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閑話 影で動く陰謀

更新が遅れてすいません。

ついに勇者の敵たる奴らの出番です。

今夜にもう1話更新予定です。

 

 霊峰マタマタ。


 アンデル王国より北に、馬車で3日程かけて進んだ先に聳える標高三千メートル近い巨大な山である。


 名の由来は、かつて大地の大精霊マタマタが住んでいた山とされるのが由来であり、今でも多くの人々からは『精霊が住まう山』として崇められている。


 このマタマタという山は、めったに人が入らない秘境の地であり、山全体は深く生い茂った木々に覆われ、一年を通して濃い霧に包まれており、一度山に入れば二度と出てこれないと言われる程に迷いやすい山でもある。更に、山には野生の獣や魔物も数多く生息していて、危険な地でもあった。


 故に、聖なる地を守るのと、一般人が入らないようにするための措置として、霊峰マタマタの周囲には結界が張られ、許可された者以外は入れないようにされていた。


 そんなマタマタの麓。そこには一件の山小屋が建っていた。


 山小屋はこのマタマタに張られた結界の管理者と、山を知る案内人が住まうために建てられた小屋で、ここには国で雇われた魔術師と案内人が常時五名滞在し、山の安全を守っていた。


 だが…………。


 

 草木も眠る深夜。

 案内人達が住まう小屋より、悲鳴が木霊していた。


「グワァァァ?!」


 バタリ。悲鳴とともに、魔術師風のローブを着た男が床へと倒れた。

 その周囲には、同じような姿の魔術師達が三人倒れており、皆が既に意識を失っていた。


 そんな倒れ伏す魔術師達の中央…………。

 そこに黒い影が幽鬼のように佇んでいた。


 顔のないのっぺらぼうの頭部。中央には丸く、黄色い目のようなものが一つあるだけ。

 全体は黒く、艶のあるのっぺりした体表。

 妙に長い腕と針のように鋭い指先。

 長く鋭く尖った針のような足。


 まるで、人の影が型を得たような異形がそこにはいた。


「クックックッ……これで残りは貴様1人だな」


 謎の異形は口もないのにどこから出してるか分からないくぐもった声で、窓際にいる最後の1人へと声をかけた。


「お、おめさ……いったいなんだっぺや?!」


 最後に残った一人……モジャモジャ髭を生やした男が、斧を片手に誰何した。


 彼はこの山について詳しい数少ない男であり、山への立ち入りを国から認可された山の案内人でもあった。


「クックックッ……私が誰かか……。知りたいならば答えてやろう。私は偉大なる魔族の王!魔王様に仕えし魔王軍隠密部隊が一人!ドッペルゲンガーのペトラだ!!」


 黒い影………ペトラと名乗る魔王軍の魔物が、腕を振り上げながら、自身の名前を高らかに宣言した。


「どぺるへんがぁーのへどろ?へんななまえだっぺやぁ………」


「ドッペルゲンガーのペトラだ!?誰がへどろだ?!しっかり聞け!?」


 案内人の訛りと物覚えの悪さに、ペトロは憤慨する。


「ふん……まあ、いい。貴様ごときに名を覚えてもらうつもりはないからな」


「んだか。んで、そのぅ……ぺどやろうがおらさなんのようだ?」


「だからドッペルゲンガーのペトラだ!?誰がペド野郎だ?!違うからな?!」


 ペトラは案内人の滑舌の悪さと、物覚えの悪さに再び憤慨した。


「くっ!!この下等種族が!!ま、まあ、いい。私はとある任務のために、わざわざこんな辺境まで足を運んだのだよ」


「にんむだぺか?そらぁ、ごくろうなこっだぺなぁ、ペドヤロウ」


「さてはわざと言ってるだろ?!だからペドじゃない、ペトラだっ?!ペドは止めろ!妙な誤解を生むっ!!」


 ペトラは再び憤慨する。彼は意外と世間の目を気にするタイプだった。


「ゴホン!よ、良くないが、まあ、いい。話は別にある」


 ペトラは気を取り直すと、その鋭い指先をツイッと案内人へと向けた。


「貴様に聞くが……数日後、この山に何らかの任務……国の大事に関わる密命を帯びた冒険者が来るであろう?」


「?!………な、なんのことだっぺや………?」


 窺うようなペトラの言葉に、案内人は目を目を見開く。直ぐに『しまった』とばかりに取り繕って知らぬ振りをするも、既に後の祭りであった。


「その反応……やはりか。なに、隠さなくともいい。既に我々の諜報部が情報を得ている。貴国の危機を救う何らかのアイテムを求め、冒険者がの霊峰マタマタにやってくると……な!」


「う…………くっ!?」


 案内人の反応から確信を得たペトラ。

 顔はないが、その様子はどこか得意気に微笑んだようであった。


 ペトラは案内人へと向けた指先を押し出し、その首筋へとあてがった。


「ひぃ………?!」


「だが、得られた情報はそこまでだ。貴様らの王が、いったいどんなアイテムを求めているのか?そのアイテムにどんな効果があるのか?情報制限がかかっていたようで、残念ながら調べることはできなかった」


「お、おらもしらねぇよ?!おらはただ………」


「知っている。貴様はただ、冒険者に山を案内するように言われただけで、奴らが何を求めているのかは知らない。だろ?」


「うっ…………」


 既にそこまで調べられていたのかと、案内人は驚きに口をつぐむ。


 ペトラはそんな案内人を愉快げに眺めながら、その首筋にあてた鋭い指先をスイッと動かし、僅かに切った。


「いでぇ?!」


 チクリとした痛みが走り、案内人は思わず悲鳴を上げる。切られた首筋からはタラリと一筋の血が流れた。


 ペトラはその血を指先ですくい、口元へと持っていく。すると、その口元から黒く細長い舌のようなものがあらわれ、指先についた案内人の血を舐めとった。


「お、おめ……何を…………」


 切られた首筋を押さえて困惑をあらわにする案内人の前で、更なる変化が起きた。

 突如、ペトラの身体がグニグニと蠢きだし、その形を変えはじめたのだ。


「な、なにが…………?」


 目の前の事態に驚きと困惑で唖然とする案内人。

 そんな案内人をよそに、尚も変わり続けるペトロ。色も黒一色から浅黒いを肌色をベースとした色となり、その形も段々と人間の形を象っていく。


 やがて変化が終わると、案内人の前には1人の髭モジャモジャの男………自分と全く同じ姿となったペトラが立っていた。


 しかも真っ裸で。


「な、な、な?」


『驚いたかね?これが私……ドッペルゲンガーの能力。対象の身体の一部を取り込むことで、その者と同じ姿形に変身できるのだよ!どうだい?貴様にそっくりであろう?』


 ペトラは両手を広げ、変身した自分の姿を見せつけ誇示する。


 真っ裸で。


 案内人は驚きに目を見開き、震える手で自分そっくりに変身したペトラを指差す。


「お、おらが……標準語をはなすてるだぁ!?」


「いや!?他に色々と言うことあるだろっ?!」


 斜め上の発言をする案内人に、ペトラが目を見開いて憤慨した。


 真っ裸で。


「ま、まあいい……別に貴様がどう思おうと、大した問題ではない。必要なのは貴様の姿だからな」


 咳払いをして気を落ち着かせたペトラ。

 そんなペトラにさしもの案内人も、ペトラの言葉に眉をひそめた。


「す、すがたがひつよう?た、たすかにおらぁ、そっくりだ。だ、だけんども……お、おらにばけてなにをするつもりだぁ!?何をたくらんでるだぁ!?」


「フッ……そんなものは分かりきっているだろう?貴様に化け、冒険者に近づき、その国の大事に関わるというアイテムの破壊、または奪取が目的よ!」


「な、なんだとぅ?!」


「当然であろう?国家の命運を握るアイテム。そんなものの存在を、我が魔王軍が放置するとでも?それが何であれ、危険であれば破壊し、有用であれば魔王様のお役に立てるだけよ」


 驚き戸惑う案内人。ペトラはそんな案内人に構うことなく話を続ける。


「まあ、結局アイテムがなんなのかは皆目分からぬ。が、結局のところは冒険者が手に入れた瞬間に横から掠め取ってしまえばいいだけのことよ。その際、貴様のような何の力もない一般人の案内人に化ければ、奴らも油断するであろう」


「くっ…………くぅ!?」


 ペトラはそこまで言うと、ゆっくりと案内人へと近付いていく。


「それに、知っておるぞ?貴様は山の周囲に張られた結界を通り抜けることができる『結界立ち入り許可書』を持っていることも。それを手にし、何食わぬ顔で結界を解けば、馬鹿な冒険者は私を本物と疑うまい。そうすれば、いくらでも隙を突くこともできよう」


 ゆっくり……ゆっくりと更に距離を詰めるペトラ。


 真っ裸で。


「クックックッ……後は邪魔な貴様を処理するだけ。安心しろ、俺は優しいからな。殺しはしないさ。ただ、眠っていてもらうだけよ。ことが終われば解放してやろう。まあ……その時には俺は去り、全ての責任は貴様が負うことになるだろうがな」


 ペロリと舌舐めずりをするペトラ。


 真っ裸で。


 案内人はそのペトラの姿に恐怖し、持っていた斧を闇雲に振り回した。


「くるな!?!く、くるでねぇ!?おらに近づくなぁ!?」


「さあ、大人しくしく立ち入り許可書を寄越すがいい!!ああ、ついでにその服もな!!流石に裸では疑われるからな!!」


 今更だ。


「やめれ!くるな!くるでねぇ!?」


「フハハハ!無駄な抵抗はよすんだな!」


「やめれー!やめてけれー!」


「フハハハ!!」


「やめれ!やめれー!」


「フハハ…………」


「やめれー!やめてけんろー!」


「フハ…………」


「やめれやー!くんなー!?」


「フ…………こいつ強っ?!」


 案内人は意外にもかなりの抵抗を見せ、ペトラに善戦をした。


 

 ───── 1時間後。


 

「クハー……ハァハァ……む、無駄に手こずらせおって……」


 荒れ果てた山小屋の室内。


 そこには、ボロボロになった案内人の姿のペトラがあった。

 そして、その足元には、頭にでっかいたん瘤ができた本物の案内人が倒れていた。


「ハァ……ハァ……こ、こいつ……マ、マジで強かった……。結構危なかった……。闇雲に斧を振り回しているようで、的確に急所やら動脈を狙ってくるし、最後は『ギガアックス!』などと、光る謎の斬撃を放ってくるし……。何者だよこいつ?!」


 ペトラは倒れ伏す案内人の顔を恐る恐ると覗き込みながら、身震いした。


「か、勝手に転んで頭をぶつけて気絶してくれて助かった……。じゃなきゃ死んでたわ。こ、こいつの間抜けさに助けられた……」


 案内人はペトラに負けたのではなく、勝手に自滅しただけであった。


 ペトラは震える身体を奮い起こすと、案内人から服やら立ち入り許可書を剥ぎ取り、最終的に近場にあった鎖やら縄で、その身体をがんじがらめにした。


 その時、フッと思った。


「……というか、よくよく考えれば獣やら魔物が蔓延る危険な山を一人で登れるあたり、こいつが普通な訳ないですな……」


 ドッペルゲンガーの変身は姿だけを真似ているためあまり実感はなかったが、よくよく変身した自身の身体を見れば、案内人が普通じゃないのは一目瞭然だった。


 無駄の無い筋肉。異常に隆起した腕。傷だらけの身体。どれをとっても外見からして普通じゃなかった。


 というか、使っている斧も、よく見ればオリハルコン製だった。


「……もしかしなくても、凄く危険な奴を相手にしてたんじゃ…………」


 ペトラはもしかしたら、殺られてたのは自分だったかもしれないと想像し顔を青くした。

 が、自分の頬を叩いて気合いを入れ直すと、こうしてはいられないと早速行動を開始した。


 まず、本物の案内人や魔術師達に昏睡魔法を重ねがけし、地下にあった食糧庫へと放り込んで鍵を厳重にかけて監禁。


 案内人から奪った服を着用し、人が来ても怪しまれぬように散らかった小屋の片付けをした。


 その際、机の上に無造作に置かれた手紙が目に入る。


 ペトラはその手紙を手に取り、内容を改めた。


「これは……成る程。ここに来る案内予定の冒険者の情報か。これは良いものを手に入れた」


 事前に冒険者の情報を得られるのはありがたい。ペトロはニンマリとほくそ笑み、黙々と手紙を読む。


 やがて手紙の内容を一通り見終えると、ペトロは窓際に移動して人間の国………アンデル王国がある方向へと目を向けた。


「クックックッ……冒険者か。せいぜい私の……魔王様の役に立ってくれよ?人間。


 


 


 


 名をカオリとやら?


 


 


 クク……クハハハ!クハハハハハハハ!!」


 


 


 

 この時、ペトラは知るよしもなかった。

 これが、これから彼の身に長きに渡って振りかかる災厄の序章であることを…………。

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