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23話 戦いの後…………

すみません。仕事の都合で更新が遅れました。

「う、うぅ………ん………」


 朝。窓から差し込む日の光に起こされ、目が覚める。


 目蓋を開くと、知らない天井が見えた。


 まだ、ボヤーとする頭を持ち上げ、上体を起こす。


 周りを見れば、これまた知らない部屋である。


 自分が寝ているベッドと、クローゼット。それに、貴重品を入れる鍵付きの棚があるだけの簡素な部屋だ。


 全く見覚えがない。


 何でこんな知らない部屋にいるんだろうと?と、暫くボヤーと考えていたが、だんだんと頭が覚醒してくると思い出しくる。


「あー………確か……ギルドの宿泊施設……」


 昨夜………というより確か夕方頃だったかな?あのゴブリンのことで、かなり気が動転してたから、明確には思い出せないな………。


 うろ覚えだけど、ザッドハークにここに(宿泊施設)に連れてきてもらってからお風呂で体を洗った筈。


 その後、食事に誘われたけど断って、そのまま休んでたら寝てしまったのかな…………?


 かなり気が動転してたみたいで、ギルドに帰ってからの記憶が曖昧だな……。


 うーん………はっきりと思いだせるのは、森で気が付いたら私がゴブリンの…………。


「……………………うぷっ」







 暫くお待ち下さい。











「はぁ……はぁ………あ、朝から嫌なことを思い出してしまった………」


 ギルドの宿泊施設共用の洗面所で口をすすぎ、近くにあった水差しの水を一杯飲むと、多少は気分がよくなった。


 それでも本当に多少であり、気分は未だに最悪である。


 昨日………ゴブリンの討伐時に、ザッドハークに促されてゴブリンを倒そうとした時に、妙な声が頭の中に聞こえたと思ったら、気づけば血だらけになって立っていた。


 周囲には、ゴブリンのものとおぼしき肉片が散らばる中で………。


 それで気が動転し、発狂した私をザッドハークに連れ帰ってもらったのだった。


 だんだんと鮮明に記憶が甦ってくると、益々気分が悪くなる。


「あぁ…………最悪………」


 目の前の鏡を見れば、私の顔の目の下には隈がハッキリと浮かんでおり顔面が蒼白だ。目に見えて、気分の優れなさが大々的に現れている。


 そんな自分の顔を見るとため息が漏れる。


 こちらに来てまだ二日目なのだが、あまりにも色々と有りすぎて体も心も疲れているようだ。


 特に、昨日のこと…………。


 初めての依頼。


 初めての討伐。


 初めての戦闘。


 そして、初めて生き物の命を奪った。


 昨日だけで日本で普通に生活していたら、まず体験しないことを体験した。


 特に、生き物を殺害したことは、思ったよりも堪えているらしい。


 何とも言えない虚脱感がある。


 小説やゲームでは当たり前に行われている戦闘や討伐。それがリアルになると、ここまで精神的にくるものとは思わなかったし、覚悟が足りなかった。


 いや、そもそもとして覚悟自体していなかったのかもしれない。


 いきなり異世界に来て、成り行きで勇者となり、冒険者登録をして依頼を受け、ゴブリンを殺した。


 あまりにも淡々と事が進み、どこかで現状をゲームのチュートリアル的に考えていたのかもしれない。


 だから何の覚悟もしていなかった。


 生き物を殺す。


 それがどういうことで、どれ程の負担となるのか。


 全く考えてもいなかった。


 覚悟すらしていなかったのだ。


 今更後悔しても遅いかもしれないが、後悔せずにはいれない。


 もっと、しっかりと考えて行動すべきだった。


 考えたところでどうにかなるとは思えないが、それでも今の糞みたいな気分よりは大分マシだったと思う。


 そう考えると、またため息が漏れた。


「…………取り敢えず、ザッドハーク達には謝らないとね」


 昨日は何だかんだでザッドハーク達には迷惑をかけたし、お世話にもなった。


 たとえ気分が悪かろうと迷惑をかけたら、一言お礼と謝罪をするのが礼儀だよね。


 よし。少しは気合いを入れよう。


 ともかく、こんな顔で会ったら心配するだろうし、シャンとしなきゃ。


 そう思い、洗面所の水でザブザブと顔を洗い、鏡を見る。


 ほんの少しだが、顔色が良くなったような気がする。


「まぁ、少しはマシかな?」


 ちょっとは見れるようになった顔となったことを鏡で確認した私は、直ぐに部屋へと戻って着替え、一階のギルドへと向かった。








 ◇◇◇◇◇◇


「………どうしたのよ?」


 一階のギルドへと向かった私は、酒場の近くの席に座るザッドハークとジャンクさん達を直ぐに見つけた。


 一度、自分の頬を叩いて気合いを入れてから、二人のもとへと駆け寄っていった。


 そして、思いもしない光景を目にすることとなった。



 駆け寄っていた卓。



 そこには、私以上に顔色の悪い二人がいたのだ。


 真っ青な顔で頭を抱え、自分の財布と睨めっこをするジャンクさん。


 いつもの青白い眼窩の炎は見えず、ただ虚空を見つめ、枯れた仙人のような雰囲気を醸し出すザッドハーク。


 明らかに異常な様子の二人が対面になって座っていたのだ。


 そんな様子のおかしい二人に近付き恐る恐る声をかけると、ジャンクさんだけがユラリと幽鬼のような動きで、顔を向けてきた。


「よう…………おはよう………嬢ちゃん。体調は………大丈夫かい……?」


「いや、あなたら二人が寧ろ大丈夫?なんで初戦闘でブルーになってる私よりもブルーなのよ」


 明らかに顔色の悪いジャンクさんにツッコミを入れると、ジャンクさんは天井を見上げだした。


「いやさ………男を見せるって行為には、金がかかるもんだな………って事に今更気付いてな………ハハハ。笑ってくれよ………俺には覚悟が足りなかったらしい………」


「いや、本当に何があった?」


 昨夜、私がいないうちに何があったんだ?確か、食事に行くって言ってたような気がするんだけど………。


 そんな、から笑いをするジャンクさんは、卓にドタンと頭から倒れ込むと、そのままブツブツと何やら呟きだした。


「………あんなん聞いてねぇよ。何だよあの食欲は?あの小さな体のどこに入ってんだよ?明らかに質量保存の法則を無視してただろ?てか、好きなだけ食べてくれとは言ったけど、あの量は反則だろうが………。あぁ、こんなことなら男を見せるなんて言って、支払いを受けもつんじゃなかった……。というか、今日からどうやって生活すれば…………」


 本当に何があったんだろう?


 何やら金銭関係で悩んでいるようだけど…………。


 ブツブツと独り言に夢中で、このまま待っていても、質問には答えてくれそうにはないな………。


 時期を見て聞いてみようかな……。


 そう思い、今度はザッドハークの方へと視線を移す。


 ザッドハークは相変わらず虚空を見つめ、微動だにしない。


 私はザッドハークの肩を手を置き、ユサユサと揺さぶりながら声をかけた。


「ザッドハーク。おはよう。ねぇ、大丈夫?何があったの?」


 そう声をかけて揺さぶっていると、僅かだか眼窩の奥に青白い炎が灯った。


 その青白い炎が私に焦点を向けると、ザッドハークがまるで死の間際のような、絞り出すような声で喋りだした。




「も……………………た…………」


「も?」


 だが、あまりにも弱々しく枯れた声で、全く何を言っているのか分からない。


「ねぇ。聞こえないよ?何があったの?」


 再度揺さぶりながら問いかけると、ザッドハークは先程よりも大きな声で喋りだした。


「も…………」


「も…………?」


「もり…………」


「もり…………?」










「森人の…………性欲を…………侮って…………いた…………」











「オイ、何があった?!」






 ユサユサとザッドハークを揺さぶるも、気力が果てているのか全く反応がない。


 ただ、揺さぶられるままに、その巨体をグラグラとさせるだけだ。


 くっ………駄目だ。まるで死んでいるかのように反応がない………。


 誰か事情を知っている奴を………。


 と、辺りを見ると、ザッドハークの対面に座るジャンクさんと目が合った。


 ジャンクさんは卓にうつ伏せとなっていたが、目だけを此方に向けていた。


 だが、私と目が合うと、直ぐに元のうつ伏せの状態となった。


 …………絶対に何か知っている。


 そう思い、ジャンクさんの頭を片手で鷲掴みにして、グイッと引き起こした。


「ジャンクさん。ザッドハークの様子が変なんですけど、何かしりませんか?」


「じょ、嬢ちゃん………。言葉の丁寧さと、行動が噛み合っていないんだが……」


「早よ」


「あっ。はい」


 丁寧にお願いすると、ジャンクさんは素直に返事をしてくれた。


 うん。誠意を込めてお願いするものだね。


 力も込めたけど。


 だが、返事とは逆に、視線をチラチラとさせ、何故か口をモゴモゴとするだけで、何があったかを教えてくれない。


 というより、言いにくそうな感じ?


 しきりに視線をチラチラとさせているけど、何が…………?


 そう思い、ジャンクさんが視線を向ける方向を見ると、そこはギルドの受付カウンターだった。カウンターでは、受付嬢の人達が忙しそうに働いており、その中には昨日私達の受付を担当してくれたエルフのニーナさんも…………。


 と、そこで気付く。


 受付嬢のニーナさん。


 優し気な微笑みを称えている彼女の肌。








 その肌が、異様な程にツヤツヤしていることに。











「オイ?昨夜は何してた?」


「イギャァァァァァ?!」


 ジャンクさんを鷲掴んでいる手に力を込める。


 ジャンクさんの頭からミリミリという締め付けるような音が鳴り、苦悶に喘ぐ声が漏れた。


「い、言うから………言うから頭を離してくれぇぇ………!?な、なんだよこの力は?!ぜっ、絶対に女の力じゃねぇだろうぅぅ………」


 白状するという言質を取ると、ジャンクさんの頭から手を離した。

 

 離した瞬間に自分の頭を触って、頭の形や髪を気にしていたジャンクさんだったが、私がジロリと睨んでいることに気付くと、畏まったような姿勢となり、ボソボソと昨夜の事を教えてくれた。


「いや……昨夜はザッドハーク(あいつ)が、初依頼を記念して、豪勢に打ち上げをするって話になったんだ………」


「それは知ってる。ザッドハークが私を呼びにきたからね。断ったけど」


 ザッドハークが呼びに来た時、私は絶賛錯乱中であり、宿泊所にあるお風呂のような所で必死に体を擦っていた。


 もう、ゴブリンの血も肉も体には付着していないことは分かってはいたが、擦らずにはいれなかったのだ。


 そんな状態であり、食事など喉を通らなかったので、悪いけど誘いを断ったのだ。


「そんで、その後は何してた?」


 問題は私が知らない内に何があったかだ。


 これでも知識はあるので予測はつくが、それでも一応は確認をしておこう。


 ジャンクさんは暫し口をモゴモゴとしていたが、私の眼力に観念したように口を開いた。


「いや…………何って…………ナニしてたん………だよね?」


「直球かよ」


 予想内ではあったが、予想外に直球の内容をバラしてきたことに天を仰ぐ。


 やっぱヤリやがったあいつら。


 片や疲労し、精根尽き果てたように枯れ果てた男。


 片や顔色良く、生命力に溢れたかのように元気満々の女。


 もう、そこから導き出される答えは一つだけだ。


「じゃあ、こういうこと?人が初めて生物の命を奪って悩み葛藤しているときに、あんたらは生命の神秘に勤しんでいたと?」


「お、お嬢ちゃん…………い、一応は女性相手だから濁したつもりだったけど、さっきのナニって言葉で通じたのかい?」


「無論。濁りが足りませんでしたね。清水の湧水程度の濁り具合な表現でしたよ」


「それって、ほぼ透明だよな?」


 私がそういった下世話な話題を理解したのが珍しかったのか、ジャンクさんが驚いたような顔をしていた。


 昨日の処女だということから、私が初なおぼこ娘とでも思っていたらしい。


 だが、だとしたら『女』という生物を舐めている。


 女は男よりも早熟で、そういった目覚めも早いし知識も深い。更には、周囲でそういった恋愛や事後の雰囲気を醸し出していれば、敏感に嗅ぎとる鼻もある。


 かつて中学三年の頃、私の無二の親友に彼氏ができた時、休日にデートをしてくると意気込んでいた。


 私は内心『爆発しろや』と思い、無二の親友から親友へと格下げしたが、それを隠して笑顔で親友を送り出した。


 その休日明け…………私が親友に会うと、親友は普段よりも美しい雰囲気を醸し出していた。


 ツヤツヤとした肌をして。


 それを見た時、私は………いや、私達女子全員は確信した。


 ヤッタなこいつら………と。


 そして親友から友達へと格下げした。


 しかし、男子は全く気付いておらず、親友の彼氏に肩を組んで『なぁなぁ!キスはしたのか?』などと能天気な質問をしていた。


 実際はキスどころか、下のお口でキスをしていて、あんた達よりも遥か高みの階段を登ったぞと言いたかったが、思春期真っ只中の男子生徒には荷の重い話だろう。


 話せばきっと、全員が前屈み状態で1日過ごすことになる。


 そんな光景はごめんだ。


 そんな訳で、女というのは男よりも遥かに性に対する免疫と知識があるのだ。


 性の話題や男の裸を見たところで動じはしない。敢えてキャーキャー騒いで笑い話にする程度だ。


 本気で赤面して、恥ずかしがって騒ぐ女など、数える程しかいないでしょう。


 男性諸君には悪いけど、清楚で可憐で健気な天然物の女子など、絶滅危惧種どころか存在自体しない。


 ドラゴンやペガサスと同様の非現実(ファンタジー)生物だ。


 現実の女など、嫌いな男にも笑って『好き』と言えるような、腹黒い女性がほとんどだ。


 女とは、男よりも遥かに逞しく強い生き物なのだ。


 …………おっと、話が脱線したね。


「それで?このザッドハーク(クズ)は、あそこのエロフに絞られるだけ絞られたという訳?」


「えっと……はい……。エ、エルフは長命故か、基本的には精力が薄い種族なんだが、一度火が付いたら止まらないらしいんだ。だから、エルフ以外の種族が発情したエルフと行為をすると、死人が出たという話があるくらいでな………」


「なんだその『普段大人しい人程、キレたら怖い』みたいな理屈」


「理屈的にはそれだな。そんで、ザッドハークの奴が意外と話上手な上に、なんか女をその気にさせる手段に長けていたみたいで……。見事ニーナをその気にさせ御開きの後、そのまま夜の歓楽街に消えていったんだが………。帰ってきたらこの状態(生ける屍)になってたんだ」


「見た目骸骨が、中身まで骸骨になっていた訳ね」


 本当に救いようがないな。


 具合でも悪いのかと思えば、単に最後の一滴まで絞られただけかよ。


 自業自得この上なしじゃん。


 てか、話上手って、何?私といた時には片鱗さえ見せなかったわよ?話下手にも程があるほどにおどろおどろしかったわよ?


「呆れたわね………ジャンクさんも行ったの?」


 ジャンクさんは、手を横に振って否定した。


「いや、俺はやってねぇ。マインちゃんは完全に喰い専で、食べることにしか興味がねぇ。だから、昨日は満足するまで、俺の奢りで嬉しそうに食べるマインちゃんの可愛い姿を見ていただけだ」


 そう満足気に話すジャンクさんに、これまた呆れる。


 こっちもこっちで絞られた訳ね。


 財布を。


 だから青い顔でブツブツと呟いていたのか…………。


 何が可愛い姿だ。ケッ。


 ただ、金づるにされただけじゃないのよ。喰い物にされてんのはジャンクさんの方よ。


 本当に、ジャンクさんの頭を早くどうにかしないとね………。


「しかし、本当に呆れて溜息しかでないですよ………。ジャンクさんもですが、ザッドハークはどんだけ頑張ってきたのか………」


「帰ってきたのはついさっきだから、ぶっ続けでと考えれば約六時間は頑張っていただろうな」


「蛇の交尾か?!」


 本当にどんだけだっつうの!?


 いくらなんでもヤリ過ぎだろうがあい?!盛りのついた男子学生でも、もうちょい遠慮するっつうの!?


「こいつは本当に………私が悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらいの、馬鹿馬鹿しさをしてるわ………」


 頭を抱えてやれやれと溜息をつくと、横からジャンクさんがしげしげと私を見てきていた。


「?………どうしました?」


「んっ?いや、そういや、嬢ちゃん。さっきよりは随分と顔色が良くなったと思ってな」


「いや………なんかもう、悩むのが馬鹿らしくなったというか、吹き飛んだというか………」


 そう言ってジャンクさんを見れば、ジャンクさんは腕組みして何かを考えていた。


 そして、意を決したように口を開いた。


「た、確かにそうだな………。いや、というか、それでいいんじゃねぇか?初めて生き物を殺してブルーになってるのは分かるが、いつまで悩んでてもしょうがねぇ。ここは、人や村にゴブリンの被害が出る前に退治したと考えろよ。実際に、奴らはどっかに攻める準備をしてたみたいだしよ?」


 多少乱暴な物言いだが、ジャンクさんなり心配しての励ましなのだろう。


 同じ冒険者として、先輩として、たった1日だが共に依頼をこなした仲間として、落ち込んでいる私を気づかってくれてる気持ちが分かる言葉だ。


 そう思われていると感じるだけで少し胸が軽くなり、同時に温かくなった気がする。


「そ、そうだね。…………あ、ありがとうね…………」


 ちょっと気恥ずかしいが、同意をすると共に笑顔で感謝を述べた。


 すると、ジャンクさんが驚いたように目を見開き、私を仰視していた。


「えっと…………何です?」


「いや………そんな顔もできるんだなぁ……ってな。そうしてりゃ、年相応で可愛いじゃねぇかよ」


「んなっ?!」


 き、急に何を言ってのよ?!


 か、可愛いだなんて…………と、当然じゃないのよ?!い、いやそうじゃなくて、なんで私はこんなに狼狽えてるのよ?!


 や、ヤバ!か、顔が熱く………これ絶対真っ赤になってるよね?顔が赤いよね?


 あ、相手はジャンクさんよ?オッサンよ?ロリコンなのよ?!


 何をそんな相手にドキドキしてるのよ…………。


 いや、確かに男の人にそんな事を言われたのは初めてだけどさ………。


 いやぁ………でも…………。


 慣れない男性からの誉め言葉に、ドギマギと困惑していると、何者かが私達の席へと近付いてきた。


 両手で真っ赤になった顔を隠しながら近付いてきた人物を見れば、それは先程まで話題に上がっていた人物……。


 つまりは、巨乳金髪エルフのニーナと、青髪無表情少女のマインの受付嬢二人組だった。


 い、いつの間にここへ?!先程まではあっちのカウンターに………ハッ?!いつの間にか交代してやがるわ?!


 そんな私の動揺も気にすることなく、二人は私達の席の前まで来ると、ペコリと頭を下げてきた。


「おはようございます皆様。昨夜はご馳走になり、ありがとうございました。とても楽しかい夜でした」


「………しかった」


 どうやら昨夜のお礼がしたかったようだ。


 ニーナは感謝の言葉を丁寧に述べ、マインもそれに続いていた。だが、声が小さいのか舌足らずなのか、ハッキリとは聞こえない。


 だが、ジャンクさんはそんなマインを愛おしそうに見つめていた。


  同時に、先程までのドキドキも消え去る。


  オッサンシバくべし。ロリコン滅ぶべし。


 てか、昨日は随分とザッドハークを警戒していたのに、今は凄く自然な笑みをしてやがる。


 これが一晩肌を重ねた仲というやつなのか…………。


 ち、ちくしょう………悔しくはないが、ま、眩しく見える………。


「いやいや!そんな気にしなくてもいいよ?!俺らが好きで奢ったんだからよ!!それに、こんな別嬪二人と飲めるなんてこっちが感謝だぜ!なぁ、あんたもそう思うだろ?」


 ジャンクさんは未だに死んでいるザッドハークをユサユサと揺さぶりながら同意を求めた。


 すると僅かにだが、ザッドハークが反応を見せた。


「………も………森人の神秘………ここに………見たれり…………」


「も、もう!何を言ってるんですか!!」


 ザッドハークの言葉に、ニーナが恥ずかしそうに顔を真っ赤にしつつ、バンバンとザッドハークの肩を叩く。


 いや、本当に何を言っているんだ?


 神秘って何よ?


 何を見て、何を恥ずかしがっているんだよ?全く理解できないわ。


 困惑する私を他所に、ニーナ達はジャンク達と暫し雑談をした後、仕事に戻りますと言ってカウンターに戻っていった。


 しかし、去り際。ニーナはザッドハークを意味深に見つめながら、妖艶に耳元で呟いていた。


「また………いつでも」


 と。


 ザッドハークは未だに意識は明瞭でないにも関わらず、耳元で囁かれた瞬間、ブルリと肩を震わせていた。


 それを見て思った。


 発情したエルフ怖えぇ………と。











 結局その日はザッドハークの復帰は難しく、冒険者生活2日目にして休業となった。


 なんか腹立ったんで、ザッドハークにだけは脛殺しをしておいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニーナは怖がってるように感じてたけど、 あっさり落ちてたのか。やるなザッドハーク [気になる点] ジャンクに告白した女性が気になるわ なんて勿体ないことを 自分がいい年してるのに、育ちすぎ…
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