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39話 新人歓迎会

本日二話目です。

「それでは皆。それぞれ杯は手にしたな?それでは新たな仲間との出会いを祝して………乾杯!!」


『『『カンパァァァァァァァァイ!!!』』』


 暗黒殲滅騎士ザッドハークの乾杯の音頭に続き、大勢のスケルトンやデュラハン達が手にしたジョッキを打ち鳴らす。


 そんな悪魔の宴さながらの光景を、私は一歩引いた席で座って見ていた。


「なんか季節外れのハロウィンやってる気分だよ」


 手にしたジョッキに注がれた果実ジュースを飲みながら嘆息する。


 ここは黄金の渡り鳥亭。

 アンデル王国でも食事の美味いことで有名な店で、私達の行き付けでもある。


 その店で何をやっているかと言えば、見ての通り宴会だ。私達のパーティーに新たに加入したメンバーの歓迎会をやっているのだ。


 あの大樹の墓場の遺跡を出た後、ザッドハークがそこで出会った新たなメンバーの歓迎会をやるべきだと言い張り、急遽このような催しを開くことになったのだ。


 でも、開くといっても、急に宴会をやると言っても席が取れるものかと疑問に思っていたが、幸いと言うか、ジャンクさんが席を予約していたのだ。


 マインさんに想いを告げる為の席を。


 ジャンクさんは遺跡で大量のお宝を手にすることを前提に考えていたようで、マインさんの為に大量の食事を並べるように広い二階のVIP席を取っていたようだ。そこで食事をしながら想いを告げる予定だったらしい。


 だが、お宝が手に入らなかったので計画はおじゃんとなり、そこに私達が入ったという訳だ。


 もともとは十人掛けの席だけを予約していたようだが、私達が席に着いた瞬間、二階から全ての人がいなくなってしまった。


 まぁ、メンバーがメンバーなだけに仕方がないが…………。


 だって魔王面に、眼球お化けに、骨に、首無し騎士が宴会してたら、誰だって逃げるでしょう。


 という訳で、せっかくだから二階全体を貸しきっての大宴会となってしまった。


 危険は無いと説明はしたが、チョビヒゲの店長は顔を青くしてたよ。


 まぁ、人数が多かったから丁度良かったが。

 何せ、一気に新規加入したからねぇ。

 で、その新規加入したメンバーとは………。


 暗黒神ゴア=マユラ。


 エルダーリッチのハンナ。


 スケルタリードラゴンのポンゴ。


 デュラハンが8体。


 スケルトンが180体。


 以上のメンバーが新規加入しました!

 一気に大所帯になったでしょ?

 凄いよね?イエーイ!!!


 


 


 


 


「クッソがぁぁぁぁ!!」


 頭を抱えて項垂れる。


 いや、なんだよこのメンバー?!

 完全に勇者パーティーじゃないよな?

 ここにザッドハークも加わるんだぜ?

 もう、魔王の一団だよ?!

 世界を救うどころか、世界を獲りにいくメンバーだよ!!


 結局ゴアが勇士として正式加入するし、デュラハン達もついてきた。


 ハンナは目を覚ました後、暗黒神のことがよっぽどショックだったのか放心状態になっていた。

 そのまま放っておくことが出来ず、一緒に連れてきたら、もれなく遺跡にいた全てのスケルトンやポンゴ(灰)まで付いてきやがった!!


 無生物なアンデッドだから、収納でいくらでも出し入れ自由とはいえ…………。


 いらねぇよ!三体で充分だよ!?

 なんだよ180体って?!

 軍が編成できるわ?!


 そんな私の苦悩を他所に、180体のスケルトンは思い思いに宴会を楽しんでいる。

 大所帯な理由も、9割方コイツらが原因だ。

 あっ、ポンゴは出していない。

 デカイし、流石に店に入りきらないから私の収納にしまっている。

 まぁ、そもそもまだ灰のままだし、酒なんて飲めないだろう。染み込むだけだ。


 ついでに、スケルトン達が飲んでるのは酒ではなく牛乳だ。水や酒は骨の間から零れるらしいが、牛乳だけは骨に吸収されるらしい。

 色々とツッコミたい所だが、いちいちファンタジー要素を否定していたら、この世界そのものを否定することになるので止めておいた。


 尚、デュラハン達は普通に酒を飲んでる。

 いや、普通じゃないか。

 首の切断面から酒を直接入れている。

 飲んでるというより流し込んでるだ、あれ。


 ハンナは…………まだ放心状態か。

 回復するまで暫くかかるなこれ…………。

 というか、回復するのかなぁ?


 隣に座るハンナの様子を見ていると、今日の主賓たる触手眼球ことゴアが、ジョッキを触手に掴んで私の隣へとやってきた。


 ジョッキを持つのはいいけど、どうやって飲んでるんだ?口ないよな?


「あぁ、ゴアさん。楽しんでますか?」


『r5にe女u44分mT2べなtN52大?』


「大丈夫です。私は楽しんでます」


『in2さ?Hj彼kn861やtuじ?』


「アハハハ。そうですね。」


『ざtkE5か!gR8調かxYooH6?』


「それはいいですね」


『v5まU403良jI07なGo!』


「はい、そうですね」


『なtLLe3不1?らやtQまH言x……』


 そう言うと、ゴアは私に背?を向け、ザッドハークのいる方にプカプカ浮かびながら移動していった。


「では、また」


 去り行くゴアの背を見送りながら一息つく。


 やっべ。

 何を言ってるかさっぱり分からなかった。

 通訳のザッドハークもいないし、変に無視するのも可哀想かなと思い、当たり障りのない返答をしてみたけど、様子を見る限りは大丈夫なようだ。

 多少、チグハグな会話になったかもしれないが、そこまで酷い会話にはなっていない筈だ。


 しかし、ゴア…………。

 本当に仲間入りしちゃったなぁ…………。

 しかも、六勇士の一人として…………。


 こちらに背?を向けるゴアをジッと見て、久々に鑑定を発動する。


『鑑定』




 【鑑定結果】


 名前:ゴア=マユラ

 種族:深淵より這い出でし災いの(まなこ)

 称号:『知謀の勇士』

 職業:暗黒魔砲使い

 加護:必要無し

 状態:普通

 Lv:上限無し

 HP:異空間でも生存可能

 MP:空気みたいなもの

 筋力:大概強い

 知恵:大概知ってる

 旋律:大概早い

 魔力:大概すごい

 幸運:大概良い


 スキル:大概なんでも出来ちゃう


 補足:大概ヤバい


 


 


 大概にしろやぁぁぁぁぁ!?


 なんだこれ?なんだこのステータス?!

 ザッドハーク以来にヤバいやつだろ?!

 最早、ステータスにする意味ねぇだろう!?

 最後の補足の『大概ヤバい』で全部片付くやろうがい!?


 そもそもなんだよ職業?!

 暗黒魔砲使いって何だよ?!そこは普通に魔法使いでいいだろうが?!砲って何だよ??

 あれか?!ビームか?!目ビームのことを言っているのか?!あれが魔砲なのか?!


 それに種族!?これ種族なの?!

 深淵より這い出でし災いの(まなこ)って何だよ?

 種族というより、何かの伝承の一文みたいになってるんだけど?!それも、悪い方のっ!!

 だって『災い』って付いてるものっ!!


 これ、本当に仲間にしてよかったの?!

 外に出してよかったの?!


 そんな疑問が浮かぶも、所詮は後の祭り。

 もう、どうにもならないか…………。


 というか、これ私の鑑定がおかしい訳じゃないよね?私の頭が、バグって表記がおかしくなっているとかじゃないよね?

 いや、ちょっと試してみるかな…………。


 そう考え、隣で放心状態のハンナを鑑定してみた。


 

【鑑定結果】


 名前:ハンナ=ミュラコスフ

 種族:エルダー=リッチ

 称号:『元英雄の死者王』

 職業:死霊魔術士

 加護:なし

 状態:憔悴

 Lv:80

 HP:450/450

 MP:1200/1200

 筋力:C

 知恵:A

 旋律:C

 魔力:A+

 幸運:E-


 特殊スキル

【高速演算:A】

【並列思考:A】

【大賢者:--】

【魔力自動回復:A】


 種族スキル

【死霊使い:A】

【死霊製造:A】

【死の覇道:A】

【状態異常耐性:A】

【毒無効:--】

【肉体再生:A】


 通常スキル

【闇魔法:A】

【火魔法:A】

【雷魔法:A】

【風魔法:A】

【水魔法:A】

【土魔法:A】

【木魔法:A】

【空間魔法:A】

【魔力増強:A】

【速読:S】

【製作:A】

【薬学:A】

【錬金術:A】

【杖術:D】


 装備

【頭】叡知の冠【価値:A】

【体】布の服【価値:D】

【右手】七宝玉の杖【価値:A】

【左手】無し

【アクセサリー】業魔の指輪【価値:A】

【アクセサリー】天魔の指輪【価値:A】


 補足:自称、かつて暗黒神を封じた英雄の一人(笑)。元は魔法を極めた賢者だが、今や死を司るリッチと成り果てた。見た目美少女だが、中身は結構面倒なため、寄り付く男がいなかった。


 

 なんか安心する。

 …………多分だけど、これが普通に強い人のステータスなんだろうなぁ。

 レベルが80の、魔力がA+って相当に強いんだと思う。

 だけど、ザッドハークやゴアのステータスを見た後だと、インパクトが薄くて普通に見える。

 だって向こうは全部文字表記だったし…………。

 てか補足酷いな。ほぼディスってるじゃん。


 まぁ、取り敢えず、鑑定に異常はなかったようだ。

 逆に異常があった方が安心したんだけど………。


 そうだ。

 ついでだし、あそこのスケルトンも見てみるか。


『鑑定』


【鑑定結果】


 

 名前:スケルトン134号

 種族:スケルトン

 称号:『使い魔』

 職業:勇者の下僕

 加護:勇者の加護

 状態:酔い

 Lv:5

 HP:120/120

 MP:20/20

 筋力:E-

 知恵:E

 旋律:E-

 魔力:E-

 幸運:E-


 特殊スキル

【勇者の加護:E】

【下着愛:A】


 種族スキル

【状態異常耐性:E】

【毒無効:--】

【骨再生:E】


 通常スキル

【逃走:A】

【隠密:A】

【盗み:A】

【奪取:A】


 

 よし、待て。

 ツッコミたいことがいっぱいある。

 まず、名前がスケルトン134号って何だ?

 いいのかそれで?番号だぞ?

 それに最初のスケルトン達はアルファベット順につけたんだけど?そこんとこどうなの?

 それに下僕?

 いや、勇者が下僕っていいのか?魔王なら分かるけど、勇者が下僕引き連れていいのかよ?


 そして、一番気になるのが勇者の加護って何?

 加護?何それ?与えた覚えもないんだけど?

 私は何も知らんぞ?そもそも与えてない。

 与えかたすら知らん。

 何故に私が与えたかのような事になって、こんな何が起こるか分からない爆弾のようなものを背負わなきゃならんのだよ?意味不明だわ。


 後、こいつ生前は下着泥棒だろ?

 生き様がスキルに表れてるぞ?

 しかも、無駄にランク高い。

 こんな下僕をどう使えと?


 なんか軽い気持ちで見たのに、とんでもないものを見た気がする…………。

 しかも、まだ同じようなスケルトンが179体もいるし…………。

 一応は見た方がいいのかな………?

 いや、止めよう。見ないでおこう。

 多分、見たら色々後悔しそうだから。


 なんかドッと疲れた…………。


 そう思いながら果実ジュースを飲んでいると、ザッドハークが無駄にデカイジョッキを片手にやって来た。


「うわぁい。気が休まらないなぁ」


「顔を合わせて早々無礼な奴よ」


 ザッドハークが怪訝な表情で私を見ながら、ドカリと正面に座った。


 あっちで騒いでいたのに何しに来たんだろうと思っていると、そのままジョッキを掲げてきた。


 あぁ、成る程。

 わざわざ乾杯に来たわけね。

 がさつなのか律儀なのか分からない奴ね。


 そんなザッドハークを何となく微笑ましく思い、クスリと笑う。


 それから私も同じようにジョッキを掲げ、どちらともなくジョッキを互いにぶつけて乾杯をする。

 そのまま中身をゴクゴクと一息に飲み干し、空いたジョッキを置いて『プハァ』と息を吐いた。


「ゲッハラァァァァ!フム。カオリよ、中々の飲みっぷりであるな」


「そちらも相変わらず凄いゲップね。魔獣の鳴き声かと思ったわ」


「クハハ!そう誉めるな。それより良いものを持ってきたぞ」


「誉めてないし、魔獣の鳴き声を誉め言葉と判断する感性が凄いわね?一度頭を割って中身を見てみたいわ。で、何を持ってきたの?」


 ブレないその感性に呆れつつ、何を持ってきたのか聞くと、ザッドハークは懐をゴソゴソとあさりだした。


「今、何か恐ろしい事をサラッと申さなかったか?まぁ、良いか。それで…………これだ」


 そう言って、ザッドハークは懐から皿に盛られた青い木の実を差し出してきた。


 どこかで見たことある、青い木の実を………。


「トゥルの実だ。口寂しそうにしていたからな。つまみに喰うが良い」


「ねぇ?別に食べたいとも言ってないし、好物でもないんだけど?寧ろ、苦手を通り越してトラウマの域にさえ入っているんだけど?あと、これ懐から出したよね?鎧の胸の隙間から出したよね?」


「礼は要らぬぞ?仲間として当然のことであるからな。それでだな、話は変わるが先程ゴアが我のもとに来てな。カオリの事を心配しておったぞ?」


「ねぇ?やっぱ頭割ってみていい?話が全く噛み合わない上に、本当に変わり過ぎだから。最早、急転直下だから」


 話が噛み合わず、無理矢理どころじゃない話の変更の仕方をするザッドハークに嘆息する。


 だが、まぁ………こんなのも今更か。


「ハァ………まぁ、いいわ。開けても分からなそうだし、脳ミソ以外の違うものを発掘しそうだし。それで、ゴアが心配?なんで?」


 全く話が噛み合わない事を諦める。

 だってザッドハークだしね………。

 取り敢えず、差し出されたトゥルの盛った皿を押し返しながら質問する。


 しかし、ゴアとはついさっき話したばかりだ。

 いや、正確には言葉は分からないが、当たり障りの無い言葉で、無難なやり取りをしたばかりだ。

 特に問題は無かったと思うけど、やっぱりどこかで心配をかけるような言葉の行き違いでもあったのだろうか?


 ザッドハークは私が押し返した皿を、こちらに再び押し出しながら答えた。


「ウム。詳しく知らぬが、ゴアが言うには『多分、カオリさんに言葉が通じていないので妙なやり取りとなったけど、もし通じて答えていたならば、カオリさんはかなり鬼畜な人間になってしまいますね』と…………」


「私、何を言われ、何を言ったんだ?」


 当たり障りの無い会話をしたつもりだが、どこでどう間違えたのか鬼畜認定される寸前だったらしい。


 幸い、ゴアは言葉が通じていない事を理解してくれていたようだが、危ないところだった。

 鬼畜な勇者なんて、意味不明な矛盾した存在になるところだったわ。

 これからは下手な相づちなどせず、ザッドハークに頼んでしっかりと翻訳をしてもらおう。


 じゃなきゃ、知らない所で変な異名で呼ばれる恐れがある。


 そう心に固く誓い、ゴアの人の良さに感謝する。


 ゴア、人じゃなく暗黒神だが。


「後でゴアに事情説明と、適当に返事をしたお詫びをしよう………」


 スッとトゥルの皿を押し返す。


「フム。まぁ、ゴアは気にしておらぬようだし、そんな事にいちいち腹を立てる程子供でもない。気に病む必要もあるまい」


 スッとトゥルの皿を押し出してくる。


「まぁ、そうかもしれないけど、私の気が済まないしね…………」


 スッとトゥルの皿を押し返す。


「左様か。なれば好きにするが良い」


 スッとトゥルの皿を押し出してくる。


「うん、そうするわ。ところで、なんか一気に大所帯になったねぇ…………」


 未だ騒ぐスケルトン達を見ながら、スッとトゥルの皿を押し返す。


「ウム。大分戦力が上がったものだ。特にゴアが加入したのは大きい。後衛たる魔法使いがおるだけで戦いが楽になる上に、戦略の幅が広がるというもの」


 ザッドハークは頷きながらそう言うと、スッとトゥルの皿を押し出してくる。


「まぁ、後衛いるいない以前に、既にオーバーキルばかりだったけど………。この上、目ビームのゴアが加入かぁ………。マジで世界が狙えそうだ」


 比喩でなく、本当に物理的意味で世界がとれそうなメンバーだなと思いつつ、トゥルの皿を押し返す。


「クハハハハ。世界とは、それは良いな。魔王を倒したあかつきには、それも照準に入れてもよいかもな」


 ザッドハークは笑いながらトゥルをつまんで私に差し出し、冗談なのか本気なのか分からない事を言ってくる。


「なんか本気に聞こえるんだけど?」


 嘆息しながらザッドハークに差し出された手を両手で掴む。


「冗談だ、本気にするでない。まぁ、それ以前に、魔王打倒の人手が足りないがな…………」


 フッとそんな事を漏らしながら、トゥルを持つ手に力を込めてくる。


「そっちこそ本気にならないでよ。マジでやりそうだし。というか人手か…………。ぶっちゃけ戦力は充実し過ぎていると思うけど、確かに勇士候補はまだいる筈だもんね。今は二人だから、最低でも後四人は加入するのか…………。次こそ、普通の仲間が欲しいなぁ………」


 ハァとため息を吐きながら、掴んだザッドハークの手に更なる力を込める。


「フム。勇猛な仲間が欲しいものだ。特に、先程のキールなどは良いと思う。恩着せがまぬ立ち振舞いといい、子供を守らんとする固い志といい、中々に骨のある男だ。金などに目が眩まぬ気高さも好感がもて………る」


 ザッドハークは立ち上がってギリギリと腕に力を込めながら、先程颯爽と立ち去ったキールさんを誉める。


 確かにあの人は良かった。

 ちょっとゴアとザッドハークを連れ、店員に宴会の前払いをしに言ってる間に、いつの間にか二階に来てジャンクさんと話をしている所に偶々遭遇したのだ。見た目も格好良く、何となく気品を感じる人だった。

 何よりも、ジャンクさんから聞いてはいたが、話をしてみると、想像するよりもずっと気高い人物だった。


「それに関しては……同感。あれでいて……実力がまだ足りないと………嘆く姿勢も………いいよね。ザッドハークが……差し出した金貨を……床に叩きつけたのには………しびれたわ………クソッ!」


 ギリギリと僅かに押されながらも、何とか抵抗しつつ先のキールさんの勇姿を思いだす。


 あのザッドハークにすら怯まず、金貨を叩き落とす。誰にもできることではない。それこそ、強い意思と勇気がなければ。


「ウム。あれには我も驚いたわ。同時に、自分が恥ずかしくなったわ。人間、誰でも金をやれば喜ぶものと思っていたが、あれ程の気高き人物がおるとは…………なっ!」


 ザッドハークはトゥルを持つ手に力を込め、私の口元目掛けて押し込んでくる。

 同時に、もう片方の手で私の頬を押さえ、無理矢理口を開かせようとしてくる。


「でひゅね………。どこじょのだれきゃとは、じぇんじぇんちがうわにぇ…………」


 チラリと近くに転がるものを見ながら、何とか口を閉じてザッドハークの手を遠ざけようと試みる。


 その近くに転がるどこぞの誰か…………ジャンクさんは、口から泡を吹いて完全にのびていた。


 余程、私の新・脛殺し技『ヘビーインパクト』が効いているようだ。全く意識が戻る気配がない。


 まぁ、自業自得だが。


「ウム。全くジャンクめが…………何やら童に対するやましい事を考えてようであるからな。度しがたい変態よ。少しは反省………せよっ!」


 ザッドハークが目を光らせながら、押し込む手にグググっと更なる力を込めてくる。


「でひゅねぇ………もっちょ…………はんしぇいしてもらわにゃいと…………」


 目前まで迫る指につままれたトゥルを見ながら、必死に抵抗して押さえる自分の手を僅かにずらし、ザッドハークの小指を両手でギュっと握る。


「ウム。そやつには…………もっと反省を………して………もらわねば…………なぁぁぁ!」


 好機と見たザッドハークが力を込め、一気呵成にトゥルを口元に押し込もうとする。


 だが、その瞬間…………。

 ザッドハークが力を込めようとした僅かな溜めの瞬間を狙い、握った小指を全力で上方向にひねり上げた。


「しょうでしゅ……………………ねっ!シャオラァァァァァァァァァァァァ!!!」


 ボギィ。


「グオオオオオオオオオオオオオオ?!」


 全力でひねったザッドハークの指は、曲がってはいけない方向にグギリと曲がる。

 同時に、ザッドハークの悲痛な叫びが辺りに木霊した。


 私は席から立ち上がり、両手を上げて歓喜の声を上げた。


「シャアアアア!!勝ったぁぁぁぁ!!てか、無理矢理トゥルを喰わせようとすんなぁぁぁ?!この馬鹿野郎がぁぁぁぁ!!」


 さっきから大人しくしていれば、無茶苦茶力任せ喰わせようとしやがって!?

 どんだけ喰わせたいんだよ?!

 絶対喰わんからなぁ?!そんな摩訶不思議な植物、もう二度と喰わないからなぁ!!

 まして、あんたの懐に入っていたやつなんて、絶対に口にしないからなぁぁぁ!!


 両手を掲げて勝鬨を上げる傍らで、ザッドハークがゴキリと指を無理矢理元に戻した。


「グゥム………。躊躇なく一番脆い小指を破壊しにかかるとは………成長したものだなカオリよ。だが、何が気に入らなかったのだ?汝の好物であろう?」


「好物じゃねぇよ?!散々言ってるだろうがい?!耳詰まってんの?腐ってんの?そもそも無いの?一度食べたけど、そんな腹の中でコーラスするような木の実は二度とごめんよ!!」


 あの初めてトゥルを食べた日を思い出し、腹をさする。もう、完全消化されるまで胃の中で合唱されるなんてごめんよ!!声でメッチャ胃が揺れるんだよ!


 そう言うと、ザッドハークはトゥルと私を見比べながら嘆息した。


「フム。そう面と向かって申されれば仕方ないあるまい。しかし、せっかく持ってきたのだがな……。ウムム……カオリよ。ここは、好き嫌いを無くす為にも一つ食べてみぬか?我の真心が込もっておる分、簡単に喰えるやもしれぬぞ?」


 そう言って、ザッドハークは再びトゥルの実を差し出してきた。


 本当に話し通じねぇ。


「喰わねぇよ?!好き嫌いとかじゃなく、胃の中で歌われるのが嫌なの?!それに込められてるのは真心じゃなくて温もりでしょうが!!」


「なれば、尚良いではないか?温もりとは、すなわち優しさ。我が優しさを喰らうと良い」


「違うから!あんたの温もりは優しさとかじゃないから!もっと物理的なものだから!物理的に懐で温められたものだから?誰がそんな胸板で人肌に温もったものを喰うかよ!?」


「我ならば、ニーナの胸で温もったものならば奪ってでも喰らうが?」


「ジャンル違えよ、変態がぁぁ!?美女とオッサンの胸じゃ、価値も温度も清潔さも段違いだよ!!なんで好き好んでオッサンの胸で温もったコーラスする実を喰わにゃならんのよ!!」


「オッサンだと?!言うに事欠いてオッサンだと?!誰がオッサンだ!!我はまだ、オッサンという程の年ではないわぁ!?」


 珍しくザッドハークが声を荒げて反論する。

 どうやらオッサン呼ばわりが琴線に触れたようで、眼窩の青白い炎をギラギラと灯らせて私を睨んでくる。


 だが、私は退かない。

 ここで退いては、女が廃るってもんよぉ!!

 ※順調に指輪の呪いが進んでる模様。


「うっせい!!鏡見てから喋れや!!若い、年寄り以前に骸骨だぞ?年齢以前の問題だろうがい?!オッサン呼ばわりでもまだ譲歩してんだぞ?!若く見られたいなら科捜研に行って、その顔面に粘土で肉付けしてもらってこいやぁぁぁぁ!!」


「カオリィィィィィ!?親しき仲にも礼儀ありだぞぉぉ!!言ってよい事と悪い事があるぞぉぉ!?最早許しておけぬぅ!!行けぃトゥルよ!!カオリの口内と胃袋を蹂躙せよぉぉぉぉぉ!!」


「はっ?何言って…………」


『『『『マカセロ』』』』


 ザッドハークが怒声を上げ、私を指差しなら指事を出すと、皿の上の………いや、店内にある全てのトゥルの実が勢いよく跳ね上がり、私の口内目掛けてとんできた。


「へっ?きゃ、キャァァァ……モゴガゴガァァ?!」


 唐突過ぎる事態に私は固まり、なす術なくトゥルの口内への侵入を許してしまう。

 一つ入ると次々と口の中へと入っていき、喉を通ってお腹の中へと更に入っていく。


 モゴモゴと口を閉じようとするも、ただただトゥルを噛み砕くだけであった。


「モガモガァ…………」


『『『オイシクタベロ。オイシクタベロ。サモナキャオマエヲタベチャウゾ!!』』』


 噛み砕かれたトゥルや、胃の中に飲み込んだトゥルが一斉にコーラスをする。


 いや、何その歌?!状況的にも凄い怖いんですけど?!


 トゥルに口内を蹂躙され必死にもがいていると、ザッドハークがそんな私の様子を指差しながら高笑いしていた。


 プチン。


「クハハハハ!!思い知ったかカオリよ!!トゥルは我が止めぬ限り、喉に詰まらぬ程度に次々と飛び込むぞ!!これに懲りたならば、二度と我をオッサン呼ばわり………」


モゴモゴモゲス(ギアマックス)!|モゴモゴモガァァァゴスゥ《ゴッドインパクト》!!」


「オホゴァァァァァァァァァァ?!」


 何とか動かせる足を使い、渾身の…………今の私の最大威力の脛殺しを発動する。

 脛殺しを受けたザッドハークは、またもや曲がってはいけない方向に関節を曲げながら吹き飛び、キールさんが破った窓から外へと落ちていった。


「モゴモゴモゴハハハ…………モゴハァ?!」


 そんな間抜けに飛んで入ったザッドハークを嘲笑ったが、止める者がいなくなったトゥルは更に勢いを増し、際限なく私の口へと飛び込んできた。


『『『イケイケゴーアヘッド!シニガミハオクビョウモノノケツニキスヲスル!オソレヲイダクナ!オソレズススメ!!ススムサキニコソヒカリカガヤクエイコウガアル!!』』』


「モゴグッ…………ハァ…………」


 やがて私は耐えきれなくなり、口や腹の中で響くトゥルの軍歌のようなものを聞きながら、意識を失った…………。


 


 

 翌日、目を覚ました私に、店から高額の代金を請求されたのは言うまでもない。


 


 


 


 


 


 


 ゴアとの会話翻訳


「あぁ、ゴアさん。楽しんでますか?」


『えぇ、楽しませてもらってます。ですが、彼女の体調が気になりまして。彼女は大丈夫ですか?』


「大丈夫です。私は楽しんでます」


『いえ、楽しんじゃ駄目ですよね?彼女の体調不良を楽しんじゃ駄目ですよね?』


「アハハハ。そうですね。」


『いや、笑っちゃ駄目ですよね!彼女、なんか放心状態なんですよ?』


「それはいいですね」


『良くないですよ!』


「はい、そうですね」


『あれですよね、話しが通じてないだけですよね?そうだと言って……』







 

 香さん…………鬼畜…………。

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