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136話 Bブロック第一試合・第二試合

「親方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ハンスが叫び声を上げながらいまだ煙に包まれるリングへと駆け寄る。その後を、ローズも泣きそうな顔で追いかけた。

 

「親方!親方ぁぁぁぁ!!」

 

 リング脇へとたどり着いたハンスが必死に呼びかけるも、返事はない。ただ煙がもうもうと立ち込めており、ドリック達の姿は確認できなかった。

 

「女将……さん……」

 

 ローズも姿の見えないシルフィの安否に不安を覚え、ただ唖然とリングを見ることしかできなかった。

 

『ジェノサイドマン1号と2号の必殺技が文字通り炸裂したぁぁぁぁぁぁ!?これは凄い威力です!?リングを包むほどの爆発!ドリック選手達は無事なのでしょうかぁぁぁ?!』

 

『いや……本当に必殺なってないか?大丈夫なのかこれ?煙が晴れたらグロテスクな光景が広がってんじゃないか?』

 

 イロハとジャンクが実況を伝えるなか、もうもうと舞う煙が徐々に晴れていく。そして、やがて煙が完全に晴れ、リングの様子が明らかとなった。

 

 そのリング上では……。

 

「お、親方ぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「女将さぁぁぁぁぁぁぁぁん?!」

 

『こ、これは?!ドリック選手とシルフィ選手が焦げて倒れているぅぅぅ?!しかも、二人共頭がアフロになっているぅぅぅぅ?!』

 

 リング上ではドリック達がうつ伏せに倒れていた。ただ、爆発の規模の割りには軽傷であり、ちょっと身体のいたるところが焦げている程度だ。しかし、その髪やら髭は一昔前の漫画の爆発オチのようにチリチリとなっていた。


 対してジェノサイドマン達といえば、腕をガシャガシャと戻しながら倒れ伏す二人を一瞥していた。

 

「ミッションコンプリート。対象ノ排除ヲ確認シマシタ」

 

「ザマァミロ。愚カナ人間共メ」

 

『疾風迅雷コンビが倒れ伏すなか、ジェノサイドマン達は健在だぁぁ!!しかし、まだ勝負は分からない!疾風迅雷コンビに意識はあるのか?!立ち上がれるのか?レフェリー!二人の確認をしてください!レフェリー…って、あれ?レフェリーは…?』

 

『あそこで焦げてるぞ……』

 

 イロハがレフェリーを探すなか、ジャンクがリングの角を指差した。そこには、爆発に巻き混まれたレフェリー(ケンジロー40歳、働き盛り。レフェリーはアルバイトで始めた)が、ドリック達と同じように焦げて倒れていた。尚、頭はバーコードハゲだったので、なんか三島◯八みたいになっていた。

 

『レ、レフェリーも焦げているうう?!レフェリーに対する攻撃は反則になるはずですが、これは? 』

 

『う~ん……。まあ、意図して攻撃した訳じやまありませんから、事故ですな。アリで』

 

『アリとなったぁぁぁ?!まさに鶴の一声!レフェリーへの攻撃は事故処理!そして、疾風迅雷にピクリとも動きはない!これはもう決まったでしょ!ゴング鳴らしちゃいますね!勝者はジェノサイドマン1号と2号です!』

 

 カンカンカーン!

 

 勝者:ジェノサイドマン1号・2号

 試合時間:2分30秒

 決まり手:対人用マジックバズーカ

 

 こうして勝敗は決した。

 

「親方……親方ぁぁぁぁ!」

 

 リングから担架に乗って運び出されるドリック達へとハンス達が駆け寄った。すると、ドリックは僅かに目を開けてハンスを見た。そして、弱々しい声で彼に語りかけた。

 

「ハンス……か。す、すまねぇ…負けちまったぜ。決勝でって約束……守れなかったな……」

 

「お、親方!そんかことはいいです!身体は大丈夫なんですか?!」

 

「ああ……多少焦げちゃいるが、見た目ほどダメージはねえ。だが、自慢の髭が台無……ゴホッ!ゴホゴホ!!」

 

「親方!?」

 

「大丈夫だ…ちょっとむせただけだ…。今は俺達の心配よりも、自分の心配をしろ……。あいつらは相当にヤバいからな……」

 

 そう言ってドリックが忌々しげに見つめる先には、無感情に彼らを見下ろすジェノサイドマン達の姿があった。

 

「あいつら……?!」

 

 ハンスはギリリと歯を食い縛りながらリングへと上がろうとした。が、ハンスの手をドリックが掴んで止めた。

 

「やめろ。こんなとこで戦ったら反則になっちまうぞ。最悪、退場されちまう」

 

「で、でも、反則ならあいつら自身が反則じゃないですか!!全身武器みたいなもんじゃないですか!!」

 

 それはドリックも思ったことなので渋い顔をする。が、それ混みで既に大会運営上層部はカオリに買収されているので、言ったとこでどうにもならないという諦めがあった。

 

「まあ‥あれは既に公認されているようだからな諦めな。とりあえず、俺らの敵討ちをしようってのはやめろ‥‥。んなことしたら、俺がオメェをぶっとばすからな」

 

「親方……」

 

 拳を構えてそう言うドリックを前にして、ハンスはリングへと上がろとしていた足をおろした。

 

「それでいい。今は押さえろ。ただ、試合になったら別だ。お前のありったけを持って、あいつらをスクラップにしてやりな」

 

 そう言ってドリックはニヤリと笑った。

 

「俺に……できるでしょうか……?」

 

「んな心配そうにすんな…。できるできないじゃない。やって……やるんだ。なんせ……お前は俺の弟子だ。なんだってできらぁ」


「親方……」

 

「そうだよ。それにあんたは一人じゃない。ローズだっているじゃないか」

 

 ハンスが振り向くと、そこには担架に乗せられたシルフィがいた。彼女はローズに腕を握られながら、ハンスを優しい目で見ていた。

 

「女将さん……」

 

「ハンス。それにローズ。二人で力を合わせて頑張んな。二人でならきっと何でもやれる。どんな奴にだって勝てる。だから……互いに力を……」

 

「「お、女将さん?!」」

 

 シルフィは話している途中から段々と弱々しくなり、遂にはガクリと力なく目を閉じた。ハンス達が慌てて駆け寄るも、反応はない。完全に意識を失っていた。本人が思っていたよりもダメージがあったようだ。

 

「くっ……目が霞んできやがった。俺も…限界みたいだ……」

 

「親方?!」

 

 見れば、ドリックの目も虚ろになってきて今にも気を失いそうであった。

 

「試合は……見てやれないが……。二人協力して頑張って……こいよ……」

 

 ドリックは最後の力を振り絞って親指を立てると、そのままシルフィと同じように意識を失った。

 

「いかん!早く治療せねば!少年達よ、もういいか?早く彼らを運ばねば!」

 

「は、はい!親方達をよろしくお願いします!」


「絶対助けてくださいね!」

 

「ああ、任せろ!」

 

 二人は医療班によって素早く医務室へと運ばれた。

 

 ハンス達はそんなドリック達を見送りながら、硬く誓いを立てた。

 

「親方……。シルフィさん。俺、きっと優勝してみせます。ローズと二人で」

 

「ええ。二人で頑張って、あの鉄グズ共をスクラップにしてやりましょう」

 

 ローズがなんだか怖いが、ハンスはスルーした。

 

 そして、二人は未だリング上にいるジェノサイドマン達を……ひいては、その先で優雅にグラスを傾ける香を、怒りのこもった瞳で睨みつけた。

 

※尚、この後、レフェリー(ケンジロー40歳、働き盛り。レフェリーはアルバイトで始めた)についても、無事スタッフが回収しました。

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、お待たせしました!続いてBブロック第一試合を開始したいと思います!』

 

「「「ワアアアア!!」」」

 

『なお、不慮の事故でレフェリーに立てなくなったケンジロー氏の代わりに、新しくウメさん(※公園掃除をしていたおばちゃん。人手不足から適当に声をかけた。)がレフェリーとなります!!』

 

「なんかよう知らんけど、結構な銭貰えるってんで雇われました。よろしくなぁ」

 

 そこらにいそうな普通のおばちゃんが観客席へと頭を下げた。

 

『いいのか、あれ?本人もよく知らないって言ってるが、レフェリーなんてできんのか?』

 

『大丈夫でしょう。ぶっちゃけ、この試合でレフェリーなんて飾りみたいなもんですし。取り敢えず、リングに立ってれば良いかと』

 

『そういうもんか……?』

 

『そういうもんです。では、気を取り直して選手紹介といきましょう!まずは、青コーナー!我ら人間達の最大の敵である魔族からの刺客!狙うはカオリ選手の首一つ!はぐれてない悪魔コンビだぁぁ!』

 

 イロハの紹介とともに、青コーナーのゲートから二人の選手が入場する。片や漆黒の全身鎧を纏った大柄な騎士であり、片や卵型の体型をした異形であった。

 

 二人はリングへと入場すると、赤コーナーゲートを睨みつけた。

 

『我が剣に斬れぬものなし!!』

 

『オデ、ハラヘッタ!!』

 

『おっと!何を言ってるか分からないが凄い自信だぁぁぁぁ!というか、剣を持ってないのに斬れぬもの無しとはどういうことだろうか?!』

 

『カンペきてんぞ。なんかあんな風にしか喋れないってよ』

 

『どんな言語でしょうか、それ?!魔族特有の言語なのでしょうか?!』

 

『知らん。普段は通訳がいるそうだが……。今日は都合があって来てないってよ』

 

『実質、言語理解不能です!なんとなくイントネーションで察するしかありません!では、続いて赤コーナーより、狙うは三位の賞品のみ!漢の本能のままに暴れてやろう!ザ・バズーカズの入場です!』

 

 そうして赤コーナーより入場してきたのは、巨漢の暗黒騎士ザッドハークであった。銀色の骸骨顔に、全身から溢れる黒い障気。一目で尋常ではない存在であるのが明らかな者である。

 もう一方の人物はムキムキマッチョの爺さんであり、その風貌はどこぞの獄長さながらであった。

 

『さあ、ザッドハーク選手とムラオーサ選手の入場ですが……。正直、どっちかと言えば赤コーナーの方が魔族っぽいと思うのは私だけでしょうか?』

 

『いや、その認識は正しい。どう見ても魔族側だな。最近麻痺してきたが、こうやって見ると、魔族よりも魔族らしいな。村長も完璧に野盗の親玉っぽいし……』

 

『そうですね。ぶっちゃけ、魔族側の黒騎士の方が正義の味方っぽく見えますし、片方は丸みがあって愛嬌があるように見えてきました』

 

 好き勝手なことを言う実況席を他所に、入場したザッドハーク達はリングへと入ると、目の前にいる二人の魔族を一瞥した。

 

「ほう……汝らが我が相手か。しかも魔族だというではないか。なれば、なんの憂いもなく葬ることができようというものよ……」

 

「それはいけませぬぞ。殺してしまえば我々が失格となってしまうではないですか」

 

 ゴキゴキと拳を鳴らすザッドハーク。そんなザッドハークをムラオーサが咎めた。といっても、目は笑っているが。

 

「そうであったな。なれば……」

 

 ザッドハークは全身からブワリと暗黒の障気を溢れさせた。

 

「八割殺しといこうぞ!我が野望さんいにゅうしょうの第一歩の贄となるが良い!」


 その眼窩に蒼い炎を灯し、ザッドハークが魔族二人を睨みつけた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キレルジャナイーノは人間達の催す大会へと参加したことを深く後悔していた。

 

 最初こそ、人間しか出ない大会など余裕で優勝できると思っていた。人間など、彼らにとって脆弱な存在であり、取るに足らない石ころのようなものであるからだ。

 

 故に、早々に大会で勝ち進み、勇者を討ち取り、更にはアンデル王国を血の海に沈めてやろうと思っていた。

 

 しかし、目の前にいるこれはなんだ?

 

 片方は老人であるが、異常なほどに筋肉が発達している上に凄まじい覇気を発している。恐らく、人間の中でも最強に近い存在であろう。だが、まだこちらは対処できる範囲内である。

 

 だが、もう一方。こちらに至っては異常云々以前に色々とおかしい。もはや、異様だ。

 数々の戦場で鍛えられた彼の本能が、さっきから警鐘を鳴らしていた。絶対に戦っちゃ駄目だと。逃げろと。全力で逃避せよと。

 

 まず、見た目からして明らかに魔族こちら側というか、魔王ラスボスよりも魔王ラスボスらしい。自分よりも巨漢で、自分のよりも禍々しい鎧を纏い、自分よりも凶悪な人相をしている。というか、なんだ、あの障気は?あんなエフェクト、魔王様だって背負ってないわ。

 

 更に、その身から溢れる覇気に至っては、もう明らかに今の魔王ラスボスを明らかに越えてる。間違いなく、自分達を遥かに越えた強さだ。多分、戦ったら普通に死ぬ。間違いない。一瞬で血祭りに合う。正直、漏らしそうだ。というか、既にちょっと漏らしていた。このままでは、鎧の中はエライことになる。

 

 相棒のビッグ=ボーイに至っては、相手の実力に早々にあてられ、先程から白目を剥いて口をパクパクさせている。

 

 これ、もう駄目だろ。

 

 キレルジャナイーノは暫し考えた後、棄権することにした。ここで無駄に命を散らすよりかは、機会を伺って勇者を狙う方が良いと。

 

 うん、それが一番だ。これは戦略的な撤退である。

 

 キレルジャナイーノは、ここにきて初めて賢い選択をした。

 

「我が剣に斬れぬもの無し!」

(我々はこの試合を棄権する!)

 

 キレルジャナイーノは高々に棄権を宣言した。

 

 せめて、棄権するなら堂々と棄権しようと考えてだ。

 

 しかし……。

 

「ほう……我を斬ると?ククク……随分と面白いことをほざくものよ」

 

 キレルジャナイーノの言葉をそのまま受け取ったザッドハークがバキバキと指の関節を鳴らした。

 

「わ、我が剣に斬れぬものなし……?!」

(い、いや違う!斬らない斬らない!!そういう意味ではない?!)

 

「ほう……まだほざくか。最近はカオリに好き放題されてるからとは言え、我も随分と舐められたものよ。遊びで済ますつもりであったが、少々本気を出して捻り潰してくれようか……」

 

 ザッドハークの眼窩の炎が更に燃え上がる。

 

「わ、我に、我に、き、き、斬れぬもの無し?!」

(違う!違うのよ?!そうじゃないの?!戦う気はないの?!棄権したいの?!通訳……こんな時に通訳はどこいったんだぁぁ?!)

 

 キレルジャナイーノが慌てて通訳を探すも、なぜかこの日に限って、朝からその姿はなかったのだ。

 

「まだ申すか……。本格的に我を舐めてるようだな。なれば、その骨の髄にまで我が恐怖を刻みこんでやろうぞ!!」

 

 ザッドハークからの威圧感が更に増す。そのあまりの覇気に、パートナーのムラオーサまでもが身震いし、リングに近い観客席では人々が泡を吹いて気絶していた。

 

 なぜか、レフェリーのおばちゃんだけは「あらあら、まあ大変」と、平気そうであるが。

 

「わ、我が剣に斬れぬもの無し?!」

(ち、違う?!違うんだ?!)

 

「ぬう?まだ申すか。なんとも不届きな輩よ!」

 

「ザッドハーク殿!気をつけなされ!そっちの丸い奴は我々を喰ってやらんとばかりに歯を打ち鳴らしておりますぞ!」

 

 隣の爺がビッグ=ボーイを指差しながら叫ぶ。

 

 違う。そうじゃない。ただ、恐怖で歯がガチガチいってるだけなんだ。よく見て。白目剥いて、涎垂らしてるでしょ?頼むから余計なこと言うな。

 

「ほう……とことん我を怒らせたいようだ。よい度胸よ!なれば、我が力の真髄の一部を見せてやろうぞ!」

 

 あれよあれよという間に、ザッドハークの怒りのボルテージが上がっていく。タ◯シのイ◯ークも真っ青である。

 

「我が剣……」

(違……)

 

「見せてやろう!我が力の一端を!さあ…冥府の蒼き炎よ、我が声に応え、我が命に従い、我が意を示せ!!出でよ蒼炎!」

 

 リングが蒼白い光に包まれた。

 

 

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