

 

 

 

 

【ハチミツ大好き!】

 ハチミツがあれば何でもできるスキル。

 ハチミツを舐めるだけで、ステータス全アップ!更に、どんなケガや病をも完全に治癒し、瀕死状態でも一瞬にして回復することができる。

 

 


 

 チートスキルきたぁぁぁぁ?!

 名前からは想像できない程のチートだったぁ?!

 いや、これ凄くない?ハチミツさえあれば無敵じゃない?正にチートじゃん!!これは獲得して正解でしょう?!

 

 って、ん?よく見たら、なんか更に下の方に補足説明があるな。なんだろう、どれどれ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 ただし、一回舐める度にハチミツ依存度が上がり、最終的にはハチミツなしでは生きれない重度のハチミツ依存症の廃人となる。

 

 

 

 

 駄目スキルだぁぁぁぁぁぁ!?

 なんだよハチミツ依存症って?!

 どんだけハチミツ求めてる状態だよ?!

 超危険じゃないの?!違う意味でチートじゃないのよ?!誰が使うか、こんなスキル?!

 

 んで………もう1つが………。

 

 

 

 

 

【冬支度】

 冬前になると脂肪を蓄えやすくなる。

 主に腹に。胸じゃなく腹に。期待すんなよ。

 

 

 

 

 

 駄目スキルパァァァトツゥゥゥゥゥ?!

 マイナス効果だろうが?!負荷効果しかねぇぇだろうが?!ふざけんなよ?!

 ただデブりやすくなっただけじゃん?!女の天敵スキルじゃねぇぇか?!

 しかも、念押しするように『胸』には脂肪がつかないって………うるせぇよ?!何だよ、この鑑定結果は?!誰か中に入ってんじゃないの!?

 

 

 というか………あ、あれ?

 な、なんか転位ボーナススキルのところに見覚えのないスキルがあるような?

 これ見よがしに『New』っていらん親切によって書いてあるし?

 

 …………正直見たくない。見たくないけど………見ないわけにはいかないよなぁ………。

 

 

 

 

 

混沌タル超獣ノ王(キメラキング):New】

 異なる魔物達のスキルを五十以上得た上で、最狂とされる獣に与えられし力。異なりし力。異なる種族。それらの壁を超え、不可能を可能とせし獣よ。

 この力を得し獣。汝は、その異なる力同士を組み合わせることで、まだ見ぬ新たな力を得るであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なあ……嬢ちゃんが踞くまったまま動かなくなったんだが?」

 

「恐らく、予想の斜め上をゆくスキルでも得たので、戸惑いと絶望で打ちひしがれているのであろうな。今はそっとしておく方がよかろう」

 


 背後でザッドハークとジャンクさんがヒソヒソと話しているが、今はそれどころではない。

 

 貴重な転位ボーナスを使い潰し、得たスキルがまたもや不穏な名前と効果のもの。

 しかも、スキル説明からすれば、どうやら私は人間ではなく獣枠で捉えられているらしい。ふざけんな。

 

【脛殺し】に【王殺し】に【暴食王(ベル=ゼブル):--】ときて今回【混沌タル超獣ノ王:(キメラキング)】を覚えた。

 

 どうしろというのだ?勇者じゃなく、魔王でも目指せというのだろうか?

 世界の救済じゃなく、支配でもしろというのだろうか?

 確かにパーティーメンバー的にも、現魔王と真の支配者の座を争った方が手っ取り早い気がする。

 

 というより今気付いた。

 私、まだまともに魔王関係者と戦ったことない。

 そもそも会ったことねぇわ魔王軍。

 つか、魔王軍の下っぱにすら会ってないんだけど?

 

 これ普通なら、もう国を襲いにきた魔王の手下とかと邂逅し、そこから一戦交えて勝利し……。

 

『ぐげっ!?き、貴様が勇者だと?!す、既に勇者が召喚されていたとは!?ま、魔王様に至急ご報告しなくては!!』

 

 そして…………。

 

『ククク……勇者か。面白い。その勇者とやらの力……見せて貰おう!さあ、行くが良い我が忠実な僕達よ!!勇者とその仲間達の首を取って参れ!』

 

 となって…………。

 

『グハハハ!貴様が勇者か?我は魔王様の忠実な部下にして魔王軍四天王の1人!ナンチャカンチャラ様だ!いざ、尋常に勝負!』

 

 そして…………。

 

『ググ………勇者よ………見事だ。だが、我は四天王最弱。我を倒した程度で魔王様に勝てるとは思わぬことだ!グハハハ…………ガクッ』

 

 的な感じで、最低でも四天王の一人と戦って、勝ってる頃じゃないの?!

 

 次章:迫る第二の四天王ウンチャラカンチャラ。

 

 みたいな展開始まってたんじゃないの?!

 なのに、私が戦ったのと言えば、ゴブリン・狼・ピンクフィッシュ・ローショリーチ・スケルトン・ハンナ・トゥルの木・トゥルキング…………まともなのがほとんどいねぇぇじゃないの?!

 

 なんで魔王の手下共、一人も来ないんだよ?!

 魔王、もっと動けよ?!攻めろよ?!勇者にかかってこいよ?!※マオマオしいことしろよ?!

 

 ※凄く魔王らしいことのオリジナル単語。

 

 おかげでキワモノとばかり戦ってるし、勇者らしい活動もしてないし、なんだか私やパーティーメンバーが魔王化して悪目立ちしてるじゃないのよ?!もっと魔王らしい活躍しろや!?悪事を働け!!

 

「チクショウゥゥゥゥ魔王め!?部下に命じて村々焼き滅ぼし、人々に災いを振り撒き、魔の軍勢を率いて国を攻め陥としにこいよぉぉぉ?!もっと悪逆の限りを尽くせよ、魔王ぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、なんか嬢ちゃんが地面を叩きながら、勇者にあるまじき言動を放ってるんだが?なんで急に魔王に進言的なことを?」

 

「恐らく、辛い現実に耐えかねて現実逃避をしているのであろう。八つ当たりも甚だしい。取り敢えず、あれだ」

 

「吹き矢か。こんなこともあろうかと準備はいつでも万全だ」

 

「流石よ。麻酔薬は『対巨人用』のものにしておけ。大分耐性がついておるようだし」

 

『お手柔らかにお願いしますね………』

 

『しka内d33ね絵………』

 

「い、いや!?な、なんでそんなに落ち着いてるんですか?!もっとこう……って?ちょ?!ちゅ、躊躇なく吹き矢を吹いてるし?!もうやだ!!帰りたい!おかあさ~~ん!!」

 

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