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58話 依頼対決?純真乙女同盟 vs お色気金銀同盟

前回までのあらすじ…………。


共通の敵を前に、香とハンナが和解した。

「グルルルル…………」


『ゴルルルル…………』


「フム……取り敢えず、何とか拘束することには成功したな。これで暴れてどうこうすることはなくなったであろう。皆、ご苦労であった」


「あ、ああ。これで一安心なんだろうが……よくこんな檻と鎖があったもんだな。まあ、おかげ速やかに嬢ちゃんとハンナを拘束できたんだが………」


「当商会はお客様のニーズに答え、様々な商品を取り扱っておりますので」


「えっ?いや、だからなんで?ここって性関係の商会………」


「お客様のニーズに答えた結果…………」


「いや、もういい。人間の業の深さを介間見たわ……」


 私達を閉じ込めた檻の前で、ザッドハーク・ジャンクさん・エマリオさんがこちらの様子を伺いながら話をしている。


 私は自分の四肢を拘束する鎖を力の限り強引に引っ張りながら、檻の前にいるザッドハークのもとへと進み出た。


「グルル……ザッドハークゥゥゥ!!今すぐこの拘束を解きなさいぃぃぃ!!」


「落ち着かぬか。そのような様子では、拘束を解くなど許せる筈がなかろう」


「私は至って冷静よ。冷静にそこの糞ビッチ共の処理法方を考えているわ。そうCooooooooLに豚共のと殺方法を考えているわぁぁぁ!!」


『そうです!冷静に!冷徹に!冷血に!そこのクズ共の処理法方を考えてますよおぅぅぅ!!』


「そこな使用人。両名にあと2、3発麻酔薬を打っておくのだ。昏睡するぐらいが丁度良い」


「えっ?は、はい」


「既に麻酔薬の吹き矢を5発は喰らってんのに、嬢ちゃんとハンナは何でこんな元気なんだよ…?つか、この麻酔薬……『対オーガ用』って書いてんだが?なんでこんなもんが、この商………」


「お客様のニーズに答えた結果です」


「闇が深すぎる…………」


 麻酔薬入り吹き矢が入った箱を片手に項垂れるジャンクさん。

 そんなジャンクさんの後ろから、癪に触る甲高い声が聞こえてきた。


「やっと大人しくなったわね。全く………無様に暴れて見苦しいたらないわねぇ。ホント、これだから田舎育ちの芋娘は困るわ」


「ホントだねー!ちょっとホントのことを言っただけでヒステリーを起こすしー。だから思慮も人間性も幸も薄い薄々根暗女はきらわれるんだよー?」


「キシャアアアアア!?」


『ゴアアアアアアア?!』


 この腐れビッチ共がぁぁぁぁ!?

 こちらが動けないことをいいことに好き放題言いやがってぇぇぇぇぇ!?


 私とハンナは首筋に更なる吹き矢の連撃を受けながらも、糞ビッチ共に向かって前に進み出る。

 身体中に巻かれた鎖がギシギシと悲鳴を上げ、檻がミシミシと苦悶の音を漏らすが一切気にしない。

 ただ真っ直ぐに、ビッチ二人へと突き進む。


「おい、更に暴れだしたぞ?!檻と鎖から嫌な音がするし、麻酔薬も効いてないぞ?!ちょ?!そこの姐さん方!!これ以上二人を煽らないでくれ?!」


「別に煽ってないわよ?ただ、事実を言ったまでよ?」


「そうだよー?ホントの事を言って何が悪いのー?二人共、ただの芋と薄っぺら女じゃんー?」


「ギュルアアアアアア?!」


『ガラアアアアアアア!?』


 殺す!ころす!コロス!KORSUUUU!!


 更に力を込め、ハンナと鎖を引っ張る。


「止めてくれぇ!?これ以上二人を追い詰めないでくれぇ!?なんかもう、違う化け物に変異しそうで怖えよぅぅ!?」


「別にこんな芋女達を怖がる必要ないでしょ?依頼からも逃げ出す臆病者なんだから」


「というかー聞いたんだけどー依頼を断った理由ってー採取する茸の形がー男の人のーオ〇ン〇ンにそっくりでー嫌だったかららしいよー?」


「えっ?何ソレ?ダサっ?今時その程度で怖じ気ついたの?プハハハハ!!ウケるんだけど?!どんだけ初心なのよ?てか、純心?男のアレ程度で怯えるなんてー?!」


「ププッ……笑っちゃダメだよー。世の中にはそんな女の子もいるよー?でもーこの歳の女の子ならー男のアレなんてー普通は見慣れてて当然だよねー!というかーこの二人ー多分というかー確実にだけどー?」


「そうね。私もシルビと同じ事を考えてたわ」


 二人はそう言って顔を見合わせると、『せーのっ………』と声を合わせ、クイズの解答をするが如く、高らかに宣言した。


 


 


「「男性経験無しの未だ処女!!」」


 二人は声を揃え、同じ事を叫んだ。

 そして、暫し二人で無言で見つめ合うと、どちらともなく笑いだした。


「プッ………アハハハ!?やっぱそうよね?そうだよね!!なんか男の影無さそうって言うか、経験皆無って感じが顔に出てるよね!!」


「ウンウンー!!もう、目に見えて『あっ。こいつ男いないー』て分かるもんー!てか、その歳で男も知らないなんてーダサいと言うかー………」


「重い………わね。……ププッアハハ!!」


「芋くて重いとかー終わってる?芋重女?なんてーアハハハハハ!!」


「片方なんて薄いのに重いのよ?もう終わってるどころじゃないわよ?」


「「アハハハハハハハハハハハ」」


 




 

「コヒュー……コヒュー………」


「カハー………カハー…………」


「おい………暴れなくなったが、嬢ちゃん達が血涙を流しながら痙攣しだしたんだが…………」


「怒りが頂点を越えたようだ。ここより先は未知の領域。我が知識を持ってしても、二人がこれよりどのような行動にでるのか想像もつかぬ」


「俺……もう、この二人から離れたいんだけど?」


 ザッドハークとジャンクさんが私達の入っている檻から距離をとりながら、何かブツブツと言っている。


 だが、今の私の耳にはそんな雑音はどうでもよかった。ただただ………あの糞ビッチ共に目にものを言わせてやりたかった。


 糞が………あの糞腐れビッチ共がぁぁぁ………。

 好き放題の言いたい放題しやがってぇぇぇ。

 今すぐ奴らを〇〇〇して〇〇〇してやりたいが、流石にこれだけ拘束されてしまって何もできない。

 足なんかギチギチに鎖で固められてるから脛殺しも発動できやしない。


 グゥゥゥ……こいつらどうしてくれよう。

 だが、今はどうにもできない………。

 周囲にいる奴らが邪魔してくるのがネックだ。

 せめて自由に動けて、周りに邪魔する奴が誰もいなけれ…………………………!!


 


 

 その時、天啓が降りた。


 ある良い考えが浮かんだ。

 そうだ…………そうしよう!!それが一番だ!


 考えを固めた私は、まず深呼吸をして呼吸を整えた。更に意識を集中し、自身の荒れ狂う感情を整えた。


 心を落ち着かせ、頭が冷静になったところでエマリオさんへと声をかけた。


「エマリオさん………ちょっと話があるんですが」


「カオリ様?どうされました?」


「さっきの……話………依頼の件。受けさせていただきます」


「?!…………真ですか!!」


『…………ご主人様?』


 エマリオさんが嬉しそうに破顔し、檻へと手をかけてきた。

 私の横ではハンナが不思議そうな顔をしているが『シッ!』と静かにするように指示する。


「カオリ様!!依頼を本当に受けていただけるのですね!?」


「はい。是非受けさせてください」


「!?………いやはや、それはありがたい!!流石はカオリ様です!!私が見込んだお方!!きっと受けて頂けると信じておりました!!おかげで弟と勝負ができますぞ!!」


 依頼を受けると快諾すると、エマリオさんはグッと拳を握りこんでガッツポーズをした。

 そんな喜ぶエマリオさんの背後で、クルイージさんが怪訝な顔をしていた。


「き、急に、ど、どうしたと、い、言うんだ?さ、先程まで、あ、あれだけ嫌がっていたと、い、言うのに?」


「……確かに嫌ですよ?今でも、あの茸を見たくもないし、触りたくもない。本当は依頼なんて受けたくもありません」


「な、なら…………」


「だけど………それ以上に、そこにいる三流冒険者の好きに言われるのが我慢ならなかったものでしてね」


 ジロリとクルイージさんの隣にいるゴルデとシルビを睨み付けた。

 ゴルデ達もスッと目を細め、檻の中の私を睨み返してきた。


「三流……随分と生意気なことを言ってくれるじゃないの芋女。たかだか路傍の石級程度が舐めた口をきいてくれるわ……」


「そうよー!生意気よー!私達は輝く金級よー!」


 僅かに怒りを孕ませた声でこちらを見下してくるゴルデ達。

 私はそんな二人を見ながら『ハッ!』と鼻で笑ってやった。


「輝く金級?確かにそれは凄いわね。だけど、それが本当に正規で手に入れたランクならね」


「どういう意味かしら…………」


「意味?そのまんまの意味よ。あんたらみたいな見た目からしてチャラそうな女が、輝く金級なんてランクに普通はなれるわけがない。だから使ったんでしょう?…………女の武器を?」


「…………はぁ?」


 挑発的に言った言葉にゴルデが食い付く。

 そのまま檻へと近づき、明らかな怒気を発してくる。


「あんた……何言ってんの?」


「何?何言ってるかも理解できないの?どんだけ頭軽いのかしら?あー……そう言えば、さっきの会話からして随分軽かったし、おつむの方も軽いか。ごめんねー?ついでに貞操観念も軽そうだし、その軽さでギルド長とか職員とかと寝て、ランクを手にいれたんじらないのー?」


「?!………そんな事する訳ないじゃないの?あんた馬鹿じゃないの?!」


「あらあら?怒っちゃった?本当の事言われて怒っちゃった?でもさ、さっき自分で言ったよね?

 『男のアレなんて見慣れてる』って。それって、毎日見てるから見慣れてんじゃないのー?毎日必死こいて職員相手に股開いたり腰振ったりしてんじゃないのー?だから平気なんでしょ?そして高ランクゲットーっと!あーヤダヤダ!これだから貞操観念低い女は!腹が真っ黒で嫌ねー!あっ?黒いのはもう腹だけじゃないか?ゴメンネー?」


「…………小娘が……殺す」


「うん…………殺そー…………」


 私の挑発にのったゴルデ達が、怒気も露に更に檻へと近付いてくる。眉間には青筋が浮かび、目は血走っている。相当におかんむりのようだ。


 フフフ……それでいい。

 のってこいやぁ…………。


 室内には一触即発ムードが漂い、使用人達はアワアワと青い顔であわてふためいている。


 そんな怒り心頭でズンズンと迫ってくるゴルデ達の前に、彼女らの雇い主たるクルイージさんが立ち塞がった。


「ま、待て待て!お、落ち着け!ちょ、挑発にのるな!」


「どいて……ちょっと小娘達におしおきをするだけよ………」


「そうだーそうだー!」


「ほらっ、かかってこいやぁぁ!!びびってんの?ほら、ハリーハリーハリー!!」


「お、お前は、だ、黙ってろ!?!!こ、こんな安い挑発にのる必要は、な、ない!ど、どのみち、む、向こうが依頼を受けるので、あ、あれば、そ、その依頼で競いあえばいい!そ、そこで勝負すれば、い、いだろう!!」


 どもりながら宥めるクルイージさんの言葉に、ゴルデ達がピタリと動きを止めた。

 二人が止まったことを確認すると、クルイージさんは大きく息を吸って、更に言葉を続けた。


「そ、それに、ぼ、冒険者としての、う、腕を、し、示すならば、ちょ、丁度いいじゃ、な、ないか。む、向こうよりも、は、早く依頼を、こ、こなし、か、格と、う、腕の違いを、わ、分からせてやればいい!」


 クルイージさんがそう言い終えると、ゴルデとシルビは数秒程ばかり無言で私達を見つめていた。

 それから不意に踵を返すと、部屋の出口へと向かって歩きだした。


「それもそうね。そんな小娘達の挑発にのる必要もないわね。冒険者としての腕前を、実際に示してやればいいだけね」


「ウンウンー。依頼を先に完璧にこなしてー、冒険者としての格の違いを見せてやるー」


 怒気を収めて去り行くゴルデ達の姿に、クルイージさんが安堵の息を吐いた。


「ーーハッ!格なら既に目に見えて分かるじゃない。年齢という格が。若作りの年増ども」


「「この小娘がぁぁぁぁぁ!!」」


「ハッ!小娘上等!自分で年増って認めてるようなものね!それに、私の方が完璧に依頼をこなしてやるわよ!!そっちが上なのは年齢だけって分からせてやるわ!」


「こっちこそ上等よ!これは商人だけの戦いじゃないわ!私達の戦争よ!!どっちが上か、骨の髄まで分からせてやる!」


「お、落ち着け!お、お前も、せ、せっかく場を収めたのに挑発するな!!も、もう行くぞ!!は、早く出ろ!!そ、それじゃあな、に、兄さん!ぼ、僕らの、ほ、方は、あ、明日、しゅ、出発する!せ、せいぜい、そ、その冒険者共を頑張らせ、こ、こちらより先に茸を手に入れる、こ、ことだな!」


 クルイージさんは再び怒気を露にこちらに迫ろうとするゴルデ達の背をグイグイと押しながら、エマリオさんへと去り際の捨て台詞を吐いて部屋から出ていき、使用人の方々が慌てたように扉を閉めた。


「絶対逃げんなよ!?」


「後悔させてやるー!!」


 部屋の扉が閉まる直前、なんか向こうから腐れビッチ共の声が聞こえたような気がしたが、今は無視しておこう。


 やがて扉が完全に閉まると、暫し部屋は静寂につつまれた。

 そんな静寂の中、いち早く動いたのはジャンクさんだった。

 ジャンクさんはドカリとその場に腰を下ろすと、疲れきった顔で大きなため息をついた。


「はあ……怖えかった……めっちゃ怖かった……。女同士の喧嘩って、下手な魔物よりも怖ぇぇよ」


「それは大変でしたね」


「嬢ちゃんも原因だからな!?」


 泣きそうな顔でジャンクさんが叫ぶ。


 まあ、確かにそうですがね。

 私的には8:2ぐらいで向こうが悪いと思いますですがね。ジャンクさんを追い詰めやがって、あのビッチ共め。


「ところで、そろそろ檻から出してくれませんか?もう糞ビッチ共もいなくなったことですし」


 流石にそろそろ腕とかが痛くなってきた。

 無理に引っ張ったし、結構ダメージがきてるんだよね………。


 だが、ジャンクさんは何故か訝しむような目で私を見てきた。


「…………檻から出た瞬間、あいつらを追いかけて闇討ちとかしない?」


「しませんよ。だから解放してください」


「………ザッドハークはどう思うよ?」


「よいのではないか。殺意は消えておらぬが、戦意は消えておる。特に問題なかろう」


「一番消えてほしいもんが消えてねぇんだけど?!それって問題大有りじゃ……って、檻開けて解放してるし?!何してんだオッサン?!」


 ジャンクさんが解放するか迷っている間に、エマリオさんが檻の鍵を開け、使用人達に命じて私達を拘束する鎖を外してくれていた。


「いやはや。大事なお客様をいつまでも拘束する訳にもいきませんよ。それに明日には依頼に向かってもらう身。今から肉体に過度な負担を与え、後日に障りがあってはいけませんから」


「いや……そうかもしれないが…………」


「それに目を見れば分かります。カオリ様は確かな殺意を孕んだ濁った目をしておりますが、それは今すぐどうこうしようという感じではありません。ですので一先ず今は安心と思われます。はい」


「はい、そうですか……って、安心できねぇよ?!一番厄介な精神状態じゃないか?!」


 随分なことを言ってくれる。

 が、流石は商人。目利きは確かね。

 でも、まあ……邪魔はしないと思うから、放っておいても大丈夫ね。


 頭を抱えながら叫ぶジャンクさんを傍目に、使用人達の手によって、私達にジャラジャラとついていた全ての鎖が外されて解放された。


「よし!やっと外れた!いやー………自由っていいねぇ!!」


 腕を擦り身体の状態を確かめるも、多少手首が痛む程度で問題は無さそうだ。

 なんか背後から『この鎖……鉄製なのに、ひびが入ってるんですが……』と、驚愕する声が聞こえるが気にしないようにしよう。

 取り敢えず檻から出でると、エマリオさんとス・ピーチさんの二人が笑顔で礼を述べてきた。


「いやはや……一時はどうなることかと思いました

 が、依頼を引き受けて頂きありがとうございます」


「私からも礼を言わせてもらうわ。あんな不戦勝でクルイージのとこに行くなんて、納得いかないからね」


「気にしないで下さい。冒険者として当然のことですから」


「それでも言わせてちょうだい。ありがとう」


 こ、こう面と向かって礼を言われると、何だかんだむず痒いなぁ…………。


 ポリポリと頬をかいて照れ隠しをしていると、ザッドハークがやって来た。

 手で顎をこすり、青い炎の瞳でこちらを見下ろしてくる。


「しかし我も驚いたぞ。あれほど嫌々と騒いでいた依頼を受けるなどとは。それに、挑発はすれど、あの女冒険者達を見逃すとは。汝のこと故、檻を壊してでも報復にでると思うたぞ。よく我慢できたものよ」


「別に。好き放題言われたのは腹立ったし、今でもぶっ殺してやりたいわ。でも、それで暴力で解決したら、冒険者として負けるような気がしたの。だから、勝負をするなら冒険者として勝負しようと考えたのよ」


「ほう…………」


 ザッドハークが感心したように頷く。


 この様子。取り敢えず、今の言い分には納得してくれたかな?まあ、これで監視の目も多少緩めばいいが………。


 横目でザッドハークを見ながら考え事をしているど、同じく檻から解放されたハンナが歩み寄ってきた。

 その顔にはありありと不満が浮かんでおり、あの糞ビッチ共を逃したことが不服なようだ。

 それはそうだろう。あれだけ女として侮辱されれば、簡単に怒りが収まる訳がない。かくゆう私だってそうだ。


 だけど…………。


『ご主人様。一体どういうことですか?あの糞ビッチ共をみすみす逃すとは?私達でもう少し頑張れば、あの檻を壊し、直ぐにでもビッチ共に目にものを言わせられたのに!!』


「ハンナ……落ち着きなさい」


『しかし………!?』


「ハンナ」


 あまりの不満に苛立ち、今にも爆発しそうなハンナを強めの口調で制す。

 それからハンナを優しく抱き寄せ、その耳元で小さく囁いた。


 


 


「ハンナ。良く考えて。依頼場所は山…人里離れた場所。つまり、周囲に人の目は少ない」


『!?』


 そう呟くと、ハンナは目を見開いた。

 この目……どうやらこちらの意図を理解してくれたようだ。ククク………流石よ。


『………フ、フフ……成る程。そういうことですか。ご主人様も人が悪い』


「それほどでも。だいたい、ここでやっても邪魔が入り、思う存分にできない。それにくらべ、山ならば木々が茂っていて………」


『視界が悪く、襲撃は容易。更に場所によって、邪魔者も入りづらいと………』


「フフフ………チャンスはそこかしこにある」


『隠れるも、隠すも自由自在。悪いお人だ』


「そう。そして、当然ながら…………」


『山ならば、アレがある…………』


「『そう……崖が!!』」


 息ピッタリに同じ答えにたどり着いた私達。

 暫し私とハンナは見つめ合った後、どちらともなく口元を弛めた。


「ク………ククク…………」


『フ………フフフ…………』


『「ク……アハハハハハ!!」』


 


 


 


 


「なあ………なんか、あの二人。ボソボソと話しているが………どう思う?」


「録なことを考えておらぬ。先の言葉もあまりに嘘臭く、思わず笑いだしそうになったわ」


「だよなぁ…………。で、どうする?」


「様子を見るしかあるまい。恐らく、人目の少ない山で闇討ちをするとか、崖から突き落とすなどの完全犯罪を狙っておるはず。あれがそう簡単に獲物を逃す訳がないからな」


「だよなぁぁぁ…………。関わりたくない。正直関わりたくないけど、知ったら放っておく訳にもいかねぇしなぁ…………」


「ここまで来たら一蓮托生よ。取り敢えず、多めに麻酔薬を仕入れておこうぞ」


「だな。対オーガ用は効果が薄かったから、対ドラゴンか対巨人用を仕入れておこう。多分、ここならあるだろうし………」


 


 


 


 


 ◇◇◇◇◇



「メル婆!!いるー?今すぐ欲しいものがあるんだけど?」


 歓楽街のエマリオさんの店から一転。

 暗い裏路地にある、いつもの行き着けのお店。

 メル婆の営む『ババヤーガの店』に私達は訪れていた。


 あの後、エマリオさんと依頼についての細かい打ち合わせを終えて解散した私達は、私のたっての希望でここまでやって来たのだ。


 扉を開けて店に入り、大声でメル婆を呼ぶ。

 すると、奥から小さな人影が現れた。


「なんじゃ、こんな夜更けに?来るなら日中に来ればよいものを………」


 ブツブツと文句を言いながら現れたメル婆は、寝る寸前だったらしい。

 頭にはナイトキャップを被り、顔にはフェイスパック。上下真っ赤なガーターベルト付きの下着を着用し、その上からはピンクのスケスケのネグリジェを着ているという、何とも女子力の高い寝間着姿であった。


「「ゴボェェェェェェェェェ!?」」


 背後にいた男性組………ザッドハークとジャンクさんが、メル婆の寝間着姿を見た瞬間に吐き出した。


 気持ちは分からないでもないが、失礼過ぎであろう。


 メル婆も吐き出した二人を怪訝そうに見ている。


「なんだい、人を見るなり吐き出して?どっかで飲んできたのかい?」


 自分を見て吐き出したと考えない辺り凄いな、メル婆。私もこれぐらいの自信をつけたいものだ。


「いや、お酒は一滴も飲んでないよ。多分、メル婆の姿に見惚れて酔ったんじゃないの?」


「なんだい、そういうことかい。嬉しいことを言ってくれるのう。それじゃあ、儂から大サービスじゃよ。イヒヒヒヒ!!」


 メル婆は嬉しそうに笑いながらネグリジェの裾を摘まんでチラリとめくり、セクシーポーズを決めた。


「「アゴゴボェェェェェェェェェ!?」」


 男共は再び盛大に吐いた。


「イヒヒヒヒ!そんな喜んでもらえると、やった甲斐があるというもんだよ!イヒヒヒヒ!」


「イヒヒヒヒじゃねぇよ!誰も喜んでねぇぇよ?!おぞまし過ぎて吐いたんだよっ?!てか、ここなんだよ?!なんでゴブリンがパックしてネグリジェ着てんだよ?!見せ物小屋かなんかか?!」


 口元を拭いながら、涙目のジャンクさんが楽しげに笑うメル婆へと反論する。


 流れで普通にジャンクさん連れてきちゃったけど、そういえば、この二人は初対面だったなぁ。

 まあ、初見でメル婆を見ればビックリするだろう。私もビックリしたし。

 まして、こんな寝間着姿なら通常時の10倍くらいの破壊力はある。ジャンクさんの衝撃は押して知るべし。


 だが、いきなり初見でゴブリン呼びはないんじゃなかろうか?いや、確かにゴブリンに似てるけど、初対面でゴブリンはねぇ…………。

 しかも見せ物小屋って。温厚なメル婆も、流石に怒るんじゃないかなぁ?


「なんだいこの若造は?いきなり初対面でゴブリン呼ばわりとは?その度胸、嫌いじゃないよ。それ、もう1つオマケに………チラリ」


「オゴボェェェェェェェェェ!?」


 逆に気に入ったらしい。

 そういえば物怖じしない人が好きだったなぁ。

 止めを刺しにいったけど。


「さてと、それで一体こんな遅くにどうしたんじゃ?夜這いかのう?」


 地にジャンクさんが沈んだことを確認したメル婆が、椅子を差し出しながら夜分遅くの訪問の理由を尋ねてきた。


「夜這いじゃないよ。取り敢えず、夜遅くにごめんね、メル婆。実は…………」


 差し出された椅子に座りながら、私は店へと訪れた理由と目的を順を追って簡略的に説明した。

 依頼のこと。その理由。そして向かう場所。それらの話を、メル婆はお茶の準備をしながら黙って聞き、やがて話終えると納得顔で頷いた。


「フムフム……成る程。王からの依頼を受けた故に、その準備をうちで整えたいという訳じゃな」


「そういうこと。依頼の話をしてたら、こんな遅くになっちゃったの。ごめんね」


「なに、構わんよ。うちは常にお客様一番じゃからのう」


 朗らか──知らない人が見たら泣くであろう──な笑顔を見せながら、こちらのお願いを快諾してくれたメル婆に感謝しつつ安堵の息を漏らす。


「ありがとう、メル婆」


「礼なんていらんよ。金だけは使ってくれ」


「はいよ。分かってます。そこそこに使わせてもらいますよ。幸いエマリオさんから支度金をいくらか貰ってるから、お金は足りそうだからね」 


 依頼を受ける上で色々と支度は必要だからと、エマリオさんから少なくはない額のお金を渡されていたのだ。エマリオさんマジ感謝。


「それならば良い。しかし、あのエマリオからの依頼とはのう」


「?……エマリオさんを知ってるの、メル婆?」


「知ってるも何も、商人であやつを知らぬものはおらぬよ。国の風俗業界を束ねる裏の実力者。別名『風俗皇エマリオ』。金と酒と女の扱いで、奴の右に出るものはいないとされておる」


「思ったより、とんでもない人だった」


 とんでもない人とは思っていたが、更に斜め上にぶっ飛ぶ程にとんでもなかった。

 なんだよ風俗皇って?胸張って高らかに宣言できない称号だな。


「そして何を隠そう、儂もあの商会の品を愛用しておるからのう。このネグリジェだって、あそこから仕入れたものじゃ」


「その情報はいらなかった」


 その場でクルリと回って、私達にネグリジェを見せびらかすメル婆。

 正直、私も結構キテいるので年がいもなくその格好ではしゃぐのは止めてほしい。そろそろ吐くわ。

 ついでに、今のが止めとなってザッドハークも地へと沈んだ。


「さて、余興はこれぐらいにして、用件を聞こうかのう。何が欲しいんじゃ?」


 佇まいを直し、仕事人の顔へと変わったメル婆。

 そのあまりの切り替え振りの早さに、こちらが戸惑う程だ。


 私は慌てて事前に書いておいた確認用のメモを取り出すと、それを読み上げた。


「あっ、うん。それで欲しいのは、まずは保存食と傷薬でしょ。それに登山用の靴と、防寒着。更にランプとその燃料に…………」


「フムフム」


「人一人分入るサイズの丈夫な袋二枚に、手袋と荒縄とスコップ。それと、眠り薬と目隠しに、猿ぐつわ。あとは短刀と棍棒があれば完璧ね!」


「それを売ったら、犯罪の片棒を担ぐことになりかねない事態になりそうな気がするのじゃが?」


 メモ婆がめちゃくちゃ怪しんだ目で見てくる。


 くっ!?まずい?!怪しまれた?!

 流石に買うものが直球過ぎたか?!


 目を細めてこちらを見てくるメル婆に怯んでいると、横からハンナが進み出た。

 どうしたのかと思ったが、そのハンナの瞳からは『ここは任せろ』という思いが伝わり、ここはハンナに託すこととした。


 頑張れ、ハンナ。


『安心してください。別に怪しいことに使う訳ではないので』


「これ以上ない程に怪しいラインナップなんじゃが?それじゃあ、一体何に使うつもりじゃ?」


『大したことはありません。ただ豚共(ビッチ共)の処理に使うだけです』


「凄く不穏な副音声が聞こえた気がするのぉ」


 駄目だった。


 不信感どうこう以前に、もはや犯罪者でも見るような視線を向けてくるメル婆。

 こんなに警戒心を露にするメル婆ははじめてかもしれない。


 くっ……仕方ない!ここは強硬突破しかあるまい!!


 意を決すると、横にいるハンナの肩に手をやり目配せをする。ハンナは私の目を見た瞬間こちらの意図を理解し、コクリと頷き了承を示した。


 この時…………私達の心は確かに1つとなった。


 私は勢いよく席から立ち上がると、悲壮感を滲ませる声で叫んだ。


「メル婆!さっきから渋っているけど、一体何が駄目だと言うの?!私達はただ純粋に依頼遂行に必要なものを欲しているだけよ!!」


『そうです!冒険のために必要なものを仕入れようとしてるだけです!!一体それの何がいけないと言うんですか!?』


「いや、豚の処理とか冒険に関係ないじゃろ」


 これ以上ない正論だった。


「い、いや……ほら?ぶ、豚のと殺依頼を受けたからさ…………」


「先程、王の股関を直す茸採取の依頼と言うてなかったか?」


『そ、それはあれで……ほら!旅に必要な食料用のソーセージとハムでも作ろうかと!』


「肉屋で買え。どんだけ一から本格的に作るつもりじゃ」


 真っ当な正論だった。


「う、うう………メル婆!!分かってよ!!私達には必要なのよ!!あの腐れアバズレビッチ共を駆除するために!!」


『そうです!!あの雌豚共を処理するのに、それらの道具が必要なんですよ!!』


「とうとう本音を出したね。やっぱり録なことに使う気なかったねぇ」


 駄目もとで泣き落としをしてみたが駄目だった。

 普通に流されてしまった。


「まったく………一体何があったのじゃ?」


 嘆息し、呆れたような顔で私とハンナを見るメル婆。

 私とハンナは互いに目を見合わせてから、淡々と糞ビッチともに関する事情を話した。


「成る程のう……散々馬鹿にされたから山で闇討ちし、あわよくば山で処理しようと………。全くなんて短絡的なんじゃ、呆れてものも言えん」


 話を聞いたメル婆はますます呆れ顔となり、困ったようにため息をつく。


「うう……だって、あいつら私が処女だからって馬鹿にして…………芋女って」


『うっ……うっ……あいつら幸薄そうだなんて……そりゃあ、生前からついてないですが、あんな正面から言わなくても……』


 グスグスと泣き崩れる私とハンナ。


 あの時……あの女共に好き放題侮辱され、どれだけ悔しく、憤ったことか。

 正直、言ってることが的を得ているだけに、身を削られ、魂をも砕かれかねない思いだった。

 悔しく、怒り、憎しみ、果てのない憎悪の炎に身を焼かれそうであった。


 だというのに、あの女共はそれをおもしろおかしく嘲笑った。

 多少……かなり……容姿が整い、男運があり、女子力が高いというだけで、まるで私達をゴミのように見下した!!


 そんなの…………そんなの…………。


『「許せる訳がないじゃないですか!!だからちょっと背後からボカッと殴って、崖にポイッとしようとしただけなんです!!」』


「可愛く言ってるようで、中身は随分と猟奇的じゃのう…………」


 思いの丈を涙ながらに語る私達を、メル婆は心底呆れたように見ていた。


 が、急にその目をスッと細めた。


「事情は分かったがのう。そんな理由ならますますお主らの望むものは売れんのう」


「そんな!?」


『メル婆様!?』


 メル婆からの宣言に、私とハンナは目を見開いて驚きの声を上げた。


 こちらの事情を話せば『もしかして売ってくれんじゃね?』と多少の甘い考えを持っていたが、どうやら本当に甘かったようだ。


 メル婆は私達に背を見せ、店の奥へと向かって歩きながら、諭すように語りかけてきた。


「お主らの気持ちは分かるが、そのような短絡的な気持ちでの犯罪行為のために道具を売ることなどできぬ。まして、顔見知りが犯罪に手を染めるなど見過ごせぬ。頭を冷やして考え直すことじゃ」


「メル婆…………」


『メル婆様………』


 メル婆はそれだけ言うと、店の奥へと姿を消していった…………。


 


 


 


 

「じゃから、こちらの足がつかぬ呪術道具をお主らに売ろう。これならば証拠も残さず、確実にその女共の息の根を止めることができよう」


 メル婆は両手一杯の怪しい道具を持って、朗らかな顔で戻ってきた。


「わーい!流石メルえもん!」


『頼りになります!』


「いや、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ?!」


 ハンナと万歳三唱しながらメル婆を称えていると、これまで背後で踞って大人しくしてたジャンクさんが意義を申し立ててきた。


「何ですかジャンクさん急に叫んで?気持ち悪い」


『情緒不安定ですか?気持ち悪い』


「ヒデェーな?!いや、どうでも……よくはないけど今はいい!!いつツッコもうか悩んで、結局今まで黙って見てたけど、ちょっと待てぇい!?色々おかしいだろうが?!揃って頭おかしいだろう、お前らぁ??!特にそこのババア!?」


 ジャンクさんは頭をかきむしりながら、机の上に呪術具を並べているメル婆を指差した。


「なんじゃ、儂か?」


「あんただよ?!嬢ちゃん達が明らかに犯罪臭漂う買い物をしようとし、それを嗜めた!そこまではいい!だが、何で結局怪しいものを売ろうとしてんだよ?!しかも、めちゃくちゃに怪しいものを!?なんか見た目から、所持してるだけで捕まったり、神殿関係者に見つかれば異端審問にかかりそうなもんがゴロゴロしてんだけどぅぅぅ?!」


 机の上には何か真っ赤な骸骨や禍々しい杖。瓶に入った謎の紫の液体や、ガタゴトと動く壺などが並び、ジャンクさんはそれを見て頬をひくつかせていた。


「ヒヒヒ……お主、ジャンクと言ったか?………お目がたかいのう」


「どういう意味だよ?!」


「そういう意味じゃよ………ヒヒヒ」


「このババア、マジ怖いんだけど?!」


 ジャンクさんが後退り、全身を震わせる。

 メル婆はそれをおもしろおかしそうに見ながら、椅子へと座った。


「ヒヒヒ……仕方ないであろう?孫のように可愛がっている二人が、直ぐに足がつくであろう短絡的犯行に走ろうとしておるのじゃ。じゃから、ここは嗜めて頭を冷やしてもらい、証拠が残らず足もつかず、更には確実性のある呪術という方法を掲示してやるのが老婆心というものよ」


「そんな老婆心、ドブに捨てちまえ!?孫だと思ってるなら、まず犯行を止めろよ?!」


「いや、だってその女らには儂だって腹が立つんだもん」


「だもん……じゃねぇよ?!なんで俺の周りはこんな選択肢が『殺す』か『痛めつける』しかない奴らばかりなんだよ?!もう、頭がおかしくなりそうだわぁ!?」


「ねぇ、メル婆。これどうやって使うの?」


「俺を無視して呪術道具をいじってんじゃねぇぇよ!?」


「それは『バンガスの矢』じゃな。その昔、弓の英雄バンガスが使っていたとされる矢で、それに対象の髪の毛などを巻き付けて弓で放つと、距離や壁など関係なく、対象の心臓を確実に射抜くというものじゃ。ただし呪いの代償として、使用者の最近もっとも交友の多い異性が…………なんか死ぬ」


「じゃあ、ジャンクさんか。なら、便利そうだしこれにしようかな!」


「待てぇぇぇぇぇぇぇ!?人を便利グッズの付属品的な軽い感じで勝手に巻き込むんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ?!お前ら、頼むから一回そこに直れ!!一度冷静に話し合うぞ!?いや、だから興味津々で呪術具に触れるなぁぁぁぁぁぁ!?」


 


 結局、この後。ジャンクさんの涙ながらの必死の説得と、土下座による懇願により、私達は普通に保存食やら登山に必要なものなどを買うだけにとどまったのだった。

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