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37話 復活の闇の支配者 ー暗黒神ゴアー

 

 地震でも起きたかのように揺れる遺跡。

 床は激しく揺れ、天井からはガラガラと破片が落ちてくる。

 そんな激しい揺れに、私は立っていることもできずにへたり込む。


「な、何よ、これ?!何が起きてるの?!」


 何が起きてるかも分からず叫ぶ。

 すると、同じく地面にへたり込むハンナが、悲痛な声で叫んだ。


『封印が………暗黒神の封印が解けかかってます!!封印の要たる天使像が破壊され、封印の力が弱まったのです!?』


「なっ?!」


「マジかよ?!」


 ハンナの言葉に私もジャンクさんも驚愕する。

 そして、同時に血の気が下がる。

 えっ?あの像ってそんな重要なものだったの?!

 いや、確かにこんな最奥に意味深にある像が無意味な筈無いのは分かるけど、そんな重要な封印の要だとは!?

 何も知らずにザッドハークをぶつけちゃったよ?!折っちゃったよ?!ど、どうしよう?!


 暗黒神だかが本当に復活しちゃうぅぅ?!


「ハ、ハンナ!?な、何とかできないの?」


 必死な声でそう問いかけると、ハンナは暫し考えた後、難しい顔で答えてきた。


『ま、間に合うか分かりませんが、天使像を今一度台座に!像には強大な封印の力が残っているので、天使像を台座に戻せば再び封印できるかもしれません!!』


 な、なるほど!戻せば何とかなるかもしれないってことね………。


「それじゃあ………」


 ザッドハークに天使像を戻すように指示しようとした時、私の頭上に影が差した。


「嬢ちゃん!上だ!危ねぇぇぇぇ!!」


 ジャンクさんの叫びに反応し上を見れば、崩れた巨大な天井の破片が、私に向かって落下してきていた。


「キ、キャァァァァァ!?!?」


 突然の事態に恐怖で足が動かず、腕で頭を庇うことぐらいしかできない。


 あぁ、死んだ。


 そう思ったとき…………。


「フンヌァァァァ!!」


 ゴァァァァン!!


 ザッドハークの気合いの声と共に、私の頭上で何かがぶつかり、砕ける音がした。

 その後、カツンカツンと私の兜に何かの破片がぶつかったあと、パラパラと細かい破片が幾つか落ちてきた。

 それだけだった。

 細かい破片らしきものがぶつかるだけで、巨大な落下物が迫ってくる気配はなくなった。


「…………えっ?」


 恐る恐ると腕を避けてみれば、先程まで迫っていた巨大な破片は粉々に砕け散り、跡形もなくなっていた。


「カオリよ。危うかったな」


 ザッドハークが落ちてくる破片を煩わしそうに腕ではね除けながら、私へと寄ってきた。


「えっと…………何が?」


 若干放心気味になりながらも、何があったのと尋ねた。

 ザッドハークは床にへたり込む私に手を差し伸ばしながら答えてきた。


「ウム。汝に落ちてきた破片に、手近にあったものを投げつけて砕いたのだ。寸でのところであったな………」


 どうやら先程の激突音はザッドハークが投げたものと破片が衝動した音のようだ。

 随分と手荒な方法だが、おかげで命拾いした。


「ハハッ…………ありがとう。助かったよ」


 素直に感謝の述べ、ザッドハークの手を取って立ち上がろうとした。


 その時…………。


 フッと足元に目がいく。


 そこには微笑みながらも、どこか悲し気な表情の天使の像の首が落ちていた。


「…………ねぇ、ザッドハーク。手近な物を投げたって言ってけど…………何投げた?」


 ザッドハークの手を取りながら、ピクピクとひくつく頬を何とか押さえながら尋ねた。

 すると、ザッドハークは何でもないかのようにフンと鼻を鳴らしながら答えた。


「ウム。手近にあった天使像だ」


 


 


 


 

「何してんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」


 頭を抱えながら、叫び声を上げる。

 助けてもらってこんな事を言うのはあれだけど、マジで何してんのよ?!

 暗黒神を封じる唯一の手段を、何投げてんのよ?!

 天使像砕けてるじゃん?!

 気持ち、表情が悲し気なんだけど??

 もう、修復不能なぐらいに粉々になってるじゃんよぉぉぉぉ?!


「ウム。手近にあった故にな。仲間を救えたのだ。後悔もしてないし、反省もしていない」


「ウグギギギ…………」


 いつもなら脛殺しでツッコムところだが命を救われた手前何も言えない。

 ただただ歯軋りしながらザッドハークを睨むことしかできない。


 くそっ!唯一の封印手段が…………。

 い、いや…………まだ唯一とは決まった訳じゃない!!他にも手段はあるかもしれない!!


 一縷の望みを抱き、ハンナへと向き直る。


「ハンナ!!」


 


 


 


 


『ア…………アハハ…………終わりよ。もう、世界は終わりよ…………アハハハハハハハハ!!』


 


 


 

 もう駄目だぁぁぁ!!

 ハンナさん壊れてらっしゃる!!

 全身が小刻みに震えてるよ?!

 天井を見上げ、笑いながら泣いていらっしゃるじゃないの?!

 これ、もう封印無理ってことじゃん?!

 暗黒神復活しちゃうじゃん?!

 マジでどうしよう!?


 何か他に手段はないかと周囲を見回すが………。


 


 

「あぁ…………マインちゃん。せめてその柔肌をペロペロしてから死にたかったよ…………」


『さぁ、皆………手を取り合おう。恐れる事はない。死とは、皆に平等に訪れるもの。それが早いか遅いかだけです。ならば、共に死を待てば、恐れることは何も無いです…………さぁ………』


 駄目だ。

 ジャンクさんは何か気持ち悪いことを呟きながら泣いてるし、スケルトンとデュラハン達は手を取り合って円になり、何か宗教じみたことを始めてるし…………。


 もうっ!何とかならないの?!マジで暗黒神復活しちゃうよ?!


 そうだ!ザッドハーク!ザッドハークなら……。


 


 


 


「フム。ハンナよ。そなたなかなかに立派なものを持っておるな。これ程見事に震えるとは………」


 ザッドハークはいつの間にかハンナの横に移動し、屈んでその身体と一緒にプルプルと震えるけしからん胸を凝視していた。


 あぁ、うん。

 彼女、パンツはともかく、ブラは私のサイズが合わなくて、今ノーブラなんだよね。

 そりゃあ、プルプルと震えるわ。

 アハハハハ…………。


 


 


 


 


 

「ザッドハークゥゥゥゥゥゥ!!」


 怒りを込めてザッドハークの名を呼び、最大ギアの脛殺しを発動しようとした。


 その時…………異変が起きた。


 これまで激しく揺れていたのが嘘のようにピタリと止み、不自然な程に辺りが静寂に包まれた。

 更には部屋が先程よりも暗くなり、妙な寒気を感じるようになった。


 その異変に気付き、私は上げかけた足をもとにもどす。


 何…………これ?急に静かに…………。


 そう思った瞬間、背中にゾワリとした気持ちの悪い感覚が走る。

 まるで背中を冷たい舌で舐められたような………。


 気持ちの悪い、そんな感覚を…………。


 私はゆっくりと………感覚がした背後を振り返った。


 そこは先程まで天使の台座があった所である。

 天使の台座がある以外、他には何も変わったところがない広間。


 


 その筈だった…………。


 


 

 振り向いた先…………。


 そこには闇が広がっていた。


 天使の台座があった部分を中心に、床から滲み出るように、暗く深い闇が広がりつつあったのだ。

 しかも、その闇は生きているかのようにウゾウゾと蠢めいている。

 更には、蠢く闇は這い上がるよう床から伸び始め、やがては触手のようなものとなってウネウネと動きだした。

 しかも、そこらじゅうの闇の中から、数多の触手が雑草のように生えてきたのだ。


「なっ…………なっ…………」


 地面から黒い触手が生えてくるという、あまりにも気味の悪い光景。

 その光景に鳥肌が立ち、言葉も出ず、恐怖で動くこともできない。


 それは私だけではなく、皆も同じようだ。

 ジャンクさんもハンナもスケルトンもデュラハンも…………皆が唖然とその気色悪い光景を見ている。


 ザッドハークだけは未だハンナの胸を見ているが。


 マジ、ブレないなアイツ。


 そんなザッドハークがブレない中、触手達に更なる変化が起きた。

 蠢く黒い触手達が、ウゴウゴと横移動をしはじめたのだ。

 台座があった付近を中心に触手が集まりだしていき、1つの塊となっていく。

 やがて、半球状となった触手の塊は、まるで水面に水滴を落とす逆再生のように、ゴボリと闇の中から空中に浮かび上がる。

 フワフワと浮かび上がったものは直径約2メートル程の黒い球体で、球体からは幾本かの触手が生え、未だウゾウゾと蠢いている。


 そんな浮かび上がっ気味悪いた球体を呆然と見ていると、球体の真ん中に一筋の横線が走った。


 あの横線は…………何?


 そう思いながらマジマジと見ていると…………。


 その線が縦にガパァと開いた。


 

「ひっ?!」


 

 球体の線が縦に開いた瞬間、私は小さな悲鳴を漏らしながら尻餅をついてしまった。


 その開いた球体の中…………そこには巨大にして、真っ赤な眼球があったのだ。


 感情など一切感じさせない無機質な赤い眼球。


 巨大にして不気味な目が、ジロリと此方を見ていた。


 更には蠢く触手の先にも次々と小さく赤い目が開いていき、最終的には巨大な真っ赤な1つ目と、複数の黒い触手の先に小さな目を持つ目玉の化け物が現れた。


 目玉の化け物は暫し動きを試すようにギョロギョロと眼球を動かした後、再び私達を真っ直ぐに見据えてきた。


 その目は、見ているだけですべてのを見透かされているような感覚に陥る上に、凄まじい威圧感を発してくる。


 ヤバい…………あれは絶対ヤバい…………。


 私の本能は全力で警鐘を鳴らし、目をそらせと訴えてくる。


 だが、不思議と目をそらすことはできず、ガチガチと震えながら目玉を凝視することしかできなかった。


『ゴア…………』


 恐怖で震える私の耳に、フッとそんな声が聞こえた。


 その声の主はリッチのハンナであり、ハンナは恐れながらも、憎々しげな表情で目玉の化け物を睨んでいた。


「ハ、ハンナ…………?」


 私は何とか声を振り絞って彼女の名前を呼ぶと、ハンナは震える唇で…………目の前の存在の、その名を口にした。


 


 


『奴こそが…………奴こそが暗黒神…………。かつて世界を闇で覆い尽くさんとした邪悪なる魔眼の化け物…………ゴア。暗黒神ゴアです!!』


 


 


 


 その瞬間、名を呼ばれた暗黒神ゴアは、こちらを嘲笑うかのように、グニャリと目を細めた。


 


 


 


 


 

 ◇◇◇◇


 


 暗黒神ゴア…………その異形の神についての記録はおそろしく少ない。


 というのも、その暗黒神が現れたのは五百年も前であり、長い年月のうちに資料などが紛失したからである。


 また、暗黒神の活動期間が短かった上に、その以後には真なる覇王という存在が現れており、それによって人々の恐怖が暗黒神から覇王へと塗り替えられ、その存在が忘れ去られたことも重なっている。


 だが、暗黒神についての記録が完全に失われた訳ではなく、一部の地方には言い伝えとして語り継がれていたり、古い神殿や王宮に保管される歴史書には、その暗黒神についてのことが一部書き記されていたりする。


 とある歴史研究家達は、この暗黒神について研究しており、その少ない資料や伝聞から暗黒神についての概要を詳しく調べている。


 その現段階の研究内容によれば…………。


 曰く、巨大な眼球の化け物。


 曰く、邪眼の主。


 曰く、悪意の魔眼。


 曰く、暗き闇に在りし、赤眼の神。


 などなど、目玉関連の存在として語られることが多い。

 この事から、暗黒神とは目玉の化け物…………現在でも稀に出現する1つ目の魔物『ゲイザー』に類するものではないかと推測される場合もある。


 ゲイザーとは、巨大な1つ目に複数の黒い触手が付いた魔物で、強大な魔力と高い知能を有している、魔物でも上位に入る種族だ。

 更には、見た者に様々な異常をきたす特殊な目『邪眼』または『魔眼』を持っており、これにより敵対した者の動きを封じるなど、絡め手で相手を陥れる狡猾な魔物であり、暗黒神と特徴が一部類似している。


 だが、記録にある暗黒神は…………。


 『その目より放たれし光は地平を火の海とした』


 『その目に睨まれし太陽は、夜の闇の中へと姿を隠した』


 などといった、超上の力を有していたと記録されており、如何にゲイザーが強力な魔物とはいえ、それ程の力は有してはいない。


 つまりは、ゲイザーとは似て非なる魔物ということになる。


 だが、完全にゲイザーと切り離すことはできず、かつての資料には…………。


 『複数の黒い触手を持つ』


 『闇を好む』


 『黒い表皮を持つ』


 などと、ゲイザーと酷似した容姿や習性を持つことも多く記されている。


 以上のことから、研究者達の間では『この暗黒神とは、ゲイザーに似ていながら、ゲイザー以上の力を持つ。ならば、ゲイザーという魔物の始祖。または、突然変異種ではないか?』と推測されている。


 確かにゲイザーという魔物は五百年前に突如として現れた魔物であり、その発生は謎に包まれている。


 だが、その出現が暗黒神の出現時期と重なっていることから、暗黒神が眷族として産み出した自身の劣化種がゲイザーでは?などと語られているが、そこについては未だ研究の半ばであり、本当にゲイザーと関わり合いがあるのかは不明である。


 しかし、とある研究者はこう語っている。


『もし、暗黒神がゲイザーの祖と言うならば、絶対に会いたくはないですね。

 だって、ゲイザーと言えば強力な魔眼でも有名ですが、それ以上に狡猾で執念深く、魔眼で動きを止めた獲物をジワジワとなぶり殺す残忍な性格の魔物じゃないですか?

 そんな魔物の祖がまともな訳がありません。

 この世で二番目に、絶対に対峙なんてしたくない魔物ですね。

 えっ?一番は誰かって?そんなの怒った嫁に決まってるじゃないですか?あれはもう人間じゃなくて鬼………オーガですよ!顔も威圧感もね?

 なーんてね!こんなの聞かれたら殺されますからね、秘密にしてくださいよ?ハハハハハ…………って、あれ?えっ?お前………なんでここにいるの?弁当?忘れもの?あ、ありが…………いや、違うんだ………待って、待て…………止め…………』


 


 そのとある研究者は恐怖に引きつった顔で、そう話していたという…………。


 推測だけで恐怖される存在、暗黒神。


 一体それが、本当にどれ程恐ろしい存在なのか…………。


 それは実際に対峙した者にしか分からないだろう。


 


 


 


 

 ◇◇◇◇◇


 


 


「あ、あれが暗黒神ゴア…………」


 私は震える声で目の前に浮かぶ化け物の名を口にした。


『は、はい…………あれが暗黒神ゴア。私達が封印した、史上最悪の化け物です…………』


 ハンナは私の言葉を肯定し、喉をゴクリと鳴らす。

 相当緊張しているようで、顔には大量の冷や汗が吹き出ている。

 いや、ハンナだけじゃない。

 私も同じだろう。

 鎧の中の服が、濡れて肌に張り付いて気色悪い。

 多分、ハンナと同等か、それ以上の汗を知らないうちに掻いているのだろう。

 それほどの緊張感と恐怖が私達を蝕んでいるのだ。


 あれはマジでヤバい…………。

 あの巨大な眼球なんか、見ているだけで精神がおかしくなり、発狂して叫びそうになる…………。

 更には蠢く眼球付きの触手…………。

 SAN値が順調に急下降していく。

 発せられる威圧感だけでなく、見た目も相当にヤバいよ…………。

 こんな威圧感はザッドハーク以来だ…………。

 しかし、威圧感だけならザッドハークとどっこいだけど、あの見た目で暗黒神に若干軍配が上がるね…………。

 流石は暗黒神…………。


 と感心したが、フッと気づく。


 いや…………てか、暗黒神…………。

 威圧感がザッドハークとどっこいってどうなのよ………?

 同格…………ってことなの?

 いや、暗黒神だよね?暗黒の神だよね?

 なんで、それとザッドハークは同等なの?意味分からないんだけど?馬鹿なの?

 この場合、暗黒神が凄くないのか、ザッドハークが凄いのか評価が分からないんだけど?

 どっちもチートっうか、バグキャラだからね?判断がつかないのよ。

 えっと、そういえばそのザッドハークの様子は………。


 そう思い、チラリとザッドハークを見ると、案の定と言うか、未だハンナの胸を見ていた。


 やっぱりと言うか、何か………普通にしてるわ。

 全く威圧感とか感じてないよね、これ?

 いや、これで逆に怖がってたりしたらある意味レアだけど、いいのかそれで…………?

 やっぱりあれだよね?ザッドハークは暗黒神と同じ部類ということだよね?

 そう言われた方が納得する容姿だしね。

 なんでそんな奴が勇者の仲間やってるの?

 馬鹿なの?馬鹿でしょ?

 てか、いつまで胸見てんだよ?

 どんだけ胸フェチなんだよ?


 内心でザッドハークに毒づいていると、突然ハンナがザッと立ち上がった。


「ハ、ハンナ?」


『こ、ここは私に任せて下さい!わ、私はこれでも、かつては英雄と呼ばれた者の一人であり、この封印の地の管理者!!こ、ここで暗黒神をむざむざ見逃せば管理者の名折れ!!それに、かつて散った仲間達に申し訳が立ちません!!』


 震えながらも堂々と暗黒神に向かって宣言したハンナは、その手に杖を握る。

 そして何らかの呪文らしきものを口にしながら、杖を大きく掲げた。


不死者創造(クリエイトアンデット)!!我が名に従い甦れ、邪骨竜(スケルタリードラゴン)ポンゴ!!』


 ハンナの詠唱とともに、掲げた杖から紫色の怪しい光が溢れ出し、それが粉末となったポンゴへと降り注ぐ。

 すると粉末がモゾモゾと動きだし、何かを形作るように集まっていく。

 それは高く…………大きく積み重なっていき、やがて巨大な一体の魔物へと姿を変え、天に向かって吠えた。


『グォォ………ゴアアアアアアアア!!!!』


 邪骨竜(スケルタリードラゴン)…………。


 マジか………復活できたのかよ。


 散々話に出てはいたが、いきなり序盤でザッドハークに火葬されたドラゴンが、リッチの魔法によって今再び甦ったのだ。


「こ、これが………スケルタリードラゴン!?」


 私は雄々しく立つその姿に驚き、圧倒される。

 昔に博物館で見た、ティラノサウルスの狂暴そうな頭の骨に鋭い角が生え、そこに首長竜の巨大な骨の胴体が合わさっている。更に背には翼竜のような大きな骨の翼が付いており、正に想像に描くようなTHE竜という姿だ。


 ただ、ちょっと想像と違うのは、胴体に付いている手足が蜘蛛のような鋭い八本足となっている上に、尾が百足という気色の悪いものとなっていた。


 骨の竜の体に蜘蛛と百足が付いているというちぐはぐな姿は、竜と言うよりかは出来の悪いキメラといった感じで、かなり気味の悪い魔物となっていた。


 えっ?これ、本当にスケルタリードラゴンとか言う奴なの?

 何か想像と違うんだけど?

 もっとこう、ドラゴンっぽい姿を想像してたんだけど?寧ろ、キメラ寄りな気がするんだけど?

 いや、でもアンデットのドラゴンだし、こんなものなのかなぁ?


『なんか色々混ざってるぅぅぅ?!』


 どうやら違うらしい。

 ハンナが驚愕に顔を染めながら、スケルタリードラゴンを見上げている。


 あー………そういえば、ザッドハークが蜘蛛や百足も燃やした………みたいな事を言ってたような気が………。


 蜘蛛とか百足とか、色々と火葬した灰が混ざっちゃったのね。

 それでこんな不気味な魔物が誕生しちゃったと。

 いや、それもうガチモンのキメラじゃん?

 いいの?これ、大丈夫なの?


『グ…………グルォ?』


 なんか心なしかポンゴも戸惑ってるんだけど?

 蜘蛛の足を掲げて、首を傾げてるんだけど?

 これ、ポンゴも予想外だったんじゃ…………。


『ま、まぁ良い!ぶ、不気味じゃが、心なしか強力になった気がする!いけぇいポンゴ!!暗黒神を倒せ!かつての聖竜の威光を見せてみよ!!』


 キメラ化したポンゴの姿にドン引いていたハンナだが、気を取り直して突撃命令を下した。


 いや、まぁ、うん。

 確かに見た目、強そうではあるね。

 ただ、既に聖竜の威光とかないんだけど?

 完全に邪竜とか魔獣の一種になってんだけど?


 そんな私の思いを他所に、命令を受けたポンゴは『グォォ!!』と咆哮を上げながら、カサカサと蜘蛛の足を動かして暗黒神に果敢に突撃していく。


 うわぁ、走り方キモッ?!


 そんなカサカサと迫るポンゴを、ゴアはジッと黙って見つめていた。

 が………そのポンゴを見つめる眼球の中心に、段々と赤い光が収束していく。

 やがて光が収束し終わったのか、目が赤く凛々と輝き出し、ビカビカと明滅する。

 そして、ポンゴが間近に迫った瞬間、その目が一際激しく輝いた…………その時。


 


 ギュァァァァァァァァァァァァン!!


 


 

 激しい炸裂音と共に、辺りが異常な程の光量に照らされ、真っ白に塗りつぶされる。

 私は目を開けていることもできず、両手で顔を覆い、光から目を守った。

 それでも尚、手や兜、更には瞼を透過し、強い光が目の中に漏れてくる。


 …………恐ろしい程の光量。

 まともに見たならば、目が潰れてもおかしくない程の光の強さだ。


 そんな光の照射が数秒続いたが、瞼越しに届く光の強さが段々と弱くなっていく。

 そして、やっと閉じた目の中に光が入ってこなくなる。


 お、収まった…………かな?


 そう思い、恐る恐ると目を開ける。

 だが、瞼越しに届いた光のせいで目がチカチカして、よく見えない。

 兜のバイザーを上げ、ゴシゴシと眼を擦る。

 そして、やっと目が落ち着き、改めて周囲を見て…………。


 


 

 驚愕した。


 


 


 


 私の目に飛び込んできた光景。

 まず、それを一言でかたるなら『溝』。


 前方にいる暗黒神ゴアのいる場所から真っ直ぐ伸びるように、床に幅十メートル程の半円状に抉ったような溝ができていたのだ。

 その溝は私の真横を通り、私達が通ってきた通路まで伸びている。

 更には、床に伸びる溝の表面はジジジと音を立てる程に赤熱しており、何か高熱のものが直線状に床を焼き抉りながら進行したことが予想できた。


 というか、通ってきた扉とかも溶解してるし。


 

「な、何…………これ?」


 

 驚きを露に呟くと、ペタンとへたり込むハンナが目に入った。


「ハ、ハンナ!?どうしたの?!」


 慌てて声をかけると、ハンナは震える指でゴアの方を指差した。


『ポ、ポンゴが…………』


「えっ?」


 ポンゴがどうかしたのかと指差す方を見れば、ゴアの手前の方の溝の左右には、半ばで千切れた蜘蛛の足が八本転がっていた。

 その上からは、白い灰がパラパラと…………。


 


 

 ポンゴまた死にやがったぁぁぁぁ?!


 


 左右の足だけ残して灰になりやがったぁぁ?!


 お、落ち着け私!?

 ま、まずは状況の整理を!?

 た、多分、あの光の強さや、この跡からして、ゴアはビームのようなものを目から放ったのだろう。


 それも極太の高熱のビームを。


 それの直線状にいたポンゴはレーザーを直撃し、敢えなく足だけ残して蒸発したと…………。


 ポンゴ…………復活して早々にリタイアとは。


 浮かばれねぇよ、本当。


 てか、マジかよ?!ビームってマジかよ?!

 目からあんなビームを放つなんて反則だろうが!?

 しかも、メチャクチャな威力じゃないの?!

 石の床や、丈夫そうな扉やなんかが完全に溶解しちゃってるじゃないの?!

 あんなの喰らったら、一発でお陀仏よ!?

 ザッドハークの目ビーム以上の目ビームじゃないの?!


 …………あれ?そういえば、うちにもいたな。

 目からビーム出すやつ…………。


 …………い、いや、それは今はいいや。うん。

 さ、幸い被害はポンゴだけで、他にはビームに巻き込まれた奴はいないみたいね…………。

 ジャンクさんや、スケルトンにデュラハン達は『目がぁ!目がぁ!』って転げ回ってるけど、視界が一時的に塞がっているだけで、他に異常はなさそうね。


 いや、てかスケルトン。

 お前は目が無いだろうが?

 なんでジャンクさんと一緒にのたうち回ってるんだよ?

 目を押さえてる指が、眼窩の中に入り込んでるんだけど?

 あと、デュラハンに至っては首がねぇだろうがい?

 目が眩む訳ないだろうが。


 そんなツッコミを抱きつつ、再びゴアへと目を向ける。

 ゴアは未だプカプカとその場に浮きながら、こちらをジッと見ている他、特に何かしようと動く気配はなかった。


 と、取り敢えず、さっきのビームが直ぐにくる訳じゃなさそうね。

 なんかプカプカ浮かんでいるだけで大人しそうだし、今のうちに何か対策を…………。


 と、考えている私の横を通り、黒い巨漢の存在が前に歩み出た。


 ハッと見れば、我らがバグキャラのザッドハークが堂々と暗黒神に向かって進み出ていた。


 ザ、ザッドハーク?!

 な、何を…………。

 ま、ま、まさか、暗黒神と戦うつもり?!

 そんな!一人でなんて無茶……………………。


 


 


 


 


 


 …………できるんだよね、アレ。

 寧ろ、暗黒神の相手ができるのザッドハークぐらいじゃないの?

 なんか見た目というか、雰囲気的なものが互いに同じような感じだし、伝わる威圧感も同格っぽかったし…………。


 うん。ザッドハークにしか無理だわ。

 私やジャンクさんがいったところで、敵う訳がなさそうだし、スケルトン達に至っては一瞬で蒸発しそうだし…………。


 そういえば、『毒を持って、毒を制す』って諺があったなぁ…………。


 …………よし!!バグを持ってバグを制すだ!

 頑張れザッドハーク!!

 その目ん玉お化けをぶっ倒しちまえ!!

 お前ならできる!てか、お前にしかできない!!

 お前が敵わないなら、私達が灰になるだけだから!!


 マジで頑張って下さい!神様、仏様、ザッドハーク様ァァァァ!!


 完全に人任せモードに入った私は、全力でザッドハークに心の声でエールを送った。

 何故声に出さないかって?

 下手に声を出したら、暗黒神に目を付けられるかもしれないじゃん?


 そんな私のエールを受け取ったからか、ザッドハークは更に歩む速度を早め、暗黒神にどんどんと近付いていく。


 暗黒神の方は、ジッとザッドハークを見つめていたが、なんか一瞬だけ目を見開いた。

 だが、それ以外に特に動きはない。


 な、なんだろ?なんか驚いたようにも見えたけど?

 やっぱ、暗黒神的にもザッドハークという存在は規格外だったのかな?

 実際規格外だしなぁ…………。

 でも、そう見えただけで、実際は何も考えていないということも…………。

 表情が全く読めないしな…………。

 表情っつても、表情筋すら無い目玉だけど。


 

 そう考えている間にも徐々に距離は狭まり、遂には互いに手……片方は触手だが………の届く位置まできた。


 そこでザッドハークはザッと立ち止まった。


 そして、両者はジッと睨み合った。


 う…………おおぉ…………。

 な、なんか壮観…………というか、何とも言えない圧迫感がある。

 睨み合っている存在が存在なだけに、その光景はあまりに異様だ。


 片や、骸骨顔の暗黒殲滅騎士。


 片や、真紅の巨大眼球暗黒神。


 両者共に見た目が既に色々とアウトだし、絵面がヤバい。


 本来ならば、私の仲間………勇士が戦うのだから、正義の使徒対暗黒神………みたいな構図となる筈なのだ。

 けれど、その勇士がザッドハークな為、なんか魔王対暗黒神『真の悪の帝王決定戦!!』………みたいになってる。


 うん。どっちが勝っても世界は滅ぶ的な?


 い、いや、まぁ………ザッドハークは一応は味方だし、大丈夫でしょ?


 …………多分。


 何だか言い知れぬ不安を感じていると、不意に奇妙な感覚に襲われた。


『Kか6n亞3かAY邪E9?』


 頭の中に、まるでガラスに爪を立てて擦ったような、生理的不快を刺激するような音が走る。

 咄嗟に耳を塞ぐも、音はそんな事を無視し、直接頭の中にガンガンと響いてくる。


 な、何よこれ?き、気持ち悪い!?


 異常な不快感に身を悶えさせていると、更なる音が響いてきた。


『さLT魔5やFQみH7わ』


 最初は不意を突かれて不快なだけの音に聞こえたが、微かに音の中に何らかの言語のようなものを感じた。


 えっ?ま、まさかこれって?


 まさかと思いながら暗黒神を見ると…………。


『UU38笑N3久BHO2』


 頭の中に響く音に合わせ、暗黒神の目がピカピカと光っていた。


 間違いない………これ、暗黒神が喋っているんだ!!


 言葉は全く分からないが、暗黒神が意思の疎通が可能だということに驚いていると、ザッドハークに動きがあった。


 ザッドハークはゆっくりと右手を上げだしたのだ。

 剣などは持たず、無手の手を顔の高さまで上げ、ジロリと邪神を見ている。

 先程の暗黒神の声らしきものに触発されたのだろうか?


 しかし、一体何を…………。

 ま、まさか手刀?

 手刀で一気にぶっ叩くつもり?!


 そんな予想をしながらハラハラと様子を見ていると、カッとザッドハークの眼窩の青い炎の瞳が強く輝く。


 そして、確かな口調で暗黒神へと語りかけた。


 


 


 


 


 


 


 


 

「ウム!久しいな、ゴアよ!!」

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