20話 はじめての討伐
「待て!落ち着け!違うんだ!最初は俺が沼に入るって言ったんだ!!そしたらザッドハークが『カオリを入れよう。良い餌となる』って提案してきたんだ!!女らしさを作戦内容に出せば食い付くって……。俺は反対したんだぜ!?だから……だから、その両手に持ったスライムを下げてくれ!!」
「貴様ぁぁ!?我を売るとは見損なったぞ!!貴様とて『あんな鎧着て森を歩いてるから、足が良い感じで蒸れてそうだ』などと賛成していたではないか!!我は少しばかり興をのせ……。待て!カオリよ!そのスライムを……」
「問答無用!!オラァ!!行けやスラ蔵にスラ彦!!やつらの息の根をとめろやぁぁ!!」
両手を振りかぶり、その手に持った二匹のスライムをザッドハークとジャンクさんの口目を掛けて投げつける。
投擲されたスライムは体をプルプルと風に震わせながらも、私の意をくんだように飛んでいき、見事に二人の顔面へとぶつかり、そのまま口から入り込んでいった。
「オゴハァァ?!」
「グォォォォォォ?!」
ジャンクさんが雄叫びを上げ、ザッドハークが断末魔の如き叫びを上げながら喉をかきむしる。
その姿を見て、私は高らかに笑い声を上げた。
「アハハハハ!どうよ?私の足の角質をたっぷり食べたスライムのお味は?美味しい?美味しいでしょう。華の女子高生の生足の味よ!お金を払ってでも食べたい人間がいるご馳走よ?さぁ、存分に噛み締めなさい!!」
「グァァァ?!年増……年増の細胞が俺の中にぃぃぃぃ!?」
「カ、カオリ……汝は血も涙もない、悪魔……いや、悪魔などよりも尚、邪悪な邪神の眷族かぁぁ!!」
「オホホホホ!好きに言いなさいな。ただ、これだけは言っておきます。
うら若き乙女の素足を餌にする奴には言われたかねぇぇぇぇわぁぁ!?」
涎と涙を流すジャンクさん。
盾と剣を構えるザッドハーク。
この二人に対し、私は再びスライムを次々と投げつけた。
ジャンクさんは何とかスライムを回避し、ザッドハークは盾でスライムを防ぐ。
外れ、防がれたスライムはビジャと液体になって散らばり、土のなかへと染み込んでいくが気にしない。
何せスライムは足下に大量にいるのだ。弾切れになることはない。
さぁ、どちらが先に倒れるか、決着をつけてくれる!!
――数十分後。
沼の浅瀬付近。そこには、地面に四つん這いになって息を吐く三人の姿があった。
「はぁ……はぁ………な、なぁ、もう止めにしないか?」
「ウ、ウム。我も賛成だ。カオリよ、汝に休戦を申し入れる」
「うん……私も疲れた」
流石にはしゃぎ過ぎた。
餌にされた怒りのままにスライムを投げまくっていたけど、流石に疲れた。
激しくスライムを投げまくったりと動いたせいで、怒りもとっくに吹き飛んでしまった。
あれだな………雪合戦と同じだ。
雪合戦ってはじめは楽しいけど、段々とテンションが上がって途中から喧嘩みたいになり、最後は疲れや溶けた雪でずぶ濡れになった体のせいでテンションが急降下し、なあなあで解散となる。
まるっきりあれと同じだ。
ザッドハークとジャンクさんは身体中が破裂したスライムの粘液まみれになり、テンションが下がっているようだ。
絵面が汚い。
私はスライムまみれになってはいないが、何気に足元から水に体温を奪われ、肉体とテンションの二つの意味で急降下中だ。
「しかし………成り行きとはいえ、随分とスライムを倒したもんだな。あちこちにスライムの核が落ちてやがる」
ジャンクさんが足元にあった白いビー玉のようなものを拾い上げた。
「核?」
「そうだ核だ。これがスライムの心臓みたいなもんだな。スライムの身体の中で唯一の個体で、これを破壊したり取り出すと、スライムは体を維持できなくなるんだ。嬢ちゃんが激しく投げつけたせいで、核が体から押し出されたんだな」
成る程。スライムの心臓か……。
辺りを見れば、そのスライムの心臓という核が少なくとも50個以上落ちているようなんですが?
私、一体何匹のスライムを倒したんだろう………。
初めての魔物討伐だったけど、全く討伐した気にならない。
だって投げていただけだから。
あれほど可愛いと思っていたスライムも、説明を見た後では憎らしくて仕方なく、ただただ容赦なく投げまくってしまったからね。
何が女の匂いだ。ただ古い角質と垢を舐めにきた、ドクターフィッシュと同じじゃないかよ!
再び再燃しそうな怒りを抑え込んでいると、ジャンクさんがスライムの核を拾っていた。
「ムッ?ジャンクよ。そんなものを拾い如何にする?食するのか?流石は村八分にされし男よ」
「喰わねーよ!?俺が仲間外れにされてるみたいに言うんじゃねーよ!!このスライムの核は討伐証明になるから集めてただけだよ!!」
「討伐証明?」
私がそう口にすると、ジャンクさんは頷きながら教えてくれた。
「大概の魔物の討伐依頼には必要不可欠なもんで、魔物の体の一部をギルドに提出すると討伐したと見なされる。そこで初めて依頼達成になるんだよ。逆に持ってかなきゃ、いくら倒しても討伐と見なされねぇから気をつけな」
「ほへぇ。そうだったんだ」
確か小説やゲームでもそんな感じだった気がする。
まぁ、討伐しても話だけじゃ信用できないから、その証拠を持っていくのは当然の措置だよな。
そう感心していると、ジャンクさんが呆れたような顔をしていた。
「嬢ちゃん。そんな感心したような顔されても嬉しくないぜ?なんせ、持ってくるように指定されている魔物の討伐部位は、依頼書に書いてあるぜ?」
バッとザッドハークを見る。
「細かいところは目に入らぬ」
ザッドハークは全く悪びれるようすもなく、寧ろ尊大な態度で言い放ってきやがった。
「いや、細かくねぇだろ!?必要なことだろうがい!これ、ジャンクさんがいなかったらどうするつもりだったのよ?」
「押しきるまでよ」
「ねぇ、その自信はどこからくるの?見習わしてよ。マジで」
放っておけば、本当に押しきるどころか乗り込みそうなザッドハークの唯我独尊発言に辟易していると、ジャンクさんが同情するような目で見てきていた。
「お嬢ちゃんも苦労してんだな……」
「まぁ、大分………」
ジャンクさんが手を差し出してきて、握手を求めてきた。
その光景を見て、ジャンクさんとの絆が深まったような気がした……。
「あっ。握手は遠慮します。塗るついててキモいんで」
「うぉい?!」
◇◇◇◇◇◇
「さて。次はゴブリンの討伐か」
体を拭いて装備を整えた私達一行は、ジャンクさんの先行のもとで再び森を歩き始めた。
次なる標的はゴブリン。
ファンタジー界ではスライムと同等の知名度を誇るモンスターだ。
先行するジャンクさんは、歩きながらそのゴブリンについて説明をしてくれた。
「あぁ。ゴブリンは森のちょっと奥に行ったところに生息している。まぁ、頻繁に森から出て、近くの村の農家やなんかに悪さをしているが、森に入った方が確実に出会える。やつらは人間の襲撃を恐れてか、人のいない森にしか住み着かねぇからな」
「成る程ね」
「ただ嬢ちゃんは注意しろよ?ゴブリンは弱い魔物で力は大したことはないが、集団戦を仕掛けてくる。加えて、臆病な性格してるくせに雌の匂いには敏感だ。他種族だろうが雌だったら拐って巣に持ち帰っちまう。これは嘘じゃねぇからな。毎年、農家や冒険者に被害が出てるからな」
ジャンクさんの説明に血の気が引く。
確か、薄い本でもゴブリンは大活躍だった筈だ。
スライムみたいに粘液や触手はないが、集団で休むことなくヒロインを蹂躙していた筈だ。
そんな18禁な想像をすると、つい及び腰になってしまう。
すると、それを察したのか、ザッドハークが私の背中を手でポンッと叩いて支えてきた。
「案ずることはないカオリよ。ジャンクも不用意なことを申すでない」
「ザッドハークさん……」
珍しく優しげに声を掛けてきたザッドハークに、不覚にもキュンとする。
な、なんだ……こいつも私を女性として気遣いできるじゃ………。
「カオリだぞ?襲われる前に襲うであろうぞ?」
「ハハハ!違いねぇ!」
「おい。ちょっとそこ並べ。テメーら」
◇◇◇◇◇
「ここらは既にゴブリンのテリトリーだ。充分に警戒しな」
「右目に青アザを付けた顔で申しても、格好がつかぬぞ?」
「うっせーよ。テメーだって足引き摺ってんじゃねーか」
ジャンクさんが辺りを警戒しながらザッドハークに文句を垂れる。
私からの制裁を喰らった二人は、至極真面目に辺りを探索してゴブリンを探してくれていた。
「しかし、探してみると存外おらぬものだな。ゴブリンなど、虫のように沸いて出で、なりふり構わずに襲いかかってくると思ってのだが……」
「まぁ、やつらだって森で生きてるんだから、そこまで馬鹿じゃねぇよ。弱肉強食の世界で生き残るためにゃ、それなりに賢くねぇとな。隠れもするし、罠も張る。集団を分けて、狩りにも出るさ。だから…………おっと、噂をしたらなんとかだ。頭を下げな」
ジャンクさんが素早く茂みの影へと屈んで隠れる。
私とザッドハークも、指示に従い素早く屈んで隠れた。
ジャンクさんがジェスチャーで茂みの向こうを差し示してきたので、そちらに目を向ける。
やや離れた場所……そこには10匹の異形がいた。
背丈は低学年の小学生程と小さく、肌は緑色をしている。頭に毛はなく、窪んだ黄色の眼球に、長い鷲鼻。耳まで裂けたような口をしており、その耳も尖っている。
着ているものは粗末な腰布だけで、手には石斧や棍棒といった、粗末な武器を持っていた。
ゴブリン。
一目でそうだと理解できる容姿の魔物が、ゾロゾロと一組になって森を歩いていたのだ。
『あれが………ゴブリン?』
小声で確認を取ると、ジャンクさんが頷いた。
『そうだ。あいつらがゴブリンだ。しかし10匹か……。少し数が多いが、奇襲をかければ何とかなりそうな数ではあるが………』
ジャンクさんが作戦を考案している間に、ゴブリンをマジマジと観察する。
もう見た目が完全に漫画やゲームのまんまの見た目だな。
ただ、現実にああやって生きているわけで、先のスライムでは感じなかったが、目の前のゴブリンからは、生き物としての息づかいや独特の怖さが感じられた。
あれと戦うのか……できるかなぁ……。
喧嘩すらしたことのない私が戦い、ましてや生き物を殺す。
それが本当にできるのか……。
内心怖くなり、知らない内に体が震えていた。
震える体を抑えようとすると、ザッドハークが私の肩を手を置いてきた。
目線を上げ、ザッドハークへと目を向けると、ザッドハークはコクリと頷いてきた。
『カオリ。汝の考えは分かっている。だが、悩むことはない』
『ザッドハーク………』
どうやら私が怯えているのを察してくれたらしい。ザッドハークは私を真っ直ぐに見つめながら、諭すような口調で呟く。
『確かにあれなる魔物は、あの道具屋の老店主に顔付きが似ているが、全く別のものだ。ゴブリンと割り切れ』
『おい。やめろ』
こいつ、人がちょっと感動してたら、何とんでもないことをぶっ込んできてんだ?
いや、確かによく見ればメル婆に似てるよ?あれで肌が緑色じゃなく、白髪が生えてれば、完全にメル婆だよ。
窪んだ目とか、鷲鼻とか、特徴が一致してるからね。
だが、それをここでぶっ込むか?討伐前にぶっ込むかよ。
やりにくくなるわ!
『しかし……フム。見れば見る程に似ておるな。あの槍をついている奴など、杖をつく姿に瓜二つよ』
『だから止めろ!やりにくいだろうが!知り合いに似てるなんて言われたら、倒すのを躊躇するだろうが!』
『だから申したであろう?割り切れと』
『あんたが言わなきゃ意識してなかったわよ!!』
『おい!お前ら静かにしろよ!バレんだろうが!!』
ジャンクさんに注意され、渋々ながらも黙る。
くそっ!本当にやりづらくなったわ!もう、ゴブリンがメル婆にしか見えなくなったわ!!
ただでさえ生き物を殺すことに戸惑いがあるのに、加えて知り合いに似ているって何なのよ?!
どんだけ負荷かけんのよ?!
『ときにジャンクよ。ゴブリンの討伐部位はどこなのだ?下手をすれば部位を傷つけるおそれがある故に聞いておきたい』
ザッドハークがジャンクさんにそう訪ねると、ジャンクさんは自分の右耳を指差した。
『右耳だ。やつらの片側の耳だけが証明になるから、なるたけ顔面の側頭部は攻撃すんなよ。やるなら頭をかち割るか、体を斬り裂け。そんで、全部倒したら耳を削げばいい』
それを聞いて更に気分が悪くなる。
殺した上で耳まで削ぐとは………なんとも聞いていて気分が悪く話だ。
それをやるとなれば尚更だ。
小説でもそういったシーンはあるが、やはり現実と物語は違う。
正直、吐きそうだ。
『ね、ねぇ……やっぱりやらなきゃ駄目?』
つい弱気になり、そんな言葉を呟く。
ザッドハークとジャンクさんは、顔を見合わせてから、厳しい目で見てきた。
『やるかやらないかで言えばやるしかねぇよ。これは仕事で、その仕事を受けた以上は確実に達成するしかねぇんだ。それが責任ってもんだ。感情に左右されて依頼を放棄したんじゃ、今後は冒険者としての信頼も失われ、誰からも相手にされなくなる。そうなったら終わりだ。命を奪うのが嫌だったら、最初から命を奪って奪われるような仕事につくんじゃねぇって話だ』
『左様。一度受けたからには責任を負うが世の理よ。如何な事であろうと、行動には責任が生じる。汝も一度受けたからには覚悟を決めよ。安請け合いなどは、最も嫌悪される行動ぞ』
珍しくまともな説教をしてくるザッドハーク達に、ハッとするも直ぐにシュンとした気持ちになる。
分かってはいる。そんなことは、日本で学生だったが、責任というものについては分かってはいるつもりだ。
ザッドハークとジャンクさんの言い分も理解しているつもりだ。
けど………。
『ねぇ……耳だけ切り取って逃がしてあげるのは駄目かな?』
『うぉい……なんの拷問だよ、そりゃ。流石にドン引くぞ………』
『カオリ………汝は時折、悪意なく我よりも恐ろしき提案を平気で口にするな……。頼もしくもあるが、寒気もするぞ……』
二人が若干私から離れていく。
生かさず殺さずの提案をしたつもりだったが、ドン引く程の不評だったらしい。
確かに言っていて、とんでもない提案だとは思う。
耳切って放逐って、どこの部族の掟だよ。
自分の提案にドン引いていると、唐突にザッドハークが私の頭を撫でてきた。
『えっ?ちょ………何を……』
『カオリよ。汝が命を奪うことに抵抗があるのは理解できぬが理解する』
『いや、理解できてないのかよ』
良いこと言おうとして出だしで失敗してんじゃないか。
だが、金剛の心臓を持つザッドハークの言葉は止まらない。
『汝は平和な世界から来た故に、命を奪うことに慣れておらぬのだろう。だが、本来生きるということは、命の奪い合いに他ならぬのだ』
『奪い合い…………』
『左様。どこの世界でも、喰って喰われるが条理。そして、喰われぬために……己が身を……友を……家族を守る為に、迫る敵を殺すことも求められる。見てみよ、あのゴブリンを。あやつらは武器を持ち、森の外へと向かっている。あれは、生きるために狩りへと出掛けるつもりだ』
確かにゴブリン達は武器を携帯していて、これから狩りに行くことは予想できた。
だったら、そんな営みを邪魔するのは………。
『あやつらの狩りの対象は………人間だ』
『えっ?!』
ザッドハークの言葉に驚くと、ジャンクさんが説明してくれた。
『その通りだ。この先に暫く行くと、農村があるんだ。恐らくは、そこで物質を略奪するつもりなんだろう。戦う手段のない農民は、ゴブリンにとっては格好の獲物だ。下手に抵抗するやつは殺しやがるし、女子供を拐って玩具にもしやがる』
その話に背筋がゾッとする。
あそこのゴブリンを放っておけば、誰かを殺すかもしれない。誰かが拐われるかもしれない。
誰かが不幸になるかもしれない。
それは私にとっては見ず知らずの誰かだろうが、それでもそんなことを見逃すことなんてできない。
私は拳をギュと力強く握った。
『こちらの都合で呼ばれ戦わせられることに理不尽を感じるであろう。だが、そこは耐えるのだ。汝はそのあり様を見込まれ、世界の救済を求める人々の声に呼ばれ、今この場にいるのだ。故に、その汝のあり方……力……何よりも想いを世界に示し、この人々を救うのだ。
無論、我も手を貸そう。汝一人では抱えきれぬ責を、我もまた抱えよう。我は汝の剣にして、盾。汝の心の平穏を守る為に力を尽くそうぞ』
『ザッドハーク…………』
まさか………ザッドハークがここまで言ってくれるとは………。
いつもふざけて馬鹿で傲慢で、どうしようもない骸骨騎士だと思っていたけど、ちゃんと私のことを考えてくれていたんだ……。
視界が滲み、涙が溢れそうになる。
すると、ザッドハークは私の両肩をしっかりと掴んできた。
『つまり……我が何を言いたいかと言えば………気持ちだ!!』
『えっ?』
『気持ちが大事だ!気持ちが!!』
『えっ?あの………?』
『気持ちがあれば何でもこなせる!気持ちがあれば何も恐れることなどない!気持ちを強く持つのだカオリ!』
『えっ……う、うん………?』
『駄目だ。気持ちが足りぬ!気持ちが大事!繰り返してみよ!!』
『き……気持ちが大事』
『もっとだ!もっと気持ちを込めよ!』
『き、気持ちが大事!!』
『そうだ!それで良い!その気持ちがあらばゴブリンなど恐るに足りぬ!さぁ、気持ちを武器に、ゴブリンを葬ふろうぞ!!』
『オ、オー………』
ザッドハークの勢いに押され、私も拳を掲げる。
えっと………あれ?な、なんか悩みを無理やり押しきられた感がするんだけど?誤魔化された感が凄いんだけど?な、なんか悶々とするんだけど?
す、凄い力技に押しきられたような気がするんだけど?
『あー……お二人さん。盛り上がっているとこ悪いが、ちょっといいか?』
困惑していると、途中から空気になっていたジャンクさんが声を掛けてきた。
『如何がしたジャンクよ。ゴブリンに動きがあったのか?』
『まぁあったというか何と言うかな……』
『何なのだ?はっきりと申せ』
何やら言い淀むジャンクさんに、ザッドハークがはっきり話せと促した。
ジャンクさんは頭をボリボリと掻き、溜息とともに言った。
「俺ら。囲まれてんぞ?」
「はい?」
「ムッ?」
ジャンクさんの言葉の意味が分からず、辺りを見回した。
武器を手にしたゴブリンが、私達をしっかりと囲んでいた。