24話 冒険者者生活
今回は、香の日記形式です。
私の名前は愛原香。
突然、異世界に勇者として呼ばれた女子高生である。
そんな勇者として呼ばれた私は、ザッドハークという自称暗黒殲滅騎士という見た目完全に魔王な仲間と共に、魔王を倒し、世界の平和を守れるだけの力を得るため、冒険者として活動をしながら腕を磨くことになった。
しかし、冒険者生活1日目にして色々と悲惨な目に合い、2日目にはザッドハークが精力が切れたと休養を余儀なくされた。
糞である。
前途多難な冒険者生活のため、ここに今日から日記を書いて記録を残し、今後に活かしていこうと思う。
冒険者生活三日目。
ザッドハークが復活した。復活早々に『我が倒れて心配だったか?』とふざけた事を抜かしたので脛殺しをかましてやった。
今日は再びゴブリンの討伐ということで少し怖じ気ついたが、気持ちを切り替えて討伐に望んだ。
吐きそうになりながらも、何とか二匹を仕留めた。理性が残っていた分、昨日よりきつかった。
ザッドハークは剣から生じた青い炎で、多数のゴブリンと共に森林地帯の一部を焼け野原にしていた。
あいつはやっぱりおかしい。
冒険者生活四日目。
今日も今日とてゴブリンの討伐だった。今日は三匹仕留めた。
昨日よりも多く仕留めた事に達成感を感じながらも、気持ちは重かった。
後、ザッドハークがまた多数のゴブリンと共に、焼け野原を広げた。
ゴブリン討伐に見合わない被害だと思う。
冒険者生活五日目。
今日もゴブリン討伐だった。
ゴブリン相手は大分慣れたのか、今日は六匹も仕留めた。
今日気付いたのだが、脛殺しで相手が倒れた所を狙えば楽勝だった。最初からこの手を使えばよかった。
しかし、段々と慣れてきている自分が恐ろしくも感じる。
ついでに、ザッドハークが焼け野原を広げるのにも見慣れてきた。
冒険者生活六日目。
今日、ギルドでゴブリンの被害に合ったという女性と父親が、涙ながらに依頼をだしていた。
話を聞けば、本当に胸糞悪くなるような辱しめと暴力を受け、命からがら逃げてきたとのことだ。
私と同じ年代の女の子が。
ゴブリンに対して初めて心の底から怒りが沸き、その依頼を即座に受けた。
場所はいつもの森を、更に奥にいった洞窟だった。
並々ならぬ怒りの炎を燃やして洞窟に乗り込もうとしたら、ザッドハークが目から出た光線で、洞窟ごと崩落させた。
………まぁ、親子は喜んでいたし、結果オーライ………だね。
冒険者生活七日目。
今日で冒険者生活が一週間経った。
ゴブリンの討伐ばかりだが、それにも慣れた。あと、気持ちの切り替えと割り切りもそれなりにできるようにはなってきた。
この世界では昨日の親子のように、魔物の被害にあっている人達は多くおり、皆が助けを求めている。
私は別に正義のヒーローになるつもりはないし、全員を助けれるような力はまだ無い。けど、そんな人達を放ってはおけない。
だったら、私にできる範囲で困っている人達を助けたいと思う。
そうなると、討伐して殺すことに気持ちの切り替えが大事になる。
まだ未熟ではあるけど、少しずつでも切り替えれるような、強い気持ちを養いたい。
後、最近ギルドでは『東の森に謎の焼け野原が広がっている』という噂が流れている。
ザッドハークを自重させなければ。
冒険者生活八日目。
今日はゴブリン以外の魔物と闘った。
ギロギロウルフという、目がメガネザルのように大きな狼だった。
狼相手と聞いて最初は怖かったが、動きが早いだけでゴブリン程の知能はなく、戦い方も単調だったので意外にも楽勝だった。
更に新発見があり、四足歩行の相手に脛殺しをすると、四つの足全部に適用されるらしい。
ゴブリン以上に効果は抜群であり、中には痛みに耐えかねて死んだ個体もいた。
後味が悪かった。
ザッドハークが数十匹のギロギロウルフの群れを、またもや森と一緒に焼き払ったので、もういい加減にしてくれと泣き付いた。
冒険者生活九日目。
今日、ギルドからの指名依頼で、複数の高位ランク冒険者達が東の森に向かうらしい。
内容は、『東の森で広がる焼け野原の調査』とのことだ。
ギルドの予想では、何らかの高位の魔物が、東の森に現れたのではないのかとのことらしい。
私がチラリとザッドハークを見ると、素知らぬ顔をしていたので、私も習って無表情を貫いた。
冒険者生活十日目。
今日は場所を変え、アンデル王国の西にある『愚者の沼地』へときた。
たまには違う狩場で訓練とのことだ。
決して逃げた訳ではない。
ただ、少し離れた場所なので、一泊二日の行程となり、今日出発して現地着。明日討伐してからの帰還になるらしい。
となると、初めての野宿となる。
アドバイザーとして、ザッドハークがまたもやジャンクさんを拉致してきていたが、初めての場所で初めての宿泊なので、助かると思い私は特に何も言わなかった。
依頼内容はザッドハークが選んだ『ローショリーチの討伐と素材回収』とのことだ。
リーチって何だっけ?と思ったが、ザッドハーク曰く『ギロギロウルフよりも簡単な獲物ぞ』と言うので、特に気負うことなく了承した。
ジャンクさんが酷く哀れんだ顔をしていたが、なんだろうか?聞いても言葉を濁してくる。
とにかく、明日になれば分かるだろう。
冒険者生活十一日目。
ザッドハークをぶっ殺した。
いや、正確には半殺しにした。
あの野郎にまた騙された。
私が学習能力が足りないというのもあるが、あいつの悪意のない意地の悪さが手がつけられない。
討伐対象のローショリーチだが、確かにギロギロウルフやゴブリンと比べれば楽勝だった。
だが、最悪だった。
どんな魔物かと言えば………蛭。
大型犬くらいのピンク色をした、目に優しくない蛭だった。
嫌々ながらも戦ってみれば、手応えもなく、攻撃してきても大した威力ではなかった。
だが、この蛭には妙な特性があり、女の匂いを嗅ぎ分けて、獲物が女性だと分かるとヌルついた透明な液体を吹き掛けてくるのだ。
服の繊維だけを溶かす特殊な液を。
どんな進化をすれば、こんな生物が生まれるのだろうか?
知らずにザッドハークの指示のままに群れの中に突っ込み、四方八方から液を浴びることになった。
おかげで鎧の下は真っ裸という、特殊な痴女ができあがった。
蛭をつかんではザッドハークとジャンクさんに投げてやったがザッドハークに効果はなく、ジャンクさんの肌が露になるだけだった。
代わりに、ザッドハークには渾身の脛殺しを連続でおみまいしてやった。
回収する素材はローショリーチの体液だった。
何に使うのだろう?
冒険者生活十二日目。
昨夜遅くにギルドに帰ってきた。
一晩休み、昼頃に起きてギルドに赴くと、ギルド全体で騒いでおり、ちょっとしたお祭りムードとなっていた。
どうしたのかとニーナに聞けば、東の森で探索中の高位冒険者達が、『火炎獅子』という高位の魔物を仕留めたらしい。
なんでも本来は東の森にいるような魔物ではないらしく、広範囲を鬣の炎で焼き尽くす狂暴な魔物で、こいつが焼け野原の原因とのこと。
本来は辺り一帯を炎で包み、燃え盛る炎のテリトリーを形成して戦う、狡猾で知能の高い魔物のようで、そうなれば手出しは困難だったらしい。
だが、何故か今回見つかった火炎獅子は、発見の痕跡が前からあったにも関わらずもテリトリーを未だ形成しておらず、比較的簡単に討伐できたらしい。
寧ろ、冒険者達と出会った時は非常に驚いていたような雰囲気だったとのこと。多分間抜けな個体だったんだろうとニーナは笑っていた。
私は姿も知らぬ火炎獅子に向かい、静かに合掌をした。
冒険者生活十三日目。
今日は東の森でのゴブリン討伐依頼だ。
最早、慣れたゴブリン討伐で、最初の頃の戸惑いなど感じず、ゴブリンを十五匹討伐した。
討伐中に、ゴブリンに囲まれていた謎生物を保護した。
青白いモフモフの毛に覆われた子犬のような生物で、目は無く、尻尾が妙に長かった。
凄く可愛く、なついてきたので、連れていこうとしたら『家も無き宿暮らしの汝に、命を飼う責任はあるか?』と、ザッドハークから至極正当な意見を言われ、泣く泣く森に帰した。
時折、正論をぶつけてくるので腹が立つ。
無事に大きくなるんだよ。と、何度もこっちを振り返る豆太郎(勝手に命名)を心配しながら手を振った。
ついでに流石のザッドハークも戦い方を変えたらしく、剣を渾身の力で振り回すたけにしていた。
だが、どのみち広範囲の木々が薙ぎ倒されていた。
いずれまた調査が入るだろう。
冒険者生活十四日目。
今日も東の森で依頼をこなす。
今日の討伐はゴブリンではなく、コボルトという魔物。
犬の顔を持つ人形の魔物で、ゴブリンよりも知能は低いが狂暴らしい。
尻込みしながらも、コボルトの住みかへと向かい何とか討伐した。
確かにゴブリンよりも狂暴で、かなり混乱した。一時、どうしようと悩んでいたら、あの初日に聞いた『破壊セヨ』という言葉が頭の中で聞こえた。
前回程は混乱してはいなかったし、多分録なことはない声だと思い『うっせぇな!黙れや!この〇〇〇〇』と念じたら聞こえなくなった。
代わりに、夜寝ていると剣から啜り泣くような音が聞こえるようになった。
本格的に教会に持っていった方がいいかもしれない。
冒険者生活十五日目。
今日の依頼終了後、ザッドハークに剣の事を相談してみた。
すると、『誰が主かよく理解させるべきだな』と、謎の助言をもらった。
具体的にどうすればいいのかと聞くと、手っ取り早い方法を教えてくれたので実践することにする。
要は、力で黙らせればいいらしい。
冒険者生活十六日目。
朝起きると剣が喋った。
別に頭がおかしくなった訳じゃなく、剣が本当に喋ったのだ。
『お早うございます!我が主!!』
と、体育会系のノリで挨拶してきたのだ。
これには本当に驚いた。
昨日の剣を地面に置いて、鍔の部分にある赤い宝石のような所をひたすらハンマーで叩きながら、誰が主で如何にこの剣が剣として駄目なのかを繰り返し囁き続けろ、というザッドハーク直伝のスパルタ式が効いたらしい。
若干半信半疑だったが、こちらの世界では剣に意思があるようだ。
話してみれば、なんだか妙に私を畏れているようだった。
聞けば、叩いている大分序盤から降伏勧告をしていたらしい。
恥ずかしいので、無心で囁きながら叩いていたのが裏目に出た。
声に全く気付かなかった。
剣に悪いことをした。後で油でも塗ってやろう。
冒険者生活十七日目。
今日、高位冒険者達が東の森へと調査に向かった。
なんでも、今度は大規模な森林伐採が起きているらしい。
前回と同じ冒険者達が、緊張した顔付きで出発していった。
チラリとザッドハークを見れば、我関せずといった雰囲気だったので、私も同じ雰囲気を出してみた。
腰から『主…………』と責めるような声が聞こえたが、卓の角にぶつけて黙らせた。
冒険者生活十八日目。
今日はアンデル王国の南にある『魅惑の湖』という場所に来てみた。
依頼内容は『ピンクフィッシュ』という魚の捕獲。
名前からして嫌な予感がしたため、いつも通りに拉致していたジャンクさんをコッソリと問い詰めて、魚について聞いてみた。
案の定、嫌な性質を持っている魚で、鰻のような体をしたピンク色の魚らしく、ヌルヌルぬめついた体で生物の体の表面を這い回る習性があるらしい。
何だその生物は?またもやエロ系か!?と驚くと同時に、ザッドハークは私に一体何を求めているのか?と思った。
魅惑の湖に着いた後、ピンクフィッシュの住みか付近でザッドハークを水の中に蹴落としてやった。
『グオオオオ』とザッドハークが唸り、その鎧の隙間を大量のピンクフィッシュが這い回っていた。
ざまぁ見ろ!と、最初は笑っていたが、骸骨騎士のヌメヌメな絵面なぞ、誰得なんだろうか?
急に冷静になり、ザッドハークに手を貸して助けだした。
お約束というか、私も水の中へと非っ張られ、ピンクフィッシュの洗礼を受けた。
だが、ザッドハークとジャンクさんには需要が無かったらしい。
おもしろい程、無反応だった。
むかつく。
冒険者生活十九日目。
依頼で捕獲したピンクフィッシュを、依頼主は何に使うのかと考えていたら、ワッとギルドが盛り上がった。
何事かと入口を見れば、傷だらけの高位冒険者が帰還してきたところだった。
皆がやり遂げたような顔をしていた。
何があったのかと思いニーナに聞くと、東の森で謎の森林伐採の原因となっていた魔族を倒したらしい。
何でも、そこそこ高位な魔族だったらしく、手に鎌のある蟷螂のような姿だったらしい。
魔族はアンデル王国を侵略する足掛かりとなる基地を造る為に、秘密裏に東の森に送られていたらしく、その為の資材確保のために材木を切って集めていたとのこと。
しかし、冒険者達に見つかり、囲まれ、抵抗虚しく呆気なく討ち取られたらしい。
戦力も揃っておらず、何故か油断していたとのこと。
『なんでこんなに早くバレたの?!』
と、蟷螂魔族は見つけ時に叫んでいたと、高位冒険者は笑っていた。
『なんでも何も、あんだけ痕跡残してバレないと思ってたのかね?最近は魔物も魔族も間抜けが多いな』
と、冒険者一同が酒を飲み、笑い合いながら語っていた。
奇跡というのは続くらしい。
私とザッドハークは、名も姿も知らぬ蟷螂魔族の冥福を祈り、静かに合掌した。
冒険者生活二十日目。
今日、見知らぬ小太りのおじさんに泣きながら感謝された。
見た目が某ゲームの水道官工のようなおじさんは、『あなたのおかげで店が助かりました。ありがとうございます。誰も好んで受けてくれないので助かりました』と、しきりに感謝を述べてきた。
正直心当たりは無かったが、最近は討伐依頼を頻繁にこなしていたので、そのどれかの依頼人が感謝しているのだろうと当たりをつけた。
特にゴブリン討伐依頼。
実入りが少なく、苦労だけが多いとして実は人気がない依頼だ。
それを私達は頻繁にこなしていた。恐らくは、それ系だろう。
私としては普通に依頼をこなしただけだが、依頼人からすれば涙が出るほどに感謝することだったらしい。
感謝されることに悪い気はしなかったので『これからも助けが必要ならいくらでも手を貸しますし、全身全霊をもって身を捧ぐ覚悟です』と格好つけてみた。
おじさんは目を見開いて驚いていたが、直ぐに満面の笑みとなると、『あなたのような理解ある女性がいるなら心強い!』と、感激したように握手をしてきた。
去り際、『是非店に来て下さい』と、紹介状のようなものを貰った。
商人との繋がり………これは結構なcコネクションを得たんじゃないかと、内心ガッツポーズをした。
明日、早速ザッドハークとジャンクさんを連れて店に行こう。
冒険者生活二十一日目。
ザッドハークを半殺しにした。
ついでに、ジャンクさんも半殺しにした。
というか、私も死にたかった。
今日は、早速昨日会った商人の店に行ってみた。
そして後悔した。
昨日の商人…………ゴブリンとかの被害に合っていた依頼人とかではなく、ローショリーチやピンクフィッシュといったものの捕獲や討伐を依頼してた商人だった。
端的に言えば、『大人の玩具』的なものを売っている店の商人で、歓楽街では有名な人らしい。
ローショリーチの吐く液や、ピンクフィッシュの粘液は、夜のお店を利用する方々からの需要が高いらしく、それを使った商品は店の看板商品らしい。
だが、そんなものを好んで取りにいく冒険者はほとんどいないのが現状とのこと。
だろうよ。
そんな在庫がなくなり困っているところで、私達が活躍してそれらを大量に手に入れてきて、おかげで店は大助かりらしい。
更には、『あなたのような風俗関係に理解ある異性の同志に会えて感激です。今後は、互いに協力しましょう』と気に入られ、太鼓判まで押されてしまった。
私は知らぬ内に、ギルドでとんでもないことを口にしていたようだ。そのせいで、商人からの絶大な信頼を得たようだが。
全く嬉しくないコネクションを得た。
おかげで、ギルド内で私を見る目が更に変わったようだ。
主に、好色な視線に。
取り敢えず、ふざけた依頼をしたザッドハークと、止めなかったジャンクさんに八つ当たり的に脛殺しをしておいた。
冒険者生活二十二日目。
今日は休みになった。
身体と心を休めようとのザッドハークの気遣いらしい。
まぁ、確かにそうだと了承した。
とは言っても暇だったので、結局はギルドでボーとしていた。
最近は知り合いも増えたので、話し相手には困らないようになった。
ただ、知り合いの七割がオッサンなのが気になるが…………まぁ、深く考えないようにしよう。
その後、ギルドでぶらぶらしていたら、結局ザッドハークやジャンクさん。ニーナやマインといったメンバーが集まり、皆で夜に渡り鳥亭に夕飯を食べに行った。
騒がしいメンバーだが、これはこれで楽しい………と感じるようになった。
色々と苦労もあるし、大変なこともあるし、慣れないこと………苦しいこともあるが、私は今の異世界での生活を、それなりに満喫していると思う。
ザッドハークとかもあれだけど、あれはあれで結構いいところがあるので、一緒にいて楽しい。
本人の前では絶対に言わないし、態度にも出す気はないが。
多分、知ったら調子に乗る。
まぁ、色々とあるけども、もう少し頑張ってみようと思う今日この頃だ。
◇◇◇◇◇
パタン。
「さて………今日の分の日記は終わりだね。さて、明日は何があるのかな?」
私はその日あったことを日記帳に綴った後、それを閉じてベッドに入った。