4話 異世界飯が不味い?誰が決めた。
「あー………食べ過ぎた………」
どうも。場当たり的に勇者となった女子高生、愛原香です。
私は今、映画に出てくるような天凱付きのフカフカベッドの上でゴロゴロとしています。しかも、用意された薄手のキャミソールのような寝間着を着崩して、お腹を出しながら股を広げた、乙女にあるまじきオッサンスタイルで。
だって楽なんだもん。
さて、それは置いといて………ガッツリ夕飯を食べ過ぎてしまった。
おかげでお腹がパンパンで、妊娠と間違えられてもおかしくない。
だって、メチャクチャ美味しかったんだもん!!見たこともない豪華な食事の数々!それも、一般庶民の私が口にすることなんか、まずないものばかり!!そりゃ、ダイエットも忘れ、ついつい食べちゃいますよ!
異世界のご飯といったら、小説やなんかでは『糞不味い』とか書かれていたけど全然そんなことなかった!
野菜は新鮮で、かけてあった謎の青いドレッシングは意外と美味しかったし、肉料理なんか柔らかくボリューミーで、ついおかわりしちゃったぐらいだからね。なんの肉かは知らないけど、メチャメチャに旨かった。デザートも、ムースみたいなものが出てきたけどメチャクチャ美味しかった!
「あー幸せ…………」
満腹になったお腹をさすりながら、フカフカのベッドに体を預けて食後の一時の余韻に浸る。
何とも幸せな感覚だ。
正に勇者様々である。
「あー………だけど、この厚待遇も私が勇者………つまりは、魔王だかを倒すための私に対する、先行投資みたいなものなんだよね………」
これだけの厚待遇も、魔王を倒すためには惜しくない投資。つまりは、それだけ魔王はヤバい奴ということになる。
その事を考えると先程までの幸せ感は消え去り、嫌な寒気でブルッとする。
「………王子様のイケメン具合についつい流されて承諾してしまったけど。いくらなんでも安請け合いし過ぎたかもしれないな………」
王様の説明だと、死んでも元の世界に生きて戻れるということだけど、それが事実かどうかも分からない。寧ろ、今考えれば魔王討伐を承諾させるための方便かもしれない。
なんだか冷静になったら急に怖くなってきたな…………。
あー…………やばい。メンタルが駄目になってきてる。なんか泣きそう。
「駄目だ、駄目だ。気をしっかりもたなくちゃ!!」
落ち込んだ所で事態が変わる訳じゃないからね。ここは少し気分転換でも………と思ったけど、スマホは電池切れで、本もない。憂さ晴らしになるような娯楽品が一切ない。
「うわぁ………シクった。気休めになるようなものがない………」
うーん………なんか暇潰しになるようなものは………。といっても、この部屋にはベッドに机に鏡やクローゼットといった、基本的な家具しか置いておらず、暇を潰せるようなものは見当たらない。
もう、諦めて寝ようかな………んっ?待てよ、鏡?
「そうだ。せっかくだからステータスの再確認でもしよう!」
そうだそうだ。せっかく異世界にきて鑑定なんて能力を得たんだし、それを使わない手はないよね!
気晴らしにもなるし、自身の能力確認をすることで今後の方針やなんかも決めることができるしね。
特に、貴重なスロット枠が埋まってしまったけど、女神様という方がくれた『転位ボーナススキル』も色々と厳選しなくちゃいけないからね。
今日会得した『脛殺し』を見ると、かなりのチートな能力を得ることができる特典らしいし、今後の魔王との戦いでは大いに役立つ力だ。
自分の能力とかを理解した上で、自分に合った能力を修練して開花させなきゃいけないしね。
それを考えると、早々に説明をしてくれなかった王様が本当に恨めしい。こんなことが分かっていれば脛なんて蹴らなかったのに。
「まぁ、過ぎたことはしょうがないか。まだスロットは4つあるし、これからの能力を厳選していけばいいか」
取り敢えず、気を持ち直すか。さて、それじゃあ早速確認しますか。
「えっと………鏡を向けて………『鑑定』」
全身が写るように鏡を動かし、写った自分自身へと鑑定を行う。
すると、直ぐに視界の中に情報を記した文字が現れた…………。
『鑑定結果』
名前:愛原 香
種族:人間
称号:『王の脛かじり勇者』
職業:勇者
加護:女神
状態:通常
Lv:1
HP:120/120
MP:40/40
筋力:D-
知恵:D
旋律:E
魔力:D
幸運:E
勇者固定スキル:鑑定・言語理解・勇者の証・収納
特級スキル:『脛殺し』『王殺し』
災害級スキル 『暴食王』
残り空欄ボーナススキルスロット:2
スキル:小物作り・ツッコミ(中)・速読(中)
捕捉:新たに異世界から召喚された勇者。召喚されて早々に王の脛を破壊し、痛みに喘ぐ悲鳴を上げさせた。更には、暴食の限りを尽くさんとせし恐るべき勇者。
「なんか増えてるぅぅぅ?!」
「ど、どうなさいました勇者様!」
動揺して叫んでしまったら、外の扉の前で控えていたであろうメイドさんが、慌てたように入ってきた。
「あっ!?いや………なんでもないです」
「しかし、何やら大声で叫んでいましたが………何か不都合があれば、直ぐにでも改善致しますが?」
フッと我に返り、精一杯に平静を装って何でもなかったと言ってみるが、メイドさんは訝しんだ様子で中々に引いてはくれない。
余程、普段から客人への応対などを細かく躾られているのだろう。メイドさんからは問題点があれば真剣に改善しようとする熱意が伝わってくる。
その仕事に対する前向きな姿勢は、高く評価すべきである。
だが、今だけはその姿勢が厄介だ。
「すみません!本当に何でもないんです!!」
「ですが…………」
「本当です!何でもないんです!万事大丈夫なので!!」
私の強い何でもないですアピールに、メイドさんは滅茶苦茶に怪訝な表情をしている。だけど、あまり客人の意見を無視することもできないと思ったのだろう。
やがて、納得はしてなくとも渋々ながら了承の返事をしてきた。
「そう……ですか?それならばよろしいのですが………。」
「はい!本当に大丈夫なので!1人にしてもらえますか?」
「畏まりました………。ですが、何かあれば直ぐに呼んでください。全力をもって事態の改善にあたりますので」
「はい、分かりました!呼びます!超呼びますんで!!」
「はい………?それならいいのですが?では………失礼致します………」
メイドさんが出ていって扉が閉まったことを確認してから、再び自身へと鑑定を行ってみる。
すると見間違いでもなんでもなく、そこには変更された称号と増えた能力が記されていた。
「マジか………ス、スキルが増えてる?そ、それも2個も?」
なんてことだ?!き、貴重なボーナススキル欄が一気に2個も埋まってしまっている!!一体何故にこんな事に?!
し、しかも、称号まで変わって『王の脛かじり勇者』?なんだこの親の脛かじりみたいな称号は?!意味が分からない!!
スキルか?スキルが影響してるのか?そ、そうだ!スキルの詳細を鑑定してみよう!そうすれば、こんなスキルを得た経緯も分かる筈!
「『鑑定』!」
特級スキル:『王殺し』
説明:数多の王を葬り、悲痛なる叫びを上げさせし者が得し大罪の力。あらゆる王という王へと攻撃する力が補正され、超絶にして無慈悲なる一撃を与えることができる。
災害級スキル:『暴食王」
説明:過食に継ぐ過食を繰り返し、目に写るあらゆる者を食せし暴食の権化が会得せし七大罪が一柱の力。万象のあらゆるモノを喰らうことを可能とし、喰らったものの力を己のものとすることができる悪逆非道の力。
チクショォォォォォ!!
心の中で叫びを上げ、枕をボフボフと叩く。
コンチクショウめ!やっちまった!というか、あれでとっちまったのか?!王様しばいた時と、食事をおかわりした時!!あの時かぁ!?
何であれだけの行動でスキルを得てしまってるの!?ちょっと王様を蹴って、ご飯おかわりしただけじゃん!?何でそれだけで?!基準はどうなってるんだよ?!
それに災害級っなんだぁ?!超絶不穏なんですが?!習得できるのって特級までじゃないのよ?!
しかも、それらが上位に格上げされてしまったせいで、凄く物騒な名目のスキルになってるよ!!王殺しと暴食王って絶対駄目な名前でしょ?!勇者が取っちゃ駄目なやつでしょ!?
称号もあれか?!全部のスキルを混ぜ合わせてこうなったのか??脛かじりって物理的にか?!誰がオッサンの脛にかじりつくか!!
あ、あぁぁぁぁ!!貴重なボーナススキルが、またもや変なスキルで意図せずに埋まってしまったよぉぉぉ?!これ、大丈夫なの?魔王と戦っても大丈夫なの?先行き不安だよ!!
しかも総合的に見ると、どっちかと言えば私が魔王じゃね?だって『何々殺し』って二つもあるし。更に暴食王って言ったら私でも知ってる有名な7大罪ってやつでしょ?書いてあるし!?絶対勇者のステータスにはあるまじきやつじゃん!?
これ、どうしよう?スキルのクーリングオフってできないのかな?できるわけねーか!!うわぁ……1人でノリツッコミしてる場合じゃないよ……。
どうしよう?どうしよう?
必死にそれほど良くもない頭を回転させて、このスキルを得てしまった事に対して、今後の展望と対策を考えた。
暫し、目を閉じて考えたけど……。
「…………………分かんない。もう、寝よう」
考え出してから1分程度で諦めることにした。
うん。そんなに頭が良くもないのに考えたところで何か思い付く訳でもないし、無駄なことだ。そもそも、異世界の常識も知らないのに、変に考えても徒労に終わる可能性がある。既にとってしまったものは仕方ない。きっと何とかなるさ。
確証はないが。
もう、結構なレアスキルをとったんじゃないかな?ってぐらいの勢いで納得しちゃった方がいいんじゃないかな?説明見る限りだと結構チートっぽいし。
そもそも、この鑑定……今日の王様達の様子を見るに、勇者の特権というか固有の技みたいだから他人に私のスキルを見られることはないでしょう。
うん。きっとない。大丈夫。
ステータスを覗かれて、不審者扱いされることはないさ。されても勇者補正で何とかなる。
だから、今日はもう休もう。
結局、自分を無理矢理納得させて、早々に休むこととした。
まさか、喰って直ぐに寝てしまうから『怠惰』とか得ないよね?
◇◇◇◇◇
その夜……私は不思議な夢を見た。
夢の中で私は白い空間におり、美しい女性と対面していた。
記憶は曖昧だが、ただ金髪の美しい女性だったことは覚えている。
女性は優しい微笑みを称えながら私に何かを語りかけてきた。
何か………というのは、夢の話だからかうろ覚えで、何の話をしていたのかも余り覚えてないからだ。
ただ、結構大事な話をしていたような気がする。
そんな美しい女性と話をしていた私だったのだが…………。
気付いたら女性の脛を蹴っていた。
それも容赦なく、同じ箇所を執拗に何度も蹴っていた。
自分の何がそうさせるのか分からないが、ただただ無心に女性の脛を蹴っていた。
最初は耐えている様子の女性だったが、段々と苦悶の表情となり、やがては泣きながら何かを叫んでいた。
それはもう、子供のように泣き叫びながら。
その女性の叫びの内容だけは何故か朧気ながらも不思議と覚えている。
確か…………。
『ゴメンなさい!本当にゴメン!基準下げ過ぎてたわ!?私の不手際だわ!謝るから!後で何かサービスするから!だからもう、脛は止めて!脛がもう限界だから!?痛いの!痛いのよ!本当にゴメェェェェンなさいぃぃ!!』
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