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40話 さぁ!みんなで頑張ろう!悲

「それじゃあ、この依頼をお願いします」


 私はいつも通り、依頼ボードから手頃な依頼を選び、受付のニーナへと手渡した。


 だが、そのニーナは、ひくついた笑みを浮かべたままピクリとも動かない。


「あの…………ニーナさん?」


 固まったニーナの目の前にで手をブンブンと振りながら呼び掛けると、彼女はハッとした顔となって反応した。


「ハッ?!………あ、あぁ………すみません。ちょっとボーとしてしまいました………」


 申し訳なさそうな顔をしながら目頭を押さえるニーナ。顔色も悪いし、どうやらお疲れのようだ。


「大丈夫ですか?なんだか疲れているようですが?」


「あっ………ハハハ………。ご心配かけてすみません………。ちょっと徹夜したせいか、疲れが貯まっていたようですね………」


 ゴシゴシと目を擦り、ニーナは私から依頼書を受け取った。


「あんまり無理しちゃ駄目ですよ?倒れたりしたら大変ですし…………」


「そうですね………すみません。本来なら私達ギルド員が冒険者さん達の健康を気づかわなきゃいけないんですが………」


 謝罪を口にしながらも、依頼書を手早く処理するニーナ。疲れていても、慣れた仕事に関しては体が勝手に動くようだ。

 それでいてミスがないのだから凄いの一言だ。


「気にすることはありませんよ。同じ人間なんですから、誰だって病気にもなるし間違いをおかすことだってありますよ」


 笑いながらそう言うと、ニーナも苦笑した。


「そう………ですね。私はエルフですが、そういう時もありますね」


「そうですよ」


「そう言って頂けると気が楽になりました。今日は早退して、ゆっくり休もうと思います」


「その方がいいですね。ゆっくり休んで疲れを取り、英気を養った方がいいですよ」


「ですね。疲れ過ぎて幻覚を見るぐらいですから、ゆっくりと寝るべきですね」


「それは尚更ですよ。ところで幻覚ですか?」


「はい、幻覚です。何だかカオリさんの横に巨大な触手付きの目玉が浮かんでいるように見えるんですよ。まぁ、休めばそれも…………」


「すみません。それは間違いなく逃れ得ぬ事実であり、休んでも消えない現実です」


 真顔でそう言うと、隣にいたゴアが同意するように触手を揺らした。


 


 


 


 ◇◇◇◇


「という訳で、その後ニーナさんが絶叫を上げて大変だったよ…………」


 いつもの東の森を歩きながら、隣を歩くジャンクさんへと愚痴を言う。


 あの後、ニーナが絶叫を上げながら『魔物が!魔王が!暗黒神が降臨したあ!!』と騒ぐから、事態の収拾が大変だった。

 しかも、的外れでもないというか、かなりドンピシャというか、ほぼ事実な内容の叫びなので尚更大変だった。


 ニーナの直感マジで半端ない。


 ジャンクさんはそんな私の愚痴を、どこか遠い目をして聞いていた。


「あの場にいたから知ってるよ。ギルド全体が大騒ぎだったからな。というか、よくも公共の場にゴアを連れて行こうと考えたものだよ………」


「ザッドハークで慣れてるだろうから、ものは試しと…………」


「せめて人型で試せ。デカイ眼球が触手を蠢かせて浮いてたら、誰だって驚くわ…………」


 呆れとも諦めともつかぬ口調で呟くジャンクさん。


 いや、まぁ………確かにそうだね。

 私だって最初は驚いたしね。

 やっぱあれかな?ザッドハークとかのせいで、そこんところの感覚が麻痺してるのかな?

 いや、してるんだろうな…………うん。


「しかも、その後が更にヤバかっただろうが?ザッドハークの目がピカッと光ったと思えば、その場にいた全員が何事もなかったかのようにしてんだぜ…………なんだよあれ………」


 深く溜息を吐きながら、ジャンクさんは空を仰ぎ見た。その目はひどく澄んでおり、どことなく達観したようだった。


 諦めの境地に達しつつある目だな。あれ。


「あれは…………まぁ、あれですよ…………催眠というか………洗脳みたいな?」


「いや、普通に口にしてるがおかしいからな?洗脳って何だよ?それ、勇者の仲間が一番持ってちゃ駄目なやつだろ?こう………倫理的観点からもさ?」


「ですよねー。私もそう思うんですが、もうザッドハークの標準装備みたいなもので…………」


「んなもん、標準装備すんなよ?!しかも、どういう洗脳をしたかは知らないが、何故か皆にはゴアが美少女の魔法使いに見えてたみたいだぞ?」


「あー………みたいですね。男性に囲まれてましたしねぇ………」


「俺、知り合いが触手付き大目玉に色目を使っているところなんて見たくなかったぜ………。ましてや、『あの娘、目がパッチリして可愛いな』ってさぁ………いや、目しかねぇよ………」


「そのおかげでパーティー申請やら冒険者申請は何とか通りましたが、あれは…………確かに見ていて………」


 歩きながら項垂れ、遂には頭を抱えてしまうジャンクさん。


 その時の光景を思い出し、私も嘆息する。


 確かにあの光景はヤバかった。

 ザッドハークのせいでギルド内の冒険者達にはゴアが絶世の美少女に見えていたらしく、男達が群がって大変だった。

 口々に名前を教えてくれだの、どこから来たのだの、結婚してくれだのと喚いて、うるさい事この上ない。

 終いには、ゴアの前で人垣を捌く私に『女の嫉妬は見苦しいぜ?』と言ってくる始末。


 だから最終的に、いつも通り物理的に黙らした。

 脛殺しで。

 おかげで一瞬で静かになった。

 流石は脛殺しだ。役に立つスキルだ。


 ついでに、倒れている冒険者の中にはザッドハークもいた。

 余計な手間を増やしたんだから当然だよね。ハッ!!


 倒れ、苦悶の声を上げるザッドハークを思い出し、つい口元を綻ばせていると、ジャンクさんが大きく息を吐いた。


「ハァ………いっそ、俺も洗脳された方が幸せなのかもしれないなぁ………。不幸な事実を忘れ、甘い夢に浸る………そっちの方な良いような気がするぜ………」


「そして現実では眼球を口説き、粘液塗れの触手を握って悦に浸る…………と?」


「やっぱ現実が一番だなぁ」


 事実を突き付けると、おもしろい程の手のひら返しを見せるジャンクさん。

 手首がねじ切れんばかりの勢いだ。


「というか、ジャンクさんは既にゴアに慣れてるじゃないですか?私がゴアを仲間にしたと言った時も、然して驚いていませんでしたし………」


 色々あってゴアが仲間入りした時、そのことは必然的に近くにいたジャンクさんに伝えることになった。

 最初、私はその事をどう伝えたものかと思い悩んでいたが、しどろもどろな説明をする私にジャンクさんは死んだ目で…………。


『もういい。分かった』


 と、素直に受け入れてくれたのだ。 


 おかげで、スムーズに事が運んだと言える。

 まぁ、どこか悟ったような顔をしていたが、問題ないだろう。


 その時の事を話すと、ジャンクさんはまたもや達観、または悟ったような穏やかな表情の横顔を見せた。


「もう、あれだ。俺もお前らのせいで感覚が麻痺してんだよ。それに、ザッドハークが『久しぶり』とか言ってる時点で多分そうなるんじゃ?みたいな予感があったんだよ…………」


「外れてほしい予感でしたね。まぁ、あれです。納得しました…………」


 ジャンクさんの言葉に色々と納得する。

 私も同じだからね…………。


「何か私も同じですよ………みたいな顔をしてるけど、嬢ちゃんもザッドハークらと同じジャンルだからな?規格外という意味で」


「えっ?いや……いやいや違いますよね?私があんなイロモノと同じジャンルな筈ないですよね?!」


 ジャンクさんの言葉に衝撃を受ける。


 ま、まさか私が魔王面と眼球お化けと同じジャンル扱いされるとは?!

 そ、そんなのは絶対に間違いだ!間違いである筈!


「自分の格好を鏡で見てから言えよ?どこの常識人が悪魔のような様相の呪い付き装備を身に纏い、凶暴化して暴れたり、大の男の脛を破壊するよ?完全に同じ存在だろうが?お前らが武器ならば、同じ陳列棚に在庫処分で揃って並んでるよ」


「いや、そこまで?!しかも、遠回しに引き取り手がないみたいな?!なんか今日は辛辣じゃないですか?!もしかして昨日の事ですか?昨日のキールさんの話しを間に受けて脛をやったの怒ってます?」


「さぁ、どうだろうね?」


 それだけ言うと、ジャンクさんはサッサッと先に行ってしまう。


 うわぁ………あれ絶対に根に持ってるよぅ。


 何故にジャンクさんが怒っているかというと、昨夜宴会をやっている最中に、ジャンクさんのライバル的存在のキールという冒険者に会った。

 そ前々から話は聞いており、一度は会いたいと思っていた人だったのだが、そのキールさんは唐突に、ジャンクさんが子供らに対する邪悪な企てをしているという話をしてきた。

 私とザッドハークは『ジャンクならやりかねん』と意見が合致し、事前に悪の芽を摘む意味でジャンクさんに天誅を下したのだ。


 だが、後から落ち着いて話を聞いてみれば、話の七割はキールさんの憶測だったらしく、ジャンクさんはほぼ無実だったという。


 一応は謝罪はしたのだが、いまだジャンクさんの中にはしこりが残っているらしい。


 んっ?残りの三割はなんだったかって?


 思い出させないで。震えが止まらなくなる。


 その時の事を思い出し、ロリコンに対する恐怖から両腕で自分の体を抱いていると、前を先行していたザッドハークが声をかけてきた。


「カオリよ。おったぞ、あそこにおる」


 少し離れた位置にいるザッドハークは、茂みに隠れながら向こう側を指差した。


 気を取り直した私は、小走りでタッタッと駆けていきザッドハークの隣に並んだ。そして、指差された先をジッと見た。


 その指の先………そこには大きな木があり、その木の根元には、緑っぽい毛並みをした大きな熊がいた。


 熊は木によりかかり、捕らえた獲物の肉を貪り喰っている。獲物は既に血塗れの肉塊となっているが、毛並みや特徴からしてギロギロウルフらしい。


「うわぁ…………グロッ」


「あれが依頼にあった討伐対象のフォレストベアだ」


 軽い吐き気を催している横で、ザッドハークが淡々と説明をしてくる。


 そう、あれが今回の依頼の目的であるフォレストベアという魔物だ。

 今回の依頼はあのフォレストベアの毛皮と肝の回収であり、あれを倒して毛皮などを剥ぎ取らなければならないのだ。


「あれがフォレストベア…………デカイなぁ、怖いなぁ………」


 いつも相手にしているようなゴブリンやコボルトよりも二回りはデカイその姿に萎縮してしまう。


 今回は初めての大型魔物戦である。ザッドハークがそろそろ大型の魔物との戦闘にも慣れた方がいいだろうという理由で、この依頼を受けることになったのだ。


 私も戦いに関して、一歩ステップを上がった方がいいかなと思い、経験を積むべきだと軽い気持ちで受けたのだが………。


 こうやって実際に見ると、凄い怖いなぁ………。


 目の当たりにしたフォレストベアの迫力に圧倒されていると、ザッドハークがポンっと肩に手を置いてきた。


「案ずることはない、カオリよ。別に一人で戦えと申している訳ではない。此度はそなたに大型の魔物との戦闘経験を積ませるのも目的だが、新たに加わった仲間との連携を確認する意味合いもある。故に臆することも、気負う必要もない」


「ザッドハーク…………」


 ザッドハークの励ましにスッと胸が軽くなる。


 ザッドハークの言うとおり、新たに加わった仲間との連携を確認するのも今回の目的だ。

 特に、今までいなかった後衛なども新たに参入したので、しっかりと動きを確認しないと同士討ちなどの恐れもあるのだ。


 だから、一人で戦う訳じゃない。


 そう思うと、緊張が解れると同時に凄く心強い気持ちになる。


「そうだね、ザッドハーク。皆でやるんだし、怖がる必要はないね」


 ザッドハークの言葉に同意し、腰から剣助を抜いて柄を握る手に力を込める。


 そんな緊張や恐れがなくなった私の様子に満足したのか、ザッドハークが厳かに頷いてから正面を見据えた。


「フム。では、行くか。まず先に話した通りに攻めるぞ。まず、ゴアとハンナが魔法を放ってフォレストベアを混乱させ、足止めをする。その後に、前衛たるカオリと我とジャンク。それにポンゴとデュラハン8体とスケルトン180体が続き、奴を囲いつつ止めを刺す………良いな!?」


『『『『オウ!!』』』』


 フォレストベアの周囲360度を隙間なく囲いながら、茂みに隠れるスケルトン達総勢180体が、勢いよく返事をする。


 


 


 

「ねぇ?皆でやる…………とは言ったけど、これはやり過ぎじゃない?てか、馬鹿なの?」


 周囲で剣や槍を持って構えるスケルトン達を横目で見ながら、ボソッと呟く。


 ここに至るまでの道中、私達の周囲をスケルトン達が守りながら一緒に移動していたのだ。

 それはもう見事な団体行動であり、その姿は依頼に向かう冒険者というよりも、任務に赴く軍隊そのものであった。


 いや、皆って本当に皆を出すとは思わんかったわ?!やり過ぎだろうがい、これ!?

 私達の向かいには復活したポンゴまで配置しているし、囲み過ぎやろがい?!


「フム。獅子は兎を狩るも全力を出すという。なれば相手が例え少数であろうとも、総力を持って事に望むが礼儀よ」


「意味履き違えてない?それ、対一での意味だよね?これって、最早いじめだよね?ただのリンチだよね?」


「気にする事はない。汝はただ目の前の熊狩りに集中せよ」


「いや、熊狩りというか、既に山狩りの規模なんだけど?」


 どこの誰が熊一頭狩るのに完全武装の約二百名もの人員を出すというのだろうか?

 過剰戦力にも程がある。

 熊が不憫でならないわ。


「細かいことを気にするでない。老けるぞ?」


「これを細かいと言うならば、会社とかで経理をやっている人はとっくに老衰してるよ………」


 他にも弁護士やら医者やら何とかやら………。

 世界中の死因の八割は老衰だよぅ………。


 ザッドハークの大まか過ぎる意見に困惑し、助けを求めるように隣で屈む、幼子が絡まなければ比較的常識人なジャンクさんへと目をやれば………。


「何故か急に、ショギョウムジョウ…………という言葉が浮かんできたな…………」


 どこか遠い…………違う世界を見ているかのような目で、何か呟いている。


 あかん。なんか悟りかけてるわ。


 状況を諦め過ぎて、悟りの境地に達しかけてるわ。というか、諸行無常って私の世界の言葉でしょうが?何で知ってんのよ?


 そんな疑問を感じながらジャンクさんを見ていると、ザッドハークが手をスッと上げた。


「では、我がこの手を下げるのを合図とする。手を下げると同時に、魔法を放つのだぞ?」


 ザッドハークは振り返ることなくフォレストベアを見たまま、背後にいる二人へと指示を出した。


『任kA3えKu0hf』


『まさか、かつての宿敵と肩を並べることになるなんて…………』


 背後にいる二人…………ゴアは触手を上げ、ハンナは死んだ目でザッドハークに答える。


 …………いいのかなこれ?

 ある意味、混ぜるな危険な二人を並べてんだけど?大丈夫なの?

 ゴアはともかくとして、ハンナは目がヤバいよ。

 死んだ目をしてるじゃん?いや、もう死んでるけど、なんかブラックホール並みに光の無い状態の瞳をしてんだけど?

 これ、揃って並べちゃ駄目なやつでしょ?


「ねぇ…………あの二人。並べて大丈夫なの?」


「心配あるまい。戦力としては申し分ないし、加減はするように伝えておる」


「いや、そっちも心配だけど、そういう意味じゃないんだよねぇ…………」


 そんな心配を他所に、私達の背後で二人は魔法を使うべく集中し始めた。


 ハンナは目を閉じ、何やらブツブツと唱えはじめる。それに合わせ、手にもつ杖に魔力が集まり、青く光だした。


 逆に、ゴアは目を限界まで開け、その眼球の中心に赤い光が集約し熱量がグングンと上がる。

 キュウウウンというかん高い音が鳴り、瞳が明滅しだした。


 あかん。これ、駄目なやつや。

 加減するって、伝えたんじゃなかったの?


 その時、流石にこの甲高い音に気付いたのか、フォレストベアがピクリと顔を上げた。


「ムゥ?気付かれた?!なれば…………攻撃開始ぃぃぃぃぃ!!」


 フォレストベアに気付かれたと判断したザッドハークは上げていた手をサッと下ろす。

 それに合わせ、ハンナとゴアが同時にフォレストベアに向けて魔法を解き放った。


『フ、ファイ『ビガァァァァァァァ!!』ゥゥ…………』


 ハンナは杖から炎の塊のようなものを放ったが、それは隣から放たれた赤い熱線によって掻き消された。


 その熱線とは、ゴアの目から放たれた光………破滅の光線であり、光線は私達の頭上を越えてフォレストベアへと向けて放たれた。


 

「グマァ………?」


 ジュ。


 フォレストベアは何事かと首を傾げながら鳴き声を上げたが、その鳴き声を最後に、その身を塵も残さず消滅させた。

 唯一の救いは熱量が凄まじ過ぎて、痛みもなく一瞬で逝けたことだろう。南無。

 更に、光線は真っ直ぐ森の中を横断していき、私達から大分離れた位置で着弾、爆発。巨大なキノコ雲が空に上がった。

 暫し辺り一帯は煙に包まれたが、その熱線の煙と熱が収まった後に広がるのは、熱線が貫通した地平まで続く跡と、薙ぎ払われた森だけであった。


「……………………」


「……………………」


『……………………』


「……………………フム。よし、次だ」


 


 


 

「次だじゃねぇぇぇぇよ?!」


 あまりの惨状に声も無くしていたが、ザッドハークの言葉に大声で叫びを上げる。


「次だじゃねぇぇぇぇよ?」


「二度も同じことを申すな。聞こえておる」


「大事なことだから繰り返したのぉぉ?!次だじゃねぇぇぇぇよ?」


「三度目だな」


 冷静に呟くザッドハーク。


 いや、まじで次だじゃねぇし?

 これ何?何なの?まじで何なの?!

 何してくれちゃってるのぉぉぉ?!


「くまっ!?クマッ!?熊?!熊消滅しちゃってるじゃん?!跡形も無く消えてるじゃん?!何してんのよぉぉぉ?!馬鹿なの?馬鹿じゃないのぉぉぉ??」


「我に申しても仕方あるまい。やったのはゴアだ」


「そうかもしれないけどさぁ?!これどうなの?!オーバーキルにも程があるでしょ?!ダメージ云々以前に跡形もないじゃん?!素材の回収以前に消滅してるじゃん?!経験やら連携以前に辺り一帯吹き飛ばしてるじゃぁぁぁぁぁぁん!?」


 両手を上げ、爆心地さながらの荒れ地となった光景を見ながら魂の雄叫びを上げる。


 マジで何なのよ、これぇ!!

 ゴアの目ビームは遺跡で見ていたし、ある程度の威力は知ってるつもりだったよ?

 知っているから言わせてもらうけど…………。

 これ、ダンチじゃん?段違いじゃん?!

 あん時より明らかに威力あるよ?!あんなキノコ雲が起こるくらいの爆発しなかったもん?!

 伝わる熱量半端なかったもん!?てか、頭チリッとしたしぃ!?かすったしぃ!!


 若干赤く変色している兜の頭頂部を抱え、背後にいるゴアをキッと睨む。


「ゴァァァァ!?どゆこと?!前より威力あるけど、これどういうことぉぉぉ?!」


 ゴアを真っ直ぐに睨みながら問い詰めると、触手をモジモジといじくり出した。


『KUq5活er01やrrr8…………』


「『初めての合同での依頼だから、つい気合いが入り過ぎちゃった………てへっペロッ!』だそうだ………」


「てぇへぇぺろぉぉぉぉぉ…………」


 ゴアのてへっペロッ発言に脱力し膝をつく。


 てへっペロッじゃねぇよぅ…………。

 気合い入り過ぎだろうがい…………。

 入り過ぎて熊、蒸発してるよう…………。

 熊、浮かばれねぇよぅ…………。


 蒸発してしまったフォレストベアに同情と哀悼の念を送っていると、誰かにツンツンと背中をつつかれた。


 誰だろうと見れば、額にAの文字があるスケルトン…………スケルトンAがそこにはいた。


「スケルトンA…………どうしたの?」


 力なく問いかけると、スケルトンAはスッと私達がいる場所の対面方向を指差した。


「えっ?何?」


『主よ…………あれ…………』


 スケルトンが指差した方向を見れば、そこはフォレストベアがいた場所より向こう側であり、ちょうどゴアの目ビームが通過した溝が一直線に永遠と続いている場所だ。

 それがどうしたのか?と思いつつも、溝を辿って良く良く見ていけば、途中の溝となった場所の左右には、見覚えのある巨大な蜘蛛の足が半ばから千切れた状態でバラバラに…………。


 

「ポンゴォォォォォオ?!?!」


 ポンゴまた死にやがったぁぁぁ?!


 また、目ビームで蒸発しおった?!

 そうだ!向かいにはポンゴ配置してたぁぁ?!

 ポンゴ、めっちゃ射線上にいたぁぁ?!

 フォレストベアと一緒に、ポンゴまで討伐しちまってるぅぅぅぅぅ?!


「ハンナ!?また、ポンゴ死んで…………」


 またまた何の見せ場無く死んだポンゴに驚愕しながらも、その相方とも言えるハンナの方を振り向いて更に驚愕する。


『………………………………』


 脱げていた。


 一糸纏わぬ全裸で杖を構えたまま、虚ろな目をして固まっていた。


「ハンナァァァァァァァ?!」


 あまりと言えばあまりの状態に叫びを上げる。


 何故脱げてる?と困惑したが、ハンナの体が微妙に焦げているのを見て察する。


 熱線の余波で吹き飛びおった…………。


 さっきは頭に血が昇って気付かなかったが、ゴアの隣り…………つまりは目ビームの発射口付近にいたハンナが無事な訳がなかった。


 恐らく、熱線の余波で服が焼け焦げて吹き飛んだのだろう。その証拠に、ハンナの体には僅かに煤などが付いているし、周囲には元は服であっただろう焦げた布切れが散乱していた。


 要はロケットの発射台の直ぐ脇にいたようなものだ。無事に済む訳がなかったよ…………。


 てか、発射地点と弾着地点の両方で大惨事じゃないのよ!!


 その有り様を見て驚愕する私を見たハンナは、口から『ケホッ』と煙を吐くと、そのままそこにドサッと倒れた。


「ハンナァァァァァァァ?!」


 倒れたハンナに慌てて近付き、その上体を抱き起こす。


 抱き起こしたハンナの体には煤などが付いているも、幸い外傷や火傷は見当たらなかった。

 恐らく、咄嗟に魔法でガードか何かをしたのだろう。でなければ、あの熱線の直ぐ脇にいて無事な筈がない。

 寧ろ、被害が服だけだったのは不幸中の幸いだったのだろう。


 というか、私らもよく無事だったわ。


 後、煤なんかがうまいことに胸や股間部の先端部を隠しており、ハンナは奇跡的に18禁対策が成された状態だった。


 何やら世界の意思を感じる…………。


「ハンナァァァァァ!しっかり!しっかりしてぇぇ?!」


 抱き起こしたハンナの体を揺さぶりながら呼び掛けると、彼女は僅かに目を開いた。


 そして、弱々しい声で呟いた。


『…………………やっぱ私………ゴア(アイツ)無理ですわ…………』


 それだけ言って、ハンナは再び目を閉じ、ガクリと腕の中で意識を失った。


「ハンナァァァァァァァ?!」


 腕の中で力無く項垂れるハンナを抱き締め、彼女の名を絶叫した。


 ハンナ!何故にあなたがこんな事に!!なんか脱げてばっかですよハンナァァァァァァ!?


 そんな絶叫する私の傍に、ゴアがスッと寄ってきた。ゴアは触手を伸ばし私の腕の中からソッとハンナを受けとると、その触手でハンナの胸や股間部に巻きはじめた。


 かくして出来上がったのは、裸でヌルヌルした触手に拘束されて捕まった美少女の図だった。


『wAっ0t1か取かゃliI』


「『取り敢えず、私が責任をもって触手で隠しながら運びます。あとはお任せを』と申しておる」


「任せらんなあぃ…………組み合わせ的にも、絵的にも任せらあんなぁぃぃ…………」


 脱力し、その場に四つん這いになる。


 いや、やめたげてよゴア…………。

 親切心や責任感からやってるのかもしれないけど、やめたげてよ…………。

 絵面が酷いことになってるから………。エロ同人誌の表紙みたいになってるから…………。

 何より、ハンナが目を覚ましたら発狂しかねないから…………。

 新たな確執が生まれかねないから…………。


 後、ザッドハークがメチャクチャ凝視してるし、ジャンクさんやデュラハンやスケルトン達に至っては、股間を押さえて踞ってるから………。


 これだから男は…………。


 …………というか、肉体のあるデュラハンはまだ分かるけど、スケルトンは何が反応してんだよ?

 文字通り、骨までさらけ出した骨盤しかないやろうがい!?


 心の中でそんな絶叫を上げながら、私は男達が回復するまで地面をひたすら殴り続けた………。


 


 


 


 その後、ハンナに予備の服を着せてから、再び依頼を開始。


 見つけたフォレストベアを、ザッドハークが蒼い炎でポンゴごと焼き払ったり、私が加減を間違えた破壊の咆哮でポンゴごと破壊したりなどのミスを何回か繰り返したが、何とか夕方までには依頼を達成することはできた。


 

 後日、東の森のフォレストベア達が、どこかへと大移動を開始したというが、それはまた別の話しであると思いたい…………。

 

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