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52話 悪魔の果実の収穫 最終決戦!!香よ!永遠なれ!!

『力が欲しいか?ならばくれてやろう!』


 突如として、そんな謎の声が頭の中に響く。


 一人の声なのか、複数なのか………そもそもちゃんとした言語なのかも分からない謎の声。

 本来ならば、そんな声が聞こえたら無視するか、精神科に受診するところである。


 が、今の困窮極まった私としてはありがたい話であった。


 だから、私は声が聞こえた瞬間に迷いなく答えた。






 力が欲しいか………だと?くれるならもったいぶらずに寄越せ!力を!力を!力を!大いなる力を私に!!



 同情するなら力を寄越せぇぇぇぇぇ!!








 そう願った瞬間、何者かの笑い声と共に、私の体に凄まじいまでの力が流れ込んできた。


 例えようのない程の力の奔流。

 これまで感じたことのない感覚が身体中に満ち溢れる!!上は髪の先から下は爪先まで!!隅々まで力が満ち満ちていくぅぅぅ!!

 自分の力が急激に増し、自身が強くなったことを確信できる!!

 その、あまりにも凄まじいエネルギーは体の外にも溢れだし、トゥルキングが放つ大気鳴動を軽々と弾き飛ばす程だ。


 あぁ………なんたる充足感!!なんたる快感!!


 血が……肉が……心が歓喜に震え、歓声を上げている!!


 思考も何だか妙にクリアになり、今なら何でもできそうな感覚だ!!


「あぁ……力が満ちる!溢れる!充たされるぅぅぅぅ!!体が疼いて……ウズいて………UZUいTE仕方がないぃぃィィ!!間違イないワ!!今の私の女子力は世界一ぃぃぃぃ!!誰も私の魅力ニ敵わなイ!ははハHAはは!!この溢れル女子力!!煌めク魅力!!そして神々しイ母性!!アハははハ!!最高よ!最高にハイだわぁaaぁ!?最高に最高に最高にサイコにSAIKoooYoooo!!これZO青シュン!!アオハル万歳ぃぃ!」


 私は溢れる力の衝動のままに天高く両腕を掲げながら叫び、力をくれた存在に深く感謝した。










 ◇◇◇◇



「おぃぃぃ!?なんか嬢ちゃんがおかしいことになってんぞ?!なんか素人目に見てもヤバい状況だぞ!?赤黒い物騒なオーラを放ってるし、変なテンションになってるし、言葉もゴアみたいになってんぞ?!どうしたんだよ、アレェェ?!」


『あn変naこ葉syあ不!!』


「ゴアが『私、あんな変な言葉で喋りませんよ!』と起こっておるぞ」


「どの面下げて言いやがる?!いや、面ないけど………って、今はそうじゃなくて、なんだよあれ?!嬢ちゃんどうしちまったんだよ?!なんかおかしいことになってやがんぞ?どうなってんだよ!?」


「フム………。あれは恐らく、何かの………いや、何者かの干渉を受けておるな。それも複数の」


「か、干渉…………?」


「ウム。あれはどうやら、無駄に強キャラ設定な印象を与えて意味深に出したはいいが、この先登場するかどうかも分からない……いや、今回でほぼ出オチ確定などっかの異次元の者達が、カオリの強い思念を受け取り呼応したのだ。そして、何か凄い感じの力を何か凄い感じで送ったのだろう。そしてそれを受け取ったカオリの中で何か凄い感じに混ざりあって、今の何か凄い感じのカオリになったのであろう………。言わば、今のカオリはただのカオリでなし。【何か凄いカオリ】だ」


「言わばってか、そのままじゃねーか?!いや、前半のいらん情報は無駄に詳細が詳しいのに、一番重要な後半の説明が雑だな!?スカッスカッのフワッフワッじゃねぇか?!てか、意味深とか出オチとかなんだよ?!意味が分からんわ!?」


「そこは触れぬが吉よ。下手に踏み込めば、この世界を構築する重要な存在(ファクター)永久(エターナル)なる世界へと旅立ってしまう。下手に踏み込んではならぬ聖域(サンクチュアリ)よ」


「な、なんだか分からんが本能が理解した。わ、分かった。その件にはもう触れねぇわ………。で、で?あの嬢ちゃんは大丈夫なのか?なんかヤバいオーラを纏ってんだが………」


「ウム………。ザッと見た感じでは憎悪・憤怒・嫉妬・傲慢・怠惰・淫欲・欺瞞・強欲・殺気・妖気・邪気・霊気・瘴気・破壊衝動・コスモパワー・締め切り間近の作家の焦燥・その他etc………と数えきれぬ程の様々な力のオーラを纏っておる」


「いや、完全に勇者が纏っちゃいけないもん纏ってやがるだろ?!んなもん纏って嬢ちゃん自体は大丈夫なのかよ?」


「フム………多少頭がバグっているようだが大丈夫であろう」


「いや、それ大丈夫じゃない症状!?」


「いえ………あれだけの力を集約してバグっているだけなのが奇跡よ。本来ならば力に耐えきれずに肉体が崩壊するわ。例えるならば、体がミートソースみたいになってるわ。それが頭がバグっている程度なんて………」


「おばさん?!いや、例え怖っ!?」


「ウム。あれで多少バグっておる程度とは………やはり十年……いや、百年に一度の逸材!!欲しい……あの娘が欲しいぃぃ?!やはり孫の嫁に迎え、ゆくゆくは儂の後継者にしたいのぉぉぉ!!」


「このババアも怖ぇぇよ?!目血走らせて唾飛ばしながら叫んでるよ?!誰かまともな奴はいねぇのかよ?!いねぇわ此処?!もう早く帰りてぇぇよ?!てか、あれは大丈夫なのかよ?!俺らには影響はないんだよな?!なっ?!」


「フム…………それは…………」


「それは?!」


「大丈夫であろう………が、念のため今のカオリの視界には入らぬようにせよ。目も会わせるな。そして地面にうつ伏せなり、両手で頭を覆え。その際、耳と目をしっかりと押さえて口を開け。呼吸は鼻ではなく口で行うのだ」


「それ、爆発物(大丈夫じゃないもの)の対処方ぅぅぅぅ?!」











 ◇◇◇◇





『カ、カオリ??な、汝……なんだその力は?!』


 溢れる力を全身で感じている私の耳に、煩わしい雑音が聞こえてきた。


 見れば、ゴリゴリマッチョの奇妙な樹木が震えながら私を見ていた。


 ん?あれは………そうだ………あれは………。


 あれはトゥルキング。


 私は………あのゴリプラントを倒す為に力を………。


 そう思い出すと、何故だか自然と笑みが溢れてきた。


「あ……は……ハ……HA!!トゥルキングぅぅぅ!!もう私は負け負ケMAKEないワよぉぉォ!!私は力を……偉大なる女子力を得たぁぁ!!この凄まじい女子力を得たワタシにィィ!たかだカぁぁ!樹木がぁァァ!敵うハズがないわYOooo!!」


 両手を広げながらトゥルキングへと近付き、もう私は負けないと宣言した。


 すると、トゥルキングは意を決したような雰囲気を醸し出しながら、スッと拳を構えた。


『な、なんたる邪気!?カオリ……。よもやここまで堕ちるとは………。世界に選ばれた勇者でありながら、そのような邪気に身を任せるとは………。カオリよ!悪いことは言わぬ!!我の言葉が聞こえるならばその力を手離せ!今からでも遅くはない!!直ぐに力を手離すのだ!さもなくば………我は汝を殺さなくてはならなくなる…………」


 苦悶に満ちたような声で語るトゥルキング。


 だが、私にはトゥルキングが何を語っているのか全く理Kaiできナかっタ。


 あ、愛ツはな、何をい、イ、言ッテるルのの?


「ち、チ、血、痴、力、ちカ、チからからからからからからからからからからからからからからからからからからからからからからからからからからカラカラカラカラカラカラカラカラカラ??」


『………ッ!?最早言葉も通じぬか!?力に溺れおって…………。なれば仕方あるまい!!カオリよ……許せ!!真・大気鳴動!!これでせめて人として往生するが良い!!』


 そ、そう言うと、トゥ、トゥルキングは両手を突き出しダシ、た、タ、大気鳴動ヲ放ってキタ。


 まともなぼ、ボ、防御しセイをトッていなカタ私ハ、直ニ大気鳴動ヲ受ケルコトナタ。


 が…………。









「あ、アハはハはハ!!な、なぁニ?く、くすぐっタイわぁねェェェ!!」


『なっ?!馬鹿な!?』


 何てコトないよに笑いナガラ大気鳴動を受ケル私に、トゥルキングが驚キの声を上ゲル。


 ハは!驚いテる!!


 凄まマじい女子力をエタ私にトテ、この程度はソヨ風とサシテ変わらナイ。


 防御をトル必要もないノダ!!


「アハはハハは!!軽い軽イ!軽いワァァ!!」


 私は笑いナガら平然と大気鳴動ヲ受けル。

 が、ソレでもトゥルキングは諦めズニ私へと大気鳴動ヲ放ちつヅけてイル。


 イツカは倒せと思ッテ諦めズニ放ち続けてイルのか、それトも他に手がナイのか…………。


 樹木なノデ表情は分からナイガ、明ラカに悔しサト焦燥感が滲みデテいるので多分後者ダロウ。


 あぁ…………アノ悔しゲな雰囲気が堪ラないワ!!


『ぐっ…………こんな………こんな…………』


「あはハは!!いィィ顔ォォ!!いヒ顔ォォ!!今のアナタならスキにナレソォォォォよォォ?」


『カ………オリィィィ!!』


 憎々しゲな声で叫ブトゥルキング。


 あぁ………この怨嗟ニ満チタ叫びモ堪らないワァァァァ!!


 でモ…………。


 私ハピタリと笑ウのを止メ、真っ直ぐニ真顔でトゥルキングヲ見つメタ。


 そシテ…………。


「そろソロ飽きたワね」


 トゥルキングを見ながらソウ呟く。


 すると、トゥルキングは最初ナニヲ言わレタノカ分からナイといった様子を見せタ。


 が、スグニ訝しな声色で先の言葉をハンスウしてきた。


『飽きた…………だと?そんなふざけ………』


「ソウ。もう飽きタワ。アナタの力はもう既に見切っタ。既に力の底も見えタ。その上デ言わセテもらう。アナタはモウ私には勝てナイ。絶対ニ。完全ニ。完璧ニ。私二は勝つコトはデキナイ。もう見えタ勝負。だから飽きたタ」


 トゥルキングの怒声を遮り、簡潔明瞭ニ飽きタ理由を述べル。


 先ノ様子から、今の大気鳴動ガトゥルキングの奥の手デアリ最大の技デアル。

 それガ私に通じテイない以上、既に勝負はミエテいるハズだ。


 ソレはトゥルキングも理解してイルハズだ。

 私以上に長い間戦っテいるコイツが理解できないハズがない。

 私に敵ワぬことも、勝てヌことも肌で分かッテいるハズだ。


 トゥルキングは私ノ説明にうつムキ、体ヲ震わせル。


 図星をツイタことデ何も反論できナイようだ。


 ダが…………それデモトゥルキングは手を止めヨウトしない。


 その理由ハ…………。


『ぐっ…………ぬ…………それでも………それでも我は諦めぬ訳にはいかぬ!!我が誇りに………我が眷族達の信頼にかけて!!たとえ敵わぬとも、我は立ち向かわねばならぬのだぁぁぁぁぁ!!』


 トゥルキングが気合いノ雄叫びとともに渾身の大気鳴動ヲ放っテクる。


 ハン!ヤハリ誇リやら信頼カ…………下ラヌ。


 そのヨウナ幻にスガリツき、己の身ヲ犠牲にスルトハナ…………。


 哀れナ盲信シャが…………。


 ナラバ………圧倒的『力』の前ニ、そのヨウナものがタダノ幻想デあるコトを思い知らセテやろう。


 私は大気鳴動ヲ涼やカナ顔で受けナガラ、片足をユックリと引いタ。



『?カオリ…………何を…………』


「トゥルキング………私のJYO死力の前ニ沈みナサイ」


 片足ヲ引いた私に怪訝ナ様子を見せルトゥルキングにそう言ウト、振り上げタ足ヘト力を込めタ。


 何故ダか分からナイ。ダケド、私のナカの何カガ今の私ノ中に溢れル力ノ使い方ヲ本能テキに教えてくれル。


 私はソンナ本能に従い、足に力を込めてイク。


 そシテ………自然と口が開き、言葉が出てきた。



「我ガ足ハ今、一本ノ槍と化す」


 足ニ力がどんドン集約シテいく。


「突くハ虚構。穿つハ幻想。果てルは理想」


 私の足が段々と赤く光りダス。


「我ガ力ヲ持って、世の悲劇を!喜劇ヲ!狂ワシキ現実ヲ汝へと知らサン!!」


 足へと集約した光りから、キンキンと甲高い音が鳴ル。ソレは辺り一帯ヲ赤ク染め上げる程のモノとなった。


「焼き穿て…………」


 私は振り上げた足ニ充分ニ力が溜まっタコトを確認スルト、その足をトゥルキング目掛けテ勢いヨク振り下ろしタ。










最果へと続く(ロンゴ)痛撃の連鎖(ミニアド)



 そう唱えながら振り下ろした足から、赤き光が槍の如く放たれた…………。











 ◇◇◇◇◇


最果へと続く(ロンゴ)痛撃の連鎖(ミニアド)


 我と対峙するカオリが大気鳴動の嵐が吹き荒れる中、何事もないように赤き邪悪な光に輝く足を振り下ろす。


 すると、その振り下ろした足から赤く輝く光の槍が真っ直ぐ我に………いや、我の脛目掛けて放たれた。


 それを見て、あれは何だとと身構えた我であったが………一目見て確信する。


 あれは間違いない。


 あれはカオリの得意技………脛殺しだ。


 何やら光輝き、妙な邪気を纏ってはおるが間違いなくあのサム=ワンの遺した奥義。

 長年、幾多の技を見てきた我が見間違えることはない。


 その脛殺しが光の槍となって我へと向かって放たれたのだ。


 何やら大層な名を言いながら放つので、どんな未知の技かと思えば…………。


 それを見て、我は安堵と………僅かばかりの落胆を感じていた。


 安堵………というのは、あの技であれば何とか受けきれる自信がある故のものだ。

 いや、カオリの放つ脛殺しは確かに脅威だ。

 蹴り神とまで呼ばれたサム=ワンが考案した脛殺しは防御不可能な上に、凄まじい激痛を伴う蹴り技。食らうものからすれば堪ったものではない恐るべき蹴り技だ。


 が、カオリの放つ脛殺しには実は決定的な弱点が2つある。それは『連射』と『重み』だ。


 まず連射だが、あの脛殺しは一度の蹴りで一回しか放つことしかできない。

 つまり、続けて放つ連射か効かず、一度放てば次の脛殺しを放つまでのタイムラグが必ず発生するし、足さえ押さえれば技を放つことさえできないのだ。これは脛殺し最大の弱点と言えよう。


 そして次に重みだが、これは単純に蹴りを放つカオリの体重の軽さに起因する。

 脛殺しとは結局は蹴り技であり、力と体重がある者が使う程にその威力を増す。

 重みがあるからこそ脛殺し一発一発の威力が増し、これにより連射が効かないという先の欠点を威力という力業で克服できるのだ。


 だが、それに対しカオリは女性らしく、体重が軽く華奢だ。これでは理想となる高威力の脛殺しは放つことはできず、低威力にしかならない。


 つまりカオリが放てる脛殺しは連射が効かぬ上に威力がないという、実に中途半端なものなのだ。


 まあ、それでも効くには効くし、相応の激痛を与えてくるので恐るべき技には違いない。

 が、我程の実力者ともなればそんな中途半端な脛殺しに耐えることができる。

 流石に何回も連続で食らえば効くが、一発二発程度なら問題ない。何とか耐えきって接近さえできれば後はどうともできるはずだ。


 故に、我はカオリが放とうとする脛殺しを受け切る自信があったので安堵した。


 そして僅な落胆というのは、この期に及んで脛殺ししか手段がないということ。

 カオリならばもしかしたら未知の蹴り技でも見せてくれるのでは?…………と、武人としての我は僅かに期待していた。


 だが、結果はいつもの技を自分なりにアレンジしたであろう脛殺しの改造版。


 期待はずれも極まれりよ。


 まあ、過度に期待し過ぎた我が悪かったというべきか。


 我はフッとため息を吐いた後、きたる脛殺しの衝撃に備えて身構えた。

 此度のカオリが放てし脛殺しは本来の不可視のものでなく、何故か赤き閃光となって迫ってくるので分かりやすい。


 我の脛へと真っ直ぐ吸い込まれるように接近してくる脛殺しの光。

 その光が我が脛にぶつかった瞬間を狙い、我は脛に力を込めて固めた。


『フンッ!!脛固め!!』


 脛を固めて備えた瞬間、我の脛に赤い光がぶつかり、周囲が赤く染まる。

 同時に、ガツンとした感覚と共に、凄まじい激痛が脛へと走る。脛殺しが我の脛へと直撃したのだ。


 まるで足の内部から神経や骨を直接ハンマーで叩かれたような激痛が走る。


 グッ………脛固めで防御をしてもこの威力か?!


 だが………やはり耐えられない威力ではない!!


 我は何とか脛の痛みに耐えると、足に力を込めて踏ん張る。


 よしっ!耐えきった!!後は次の脛殺しが来る前にカオリのもとまで接近する!!そして今度こそ接近戦でケリをつける!!


 幸いカオリは今、足を振り下ろした姿勢のままだ。我の最大速力で突進すれば、次の一撃が来る前にカオリへと到達できるはず!!



 我がそう意気込んで前に駆け出そうと、足を踏み出そうとした…………瞬間。








 ガツン。


『グオッ?!』


 突如として先程脛殺しを受けた足に、再び激痛が走る。


 な、なんだ?!まさかもう二発目を放ってきたか?!


 脛に走る激痛に耐え、前にいるカオリへと視線を向ける。

 たが、カオリは先程と変わらぬ足を振り下ろした態勢のまま、少しも動いていなかった。


 なっ?!どういうことだ?ならば、今の痛みはなんだったのだ?気のせい…………。



 ガツン。


『グオォ?!』


 脛に走った激痛の正体に困惑していると、再び我を嘲笑う如く脛に激痛が走る。

 その余りの痛みに我慢できず、遂に苦悶の声を漏らしてしまう。


 バランスを崩してその場に片膝を付き、激痛が走った脛へと視線を向けた。


『なっ?!な、なんだ!?い、今の痛みは?!き、気のせいなどではない?!確かに痛みが…………グアアアア!?』


 喋っている途中、ガツンという衝撃と共に再び激痛が走る。


 ジンジンと骨身に染みるような激痛。脛が痺れ、震え、立つことも困難になってきた。


 ぐぅぅ?!こ、これは?!ま、間違いない?!我の………我の足に!!我の脛に!!なにか………なにかが確実に起きて……。


『グアアアア!?』


 再び走る激痛。それも、先よりも確実に威力が増し、感覚が短くなってきている!?


 こ、これは…………。


『カ、カオリィィィ!!我に何を……何をし……グアアアアァァァァ!?』


 足を振り下ろした姿勢のまま、微動だにせず我を真っ直ぐに見据えるカオリへと問いかけようとするも、上手く言葉を紡げぬ。


 痛い!痛い!痛い!激痛が脛に走り、普通に話すことさえ困難になってきた!?


 なんだ?!何なのだこれは?!いや、何が起きているのかは分かる?!脛殺し………脛殺しだ!!

 信じられぬことに、あの脛殺しが我が足の中でガンガンと響いておる!?

 馬鹿な?!あ、あれは単発の技のはず!?それが何故連続で響いている!?何故………。


『カオ……グギャア?!なに………ギャベェ?!われ……グアアアア!?やめ……ガァァァァ?!』


 グオォ!?どんどんと感覚が短くなってきた激痛の波が容赦なく我が脛を襲う!!痛みで頭が回らぬ!?


 衝撃も激しくなってきており、我は知らず知らずのうちに衝撃に押されて後方へと下がっていた。


『カオ……ギィヤガァァァァベァァァ!?』


 確実に威力を増す激痛と衝撃。


 我は遂に何も考えられず、何も抵抗できず、ただただ悲鳴を上げることしかできない。


 その間にも、脛に響く衝撃と激痛は増していき、やがては身体全体をも激しく揺さぶる程のものへとなってきた。


 ガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツン。 


『ぐぼっ!?あぐぅ?!ぶふっ!?ぎょわ!?げへっ!?ぎゅぶわっ!?どぅべる!?』


 脛殺しに最早間隔というのもなく、ほとんど間断なく激痛が襲いくる。


 我はもう痛みに耐えるなどという余裕もなく、無様にも悲鳴を上げ続けることしかできない。

 更には脛を襲う衝撃も凄まじいものとなってきて、我は身体を支えきれずに後方へと吹き飛ばされる。


 そして、先程と同じように壁際まで追いやられて、その壁に大の字で張り付く。


 いや………先程の比ではない。衝撃はどんどんと威力を増し、その威力に圧されて我の体が徐々に壁にめり込んでいく。


 ビキビキと壁に罅が入っていき、やがては壁全体に巨大な罅が広がっていく。


 そして…………。



 ドガァァァァァァァン!!


 壁に入った罅は割れ目となり、割れ目が裂けていく。そして遂には、そこから壁が激しい音とともに崩落した。


 壁という遮るものがなくなったことで、我は衝撃に圧されるままに後方へ吹き飛ばされた。


『グアアア!?ガアッハァァァ?!カ、カオリィィィィィ!?ガボアァァァァ!?ガァァァァ!?』


 我は絶叫を上げ、地面を抉りながら真っ直ぐに突き進んでいく。


 痛みもそうだが勢いを増し行く衝撃に抗うことができない。


 こ、この我が………こんな…………。


 愕然としつつ、そうやって暫く吹き飛ばされながら痛みによる絶叫を上げていると、不意にこちらを見やるカオリと目があった。


 無機質で無感情で、何を考えているのか一切読めぬ不気味な瞳。


 その瞳と目があった瞬間、痛みさえ忘れる程のゾクリと背筋に走る悪寒を感じた。


 我はその瞳に…………生まれて初めて感じる感情。


 そう……『真なる恐怖』というものを感じた。


 カオリ…………お主は一体?


 そう我がカオリの正体について考えた時、唐突に我が視界が真っ赤に染まった。


 一体何の光?その答えを知ることもできず、我は………その光景を最後に意識を失った…………。










 ◇◇◇◇◇◇




 ズガァァァァァァァァァン!!


 トゥル農場から離れた位置で、凄まじい爆発音を響かながら血のように赤い光が炸裂した。

 光の光量は凄まじく、暫く辺り一帯は赤く包まれた。

 そして光が収まると、爆発があった地点からは天高くまで昇るキノコ雲がモクモクと上がっていた。


 そんなキノコ雲をジャンクは唖然と見上げていたが、暫くすると我に返り、隣で腕組みしながらキノコ雲を見上げるザッドハークへと向かって叫んだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉい!?あれ?!あれ?!あれ?!あれ何だよ?!あれは?!」


 ジャンクはキノコ雲を指さしながら叫ぶも、何から言えばいいのか頭が回らず『あれあれ』と要領の得ない叫びとなっていた。


 だが、それも仕方ないだろう。

 何せ、香が何か変になったかと思えば赤く光る謎の蹴りを放ち、それを受けたトゥルキング が絶叫を上げながら吹き飛び、挙げ句の果ては壁を壊して農場の外まで吹っ飛んだトゥルキングが爆発。今のキノコ雲が上がっているという訳の分からない状況になってるのだ。


 冷静にいろというのが無理だろう。


 だが、そんな訳分からないおかしな状況にも関わらず、元からおかしいからかザッドハークは特段慌てる様子もなく、チラリと横目でジャンクを見た後に口を開いた。


「フム。落ち着くのだジャンクよ。そのように慌てる必要はない」


「落ち着けるかぁぁぁ?!こんな状況で落ち着ける程の大物だったら、あんなギルドの端でチビチビ酒飲んでねぇぇよ?!」


「ほう………存外自己の評価を心得ておるようだな。感心したぞ」


「うるせぇし、嬉しくねぇよコンチクショー?!それよりも、あれは……あの嬢ちゃんが放った光は何なんだよ!?」


 若干涙目になりながら先の光は何なんのかと尋ねるジャンクに、ザッドハークは厳かな口調で説明をはじめた。


「フム………。あれはカオリの脛殺しが強化されたものであろう」


「す、脛殺しが強化…………だと?!」


 ジャンクが目を丸くしながらそう溢すと、ザッドハークは厳かに頷いた。


「ウム。あれはカオリの持つ馴染みのスキル『脛殺し』が何か凄い力によって強化されたものであろう。威力が段違いに上がっているうえに、可視化できる程の力が込められていた 。恐らく、あの威力はこれまでの5倍……いや、10倍はあろう」


 ザッドハークの説明にジャンクは目を限界まで見開く。その説明された内容に、戦慄を隠せなかったのだ。


 ジャンクはそれこそ、身を持ってあの脛殺しの威力を知っている。


 防御・距離・次元を無視し、狙った対象の脛を確実に穿つ脛殺し。


 その威力は大の大人を悶絶させる程の威力を持つ程であり、ジャンクも実際に何回か気絶している程の最凶のスキルだ。


 そんな最凶の脛殺しの威力が10倍?


 ジャンクはその威力を想像しただけで脂汗が止まらず、唖然とザッドハークを見上げることしかできなかった。


 しかし、ザッドハークの説明はそれだけにとどまらなかった。


「だが、それだけではなかろう。先の性質を見る限り、ただ強化されただけでなく、混じりあって(・・・・・・)おるわ」


「混じる……だと?一体なにと?」


 この上でまだあるのか?そんな驚きに身を震わせながら、ジャンクは恐る恐るとザッドハークへと問いかけた。


「ウム。あれはトゥルキングの振動を放つスキルと混じりあっておる。恐らく、カオリの中で脛殺しとトゥルのスキルが混ざり融合し、あのような脛殺しとなったのであろうな」


「………振動と混ざったって………つまり?」


「ウム。あれは一度の発動で対象の脛で幾度も脛殺しが振動しているのだ。言わば、何度も何度も脛殺しを連続で食らっているのと同じよ。それも、高威力の脛殺しを…………」


 それを聞いたジャンクは顔面蒼白になりながら、思わず両腕で自身を抱いて震えた。


 ただでさえ悶絶する程の脛殺しを……しかも、パワーアップしたものを、何度も何度も脛に味わうことになるなんて…………。


 それは正に拷問……いや、地獄の責め苦でも生温いとも言える悪魔の所業。


 ジャンクはそれを食らったトゥルキングに、心の底からの同情と哀悼の意を示した。


 そして、不意にあることに疑問を抱き、ザッドハークへと質問した。


「………というか、なんでそんなことになっちまったんだ?」


「何か凄い力の影響であろう」


「…………最後のあの爆発は?」


「何か凄い力の影響であろう」


「何か凄い力怖ぇ…………」


 ジャンクは未だに蹴りを放った姿勢のままピクリとも動かない香を見ながら、彼女が手にしたという何か凄い力に心底肝を冷やした。


「………ところで……嬢ちゃんがさっきからピクリとも動かないんだが………どうしたんだ、あれ?」


 怯えた目で香を見ていたジャンクだが、流石にピクリとも動かない香の様子に違和感を覚える。


 最初はトゥルキングが立ち上がってきた時に備えて戦闘態勢のままでいるのかと思った。

 だが、トゥルキングは謎の爆発のせいで恐らくもう戦えない。間違いなく戦闘不能だ。というか、生きているかどうかも怪しいところだ。だから、もう動きだしてもおかしくないはずなのだが?


 どうしたのかと訝しげに香を見るジャンク。


 すると、隣にいたザッドハークがおもむろに動きだした。

 そして、真っ直ぐに香目掛けて歩きだしたのだ。


「お、おい!?」


 今近寄れば危険なのでは?


 そう思ってザッドハークへと手を伸ばして制止の声をかけるも、ザッドハークは気にする様子もなく無造作に香へと近寄る。

 だが、ザッドハークが近寄ろうとも、香に動きは見られなかった。


 ただ真っ直ぐに前を見据えたまま、瞬き一つしない。


 そして、ザッドハークはそんな動かない香の前まで来ると、直ぐ目の前で止まり、ジッと観察をはじめた。


 ジャンクはそんな二人の様子を、固唾を飲んで見守った。


 ザッドハークは暫く腕組みしながら香の様子をジロジロと見ると、次に香の顔の前で手をフリフリと振る。


 そうして何か納得したように頷くと、ジャンクへと振り返った。









「立ったまま気を失っておる」




「………………………………はっ?」


 ザッドハークの言った意味が分からず、暫しポカンとしていたジャンクだが、段々と言葉の意味を頭が理解してくると、その顔は驚愕へと変わる。


 そして恐る恐ると香へと近付くと、ザッドハークと同じように顔の前で手をフリフリと振った。

 だが、香は一切の反応を示さず、ただジッと虚空を見つめたままだった。


 そう…………香はザッドハークの言う通り、立ったまま意識を失なっていたのだ。

 よく見れば、なんか瞳に光がないし、頭や耳からも謎の湯気のようなものも出ていた。


「本当だ……意識が………ない。こ、これは一体………?」


 先程まではハイテンションで何か凄い脛殺しを放っていたのにこれは?


 そんな疑問を抱いてザッドハークを見れば、ザッドハークは厳かに頷きながら予想を口にした。


「フム。これは恐らく、力の負荷による弊害だな」


「力の負荷?」


「ウム。どうやら香の体が例の何か凄い力の負荷に耐えきれなかったのだろう。あまりにも強すぎる力の負荷に体と意識が耐えらず、先程の技を放ったと同時に意識が飛んだようだ。しかも、技を放った際に全エネルギーを放出したようで、何か凄い力は消失しておるな。まあ、扱い切れぬ力が消えたのは幸いと言うべきであろう」


「トンでるって………」


 ザッドハークの説明を聞いて愕然とするジャンク。

 だが、ジャンクは目の前で立ったまま気絶する香を見て、取り敢えずは危険は去ったようだとホッと一息ついた。


「まあ………その何か凄い力が消えてるっていうならマジで幸いだったな。普段からあんなもん放たれるようになったら脛がいくつあっても足りねえよ」


「フム。それは同意だ。あんなものを日々何度も撃たれれば身もギルドの壁やら備品の修理費も保たぬわ」


「そこは学習して撃たれない工夫をしようぜ?なんで撃たれる前提になってんだよ?」


 何故か脛殺しを撃たれる前提で話す学習能力0のザッドハークに呆れながら嘆息した後、ジャンクはフッと気絶する香を見た。


 そして、その顔を見ていて不意に思ったことが口から漏れた。


「………なんつうか……妙にいい顔してるよな」


 ジャンクは香が気絶しながらも、妙にキリッとした表情をしていることに気付いた。

 瞳は虚空を写し、光が一切ない。

 しかし、何だか妙に顔を引き締まったような……例えるならば、戦い抜いた漢の顔をしていたのだ。


「それはやり抜いた戦士の顔だよ」


 唐突にそう言われて驚いて横を見ると、いつの間にか隣に農場の婆さんが佇んでいた。


「ば、婆さん?」


 ジャンクが慌てたような声を上げるも、婆さんは気にする様子もなく、ただ慈しむような慈愛と敬意の籠った目で自分よりも背の高い香を見上げていた。


「なんとも……良い顔をしている。これは戦場で地獄を生き抜き、任務を達成した戦士の顔じゃ。ほんに良き顔………真に強き者の相じゃのう……」


 婆さんはそう言うと、何故か瞳をうるうると潤ませた。

 そして、曲がった腰を真っ直ぐに伸ばし、右手を額の辺りへと上げた。


「偉大なる戦士香に………せめてもの手向けじゃ。敬礼!!」


  そう叫びながら行った敬礼は、それはそれは見事な敬礼であり、思わず誰もが見惚れる程のものであったという…………。


  愛原 香よ。ここに永遠なれ。













「いや、死んでねぇからな?!何か流されてるけど死んでねぇよ?!英霊って、意識失ってるだけで死んでねぇからな?!それなのに何で敬礼……いや、ザッドハーク!?お前らもなんで敬礼してんだよ?!ゴアも!?おばさんも?!意味が………意味が分からねぇ?!なんなんだよコンチクショゥゥゥゥゥ?!」


 そんなジャンクの悲痛な叫びが、トゥル達が転がる崩壊した農場に響きわたった…………。


続きます。

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