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129話 エマリオの提案

「エマリオさん?」

 

 アンデル王国の風俗業界を取り仕切る大商人エマリオさん。以前から親交(あんま深めたくないが、一方的に深めてくる。)のある彼の登場に驚いていると、エマリオさんは足早に私達の前へとやって来た。

 

「カオリ様にそこの方々!話しの方はカオリ様に仕掛けた盗聴機で聞かせてもらいました!この件、私に預からせて頂けませんか?」

 

「オイ。今なんか凄く聞き捨てられないこと言わなかった?」

 

 不穏というか既に犯罪に一歩踏み込んだ発言しなかった、このオッサン?

 

「なんだ貴様は?貴様もカオリへの挑戦者か?」

 

 トゥルキングが剣呑な雰囲気で誰何するが、エマリオさんは気にすることなくニコニコと微笑んだまま礼をした。

 

「これは失礼しました。私はカオリ様と海よりも深い仲で付き合わせてもらっている商人のエマリオと申します」

 

「せいぜい水たまりぐらいの浅さかと思ってたんだけど。というか、盗聴機外せ。どこにつけてた?」

 

「エマリオか。して、その商人が勝負を預けろとはどういうことだ?」

 

「なあ、話し聞けよ。どこに仕掛けた?鎧か?それとも服か?見つけるまで安眠できないんだけど」


 服やら鎧の隙間を探してみるが、それらしきものは見つからない。マジでどこに仕掛けたんだ?

 

「簡単な話でございますよ。聞けば、あなた方はカオリ様と戦いたい。けれど、カオリ様は戦いたくない。それで話が進んでない訳ですよね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「ねえ、ホンットどこ仕掛けた?」

 

「ならば、私がその仲介をさせていただきましょう!私がカオリ様をあなた方と戦わせてあげましょう!」

 

「「「?!」」」

 

 その場にいた全員が驚愕から息を飲んだ。もちろん、私も含めて。

 

「いや、ちょっと?!何を勝手なこと言ってんのさ?!そんな戯れ言より、盗聴───」


「ほう……カオリを戦わせることができると?」

 

「その話しは真か?」

 

「ねえ、聞いて」

 

「オデ、ハラヘッタ」

 

「彼は『その言葉に嘘はあるまいな?』と仰っています」

 

「だから聞けよ」

 

 とことん人の話し聞かねーな?!

 

「ええ、嘘は言いません。商人は信用と誠実さが一番大事ですから」

 

「盗聴機仕掛けてる時点で誠実さの欠片もねぇよ」

 

 最早、犯罪だろうが。

 

 ジロリとエマリオさんを睨むも、彼はどこ吹く風だ。

 

 そんなエマリオさんは、トゥルキング達に向けて人差し指を立てて見せた。


「ただ、一つ条件があります」

 

「「条件だと?」」

 

「そうです。カオリ様と戦うために一つだけ条件を飲んでもらいます。それさえ受け入れてくだされば、カオリ様と戦う権利を与えましょう」

 

「いや、まず本人である私から許可とれよ。しないけどさ」

 

「で、その条件とはなんだ?」

 

「それはですね……」

 

「なんで私の周りは自分の都合でしか話せない奴ばかりなんだ……」

 

 もういっそ、逃げてしまおうかな?

 

 そう考えた瞬間、エマリオさんがとんでもないことを叫んだ。

 

「カオリ様を含めた皆様で、盛大なタッグマッチトーナメント戦を開くことです!」

 

「「「「はっ?」」」」

 

 私を含め、その場にいた全員の目が点となった。

 

「タ、タッグマッチトーナメント戦?それは一体……?」

 

 そう問うトゥルキングに、エマリオさんはキラキラと輝く目をしながら答えた。

 

「そのままの通りです。ちょうど皆様二名ずつおります。その二名でタッグを組んでもらい、トーナメント式の試合を行うのです。勿論、観客を入れた盛大なものにし、チケットなどの販売も……いったいどれだけの売り上げになるのか想像もつきません」

 

 完全に商人の顔になったエマリオさんが下衆な笑みを浮かべながら想像を口にする。

 

 つまりは、私達の戦いをネタにして興行収入を得たい訳か。商魂たくましい人だ。

 

 が、そんなふざけた話に乗ってやる義理はない。

 

 本気で全員に脛殺し放って逃げよう算段した瞬間、トゥルキング達が怒声を上げた。

 

「ふざけるな!?我らの戦いを見せ物にしようというのか?!」

 

「そんな話が乗れるか!?何がトーナメント戦だ!ふざけるのも大概にせよ!!」

 

「オデ、ハラヘッタ」

 

「我が剣に斬れぬものなし」

 

「彼らは『そうだそうだ!ふざけんな!』と仰っています」

 

 口々にエマリオさんへと怒声を飛ばすトゥルキング達。内心、『よく言ってくれた!』と思っているが、もともとコイツらが来なければよかっただけなんだよね。

 

 しかし、気になるのはエマリオさんだ。これだけ罵声を浴びているのに全く怯む様子がない。

 寧ろ、余裕の表情である。何か奥の手でもあるのだろうか?

 

「だいたいカオリはそのトーナメントとやらに出ると言っておらぬだろう!なのに、そんなふざけた催しに参加する意味などあるまい!」

 

「そうだそうだ!本人の意思を尊重せよ馬鹿が!」

 

 トゥルキング達が正論を言う。

 

 エマリオさんはまるで私が参加することが当然とばかりに言っているが、私は参加する気など毛頭ない。戦いなど面倒なだけだ。だから、トゥルキングにサーモンマンにザッドハークの下位互換よ。私の意思を尊重するならば、お前らも諦めて帰れ。

 

 というか、私が今のうちにこっそり帰ろうか?

 いいよね?帰っていいよね?よし、帰りゅ。

 

 そう思い付いた私は、トゥルキング達がエマリオさんに気を取られてる間に、抜き足差し足でこっそりギルドから抜け出そうとした。

 

 その時……エマリオさんが不適な笑みを浮かべながら懐から何かを出した。

 

「おやおや?そんなことを言ってよろしいのですか?この大会には必ずカオリ様が参加します。カオリ様と戦える機会は大会しかないと思いますが?」

 

「だから、カオリが何故参加すると────」

 

「何せ、大会の優勝者にはこちらを送らせていただきますから」

 

 エマリオさんが懐から取り出したものを掲げた。

 

 それは、淡いピンク色をした美しい宝石がはめられたネックレスであった。

 

 ガタリ!

 

 急な音にビックリして見れば、ハンナが勢いよく席から立ち上がっていた。

 その顔は驚愕に満ち、視線は宝石へと釘付けであった。

 

『あれは……まさか……お、乙女の雫?!』

 

「お、乙女の雫?」

 

 なんだそりゃ?宝石の名前か?

 

 ハンナの反応を怪訝に思っていると、エマリオさんが宝石を高々と掲げながら宝石の解説をはじめた。

 

「ここにありますは、身に付けるだけで淑女の美しさと女子力を極限まで上げるとされる、世界に五つしか存在しない希少な宝石……『乙女の雫』を使ったネックレスでございます!これを付けるだけであら不思議!どんなガサツな女性も、不細工な女性も、野暮ったい女性も、幸薄そうな女性も、たちまち社交界で注目の的となり、イケメン達にモテてモテて大変なことになる品です!過去に所有してた方々も『これで人生が変わった』と絶賛しております!今回、トーナメントで優勝した方に賞品として送らせてもらいます!!」

 

 そうテンション高めに宣言するエマリオさん。

 

 対して、トゥルキング達の反応は微妙であった。

 どこか馬鹿にしたように、肩を竦めたり、苦笑してたりしていた。

 

「何を出すかと思えば、そんなも─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギゴギバギ。

 

「そのトーナメントとやら……参加させてもらおうぞ……」

 

 私は拳を鳴らしながら立ち上がった。

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