140話 ローションデスマッチ
「という訳で、一回戦まで解説をしてくださったジャンクさんが行方不明となった為、急遽二回戦からはファイティングインセクトのカブトムシ選手に解説をお願いしました。よろしくお願いします!」
「私は別に構わないが……行方不明って、ジャンク氏に何があったのだ?」
「分かりませんねー。なんか突如、姿をくらましました」
「怖っ。なんかあんま深入りしてはいけなさそうだな。まあ、試合終わって暇だし、なにより報酬にカブトムシゼリーも出るし精一杯解説を務めさせてもらおう」
「よろしくお願いします。それでは二回戦の第一試合を開始します!」
イロハの宣言に会場中から声援が上がる。
「それでは赤コーナーより登場しますのは、一回戦でファイティングインセクトに圧勝して駒を進めた2000万プランターズです!」
「敗れた本人横にいるのによく言えるな……」
カブトムシが苦虫を噛んだような表情をするなか、2000万プランターズの二人が赤コーナーのゲートから堂々と入場してきた。
会場中から歓声があがるが、プランターズは観客席を一瞥することなくリングへと真っ直ぐに入場した。
「これは凄い。素人目から見ても凄まじい気迫が伝わってきます。カブトムシさん、あなたから見て2000万プランターズの実力はどうですか?」
「強いですね。言いたくないですが、森の王者である私とクワガタを瞬殺したのです。その実力は優勝を狙えるほどでしょう」
「セミに負けた森の王者(笑)に言われても説得力はありませんが、確かに優勝候補の一角となるだけの実力は有しておりそうです」
「あ、あれは違うんだ!ただ、あの技にそこまで威力があるとは思わなかったんだ!あのセミファイナル・ディストラクション・フォー・エバーに!」
「なに、それ?逆に見たい。って、そうじゃない。仕事仕事と……。では、青コーナーからは、オッサン二人組を瞬殺した痴女連合の入場です!」
イロハの宣言とともに青コーナーのゲートから痴女連合の二人が入場する。すると、会場中から野太い声援が上がった。
「ミロク様ぁぁ!後で俺も相手してください!」
「ミロク様ぁぁ!儂の80年ものの童貞を奪ってくだされい!」
「ミロク様ぁぁ!モテないオラ達をお救いくださいませぇぇぇ!」
「ブロズさぁぁん!あんたの痴態も早く見せてくれぇぇぇ!」
飢えた男共の声援にミロクは無表情ながらも手を振りながら応える。対して、ブロズは耳まで真っ赤に染めた顔を両手で覆いながら入場してきた。
尚、女性陣は歓声を上げる男共に冷たい視線を向けていた……。
「チッ…………男限定ですが凄まじい声援ですね」
「(なぜ舌打ち?)……そうですね。やはり雄というものは雌には弱いですからね。綺麗な雌が出てくれば、応援せずにはいれないのでは?」
「チッ……。なるほど、確かにそうですね。ところで、そう言うカブトムシさんも、痴女連合のミロクさんはお好みなのでしょうか?」
「好み?いやぁ~ぜんぜん。全く好みじゃないですね~」
「へぇ、そうなんですね、フフン!ちなみに、私なんか、カブトムシさんから見てどうですかね?」
「えっ?ブスじゃね?綺麗な雌と言えば、もっと太くて丸くて、美しい茶色の甲殻を持った、気品のある姿じゃないと────」
「すみません、少々放送席がざわつきました。試合の実況にもどりたいと思います」
「フゴハゴッ……(わ、わたしの甲殻を素手で砕くとか……。人間の女、怖い……)」
拳をパキパキと鳴らすイロハとガタガタと震えるカブトムシを他所に、リング上ではプランターズと痴女連合が睨みあっていた。
「ホウ……。汝が我らの相手か。あのカオリの仲間であるそうだな」
「はい。僭越ながらカオリ様のハーレムの末席に加えさせて頂いております、ミロクと申します。以後、お見知りおきを」
「ハ、ハーレム?なんだ、それは?」
ペコリとお辞儀するミロクにトゥルキングは困惑した。
「はい、ハーレムとはカオリ様に服従し、カオリ様の欲望に応える奴隷。私の役目はカオリ様の要望に応え、あらゆる仕打ちを此の身に受けることでございます。例え羞恥を伴う屈辱的な命令であろうと喜んで従うことこそが我が使命。此の身でカオリ様が欲望を満たしてくれることこそ我が至上の喜びでございます……」
「カオリ……。このような娘にもあられもないことをするなど!やはり我が手で成敗せねば!」
ミロクの説明にトゥルキングは誤解し、香に対して更なる怒りのボルテージを上げた。
※尚、香は現在たまたまトイレに行っていてミロクの話を聞いてません。
そんな怒れるトゥルキングに対し、ミロクはスッと拳を構えた。
「カオリ様を成敗?それはさせません。カオリ様は成敗する側であって、される側でありません。つまりは攻め。カオ×トゥルになることはあっても、トゥル×カオになることはあり得ません」
「いや、何を言っておるのだ?!」
更に困惑するトゥルキング。そんな彼の横からバハネロが前に出てきた。
「申し訳ないないが当方にも貴公が何を言っているのかは分からぬ。ただ……」
そこまで言うと、バハネロも拳を構えた。
「当方らは引く気がないということは理解できた。なれば、戦わねばならぬだろう」
「そうですね。私はカオリ様の為……。そして、痴女友のブロズの願いを叶えるために勝てねばなりません」
「私は痴女じゃない?!」
ミロクの発言にブロズは顔を真っ赤にしながら否定する。が、他三人の耳には届いていなかった。
「さあ、既にリング上では両者の間で火花が飛び散っている!いまにも戦いがはじまりそうです!カブトムシさんは、この対戦カードをどう見ますか?」
「フーム。私は戦闘力ならプランターズの方が上だと考えています。ですが、痴女連合……ミロク選手には得体の知れない力があります。それによっては、痴女連合が勝ち抜くことも考えられますね」
「得体が知れないと言うか、卑猥な力ですがね。しかし、確かにその通りです。さあ、いったいどちらが勝つか!それでは、試合開始の───えっ、何よ急に?」
イロハがゴングを鳴らそうとした瞬間、脇からスタッフが現れてカンペらしきものをイロハに手渡した。
イロハは怪訝な表情でカンペを受けとると、内容を読んで……目を見開いた。
「こ、ここで急ですが、試合形式の変更をお知らせします!」
「「試合形式の変更?」」
イロハの突然の発表にトゥルキング達や観客達が戸惑った様子で実況席を見た。
「スポンサーの提案により、第2試合からは様々な試合形式を実装するとのことです。試合内容につきましては、スポンサーが引いたクジでランダムに決められるそうです!そして、この試合の内容は───」
イロハが発表しようとした、その時。突然リングのあちこちから多数のスプリンクラーのようなものが伸びてきた。
「うおっ?!なんだこれは?!」
突然現れたスプリンクラーに困惑するトゥルキング。そんや彼の様子を他所に、スプリンクラーが作動してリング上に何か透明な液体を撒きはじめた。
「ちょ?!な、何よこれっ───って痛ぁぁ?!」
自分の足下にまできた謎の液体を踏んだブロズが転けた。
「ちょ?!な、何よこの液体?!滑る?!てか、ヌルヌルする?!」
立とうとするもズルズルと滑って上手く立ち上がれないブロズ。そうやっているうちに服がヌルヌルになり、あられもない姿となった。
そんな彼女を横目で見つつ、ミロクは屈んで謎ねた液体を指で掬う。そして、ジッと観察したペロリと液体を舐めた。
「この独特な光沢……。そして、この喉に絡むようなヌルつき具合…………まさか?」
ミロクが液体の正体に思い当たったと同時に、イロハが試合内容を発表した。
「試合内容は『ローションデスマッチ』です!ヌルヌルとローションで滑るリングでの試合となります!さあ、この足場が不安定な場所での試合は一体どうなるのでしょうか!いよいよ試合開始です!」
そしてゴングが鳴らされた。