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38話 二人目『知謀の書』

『具まJ5さaX1何T54ら?』


「クハハハハ。懐かしいわ。貴様と合うは、一体どれ程ぶりか………このような所におったとわ」


『以Z7かpT01は前6ちg』


「そうであったな。成る程、どうりで見覚えがあると思うたわ。だが、未だここにおったとは夢にも思っていなかったわ」


『ぎBB09時CCCえXと羅』


「フム。そうであったか。案ずるな。既に、あの時よりも随分と収まったものよ。外に出ても問題あるまい」


『人KU81たDpw5襲aなR52?』


「それも心配あるまいて。時は随分と流れた故にな。時代は移ろい変わるもの…………」


「しみじみしてる所ごめんなさい。ちょっとザッドハーク、こっち来て」


 私はザッドハークの手を取り、ズリズリと引きずっていく。

 そして、暗黒神から少し離れた位置に行くと、ザッドハークを屈ませ、耳を貸すように指示した。


「如何した?」


「こっちが如何したなんだけど?えっ、何?知り合いなの?片方は何言ってるか分からないけど、完全に久し振りにあった知人への対応だよね?何、どんな関係?てか、よく分かるわね、あの謎言語」


 暫らく黙って聞いていたが、完全に会話内容が知人に対するそれだった。

 もしあれで知人じゃないと言うならば、ザッドハークの初対面に対するコミュ力は半端ないと思う。


 眼球相手に世間話など、正気の沙汰じゃない。


 ジロリとジト目で睨んで返答を待っていると、ザッドハークは呆れたような顔をしながら腕組みをした。


「何だ、そのようなことか…………」


「そのようなことじゃない。大分問題だから。いや、返答によっては問題どころじゃなくなるから。それで?答えは」


「あやつとの関係か?あやつとの関係は………」


「関係は?」


「戦友だ」


「アウトー」


 私は天に向かって吠えた。


 アウトだ。

 絶対アウトだ。

 シグナルレッドの第一種戦闘配備だよ!!


 まだ、知人程度がマシな解答だよ?!

 なんだよ戦友って?!

 ザッドハークの戦友って時点でマジでやべぇじゃないの?!

 だってザッドハークの戦友だよ?戦う友だよ?

 まともな訳ないじゃないの?!

 既にビームを放つ触発付き巨大眼球の時点でヤバいのに、あのザッドハークの戦友…………。


 絶対まともな事にならない!

 ヤバいどうしよう?!


 頭を抱えて悩んでいると、誰かが私の肩を叩いてきた。


 んっ?誰?こっちは今、今後のことで悩んでいるんだけど…………。


 と思いながら振り返ったら。


 


 


 

 暗黒神がいた。


 


 


 


 黒い目玉付きの触手を私の肩に当て、ジロリと巨大な眼球で私を見ていた。


「……………………」


『だJY5丈Hb6あT05はい?』


 暗黒神が何かを語りかけてきたが、全く何を言っているか分からない。

 というか、唐突な事態に頭がフリーズし、体が硬直してしまっている。


 いや、これ…………もしかして私、死んだ?

 暗黒神に目を付けられた?


 暗黒神の巨大な目を睨まれ、まさに蛇を前にした蛙状態に硬直し、死を予感している中、ザッドハークが顎に手を当てながら『フム………』と呟き、ゴアとは逆の私の肩にポンッと手を置いた。


「カオリよ。ゴアは『なんだか調子が悪そうですが、大丈夫ですか?』と、心配そうに申しておるぞ?」


「えっ?!何?!今これ、私心配されてたの?!」


 まさかのザッドハークからの通訳に驚愕する。


 えっ?この暗黒神、そんな親切なこと言ってたの?

 いや、てか暗黒神でしょ??

 暗黒の神でしょ?

 暗黒神がそんな心配とかする訳?

 いやいやないでしょ?!

 そんな暗黒神が…………。


 スッと目の前に触手が伸びてきた。

 その触手の先には折り畳まれた紙と、コップに入った水があった。


『M5薬j25なG93Xtte5か良』


「フム。『疲労や頭痛に良く効く粉薬です。よければ飲んでください。粉が苦手なら、錠剤もありますがどうしますか?ただ、錠剤は効きが遅いので、直ぐには体調の回復は見込めません。どうします?あなたの無理にならない方を選んで下さい』と申しておるな」


「長いよ?!今の一文でどんだけの意味があったの?!そして滅茶苦茶親切だよ?!暗黒神親切だよ!!」


 まさかの暗黒神からの親切対応に驚愕しつつ、ありがたく薬を頂く。

 薬は何かの果実の味で、甘く飲みやすかった。

 細かいところまで親切だ。


 わぁ、こんな甘いの久し振りだわ。

 暗黒神に感謝ね…………。


「…………いや、そうじゃなくて?!ほら………あれ!あれだよ?!何なのよ?二人?二体?二匹?もう、数える単位が不明だわ!!とにかく、二人は戦友だかで、昔からの知り合いってこと?!」


 薬のおかげか我を取り戻した私は、ザッドハークとゴアにそう大声で問い掛けた。

 ザッドハークはムンと胸を張り、ゴアを自分の横に並ばせた。


「ウム。こやつは腕の良い暗黒神………魔法使いでな。昔から色々と助けられているのだ。特に敵対する神………勢力との戦いでは、互いに背を預けあった仲だ」


「なんかちょいちょい不穏な単語が挟まってますよ??それに魔法使いとか言い直す必要ないから。もう暗黒神ってバレバレだから。取り返しつかない程にバレバレだから?!てか、腕のいい暗黒神って何?暗黒神って職業かなんかなの?そもそも神って言った?言ったよね!!敵対する神って言ったよね?!どういうことぉ?!」


 無駄な隠しだてをするザッドハークを睨みながら、責めるように問い詰める。


「ウム。まぁ、それはあれだ。置いておけ」


「雑な置き方するな?!不法投棄のゴミでも、もっと綺麗に置くよ?」


「して、暫くは共に戦っていたのだが、ある時に互いの意見の相違から別れてな。一度だけ連絡がきて住んでる場所を教えられたが、それ以来音信不通であったのだ。どうやらここがその住んでいた場所のようだが………どうりで見た事があるはずだ。添付された映像に写っておったしな」


「この露骨な無視の仕方も凄いよね。ある意味尊敬に値するよ…………。あと、なんか別れた理由が音楽性の違いで解散したバンドみたいなんだけど?それに添付って何?メールかラインでもしてんの?」


 妙に俗っぽい解散理由を聞きながら、色々と諦めて脱力する。

 暗黒神がどうとかと神がどうとか言っているし、この際だから色々とザッドハークを問い詰めようとしたが無理だ。

 ザッドハークは会話はできるけど、意思の疎通が不可能な化け物だ。

 こっちが問い詰めても堂々とスルーされる。

 ホント、ここまで華麗にできるかと言う程の無視っぷりだ。

 見習いたいわ。


 もう、あれだ。

 下手に問い詰めるのは止めて、自分からボロを出すのを待とう。

 こいつ相当に口軽いから、いずれ自分から話出すだろう。


 そんな誓いを胸に抱いていると、背後からハンナが叫んできた。


『な、何を暗黒神と戯れているのですか?!そ、その暗黒神ゴアは世界を闇で覆わんとした悪しき神!!敵対することはあっても、馴れ合うことなど言語道断ですよ!!』


 ハンナは震える手で杖を構え、キッとこちらを睨んでいる。

 今にも攻撃してきそうだ。


 えっと…………うーん。

 なんかあれだね。

 ハンナの言い分も分かるけど、こんなに親切にされると暗黒神とは思えなくなるね。

 いや、見た目や威圧感。それにあのポンゴを消し飛ばしたビームなんかを見る限り、暗黒神という意見は正しいよ。

 寧ろ、暗黒神以外に言い様はない存在だよ?

 ただねぇ…………。


「ね、ねぇ、ザッドハーク。ハンナはああ言ってるけど、実際どうなの?このゴア………世界を闇で覆おうとしたの?」


 そうザッドハークに聞いたが、横からゴアが触手を上げながら喋りだした。

 どうやら、こっちの言葉は普通に分かるようだ。


『Ku闇62まaF40やbiY日』


 だが、こちらからは何言ってるか分からない。

 暗号だとしても、法則が全く理解できない。

 というか、やっぱ頭痛い。

 ガンガンするわ。


「…………なんて?」


 痛む頭を押さえながら、ザッドハークに翻訳を頼む。

 ザッドハークは良くこの言語がわかるな?

 馬鹿なの?


「ウム。ゴアが言うには『当時、日差しと紫外線が凄く強い時期があって、目や肌………特に素肌へのダメージが凄かったんです。直ぐシミなんかできて………。だから、ちょっと暗くしようとはしました』とのことだ」


「そんな乙女な理由で世界を闇に覆ったの?!」


 まさかな理由に目を剥く。

 あれだ、やっぱザッドハークの戦友だわ。

 肌と目へのダメージケアの為に世界を闇に包もうとするなんて…………。

 どこぞのモデルやセレブでも思いつかない、最強のスキンケア対策だよ…………。

 やっぱザッドハークの友達だよこれぇ………。


『そ、そんな理由で?!た、太陽が隠れ、何も見えない程の暗闇だったんだぞ!!』


 ハンナが悲壮感に溢れた表情で叫ぶ。


 いや、まぁ…………スキンケア対策などで太陽隠されちゃあ、堪ったもんざゃないよね。

 当時の人々からすれば、ふざけんなよって話だしね…………。

 というか、ちょっと暗くすればいいだけじゃなかったの?そんな何も見えない程暗くする必要はなかったんじゃ…………。


 そう思いながらゴアを見ると、ゴアは触手をグニャリと蠢かしながら、目を細めてハンナを睨んだ。


『Tへpe6おtu?』


 あ、あれ?な、なんか雰囲気変わったんだけど?

 も、もしかして私との会話は暗黒神としての本性を隠したもので、ハンナに問い詰められて本当の正体。晒し…………。


「フム。『加減を間違えてやり過ぎちゃった。てへペロッ?』だそうだ」


「てへペロッかよ?!」


 叫びながら地団駄を踏む。


 あれか?触手でペロッとしたのか?

 もしかして、目を細めたの照れ顔か?!

 分かんねぇよ?!眼球の表情分かんねぇよ!!

 しかも、ザッドハークは真顔でそれを翻訳するなよ?!

 違和感しかないわ!その骸骨顔でてへペロッとか違和感しかないわ!!


『ば、馬鹿な…………てへペロッだと………』


 ハンナがてへペロッと言いながら、項垂れ膝を付く。

 手から杖がカランと落ちた。

 その表情は茫然自失といった感じで、かなりのショックを受けていることが伺える。


 いや、あの…………まぁ、そうなるわな。

 世界の危機が加減間違いで、その反省の言葉が『てへペロッ』じゃ項垂れるわな。

 かつて暗黒神と戦った英雄達も、草葉の影で白目剥いてるだろうよ…………。


「なんかあれだね………凄くハンナが可哀想に見えてきた………」


「ムッ?何故だ?」


「いや、何故って…………。そりゃあ、命懸けで封印した暗黒神はスキンケア対策で世界を闇で覆っていて、しかも加減間違えたとか………やるせなさ過ぎでしょ?しかも、そのスキンケア目的の暗黒神を封印した後、アンデッドになってまで長年監視していたとか………。色々と悲し過ぎでしょうが?」


「ムゥ………確かに。結婚適齢期を逃したとあらば、同情せざるを得ない。だが、あの美しさと胸があれば、選り好みさえしなければ、直ぐにでも男を捕まえられるであろう」


「ねぇ。話聞いてた?」


 相変わらず話が通じない。


 誰が結婚適齢期を気にしている傷心の女の話をしているか!

 なんで会話内容が斜め下にずれんだよ!

 もっと言葉のキャッチボールをしてくれよ?!

 言葉というボールが、悉くグローブから外れてるよ!!

 顔面とかボディを狙ってるよ!?


 ザッドハークのズレっぷりに憤りを感じていると、ザッドハークがフッと呟いた。


「フム。そう言えば、封印がどうとかと言っておるが、そもそもゴアは封印されておらぬぞ?こやつがこの程度で封印される訳があるまい」


「はっ?」


『はっ?』


 ザッドハークの言葉に、私とハンナが疑問の声を上げる。


 えっ?封印されていない?えっ?意味が分からないんだけど?

 だって、実際に封印されていたじゃん………。


 その意見はハンナも同じらしく、封印に携わった張本人として激しくザッドハークへと反論した。


『な、何を意味不明な事を!!じゃ、暗黒神の思惑はアレでしたが、その暗黒神を我々が封印したことには変わりありません!!実際にここに封印され、身動きがとれてなかったではありませんか!!』


 ハンナが息を切らせながらそう叫ぶと、ゴアがザッドハークの耳元で何かゴニョゴニョと語りかけた。


「フムフム………ゴア曰く『えっ?これ……封印だったんですか?てっきり暗闇を維持する私の魔力の節約の為に、人間さん達が掘ってくれた紫外線防止を兼ねた寝床だと思ってたんですが?実際、紫外線が届かないし、寝心地が凄く良く、今の今までグッスリと眠っていました………』とのことだが?」


『ね、ね、ね、ね、寝床???』


 あー…………これまで自信を持って守っていた封印を寝床扱いとは…………。

 酷い。

 これは酷い。

 ハンナ、白目を剥いてるじゃん?

 半ば意識失いかけてるじゃん?

 これ、ショックで倒れてもおかしくないよ?


『だ、だ、だ、だけど………ふ、封印が解けて復活した、した、したの………では?』


 壊れたラジカセのような口調となったハンナが、質問をした。


 その話に対し、再びゴアがザッドハークに耳打ちする。


「フムフム。ゴア曰く『寝てたら上から知り合いの気配……つまりは我だな………の気配がしたから、起きてきました。封印って………そんなのありましたっけ?』だそうだ』


『し、し、し、知り合いが来たから?ありましたっけ??』


 あー…………もしかして、天使像を壊したから復活したんじゃなく、そこにぶつかったザッドハークの気配を感じて起き上がったと………。


 てことは、天使像はあってもなくても良かったってこと?

 悲しいわー。

 それ、悲しいわー。

 そう言えば、ザッドハークが暗黒神に住んでる場所を教えられたって言ってたけど…………?

 まさか、ここ家扱いされてたの?

 封印の地が家にされてたの?

 ゴア的には『ふあぁ。お友達が家に来たわ。起きなきゃね』みたいな感じだったってこと?


 酷い。

 これは酷い。

 ハンナ、泡吹きはじめたじゃん?

 ほぼ、意識持ってかれてんじゃん?

 これ、ショックで成仏してもおかしくないんだけど?


『そ、そんな………これまでの我々の戦いは一体………?』


 そう呟くと、ハンナは意識を失いパタリと倒れてしまった。


 あっ。ついに倒れた。

 いや、まぁ、仕方がないよね…………。

 自分のこれまでの行いが否定されたようなものだし………。


『K5なq介!m7なs助jじ?』


「『た、大変!彼女を介抱しなければ!』と言っておるが?」


「いや、逆に止め刺しかねないんで、止めた方がいいですよ?」


 介抱という名の介錯をしようとする邪神を止める。


 意識を取り戻した時に暗黒神に介抱されたと知れば、発狂しかねない。

 かつての敵に情けをかけられる屈辱もそうだが、起きて早々に触手と巨大な眼球が目の前にいたらトラウマになりかけない。


 悪意のない悪行を働こうとする暗黒神を止め、私はハンナを抱き起こして膝枕をする。

 鎧で硬いだろうが、地面に倒れたままよりかはマシだろう。


「ホウ………カオリの膝枕とは。何とも羨ましくない」


「おい、殺すぞ?」


『さaq4何cX801らa倒j?』


「フム。『その方は何故倒れたのですか?』と言っておるぞ?」


 触手を蠢かしながら、ギョロギョロとハンナを覗き込むゴア。

 実際は心配してるんだろうが、事前に何を言っているか知らなければ、悪魔が獲物を狙っているようにしか見えないな。


「いや、あの…………彼女達からすれば、激しい戦いの末、これまで封印していたと思っていたあなたが、自分達を全く意識しておらず、封印されている自覚すらない事実に耐えきれなかったらしく……」


 ハンナの事情と倒れた理由を介つまんで説明すると、ゴアは一際大きく目を見開いた。


 うわぁ!めっちゃ怖い?!


『Nあ76やangG5戦ま?』


「『えっ?そ、そうだったんですか?!戦いとか封印とかそんな事が…………。あ、あの何かすみません。気が付かなくて…………』と申しているが?」


「その、気づかい足りなくてすみませんとか言われても困ると思いますよ?気づかいで封印されたら、それはそれで屈辱ですし…………」


 寧ろ、気を使って封印される暗黒神って何よって感じだよね。

 それ、気づかいできる時点で暗黒神じゃないしね。ちょっと怖いだけの何か別のものだよ。


 膝の上のハンナに同情しながら頭を撫でているてと、ザッドハークが腕組みしながら唸った。


「フム。まぁ、仕方あるまい。こやつは戦友とは言え昔から天然でな。戦いの気配や雰囲気には鈍感なのだ。我が教えなければ、敵を敵とも思わぬからな。ある意味、穏健派というやつに当てはまるな。

 まぁ、いざ戦いとなれば、敵を魔眼砲で影も残さず蒸発させる頼れる存在だがな」


「ねぇ。辞書で『穏健』って意味調べてきたら」


 穏健の『お』の字も知らぬザッドハークの頭の悪さを遠回しに指摘していると、ある疑問が湧いた。


「ねぇ。今の話が本当なら、何でポンゴを攻撃したの?敵を敵と気付かないような性格なのに、攻撃を仕掛けるなんておかしいじゃない?」


 自称天然な穏健派というならば、故ポンゴを攻撃するというのは余りにもおかしい。

 なんだかんだでザッドハークの戦友なんだし、本当はとんでもない武闘派なのでは?


『かsA2し味wL6た気』


「フムフム………『目覚めて早々、いきなりカサカサと気味の悪いものが迫ってきたので、つい消してしまいました』と申しておる」


「ゴキブリ扱い?」


 まさかのポンゴ、ゴキブリ扱い。

 あれか、本人的には寝起きにいきなりゴキブリが迫ってきたから、スプレーをかけて撃退したようなものか?

 た、確かにあの時のポンゴはビジュアル的にヤバかった。

 蜘蛛の足でカサカサと高速移動など、迫られてる方からすれば恐怖以外のなにものではない。

 あぁ、うん。私でも攻撃するわ。


「いや、あの…………了解しました。疑ってすみません。多分、私でも同じ事をしますね。はい」


 そう言うと、ゴアは触手の一つを私に向けて差し出してきた。


 えっ?な、何これ?


『pm6らeU0解dS0』


「『理解して貰えて嬉しいです。ありがとう』とのことだ。後、握手を求めておる」


「握手求められてたの?!」


 ま、まさか握手を求められるとは…………。

 いや、これ握手というか触手でしょ?

 これ握るの?

 なんかテラテラとヌルついているし、触りたくないんだけど…………。


 チラッとゴアを見れば、なんか期待したような目で私を見ていた。


 う、うぅ………ここで断るのも変だし、こんな目で見られたら…………。


 ええい!!ままよ!!


 そう意気込んだ私は、勢いのままにゴアの触手を握った。


 握った触手はグニャリとタコのような感触で、凄く生暖かかった。しかも、表面は紫色の謎の粘液まみれでヌルついているくせに、なんかザラザラした。


 一言で言うなら気持ち悪い。


 これ、絶対スキンケアとか考えなくていいスキンしてるよね?


 ついでに、勢い良く握った瞬間、粘液が滴り落ちて下にいるハンナの顔面にかかってしまった。


 顔が粘液まみれとなり、酷い状態になってる。

 具体的にはエロとグロが混じった状態だ。

 …………後で拭いて、謝ろう。


 私が頬を引くつかせながらそんな粘液濡れの触手の感触を味わっていると、ゴアは私の手に更に触手を絡ませてきた。


『K5ろw3あや名jh0何?』


「え、えぇ…………な、何?」


「フム。『そういえば、お互いに自己紹介がまだでしたね。私はゴア=マユラ。ゴアまたはマ〇ユとお呼びください』と言っておる」


「ゴアで」


 マ〇ユは無いだろ。

 ビジュアル的にも、某会いに行けるアイドル的な理由でもアウトだろ。

 ファンに八つ裂きにされるわ。


『なtd5R18ら氏かqd?』


「『あなたのお名前は?』と聞いておるが?」


「えっと…………愛原香と言います」


 そう名乗ると、ゴアはニチャリと目を細めた。


『kA愛5はth03ば4良』


「『とても可愛らしく、貴女にお似合いな名前ですね』と笑っておる」


「あぁ………この目を細めるのって笑ってるんだ」


 さっきから目を細める時はあったが、どうやらそれが笑顔らしい。


 こんな凶悪な笑顔は見たことないよ。

 私があと七歳若ければ、号泣必須だったよ。

 お漏らしもしてたかも。


 ゴアの凶悪な笑顔にドン引いていると、ゴアは握手していた触手を離し、ザッドハークへと向き直った。


『nP20らT2eb何?』


「ウム?いや、ここに来たのは偶々よ。汝の家というのを忘れ、遺跡探索という響きに惹かれて来たまでよ」


『ばkn8間r5さcH6抜』


「フハハハ!まぁ、そう言うでない。誰しも間違いの一つや二つあるわ」


 なんかゴアとザッドハークが世間話を始めちゃったなぁ…………。

 話の流れ的に、『今日は何の用で来たの?』みたいなことを聞かれたのかな?

 ザッドハークの方を聞いてれば、何となく何を言ってるか推測できるね。

 そんで、『本当に馬鹿ね』とか『間抜け』みたいに言われていたと…………。

 だいたいこんな感じかな?

 というか、ザッドハークの場合、間違いは一つ二つで済まないと思うんだけど?


『じVso604が女aYx5い?』


「フム?そんな訳なかろう。こやつはただの処女勇者よ」


「おい。何聞かれた?」


 何か唐突にザッドハークにディスられたんだけど?

 どういう話の流れになれば『処女勇者』なんてエロ同人みたいな単語が出るんだよ?


「ウム?いや、こやつが『そちらの可愛い方はどのような関係で?もしかしてザッドハークの彼女ですか?』と聞かれたのでな」


「そこは『いいえ、違います』で済むだろ」


 ザッドハークにちょい重めの脛殺しを放つ。

 ザッドハークは『クォォ……?!』と唸りを上げ、その場に蹲って脛を擦りだした。


 すると、そんなザッドハークにゴアは近寄り、その触手をスッと上げた。

 何をするのかと思った瞬間、ペチンとザッドハークの頭をはたいた。


『異tR6や失403さまBaY………』


「えっ?なんて?」


 未だ苦悶の声を上げるザッドハークに翻訳を頼むと、絞りだすような声で翻訳してきた。


「グゥムゥゥ………『じょ、女性のデリケートな問題をいじったり、からかうのは止めなさい!彼女が怒るのも当然です!これに懲りたら反省し、二度とそんな事を言わないように!』と注意を受けたわ…………」


「あの、この方本当に暗黒神?そこらの人間よりも良識があるんだけど?」


 なんか暗黒神としてのキャラとか何かがブレてるんだけれど?

 妙に優しいし、気づかいできるし、何よりもかなりの良識を持ち合わせている。

 もう、ただの良い人じゃない?

 見た目眼球だけど、中身ただの良い人だよね?

 ザッドハーク経由だけど、話てるみると意外にも気さくだし、普通に話せるんだよね?


 なんか段々慣れてきたかも…………。


 そう思いながらゴアを見ていると、いきなり此方の方ほにグルリと眼球を向けてきた。


 うわっ?!怖っ?!心臓に悪っ!?

 これ、やっぱまだ慣れないわ…………。


『勇sYaす40なiずLr8むぅKccぎル?』


「ザッドハーク?」


「ウ、ウム………『私の友が大変失礼しました。友人として、私からも謝罪します。ところで先程の話を蒸し返す訳ではありませんが、貴女は勇者と呼ばれていたようですが、それは一体?よろしければ、今の外の状況なども交えて、教えて頂けますか?』だそうだ。カオリよ………気のせいか、我がただの仲介になってるような………」


「あっ。気にしないで下さい。この馬鹿が悪いだけなので」


「ほぅ、この我を露骨に無視するとはな。しかも、当人を目の前にして馬鹿とは………。カオリも逞しくなったものだ…………」


 なんで染々してんだろ、コイツ。


「それで、えっと………勇者のことですか?説明すれば少し長くなりますが…………」


 そう言うと、ゴアは僅かに眼球を縦に揺らした。

 う、頷いた?構わないってことかしら?


 そう判断し、勇者や魔王についてや 、お城で聞いた今の世界の情勢。更には異世界に召喚されてから、これまでの私の経緯を介つまんで簡単に説明した。

 説明をしてる間、ゴアは全く微動だにせずに私の話を聞いていた。


 多分、他意はないんだろうけど、巨大な眼球に黙って見られながら話すのって、相当に怖いんだけど?


「………という訳で、今は勇者として魔王を倒せる力を蓄える為、日々色々な経験を積まさせてもらっている訳です」


「我が勇士の一人として支えながらな」


「不本意ながら」


 横から自己主張をしてくるザッドハークを押し退ける。

 支えると言っても、割り箸程度の支柱がどの口ほざきよるか。


「取り敢えずこんなものですかね。ここに来たのも、遺跡探索ついでに戦いなんかの経験が積めればいいかなと思ってきたわけで………」


「結果は?」


「すぅぅぅぅんごい濃い経験だった。濃厚すぎて、吐き気がするぐらい。でも、ためになったかと聞かれれば…………全くなってないね」


「ウム。本末転倒であるな」


「黙れや」


 言いながらザッドハークに脛殺しをして黙らせる。


 いや、本当に黙って欲しい。

 話が脱線しがちになるからね。

 でも、改めて思い返してみると、濃い割には身にならない体験ばかりだったなぁ………。


 ザッドハークが落とし穴に落ちたのを皮切りに、スケルトンをローション塗れにしたり、リッチを剥いてローション塗れにしたり、剣助の破壊衝動に飲まれたり、ザッドハークをしばいたり………。


 いや、本当録でもないな?

 一番積みたい筈の戦闘経験の決め手がローションって何よ?

 普通は夜の大人なお店に勤める方の決め手であって、決して勇者の決め手にしていいような武器じゃないでしょう?

 そもそもローション武器じゃねーし?!


 この遺跡であった事を思い返し、『まじで私、録でもないなぁ』等と考えながら遠い目で天井を見上げる。


 すると、そんな私の肩にゴアが触手を置いてきた。

 見れば、なんか若干ゴアの目が潤んでいる。


 えっ?ど、どしたの?な、なんか泣いてない?

 な、なんで?


『じc7nわd苦ef6ら0かゃa41uJgぬぅ、a5さo独kf2なっfq308た異n5はhu3王aaa1と2わnZ4かづ9ぇLo馬ka7のざょ32aW2けけs01001かゅumぁ311魔!』


 う、うわっ!?

 な、なんか今まで一番長く喋ってきたんだけど?

 あ、頭がメチャクチャキンキンするよ?!

 いや、何言ってんのよこれ?!

 なんか気持ち怒ってるような…………。


 ゴアの長文に戸惑っていると、横からザッドハークが足を引きずりながら現れた。


「フム………随分と長々と………。余程怒り心頭といったようだな………」


「な、なんて言ってるの?」


「ウム。少々長いので、要点をかいつまんで言えば……『異世界から女の子一人を拉致して強制的に勇者に仕立て、自分達が敵わない魔王と戦わせようなんて馬鹿なの?今の世界の人々や王は馬鹿なの?死ぬの?正気なの?』と申してるな。他にも色々と言っておるが、R-18指定な言葉故、カオリには刺激が強すぎるな」


「異世界転移の前提を根幹から揺るがす理由で怒ってくれていたぁ?!もう、この方暗黒神じゃないよね?多分、女神よりも常識と良識持ち合わせているよ?!後、R-18指定があるのと、それを一応気づかえるザッドハークの心づかいに戦慄が止まらないんだけど?」


 ゴアの常識発言に驚愕する。


 これまで誰一人としてツッこまないでいた召喚という名の拉致まがいな事態と、女の子を勇者にして戦わせるという非道に憤ってくれている。


 見た目眼球だし、触手だし、粘液濡れだし、邪悪な感じだけど、それを差し引いても良い人だよ!

 この目玉さん、メッッッチャ良い人だよ!!


 その暗黒神の優しさに嬉しくなり、ついつい涙腺が緩くなる。


 これまで出会った人で、断トツ一番に良い人だよ!


 ついでに、私の中の良い人ランキングは………。


 一位………邪神ゴア

 二位………メル婆

 三位………ジャンクさん


 この順位だ。


 あれ?一位と二位が何か強面だが…………気にしないようにしよう。


 そんな歓迎をしていると、ゴアが更に何かを語りかけてきた。


『わre仲ni03ぃいNe付KE!!』


「ムッ?それは真か?」


 そのゴアの言葉にザッドハークが軽く驚く。


「えっ?どしたの?何て言ってるの?」


「ウム。こやつ………『女の子が戦いに巻き込まれていると知って、放り出しておくなんてできません!私も付いて行き、およばずながら力添えをさせて頂きます』とな」


「はいっ…………?」


 ザッドハークの翻訳に頭が真っ白になる。


 えっ?あの…………えっ?どういう?


 一気に涙腺は締まり、妙な緊張感が私を襲う。

 そんな私の緊張を他所に、ゴアは更に続けた。


『魔oU43倒ばBHm8れぅe01ぐ!』


「『そもそも、世界を征服しようだなんて自分勝手な欲望で人々に迷惑をかける魔王を許しておくことなんてできない!!魔王をギタギタにしてやりましょう!!』だと…………」


「えっ?スキンケア対策で世界を闇に染めた方が、それ言います?」


 いや、色々と心配してもらった方にこう思うのは甚だ失礼だと思う。

 だけど、心の中で叫ばせてちょうだい。

 棚上げも凄まじ過ぎて言葉もでないよ!

 棚が上げ過ぎて、屋根突き抜けてんよ!

 魔王だってビックリしてると思うよ!

 まだ、スキンケア対策より、世界征服の方が迷惑かけられる方としては納得だよ!!


『だq我j3仲r友ぅnm65かぃ27さぁ!!』


「『という事で、私も仲間に入れて下さい!きっとお役に立ちます!』との申し出だが?」


「うぇい?!」


 やっぱりというか、そうなるか?!

 いや、流れ的には読んでたけど、読みたくなかった!!

 も、申し出は嬉しいけど、これ以上の人外加入はごめん被りたい。

 ただでさえ、ザッドハークにスケルトンにデュラハンときて、そこに暗黒神が加わったら最早言い逃れができない魔王パーティーじゃん?

 討伐対象私らになっちゃうじゃない?

 な、なんとか断る方法は…………そうだ!!


「あ、あの………申し出は嬉しいんですが、外の日差しが気になるのでは?肌にダメージがいくのは心配ですし、あまり無理してもらわなくても………」


『日za4もぅ4wa9なki大bu4』


「『最初にザッドハークから聞きましたが、外の日差しも昔よりも弱くなったと。ならば、外に出ても大丈夫でしょう!』だと」


 最初の会話それかぁぁぁ!!

 そういや『既に、あの時よりも随分と収まったものよ。外に出ても問題あるまい』とか言ってたぁ!

 あれ、日差しの話をしてたんかぃぃぃ!!

 思わぬところで布石を立てられていやがったぁぁ!!


 頭を抱え、どうすべきかと悩んでいると、唐突にゴアの触手の一本の先端が輝きだした。

 その輝きはかなり強い光の筈だが、不思議と眩しさん感じず、まるで慈愛に満ちており、心が癒されそうな感じだ。


 だが、私としては全く心は癒されない。

 何だかこの光景は見たことがあるような気がして、嫌な汗が背中に流れ出すのだ。


 やがて光が止み、改めて触手を見れば、そこには金色の開いた本のような刻印が現れていた。


 それを見た瞬間、顔から汗がドッと吹き出る。


 ま、まさか…………。


「フム。これは六勇士の一角『知謀の勇士』の証だな。ということは、正式にゴアは我らの仲間入りということよ」


『よrO4苦ねぇ!』


「『よろしくお願いします』だそうだ」


 

 ザッドハークの言葉に合わせ、ゴアは触手をうねらせて喜びを露にする。


 ザッドハークの言葉に合わせ、私は天を仰ぎ、体をよじらせて絶望を露にする。


 


 


 


 

「せめて人型!!せめてリッチにしてくれぇぇ!」


 

 同じ人外、同じ魔法使いでも、触手目玉のゴアから、せめて未だ膝で眠る人型のリッチへの変更願いを女神に向けて叫んだ。


 だが、私の勇士リコール願いは女神に届くことはなかった…………。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかゴブリン倒しに行くのに、 ドラゴンを何匹も連れて行くような戦力配分になってるけど 話し合いで簡単に解決できそうな気がする でもあと100話近く経っても完結してないのか ほとんど魔王…
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