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5話 王と言う名の鎮静剤

「おはようございます。昨日の疲れはとれましたでしょうか?」


 朝、メイドさんの案内で玉座の間へと向かう途中で、爽やかなイケメンスマイルで挨拶をしてくるイケメンことケテイール王子様。


 朝からイケメンごっちゃんです。


「おはようございます。お陰様でぐっすり眠れましたし、頭の中を整理することができました」


 こちらも今できる最高の笑顔で挨拶に答える。


 事実、何だか妙に気分がいい。


 昨夜は寝る前のステータス確認で妙なスキルを得たことで意気消沈していた筈が、朝起きたら胸のつっかえが取れたような気分だ。


 まるで誰かに八つ当たりをして鬱憤を晴らしたかのような爽快さだ。


 いや………なんか夢の中で何かがあったような?


 なんか、誰かを蹴ったような………変な夢を…………。


 …………余り覚えてないや。まぁ、いいか。特に問題はないでしょう。


  「おや?何やら憑き物が落ちたようなお顔ですね?」


 王子様も私の顔色から何かを察してようだ。


「えぇ。何だか体の調子が良くて」


「左様ですか。緊急事態とはいえ、こちらの都合で勝手に召喚してしまったので気を病んでいるのではと心配致しましたが………お元気な様子に安心致しました」


 体調の良いことを伝えると、王子様は我が事のように嬉しそうに微笑んできた。


 王子様なりに勝手に召喚したことに対し、思うところはあったのだろう。本当に心配している様子だし。昨日は勇者に会えて興奮してたのか、受かれた様子に見えたけどね。


 だけど、私としてはその王子様の微笑みだけで更に元気が出ましたよ。今なら魔王とだってガチンコですよ。


「お気遣い感謝します」


「いえ、当然のことです。それでは、ご一緒に父上………いや、王のところに向かいましょう。本日は話しの続きと、紹介したい者達がおりますので」


 王子様はメイドさんの代わりに前に出て、私をエスコートする形で歩きだした。


 きゃぁぁ!?な、なんかこれってデートっぽくない?朝からイケメンさんのエスコートって!!マジでテンション急上昇なんだけど?!昨日のスキルの悩みなんて吹き飛んでしまいますよ!!


 私はテンション上げ上げ状態となっていたが、王子様にそれを悟られないようおしとやかな女性を演じ、その後ろに付いていった。


 女性は三歩後ろを付いていくような大人しいものが、男性から好まれるっていうからね。今から少しでもポイントを稼いでおかねば!


 んっ?もう手遅れ?そんなことは無いはずよ。


 多分。






 ◇◇◇◇◇



「おぉ、勇者様!おはようございます!本日のご機嫌はどうですかな?」


「この玉座の間に入る寸前までは良かったです」


「どういう意味じゃぁぁぁ?!」


 本日も王様は平常運転だ。昨日会ったばかりだけど、この人は少し雑に扱った方がいいだろう。


 良い人なんだろうけど、多分調子にのらせちゃ駄目なタイプだと思う。直感がそう言っている。


「それでは王様。昨日の話の続きをお願い致します」


「あれ?儂の意見無視?」


「それでは僭越ながら、私の方から話させてもらいます」


「あれ?息子よ?お主もか?最近、儂への当たり厳しくない?もしかしなくとも、お主不在の間に儀式を行ったの怒ってる?ねぇ?」


「では、これからのカオリ様にして頂きことを話します」


「あっ。これ、やっぱ怒っとる。妻と同じ怒りかたじゃもん。仕方なかったんじゃよ……お主がおると、儂の威厳が半減するんじゃもの………」


 じゃもんじゃないよオッサン。


 何?王子様怒ってたのこれ?余りにも涼やかな顔過ぎて分からなかったわ!いや、確かに勇者に憧れている王子様が召喚の儀式に最初からいなかったのは変だと思ったけど、自分の威厳を示すために不在を狙っていたのか?


 自分でも、そこら辺は理解してたのね。というか、結局全部持っていかれてるよ王様。周りの人達も何も言わないし。


 威厳が半減どころか零ですよ。自分を過大評価し過ぎでは?


「ではカオリ様………まずは、昨日話しました通り、貴女には仲間となる6勇士を募りながら、自身を鍛える旅に出てもらいます」


 旅かー………やっぱ、旅に出なくちゃいけないか。めんどいなぁ。


「本当は城で鍛練を積んでから送りだしたいのですが………女神様の神託により『勇者は旅の道中で力を得よ』ということになっているので力を貸すことができません。何でも、1つの国で勇者を縛り、恩を与えて勇者の私物化を防ぐためと言われていますが………世界の危機にそんなことを考える不届きな人間はいないと信じたいですね」


 苦笑しながらそう説明してくる王子様。


 成る程ね。そういう意図あってのことなのね。女神とやらも考えてはいるのね。


 あと王子様。後ろの王様が目を逸らしたよ?不届き者が身内にいたよ?


「更に、この旅路の道中で魔王の手勢によって侵略された領土を取り戻してほしいのです」


「領土ですか?」


「はい。昨日も説明しましたが、今や我々人族の生存領域は日に日に魔王軍によって狭められています。同時に、襲撃から逃れた人々や国を追われた者達が安全な国へと逃れてくるのです。無論、我々は避難民を保護し、糧食の配給や、怪我の治療といった様々な救済措置をとっていますが………それにも物質や人材に限度があります。特にに、食糧が問題となっていて、国の管理する非常用食糧庫の備蓄も芳しくないのが現状です」


 おぅふ!?な、なんか思ったよりも事態は深刻なんじゃないのかい?食糧が不足しているって………って、そ、そんな中で私、あんだけ食べていた訳?おかわりまでして?!そういえば、お肉のおかわり要求した時、メイドさんの顔がひきつっていたような!?や、やっちまったぁぁぁ?!


 そ、そりゃ、暴食王なんてスキル取っちゃうよ!!200グラムはある謎のお肉を三枚もおかわりしちゃったもの!!


 そんなテンパっている私の心境を知ってか知らずか、王子様は尚も淡々と話を続ける。


「故に、カオリ様には、人類の生存領域の土地を広げる為にも、支配された街や村………捕虜となった人々の解放の手伝いを旅の道中にしてただきたいのです」


 真剣な目付きでそう語りかけてくる王子様。


 お、おふぅ………こ、こんな表情されたら断れないでしょ?そもそも、あんだけ喰っておいて食糧事情の改善に手助けしないって、恩知らずにも程があるでしょ?!


 よく見ると、背後からメイドさんが刺すような視線で睨んできているし!


 てか、まだいたのメイドさん?


 い、胃がキリキリと痛い………。


 もう答えるべきことは、強制的に決まってるじゃないのよ!?


「ま、任せて下さい!勇者として召喚されたならば人助けは当たり前です。この私が魔王の手から人々を救い出してみせましょう!」


「「「「「おぉぉ!!」」」」」


 それほど有るわけでもない胸を張って答えると、玉座の間にいる人々から歓声が上がる。


 皆が期待に満ちた目で私を見てきている。


 きっと彼等の中では、既に私が魔王を打ち倒すことが決定事項になってるんだろうなぁ…………。


 う、うぅ………み、皆の期待が重い………お肉のおかわりでこんな目に遭うとは………に、二枚で我慢しておくべきだったかな…………。


 内心で、昨夜の夕食の1人反省会をやっていると、いつの間にか王子様が私の目の前までやって来ていた。


 そして、おもむろに私の手を取り、そのままギュッと握ってきたのだ。


「ふぇ?!」


 突然の王子様の行動に驚き一瞬唖然とし、やがて目の前の事実に頭が追い付くと、一気に顔が熱くなる。


「お、お、お、お、おうじさま?!」


 最高にキョドりながらも、何とかイケメン王子様のイケメンな行動に声を上げると、王子様はこれまたイケメンな笑顔の上に、うっすらと涙を浮かべるという、所謂『イケメンの感激嬉し泣き』という反則コンボをかましてきた。


 そして、極めつけに…………。


「やはり貴女は私の見込んだ勇者様です。美しいだけではなく、その内面も気高く尊い………正に伝承に在りし存在そのものです」


 と、イケメンな台詞をかましてきやがった。


 な、なんてことだ………イケメンのイケメンによるイケメンの重ね掛けだとぅ?!い、イケメンのゲシュタルト崩壊や………もう、私の色々な部分が辛抱堪らなくなるやろが…………。


 いや、た………堪えるんや香!ここで衝動に身を任せてしまえば王子様からドン引きされるだけじゃなく、色欲とかのスキルを会得する可能性がでてきてまう!!それほどに辛抱が効かんようなってきとる!そんな最悪なダブルコンボとかは避けるんや!!


 な、何とか落ち着かねば!!


 な、何か………心を落ち着けて、テンションを下げるものは…………。


 …………そうだ!!


 私は王子様から視線を外し、その背後で完全に空気となっている王様へと目を向け、その姿をを視界に収める。




「…………ハァ」



「何故に儂を見て溜息をつくんじゃあぁ?」


 ふぅ………何とか鎮静剤(おうさま)のおかげでテンションを下げることができた。初めて王様に有用性を感じたよ。


 さて………テンションが下がりきっているうちにこの状況を何とかしないとね…………。


「あ、あの………王子様?」


 流石にいつまでも手を握られていたら、再び私の興奮パラメーターが上がっちゃうからね。取り敢えず、勿体ないけど手を離してもらおう。


「あっ………し、失礼しました!?」


 私が声を掛けると、王子様はハッとしたような顔となってから我に帰り、慌てたように手を離した。その顔はリンゴのように赤くなっていた。


 イケメンの照れ顔………ごっちゃんです!!


 王子様の初々しい姿に涎が垂れそうになったけど必死に堪える。


 頑張れ乙女の矜持。色欲なんかに負けるな。


「す、すみません………つい勇者らしい姿に興奮してしまい……。淑女に対し、とんだ失礼をしてしまいました」


「いえ………そんな事は………」


 そんな事はありませんよ。この手は暫くは家宝にしますから。手洗いうがい?何ですかそれ?美味しいんですか?


「さ、さて………では話の続きなのですが、勇者であるカオリ様にはこれから魔王討伐の旅に出てもらうことになります」


 気を取り直した王子様が真剣な表情で説明を再開しだした。


 えっ?あれ?もしかして、もう旅立ち的な?えっ?早くない?た、確かにゲームとかだといきなり旅立ちから始まるけど、現実にそれをされると結構厳しいんだけど?普通、準備があるでしょ?荷物とか、心とか心の準備が。


 大事な事だから二回言いました。


 だけど、いきなり見知らぬ世界に1人で放り出されるのはちょっと……。


 異世界の事は何も知らないし、結構厳しいのでは………?異世界の状況や文化を勉強しますので、暫くお城で養ってもらえませかね?


 というか、最悪王子様が私の勇士になってくれませんか?なんなら、そのまま養ってくれても…………。


「ですが、いきなり見知らぬ世界に勇者様1人を放り出すのは余りにも酷です。それを考慮したのか、神様からの神託により、案内役兼最初の勇士と成りうる仲間を紹介するお許しを得ました」


「あっ。そうなんですか」


 チッ!やっぱり、しっかりしてやがるぜ女神様。勇者に対する保証やサポート体制が完璧じゃないですか。安心して魔王討伐に向かえますよコンチクショウ!顔も知らぬ女神様よ、ありがとよ!


 まぁ、これで転位ボーナススキルの取得条件が私の任意だったら尚良かったんだけどね。


 そしたら今頃は私の考えたチートスキルで無双してたのにね。


『脛殺し』や『王殺し』や『暴食王』なんかじゃないまともなスキルで。


 てか、普通は勇者の私に直接神託とかあるんじゃないの?若しくは、直接現れるとか?小説だったら、最初とかに異世界の神様に会ったりするもんだけどね。なんでいちいち王様や王子様を間に入れるんだろう?


 まぁ、いっか。もしかしたその内会えるかもしれないしね。


 そしたらスキルの件で文句をまず言うが。


「そこでカオリ様。我が国では女神様の神託を受け、僭越ながら勇者様と共に歩むに相応しい腕利きの者を国中から厳選し、その中の何名かを紹介したいと思います。後は、その中からカオリ様が気の合いそうな者を選んで頂ければ幸いです」


 流石は王子様ですね。既に強者を厳選してる上で最後に私に選択肢を残してくれるとは。大変有難いですよ。


 いくら腕利きの方であろうと、性格が合わなければ旅が辛いものね。道中気の合わない人と、ずっと無言とかどんな苦行だって話だよ。


 魔王討伐前に心が折れるわ。


「そこまで気を使って頂いてありがとうございます。王子様には感謝してもしきれません」


「当然のことです。寧ろ、これぐらいの援助しかできないのが心苦しいぐらいですよ」


「そんな事はありません。私1人であれば、仲間を募ることも難しかったでしょうから」


 事実困難だったと思う。文化も何もかもが違う異世界で、1人でいきなり仲間探しはきついと思う。


『一緒に魔王を倒しにいかない?』


 なんて見ず知らずの人に、言える訳がない。


 最悪、いくら異世界で勇者とはいえ、頭の健康を疑われかねない。私が聞かれたら間違いなく疑うし。


 だから女神と王子様のこの対応はかなり嬉しい。正に神対応ですぜ。


「カオリ様にそう言って頂ければ幸いです。それでは早速ですが、選ばれし五人の者達を紹介したいと思います」


 王子様がそう言って手をパンパンと叩くのを合図に、玉座の入り口付近にいた兵士さん達が厳かな雰囲気でゆっくりと扉を開いていく。


 そして、その開かれた扉をくぐり抜け、5つの人影が入室してきた。


 そして、その5つの人影は私の近くまで歩み出ると、事前に打ち合わせをしていたのか、綺麗に横一列に並んで止まる。


「カオリ様。彼等こそが我が国において、勇者の仲間として送り出すに相応しいと自信を持って言える、強さと品格を備えた勇士候補達です!」


 王子様が大きな声と共に私の前に並んだ五人を紹介し始めた。


 お………おぉ………こ、この五人の中の1人が私の仲間になるのか。す、凄いドキドキする!


 これから共に旅をする仲間だからね。慎重に選ばなきゃ!


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