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31話 大樹の墓場の遺跡 その7

遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。仕事の関係で投稿が遅くなり申し訳ありません。

今後も仕事の都合で投稿が遅くなるかもしれませんが、今年もよろしくお願いいたします。

『ここから下が地下四階だ』


 スケルトンAの案内のもと、私達一行は遺跡の地下四階へと下りる階段前までたどり着いた。


 その階段は石造りのしっかりとしたもので、これまで下りてきた階段と同じように見えた。だが、ここの階段の壁にはこれまでと違い、見事な彫刻等が彫ってある。


 ただ、なんか人間と魔物が争うようなデザインや、リアル目玉の彫刻のため、美しさよりも不気味さが際立っている。


 まして、暗い通路だ。松明に照らされた彫刻は、恐怖の対象以外の何物でもないだろう。


 ピラミッドとかにある後世に伝えるための何らかの碑文っぽいが、意味が分からないし怖気が走るので、あまり直視はしたくない。


 というか、ところどころにしつこいくらいにリアルな目玉の彫刻なんかがあるのは何なの?めっちゃ視線を感じる気がして嫌なんだけど??


 この遺跡を造った人の趣味悪くない?


「な、なんか………上はそんな感じはしなかったのに、下は急に不気味な場所になりましたね?特にこれなんか、地獄の入り口みたいな階段ですね………」


「確かにな………実際、似たようなものなんだろう………」


 ジャンクさんも同じように感じていたらしく、眉間に皺を寄せて階段を見つめていた。


「まぁ、取り敢えず。行けるところまで行ってみよう。ザッドハークとも合流しなきゃいけねぇし、手ぶらで帰るのも何だしな。ただ、邪悪骨竜(スケルタリードラゴン)はともかく、リッチに見つかると厄介だ。極力、リッチには見つからないように進んでみよう」


「そうですね。邪悪骨竜(スケルタリードラゴン)はともかく、リッチには気をつけないと」


 ジャンクさんの意見に同意を示すと、横からスケルトンAが怪訝な様子で声をかけてきた。


『普通はリッチよりも上位のスケルタリードラゴンを警戒するものだがな。………というより、先程の話は本当なのか?にわかには信じられないのだが……』


 疑うような声色で聞いてくるスケルトンAに、私は自信を持って答えた。


「うん。絶対スケルタリードラゴンは討伐されてるから」


 そう。この遺跡のボス的存在のスケルタリードラゴンは、既に私の仲間によって討伐されたことを伝えたのだ。


 入り口であったこと…………それをそのままスケルトン達に話し、スケルタリードラゴンの最後を教えたのだ。


 とは言っても半信半疑なようで、スケルトン達は未だに疑惑の目で私を見てくる。


 目はないけど、そんな感じがするのよね。


 ん、まぁ……仕方ないかな。いきなり自分達のボスだった奴がもう死んでます………なんて信じられる訳がないか。


 というか、ザッドハークの理不尽さは、実際に目にしなきゃ伝わらないか。


 下に降りれば…………リッチがいるから通れるか分からないけど、降りていけば分かるかな?


 てか、下手すればリッチも今頃はザッドハークに討伐されてたりして?


 ……………………十分にあり得るな。


「まぁ…………下の様子を見てから、信じられれば信じてよ」


『ウム………。まぁ、主が言うなそうするが………』


 私の言葉に、スケルトンAが渋々と言った様子で頷く。


 それを横目で確認すると、私は気になったことを聞いてみた。


「それでさ………リッチは五階にいるんでしょ?手前の四階には何かあるの?なんか雰囲気が一変したんだけど?」


 急に階段の模様などが変化している。こういった場合は、何らかの意味などがあるはずだ。


 だったら、遺跡の内情に詳しいスケルトンが知っている筈だ。


 罠やお宝があるのであれば、教えてもらうに越したことはないしね。


 特にお宝とか。


 スケルトンは顎に手を置いて考え込むと、ゆっくりと説明を始めた。


『四階………には特にこれといった罠やなんかはないな。ただ、強いて言うならば、スケルトンの詰所になっているというぐらいか………』


「スケルトンの詰所?!」


 思いがけない答えに、驚愕して叫ぶ。


「ス、スケルトンの詰所って何?どういうことなの?!」


『詰所は詰所だな。他のスケルトン達が多数待機している場所だ。我々スケルトンは、交代制で一階から三階を巡回しているからな。大体、三体から五体の数で班を組んで、当番の班が巡回を行い、その他は四階で待機しながら休むのが常で、何か班で対応できないことがあれば応援を呼ぶことになっている。無駄な労働は極力抑えて、休む時は休む。効率的かつ合理的に仕事を回すには、体を休ませるのが基本だ………というのがリッチの指示だったからな』


 スケルトンAは淡々とスケルトン達の勤務体制を説明してきた。


 なんだその見た目ブラックに対する、中身ホワイトな労働環境は?


 魔物と言えば、ゲームなんかでは無造作にエンカウントするからどこにでも沸いてくるイメージがあったけど、しっかりと労働体制が整ってんじゃないの?


 そりゃ、こいつら以外の魔物と出会わない訳だ!!他は休んでんだもの。


 なんかそのリッチが急に良い人?に思えてきたんだけど…………って、そうじゃない!!


「ねぇ。だったらこの先は危険じゃないの?スケルトンが一杯いるってことでしょう?」


 この先はスケルトンの詰所になっている。つまりは敵がわんさかいるところに突っ込むことになる。


 それを懸念してスケルトンAに聞くと、スケルトンAは何でもないように話してきた。


『確かに。このまま真っ直ぐに進めば、待機組のスケルトンに出くわすことになる。巡回組に何かあった時でも対応できるように、この先には何体かのスケルトンがいる』


「なら………」


『だが、従業員通路を通っていけば大丈夫だろう。従業員通路の先にはスケルトン宿泊所があって、そこにはベッドに入って休んで寝ているスケルトンしかいないから、大きな音を立てなければ安全に進める筈だ。それに、リッチの部屋の裏にも通じるから、リッチに会わなくてすむ』


「……………………あるんだ。従業員通路…………」


 それしか言えなかった。


 そうか。遺跡にもあるのか………スタッフオンリーとかいう、従業員しか通れないような通路が………。


 いや、確かに従業員用の通路がなければ不便だよ?特に、こんな大きな場所だったら?目的地にいちいち罠やなんか掻い潜って行くのは大変だろうしさ………。


 それにリッチに会わなくて済むのは大きい。


 たださぁ………なんか釈然としないんだけど?


 入り口の像の下に鍵あったりとか………なんか妙に納得できない。


 なんか遺跡というより、何かのテーマパークかお化け屋敷にでも来た気分になる。


「なぁ………なんか従業員通路とか聞こえたが、何のことだ?」


 釈然としない気持ちでいると、私の呟きが聞こえたのかジャンクさんが詳しい話の内容を聞いてきた。


 私はスケルトンAから聞いた話をそのまま説明すると、ジャンクさんもまた、釈然としない…………何とも言えない顔となった。


「城やギルドの建物じゃないんだがらよ…………従業員通路はないだろ………」


 ですよねー…………。


 ジャンクさんも同じ意見らしい。


 いや、誰だってそんな気持ちになるだろう。


 まして、ジャンクさんは遺跡に対して並々ならぬロマンを感じていたようだし、従業員通路なんて現実的使用なものがあったら、そのガッカリ度もひとしおだろう。


「でも、まぁ………なんだ………。安全に進めるなら、それに越したことはないんだろうがな………」


 だが、釈然としない気持ちながらも、ジャンクさんは前向きに検討したようだ。


 遺跡へのロマンよりも、探索を優先したんだろうな。


 うん。まぁ、ジャンクさんの言うとおり、敵に会わずに進めるならそれが一番だね。


 私達は釈然としない気持ちを抑えつつ、スケルトンAを先頭に暗く不気味な階段を降りていった…………。


 


 


 


 

 …………かと思えば、数段下がったところでスケルトンAが立ち止まった。


 そして、壁にある目玉の彫像へと手を押し当てた。


 すると『ガゴン』と目玉が押され、『ゴゴゴン』という重厚な音と共に目玉の彫像があった部分の壁が開き、隠された入り口が現れた。


 開いた入り口の先には緩やか階段となっており、人が三人横並びで歩ける程の広さがあった。


 これが例の従業員通路らしい。


『ここが従業員専用の通路だ。この先を降りればスケルトン達の宿泊所がある。下手に騒げば起こしてしまうから、静かについてきてくれ。』


 そう言うと、スケルトンAは慣れた足取りで、先に降りていった。


 それにスケルトンBとCも続いていき、入り口には私とジャンクさんが残された。


「…………本当にありましたね。従業員通路。しかも、こんな近くに」


「あったな………従業員通路。別に文句を言いたい訳じゃないが………遺跡探索って、こんなんでいいのか?」


 更に釈然としない気持ちを抱えながらも、私達はスケルトン達の後を追って、従業員通路の階段を下っていった。


 


 


 


 



 ――階段を暫く降りて行った先。


 そこには、大きな地下空洞が広がっていた。


 ドーム状の五十メートル程の空間で、天井までの高さは三十メートルはある。壁には均等に並んだ幾つもの四角い横長の穴があり、そこには黒い箱のようなものが置かれていた。


 空間内は妙にカビ臭く、兜の空調機能をもってしても、多少の臭いを感じた。


「うわっ………広………。これが例の宿泊所ってやつ?」


『あぁ、そうだ。ここは本来の正面階段を降りた部屋の裏側にあたる。我々はここで寝泊まりをし、有事の際にはいつでも飛び出せるようにしてるのだ』


 成る程…………と思いながら周囲を見るけど、話にあった休んでいるスケルトンの姿が見当たらない。


 …………全員出払ってる?


「ねぇ。スケルトン達の姿が見当たらないんだけど?」


『他のスケルトンか?それだったらベッドに入っているだろう』


 スケルトンAは、壁にある穴。正確には、そこに置かれた黒い箱を指差した。


 黒い箱…………えっ?まさか?


 恐る恐ると壁へと近づき、そこにある黒い箱をよく見た。


 やはりと言うか、何と言うか、その黒い箱は所謂『棺桶』というやつだった。


 黒く塗られたボロボロの木製の棺桶で、ところどころには蜘蛛の巣が張っていた。


 ベッドってこれかよ………いや、確かに死者のベッドといったら、これだろうけどさ…………何とも不気味だ。


「地下墓地………みたいなもんか?昔は集団で埋葬する風習があったらしいからな。ここもそれの名残だろう」


 この空間を見渡しながら、ジャンクさんが説明してくれた。


 確か、ヨーロッパでも同じような集団地下墓地があるって聞いたことがあるね。


 というか、映画やドラマでそんなシーンがあったような気がする。


 言われみれば、そのまんまな場所だね。


 そんな事を考えながら棺桶を見ていると、スケルトンAが小声で話しかけてきた。


『あまり音を出さない方がいい。蓋が閉まっている場所には寝ている者が入っている。下手をすれば起こしてしまう。中には眠りの浅い者もいるからな』


 スケルトンAからの注意を受けて口をつぐみ、目の前の棺桶を改めて見る。


 言われみれば、棺桶が時折カタカタと揺れる時がある。


 多分、中で身動ぎしてんのかな?


 てか、これ全部にスケルトンが入ってんの?だとしたら、相当な数なんだけど?


 見た感じ、百近くはありそう………。


 うわ。これと戦うのは流石に勘弁だね。ローションが足りないわ。


 …………武器や装備よりもローションの量を心配する勇者の私って。


『うぅん…………もう食べれない』


 うわぁ。目の前の棺桶の中からベタな寝言も聞こえてきた!?


 いや、スケルトンが何を食べてんだよ??胃も舌もないだろうがい!?


 そんなツッコミも覚えたが何とか抑え込み、更に先へと進むスケルトン達の後を追った。


 下手に起こして、あの場のスケルトン達と戦闘なんて嫌だからね。


 …………またローションをかけまくることになりそうだし。


 あんな戦闘と言えない戦闘は、やる方としても嫌だ。


 そんな訳で、宿泊所という名の集団墓地から足早に暫く歩くと、またもや下へと降りる細い階段の通路が現れた。


『ここは地下五階のリッチがいる部屋…………の裏側を抜ける従業通路へと続く階段らしい。この先を行けば、リッチと会わずに五階を素通りできる筈だ』


「らしいとか、筈だとかって、確定ではないんだね?」


『普段、ここより下にはほとんど行くことはないからな。時折、リッチに呼ばれて赴くことはあるが、それ以外では我々が近付くのをリッチが嫌がるのでな』


「ふぅーん」


 まぁ、知らないなら仕方ないか。案内するときにもそんな事言ってたし。


「じゃあ、一応はリッチと会わずに進めるってことでいいの?」


『多分だが、会わずに済むと思う。この下はリッチが普段いる部屋の裏にある通路に繋がっている。リッチは普段は部屋に籠っていて、滅多に出てくることはないからな。余程、運が悪くない限りは出会わない筈だな』


「なんかそう言われると、既にフラグが立っているような気がするんだけど?」


 運が悪くなきゃ出会わないなんて………そんなん言われたら、逆に出会いそうな気がするんだけどな…………。


 でも、まぁ………ここまで来たら信じて進むしかないのかな?


 一応はここまでは案内通り、安全に進むことができてたしね。


「うん…………よし!じゃあ、案内して。ここまで来たら貴方達を信じて進むよ」


 意を決してそう言うと、スケルトンは自信満々な様子で、親指をグッと立てた。


『任せよ。ここまで来たならば、安全に主を案内してみせよう。何、安心せよ。多分とは言ったが、リッチは本当に滅多に部屋を出ない。九分九厘、会敵することもない』


『あぁ!ドンッと俺たちに任せときな!!兄貴の言うとおり、あの引き籠りのリッチ野郎は本当に出てこないからな。よっぽど騒がねぇ限りは見つかることはねぇよ!!』


『ま、まかせるんだな!あ、あにきのいったとおり、りっちとあうなんてことは、きっとないんだな』


 


 


 


 


 


 


 


『ほう…………愚かなる侵入者よ。まずは、よくぞここまで来たと誉めてやろうぞ。』


 豪奢な黒いローブを纏い、頭には王冠を被り、手には禍々しい杖を持つ骸骨の魔物…………リッチが、宙に浮きながら眼窩に灯る赤い炎の瞳をこちらに向けていた。


「おい嬢ちゃん!?どうなってんだよ!?話と違うぞ?!?!」


「ちょっと待って下さい。よし、あんたら、そこに一列に並びな。弁明があるなら今の内に聞いてやるわ」


 手に持つ剣助をトントンと持ちながら、申し訳なさそうに身を屈めるスケルトン達をジロリと睨む。


 結局、お約束のようにフラグを回収してしまった。


 階段を降りた先はスケルトン達の言うとおり飾り気のない通路になっており、ところどころに物が乱雑に置いてあることから、通路兼倉庫として使われているような…………まさに裏の通路といった感じだった。


 だが、その通路で…………私達は普通にリッチとエンカウントしてしまった。


 それはもう、唐突と言うか、降りた先に普通にいたのだ。


 私に睨まれたスケルトン達は、慌てたように手を振りながら弁論を始めた。


『いや、違うのだ!!本当に誤解だ!!まさかリッチが通路に出て来てるとは思わなかったのだ!!別に罠とかじゃなく、本当に偶然なんだ!!』


『あ、兄貴の言うとおりだ!!だってあいつ、俺たちと目が合った瞬間『えっ?なに?』って、素のリアクションだったろうが!!あんな演劇みたいな口調じゃなかっただろ?!』


『そ、そうなんだな!そこから、あわててちゅうにとんで、いまのぽーずをとってたんだな!』


『ウム!事前にここに来ることを知っていたならば、あんな反応は出来ない筈だ!!それに良く見てみろ!慌ててた証拠に、王冠を逆に被ってるぞ!さっきまで完全にオフ状態だった証拠だ!!あんな重苦しい王冠、常日頃から被っている筈が…………』


『貴様ら五月蝿いぞぉぉぉぉぉ!!』


 リッチが頭の王冠を被り直しながら吠えた。


 あっ。うん、あの様子から、リッチからしても予想外だったみたいだね。


 よく見れば、ローブとかも着崩しているし…………。


 リッチは空中で色々と着ているものを手直ししながら、憎々しげにこちらを見ていた。


『クソが………偶々裏通りにある荷物を取りに来てみれば………まさか侵入者がいるとは思わなかったわ。それも、スケルトン共を引き連れて………。ここまでの道は、そやつらに案内させたのか?そこの人間よ?』


 忌々しそうな口調で話しながら、リッチはこちらを…………正確にはジャンクさんを指差した。


「えっ?俺??」


 突然の指名にジャンクさんが慌てる。


 というかジャンクさん、リッチの言葉が理解できてる?…………そういえば、高位の魔物のリッチは人語を喋れるとか言ってたような………。


 だからジャンクさんにも理解できているのか。


 私は盾の力で普通に聞こえるから違いは分からないけど…………。


 てか、なんでジャンクさん?貴様しかおるまいって、私も一応はいるんだけど?


 そんな疑問を覚えるも、身支度を終えたリッチは、腕組みをして忌々しげにジャンクさんへと眼窩の炎を向けだした。


『フン。貴様しかおるまい、人間よ。見たところ、人間の冒険者というやつか?フム………しかも、魔物を操る魔物使いか。中々の力量を持っているようだな』


 リッチは忌々しそうな口調ながらも、どこか畏敬を込めたような感情が伺えた。


 しかし、魔物使い?ジャンクさんが?いや、確かにスケルトン達を率いているけど、なんか勘違いしてないかな、あのリッチ?


『まず、我が配下たるスケルトンを己の支配下においたこと………これは別段驚くことではない。我が配下といっても下級の存在。奪われたところでさした問題にはならぬ。だが…………』


 リッチはスッと腕を上げると、その指先を私に真っ直ぐ向けてきた。


『高位の魔物たる『悪魔騎士』を配下にしているとは驚くべきことよ。しかも身に纏う禍々しさ………悪魔騎士の中でもかなり上級の存在…』


「魔物じゃねぇぇよ?!」


 私は兜を外し、リッチに向かって叫んだ。


 なんかおかしいと思ったら、こいつ私のことを魔物扱いしてやがったのかよ?!


 しかも悪魔騎士って…………。


 確かにそんな感じの格好だろうけど、こちとら正真正銘の人間の乙女じゃわ!?


『なんと?!人間だと?!て、てっきり魔物かと………。そ、それにしては身に纏うオーラが禍々しいというか、殺伐としているというか………』


 リッチが心底驚いたというように、顎を外しそうな程に口を開いていた。


 おい。こんな乙女を捕まえて、禍々しいとか殺伐って何だよ?


『あ、兄貴…………あいつって女だったのか?俺はてっきり男かと………』


『私もだ。鎧の中身は、全身傷だらけの歴戦の猛者とばかり………』


『お、おれはじゅうじんのおとこかと…………』


 私の背後で、スケルトン達がヒソヒソと兜を取った私の話をしているのが聞こえる。


 リッチが片付いたら、覚えてろよあんたら。


 だが、まずは目の前のリッチだわ。


「そこのリッチ!こんな乙女を捕まえて殺伐とか禍々しいとか、悪魔騎士だの狂暴だのと好き勝手に言ってんじゃないわよ?!あんたの目は節穴か!」


『狂暴とは言っとらん!!そもそも、そんな格好をしていれば間違うのも無理なかろう!!というか、その装備呪われてるだろ?!溢れでる呪詛が半端ないわ!?そんな呪いまみれの装備を着ける人間など、想像もせぬわ!!』


「くそっ!正論言いやがって!?」


『それに好き勝手と言うが、それを言うならこちらの台詞だ!!スケルトンの案内を使って、従業員用の裏口から来るのは無しであろう?!事前に侵入者を待ちわびる部屋や罠、登場時の仕掛けや台詞など、様々なものを考えて準備しているのだぞ?!そんなこちらの努力を無視して、裏から来る輩に好き勝手言われたくないわ!!』


「くそっ!ごもっとも!!」


 このリッチ、中々に正論をぶつけてきやがる!!


 いや、確かに私達の方がかなり外道なことをしている自覚はあるけど。


 しかし、侵入者を待ちわびる部屋とか罠って………そもそもどうなの?前提として、侵入者が入らないようにすることに努力を向けろよ。迎え入れる気満々じゃん?


 てか、遺跡の鍵を像の下に置いてんなよ。


 そんな疑問を感じていると、一通り愚痴を言い終えたリッチは、手に持つ杖を構えた。


『まぁ良い。罠やら仕掛けは無駄になったが、ここで貴様らを始末すればいいだけのこと。この封印の地に侵入したものは、何人だろうと始末せねばならん。恨むなら、ここに来た自身を恨むがよい!』


 リッチはおもむろに杖を高く構えた。すると、リッチの上に巨大で複雑な赤色の魔方陣が出現した。


「な、何あれ?ジャンクさん?!なんですかアレ?!」


 突然現れた魔方陣にテンパり、ジャンクさんに問いかけるも、ジャンクさんも相当な焦り顔となっていた。


「わ、分からねぇ!見たこともない魔方陣だ!!ただ、ヤバいもんだってのは理解できた!?」


「それは私にも分かりますよ?!」


 ダメだ!ジャンクさんが役立たずになってる!?取り敢えず兜を被って、それから………ど、どうし………そうだ!!スケルトン達に聞けば………。


『な、なんだアレは?!あんな魔方陣見たことがないぞ!!』


『あ、兄貴!!も、もう駄目だぁ!』


『た、たすけてくれなんだな!?』


 スケルトン達は怯えた様子で私の背後に隠れていた。


 駄目だ!!こっちも役立たずだ!!


 そんな私の心境を無視し、リッチは尚も魔方陣を展開し、より複雑に、より巨大魔法陣は成長していく。


 攻撃して止めようにも、宙に浮いているから攻撃が届かない。


 剣助の技は遺跡が崩落する恐れがあるから使えない。


 最強のスキルたる『脛殺し』は、痛覚の無いアンデッドには無意味。


 完全に手詰まりだ。


『さて侵入者よ。光栄に思うが良い。この遺跡の守人であり、実質的支配者たるこの私。リッチの中のリッチ。エルダー=リッチのハンナ=ミュラコスフの第十位魔法『極大滅炎魔法メギド』にかかって死ねるのだからな!!』


 リッチの嘲笑とともに投げかけられた言葉に唖然とする。


 あのリッチ…………今…………なんて…………。


『フハハハハ!!驚いたか?だが、無理もあるまい!第十位魔法など、使えるものは少数…………いや、ほとんどいないとされる術だからな!!貴様らが驚くのも…………』


「あんた!?ハンナって………名前からして、もしかして女なの?!」


『驚くのはそこかぁぁぁぁ?!?!』


 リッチが顎を大きく開いて絶叫する。だけど、私としてもかなりの驚きだったんだけど。


「ちょ?!嬢ちゃん?!驚くポイントが違うだろうが!?今はそこじゃねぇだろうが?!」


「だって、あいつ女なんですよ?!喋り方や声から、完全に男と思ってたんですけど…………いや、歳をとったらジジイとババアの境がなくなるって言いますけど…………マジみたいですね」


「いや、歳を喰う以前に骨だからな?!骨から男と女の違いを見つけるのが至難の技だからな?!てか、魔法に食い付けよ?!第十位魔法だぞ?あの伝説の――」


「すいません。魔法詳しくないんで。凄いんですか?第十位って?」


「そこからか?!いや、凄いよ第十位?!各属性魔法の頂点だぞ?!頂点!?伝説になるくらいメチャメチャすげぇんだぞ?」


「へぇ――…………」


「絶対分かってねぇ?!どうすれば理解…………ほら、あれだ!?ザッドハーク並みにヤバい!!」


「?!?!…………それを先に言って下さいよ!?尋常じゃなくヤバいじゃないですかぁぁ?!」


「やっと理解したかぁぁ!?てか、比較対象は一応はお前の仲間だからなぁぁ?!」


 ジャンクさんの例えから、今から繰り出されるであろう魔法のヤバさを理解した。


 同時に、リッチが魔方陣の展開を終えたらしく、悠々とした雰囲気で両手を開いた。


『何と比較されて理解したのか知らぬが…………取り敢えず、我が魔法の恐ろしさは分かったようだな。なれば、その恐怖を抱いたまま…………死ぬがよい』


 リッチが宣言を終えると、魔法陣が青白く光だした。


 


 


 瞬間――私達に向かい、凄まじい威力の青白い炎が魔法陣から吹き出した。

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