154話 出来試合?
『いやぁ~。第2試合も凄まじい展開となりましたね~』
『凄まじい展開なのは認めるが、あれを試合と呼んでいいのだろうか?』
『そこは、空気呼んで良い試合だったぐらい言っときなさい。じゃなきゃ、後で消されるよ?』
『人間怖い……』
イロハの実況にカブトムシが難しい顔をする。
ついでに、リングが爆発した際に、その衝撃でクジを持っきた黒子くんがクジ箱を落としてしまった。その際、イロハは拾うのを手伝ったのだが、チラリと見えたクジの内容が全て同じだった。
イロハは何も言わず、見なかったことにして、秘密は墓場まで持っていこうと決めた。
そして、その第2試合のゴルデ達の試合だが、爆発により両者KOという結果となった。
爆発の規模の割りに被害は少なく、爆発に巻き込まれたゴルデ達も命に別状はなかった。
ただ、全員爆発のコント落ちみたいに髪がアフロヘアーとなり、全身は漫画みたいに黒焦げとなっていた。爆発のダメージで動けなくなったゴルデ達は四人揃って担架で運ばれていった。
が、全身ズタボロにも関わらず、その目だけは殺意に凛々と輝き、運ばれていくまでの間、四人揃って『カオリコロスカオリコロス』と、念仏のように唱えていた。
そんな闇堕ちしたゴルデ達が退場した後、爆発したリングに変わり新たなリングが設営された。
そして、その新たなリングにて第3試合が始まろうとしていた。
『それでは第3試合を開始したいと思います!まず、赤コーナーより、己が本能の赴くまま突き進む!目指すは三位!ザ・バズーカズの入場です!』
イロハの紹介とともに赤ゲートからスモークが上がる。そして、ゲートの中から異形の二人組……ザッドハークとムラオーサが現れた。
『第一回戦で圧倒的な強さを見せつけた二人組です!その実力者は本物!優勝候補の一角と言って過言ではないでしょう!』
『でも、本人ら三位狙いなんでしょう?その時点で優勝候補から外れるのでは?』
『いちいち細かいところに拘る糞虫ですね。さて、そんな糞虫は放っておいて、青コーナーの紹介に参ります!』
『えっ……?今、糞虫って言った?』
『さて、青コーナーよりは謎の美女からの刺客!全身兵器こと、ジェノサイドマン1号・2号の入場です!』
『えっ、ちょ……』
反対側の青ゲートより、メタリックなボディーのジェノサイドマン達が入場する。
彼らは観客の声援にも応えることなく、無機質かつ淡々とした様子でリングへと入場した。
『さあ、このジェノサイドマンチームも中々の曲者です!一回戦では圧倒的攻撃でミスリル級冒険者であるドリック選手達をあっさりと倒してしまいました!その実力はザ・バズーカズにひけをとらないと感じますが、糞む……カブトムシさんはどう思いますか?』
『えっ、あの、まぁ……強いですよね。見たまま兵器なんですし……。正直、この対戦カードの結果は読めません。互いに規格外過ぎますので…』
『確かに、互いに規格外です!だからこそ、この試合の結果が楽しみですねぇ!』
興奮気味で実況するイロハ。そんな彼女をザッドハークはリングから眺めながら呟いた。
「フム。中々に良いことを言う女よ。あれで、もう少し胸があったならば抱き甲斐があったのだがな 」
「ザッドハーク殿。気のせいでなければ今の聞こえていたのでは?あの猫娘…鬼の形相で睨んできておりますが?」
明らかに毛を逆立て、威嚇するように唸るイロハを見なかったことにしつつ、ザッドハークはジェノサイドマン達へと目を向けた。
「フン……。カオリめが用意した古代の人型兵器か。そこらの人間であれば脅威となるであろうが、我にとっては玩具に過ぎぬよ……」
「我らが夢の為に負けられませぬからな。カオリ様の手勢であろうと、儂も全力で奴らを潰しにかからせてもらいますじゃ」
そう言って戦闘態勢を整える二人。対して、ジェノサイドマン達は静かにその無機質なモノアイで二人を見つめるだけであった。
『さて、両者睨み合ってやる気満々のようですが、ここで試合形式の発表です!えっと、クジによる厳選な抽選の結果……カチンコチン!鉄板リングバトルとなりました!』
イロハの発表とともにリングに異変が起こる。先ほどまで真っ白だったリングが段々と銀色に変色し、やがてメタリックな鉄板リングとなったのだ。
それを見て、ザッドハークはフムと頷く。
「ほう……鋼鉄のリングとは。中々おもしろい趣向よ。こんな床に頭を打ち付ければ、死んでもおかしくはなかろうて」
ザッドハークの言う通り、鋼鉄のリングに叩きつけられればひとたまりもないだろう。だが、そんなことで彼らのエロ魂は消えなかった。
「だからどうした?これしきのことで我が怖じ気づくとでも?舐めてくれるな。我が野望はこれしきでは砕けぬ!我はいずれ、この国の三大超高級娼館である『チンデレラ城』『ドすけべ天国』『エロふの森』を制覇する!その野望の第一歩は誰にも邪魔はさせぬ!」
胸を張り最低最悪なことを言い放つザッドハーク。現代の女性議員が聞けば、一発アウトものである。
『お~っと!言ってることはあれですが凄い意気込みだぁぁ!私的にはボコボコにされてベソかいて帰れって感じですが!』
『私怨出しすぎでは?さっきの発言気にし過ぎ──すいません、なんでもないです。だから、そんなオーガみたいな顔で睨まないでください』
イロハに顔を向けられたカブトムシが戦慄しプルプルと震える。
『さて、怯える糞虫は放っておいて、試合を開始しましょう!では……レディィィィfight!!』
カァァァァァァァン!
試合開始のゴングが鳴らされた。
先に動いたのはジェノサイドマンだった。1号の胸部がパカッと左右に開いたのだ。
「ムッ?!何かの武器か?」
咄嗟に防御姿勢をとるザッドハーク達。
胸から飛び出すのはミサイルか?はたまたガトリングか?どんな武器がくるかと身構える彼らだったが、一向に動きがなかった。
「?」
不振に思ったザッドハークが1号の胸部を見れば、そこには電光掲示板らしきものがあり、ザッドハーク達にしか見えないように配慮しつつ、なんらかのメッセージが右から左に流れていた。
そのメッセージの内容は……。
「VIPセキ ヲ ゴラン クダサイ」
だった。
言われた通りにVIP席を見れば、そこには足組してこちらを見下ろす香の姿があった。
その香はザッドハーク達の視線に気が付くと、何かを懐から取り出した。ピンク色の細長いチケットのようなものだ。
そのチケットらしきものの表面に書いてある文字を、ザッドハークの超人的視力が捉えた。
そこには……。
【VIP専用年間パスポート・超ド級娼館ドす─】
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
突如、ザッドハークが絶叫を上げながら後方に吹き飛んだ。
ジェノサイド達が何かした訳でもなく、なんか勝手に吹き飛んだのだ。
『おっとー!?これはどうしたことか?!ザッドハーク選手が勝手に吹き飛んだようですが、これは一体?!』
唐突な事態に困惑するイロハ。観客も何事かとざわつく。そして、それはザッドハークの傍らにいた村長も同じで、慌てて吹き飛んだザッドハークへと近づいた。
「ザッドハーク殿?!いったいどうなされた?!」
どうしたのかと駆け寄る村長にザッドハークがボソボソと耳打ちした。
その瞬間……。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
村長も吹き飛んだ。
ジェノサイド達が何かした訳でもなく、なんか勝手に吹き飛んだ。
『こ、これは?!ムラオーサ選手も吹き飛んだが、一体リング上で何が起きているのかぁぁぁぁ?!』
そんなイロハの実況に答えるように、ザッドハーク達が息を荒く吐きながら説明をはじめた。
「ぐっ…これは、参った!多分、武の達人にしか使えないと思われる何か凄い技を当てられて吹き飛んでしまった!目にも見えぬし、耳にも聞こえぬ、気配の無い技だ!これは対処できぬ!敵う気が一切せぬ!」
「然り然り!この技の恐ろしさは、リング上で対峙せねば分からぬであろう!流石は人型兵器!恐ろしき技を持っておる!ああ、参った!これは勝てる気がしないですじゃ!」
それは説明というより、言い訳に近かった。
どうあっても負けるのは仕方ないよ、と言わんばかりの言い訳。それはあまりにも不自然過ぎた。先ほどまで勝つ気満々だった彼らが、一気に戦意を無くし、みじめに言い訳をしているのだ。あまりにも不自然過ぎてヤらせを疑いたくなるほどの。
だが、今この場にそれを咎めるものはいなかった。対戦相手も、審判も役員も香の手中。ならば、結果は決まっていた。
気を効かせたのか、ジェノサイドマン1号が手を捻るような動きをした。
それに気付いたザッドハーク達が、手の動きに合わせて体を捻らせ、自らの身体をリングへと叩きつけた。
「ぐっふ!何か目には見えぬ力で身体を叩きつけられた!硬いリングに打ち付けられて、ダメージがもの凄い!もう……立てん。無念……ガクッ」
「イタタタタ……。儂も、もう立てぬですじゃ。無念……ガクッ」
そうして二人はわざとらしく目を閉じた。
カンカンカァァァァン!
試合終了を告げるゴングが鳴らされた。
勝者:ジェノサイドマン1号&2号
試合時間:50秒
決まり手:見えない力