51話 悪魔の果実の収穫 その9
どうも、お久し振りです。
ここ暫く、仕事が忙しくて更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
これからコツコツと更新をしていきますので、どうぞよろしくお願いします。
今回はトゥルキング視点のお話です。
我が名はトゥルキング。
誇り高きトゥル族の王にして、世界樹を守護する十大植傑の一柱。
十大植傑とは、世界樹の守護………つまりは大地の守り手として相応しいとされた実力者が与えられる名誉ある大役である。
この世界の生命を司る世界樹を守り、大地の均衡を支え、時に大地や自然の恵みを荒らさんとする不届きものを成敗するそのお役目は、自然の頂点たる世界樹様より直々に与えられる誉高いお役目。
数ある様々な植物達の中から実力や品格を世界樹様に認められ、更にその中から選ばれた一握りの精鋭のみが名乗ることを許される十大植傑は、全ての植物の憧れである。
我もこの大役を世界樹様より与えられた時は、天にも上らん程の嬉しさが込み上げた。
特に、我は守護者の中でも数少ない武勇を示す『矛』としてのお役目を頂いたのだ。
これまでの努力や修行が認められたようで、その喜びは言葉にできぬ程だ。
だが、それと同時に大地の守護を任されたという大役に足が震えた。
我にこのような大役が勤まるのだろうか?
一時は大分真剣に悩んだ時期もあった。
しかし、悩むならばまずは行動で世界樹様に示すべきと思いなおし、お役目を確実に果たすべく邁進してきた。
時には世界樹様を狙う不届き者を成敗し。
時には枯れ果てた大地を緑溢れる地へと再生し。
時には大地に迫る災禍へと自ら飛び込んで静めた。
我は大地の守護者としてただお役目を全うする……その一心を持って、守護十大植傑としての名に恥じぬ働きを心掛けてきた。
やがて時が経ち数百年。その働きは世界樹様や他の植物達にも認められていき『植傑にトゥルキングあり』とされ囁かれるようになった。
この時をもって、我は真なる十大植傑としての確固たる地位を不動のものとした。
そのことは素直に嬉しくもある。
だが不動になったからとて、我は慢心せぬ。
十大植傑としての地位を確立したならば、今度はそれに恥じぬ生き方をせねばならぬ。
我の行動一つで世界樹様の品位を高めることも貶める恐れさえあるのだ。
故に、我は前にも増してお役目に準じて恥じぬ生き方をしようと誓った。
大地の守護者として…………。
トゥル族の誇り高き戦士として…………。
トゥル族の偉大なる王として…………。
我は他の植物や眷族達の模範となるように、今日よりも明日の………明日よりも明後日の………より素晴らしい自分になれるよう、これからも誇り高く進み続けるのだ。
故に、トゥルの王として…………守護十大植傑として…………。
このような事態は有り得ぬ?!
この我が…………この我が………王であり、戦士であり、守護者の一柱たる我が…………。
このような小娘に謀られた挙げ句、手も足も出ぬなどという無様なことは、例え天地がひっくり返ってもあってはならぬことなのだ!?
このような…………カオリと名乗る人間の小娘が何故か放つ我らの固有スキルたる大気鳴動を受け、無様にも背後の壁へと押し付けられて身動きできぬなど、あってはならぬのだぁぁぁぁぁ!?
「オラァァァァ!!このまま潰れて本の材料にでもなってしまぇぇぇぇ!!」
『グオオオオオオッ!?カオリィィィィ?!?!』
目の前の少女の烈火の如き叫びとともに、その圧力を更に増した大気鳴動が我が身を襲う。
容赦なく放射される大気鳴動の振動波の威力は凄まじく、我が鍛え抜かれた筈の肉体が耐えきれずに悲鳴を上げる。
何とか今は耐えきってはいる。が、少しでも気を抜けば四肢がバラバラになりそうな程の力だ。
そんな必死になって嵐の如き大気鳴動の振動波に耐えながらも、我は目の前で悪魔のように不気味な笑顔をしながら大気鳴動を放つ少女を睨んだ。
『おのれカオリィィィィ!?この我を謀りおってぇぇぇ?!我の情を利用してこのような騙し討ちを………貴様には戦士としての誇りはないのかぁぁぁぁ?!』
カオリを睨みながら叫ぶと、カオリは大気鳴動を緩めることなく嘲るような顔で答えた。
「残念ですがありませぇぇぇん!!私は戦士でも武士でも紳士でもありませぇぇぇぇん!!一応は勇者だけど、中身は華の女子高生!最先端の流行に乗り遅れることを恥としても、そんな男臭いこと恥も誇りも微塵も感じませぇぇぇん!!」
『この腐れ外道がぁぁぁ?!てか、ジョ、ジョシコウセイってなんだぁぁぁぁぁ?!』
あやつ、何の躊躇いもなく誇りなどないと言いおった?!逆に清々しいくらいだなっ?!
くっ!あやつ………サム=ワンの遺した伝説の『脛殺し』が使えるから、武道を極める戦士かなにかだと思ったがどうやら違うらしい………。
いや、だったら何故に脛殺しを使えるのだ?!戦士でもないのに使える筈もなかろう??
どんな生い立ちがあれば、戦士でもないのに脛殺しを使えるまでに蹴り技を昇華できるのだ?毎日暇で蹴りばかりしてたとか?!
それとも、そのジョシコウセイっていうのが関係あるのか?ジョシコウセイは何か蹴り技を極める何らかの職業なのか?聞いたことがないぞ?!
本当に何なのだジョシコウセイって?!
響きからは全く想像つかないのだが?!
…………ん?待てよ?いや、それよりも、あやつジョシコウセイ以上に何かサラッと聞き逃せないことを言っておらなかったか?
一応はユウシャがどうとかと…………。
『?!?!………カオリ?!汝、サラッと重大なことを言っておらなかったか?!勇者?勇者って……汝、勇者なのか?!』
あやつ、何かサラッと衝撃的事実を言いおったと思ったが、勇者って………あの勇者か??
品行方正にして人々の希望を担う選ばれし光の戦士…………勇者。かつて世界を未曾有の危機に陥れた『真なる覇王』を打ち倒したとされる偉大なる救世主のことだ。
覇王打倒の旅の際には、世界樹様もお力を貸したとされる、あの勇者?
それが…………あのカオリが勇者だと?
我は疑問と困惑が混じった声でそう叫んだ。
すると、カオリは何の躊躇いもなくコクリと頷いた。
「うん。勇者」
…………そうか。カオリは勇者なのか。
そう言われてみれば、カオリからは何か神聖なものを感じない訳ではない。
これは女神様の神気…………か?
ならばカオリは勇者に間違いないのだろうな。
女神様が直接その御力を与える人間など、勇者か聖女くらいだ。
聖女は以前に遠目に見たことがあるし、となればカオリは間違いなく勇者ということになる。
フム。成る程…………納得できたわ。
『って!?納得できるかぁぁぁぁ?!?!』
我は心の中に内に激しく沸き上がった憤りと共に叫んだ。
多分、ここ数百年で一番叫んだ。
『なん…………汝勇者って?!いや、これ、なおのこと勇者が一番やっちゃいけない戦い方であろうが?!汝には女神様に選ばれた勇者としての誇りはないのかっ?!』
他にも色々と言いたいことはあったが、取り敢えず頭に浮かんだ最低限に言いたいことを纏めて叫んだ。
すると、それを聞いたカオリは『ハッ!』と腹立つ顔で鼻で笑った後、悪びれる様子もなく叫んだ。
「ハッ?勇者の誇り?そんなんあるわけないでしょうが!!こちとら普通の女子高生やってたのにこっちに無理矢理拉致られて勇者やらされてんだ!!んな、誇りだの信念だの名誉だの正々堂々だの知ったことじゃねぇぇぇし守るつもりもねぇぇよ!!だから生きる為なら使えるもんは使えるし、汚い手でもなんでも使えるもんは使わせてもらうわよ!!わかったか、このゴリマッチョが!!」
『んなっ…………?!』
絶句する…………とは正にこのことだろう。
我はカオリの余りも余りな発言に声を失った。
こやつ…………なんの迷いも逡順もなく言いきりおった。
しかも心の底から本気で言ってやがる。
発言………だけでなく、今のカオリの目を見れば分かる。
我はこれ程曇り、濁り、狂った者の目を見たことがない。
言葉の通り、こやつは勇者としての資格を有しているのに、本当に本気で勇者としての誇りやら信念やらがないのだ。
なんと…………なんということだ…………。
世界を救うべく、カオリは女神様から勇者としての力と資格を与えられているというのに、この惨状とは…………。
まして、カオリ自身は気付いておらぬようだが、こやつは戦闘に関してはかなり高い潜在能力を秘めておる。
サム=ワンの奥義や我がスキルを使えたのが何よりの証拠よ。
勇者とはいえ、ちょっとやそっとでその様な真似などできる筈がない。
恐らく、こやつは勇者云々以前に、素としての戦闘能力や狂暴性が元より高い。
天性の戦士……それも狂戦士としての才がある。
十年………いや、百年に一人の天才やもしれぬ。
しかし、その才が悪い方向に向かっていっておる。まして、勇者としての力を授かったことで能力が底上げされ、なんだか手に負えないような状態となっておるのだ…………。
恐らくは女神様もこの戦闘力に期待して勇者として選んだのないかと思われる。
ただ女神様の誤算は一つ…………。
カオリ自身に勇者としての資格は有れど、自覚がなかったのだ。
なんとも惜しいことだ…………これ程の逸材がこのような…………。
いや………まだだ!まだ、諦めるのはまだ早い!!まだ………まだ修正が効くはず!!
そうだ!きっとまだやり直せるはず!!
ここで我が何とかカオリに勇者として教え導き、正しく更正させることができれば、何とかまだ勇者としての体裁を保たせることができるはず!!
そうだ…………ここは我が何とかせねばならぬのだ!!
我が正しく勇者としての道を教えねばならぬのだ!!
ここでカオリに会えたのも何らかの運命。
きっと女神様が我にカオリを正しい方向へと誘わせるために、出会わせたのだろう。
つまりこの出会いは必然であり、必要なことだったのだ!!
そうとなればこの程度で音を上げている場合ではない!!
幸いにもカオリはまだ発展途上にあり、未だその潜在能力を解放しきれておらぬ!!
ある意味、叩くならば今しかないのだ!!
成長しきる前に叩き、この力を正しい方向へと我が導くのだ!!
それが………それこそが我が女神様に与えられし天命に違いあるまい!!
『ウオオオオオオ!!』
我は気合いと共に、残されたありったけの力を全身に張り巡らせ。
そして、カオリの放つ大気鳴動に負けじと壁から這い出した。
「んなっ?!」
勝利を確信していたカオリだが、壁から這い出した我の姿にその顔を驚愕に染めた。
我はそんな驚愕するカオリを真っ直ぐに見据えつつ、一歩………また一歩とカオリへと向かって足を踏み出した。
我は………目的のために、ここで………この程度で止まる訳にはいかぬのだ。
これが女神様から与えられた使命であり試練であるというのならば甘んじて受けよう!!
我は決して逃げぬ!!カオリを………あの娘を立派な勇者とするという目標が生まれた以上、退く訳にはいかぬのだ!!
大気鳴動による激しい振動派が我が身を襲うが知ったことではない!!
我が誇り………我が信念の前に、この程度はなんてことはない!!
我がズンズンと足音を鳴らしながら着実にカオリへの距離を詰めていると、カオリは慌てたように叫んできた。
「な、なぜ?!なぜまだ動けるのよ?!完全に隙を突いた筈?!肉体にもかなりのダメージを与えたはず?!限界………流石に限界が近いはず?!なのに何故………何故まだ動けるのよっ?!なんでなぜぇぇぇ?!」
カオリは髪を振り乱しヒステリックに叫ぶ。
よほど大気鳴動に抗って前へと進む我が姿が信じられぬらしい。
我はそんなカオリを見据えつつ、一歩足を踏み出した。
『確かに我が肉体に限界は近い』
更に一歩踏み出す。
『然れど、そのようなことは我が信念の前には些細なこと』
もう一歩足を踏み出す。
『我が信念………我が誇り…………何よりも我に与えられし使命を前に、この程度で何の痛痒も感じぬわ!!』
着実にカオリへと歩を進めながら、我は宣言する。
『よいかカオリよ。硬く決意した信念や誇りに不可能はない!!どのような限界も越え、不可能を可能とすることができるのだ!!故に、汝を教え導くと決意した我を、この程度でどうにかできると思わぬことだ!!我は決して退かぬ!逃げぬ!!諦めはせぬぞぉぉぉぉぉ!!!!』
気合いと共に全身から闘気を発すると、カオリは気圧されように後退る。
「くっ…………し、信念?誇り?そ、そんなものはただの根性論でしょうが?!非科学的な何の根拠もない空虚な自信と空元気!無理矢理気合いだけで何とかしようとする頭の悪い無駄な理屈……」
『根性論結構!!そうだ………汝の言う通り所詮はただの根性や気合いの話かもしれぬ。然れど……その無駄と言う理屈の気合いが………根性が………心が実際に体を動かしてくれる!!理屈のない理屈こそが根性であり信念であり誇りであり行動となるのだ!!今、正に、汝が、目にしてるようになぁぁぁぁぁぁぁ!!』
我は全身から更なる気合いを発しながらカオリまでの距離を更に詰めた。
既に、手を伸ばせばあと僅かという距離まで近付くことができた。
カオリも先ほどまでとは違い、余裕のない顔で我を睨んでいる。
もうあとほんの少し………。
我がそう考えながら手を伸ばした瞬間、目の前のカオリが目を血走らせながら手をグッと突きだしてきた。
「ならばならばならばならばならばぁぁ!!これもその信念とやらで耐えれるかしらぁぁぁぁ??!!喰らうがいい!!ワタシの全身全霊100%のフルパワー!!大気鳴動フルマックスゥゥゥゥゥゥ!!」
カオリの怒声と共に、放たれる大気鳴動の威力が一気に増した。
な、なんと?!まだ力を隠していたのか?!
驚く間もなく、その威力に圧され、我は再び押し戻されて距離を開くことになった。
馬鹿な?!こ、これは?!な、なんたる威力?!なんたる威圧?!わ、我ですら、これ程の大気鳴動を放つことはできぬ?!
カオリ………や、やはりなんたる資質の持ち主か?!
カオリの才能の片鱗を垣間見たことに驚愕と戦慄を隠せずにはいられない。
だが、いつまでも驚愕している訳にはいかぬ。
いち早く、この状況をなんとかせねば!?
距離を詰められただけでも痛恨だというのに、この大気鳴動の振動に我が肉体が激しく悲鳴を上げている。
くっ………少しでも気を抜けば体がバラバラになりかねない!?
ただでさえ消耗しているというのに、とどめとばかりにこのような…………。
我はなんとか食い縛ったが、それでも余りにも凄まじい大気鳴動の威力に耐えきれず、遂に片膝をついてしまった。
くぅ……我が信念を貫き、カオリに誇りがどれ程に重要かを伝えたかったが…………。
最早ここまでか………。
我の誇りに対する覚悟など………所詮はこの程度だったのか…………。
遂に両膝を地に付き、最早これまでかと諦めかけた…………。
その時…………。
『トゥルキング様!諦めてはなりませぬ!!』
こ、この声は?!
我は聞こえてきた声に慌てて顔を上げ、周囲を見回した。
すると、いつの間にそこにいたのか、我の背後には我が眷族達………数多くのトゥル達が、大気鳴動の振動に必死に抗いながら我の背を押していたのだ。
『お、お前達?!な、なにをやっている?!い、いかん!下がれ!下がるのだ!!我ですら耐えきれぬこの大気鳴動に、汝らが耐えきれる筈がない!バラバラに砕けて死ぬぞ?!直ぐに下がるのだ!!』
トゥルの王たる我ですら耐えられない大気鳴動の猛威に普通のトゥルが耐えきれる訳がない。
我は慌てて怒声を上げてトゥル達を退かせようとした。
だが、眷族達は誰も我の指示に従わなかった。
『お前達!!早く逃げ………』
『王が逃げぬのに、どうして我らだけが退くことができましょうか!?』
声を荒げて眷族達を退かせようとすると、眷族の一体………トゥル族一の勇者トゥルガリオが我が声を制して叫んできた。
『な………にお………?』
突然の叫びに戸惑う我に、眷族達が次々と声を上げてきた。
『王よ!!我らは王からすれば確かに微力!弱く、矮小なる存在であり、頼りない存在かもしれませぬ!!』
『然れど、我らとて戦士としての誇りがありまする!!』
『王一人を苦境に立たせ、それを見て指をくわえているだけなどできません!!』
『例え微力であろうと………例え満身創痍だろうと、王の背を支え、後押しする程度はできまする!!』
先の戦いでボロボロの筈の眷族達が我の背を………足を必死に支えていた。
『お前…………達…………』
『王よ!!諦めないでくさださい!我らは王に誇りのなんたるかを………信念を持つことの尊さを教えられました!!』
『故に、今の我らがあるのは王のお陰であります!!王が誇りを持つことの大事さを教えてくださったからこそ、我らはトゥル族の誇りを胸に諦めずに戦うことができるのです!!』
『ですから………そんな我らの偉大なる王が………我らの誇りの象徴たる王が諦めるなどあってはならないのです!!決して諦めず、己が信じた道を突き進んでこそのトゥルキング様!!あなたの偉大さを………誇りのなんたるかを我らに指し示してください!!諦める姿など、あなた様には似合わない!』
眷族達の言葉に胸が熱くなる。
満身創痍だった体に不思議と力が満ち溢れくるような感覚がする…………。
フッと見れば、我の膝付近で大気鳴動に耐える眷族の一体が、我が足を支えながら一際大声で叫んだ。
『王よ!前を向いて下さい!前に進んでください!前へと前へと前へと前へと………あなた様の進撃を………我らが進むべき道を見せてください!!我らは信じて微力ながら支え、付いていきまする!!どうか…………王よ!!諦めないでくださいませぇぇぇぇ!!』
すると、その叫びに呼応するように、その者の体から青く洗浄な光の玉が飛び出してきた。
何の光かと驚いていると、飛び出した光は真っ直ぐに我へと向かってきて、そのまま体の中へと吸い込まれる。
瞬間…………僅かにだが、力が込み上がってきた。
こ、これは?!どういう理屈かは知らないが、この者の力の一部が我へと流れてきたようだ!!
本当にどんな理屈かは知らないが、なんか凄い感じで凄い奇跡が起きたようだ。
見れば、他の眷族らの体からも光が出てきて、次々と我へと集まってきていた。
だが、力を分け与えたその代わりに、眷族達は次々と力尽きて倒れていく。
け、眷族達よ…………?!
う、うおお!!お前達の想い、しかと受け取ったぞ!!
おかげで力が…………力が戻る!!
いや!!前よりも更なる力が溢れてきたぞ?!
力が…………力が沸いて…………。
『うぉ……ウオオオオオオ!!!!』
眷族達から集まってきた凄まじいまでの力の衝動に、気合いの叫びと共に立ち上がる。
そうだ。我は倒れる訳にはいかぬ!!
我は戦士であり、王であり、トゥル族の代表なのだ!!そんな我が倒れる訳にはいかぬのだ!!
そして、何よりも我を信じて忠義を尽くし、力を分け与えてくれた眷族達の為にも負けることなどできぬ!!
それにやはり我は間違っていなかったのだ!!
誇りを………信念を胸に強く抱く者こそ強くなれる!立ち上がれる!!進むことができる!!!
それを今、眷族達が身をもって示してくれたのだ!!
そんな我を信じ、付いてきた眷族達に報いるためにも、我は諦め倒れることなどできぬのだぁぁぁぁぁぁ!!!!
『ガアアアアアアアアア!!!!』
我は内から溢れ出る力のままに、気合いの声を上げながら再びカオリへと突き進んでいく。
戦える!我は、まだ、戦えるぞ!!
『カオリよ!!まだ………まだ、これからだ!戦いはこれからだ!!我はまだやれる!まだ立ち向かえる!!まだ………まだ、まだ、まだやれるぞおぉぉぉぉ!!!』
腹の底から沸き上がる激情のままに雄叫びを上げ、再びカオリとの距離を詰めていく。
再び距離を詰められたカオリは、分かりやすくアワアワと慌てだしていた。
「そんな………そんな馬鹿な?!なんで………なんでまだ立ち上がれるのよぉぉぉぉ?!なんでたかだか仲間に励まされた程度で立ち直れるのよ?!おかしいでしょ?!なんで………そんな………」
『我一人では倒れていたであろう……。だが、我が誇りを信じ、共に戦ってきた我が眷族………我が同胞………我が家族…………我が愛すべき子らの信頼の力で再び戦える力を得た!!』
カオリの言葉を遮り、我は突き進みながらそう答えた。
そして、片手をカオリへと突き出しながら、想いを込めて一際大きな叫んだ。
『これが汝が否定した誇り・名誉・信念………そして信頼の力だ!!喰らうが良い!【真・大気鳴動】なりぃぃぃぃぃ!!』
我が宣言と共に、突き出した手から大気鳴動が青い奔流となって放たれる。
これまでと違って青い色に変わっただけでなく、その威力はこれまで以上のものであり、カオリの放つ大気鳴動を相殺…………いや、楽々と押し返していく。
「なっ?!馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なバカナァァァァァァ?!こんな………こんなことがぁぁぁ?!」
渾身の大気鳴動を押し返されたカオリが目を見開き、髪を振り乱しながら焦りの叫びを上げる。
必死に手に力を込めて何とか押し戻そうとするも、我の放つ大気鳴動は小揺るぎともしない。
ジワジワとカオリへと迫り、その体を押し潰そうとする。
それでも何とかしようともがくカオリ。
その姿に今や哀れみすら感じる。
故に哀れみから、我は悪鬼の如き形相で我を睨むカオリへと慈悲の言葉をかけた。
『カオリよ………もう諦めるがよい。我は汝を殺す気はない。負けを認め、大人しく我が教えに従うがよい。さすれば余計な怪我もせぬ上に、立派な勇者となることであろう』
我は本心からカオリを無駄に傷つけるつもりはない。更にはカオリを立派な勇者として育て上げたい。
それが我にとっても………カオリにとっても、最良の考えである。
そう……本心から想った言葉であったが……。
「黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ?勇者として立派に?誇り?信念?名誉?信頼?はっ…………!!
五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!知ったことか!!!!私は花も恥じらうブランド女子の女子校生!!そんな男臭い理屈だの知ったことかかぁぁ!!か弱い乙女に無理強いすんなバカマッチョがぁぁぁ!!だいたい負けを認めろ?植物ごときに負けを認めろ?!馬鹿な言うな糞野郎!!たかだか植物に敗北したなんて知れたら、ツイッター拡散!炎上間違いなし!!人としても女としても女子校生としても終わりよ!!だから負けなんて認めるかぁぁぁ!!」
カオリは我の言葉をそう強く否定すると同時に、片手を天高く掲げながら叫んだ。
「力が…………力があれば!!誰が…………誰でもいい!!私に力を!!このゴリプラントを圧倒し、世の男共を籠楽し、全てを思うがままにできる力を!!腕力を!能力を!知力を!何より女子力を!!この私に与えよ…………いや、寄越しなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
狂喜とも呼べる凄まじい形相でそう叫ぶカオリの姿に、敗北を前にしてとうとう狂ったかと更なる哀れみを我は感じた…………。
が、その考えは直ぐ様に改められることとなった。
なぜならば…………。
◇◇◇◇
とある場所にある影の国で…………。
「ほう………何者か知らぬが、この我に力を寄越せとは………。なんたる傲岸にして不遜。小生意気なことよ…………。だが…………」
とある名も無き国で…………。
「クククク…………。力を寄越せだと?なんと遠慮も謙虚も知らぬ愚か者だ!!だが、しかし!!」
とある地下宗教団体で…………。
「おお………聞こえる!新たなる神の産声が!!神の胎動が!!されど、その神は窮地にあって助力を求めておられる!!新たな神の誕生………それを妨げてはなりませぬぅぅぅ!!断じて!絶対に!!
さあ、皆の者!捧げよ!捧げよ!信仰を捧げよ!全ての努力は今この時の為に!!
捧げよ!捧げよ!信仰を捧げよ!敬うべき神の誕生を目にするために!!」
どっかの世界の果て…………。
「オオオォ…………。何者かは知らぬが、この私の怒りを!憎しみを!悲しみ根元とする呪われし力を求めるというのか?!…………よかろう。ならば…………」
宇宙の果てで…………。
「キンキュウヲヨウスルキュウエンヨウセイヲカクニン。リョウカイ。スグニコスモパワーヲオクリマス」
その他、どっかの果てやら次元やら空間で……。
「ほう…………」
「フム…………」
「フフッ…………」
「クケケケケ!!」
「ブフゥー!」
その他、etc…………。
「「「力が欲しいか?ならばくれてやろう!」」」
◇◇◇◇◇
カオリの体が赤黒く光だし、とてつもない力が吹き出してきたのだ。
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