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48話 悪魔の果実の収穫 その6

『さあ、どうする?強き者よ』


 悠然と構えながら問いかけてくるトゥルキング。

 そんなトゥルキングの問いに私は心の底から思った。


 いや、逆にどうすりゃあいいんだ?


 私の最大にして必殺のスキル『脛殺し』。

 一部の相手を除き、ほとんどの者を問答無用で戦闘不能へと追い込める最凶のスキル。

 それを押さえられた時点で、既に勝敗は決したようなものだ。

 何せ、これまでの戦闘における攻撃手段の要というか、ほぼ頼りきりのものだったのだ。

 それを封じらたとあっては、牙を抜かれた猛獣も同然。


 最早、為す術がない。


 しかも、他の手段……と言っても、魔力も足りなくて冥府ノ波動を発動できないし、剣助などの装備も宿に置いてきたため、他の攻撃手段もないのだ。


 八方塞がりとは正にこの事。完全に追い詰められた。


 まずい。本当にまずい。

 マジでどうしようか?戦う手段がないんですが?

 こんな事なら剣助だけでも持ってくるんだった。

 いや……今は過ぎた事を悔やんでも仕方がない。取り敢えず、この状況を打破する方法を考えなければ命が危うい。何か、良い方法は…………。


 そう思い、何かこの場を凌げる方法は無いかと思案するが、何も思い付かない。

 寧ろ考えすぎて深みにはまり、今日のご飯何にしようかなぁ?などと脱線する始末だ。


 …………もう、いっそ、降参とかしちゃう?

 案外、降参とかしたら許してくれるかもしれない。なんか武人っぽい性格だし、素直に降参して謝れば許してくれるんじゃないかな?

 武人の情けとか……そんなのに訴えかければ、もしかしていけるんじゃね?

 依頼は失敗になるだろうけど、命には変えられないじゃろう。よし。降参だ。


 そう思った私は、恐る恐ると手を上げながら、トゥルキングへと問いかけた。


「……あの……すいやせん。もし、降参すると言ったら、許してくれやすか?」


『なぜ小物感漂う喋りかたに?しかし降参……?諦めが早すぎぬか?だが、ウム……まあ、降参するとあれば、許さぬこともない。戦意が無い相手を討つは、我らが誇りに関わる故にな』


 駄目元で聞いてみたが、答えは意外にも可だった。


 よっしゃあ!?マジで駄目元だったけど、降参を受け入れてくれるようだ!!何でも聞いてみるもんだね!!

 やっぱり武人の心に賭けてみて正解だったぜ!!武人様々だよ!!女子供に優しいぜ!!

 じゃあ、そうと分かれば早速降参して、とっととこの気色悪い空間から脱出しよう!

 依頼は失敗になるだろうが、命には変えられないよね!!


 内心でガッツポーズをとった私は、早速降参しようと口を開こうとした。

 が、その前にトゥルキングの『ただし』という声によって遮られた。


『我が眷族を傷付けた罪は命を持って償ってもらおう。ただ、汝の技を称えて、せめて戦士として送ってやる。さあ首を出せ。一撃で落としてやろう』


「チックショオオオオオめぇぇぇ!!」


 武人は武人でも、戦後武将とかの方の厳しい武人の方だった。

 しっかりきっちり責任は取らせる方だった。

 磔獄門か、腹を切らせて首を断つタイプだ。


 クッソがぁぁ!!戦士として送るとか、そういう気づかいはいらないの?!小物を見逃す感じの、軽蔑した感じで良かったのに!?


 今は勇者などと尋常ならざる肩書きはあるが、私は元々は普通の女子高生。女としてのプライドはあっても、戦士として誇りや矜持がある訳ではないのだ。だから、小物や小悪党にやるような見逃すような感じのものを期待してたというのに………。


 ガックリと項垂れて地面に四つん這いになると、それが偶々首を差し出すように見えたらしい。

 トゥルキングが『もう良いのか?ではゆくぞ』と足を振り上げたので、ギョッとして立ち上がった。

 アホか?!良いわけがないわ!!


「ストップ!!やっぱり降参はなしで!!」


 慌てて立ち上がり腕を交錯してばつ印を描き、降参しないことを伝えると、トゥルキングは振り上げた足をピタリと止めた。


『なんだ?降参はしないのか?』


「そう!しない!絶対しない!首も出さない!」


『そうか……やはり戦いをもって雌雄を決するということか。なればどちらかが倒れ、命尽きるまで力の限りを尽くそうぞ!さあ、勝利の証にその首を頂こうぞ!!』


「どっちにしろ首は持ってく気かよ?!」


 私の叫び空しく、勝手に納得して結論を出したトゥルキングは、再び足を振り上げた。


 チックショオオオオオめ!!どちらにしても足振り上げるんかい!?

 降参してもしなくても、首を持ってかれるバッドエンディング回避できないんかい!?


 殺る気満々で足を振り上げるトゥルキングを視界に納めながら、悲痛な叫びを心の内で叫ぶ。

 しかし、いつまでも打ちひしがれている訳にもいかない。

 いつ、あの蹴り技が放たれるか分かったものじゃないし、早急に何とかせねば………。

 ポンゴも粉々にするような蹴りをまともに食らう訳にはいかない。比喩表現なくマジで死ぬ。モザイクなしでは見れないぐちゃぐちゃな死体になる自信ある。


 クソッが!!降参しても首を取られる未来しかないならば、もう戦って勝つ以外に生きる道はない。

 もう、恥じをかこうが卑怯と言われようが、持てるどんな手段を使ってでも、がむしゃらに勝利をもぎ取るしかない!!


 そのためにはあの振動を何とかせねば。

 私があんな化け物と戦って勝利を得るにはやはり『脛殺し』以外に手段はない。

 その脛殺しを安定して放つ為にも、あの振動を何とかして防がねばならない。


 ならば考えろ。どうやって振動を封じる?

 あの地震のような揺れを発生させるスキルを、どうやって止める?どうすれば止められる?

 頭を回転させろ!思考を巡らせろ!思考の海に沈め!!私のこれまで蓄えてきた知識と経験をもって、この場を生き延びるための対策を考えるのよ。


 私は必死に頭を回転させた。

 それはもう中国の生産工場並みの回転率で。

 恐らく、期末・中間試験以来、一番思考を巡らせて考えた。

 これまで脳内に蓄えた知識やら何やらを総動員し、最適な解答を導き出そうとした。


 それは時間にして僅か数分だが、感覚的には数時間……いや、数十日にも及ぶのではないのかと思う程の精神的疲労を伴った。

 珍しく頭を使ったから知恵熱も僅かに出た。

 しかし、その甲斐あってか、数分後には何とか私なりに4つの作戦を考えだした。


 


 

 作戦その1『頑張る』

 振動に襲われようとも、何とかバランスをとって頑張るプラン。


 作戦その2『根性』

 根性で何とか振動を乗り切り、隙を見て反撃に転じるプラン。


 作戦その3『奇跡を信じる』

 何か状況を打破できるような奇跡が起きるのを信じて待つプラン。


 作戦その4『白馬の王子様現る』

 私のピンチに白馬の王子様が颯爽と駆けつけて助けてくれるプラン。


 


「クッソ!駄目だぁぁぁ?!」


『ウオッ?!』


 頭を振り乱しながら叫んだ。


 クッソ駄目だ?!録な案が思い浮かばない!?

 必死こいて頭を巡らせて考えた作戦は、選ぶ云々以前に既に確認する前から駄目だと判断できるものばかり。

 いや、そもそも作戦とすら言えねえ。

 作戦その1と2についてはただの根性論だし、作戦その3に至っては単なる奇跡頼み。作戦4にしてはただの願望だわ。

 自分で考えておいてあれだけど、どれも作戦とは言えない糞ばかり。

 自分の頭の悪さが恨めしい。


 いや、でもそれも仕方ないわね。

 だって、ただの女子高生が現状を打破できるような方法を思い付ける訳ないでしょう?

 今でこそ勇者なんて呼ばれてるけど、元々はただの女子高生。そんなか弱い普通の女子高生が、戦いに役立つような知識や技術を持ってる訳ないでしょうが!!

 精々女の戦いを生き抜く知識が限度だわ!!

 いや……それも役立てた……というか、活用する機会すらなかったけど。


 いやいやいや。意気消沈してる場合じゃないぞ私。本格的に何か考えないとマジで首を取られる。

 イケメン彼氏をゲットしないまま、マッスル樹木に首を狩られるなんてゴメンだ。


 何か………何かあの振動をどうにかする方法は………。


 今、私に残された手は、先日不本意ながら暴食王(ベル=ゼブル)の効果で入手した、ポイズンスパイダーの毒の息と蜘蛛糸スキルぐらいだ。

 あれらや脛殺しは魔法スキルではなく、身体スキルという体術なんかの延長線らしいので、魔力が無くとも使用することはできる。

 だけど、明らかに毒なんか効きそうな感じじゃないし、蜘蛛糸でどうこうできるような相手じゃない。間違いなく蜘蛛糸なんて細いものは、簡単にブチ切るだろう。


 くっ……使えるスキルがない………。

 せめて時間稼ぎができるスキルでもあれば……。

 駄目元で糸でも放つか?いや、それで失敗したら精神的ダメージが半端ない。何せ糸を出すためには尻を丸出しにしなければならない。そんな乙女の恥じらいを失うような賭けには出れない。断じて。


 クソッ!何か………あの振動を止めるなり、封じなりする方法はないか?!


 振動………振動………振動を止める方法………。


 頭から湯気が出るのではと思う程に必死に考えを巡らせてみたが、先程同様何も出てこない。

 くっ………自分の頭の悪さが恨めしい。無駄にカロリーを使うだけだ。糖分が………具体的にはチョコ食べたい。そういや、こっちでチョコ見たことないけどあるのかな?異世界では大概カカオはあってもチョコないからね。

 その場合、私の知識チートでどうにかしなきゃならないのかなー?

 でも無理。チョコの製造過程なんて知らないから。てか、知らない奴の方が多数派だと思う。

 普通の生活してる普通の女子高生が、チョコの詳しい製造方法に意識いくわけないやろがい。

 既製品を加工するので手一杯だわや。

 原材料カカオってことしか分からん。そっからの加工方法なんて知るか!!アホか!!


 いや、そうじゃない。現実逃避してる場合じゃない。脱線し過ぎだ私。

 チョコ食べたいのは事実だが、今はそんな事を考えてる場合じゃないわ。でもチョコ食べたい。


 てか、あれこれ私一人で考えてるのがおかしくないだろう?

 ザッドハークやゴアもいるんだし、一緒にトゥルキングを倒した方が効率的なんじゃなかろうか?

 いや、そっちの方がいいに決まっている。

 何も一人で頑張る必要はない筈だ。

 ゴアやザッドハークに足止めをしてもらい、私が後方から脛殺しで援護する。

 これが理想的な形じゃなかろうか?

 ううん、そうに決まってるわ。


 そう考えた私はザッドハーク達へと目を向けた。


 


 


 

「フム。これは中々に美味ぞ。些か甘すぎるが悪くはない」


『美ru5かbn味23謝や』


「あらあら。気に入ってくれたなら良かったわぁ。私の姉が送ってくれチョコレートっていう、帝国の新しい名産品らしいのよ。美味しいんだけど、確かにちょっと甘すぎるわねぇ」


「甘いんじゃったらホレ。お茶でも飲みんさい。ポットに温かいの入れてきたでな」


「ウム。貰おうぞ。…………フム、これは良い。甘味と実に合う。どれ、もう一つ貰おうぞ、老いぼれよ」


「どんどん食べんしゃい」


 


 


 

 視線の先………農場の入り口付近の壁際で、ザッドハーク達がレジャーシートをひいてお茶をしていた。


 あの野郎共………。

 人がこんな訳分からん化け物の相手をしてるつーのに、お茶って…………。

 完全に観戦モードか!?

 しかもチョコあるんかい!?

 チョコよこせ!!


 フツフツと沸き上がる怒りの衝動に身を焦がしながら、ザッドハークマジでぶっ殺すと決意を固める。


 そんな怒りの炎を燃え上がらせる一方で、先程から臨戦態勢のままに待たせている先方から声がかかった。


『フム…………そろそろ良いかな?いつまでも待っている訳にはいかぬし、戦うとあれば早々に始めたいと思う。というより、充分に時間は与えたのだ。もう始めてもよかろう』


「えっ?あの、もうちょい作戦タイムをくれない?」


 慌てて手を振りながら提案する。

 先程から待たせまくった自覚はあるし、向こうも親切に私の準備が整うのを待ってくれていた。

 だが、こちらは何の準備も心づもりも全くできていない。

 ただ怒りが込み上げただけだ。


 だから、どうにかもう少し待ってくれないかと懇願してみるも、トゥルキングは枝葉に覆われた顔をゆっくり横に振った。


『既に充分に待った。考える時間も充分に与えた。これだけでも甘すぎる程に譲歩してやったつもりだが如何に?』


「そっすね…………」


 もうそれしか言えない。

 うん。確かに充分に待ってもらったなぁ。

 トゥルキングの言う通り、かなり譲歩してもらってるなあ。


 何も反論することができず、ウンウンと頷いていると、トゥルキングがギリッと足に力を込めた。


『納得したようだな。それでは早速いかせて貰おうぞ。汝が力を見せてみよ!』


 トゥルキングは、それだけ言うと振り上げていた足を勢いよく蹴りだしてきた。


「待って!?急過ぎる?!」


 どうやら結構しびれを切らせていたらしい。

 私の言葉も聞かず、トゥルキングの蹴りは私目掛けて迫ってきた。


「く、く、チクショウめぇぇぇ!?」


 自棄になって叫びながら、咄嗟に地面へとひれ伏す。

 咄嗟の判断だったが、トゥルキングの蹴りは私の頭上スレスレを上手く通り過ぎていき、何とか回避に成功する。


『フム。ではこうしよう』


 だがホッとする間もなく、トゥルキングは蹴り放った足を宙で方向転換し、真上から私に向かって踵落としを放った。


「チクショウめぇぇぇ?!」


 頭上から落ちてくる踵を見上げながら叫び、今度はゴロゴロと横に転がって回避する。

 先程まで私がいたところに巨大な踵が落ち、地面を大きく陥没させる。

 あれ喰らったら間違いなく死んでたわ。

 命の危機から間一髪で回避に成功するも、その踵落としの衝撃に飛ばされて更にゴロゴロと転がった。


「チクショウめぇぇぇ!?」


 暫くゴロゴロと転がりながら叫び、やっとのこと止まった。

 立ち上がって身体を見れば、全身がが泥だらけになっていて気持ち悪い。が、幸いにも何とか距離を稼ぐことに成功する。


『フム…………ちょこまかと素早いな。だが、時間の問題か』


 時間から踵を引き抜いたトゥルキングは、私へと顔を向けると、悠然とした足取りで近付いてきた。


 くっ………もう本当に手段を選んでる場合じゃないわね。

 どんな卑怯な手を使ってでも、奴を倒さねば私の命はない。


 覚悟を決めた私はパンパンと服に付いた泥を落とすと、カッと目を見開いて叫んだ。


「『解放!!骨の盾達(ザ・スケルトンズ)』!!」


 私の詠唱と共に、目の前に大量のスケルトン達が収納空間から現れた。

 その数179体!!先程やられた1体を除き、収納空間に閉まっている全てのスケルトン達である。


 もう、数の暴力に訴えるしかない!!

 こいつらに時間を稼いでもらって、その隙にトゥルキングを討つしかない!!

 卑怯だろうが何だろうが知ったことか?!

 こちらの持てる全ての力を見せてくれるわ!!


『ぬう?!これは………こ、これ程のスケルトンを一体どこから?!』


 突然現れたスケルトンの群れに、さしものトゥルキングも驚きの声を上げた。


「フホホホホホ!!驚いたようね!!こいつらは私の下僕!こいつらに間断なく攻めさせれば、流石にスキルを使う暇もないでしょう!!その隙に悠々と脛殺しを放たさせてもらうわ!!」


『グッ………なんたる小賢しい真似を!!汝はそれでもサム=ワンの技を継ぎし者か?!』


「うっさいわ?!技とかサム=ワンとか知らんのよ?!私は別に武人でも何でもないのよ?そんなん知るかっ?!それに『汝が力を見せてみよ』って言ったのはそっちでしょうが?これが私の力!!数の暴力に沈むがいいわ!!フホホホホホ!!」


『我が見せろと言ったのはこんな力じゃないのだが………!?』


 トゥルキングがまだグダグタと言っているが知ったことか!!


「さあ、私の可愛いスケルトン達!!その意味不明なマッスル樹木に飛び掛かり動きを止めなさい!!その隙に脛殺しで止めを刺してやるわ!!」


『ぐっ…………おのれ…………』


 悔しげに肩を震わせるトゥルキングを無視し、意気揚々とスケルトン達に号令をかけた。


 フハハハハハハハ!!これで勝負は決まったわ!


 さあ、数の力…………思いしれ!!


 


 


 


『………………………………カタ?』


 だがスケルトンは誰も動かなかった。

 皆が皆首を傾げ、『何か用事?』という様子で私をジッと見ていた。


『……………………』


 トゥルキングが動かないスケルトン達から視線を外し、無言で何とも言えないような視線を私へと送ってくる。


 私も何とも言えない気持ちだったが、当事者としてこのままにはしておけない。

 パンパンと騒ぐ学生を沈める教師のように手を叩いてスケルトン達へと呼び掛けた。


「ほらほら!あの………ほら早く!あのマッスル樹木に向かってGOGO!!」


 再びトゥルキングを指差して指示を出すも、全く言うことを聞いてくれない。

 スケルトン同士で顔を合わせ戸惑っているようだ。


 えっ?なんで言うこと聞いてくれないの?

 いつもなら嫌々でも言うことは聞いてくれるのに………。

 というより、なんか私の言ってること自体を理解していないような?


 一体何故…………?


 腕を組んで理由を考えたところでフッと気付く。




 


 

 …………そういや、盾がない。

 死者との会話を成り立たせるあの盾がない。

 なんか腕が軽いことに違和感を感じて思い出したが、あれがなきゃスケルトン達と会話できないじゃん。


 そりゃあ私の指示を理解できないわ。ハハッ。


 


 


「チクショウめぇぇぇ!?」


 地面を蹴りながら叫ぶ。

 スケルトン達が驚きビクリと肩を震わせる。

 私が怒っていることは理解できているようだが、何故怒っているかは理解できないようだ。

 そりゃあ言葉通じなきゃ分からんわボケ。


『…………もう良いか?』


 黙って様子を見ていたトゥルキングだが、動きがないと判断したのか再び動き出した。

 そして砂利や小石でも蹴るかのように、足元で佇むスケルトン達を蹴り払う。

 統率の全くとれないスケルトン達は、ただそれだけで砕けて散らばり、無残な骨の山と化す。

 それに恐れたのか、残ったスケルトン達に至ってはカタカタと骨を鳴らしながら、蜘蛛の子散らすように逃走まではじめた。


「チクショウめぇぇぇ!?せめて戦えよ?!」


 逃げるスケルトン達の背後に向けて叫ぶも、言葉が通じないから届かない。

 結局収納から出したスケルトンの3割は砕け散り、残りは方々へと逃げ去ってしまった………。


「くそがぁぁ?!もう煮干しやんねぇからな!!」


 地団駄踏んで叫ぶも、スケルトン達は誰も振り返りさえしやがらない。


 コンチクショウめぇぇ!?後でローションまみれにしてスケルトンストライクにして遊んでやるからなぁぁ?!


 ストライク共に後でお仕置きをしてやろう。

 そんな誓いを胸に抱いていると、背後からズシリと足音が聞こえてきた。


『………万策尽きたかカオリよ?数の力がどうとかと言っていたが…………この程度か?』


 恐る恐ると振り返れば、ゴキゴキと拳を鳴らすトゥルキングと目があった。


「いや、あの…………」


『なれば次は我の番だ』


 トゥルキングは拳を構えると、下段突きの要領で拳を振り落としてきた。


「け、蹴りじゃないんかい!?『か、解放!!鎧の下僕共(ザ・デュラハンズ)』!!」 


 迫る拳に驚愕しつつ、収納空間から今度はデュラハンを解放した。


 首なしの鎧騎士デュラハン。

 スケルトンと同じアンデッドだが、盾無しでも会話が可能な上位アンデッド。

 その上、高い耐久力と力を持つため、こういった肉弾戦は得意なはず。

 数は8体と少ないが、その分『質』で補えるアンデッドだ!!

 こいつらならば…………。


 そんな思いを託され、収納空間から目の前に飛び出たデュラハン達。それぞれが剣やら盾やらを構えたポーズをとって解放され………。


『呼ばれて参上デュラハンズ!!さあ、主よ御命令をゴブフッ?!』


 潰された。

 真上からの下段突きをまともに受けて潰された。


 タイミングが悪かった。

 正に拳が間近に迫った瞬間に呼び出してしまったため、デュラハン8体の内の5体が何の対処もとれずに潰されてしまったのだ。


 さしもの耐久力に優れたデュラハンでも、この巨体から繰り出された一撃を無防備に喰らっては無事では済まなかったようだ。


「デュ、デュラハンンンン!?」


『ヌオオオオ?!デュラハン3号!4号!6号!7号!8号!!』


 私と、一際大きなデュラハンのリーダーデュラハン1号が陥没した大地を見ながら叫んだ。


 チクショウ!!いきなり殺られやがったデュラハンズ!!

 1号の叫びでは、殺られたのは3号・4号・6号・7号・8号の5体のようだ。

 いや、正直大柄な1号以外は見分けはつかないからどうでもいいけど。

 しかし、いきなり戦力の半分以上が削られてしまったか…………。

 正直心許ないがやるしかない。


「よし!デュラハン1号!!そのデカブツの相手を任せた!!私が脛殺し放つまでの時間を稼いでちょうだい!!ちょっと距離を離すために下がるから夜露死苦!!」


 言葉が通じる上位アンデッド故に、今度は指示通りに動いてくれる筈。

 とりあえず生き残ったデュラハン1号に指示を出し、私はトゥルキングから距離をとるべく走り出した。

 これは戦略的に離れている訳であり、決してデュラハン達わ囮にして逃げている訳ではないのであしからず。


『えっ?いや、ちょ?!このマッチョなデカブツなんですか主殿!?せめて説明を………主殿!!主殿!!あるじど…………あるじぃぃぃぃ?!?!』


 なんか後ろからデュラハン達の叫び声と、何かが砕けるような音が聞こえたが気にしない。

 気にしたら負けだ。意識したら負けだ。認めたら負けだ。だから振り返るな私。

 ただし、これだけは言っておく。


 ごめんねデュラハンm(__)m


 デュラハン達の犠牲………踏ん張りを期待しつつ暫し走り、充分に距離をとったと思ったところで立ち止まって反転した。


「よし!ここまで来れば…………」


 再びトゥルキングへと顔を向け、脛殺しを放とうとした。が…………。


『デュラララララララ?!』


 私目掛け、デュラハンが自分の種族だか某アニメのタイトルだかを主張するような悲鳴を上げながら突っ込んできた。


「ちょ?!えっ?くっ……ご、ごめん!?」


 このままではぶつかる!!


 危機感を覚えた私は脛殺しの対象をトゥルキングから突っ込んできたデュラハンへと変え、勢いよく放った。


『デュ?デュラハァァァァァァァァァン!?』


 こちらへと飛びながら脛殺しを受けたデュラハンは、脛殺しによる反動によって空中で不自然に軌道を変え、真横へと勢いよく吹き飛んでいった。


 すまんデュラハン。

 こうしないと私が危なかったの許して。


 真横に飛んで壁に上半身がめり込み、現代アートのようになったデュラハンに心の中で手を合わせる。


「で、でも何でデュラハンが?」


 デュラハンが飛んできた事を疑問に思ったが、それはトゥルキングを見れば一目瞭然だった。


『ふん………他愛ない…………』


 トゥルキングがゴゴゴという重苦しい音でも聞こえそうな雰囲気を醸し出しながら、両手にグッタリとしたデュラハンを虫でも掴むかのように持っていた。


 恐らくというか間違いなく、トゥルキングが投擲したんだろうなぁ。


 そんな事を考えていると、トゥルキングが両手に持ったデュラハン達を私目掛けて勢いよく放り投げてきた。


 いきなりかよっ?!


『返すぞ!汝の玩具を!!』


「いや、返されても困る!?」


 本心から叫びながら、咄嗟に手を前に掲げた。


「『解放!!ハンナ!!』」


「ほぇ?」


 収納空間から唐突に呼び出され、間抜けな声をあ上げるのは、銀髪青白少女ことリッチのハンナだ。

 ハンナは正座をした態勢で現れ、手には湯気が漂うマグカップを持っていた。

 こいつ、収納空間でお茶してやがったな?!フリーダムか??てか、今さらながら収納空間の中ってどうなってんだ?結構自由なのか?!


 ちょっと思考が脱線してしまったが、直ぐに気を取り直して指示を出した。


「ハンナ!直ぐに結界みたいなの張って!なるべくかったいやつ!!」


『えっ?えっ?ご主人様……一体何が?』


「いいからハリーアップ(急げ)!!」


『は、はい?!『闇よ、我らを包み、砦と化し、我らを世界から隔絶せよ!暗黒の魔宮(ダークキャッスル)!!』


 事情を説明している暇がないので急がせると、ハンナが早口で何かを詠唱した。

 すると、私達を包み込むように薄く暗い膜のようなものが展開された。


 何とも不可思議な膜を見ていると、自然と感嘆の言葉が溢れ出てきた。


「おお……これが結界………勢いで頼んだけど、本当にできたんだ………」


『勢いだったんですか?!』


 そりゃ勢いだ。

 だってハンナが結界を使えるって知らないもん。

 私が知ってるハンナが使える魔法は、何か凄い火の玉と、何か凄いバチバチする電気ぐらいっすから。

 ただ何となく、自称凄い魔法使いみたいな事言ってるし、それぐらい可能かな?とお願いしてみただけだ。

 まあ、結果よければ全て良しだ。


 えっ?もし結界が張れなかったら?

 聞かない方がいいこともあるさ(^_^)/


『えっと、それで何で結界を?』


 ハンナが当然と言えば当然な質問を私にしてきた瞬間…………。


『デュラ!?』


『ハァン?!』


『ひっ?!な、何?!』


 結界に2体のデュラハンがぶつかってきた。

 高層ビルのガラスにぶつかったカラスのように結界にビタンと張り付き、ズリズリと下に落ちていった。


 うん。何とか間に合ったようだ。

 ギリギリだったぜ。


『えっ?えっ?デ、デュラハン?!な、何が?!何でこんな事に?!』


 潰れた蛙のように倒れるデュラハン達に、ハンナが驚愕と戸惑が入り雑じったような声で叫んだ。


「デュラハン達が飛んできたから、それを防ぐために結界を張ってもらおうとね。よくやったハンナ」


 説明をしつつ、しっかり指示通りに動いてくれたハンナを褒め称えた。

 が、ハンナは何とも言えない微妙な表情をしていた。


『いや、それなら先に言って下さいよ?!それならそうと柔らかく受け止めるタイプの結界を張りましたよ?!デュラハン達を受けるのに、こんな硬い結界を張ったりしませんよ?!ほら!これ見てくださいよ?!結界にぶつかった衝撃で鎧がひしゃげてますし、腕やら足が変な方向に曲がってますよ?!』


「うわっ……グロッ。でも大丈夫大丈夫。ハンナが直してくれるでしょう」


『いや、直しますけども…………』


「ついでにあれ(ポンゴ)や、あれ(スケルトン達)や、あれ|《他のデュラハン達》も後で直しておいて」


 そう言って、半ば粉末化したポンゴやらスケルトンと、現代アートと化したデュラハン達を指差した。


『私が知らぬ間に何があったんですか?!』


 ハンナが目を見開きながら、当然と言えば当然の叫びを上げた。


 いや、まあ………昔からの仲間がこんな無残な姿になっていれば叫びもするか。

 私だってザッドハークが…………………駄目だ、多分高笑いしてる。無残なザッドハークを指差して高笑いしてるだろう。

 ゴアがどうにかなったら泣くかもしれないが、ザッドハークだったら笑う。誓って言える。間違いなく笑ってる。


 無残に打ちひしがれるザッドハークを想像してほくそ笑んでいると、横からハンナが叫んできた。


『ご主人様!ご主人様が普通に見えて、ザッドハーク様並みに色々とメチャクチャなのは知ってますが、これはやり過ぎですよ?!ポンゴまた死んでるじゃないですか?!』


「いや、ちょっと待て?!何で私がザッドハークと同列にされてんの?!どう考えれば、あの暗黒殲滅騎士と乙女な私が同列なのよ?!例えるなら、猫動画とスプラッターホラーを同列に語ってんのと同じよ?!てか、何で何気に全部私がやったことになってんの?!違うからね?!私は何も(ただ敵の前に出しただけ)やってないからね?!」


『普段の行いが悪いからですよ?!だいたい毎度ポンゴを蘇生させる身になってくださいよ?!毎回すっごい魔力消費するんですからね!?しかも、毎回毎回何か色々混じって原型なくしてきていますし!!あれ、もうドラゴンじゃなくてキメラですからね!?しかも相当に気持ち悪い部類の!!それに、例えの意味が全く分かりませんよ?!ネコドウガがザッドハーク様で、ご主人様がスプラッターホラーとかですか?!』


「逆だぁぁ?!私が猫動画だぁぁ?!何で私がジェイソン扱いなのよ?!あんな残虐殺人鬼じゃないわい?!何回か血塗れになったけど、好きでなった訳じゃないわい?!不可抗力だ!!言い掛かりつけるなら終いには胸もくぞ?!この毎度脱げてるエロリッチが!!略してエッチがぁ!!」


『それ、最早ただの性行為の単語になってますから?!というか、私も好きで脱げてる訳じゃないですよ?!毎回毎回、ご主人様とかゴアとかゴアとかゴアが原因ですよ?!何で毎度毎度服を溶かされたり、焼かれたりして肌を人前で晒さなきゃならないんですか?!この胸のサイズのブラは中々なくて探すの大変なんですよ?!小さいやつだときつくて痛いし………』


「おい、それは挑戦状か?A(貧乳)に対するG(巨乳)からの挑戦か?オッッッケェェェェェェ。その宣戦布告受け取ったわ。戦争よ、全面戦争よ。今直ぐにその胸についた駄肉をもいでやるわ。鷲掴みしてから、グチャリと捻切ってやるわぁぁ。そんで祭壇に捧げ、胸神様への供物としてやる!!そして私は推定Aから、確定Gにメガ……いやギガ進化できるのよぉぉぉ!!さあ、胸をよこせぇぇぇ!!!!」


『ちょ?!何言って?!胸神って何?ヤダ?!いや、どこ触って……って、キャアアアアアア?!?!助けてぅぇぇ!?』


『いや、あの………カオリよ?我の相手は………』


『うっさいわぁ?!こちとら戦争中じゃい!そこで大人しく待っとれ!!なんだったらテメェから先にその大胸筋剥いだろかい?!』


『スミマセン。そのまま続けて下さい』


『いや、ちょ?!続けさせ……てか、何ですかこのマッチョ樹木?!化けも……って、胸がぁぁ!?もげるぅぅぅ?!』



 





 

「ムウ?!カオリよ!!もっと下から持ち上げるようにいくのだ!!そうだ……そう先端部を一気に摘まむのだぁぁ!」


「そうだ嬢ちゃん!そこ………そう、よしっ!!本当は、ハンナがあと10歳くらい若ければいいんだが、これはこれで………」


「あらあら?それにしても、あの青白い娘も中々可愛いわねぇ。胸も大きくて包容もありそうだし、嫁に来てくれたらいいわねぇ」


「ムウ………しかし選べる嫁は一人じゃしのう。戦士としての力をとるか、女としての魅力をとるか………。はたまた安産型をとるか、巨大なる母性の塊をとるか……悩みどころじゃのう」


『いya何c4は見sEら140……?』


『我…………いつまで待てば?』


 なんだか妙な盛り上がりを見せる農園で、すっかり忘れられたトゥルキングが、目の前で繰り広げられるキャットファイトを呆然と見ていた………。

 (゜Д゜)ァァァァァ(@◇@)モゲロォ

 (〇ΞΞブチッ= 〇∋(□□)┓

 

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