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32話 大樹の墓場の遺跡 その8

『死ぬがよい』

 

 リッチの死刑宣告とともに、リッチの上に現れた魔方陣が明滅した。


 瞬間、巨大な青白い炎が吹き出した。


 吹き出した炎は相当な高熱らしく、周りの壁をドロドロと溶かしながら、私達に向かってくる。


「あぁ…………終わった…………」


 私の近くにいたジャンクさんが膝をつき、諦めの口調でぼんやりと向かってくる炎を眺めている。


『すまぬ弟達よ。せめて死ぬ時は共に………』


『兄貴!』


『あにき!!』


 私の背後ではスケルトン達が手を取り合って、死を覚悟し合っていた。


 皆が死を覚悟し、諦めを表す………そんな絶体絶命な中で私は………。


 

 


 


 

「ちょっとタンマァァァァ!!」


 テンパり過ぎて、自分でも何を叫んでいるのか分からぬままに、取り敢えず手にした盾を前面に押し出していた。


 こんな盾でどうにかなるとは思えなかったが、とにかく何としてでも生き延びたいという気持ちが、身を守ろうとそんな行動をとらせていた。


 そんな間にも青白い炎無情にも間近に迫り、私達を焼き尽くそうする。


 流石に『もう、駄目だわ』。


 そう思ってグッと目を閉じた瞬間…………。


 

『ア"ア"アァ………オギャァァ?!』


 苦しみ、苦悶に喘ぐような………悲痛で不気味な悲鳴が間近で聞こえた。


 唐突に聞こえた悲鳴に驚き、ジャンクさんかスケルトン達が炎に巻かれた悲鳴かと思った。


 だが、思いきって目を開けて見れば、ジャンクさん達は無事であり、悲鳴など上げていない。というより、ジャンクさん達も何だ何だと悲鳴に驚いている。


 じゃあ、どこから聞こえたのかと思えば、悲鳴の発生源は私の持つ盾………『嘆きの盾』に施された、苦悶に喘ぐような人面のレリーフの口から発っせられているようだった。


 盾の突然の変化に驚いていると、発っせられた悲鳴が青白い炎に振動派となってぶつかった。


 瞬間――。




『な、なんだこの悲鳴のような声は…………。?!ま、まさか?!いや、そんな………はっ?!』


 宙に浮くリッチが、驚きを露にしたと同時に、青白い炎の奔流によって、その姿は飲まれた。


 何故にそうなったか。


 理由は簡単。リッチの放った魔法を私の盾が反射して弾き返したのだ。


 それはもう、見事に全ての炎を反射したのだ。


 跳ね返った自身の魔法の炎に飲まれ、リッチの姿は見えなくなった。


 先ほどまでリッチが浮いていた天井付近は豪々と激しく燃え、煙がもうもうと広がる。


 ちょっとした地獄のような光景となっていた。


 そんな光景を私とジャンクさん。それにスケルトン達が、唖然と見上げていた。


「…………えっ?何が?」


 暫し皆が黙って見上げる中で、まずジャンクさんが第一声を上げた。


 同時に、それはこの場にいる皆の疑問であった。


「た、盾が…………魔法を反射したように見えましたが…………」


 次に我に返った私は、手に持ったままの盾を見ながら呟く。


 盾は先程まで悲鳴を上げていたのが嘘のように沈黙し、まるで何事もなかったかのようであった。


 私の呟きにジャンクさんも盾を見る。そして、何事かを考えた後に声を漏らした。


「確かに盾から悲鳴が上がっていたようだが…………何か特殊な効果でもあったのか?」


 そう言われて私はハッとした。


 そう言えば…………盾には死者との会話以外にも能力があった!


 確か…………。


「魔術反射…………」


 そう。説明にもあったけど、あらゆる魔術を反射する能力があった。いままでまともに魔法を喰らったことがないから忘れていたけど、その能力がリッチの魔法によって発動したのだ。


「ジャンクさん…………この盾には『魔術反射』という能力があった筈です。多分、それが発動してリッチに魔法を跳ね返したのかと………」


「魔術反射だと?!なんだその反則的な能力は?!そんなスキルや効果があるなんて聞いたこともないぞ?!」


 私の説明にジャンクさんが驚きを露に叫ぶ。


 どうやら普通では無い効果のようだ。


 そりゃあ、リッチの魔法をあんな簡単に跳ね返してしまうなんて、とんだチート装備である。第十位魔法がどんなもんかしらなかったけど、明らかにヤバそうな魔法を反射してしまったのだ。魔術士相手なら、反則級の装備だろう。


 だが、結果的に盾に助けられた事になる。あんな魔法を普通に受けていたら、一瞬でお陀仏だっただろう。


 見た目はアレだが、今は盾と盾を売ってくれたメル婆に感謝するしかない。


 後、一応はザッドハークにも。


 私が盾を撫でて感謝を示していると、背後からスケルトン達の声が聞こえてきた。


 そして、そのスケルトン達の声に私はギョとして慌てて振り返った。


 なぜなら…………。


 


 


 


『な、なんだと………あのリッチをやったのか…………す、凄い』


『あぁ………あの強大な魔力を宿したリッチをいとも簡単にやりやがった!!』


『や、やったんだな!?』


 スケルトン達が口々にフラグ回収の台詞を放っていたのだ。


 更にはジャンクさんまでもが煙と炎に包まれた天井を見ながら………。


「しかし盾の効果には驚きを隠せねぇし、聞きたいこともあるが、結果が良ければそれでいいや。へへっ、だがこれで実質的に遺跡の危険は全て取り除かれたようなもんだ。後はお宝を探して回収するか。………実はな、ここでお宝を手にいれて、纏まった金が入ったら、マインちゃんに想いを伝えようかなと…………」


「やめて!?それ以上フラグを回収しないで!?なんでどいつもこいつもフラグを回収すんの?!これアレだからね!?煙と炎が晴れたら『クッ不覚』とか、『驚いたわ』とか言ってリッチが現れるパターン…………」


『クッ不覚!?しかし驚いたわ』


「ほらぁ!?応用効かせて出てきた!?」


 私の心配通り、リッチが炎の中から平然と現れた。


 見たところ焦げ目一つ付いておらず、あれだけの炎に包まれたにも関わらず、全くのノーダメージのようだ。


「ば、バカな…………あんだけの炎を喰らって無傷だと…………」


『ば、バカな…………あんだけの炎喰らって無傷だと…………』


 そんな平然としたリッチの様子に、ジャンクさんやスケルトン達が愕然としている。


 というか、あんたら。実は意思の疎通取れてんじゃないの?ちょいちょいハモってんだけど?


 そんな中、リッチは『フンッ』と唸ると、邪魔くさそうに腕で炎を払う。


 すると、それだけで未だに燃えていた炎が、火の粉も残さずに消え去ってしまった。


 燃え盛る火を消したリッチは、次に私を………正確には、私が持つ盾を忌々しそうに睨んできた。


『本当に驚かされたな。まさか、『嘆きの盾』を持っていようとは。久方ぶり故に、すっかり忘れていたわ』


「?!この盾を知っているの??」


 リッチの盾を知っているような口振りに驚く。すると、リッチは盾を睨みながら、過去を思い出すように語りだした。


『知っているも何も、生前に我が魔導のライバルであり、禁忌の魔術に身を堕とした禁断魔術士。トリス=メギスが造りだした魔術を反射する盾だ。生前、それを製作しているのを見たことがある』


 リッチの言葉に息を飲む。


 まさか、この盾の概要を知っているとは!?


 しかも、リッチの生前のライバルの製作したものとは…………だったら、あの効果にも納得ですわ。


 そんな盾の効果に得心がいっていると、隣でジャンクさんがボソッと呟いた。


「トリス=メギス…………だと?」


「??…………知り合いですか?」


 そう呟くと、ジャンクさんがカッと目を見開いた。


「知り合いじゃねぇよ?!伝説で知ってるだけだよ!?何百年も前の、頭の狂った魔術士のことだよ!!魔法の発展だかの為に、何百人も生け贄に捧げたり、国一つ犠牲にしたりしたりと、とにかく外道なことばかりしてた魔術師だ!おとぎ話や伝説で語られる程だぞ?!流石にその名ぐらいは聞いたこと………」


「ないですね」


「だろうな!?」


 ジャンクさんが諦めたように天を仰ぐ。だって知らないから仕方ないでしょうが。


 すると、ジャンクさんの話しにリッチが食い付いた。


『ほぅ。トリス=メギスを知っておるか。なれば、このハンナの名も………』


「いや、そっちは知らね」


『…………さよか』


 過去の知り合いが伝説として残っているから、自分もと期待したのだろう。敢えなくジャンクさんに一蹴されて、目に見えて肩を落としている。


 自分でライバル宣告した相手がメジャーで、自分がマイナーだったらそりゃ、ガッカリするかな?


 漫才のコンビで、自分はラジオしか仕事がないのに、かつての相方はテレビで司会をしている………みたいな?


 暫しリッチは黙って肩を落としていたが、やがて思い出したように、不思議そうな声で質問をしてきた。


『その盾を再び見ることになるとは思わなかった。だが、その盾は禁断の外道な方法で造り出された盾。故に、その身を蝕む呪いが付与されている筈。何故、貴様は無事なのか?』


 リッチの言葉に私は目を見開く。


 そして、次の瞬間には大声で怒鳴っていた。


「全然無事じゃないわよ!?あんたの目は節穴?!あんまり自覚はないけど、日々漢気が上がってるらしいんだから!!乙女には死活問題よ!!」


『?!?!…………言ってる意味が分からぬ??!!』


 リッチが混乱したように頭を抱える。


 あっ。それもそうか。呪いの内容が改変されてるから今の状態を知らないのか。前は確か狂化だったものね。


『くっ…………まぁ良い。だが、反射したところで意味は無い。我がローブ………『凪魔の衣』に魔術は通用せん!!このローブはあらゆる魔術を無効化する能力がある。如何に反射しようと、消してしまえば意味はあるまい』


 そう説明をすると、リッチはその身に纏う濃い紫色のローブを自慢気に見せつけてきた。


 そうか。あの反射した炎の中で無事だったのはローブのおかげだったのか。あれの能力で、魔法を無効化していたのか。


 でも、だったら…………。


「それじゃあ、こちらに分があるんじゃないのかな?無効化できるとはいえ、そっちの魔力は反射できる。対して、こちらには無効化されようと、人数による剣なんかの物理攻撃もあるんだから」


 リッチは強大な魔法を使うと聞いた。だったら、魔法をどうにかできれば此方に分があるということだ。


 魔力を反射できる盾があるということは、こちらにとって大きなアドバンテージだ。


 後は、ジャンクさんやスケルトン達と連携をとれば勝機があるかもしれない。


 私は急に自信が湧き、ニヤリと笑いながらそう宣言をした。


 リッチは図星を突かれたのか、項垂れて言葉すら出ないようだ。その間、怒りか恐怖か、微かに身体を震わせてはいる。


 するとその様子に、水を得た魚のようにスケルトン達が武器を構えて前へと出た。


『フンッ。魔法が無ければ最早恐れることもなし』


『あぁ。あいつは既に、羽をもがれた鳥も同然』


『ボ、ボコボコにしてやるんだな!』


 先程までの死を覚悟していた弱気な態度が嘘のようだ。


 コイツら…………案外調子に乗るタイプか…………。


 だが、スケルトン達の言うことも事実。


 ここは一気呵成に畳かけ…………。


 と思ったところで、リッチに変化が現れた。


 なんか明らかにヤバそうな禍々しい青紫のオーラが立ち上ぼり始めたのだ。


『クッ…………クク…………』


 同時に、くぐもった笑い声が聞こえてきた。その笑い声の主は当然のように目の前のリッチであった。


 どうやら、肩を震わせていたのは怒りや恐怖ではなく、笑っていたからのようだ。


「な、何を笑ってるの?形成の不利を理解しておかしく…………」


『クックククク………いや、何。魔法を反射したぐらいで勝った気になっている貴様らが可笑しくてな。よもや、この程度で勝利を確信するとは………道化っぷりにも程があろうに』


 そう言ったリッチの体から、更なる魔力が溢れ出る。


 リッチの溢れ出た魔力はその全身を包み、ローブの内側へと吸収されるように入っていく。


 その明らかに不味そうな雰囲気に、私は一歩後退り。同じく、スケルトン達は私の背後へと揃って隠れた。


 コイツら…………。


 そんなヤバそうな雰囲気の中、そのヤバい雰囲気を出しているリッチが高々と手を上げた。


『良いか?その嘆きの盾…………それは確かに魔術士相手には効果的なものだ。だが、そういった装備には必ず許容限界というものがある。受けられる力の耐久力………といったところか』


 リッチは高々と上げた手を自身の顔へと当て、その骨の顔面を覆うように隠した。


『なれば!我が魔力を盾の耐久以上に上げれば良いだけのこと!!その盾には以前苦しめられた経験がある故に、大体の許容量も把握している!!故に今の状態の我が魔力では、盾を貫通することができぬが事実!なれば、貫通できる程の状態になれば良い!!その方法がこれだ!!『|死者にあって死者に有らず《アンデッドオブアンデッド》』!!』


「うわっ?!」


 カッとリッチの体が光り、視界が眩む。


 何とか盾で顔を覆い、光から目を守る。


 すると、やがて光が消え去り視界が回復した。


 恐る恐ると盾を下げ、リッチの方を見れば変わらずに宙に浮かんでいた。


 いや、なんか違和感が…………。


 私が何かの違和感に感付く前に、リッチが顔を覆っていた手…………そう手だ!?手が…………!!


『フフフッ…………どうかな?侵入者達よ?』


 そう言って現れたリッチの顔は、先程までの骸骨の顔ではなく、しっかりと肉の付いた、可愛らしい人間の少女の顔であった。


 しかも、かなりの美少女な姿で。


 ただ、その肌は青白く、短く切られた髪の色は銀髪。目はリッチの時と同じように紅く、凛々と怪しく光る瞳となっている。


 だが、その人外の不気味さと相まって、妖艶な魅力を醸し出していた。


 そう…………先程感じた違和感。リッチは骨の体ではなく、人間と同じような肉のある体となっていたのだ。


「なっ…………」


『フフフ………驚いたようだね?』


 驚愕を露にする私に、リッチは悪戯が成功した子供のような笑みを見せる。


 その声も先程のリッチのような皺がれた声ではなく、少女特有の高い声となっていた。


『これは魔力で生前の肉体を再現し、構成する魔法でね。私のオリジナルの魔法なのだ。一度使えば元に戻れないが大した問題じゃない。リッチとしての特性を残しつつ、生前の人間としての精細な感覚が甦り、更には魔力が上乗せされる。つまり、今の私には生前と死後…………二つの魔力が合わさっているのだ』


「せ、生前と死後の魔力が………?」


『そうだ。つまるところ、今の私の魔力は先程よりも膨大なものとなっている。そして………既にその盾が受けれる許容魔力を大いに上回っている。これが何を意味するか………分かるだろ?』


 その事実に私の血の気がサァーと引いていく。


 リッチが何を言いたいか………要は『この盾は既に意味がないよ。ざまぁ』ということだ。


 その事実に、先程まで信頼を置いていた盾が、急に紙のような心細いものに見えてきた。


「そ、そんな…………」


『フフフ…………理解したかね?もう、貴様らに勝ち目はないと………』


 リッチは勝利を確信した嘲るような笑みを見せ、杖を掲げた。


 恐らく、何らかの魔法を使う気なのだろう。


 その姿に私はハッと我に返ると、どうすべきかとジャンクさんを見た。


「ジャ、ジャンクさん!?ど、どうしましょう?!もう盾が…………」


「な、なんつー美少女だ!?マインちゃんにも劣らぬ………いや、それ以上の美少女だ!?しかも銀髪、青白い肌、赤目に魔法使いって…………ど、どれだけ俺の男心を擽れば………」


「こんな時にロリコンを拗らせてんじゃねーよ!?」


 私の隣でジャンクさんがリッチに目を奪われていた。


 いや、お前マジでふざけんなよ?!


「ジャンクさん!!病気を発症させてないで、何か対策を考えて下さいよ!?早く何とかしないと、私達全滅ですよ!?」


 怒気を込めて叫ぶと、ジャンクさんがハッと我に返る。流石に命が関われば、いつまでも見とれてる訳にもいかんようだ。


「す、すまねぇ!!あまりの美少女っぷりに目を奪われちまった!」


「反省は後にして何か考えて下さいよ!?ホラッ!なんかリッチの杖の先がバチバチいってますよ?!てか、プラズマみたいなの出てるし?!」


 リッチは杖の先に青白く明滅するバスケットボール大のプラズマ球を造り出していた。しかも、そのプラズマ球は次第に大きくなっているようだ。


「あれ絶対にヤバいですよ?!ゲームや漫画のボスとかの技に、絶対あれ系のありますもん?!ポイッと投げて、威力なさそうなのに、標的にぶつかると決まって辺り一帯を焦土と化すんですよ!?てか、感覚的にもヤバいって分かるでしょ?早く何とか止めないと…………」


「分かった!?何が言いたいか分からないけど分かったから!?今、全身全霊で考えて…………感覚?」


 と、そこでジャンクさんが急に止まった。


 何かを思い出すような顔だ。


「ジャンクさん…………?」


「なぁ…………さっき、リッチの奴。生前の感覚が戻る…………って言ってたよな?」


「言ってましたが、それが何か!?」


「いやさ…………だったらさ。『脛殺し』………効くんじゃね?」


「…………あっ」


 


 


 


 


 

「シャオラァァァァ!!」


 私は必殺の掛け声と共に、勢いよく空に蹴りを放つ。


 端から見れば、奇行としか見えない異常な行動だ。


 現に、リッチは怪訝な表情で私を見ていた。


『なんだ?死を前にして頭がおかしく………アイダァァァァァ?!』


 だが、次の瞬間には苦悶の表情となって、悲痛な叫びを上げた。


『な、なんだ?!き、急に足に激痛が?!一体何が…………』


「シャオラァァァァ!!」


『イギャァァァァァァァ??!』


 間髪入れず、再び脛殺しを放つ。


 リッチはあまりの激痛に集中力が切れたのか、杖の先にあったプラズマ球を霧散させた。


 リッチは目の端に涙を浮かべ、キッと私を睨んできた。


『き、貴様か?!貴様がやっているのか?!この我にいった………』


「シャオラァァァァハァァ!!」


『ギニャァァァァァァァ?!?!』


 何か言いかけたリッチだが、再び私が放った脛殺しを受けて金切り声の悲鳴を上げる。


 同時に空中から落下し、床へとドスンと落ちてきた。


 どうやら、空中に浮くのも困難な程の痛みらしい。


『お、おにょれ………この我によくも………』


「シャオラァァァァハァァ!!」


『ニャァァァァァァァァ?!?!』


 リッチはビクリと身悶えし、体をビクリと震わせる。


 なんか気のせいか、段々と悲鳴が女の子っぽくなってるような………。


 だが、まだ油断はできない。


「シャオラァァァァ!!」


 再び蹴りを放つ。


『イヤァァァァァァァァァ!?』


 リッチは必死に脛を押さえ、身悶えする。あまりの痛みに、体が痙攣しているようだ。


『むっ!今が好機!!』


『おうよ!!』


『い、いくんだな!!』


 リッチの弱々しい姿に勝機を見たお調子者スケルトン達が動いた。手に剣を持ち、倒れたリッチへと駆け出していく。


 コイツら本当に調子がいいな。


 スケルトン達は倒れたリッチを取り囲むと、手にした武器で斬りかかった。


『喰らうがよい!!』


『おらぁ!!』


『や、やぁー!!』


 スケルトン達の掛け声と共に、剣が振られた。だが、カキンと硬質な音と共に剣が弾かれる。


『何?!』


 スケルトンAが驚きを露にする。そんなスケルトンAを、顔だけを上げた泣き顔のリッチが忌々しげに睨む。


『ば、馬鹿め…………このローブは物理耐性も備えている!!貴様ら程度の攻撃では傷も付かぬわ!!なのに、なんでこんなに痛いのだぁぁぁ?!』


 リッチは剣は防げたのに、謎の攻撃が防げないのが不可解なのか、目に涙を浮かべながら叫ぶ。


 どうやら脛殺しのことは知らないらしいな。しかし、なるほど。物理耐性か。


 中々厄介な効果があるローブだな。リッチが余裕そうだったのは、この効果があったのも理由かもしれない。


 しかし、魔力無効に物理耐性………厄介な効果のローブだし、後々に面倒そうだから、早く何とかしたいけど何か…………そうだ!!


 私はあることを思い付き、直ぐに収納からあるものを取り出した。


「スケルトンA!!」


『むっ!?』


 取り出したもの………透明な液体が入った瓶を、スケルトンAに投げ渡す。


 スケルトンAはそれをパシッと受け取った。


「そいつをリッチに…………リッチのローブにかけて!!」


『?…………何か知らぬが了解した』


 スケルトンAは戸惑った様子だが、了承の返事と共に瓶のコルクを抜く。そして、中身のドロリとした液体をリッチのローブ目掛けて振りかけた。


『ハッ!な、何をする気か知らないが、このローブに傷一つ付けるのは深野だ!!このローブは…………へっ?』


 ローブを自慢していたリッチだが、唐突に間の抜けた声を上げる。


 なぜならば、その自慢のローブ………それが液体を振りかけられた部分からジューと溶けていたのだ。


『な、なんぞこれぇぇ!?わ、我………私のローブがぁぁぁ?!』


「アハハ!!効果は抜群ね!!どうよ、ローショリーチの『服だけ溶かす特殊粘液』は!?」


 そう、この透明な液体。実は以前に依頼で討伐したローショリーチの粘液なのだ。


 ローショリーチは生物の雌にだけ反応し、服だけを溶かす溶解粘液を吐き出すのだ。しかも、この粘液は体に無害であり、人体には何の影響も及ぼさないというご都主義。


 ついでに言えば、ローショリーチは服を溶かすだけで後は何もしないという。溶かした服を餌にする訳でも、服を溶かした生物から血を吸う訳でもなく、本当に何もしないのだ。しかも、蛭のくせして餌は血ではなく、沼に住む微生物だという。


 神はなんでこんな生物を創造したのか。謎である。


 無論、これもエマリオさんから貰ったものだ。『いつか使って下さい』と言われても、使いどころがないと思っていた死蔵品。まさか、こんな形で活躍するとは…………。


 エマリオさんも想像しなかっただろ。


『な、なんぞそれはぁぁぁ?!』


 リッチは驚きの声を上げながら、必死にローブに付いた粘液を拭おうとする。だが、逆に液体が広がり、どんどんローブが溶けていく。


 魔術無効だの物理耐性の効果はあったが、溶解液耐性はなかったようだ。


 それなら…………。


「スケルトンズ!新しい粘液よ!!」


 私は更に粘液の入った瓶を出すと、スケルトンズに向かって投げた。


 スケルトンズはそれを受けとると、暫し迷いながも、蓋を開けて次々にローブにかけていく。


『なっ?!き、貴様ら止めよ?!この………ファイヤー………』


「させるか!シャオラァァァァ!!」


『ギニャァァァァァァァ?!』


 リッチが魔法を繰り出そうとしたので、寸前で脛殺しで強制終了させる。


 痛みに悶え、隙を見せた瞬間に収納から更なるアイテムを取り出す。


「スケルトンズ!!『ピンキーローション』よ!!動きを阻害できるから、ついでにかけちゃって!!」


 そう言って更なるアイテム。スケルトン対策のピンキーローションも渡した。


 受け取ったスケルトンは、かなり戸惑った様子を見せていた。


『あの…………これって?』


『深く考えるな弟よ。言われたままに行動するのみだ………』


『あ、あぁ…………』


 スケルトンズは暫し戸惑っていたが、結局は私の指示通り、次々とピンキーローションやらローショリーチの粘液をリッチにかけていく。


『なっ?!なんだこのヌルヌルの液は?!貴様ら止め…………滑るぅ?!クソッ!エクスプロー………痛いぃぃぃ!?』


 ローションをかけられたリッチは、更に動きとれなく。


 それでもリッチが動こうとしたり魔、魔法を唱えようとした瞬間に、私はその動きを脛殺しで止める。その隙に順調にローブはを溶かし、体中をヌルヌルにして更に自由に動けなくする。


 暫くの間、そんな完璧な連携が続いた。


「シャオラァァァァ!!」


『ギィヤァァァァァァァ?!?!も、もう止め…………イヤァァァァ?!』


 


 


 

 ◇◇◇◇◇


 

『ハァ……ハァ………ハァ………』


 スケルトン達が囲む中心で、リッチが息も絶え絶えに、青白い肌を紅潮させ、目も虚ろに放心状態で横向きに倒れていた。


 呼吸は荒く、胸が上下に頻繁に動いている。


 その身体は一糸も纏っておらず、青白く染み一つ無い裸体を惜しみなく晒している。


 しかも、身体全体と寝転がる床一面がヌメヌメとした粘液で覆われており、非常にエロティックな光景となっている。


 というか、完全にレイプされた事後の図となっている。


 実際はローションと粘液かけて、脛殺しで攻めただけだが、完璧に犯罪現場の光景だ。


 ヤバい。正直、やり過ぎたわ。


 途中から妙にテンションが上がってしまい、スケルトン共々攻めに攻めまくったが、まさかこんな犯罪現場的な光景になるとは…………。


 我ながらドン引くわー。


『主よ。少々やり過ぎなのでは?』


『これは…………ちょっと………』


『だ、だな…………』


 スケルトン達もドン引いてるわ。


 うん、やり過ぎたわ。


 中身凶悪なリッチでも、見た目が十代の少女ってのがアレだね。


 マジで調子乗りすぎたわ。


 どうすべきとジャンクさんを見てみれば…………。


 

「やべぇ………マジでヤバい」


 踞ったまま動く気配がない。というより動けないのだろう。


 これだから男は…………。


 

 まぁ、取り敢えず、これはこれでリッチを倒したということでいいのかな?


 

 後処理が大変そうだが…………。

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