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19話 はじめての魔物

今回、勝手ながらタイトルの方を変えさせていただきました。

今後もどうか新タイトルで、よろしくお願いします。

「フム。という訳で無事に東の森に来てみたわけだ」


「いや、という訳じゃねぇし!全然無事じゃなかったからね!?」


 目の前に広がる森を見て満足気に腕組みするザッドハークに、私は渾身の叫びを上げる。


 あの後、ギルドでザッドハークが情報を求めた男性冒険者……ジャンクさんの誤解を解き、何とか周辺の情報を得ることができた。


 誤解を解いた………と一言で言っているが、実際はかなり大変だった。


 死を覚悟したジャンクさんだが、私を見て急に命が惜しくなったらしく、泣きながら必死に土下座をしてきたのだ。


 解せん。


 しかし、三十になるオッサンが涙やら鼻水を流して媚びを売ってくる姿は、何とも精神的にきついものであった。


 しまいには私の足を舐めそうになっていたからね。


 そんなジャンクさんを何とか落ち着かせてから情報を得て、このアンデル王国から少し離れた東の森と呼ばれる森へとやって来たのだ。


 ザッドハークの見立て通り、ジャンクさんはここらの情報を良くしっており、直ぐに私達が求めるものが何処にあるのかを教えてくれた。


 聞いてないことも教えてくれたが、それは後で活用しよう。


 ジャンクさんにとっては不幸であったが、私達としては幸いで、実りある出会いであった。


 ありがとうジャンクさん。


 心の中でジャンクさんに感謝をしていると、ザッドハークが顎に手を当て、考える素振りをしながら振り向いた。


「さて。後は依頼のスライムの5体討伐とゴブリン3体の討伐。それに薬草十本の採取をしなければならないが……この森のどこにあるかは一目に伺い知れぬな。この森のどこら辺にあるのだ……ジャンクよ?」


「なんで俺が………」


 振り向いた先………そこにはボサボサの茶髪に顎髭を生やし、簡素な皮鎧に身を包んだ三十前半位の冒険者……ぶっちゃけ、先の被害者ジャンクさんが疲れたような顔でそこにいた。


 そう、あの後ザッドハークがジャンクさんを強制連行したのだ。


「仕方あるまい。汝の話は有益であったが、話を聞いているだけでは分からんのだ。薬草がどこにあり、どんなものかと話されても理解が及ばぬ。なれば、知っている者を直接連れてくが道理よ」


「いや、道理じゃないよな?!無茶苦茶だよな!!なんで見ず知らずの……それも、勘違いとはいえ命の危機に晒された相手と採取にこなきゃなんねぇんだよ!!」


 あれだけのことがあったからか、大分ザッドハークに慣れたようで、ジャンクさんが目を見開いて文句を叫ぶ。


 まさか実際に連れてこられるとは思ってもみなかったのだろう。


 私だって思わなかった。


 ジャンクさんからすれば、命の危機から脱したと思えば、その命の危機を与えてきた死神(ザッドハーク)に連行されたのだ。


 叫びたくもなる。


 だが、ザッドハーク(そいつ)には、理屈も道理も通用する筈がない。


「よく言うではないか。百聞は一見にしかずと………訓練よりも実戦。聞くよりかは見た方が早いのは世の摂理よ」


「摂理じゃねぇよ!?俺を巻き込むむなよぉ!!お嬢ちゃん!お嬢ちゃんからも何か言ってくれよ!!」


 ジャンクさんが横にいる私へと助けを求めてくる。


 兜を脱いで私が女と分かってから、ジャンクさんは私をお嬢ちゃんと呼んでくる。暫く女扱いをされていなかった気がするので、悪い気はしない。


 だが、ジャンクさんの要望には答えられない。


「大丈夫です。依頼が達成できれば帰れますよ」


「それ、俺が最後まで付き合わなきゃいけないってことだよね?!何なんだよお前らぁぁ?!」 


 ジャンクさんが悲痛な叫びを上げるが私にはどうすることもできない。


 ザッドハークの唯我独尊(我が道を行く)の精神は、私の脛殺しを持ってしてもどうにもならないのだ。


 南無。


 まぁ、本音を言えば、薬草の採取に関してアドバイザーがいることは嬉しいし、ザッドハークが暴走した時のストッパー役が増えたと思えば気が楽になるのだ。


 私の心の平穏の為に頑張って下さい。


 ついでに、私を悪魔よばわりした苛つきも多少は混じっていますが。


「ジャンクよ。叫ぶ暇があるならスライムなり薬草なりを探せ。依頼を達成できぬぞ」


「俺の依頼じゃねぇし?!何、さも俺がパーティーメンバーみたいになってんだよ?!もう帰してくれよ!!」


「ここまで来たなら手伝うが最善よ。どうせ戻ったところで、仲間もおらぬ寂しい身。一人ギルドで酒をチビチビ飲みながら、受付嬢を眺めるくらいしかせぬのだろう。なれば、ここで手を貸す方が有意義であろう」


「な、何で受付嬢を見てんの知ってんだよ?!べ、別に俺の勝手だろうが!!てか、勝手に俺を寂しい人間にすんじゃねぇよ!?そりゃ俺はソロで活動してるけどもぉ………仲間がいねぇわけでも…………って、あっー!?もういいよ!分かったよ!手伝ってやるよ?!手伝えばいいんだろうが!チキショー!!」


 ジャンクさんがやけを起こして叫びながら了承をしてくれた。


 意外と面倒見が良いのかもしれないが、本音はこれ以上は話題を掘り返さないでくれということだろう。


 主に人間関係を。


 物知りな人手が増えたのは嬉しいんだけど…………何だろうか。凄くジャンクさんが寂しい人物に見えてきたよ………。


 確かに、あれだけいっぱいの冒険者がいる酒場。周りがパーティー同士で飲んでる中で、ジャンクさんだけが……。


 あれ、視界が滲むなぁ……。


 ちょっと滲んだ視界を指で擦っていると、ザッドハークは満足そうに頷きながらジャンクさんを見ていた。


「フム。よき心構えよ。存分に働くがよい」


「嬢ちゃん!?なんで手伝ってもらってんのに、こいつはこんなに上から目線なんだよ?!おかしいだろ?!」


「習性です」


「持って生まれた性かよ?!手におぇねぇよ?!」


 


 


 ◇◇◇◇◇


「さて。まずは何を探すのだ?」


 緑生い茂る森の中を歩きながら、ザッドハークがジャンクさんへと質問する。


 なんだかんだと文句を垂れながらも、ジャンクさんは持っている鉈で茂みや枝木を掻き分け、慣れた足取りで先行してくれていた。


 そんなジャンクさんは、振り替えることなく答える。


「あー……依頼は確かスライムとゴブリンに薬草だろ?なら、薬草は最後だな。あれは品質が求められるから、最初に採取すると時間が経ってしおれて品質が下がる。そんで、買い取りが安くなっちまう。だから、薬草はなるだけ最後に採取して、新鮮なものを持っていく」


「ほう………なれば、討伐が先か」


「そういうことだ。ここからならスライムが生息する沼地が近いから、そこでスライムを狩る。そんで更に奥にいるゴブリンを狩って、帰りについでに薬草を採取する。それで最短で依頼達成だ」


 成る程ね。薬草もただ積めばいいってもんじゃないのね。


 まぁ、そりゃ品質が落ちたのを渡しても、渡された側は困るってものだよね。納得だ。


「フム。よく心得ておるな。流石は助言役(アドバイザー)よ」


「確か、ザッドハーク(あなた)もアドバイザーだったよね?」


 役目を忘れたアドバイザーにツッコミを入れておく。


 しかし、ザッドハークの言うとおり、ジャンクさんはやっぱり経験者だけに物知りだなぁ。なんだかんだで率先して動いてくれてるし、ザッドハークより役に立つし………このままザッドハークと交換できないなかなぁ。


 まぁ、無理か。ザッドハークはなんかもう聖印とかってのがあるしな。


 あるもので我慢しよう。


 しかし意外と暇だな。なんせただ歩いているだけだし。


 最初は探索ということでドキドキしたけど、何も起きない上に、風景は代わり映えしない木々生い茂る森だからなぁ。


 もう、飽きたなぁ……動物か魔物でも飛び出さないかな?


 そういえば、魔物ってまだちゃんと見てないから見てみたいな。


 魔物っぽいやつ(ザッドハーク)は見てるけどね。


 そんなことを考えながら歩いていると、ザッドハークがジャンクさんへと近づき、コソコソと話し出した。


 どうやらザッドハークも暇だったらしい。


 だが、この装備は身体能力を強化しているせいか、これくらいの距離であれば完全に丸聞こえである。


 全く………男同士で何を話してんのかね。


『ところでジャンクよ。汝に聞きたいのだが………汝。よもやニーナ嬢を狙っている訳ではあるまいな?』


『はぁ?!なんで急にそんな話を………』


『よいから答えよ。場合によっては我は汝を処断せねばならぬ』


『既に死刑宣告込みの脅しじゃねぇか!?狙ってねーよ!俺の好みはマインちゃんだよ!』


『マイン?誰だ?』


『ほら………青い髪を肩口までで切り揃えていて、ジト目の…………』


『あの平野の如き胸をした少女か?』


『平野って言うな!!チッパイと呼べ!!あれはあれで最高なんだよ!あの小ぶりかつ、固めで控えめな胸。成人してるにも関わらず若々しいあの容姿………最高じゃねーか?』


『汝…………見かけによらず、深淵より深き業を背負っておるのだな。汝に仲間がおらぬ理由が理解できたぞ』


『うっせーよ!?人の勝手だろうが!!それなら、おめぇも業を背負ってんじゃねーか!?一緒に女がいるくせして、ニーナ嬢にも手を出そうなんて、とんでもねぇ罪じゃねぇか!』


『待て。女とは誰だ?』


『そこにいる悪魔みてぇな鎧を着た女だよ!お前の女だろ?』


『全く違う。心外だ』


『全否定?!』


『汝………あれを女とみておるのか?なれば、物理的に足を掬われるぞ?あれは女の姿をした何かだ』


『骸骨の騎士の姿をした何かに言われることじゃねーと思うんだが……そんなにか?』


『我はこれまで何者にも土を付けられことはなかった。だが、カオリと出会ってからは土どころか地面を舐めさせられる始末。このような仕打ちも苦痛も受けたことはない。恐るべき人間よ』


『あんたみたいな見た目ヤバい奴が怯えるってことは、本当に相当ヤバいんだな………』


『ウム。存分に注意せよ』


『了解だぜ。…………てか、この話しって聞こえてねぇか?』


『大丈夫であろう。流石にこの距離で聞こえる訳が………』


『なぁ………な、なんかお嬢ちゃんの鎧が赤黒く変色してんだけど?あ、あれってなんだ?』


「むぅ?!い、いかん!?に、逃げよ!これは狂化の前兆…………」


 


 


 


「「アギャァァァァァァァァ?!」」


 


 静かな森に、男二人の絶叫がこだました。


 ◇◇◇◇


 

「み、見えたぜ嬢ちゃん………あれがスライムが生息してる水辺だ……」


 背より高い草をジャンクさんが掻き分けると、そこには、そこそこに大きな沼地が広がっていた。


 沼地の周辺には様々な動物が水を飲みにきたり、植物が自生していたりと中々に賑やかな光景である。


「Kokokaaaaaaaaa………」


「カオリよ……もう狂化を解いても良いのではないか?」


 横で足を引き摺って歩くザッドハークが、私へと提案してくる。


 私はいつも通りのイメージをしながら、自身に掛けた狂化を解いた。


「Haaaaaaa………よし!解いたよ」


「なんという変わり身の早さ……」


「なんだよ………これ………」


 ザッドハークとジャンクさんが、信じられないようなものを見る目で私を見てくる。


 よほどこの狂化を簡単に解くのは普通のことじゃないらしい。


 だが、できるものは仕方がない。私的には、靴紐を結ぶよりも簡単にできてしまうのだから。


 なんかの小説の、常識無し自覚無しチート主人公のつもりはないが、私としては既に狂化は呼吸並みにできてしまうのだ。


 異世界来て実質1日で狂化を使いこなすというのも…………まぁ、非常識感はあるけど………仕方がないでしよ。できるんだから。


「だから言ったであろう。普通ではないと」


「あ………あぁ………普通は狂化って制御できるもんじゃねぇからな。とんでもない嬢ちゃんだぜ………」


 これは誉められてるんだろうか?それとも、喧嘩を売られてるのだろうか?


 まぁ、どちらにしても、後で脛殺しをお見舞いしておこうか。


「それで………ここにスライムがいるって話だけど、どこにいるの?」


 沼地を見回すが、奇妙な動物の姿は見えるが、スライムらしきものは見当たらなかった。


 というか、スライムの姿形自体を知らないんだけど。


 某ゲームであれば、にやついた顔をしたとんがり頭だったし、他のやつでも球状や液体。はては巨大な触手の塊だったりとバリエーション豊かな形をしていた。

 

 しかし、この世界ではどうなんだろうか?


 ジャンクさんの事前説明で、この世界のスライムは魔物の中では最弱であり、繁殖力はあるが、大した攻撃力はないということを聞いたけど、容姿については聞いていなかったな。


 どうするのかと考えていると、視界の隅でザッドハークとジャンクさんが話し込んでいるのが見えた。


 しかし、その話は直ぐに済んだようで、ザッドハークが頷くと直ぐ離れていった。


 何を話してたんだろうか?


 今回は意識を向けていなかったので、話の詳細を聞き逃してしまった。


 すると、ザッドハークがおもむろに私へと近付いてきた。


「カオリよ。すまぬが裸足になって沼に足をつけてくれぬか?」


「はっ?なんで?」


 突然のザッドハークの提案に困惑していると、横からジャンクさんが捕捉説明をしてくれた。


「スライムの生態なんだが、スライムは沼地の浅瀬にいるんだ。だが、色がほぼ透明なんで、水の中にいるスライムを見つけるのはとても困難なんだ」


「透明……確かに水の中で透明なのを見つけるのは困難だということは分かりますが、それが裸足になることとなんの関係が?」


「スライムを誘き寄せるためさ。スライムはどういう訳か、女の匂いに寄ってくる習性がある。だから、裸足になった足を水につけると、スライムが寄ってくるのさ。まぁ、ちょっとくすぐったいだけで、襲われることはないから安心しろよ」


「女の匂い…………」


 そんな説明を聞くと、嫌な想像が思い出される。


 確か、一部のオタッキーな男性方に親しまれる肌色率が半端ない薄い本の中で、スライムといえばエロモンスターとして定評があったはず。


 伸びる触手。ぬめつく粘液。そして、何故か媚薬効果がある体液。


 それらによって、屈強な女騎士やエルフ達にアハンな事にしていた。


 オーク、ゴブリン、クラーケンなどに並ぶ、女性を貶める立派なエロモンスターだった筈だ。


 まさか…………。


「ねぇ………まさかとは思うけど、私をスライムに襲わせて、エッチぃことになってるのを見て、楽しもうとしてんじゃないわよね?」


 ちょっとくすぐったい………とかいって、脛殺しの仕返しをここでするわけじゃなかろうね?


 そう思ってジト目で睨むと、ザッドハークとジャンクさんの二人は、互いに目を見合わせてから、キョトンとした顔で私へと視線を移した。


「「心外な」」


「うぉい。どういう意味だぁい?」


「そのままだ。我が好むは、雄大な胸を持ちし可憐なる森人よ。汝は些か以上に母性が足りぬので何ともな………」


「俺はやっぱりマインちゃんみたいな小さくて、胸が控えめな子だな。あんたはその……育ち過ぎだし、控えめと言うには半端な形とサイズだしな」


「ぐぬぬぬぬ………」


 このおっぱいマニアとロリコンがぁぁ?!人を何ごとも半端な女みたいに言いやがって!!


 なんだか私が自意識過剰な女みたいになっちゃったじゃないの!?


 あー!もう、そんなに巨乳がいいのか?あんなのただの脂肪の塊だろうがい!!年とったら、重力に従ってブランと垂れんだぞ!!


 ロリキャラだっていつか年食うんだからな?!しかも、童顔の顔付きは、結構えげつない年の取り方すんだからな!!中年くらいでびっくりすんだから!!


 そんな現実わかってんのかよコンチクショウがぁ!!


「カオリよ。早く裸足になれ。日が暮れる」


「マイペースか!分かりましたよ!」


 こちらの憤りなど知ったことかのザッドハークに促され、私は足の装備を脱いで裸足となった。


 そして、そのままジャンクさんの指示に従って沼地に入り、水嵩がくるぶしの高さのところで止まった。


 沼地………といっていたので、ドロドロとした泥地を想像していたが、入ってみると意外にもきめ細かい砂地で、サラサラとした肌触りが心地良い。


 水の温度も冷たすぎず、中々に快適な温度であった。


「こんなもんですか?で、あとはどうすれば?」


 先程のこともあり、ちょっと荒い口調で今後のことを聞くと、ジャンクさんはその場に座り、胡座をかいた。


「いんや。何もしなくていい。後はスライムが勝手に集まってくる。やつらは匂いに敏感だから、餌を撒けば直ぐに群がってくる」


「餌って…………」


 なんだろう…………。


 小さい頃に、母の田舎の実家で、従兄弟とザリガニ取りをしたことを思い出すな。


 宮城にある母の実家の近くには、田んぼに流す為の水を貯める貯水池があり、そこにはどこからかやって来た大量のザリガニが生息していた。


 従兄弟がたこ糸にスルメを付けた、簡素な仕掛けをその池に投げると、匂いに敏感なザリガニは我先にとスルメに殺到するのだ。


 尋常じゃない程の群れが。


 あれは気持ち悪かったなぁ。釣り上げると、スルメに食い付いたザリガニの尻尾に、別のザリガニが食い付いてんだもの。


 あれはドン引きだったなぁ。


 まぁ、さしずめ今の私は餌のスルメといったところかなぁ。


 そんな思い出に浸りながら水に浸っていると、足に妙な感覚があった。


「んっ?」


 なんともプルンとしたゼリー状のものに触れた感覚。


 気持ち悪さはなく、寧ろずっと触っていたいようなプニプニした感覚に、その正体を探ろうと足元を見た。


 そこには、半透明な何かがいた。


 体長は20センチ程で、青く半透明な水っぽい体をしている。形は人型だが、目や耳、指といったものはなく、胸の辺りに白い丸いものがある。


 その姿は、例えるなら非常口の人型のマークがデフォルメされたような外観をしていた。


 一言で言えば可愛い。


 そんな謎生物が、私の足にヒシッと抱きついていたのだ。


「えっ?ちょ、何ですかこの可愛い生物は!?」


 突然現れた謎生物に困惑しながらも見とれていると、ジャンクさんが待ってましたとばかりに立ち上がる。


「おっ!来たな!そいつがスライムだ」


「えっ?これが?」


 これがスライム?可愛いいんだけど?!


 スライムというより、水の妖精みたいな姿なんだけど?!私の知ってるスライムじゃないんだけど!!


 凄く愛らしくて可愛いんだけど!


 そう驚愕してる間にも、スライムは一匹二匹とどんどんと集まり、私の足へと抱きついくる。


 最初のやつなんかは、後から来たやつに押し上げられて、抱っこ人形みたいにふくらはぎに抱きついている。


 あらやだ、可愛い。


 このスライム達、必死に抱きついてきて、プルプルと体を震わせてくる。


 ちょっとくすぐったけど、気持ちが良い。


 そんなこんなでスライムを堪能していると、最終的には、私の周囲には30匹近いスライムが集まってきていた。

 

「す、凄い集まってくるよ?凄い凄い!!」


 感激したように叫ぶと、ジャンクさんは何故かひくついた笑みでこちらを見ていた。


「あぁ……流石にこんなに集まっくるとは思わなかったわ……。普通は5~6匹なんだが……凄げぇな……本当に……あんた……」


「?」


 なんだろう?ジャンクさん、随分と浮かない顔をしてるけど?どうかしたのかな?


 ザッドハークは…………。


「フム。餌が良いのだろう」


「餌とか言うな」


 いつも通りか。


 そんな、ザッドハークにツッコミながらも、先のジャンクさんの言葉を思い出す。


 そういえば、スライムは女性の匂いに寄ってくるって言ってたよね?


 ということは、これだけ集まってくるのは私の女子力の高さを表しているということでは?


 そう考えると気分が良くなる。


 装備や周りの男の見る目の無さから、ちょっと自信を無くしかけてたけど、やっぱり見る人が見れば違うし、分かるのね私の女子力。


 人じゃなくてスライムだけど。


 でもまぁ、こんな可愛いスライムに囲まれるのも悪くないかなぁ。


 そういえば、こんなに可愛いけども、一応は魔物なんだよね?


 魔物を鑑定したことはなかったから、人間との違いを見るためにも鑑定しておこうかな。


 取り敢えず、つま先付近にいるスライムを……。


「よし。『鑑定』」


 

 『鑑定結果』


 名前:なし

 種族:スライム

 称号:なし

 状態:通常

 危険度:Fランク

 Lv:2

 HP:20/20

 MP:5/5

 筋力:E-

 知恵:E-

 旋律:E-

 魔力:E-

 幸運:E-


 スキル:垢舐め・浄化・消化


 説明:全魔物中最弱の魔物。沼地や池などの流れの無い水辺に生息し、水の中の虫や微生物。または、落ちてくる生物の糞や死骸を餌にしている。食べたものを体内で消化し、綺麗な水や土へと変換して排出することから『土地の掃除屋』と呼ばれ、農家や漁師からは愛されている。


 基本何でも食べるが、特に好物なのが生物の垢や角質。よく、水浴びをする生物に集まって抱きつき、その垢を舐めとる姿が目撃される。体が汚い生物程、スライム達はよく集まるとされており、体を洗ってない冒険者が池に入ると、数十匹の大量のスライムに殺到されたという。


 尚、女性の匂いに敏感とか寄ってくるとかという性質や事実はない。


 


 


 




 





「シャオラァァァ!!」


 取り敢えず、近くにいた数匹のスライム達を、ザッドハークとジャンクの顔目掛けてシュートした。

 

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