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21話 はじめての戦闘

「「「「ゲギャギャギャギャ」」」」


 気づけば私達はゴブリン達に囲まれており、ゴブリンは武器を構えながら唸り声を上げていた。


「ちょっと!!ザッドハークの声が大きかったんじゃないの!!」


「然程大きな声は出しておらぬ。カオリの匂いに気づいたのではないか?汗の匂いに」


「テメー?!ぶっ殺すぞ?!」


「お前ら余裕か?!しっかり武器を構えろや!!」


 静かな森の中、私達三人はゴブリン10匹に完全に囲まれていた。


 ゴブリン達は各々に棍棒や石斧、粗末な槍を手にし、それをこちらへと突き付けてくる。


 目には明らかな敵意を帯びており、完全に臨戦態勢となっている。


 私達も剣を取りだし構える。


 三人で背中を合わせ、ゴブリン達を威嚇するように構えた。


 とはいっても私の場合はザッドハークの見よう見まねであり、形だけのなんちゃって構えである。


 てか、剣の柄がスライムの粘液でヌッチャリするんだけど?!気持ち悪っ?!いつ付いたんだ?!


 対してザッドハークは例の巨剣を。ジャンクさんは両刃の剣を構えているが、かなり様になっている。


 これが実戦を経験したかしないかの違いなんだろうな。


 しかし、武器を構えた効果はあったようで、ゴブリン達は警戒して少し後ずさった。


 どうやら、直ぐには襲われるようなことはなさそうだ。


 少しは心に余裕ができる。


「ムゥ。完全に囲まれておるな。然程大声は出しておらぬ筈が、何故にバレたのか………」


「耳がいいんじゃないの!あんな立派なとんがり耳をしてるし!やっぱザッドハークのせいじゃないの!!」


「何を申すか。それならばカオリの匂いであろう。あやつらの立派な鼻を見てみよ。汝の汗の………まさかとは思うが、先の道具屋でのアレの匂いが残って………」


「おい。その先言ったら戦争だぞ」


「やめろやお前ら!!ばれた原因は色々あるが、一番は間違いなくザッドハークだよ!!」


 仲裁に入ったジャンクさんが叫ぶ。


 それに私は『ほら、やっぱり』とザッドハークへとほくそ笑み、ザッドハークは呪い殺さんばかりの眼力でジャンクさんを睨んでいた。


「とは言ってもバレたのは声じゃねぇ。俺も失念していたが、ザッドハーク(そいつ)丸見えだったんだよ!茂みに隠れきってなかったんだよ!!」


 ジャンクさんの言葉に私はハッとする。


 私達はゴブリンを見つけた時、ジャンクさんの指示で茂みの影に屈んで隠れた。


 茂みは中々の高さがあり、人間の背丈ならば屈めば充分に隠れることができた。


 そう………人間ならばだ。


 私達は失念していたのだ。


 ザッドハークの背丈を。


 ザッドハークは3メートル近い巨漢だ。そのザッドハークが屈んでその茂みに隠れればどうなるか?


 答えは茂みから頭が飛び出す、だ。


 いや、正確には頭どころではない。胸から上が茂みから飛び出していたのだ。


 だから、ゴブリン視点からすれば、茂みから骸骨騎士が堂々と姿を表している形となる。


 これで見つからない訳がない。


「フム。我が屈強な肉体が仇となったか」


「仇となったかじゃないわ!!隠れんならしっかりと隠れてよ!!尻隠して頭隠さなくてどうすんの!」


「そういえば、ゴブリンの一匹と目が合ったな。あの時か」


「気付いてたんなら先に言えぇぇ!!」


 そんなこんな言い合っている内に、ゴブリン達はジリジリと近付いてきていた。


 こちらの出方を伺っているようだ。


「ちっ!奇襲を掛けて2~3匹は始末する筈だったんだがな……。なっちまったもんは仕方がねぇ!!おい!お前らも戦えんだろ?特にザッドハークよ?その巨剣を持ってて戦えないことはねぇだろ?」


「任せておけ。我にかかればゴブリンなど紙同然よ」


「へっ!そりゃ心強ぇ!おい、嬢ちゃんもいけんだろ?そんだけの装備と、あんだけ俺らを痛め付けた奇妙な技があんだからよ!」


「これが初戦闘です!!」


「そうか!なら、一人最低3匹を………いや、初めてかよ?!」


 私の初戦闘発言に、ジャンクさんが明らかな同様を見せた。


 どうやら予想外だったらしい。


「ゴブリン倒すのにやたら躊躇していると思えば……処女だったのかよ……」


「し、し、処女で悪いかぁぁ?!貴重な処女だぞ?一生に一回しかないのよ?!結構需要が高いんだからなぁ!!」


「そっちじゃねぇ?!俺ら冒険者の隠語だ!!命を奪ったことのない男性冒険者は童貞。女は処女って呼んでんだよ!てか、嬢ちゃんは処女なのか……」


「そんなん知らんわい!?」


 なんだろう。誘導尋問に引っかかった気分だ。妙に損した気分だよ。


 いやいや、そんな場合じゃないわね。今はゴブリン。目の前のゴブリンをどうにかしないと。


 取り敢えず剣は持ってるけど、振り方なんか知らないし、斬り方なんて持っての他だ。


 てか、怖くて手が震えて今にも剣を落としそうなんですけども。


 唐突な初戦闘を前に、ガタガタと手足が震える。


 ヤバい………怖い………。


 こんなんどうすりゃいいのよ……。


 困惑してる間にも、ゴブリン達は『ギャギャ』と鳴きながら近付いてくる。


 中には『ウヒヒヒ』と笑っているゴブリンもおり、ますますメル婆の姿を彷彿とさせてくる。


 ちくしょう………ただでさえ困惑してるのに、更に畳み掛けてくんなよ。


 こちとら初戦闘なんだよ?!もうちょっと配慮してよぅ?!無理?無理だよね、チクショウ?!


 何とか自分を落ち着かせようと深呼吸をしようとした。


 その瞬間、それは聞こえた。


「ヌグラァァァァァァ!!」


 まるで大気がビリビリと震えるような、凄まじい雄叫びが。


 その凄まじいい雄叫びと共に、横にいたザッドハークが前へと進み出て、その巨剣をゴブリン目掛けて横薙ぎに振るう。


 凄まじい踏み込みで、踏み込んだ衝撃で足元の大地が割れる。


 剣はザッドハークの前にいた6匹のゴブリン達へと目掛けて振るわれ、その6匹のゴブリンの首をまとめて斬り裂いた。


 首は宙を空高く舞い、やがて地面へと落ちて転がった。その斬り落とされた首は、どれもがキョトンとした顔をしており、自分が死んだことにも気付いていないようだ。


 そして、遅れて首を無くした体が倒れ、その切断面から血が吹き出した。


 更には、ゴブリン達の奥の直線上にあった木々もがズシンズシンと倒れていく。


 数は恐らくは数百本と広い範囲の木々がだ。


 ちょっとした自然破壊だ。


 その斬られた木々はいずれも綺麗に切断されており、その切り口のあった部分は調度ゴブリンの斬られた首と同じ位置にあった。


 つまりは、ザッドハークの剣の余波により斬り倒されたのだ。


 その馬鹿げた光景を、私とジャンクさんと残りのゴブリン達は、あんぐりと口を開けて見ていた。


 しかし、仲間が殺られたことに気付き、いち早くハッと我に返ったゴブリン達は、武器を投げ捨てて直ぐ様逃亡をはかった。


 それはそうだろう。誰がこんな馬鹿げた暴威を振り撒く災害みたいな奴とまともに戦うというのだろうか。


 一匹だけ転けて逃げ遅れてしまったが、他のゴブリン達は振り向きもせずに一心不乱に走り去っていく。


 ゴブリン達の判断は正しかった。


 形振り構わずに逃げる。それは自己の命を守るためには必要な判断だ。


 だが、同時に間違ってもいた。


 ザッドハークは逃げるゴブリン達へと視線を移すと、その眼窩にある青白い炎が怪しく光始めた。


 そして、その光が収束し、眼窩の光が一瞬消えたかと思えば、その両の目からゴブリン達へと向かって一直線の光………所謂、青白いレーザーのようなものが飛び出した。


「逃すかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 レーザーは逃げ遅れた一匹を除いた三匹に着弾すると、一気に大爆発を起こす。


 その爆発は凄まじく、激しい爆発の衝撃と余波が辺りを襲う。


 空にはキノコ雲があがり、周囲は土煙に覆われる。


 やがて土煙が収まると、先程までゴブリン達がいた場所を中心に辺りの木々は薙ぎ倒されており、更には巨大な直径20メートル程のクレーターができていた。


 まるで隕石でも落ちたような光景である。


 そんな地獄みたいな光景を、私とジャンクさんと生き残ったゴブリンの二人と一匹は、顎が外れそうな程に口をあんぐり開けて見ていた。


 そして、その地獄を造り出した当の本人は、その光景を一瞥すると満足そうに頷いた。


 


 


「フム。よし」


 


 


 

「「いや!よしじゃねぇーし?!」」


 あまりにもあまりな惨状に、私とジャンクさんは暫く思考停止していたが、ザッドハークの呟きに我を取り戻して叫んだら。


 いや、なんなのよこれ?!


 ツッコミが全く追い付かない惨状なんですが?!


 ゴブリン達の首がポンポン飛んで木々が斬り倒されたと思えば、目からビームで大爆発が起きて辺り一帯が破壊されてるってなんなんよ?!


 いくらなんでもやり過ぎでしょう?!完全にオーバーキルでしょうが?!


 びっくりし過ぎて震えも一緒に吹き飛んだわ?!


 ザッドハーク(こいつ)、とんでもねぇ奴とは思ってたけど、予想の斜め上に半端なく予想外の規格外だわ!?


 剣とか力とか……そっちは見た目から凄そうだとは思ってたよ?まぁ、予想よりもすごかったけど……。


 けど、目からビームは想像もしてなかったわ!?なんで目からビームがでんだようぅぅ?!


 物理的におかしいだろうがい?!


「ムッ?如何がしたのだカオリよ?何か問題でもあったか?」


「問題だらけだろうが?!なんなんよこれ?なんなんよさっきの?もう、理解が追い付かないわぁぁ?!」


 叫んでツッコミを入れるも、暖簾に腕押しといったとこだろうか。


 ザッドハークは剣を振り、刃についた血を振り払う。


 そして、いつも通りの何事もなかったかのような態度をしてきた。


「これぐらいは普通であろう?」


「普通じゃねぇわ?!これが普通ならゴブリンは絶滅してるし、魔王も既に討伐されとるわぁぁぁぁ?!」


 この価値観ズレズレの骸骨騎士がぁぁ?!小説の無自覚系チート主人公みたいなことを言いやがって?!


 あれって読んでて爽快な気分にもなるけど、やり過ぎると萎えるんだよね?!『主人公馬鹿なの?』って思うもんね!?


 正に今、そんな気分だよう?!


「じょ、嬢ちゃん………こ、こいつ何者なんだよ………。只者じゃないのは分かってはいたが、それにしても常識外だろう……」


 横から唖然とした顔のジャンクさんが声を掛けてきた。


 だが、その質問は私がしたいぐらいだ。


「私だって知りたいですよぅ……。なんでこんな理屈も常識も通じない、歩く核爆弾みたいな危険物と行動しなきゃならないんですかぁ……罰ゲームにも程がありますよぅ………」


「お、おぅ…………嬢ちゃんの方が苦労してんだな………」


 泣き言を呟くと、ジャンクさんが同情したような目でみてきた。


 本当になんで異世界での冒険を、こんな大量破壊兵器みたいなのとパーティー組まなきゃならんのよぅ。もう、こいつ一人で魔王討伐できんじゃないの?


 てか、もうこいつが魔王じゃないのよぅ。


 そんな風に内心落ち込んでいると、肩に手を置かれた。


 見れば、ザッドハーク(悩みの種)が私に手を置いていた。


「あの…………なんです?」


「まだ終わっておらぬぞ。見よ」


 ザッドハークはそう言うと、腕を上げてある場所を指差してきた。


 何かと視線を移せば、そこには逃げ遅れた最後のゴブリンが、四つん這いで例の爆心地を唖然と見ていた。


 あれ……ゴブリン?あれ?まさかだよね………。


「えっと………何を………?」


 嫌な予感を感じながらも、ザッドハークを見上げれば。


「殺るのだ」


 無情の一言が待っていた。


 

「えっ?いや?だ、だって確かもう、討伐数は間に合ってるよね?確かゴブリンの必要討伐数は五匹だったよね?!も、もういいんじゃないかな?」


 依頼書にあった最低必要数は五匹と聞いている。ならば、既に依頼は達成しているようなものだろう。


 ザッドハークが六匹の首を跳ね、三匹を爆死させたのだ。


 後者の三匹は死体も残っていないから討伐証明を回収することはできないが、それでも六匹分の耳は回収できるはず。


 それで充分じゃなかろうか?


 だが、ザッドハークはそれを許してはくれなかった。


「ならぬ。そもそも此度の依頼は汝の訓練を目的としたもの。故に、汝が戦わなければ意味はない。せめて、一対一になるように間引いたのだ。まずは、戦いの雰囲気に慣れてみよ」


「う、うぅ…………」


 それを言われれば黙るしかない。


 確かに、依頼を受ける時に『訓練を兼ねた』と言っていた。


 そして、それを私は安易に受けると言ってしまったのだ。


 なら、言葉には責任を………嫌でもやらなければいけないのだろう。


 私は意を決し、なし崩し的に持っていた剣の柄を、ギュと握る。


 同時に、スライムの粘液がボタリと落ちた。拭けばよかった。


 未だに四つん這いとなっているゴブリンへと剣を掲げ、ジリジリと近付いていく。


 すると、私の近付く気配に気付いたのか、ゴブリンが私へと振り返りバッと立ち上がる。


 その顔は恐怖に染まっていたが、近付いているのが私だと分かると少し余裕の表情となった。


 ザッドハークじゃないことに安堵したらしい。


 すると、ゴブリンは落ちていた槍を拾い上げて私へと構えてくる。


 その目には敵意と殺意が入り交じっており、ビシビシと何とも言えない迫力に気圧される。


 ゲームや小説では、ゴブリンの戦闘などはチュートリアル戦闘のようなものであり、主人公達は何の感傷も手応えも感じずに倒していた。


 だが、実際はどうだろう。


 生きている生物が向けてくる生の敵意というのは、とんでもない迫力である。


 今にも気圧されそうで、逃げ出したくなる。


『テレッテー!ゴブリンを倒した』


『よし!ゴブリンは雑魚だ!』


『ゴブリンをバサバサと斬り倒した』


 かつて読んだりしたゲームや小説のゴブリンとの戦闘場面に出てきた主人公達の会話を思いだし、心底ふざけるなと思う。


 見てみなさいよ生のゴブリンを!?


 この生臭さに向けてくる殺意。とてもじゃないけど、雑魚なんて言えるようなもんじゃないわよ!!


 大体、転移や転生した小説の主人公はゴブリンを臆さず簡単に倒しているけども、野犬や野良猫に吠えられて驚くような現代日本人学生が、敵意剥き出しの野生生物にいきなり出会って、臆さない訳ないじゃないのよ!?


 (リアル)のゴブリン舐めんなよ!チクショウが!!


 内心そう毒づいていると、唐突にゴブリンが動き出した。


 槍を真っ直ぐに構え、私目掛けて突撃してきたのだ。


「えっ?」


 突然私に向かって走り出したゴブリンに、私の思考は停止した。


 剣を構えたままに、呆然と立ち尽くす。


 未だに悩み、戦いに対する心づもりができていないところに、突然の攻撃。


 心も体も完全に動くことを放棄していた。




「盾を前に構えよ!!」


 


「ハッ?!」


 

 突然背後から聞こえた声に私は我を取り戻し、言われたままに盾を咄嗟に構えた。


 その瞬間、盾に重い衝撃が走る。


 ゴブリンが突き出した槍が、上手く盾にぶつかり攻撃を防いだのだ。


 攻撃を上手く防げたことにホッとしていると、更に背後から檄が飛んだ。


「気を抜くでない!まだ終わっておらぬ!盾をしっかりと構え、一気に押し返すのだ!!」


 声のした方向を横目で見れば、少し離れた場所でザッドハークが腕を組んで立っていた。


「ザッド………ハーク………」


「此方に意識を向けてる暇があるならば押し返せ!!気持ちだ!気持ちで負けるでない!!」


 ザッドハークの声に、不思議と力が沸き上がってくる。


 盾にしっかりと力を込め、踏ん張る足にも渾身の力を入れる。


 そして、ゴブリンの槍で押す力が一瞬弱まったところを狙い、盾を一気に押し出した。


「オラハァ!!!」


 とても乙女が出すとは思えない気合いの声を上げて盾を押し出すと、ゴブリンが態勢を崩して後ずさった。


「いまだ!!渾身の力を剣に込め、振り下ろせぇぇ!!当たればどこでも構わぬ!!」


「ウラァァァァ!?」


 ザッドハークの指示に従い、渾身の力を込めた剣を持てる高さまで振り上げた。


 アドレナリンが出ているせいか、然程剣の重さは感じず、まるで羽でも持っているかのように軽く感じた。


 そして、剣を頭上高くまで上げた瞬間、突如頭の中に声が聞こえた。




 

『破壊セヨ』


 



 奇妙な……無機質な声が頭に響くと同時に、手の中の剣から『ドクン』と鼓動が伝わる。


 そして、再び声がした。


 


 


 

『破壊セヨ破壊セヨ。全ベテヲ等シク破壊スルノダ』


 


 


 


 

 声がより鮮明になると、剣が更なる鼓動を脈動させる。そして、私の中で凄まじい力と破壊衝動が沸き上がるのが分かった。


 頭と心が破壊衝動に埋め尽くされ、余計なことを考えられなくなる。


 沸き上がる力と衝動………私はそれらの意志に従い、渾身の……力を剣へと込めて、ゴブリンへと振り下ろした。


 

『サァ。破壊セヨ』


「オラァァァァァァァ!!!」


 


 剣の誘いに従い、私はゴブリンへと振り下ろした。


 だが、この時私は完全に失念していた。


 いや、剣の意志に蝕まれていて、考えることすらできていなかったのだ。


 


 そう………。


 


 私の手が、スライムの粘液でヌレヌレだったことに。


 


 


 剣は振り下ろしている最中、剣がちょうど肩の高さの位置………水平の位置のところにきたところでスライムの粘液で滑り、私の手からすっぽ抜けたのだ。


 力を込め過ぎたのが仇となった。


 すっぽ抜けた剣は、慣性の法則に従い真っ直ぐに森の中へピューと飛んでいく。


『破壊セ………エッ?チョ?!ア、アレェェェェェ?!?!私、久方ノ出番ダッタノニィィィィィィ?!?!』


 頭………というよりかは剣から悲痛な叫びが上がり、そのまま森の中へと消えていくと声も聞こえなくなる。


 破壊の剣は、意味深なことだく呟くだけ呟き、その役目を果たさずに森へと放り投げられた。


 しかし、剣が無くなっただけで私の手は止まらなかった。


 剣がなくなり無手となった私だが、破壊衝動はそのままだ。


 私の体は私の意志とは無関係にその空となった拳を握りしめ、一気にゴブリンへと振り下ろした。


「ゴラァァァァァァァ!!!!』


 振り下ろした拳は、唖然とするゴブリンの腹部へとめり込む。


 拳に柔らかな肉を殴り付ける感触が伝わってくる。


 だが、それだけでは私は止まらなかった。


「シャオラァァァァァァァ!!!」


 更なる力を込め、ゴブリンを地面へと叩き付ける。それでも尚、拳の力は弛めない。


 地面にはゴブリンを中心にクレーターが出来上がった。


 そして…………。


 パァ――ン。


 ゴブリンが弾けた。


 文字通り、風船の如く弾けて割れたのだ。


 ゴブリンの肉体が耐えきれなかったらしい。


 辺りにゴブリンの血や肉片が花火のように飛び散り、独特な血臭を漂わせる。


 無論、爆心地付近………というより、爆撃した当の本人である私は、尋常ならざるゴブリンの血肉や臓物を浴びて、全身が真っ赤に染まっていた。


 そんな血肉を浴びながらも、私は未だ狂化とはまた違った別の衝動に囚われており、その衝動の赴くままに天高く勝利の咆哮を上げた。


 

「オオォォォォォォォォォォォ!!」


 

 血肉を浴び、喜びの声を上げる悪魔の図の完成であった…………。


 


 




 


 


 


 

「おい……どうすんだよあれ……。ドン引きなんだが………」


「我とて同じよ。あれは予想の範囲外と申すか………正に狂戦士(バーサーカー)となるために生まれような女だな………」


 男二人は若干離れた位置で、戦々恐々と事態を見守っていた………。

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