131話 ZETUMEI
その通知はエマリオが営む各商店を中心に、国中へと即座に発表された。
『アンデル王国最強タッグマッチトーナメント大会~ZETUMEI~開催!!』
優勝賞品
・乙女の雫
準優勝
・超高級宿『鶴の一声』宿泊券
三位
・超高級娼館『チンデレラ城』ご利用券10回分
四位
・洗剤詰め合わせセット
五位
・記念グラス
参加賞
・記念アクリルキーホルダー
ルール
・武器・魔法の使用以外なんでもあり。
・二人一組でのタッグマッチ方式。
・勝ち抜きトーナメント制の試合。
この報せに国中が沸き立った。
開催日が発表されると、女性は優勝を目指し地獄の修練を積み、男性は三位を目指して微妙な特訓に励んだ。
あまりの参加希望者の多さに、一部の参加確定選手を除いた者達による熾烈極める予選大会まで行われた。
国中はお祭り騒ぎとなり、王国全土を巻き込む一大イベントとなっていた。
そして発表から一週間後………。
遂に、タッグマッチトーナメント『ZETUMEI』の開催日が訪れた………。
アンデル王国中央区にある広場。本来、人々の憩いの場となる公園があるそこには、特設のリングが設置されていた……。
そして、リングを囲うように大勢の人々が集まり、更にその周囲には観客目当ての飲食関係から土産物などの多種多様な出店が数多く出店していた。
人々は出店で買った酒や食べ物を持ちながら、試合の開始を今か今かと待っていた。
そして……広場近くにある教会が正午を報せる鐘を鳴らすと同時に、一人の女性がリングへと上がった。
猫耳と尻尾が生えた獣人の女性はリングの中央へと進み出ると、マイクを片手に勢いよく跳び跳ねた。
『レディースアンドジェントルメェェェェン!本日はアンデル王国最強タッグトーナメント戦……ZETUMEIに、ようこそお越し頂きました!!』
「「「ワアアア!!」」」
女性の言葉に賛同し、観客達が一斉に歓声を上げた。
『予選から注目を集めるこの大会!皆様、本選が始まるのを首を長くして待っていたことでしょう!私は本日、栄えある大会の実況を務めさせていただきます、猫獣人のイロハでございます!皆様よろしくお願いしますにゃん♥️』
あざとい語尾とポーズをとる猫耳美少女の実況に野郎共は歓声を上げ、女性達は舌打ちをする。
『そして、司会進行は今大会を起案した御方!風俗業界の覇王こと、エマリオ様です!』
『どーも、エマリオです』
一番見晴らしの良い席につくエマリオが、観客へと向けて手を振る。
『そして、解説には、現役冒険者のジャンクさんにきてもらいました!』
『俺は何でここにいるんだ?』
エマリオの隣では、何故か解説役を任されたジャンクが頭を抱えていた。
『冒険者として戦いの知識と経験があり、それを解説できるだけの人を選出した結果、こちらのジャンクさんが解説となりました!あと、本職の解説を雇うよりも人件費が安上がりだったと』
『最後のが本音じゃね?』
『さあ、この戦いはアンデル王国で最も強いタッグを決める最強決定戦です!開催理由は特になく、なんかおもしろそう?という理由でエマリオ様が開催しました!文句あるか?!』
「「「なーい!!」」」
『俺はあるが……もう、いいや……』
ぶっちゃけた解説だが、観客に不満の色はない。あんまりこういった催しがないので人々にとっては開催理由などどうでもよく、取り敢えず単純に娯楽として楽しめればよいのだった。
『それでは皆様も早く戦いが見たいでしょうから、説明は簡単にします!取り敢えず、武器と魔法の使用禁止の他は何でもありのガチンコ勝負!気絶したら負け!敗北宣言したら負けのシンプルルールだ!文句あっか?!』
「「「「なーしっ!!」」」」
『よーし!それでは、次にお待ちかねの選手紹介だ!!それでは、最初は熾烈な予選を勝ち抜いた選手達を紹介しますにゃ!!』
「「「ワアアア!待ってました!!」」」
イロハが宣言すると同時に、会場に設置されたゲートからスモークが上がる。そして、そこから次々と選手達が入場してきた。
『まずはエントリーNo.1番!かつては金髪銀髪!今や金髪と桃色髪の異色コンビ!ゴルデ&シルビによる『ゴージャスレディース』だぁぁ!!』
最初に入場してきたのはゴルデ達だった。常識人?な彼女らだが、女子力を上げる『乙女の雫』の魅力には勝てなかったようだ。
「乙女の雫は絶対に取る!!」
「おいっ、髪色には触れるな!はっ倒すぞ!!」
『続いては、妻達の熱烈な要望で参加!小遣いを増やす為に頑張るぞ!タケゾウ&シゲルの『鬼嫁怖いんズ』だぁぁ』
続いてはオドオドした様子の中年二人が入場してきた。
「おい?!愚痴ったのがチーム名なってるぞ?!」
「嫁に殺される?!」
『次は、昔は山女。今は目立たない影女と、既にアンデル王国の半数以上の童貞を食らったチェリーイーターのコンビ!ブロズ&ミロクの『痴女連合』だぁぁ!』
なぜかミロクと組んだブロズが入場してくるが、チーム名について聞いていなかったのだろう。ミロクの肩をガクガクと揺らしている。
「解説に悪意ないっ?!てか、チーム名?!私は痴女じゃないわ?!」
「お気に召さなかったですか?」
『続いては、姉弟での参加!我らの部族の力と技を見せてやる!カ・オリー&ボビーの『オゴンボゴロン魂』だぁぁぁ!』
つい先日の騒動でことの発端にもなったゴリマッチョ部族系女子のカ・オリーが闘気も顕に入場し、辺りを血走った目で睨みつけていた。
「アノ糞女ノカオリガデルト聞イタ!ドコダ?!」
「ドラン君ノ仇ヲトルゾ!!」
『夏の森からの刺客!我らの新たな力を見せてやる!カブトムシ&クワガタの『ファイティグ・インセクト』!』
なぜかあの人型のカブトムシとクワガタが普通に入場してくる。この国の警備は大丈夫なのだろうか?
「フッ……まさか、お前と組むことになるとはな」
「最強と最強が組む。敗北など予想できぬ」
『目指すは三位!志低いのか高いのか分からない!ザッドハーク&ムラオサーの『ザ・バズーカズ』だぁぁ!』
三位の賞品目当てに現れたのはザッドハークとムラオサーの欲望に忠実な二人であった。体格と雰囲気だけなら破格の存在感を発しているが、目的が目的なだけに妙な残念感が漂っている。
「目指すは三位のみ」
「目指すは酒池肉林」
『愛の素晴らしさ!愛の力を魅せてやる!愛に愛され愛に泣く!ハンス&ローズの『ラブ&ラブズ』だぁぁぁ!』
以前にカオリと戦ったハンスとローズか入場してくる。二人のラブラブな様子に会場中の独り身達から盛大な舌打ちが鳴らされる。
「あの宝石の輝きはローズにこそ似合うはずさ」
「もう……ハンスったら」
『続くは、そのハンス選手達の師匠コンビが参戦!弟子を揉みがてら、賞品を取ってやる!ドリック&シルフィの『疾風迅雷』だぁぁ!』
ハンス達の職場の上司であり師匠でもあるドワーフのドリックと、エルフのシルフィが並んで入場してきた。
「まあ、いっちょハンスを揉んでやるか」
「アタシらに当たるまで負けるんじゃないよローズ」
『次は、大会のためにわざわざ他国からやってきた!竜をも倒した実力派冒険者コンビ!シュタイナー&グッデスの『ドラゴンスレイヤーズ』!』
続いては大柄な体格をした歴戦の猛者といった風貌の二人だった。その様子と表情からは、絶対の自信が伝わってくる。
「へっ!こんな大会楽勝だぜ!」
「富も名声も全部俺らのもんだ!」
『次は……おっと正体不明!?覆面を被った謎の二人組!ミステリアスパートナーズだ!』
次に入場してきたのは、真っ黒なとんがり頭の覆面とローブて全身を覆った二人であった。
「……」
「……」
『続いても正体不明のコンビ!同じ覆面を被ったミステリアスパートナーズ2だ!』
また現れた覆面の二人組に、会場がざわつく。
「……」
「……」
『ここまできたら絶対なんか企んでるだろ!?作者のネタ不足か?!またまた同じ覆面チーム!ミステリアスパートナー3だぁぁぁ!』
いい加減にしろと、会場中から野次が飛ぶ。
「……」
「……」
『さて、ここからはその実力を認められ、予選参加を省略してトーナメント本選へと名を連ねた、真の実力派達の紹介だぁぁ!まずは、大地からの刺客!狙う首はただ一つ!トゥルキング&バハネロの『2000万プランターズ』だぁぁ!』
リングへと颯爽と登場したのは、歩く樹木こと、トゥルキングとバハネロの二人だった。
「カオリ殺す!」
「狙うはカオリのみ」
『続くは海よりの刺客!名誉を挽回するために恥辱の元を断ち切る!サーモンマン&シメ=サバの『海中殺法コンビ』!』
続いて空中回転捻りをしながらリングインしてきたのは、銀色に輝く鱗を持つ魚人二人組であった。
「カオリ殺す!」
「カオリ殺す!」
『更に続くは何と魔族からの刺客?!狙う首はただ一つ!必ず討ち果たしてみせよう!ビック=ボーイ&キレルジャナイーノの『はぐれてない悪魔コンビ』だぁぁ!』
堂々と人間の国にやってきた魔族二人組に会場は騒然とするも、二人は観客達に手を振るサービスをしている。能天気か。
「我が剣に斬れぬもの無し(カオリ殺す)」
「オデ、ハラヘッタ(カオリ殺す)」
『そして最後は──『ドンッ!』──えっ?』
イロハが最後の選手を紹介しようとした、その時。突如、会場中に太鼓の音が響き渡った。
『ドドドドッドッドッ!』
『こ、これは、い、一体?』
『ドンッ!』
イロハが戸惑う中、太鼓の音は響き渡る。
『ドドドドッドッドッ!』
『ドンッ!』
一際大きな太鼓の音が鳴らされると、次に野太い男達の声が木霊した、
「「「「誰が至強か?!」」」」
「「「「誰が至強か?!」」」」
「「「「「カオリ!!」」」」」
『こ、これは……?!』
「「「「誰が至強か?!」」」」
「「「「誰が至強か?!」」」」
「「「「カオリ!!」」」」」」
「「「「その息吹きで巨石は砕け!その一振りで山は地に沈む!」」」」
「「「「天下最強!乙女の中の乙女!!」」」」
「「「それは誰か?!」」」
「「「それは誰か?!」」」
「「「「カオリ!!」」」」
「「「「天下無双の大総統!アイハラ カオリ様のご入場也!!」」」」
ジャーーーン!!
甲高い銅鑼の音が響き渡る。
会場の一部の人垣が割れ、そこから屈強な体格をした謎の覆面集団が現れた。
そんな謎の集団は2つの神輿を担いでいた。その神輿には玉座が設置され、そこには二人の人物が王者の如く座っている。
片方には青いレオタードを着た、青白い肌をした少女……ハンナ。
そして、もう片方の神輿には血のように真っ赤なレオタードを着て、顔には不気味な隈取りの化粧をした少女……カオリが不敵な笑みを湛えながら座っていた。
『で、出ました!?本大会を巻き起こすきっかけとなった人物……アイハラカオリ選手と、パートナーのハンナ選手による『マッスルシスターズ』の入場です!?他の選手達からも標的にされるほどの話題の中心人物!!しかし、なんてド派手な入場でしょうか?!まるで自分こそが王!我こそがチャンピオンだと言わんばかりの大胆不敵な入場です!!』
彼女らは謎の集団に丁寧に運ばれながら、中央のリングへと移動する。
カオリの入場……それにより会場の緊張感が一気に増す。観客も選手も、誰もが彼女の出現に息を飲む。
選手らは一様にカオリを見つめ、ある者は驚愕を。ある者は呆れを。畏怖を。嫉妬を。そして、殺意をその瞳に宿していた。
カオリ達はリングへと運ばれると、屈強な男達の背を階段代わりに悠々とリングへと降り立つ。
そして、周囲にいる選手達を見て……笑った。
「なんだなんだ?どんな強者が出場するのかと思えば……雑魚ばかりじゃないか。なあ、ハンナ」
「全くです。これじゃ、なんの障害も見所もなく優勝まで行けてしまいますよ、カオリ」
「「フハハハハ!!」」
『な、なんと挑発的かつ傲慢な発言でしょうか?!しかし、彼女達にはそれを言えるだけの謎の迫力があります!』
なんとも大胆不敵な発言をしながら高笑いをするカオリとハンナに、選手達が怒りをあらわにする。
そんな選手達の中から、二人の選手がカオリ達の前へと進み出た。
「オイオイ!!随分と威勢の良いことをほざくじゃねーかよ、嬢ちゃん!!」
「舐めてると、女だろうが痛い目にあってもらうぜ!!」
それは他国から来た冒険者のシュタイナーとグッデスのドラゴンスレイヤーチームであった。
「ほう……生きがいいのがいるわね。あんた、名前は?」
「俺か?俺はシュタイナー!隣国で活躍してる、輝く金級の冒険者だ!!他の冒険者から鬼のシュタイナー!破壊のグッデスと畏れられてる最強冒険者コンビよ!」
「聞いて驚け!俺らは二人でドラゴンすら倒した本物のドラゴンスレイヤーだ!テメェらみたいな女なんか、片手で軽く捻り潰せるぜ!」
バキバキと威嚇するように拳を鳴らす二人。
だが、カオリ達は臆するどころか、嘲るような笑みを見せた。
「フフ……口は達者なようね。だけど実力はどうかしらね?実戦で『肩書き』は通用しないわよ?自慢の舌が回るうちに国に帰ったらどう?坊や達?」
シュタイナー達の顔が怒りで真っ赤になる。
シュタイナーが勢いよくカオリ達へと飛びかかった。
『ちょ?!まだ試合前です?!試合以外での闘いは原則禁止で───』
「うるせぇぇぇ!!こいつらは多少痛めつけねーと気が済まねぇ!!だいたい、こんな女子供が参加してんのがおかしいんだ!俺らが大人の現実ってやつを教育してやんよ!!」
イロハが止める間もなく、シュタイナーはカオリ達へと迫る。そして、カオリ達に掴みかかろうとした。
が、彼の手は空を切った。
「なに?!────がっ?!」
シュタイナーが嗚咽を漏らす。
なんと、カオリはあの一瞬でシュタイナーの懐に潜り込み、腹部目掛けてタックルを仕掛けていた。
「グッ?!テメェ!!」
シュタイナーは何とか持ち直すと、カオリへと再び掴みかかろうとした。
が、何とカオリは大柄な体格のシュタイナーを軽々と持ち上げ、そのまま空高く放り投げてしまった。
「な、なにぃぃぃぃぃ?!」
絶叫を上げるシュタイナー。だが、彼の地獄はここからだった。
カオリはシュタイナーの後を追うように飛び上がると、何とシュタイナーへと掴みかかる。そして、彼の頭を肩に担ぐような体勢になると、そのままリングへと向けて落下した。
そして……。
「ウワァァァ?!やめ……」
「喰らいなぁ!これぞ、必殺!カオリバスターだ!」
バキィィィィン!!
凄まじい轟音が辺りに響く。
リングへと勢いよく降り立ったカオリ。そして、着地の際に生じたの凄まじい衝撃はカオリの体を伝い、無防備なシュタイナーへと襲いかかった。
「カ……ハァ……?!」
シュタイナーは衝撃に耐えきれず、吐血しながら白目を剥いて気絶してしまった。
「シュ、シュタイナァァァァァ!?」
あっさりとやられてしまった相方の惨状にグッデスが悲鳴に近い絶叫を上げた。
しかし、そんな彼にも地獄が待っていた。
『他人の心配より、自分の心配をしな』
「なっ?!ぐわっ!?」
グッデスの背後から忍び寄ったハンナが彼に抱きつき、そのまま高く放り投げた。
そして、自分は彼よりも高く飛び上がると、そのまま逆さになるグッデスの脇に足を入れ、彼の足を手で固定する形でロックし、勢いよく落下していく。
「ま、待て?!やめ……」
『問答無用!喰らいなぁ!ハンナドライバー!!』
グッデスは、体勢を変えることができずそのまま頭からリングへと落下していった。
「やめ?!おがあちゃ────」
ドガァァァァン!!
結果、彼は悲鳴を上げることもできぬままにリングへと落下。頭部をリングへとめり込ませ、そのまま意識を失った……。
ハンナはグッデスへの技を解くと、先にシュタイナーを片付けていたカオリとハイタッチをした。
「ナイスハンナ」
『楽勝ですよ』
そんな様子を観客や選手達は唖然と見ていたが、いち早く我に帰った実況のイロハが絶叫を上げた。
『な、な、なんとういうことでしょう?!ゆ、優勝候補の一角であったドラゴンスレイヤーズが、いとも簡単に敗れ去ってしまったぁぁ!?何という力!何という容赦の無さ!恐るべきマッスルシスターズ!恐るべきカオリとハンナァァァ!!』
イロハの実況により我に帰った観客達が歓声を上げる。あまりの一瞬のことで唖然としていた彼らだが、その一方的な程の凄まじい実力を示したカオリ達へと熱狂じみた称賛の声を上げた。
『し、しかし、これはどうなんでしょうか?!試合前に倒してしまいましたが……解説のジャンクさん!』
『えっ、俺?いや、俺に聞かれても……エマリオさん?』
『有りで。最初に手を出したのは向こうだし、正当防衛ということで。試合はカオリ様はシードということで』
『ということです!長い物には巻かれましょう!』
『いいのかな……?まあ、いいのか……』
そんな訳で、本来は16チームで行われる試合は、早くも1チームが抜けた15チームで行われることとなった。
『それでは、多少トラブルはありましたが、これより最強タッグマッチトーナメントZETUMEIを開催致します!!』
「「「「ワアアア!!」」」」
試合開始の合図に観客達が沸き立つ。が、選手達は誰一人として浮き足だっている者はいなかった。
誰もが先ほど凄まじい技を見せたマッスルシスターズへと厳しい視線を向けていた。
特に、カオリという人物を知っている者の目線はより一層厳しいものだった……。
こうして、波乱を告げるアンデル王国最強タッグ決定戦……ZETUMEIが幕を上げた。