2話 鑑定とスキル
「うむ……まぁ、勇者として、世界救済の任を受け入れてくれたこと……感謝する」
何か釈然としないような。歯切れ悪い口調で感謝を述べてくる王様。
王様の願いには答えず、王子様のお願いには即答したのが気にかかるらしい。
いや、それは仕方ないでしょう?
恋に恋する華の女子高生にとって、油ギッシュなおじさんの願いよりも、爽やかなイケメンのお願いには応えたいというのが乙女心というものよ!
「勇者様!魔王討伐を引き受けて頂き、真にありがとうございます!」
ほら!イケメンさんの爽やかスマイル。これだけでご褒美ですよ!ご飯が3杯はいけますよ!
「あの…………私の名前は愛原香といいます。ですので、名前で呼んで頂ければ…………」
「承知しました。カオリ様」
きゃー!イケメンに名前呼ばれちゃった!
「うむ…………まぁ、そのあれじゃな…………まずは何をするのにも、カオリ様ご自身のお力を確認した方がよかろう」
テンション最高潮の私に、水を差してくる王様。名前呼びはオッサンには許可しとらんよ。
「………確認………ですか?」
「急にテンションが下がったようじゃが……解せぬ……」
確認と言われても何をすればいいのだろうか?まさか剣を振ったり魔法を放ったりとか?いやいや無理よ!?剣なんて重いものを持ったことはないし、魔法なんて使ったことがない。小学生の時に『ファイヤーボール!』って部屋で1人で唱えたことはあるけど何も出なかったもの。
火の玉が現れる変わりに、お母さんが襖を開けて現れただけ。めちゃくちゃ慈愛に満ちた目で。
あれ以来、詠唱とか呪文はトラウマだからね。
「確認…………と言っても難しいことではない。伝承の通りならば、勇者様は女神の加護により幾つかの能力を与えらておるそうじゃ。その中の1つが、あらゆる物事の真贋を確め、真実を写し出す『鑑定』という力があるらしい。能力名を唱えながら、それで己を見てみるが良い」
おっ…………おぉ…………鑑定きたぁぁぁ!!
異世界ものの定番!!あらゆる真実を暴く鑑定さん!その力が私に!?これは試すっきゃない!!
よし!じゃあ早速…………自分の手でも見ればいいのかな?
「『鑑定』」
早速自分の手を見ながら鑑定を唱えてみる。すると、視界の中に文字が現れてきた!
おっ…………おぉぉぉ!凄くない?!なんか感動する!本当に鑑定できたんだ!じゃ、じゃあ早速、私のステータスは…………。
『鑑定結果』
愛原香の右手
状態:カサカサ
捕捉:水分が足りません。寝る前にクリームを塗るなりの対処をとりましょう。
「部位しか見れんのかい!?」
「うぉ?!」
「ゆ、勇者様?!」
ま、まさかの鑑定結果だ…………。
てっきり自身のステータスでも見れるのかと思えば、まさかの手だけの鑑定結果とは………。
しかも、状態最悪だし………。対処要領まで指摘されているし………。
もしかして、全身を見なきゃステータスが出ないとか?
試してみよう。
「『鑑定』」
取り敢えず、目の前にいる手頃な王様でも鑑定してみようかな…………。
王様が手頃ってのもあれだけど……まぁ、いいか。
さて、どれどれ…………。
『鑑定結果』
名前:アンデール=ナンデール=ネルネール=アンデル15世
種族:人間
称号:『アンデル国王』
職業:王様
状態:通常
Lv:22
HP:65/180
MP:30/30
筋力:F
知恵:E
旋律:F
魔力:E
幸運:F-
スキル:号令・王気(小)
捕捉:アンデル国の15代国王。やや体脂肪率が高い。中性脂肪を下げる為にも、菜食を心掛けよう。
ビンゴ!やっぱステータス見れたよ!そうか全身を見なきゃいけないのか!!レベルや細かい情報も表情されている!体力が多少減ってるけど…………まぁ、大丈夫でしょう!私のせいじゃないわ!きっと!
えっと、詳しく表示された内容は……ほうほう、レベルと称号。それに筋力に知恵に旋律、そして魔力と幸運と……スキルか。
まぁ、小説とかの鑑定と同じような基本的な内容だね。で、その表示はアルファベット表示なのか………。妥当に考えれば、強い順にAからFって感じなのかな?
こういう場合は数値で表示されると思ったんだけど……まぁ、寧ろ簡易的に表示されていて見やすいかな。
てか、王様幸運低っ?!-って何よ?-って?
この国大丈夫か?!
下の捕捉については…………何だろう?対象の健康状態と対処方しか出ないのだろうか?
スキルも…………おっ?スキルに焦点を合わせたら視界の文字が変わった!?
スキル:王気(小)
説明:王たる者が持ちし覇気。周囲の者を萎縮させ、王たる異様を見せつける力。
(小)であれば、多少周囲の空気をピリッとさせる程度。受けた者はよく静電気と勘違いする。
王様スキルしょぼ!?静電気と同程度の威圧感って?!覇気も糞もないじゃないの?!
あー…………でも理解できたわ。スキルに焦点を合わせると詳しい内容が見れるのね。了解、把握したわ。
「勇者様?今…………儂を鑑定なさったので?」
「あっ?はい。ちょっと試しに見てみました」
「ほぅ…………して?儂はどうじゃったのかのう?」
興味津々に聞いてくる王様。自分の能力値が気になるらしい。まぁ、教えてあげてもいいか。
「脂肪が付きすぎのようです。野菜中心の食生活にしてください。後、静電気に負けないように頑張って下さい。それより鏡貸して下さい。全身が写るようなやつを」
「一体何が見えたんじゃ?!」
「鏡ですか?準備させましょう」
見たまんまを報告したのに、王様が何か驚愕して喚いている。
無視だ無視。
いちいちオッサンの言動には付き合ってられん。それに、取り敢えず早く自身の能力値を見てみたいからね。
王子様の方は話が早くて助かる。
でも、王様の値を見たところで高いのか低いのか分からないな…………。
もう1人くらい見ておくか。
どれ…………やっぱりここは王子様でも見ておくか。
「『鑑定』」
『鑑定結果』
名前:ケテイール=ナンデール=ネルネール=アンデル
種族:人間
称号:『光の御子』
職業:王太子
加護:光の大精霊
状態:普通
Lv:40
HP:320/320
MP:150/150
筋力:D
知恵:B-
旋律:C
魔力:AA
幸運:A
特殊スキル:光の奏者
スキル:号令・王気(大)・光気闘法・光魔法・執務(大)・交渉(大)・指揮(大)・政務(大)
捕捉:アンデル国の次代を担う王太子。数百万分の1の確率で生まれた突然変異。光に愛され、民を愛する優しき心の持ち主。まず間違いなくモテる。現在独身。
「おや?カオリ様?今、私も鑑定されましたか?僭越ながら、結果を教えていただいても?」
「大丈夫です。次代のアンデル王国の未来は明るく、より素晴らしい繁栄が約束されています」
「どういう意味じゃぁぁ?!カオリ様!何が見えたのじゃぁぁぁぁ?!」
王様が何か喚いているが無視だ。
取り敢えず…………王子様スペック高けぇぇぇ?!称号とか能力値とかスキルとか、王様の比じゃないわぁぁぁ!?何か加護もあるし!?マジで王子様、半端ないわ!!しかもフリィィィィだと?!鑑定さんありがとう!!本当に感謝します!!
これはもう、ツバをつけていいよね?狙っていいよね?やっちゃいなって事だよね?!よっし………ここは勇者の立場を最大限に利用して…………。
「おや?鏡が届いたようですね?」
私が王子様に対する策略を巡らしていると、兵士さん達が立派な造りの姿見を持ってきてくれていた。そして、それを私の目の前に設置してくれた。
ふぅ…………落ち着きなさい香。変にガツガツしたら駄目よ。あんまり肉食過ぎる女子はドン引きされるからね…………クールよ。クールになるのよ。
できる女を演じるのよ。
今は一度落ち着いて、自身のステータスの確認をしましょう。
自分を落ち着かせてから設置された鏡を覗くと、そこには黒髪を肩までに切り揃えた小柄な少女…………まぁ、私自身の姿が写っていた。
鏡だし当然か。
よし。じゃあ早速見て見ましょうか。
「『鑑定』!」
私は鏡に写る自分自身の姿を鑑定してみた。すると、視界に文字が映りだしていた。
『鑑定結果』
名前:愛原 香
種族:人間
称号:『脛破壊の勇者』
職業:勇者
加護:女神
状態:興奮
Lv:1
HP:120/120
MP:40/40
筋力:D-
知恵:D
旋律:E
魔力:D
幸運:E
勇者固定スキル:鑑定・言語理解・勇者の証・収納
特級スキル:『脛殺し』
残り空欄転移ボーナススキルスロット:4
スキル:小物作り・ツッコミ(中)・速読(中)
捕捉:新たに異世界から召喚された勇者。召喚されて早々に王や近衛達の脛を破壊した脛破壊者。今後、どのような伝説を残していくのか楽しみである。
「………………………………」
「ど、どうしましたカオリ様?突然、恐ろしい程の真顔になってしまわれましたが?」
横から王子様が語りかけてくるが、それどころじゃない。
能力値。これについては文句はない。レベル1にも関わらず、レベルが22の筈の王様よりも高いから相当に勇者としての補正が入っているのだろう。今後の事を考えれば、まだまだ能力値は上がるだろう。
だが、しかし…………。
この称号とスキルは何?『脛破壊の勇者』『脛殺し』?いや、意味不明なんだけど?ただの『勇者』でいいじゃないの?何で脛破壊とか入ってるの?それに『脛殺し』?何よその物騒なスキル?!しかも特級!?こんなの習得するような覚えはないんだけと?!あとこの転移ボーナススキルスロットって何よ!?めっちゃ重要そうだし!!
ちょっとどういうことなのよ?!鑑定さん!!
称号:『脛破壊の勇者』
説明:数多の脛を破壊した勇者に送られる称号。脛を破壊する上で汝に敵う者無し。全ての生物は、汝の前に膝を付いて屈するだろう。
特級スキル:『脛殺し』
説明:長年に渡り、数多の脛を破壊し、脛蹴りだけに修練を重ねた者のみが会得せし脛破壊の最終奥義。あらゆる物理的防御・事象・距離・次元を無視し、確実に狙った相手の脛を破壊・負傷させることができる究極脛蹴り技。
無駄にすげぇな?!
物理防御を一切無視って?!しかも、距離まで無視できる?遠距離からの攻撃もできるってこと?!てか、次元を無視?脛限定だけど、すごいんじゃないの?脛限定だけど。
あれ…………?でも、『長年に渡り』って説明があるけど、私ってそんなに脛を蹴ったことはないけど?寧ろ、ここに来てから蹴っていたんだけど…………。
これは一体…………?
そんな謎に私が困惑していると、王様が思い出したようにポンッと手を叩いて話出した。
「そう言えば、もう1つ伝え忘れておりましたじゃカオリ様」
「えっ?なんですか?」
「勇者様の伝説によれば、召喚された勇者様は女神様より、特別に己が求めるスキルを得られる転位ボーナススキルというものがあるそうじゃ」
「…………えっ?」
「スキルというのは本来、特殊な事例を除き、長年の修行や仕事をしていくうちに身につくのじゃ。しかし、このボーナススキルはそんな長年の修行を飛ばし、女神様の恩恵により多少の修行で一気にスキルを会得できるそうじゃよ。しかも、そのスキルの最高上位のものをじゃ!例えば、『火魔法』ならば一気に特級の『灼熱魔法』というようにのう。普通はスキルの成長は下級から中級・上級と成長し、そこから更なる修練をしたもの一部のみが会得できるのが特級じゃ。なんとも羨ましい」
「………………………………ハッ?」
「確か………最大で5個までのスキルを得られるそうじゃ。何とも有難いことじゃ。しかし、あくまで5個じゃ。きちんと選んでスキルを修行しなければ、後々後悔するぞい?それと、先も申した通り『多少の修行』でスキルを会得してしまうのじゃ」
「………………………………」
「故に、行動に気をつけなければ変なスキルを覚えてしまうからのぅ。ハハハ!儂とした事が伝えるのが遅かったのう。危うく妙なスキルを会得するところじゃったわ。まぁ、勇者様に限ってそのような馬鹿で阿保らしい事はないと…………」
その日、アンデル王国の玉座において悲痛な王の叫びが響き渡ったという。
目撃したある兵士によれば…………。
『あったことをありのままに話すぜ?勇者様が何やら構えてから低い位置に蹴りを放ったんだよ。あっ?何に?いや、何もなかったよ。何も無い宙に向かってだよ。とはいえ、随分と鋭く、しなるような蹴りだったぜ?風切り音がしたからな。そしたら離れた位置にいた王様が急に叫んだんだよ。脛を押さえながら。『すねがぁぁ!すねがぁぁ!』ってな具合にな。見れば王様の脛が真っ赤に腫れ上がってやがったよ。ありゃあ相当に痛いぜ?俺も勇者様に蹴りを喰らった時は死ぬかと思ったからな。んっ?意味が分からねぇだと?俺だって分からねぇよ。勇者様が何かをやったにしても、勇者様と王様は10ルメルト(10メートル)は離れていたし、間には近衛兵もいたからな。何か遠距離からすれば誰か気付いた筈だからな。全く不思議な話だぜ。まるで、勇者様の蹴りが次元を越えたようだったぜ?まぁ、流石に勇者様でもそんな事があるわけないか?ハハハハハハ!!』
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