3話 六勇士
「で?他に伝え忘れていることはない?例えば、他にもスキルの秘密とか勇者の特権とか?言い忘れているなら早めに言いなさい」
「グフッ………ほ、他にスキルに関することでは………痛っう…………あ、ありませぬ…………」
「本当に?」
「誓って!!後に話すべきは旅立ちについての詳しい事や、旅の準備についてです!スキルや能力について、儂が知っていることは話ましたじゃあ!じゃ、じゃから……もう脛は……脛は蹴らんでくれぇ………というより、なんじゃこれは?蹴りが………蹴りが空間を越えてきたような気がするんじゃが?!」
玉座の前でうずくまり、必死に両手で脛を押さえながら嗚咽を上げる王様。
ちょっと可哀想に感じる光景だが、仕方ないでしょう。
だって、この王様の説明が遅かったせいで変なスキルを覚えてしまい、貴重なボーナススロットを埋めてしまったのだから。
本当なら俺TUEEEE!みたいな身体能力や、私SUGEEEE!みたいな魔法を覚えたかったんだからね!!
それが脛限定の破壊技だからね?!
寧ろ、自分が原因で発生したスキルなのだから、そのスキルの第一犠牲者になることは、この上ない光栄であろう。
てか、このスキル凄いな。
意図せずに手に入れてしまったけど、本当に遠距離の………しかも、前にいた兵士さんを越えて王様に攻撃できてしまったよ。結構使えるかも。
脛限定でなければ。
「カ、カオリ様………」
呼び掛けられてフッと振り向くと、そこには明らかにドン引きした顔のイケメン王子様が。
し、しまったぁぁぁ!?つい熱くなって、王子様の前でやらかしてしまったぁぁぁぁ?!ヤバいよ!王子様明らかにドン引きだよ!口元引きつってるもの!?
な、なんとか誤魔化さなければ!じゃなければ、私と王子様のラブストーリーが始まる前に破綻してしまう!
「あ、あの………こ、これは………」
「あ……いえ、おきになさらず。父上が何やらカオリ様の逆鱗に触れたのならば仕方ありませぬ。父上は昔から意図せずに人を怒らせるのが得意でしたから」
「よく一国の王様でいれますね」
息子にまでそう思われているってよっぽどだろうが!!もっとしっかりしろよオッサン!!
「うぐ………む、息子よ………少しは父を庇ってくれても………」
「それよりも父上。カオリ様に『勇者の旅路』についての説明を手早くされた方がよろしいのでは?カオリ様も召喚されたばかりでお疲れでしょうし、必要なことは話してしまわれた方がよろしいかと」
「おぅ…………うむぅ…………」
息子にバッサリ切られたよ王様!?王様に対してあんまりな態度のような気もするけど、宰相さんや騎士団長が何も言わないってことは………もしかしなくても実質的実権は王子様が、握ってない?王子様の方が偉いんじゃないの?
ステータス的にも比べるのもおこがましい感じだし。
「う、うむ………な、何やら釈然とせぬが確かにそうじゃな。では、カオリ様よ。『勇者の旅路』について説明をしたいと思いますじゃ」
再び玉座に座り直し凛とした佇まいで話出した王様。
こうやって見れば、そこそこに王様っぽく見えるんだけどなぁ………。
足下でローブを着た人が脛に回復魔法をかけてなければ尚一層。
もう、色々と残念な人に見えてきたよ。
「じゃあ、お願いします。というより、さっきから『旅』って単語が聞こえてはいたんですが………もしかしなくても、私って旅立つようなんですか?」
さっきから勇者の旅路とか聞こえてはいたからね。
「うむ。話が早くて助かる。これも女神様の信託なのじゃが、勇者として召喚された者は世界を旅しながら魔王を倒すための力を磨き、同時に『六勇士』を探すことが使命となっておるのじゃ」
「力を磨く………は分かりましたが、『六勇士』ってのは何ですか?」
旅に出て力を磨くなんて面倒この上ないことをやらせられそうだというのに、更には面倒な探しものまでさせようっていうのかい?
なんか勝手に呼び出した割には注文が多いな………。
まぁ、その分保証がしっかりされているようですが。
「うむ。六勇士というのは、かつての勇者様が共に戦った六人の英雄であり、それぞれが女神様から勇者様を支えるための恩恵を授かりし選ばれし戦士のことなのだ」
「選ばれし戦士?」
「はい、勇者と共に戦うことを許された名誉ある称号であり、戦士としてはこれ以上の誉れはないとされる程の栄誉なのです!!」
うぉ!いきなり王子様が話に乱入してきたよ!!なんか興奮してるんですけど?目がメチャクチャにキラキラ光ってるよ!当社比1・5倍は光ってるよ!急にどうし……あぁ………そういえば、勇者の伝記とかが好きだって話ていたもんね。それで興奮しているのか。
王子様の興奮具合にちょっと驚いていると、王子様も私の様子で察したらしい。恥ずかしそうに咳払いをしてから話の続きを語り出した。
「し、失礼しました。えっと………その『六勇士』なのですが、かつての勇者様が旅に出る際に、女神様から『六つの使命を宿せし者を探し、共に歩みなさい。さすれば、覇王も討ちとることができよう』との神託を受けたのが始まりだとされています。当時の勇者様は女神様の信託に従い、六人の仲間を探して集め、力を合わせて遂には覇王を討ちとることができたとのことです。それ以来、人々の間では勇者と共に戦った六人の戦士を称え、六勇士と呼ぶようになったのです。そして、次なる勇者も新たな六勇士を探すようにとの女神様からの神託があったのです」
はぁ、なるほどね。確かに単身でそんな危ない敵に挑む訳はないよね。確かに仲間は必要だね。
「話は分かりました。ですけど、その女神様の神託で言っていたとされる『六つの使命を宿せし者』というのはどういう事なのですか?」
六つの使命………というからには、何らかの特別な役割や力を宿しているということなのかな?
「六つの使命とは………常に勇者様を支える上で、必要不可欠とされる役割を六つに分けたものとされています。その使命を宿す者………といっても、宿命が決まっている訳でなく、勇者様が旅をするうちに『この人物だ』と思った者に、女神様が勇士の証である『聖印』と、何らかの恩恵を下さるとのことです」
おぉう。女神様は随分とアグレッシブだね。仲間集めまで私の自由意思という訳かい?それはそれで楽で良いんだが…………。
「数は六人じゃないと駄目なんですか?もっと多く………百人とか千人とか………」
「いえ。女神様はご自身の力を分割して勇者様の加護や恩恵を与えているらしいのですが、女神様の力の限界が六人までらしく、それ以上は恩恵の力が著しく下がってしまい、効果がなくなってしまうそうです。というより………百人は多過ぎませんか?もう、軍隊だと思うんですが?」
なるほどね。力を分割するから、規定以上に分けてしまうことはできないのか。それ以上は女神様の体が保たないみたいな感じかな?
まぁ、あんまり数の高望みはしない方がいいね。あんまり数がいても混乱するし。
「理屈は分かりました。それで………その『六つの使命』とはどういったものなんですか?」
「えっ?あっ、はい。使命ですか?使命はそれぞれ『忠義』『知謀』『慈愛』『勇猛』『守護』『雑用』の六つの使命となっていて、勇者様は旅をしながら、その使命に当てはまる人物を探すことになります」
「なんか1つ、おかしいのがありませんでしたか?」
なんかおかしいのあった。忠義とか知謀とか………なんか使命として、それっぽいものが色々とある中で、1つだけ毛色が違うのがあったような気がするぞ!?
「?………そうでしょうか?」
なんか、キョトンと不思議そうな顔をする王子様。
あ、あれ?なんか反応が?わ、私の勘違いかな?もしかしたら私の早とちりかもしれないし………もうちょい詳しく聞いておこうかな?
「あの………できれば、その使命の詳しい詳細を教えてもらえますか?」
「えぇ、構いませんよ。まずは………
第一の使命が『忠義の勇士』で、『常に勇者の傍らに控え、勇者の背を守りし忠義の剣』
第二の使命が『知謀の勇士』で、『勇者の知恵となり、あらゆる難問・苦悩から勇者を守りし知謀の書』
第3の使命が『慈愛の勇士』で、『傷つきし勇者を癒し、苦しむ民や国を慈しみし慈愛の杖』
第4の使命が『勇猛の勇士』で、『先駆けとなり、勇者が進むべき道の障害を打ち払いし勇猛なる槍』
第5の使命が『守護の勇士』で、『勇者を襲いし数多の苦難や呪詛から勇者を庇いし守護の盾』
第6の使命が『雑用の勇士』で、『勇者の身の回りの掃除・洗濯・炊事を行い、常に勇者の健康と身綺麗に気を使う者。勇者達の手の届かないところに手が届く、雑用こなせし十徳ナイフ』
と、いったように、6つの使命がそれぞれにあるのです」
「やっぱ、聞き間違いじゃない」
5つ目まで普通だよ!『忠義の剣』とか、なんかそれっぽい感じがするしさ!!だけど何だよ『雑用』って!?十徳ナイフって!?メンバーの中で1人だけ浮いてるよ!完全に勇士とかじゃなくて普通の人だよ!?他が勇者を力や能力で支えている中で、1人だけ物理的に勇者を支えてるよ!!
てか、いじめじゃない?!いじめじゃないのこれ?昔の勇者様何を考えてるのよ!?これ、完全に1人に雑用を押し付けていたけじゃないの?!伝説の勇者メンバーの役割分担における、ブラックな内容を公表してるだけじゃないの?
ていうか探すの?!私、雑用に当てはまる人を探さなきゃいけないの!?
いや、『忠義』とか『知謀』だったら喜んで受ける人はいると思うけと、『雑用』を受ける人いる??雑用だよ?もう、勇気とか戦士とかと関係無い位置にいるよ?!
「はて?何かおかしな所なありましたか?」
「いや、明らかに『雑用』っておかしくないですか?」
王子様が何を言ってるんだろう?って顔をしてるよ!なに?私がおかしいの?だって雑用だよ?!魔王討伐に雑用っておかしいでしょう!?
「そうでしょうか?雑用は必要な存在かと思われます。旅をする上で、最も過酷なことは戦いよりも『慣れない環境』とされています。立ちはだかる過酷な自然や道のり、気の休まらない野宿生活。そんな荒んだ生活を少しでも改善し、整えるのが雑用の役割です。料理や洗濯………旅と戦いで疲労した勇者達を癒し、支える雑用こそが勇士の中で最も必要な存在なのです」
「普通に正論だ」
ま、まさか普通に返されるとは!いや、確かに必要だよ雑用!?話を聞けば聞くほどに!?
だけど………あぁ!妙にモヤッとする!!
「現に、覇王討伐後のとあるパーティーの席で、勇者様がある名士からの『もし、無人島に1人だけ勇士を連れてくなら誰を連れていきますか?』という質問に、勇者様は何の迷いもなく『雑用のストラトス=シュナイダー』と答えております」
「勇士はサバイバル道具感覚か!?てか雑用の人の名前格好良いね!!」
そりゃ、何もない無人島に誰か連れてくなら問答無用で雑用でしょ?!生活の知恵とかあるし!!
「えぇ。勇士ストラトス様は非常に類い稀なる雑用として名を馳せておりますから」
「類い稀なる雑用って何?!」
「炊事・洗濯どれをとってもプロ級。その上、大魔導師並みの深い知識と高い魔力を有し、剣や槍などの武器を取れば当時の剣王すらも膝を付く程の腕前だったと」
「他の六勇士いらなくない?」
何その超人?!1人で何役こなせるのよ?!他の勇士いらないじゃん!?なんで、その上で雑用に収まってるのよストラトス!?
「そう不安そうな顔をせずとも、安心して下さいカオリ様。きっと、貴女の前にもストラトス様のような立派な雑用と出会えます」
困惑してる私の顔を不安になっていると捉えたのか、王子様がニッコリと笑いながらそう言ってきた。
いや………笑顔と言葉は有難いですが………雑用と出会えるって………何だか凄く釈然としない………。
「むっ?カオリ様どうかされましたか?」
ちょっと付いていけなくて頭を抱えると、王子様が近付いてきて顔を覗きこんできた。
やだ。イケメンが間近に。キュンときちゃいます。
「どうやら疲れが出たようですね?顔色が若干赤いようですし、息づかいが荒いです」
あっ、すいません。それ、具合が悪い訳じゃなく、別の意味でそうなっています。
寧ろ、具合が好調なサインです。
「フム………父上。今日のところは話はこれぐらいに致しましょう。カオリ様も召喚といきなりの話に疲れが溜まってしまっているようです。まだ、話すべきことはありますが、一度カオリ様には休んでもらい、明朝に話の続きと例の者達の紹介としましょう」
「うむ。そうである………」
「それでは兵士長。カオリ様を丁重に貴賓室にお連れしなさい。それと、メイド長に食事と湯浴みができるように手配もしておくよう伝えなさい」
「畏まりました。へ………王太子様」
おぉう。話が着々と進むね。王子様が私を気使ってくれて休めるようだ。
確かに色々と有り過ぎて少し疲れたものね。正直、助かります。
というか、やっぱり王子様が実権握ってるんじゃないの?王様の意見を切っちゃってたし?
王様がなんか淋しそうな顔をしてますが?唇を尖らせてますが?気色悪い。
それに兵士長さんや。今、確実に王子様に『陛下』って言おうとしてたよね?確実に王子様が実権握ってるよね。
「それではカオリ様。本日は色々と有ってお疲れでしょう。貴賓室をご用意致しましたので、そちらでお休み下さいませ。部屋で食事や湯浴みができるようにしますので、疲れを癒してくださいませ」
「あっ?はい」
「まだ、お話したいことがありますが、一度に話しても混乱するでしょう。ここは一度間を挟み、明日に続きを話したいと思います」
と、王子様は柔らかな笑みでそう言ってきた。
「じゃ、じゃあ、それでお願いします」
特に断る理由もなく、そのまま王子様の意見を快諾することとした。ぶっちゃけ、本当に頭を整理したい時間も欲しかったからね。
という事になり、そのまま兵士長さんの案内に従って部屋へと通され、私の異世界初日の日は暮れていった。
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