表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/155

127話 集う復讐者達

「はあ、全人類支配したいなぁ」

 

「冗談に聞こえないから、やめなさい」

 

 いつものギルド。いつもの席でお茶を飲みながら一人言を呟いてたらゴルデに嗜められた。

 

「いや、だってさ。二股かけられそうになるわ、依頼失敗するわで最近良いことないんだもの。そりゃあ、人類の一つ二つ支配したくなるでしょう?人々を思い通りにしたい」

 

「どんな思考回路してんの?!まあ、二股はともかく、依頼についてはあんたが悪いんでしょう?私は止めたのにセミなんて持ってくから……」

 

「まあ、私だって薄々はヤバいなぁと感じてはいたけどね。ただ、まあ……あんだけ死力を尽くしたセミを連れていかないのは女が廃ると思ってね……」

 

「廃る程の女子力もないでしょうに。だいたい、比喩じゃなくて本当に死力を振り絞ったじゃないのよ……。結果、死んでるし……」

 

 直前までは生きてたんだけどなぁ。

 

「ちゃんと依頼者には謝罪したの?子供ギャン泣きだったけど?」

 

「後日したよ。謝罪の品としてセミを百匹携えてな!」

 

「謝る気ないわよね!?」

 

「子供ギャン泣きしてたww」

 

「この外道?!」

 

 ちゃんとした虫を連れて来いって怒鳴られたから、ちゃんとしたセミを持っていったまでさ!

 

『まあ、カオリらしいですね』

 

『カオリちゃんは本当にやんちゃねぇ』

 

「さすがはカオリ様」

 

 隣ではハンナとゴアとミロクが肩を竦めていた。

 いや、ゴアに肩はないか。

 

「ウム。ゴキブリを持っていかぬだけ良心があるというものよ」

 

「良心?良心なのか?悪意しかないと思うが?」

 

「カオリ殿に今更そんなことを言っても仕方ないじゃろ。悪意を塗り固めたような御方なのじゃから」

 

「悪魔ヨリも悪魔らしイカラな……」

 

「悪魔もここまで邪悪じゃないわよ……」

 

 こいつら……好き勝手言いやがって……。

 

 全員に軽く脛殺しでもくらわせたろうか。

 そう思って席を立った瞬間、ギルドの扉を何者かが勢いよく開けて入ってきた。

 

「たのもう!ここにカオリはいるか!?」

 

 珍入者はギルド中に聞こえる大声で叫んだ。


 はいはい、またこのパターンですね。 

 私への挑戦者的な。もう既に慣れっこのパターンです。

 

 めんどうだな……と思いつつ、誰が来たのかを確認してみれば、そこには割と懐かしい奴がいた。

 

 筋肉質な肉体に、木の表皮のような色合いの肌。そして何より特徴的な、草に覆われた樹木の頭部。

 

 忘れるはずがない。それは……。

 

「あんたは……トゥルキング!?」

 

 そう。扉をブチ破らん勢いで入ってきたのは、以前トゥルの実の収穫依頼で戦ったトゥル族の王、トゥルキングだった。

 

 私の叫び声にトゥルキングが振り向いた。

 

「そこか!カオリ!」

 

 トゥルキングはズカズカとした足取りで私のもとまでやってきた。

 

「探したぞ!我が忌まわしき宿敵カオリよ!」

 

「宿敵になった覚えはないけど………それより、あんた縮んだ?」

 

 今、目の前にいるのはトゥルキングに間違いないようだが、以前見た時より大分縮んでいた。

 前は体長15メートル近くあったが、今は2メートル弱しかない。それに……。

 

 縮んだだけでなく、なんか金色に輝いていた。輝いているというより光ってる?なんで?

 

「そんなもの決まっている!貴様に復讐するために修練を重ねた結果だ!!幾多の苦行とも言える修練を乗り越えた末に、我が肉体からは無駄が省かれ、このようにコンパクトに圧縮されたのよ!さあ、語るも涙、聞くも涙の我が苦難の日々を聞きたいか!!」

 

「いや、別に……」

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

 貴様ぁぁぁぁぁ!じゃないわ。本当に知りたくない。てか、その理屈ならこれまでの体型は全て無駄って訳じゃん。笑える。

 

「それより、なんで金色に光っているの?」

 

「知らん!なんか知らない力に目覚めた!」

 

「いや、それ怖くない?」

 

 なんで自分でも分からない力に目覚めてるんだ?副作用とかあったらどうすんの?

 

 そんな私の心配を他所に、トゥルキングはサイド・チェストのポーズをとった。

 

「と、いう訳で、この新たな力を得た我……ゴールデン・トゥルキングと戦え!」

 

「いや、普通に嫌だ」

 

「何故だ?!」

 

 いや、何故だも何もないでしょう……。

 

「だって、メリットがないし……」

 

 前は仕方なく戦かったけど、今は戦う必要も理由も全くない。復讐だかなんだか知らんが、私にゃ関係ないね。

 

「貴様!戦士としての誇りはないのか?!」

 

「残念、戦士じゃないですぅ。あたしゃ、ただの乙女です~。戦士の誇り?ナニソレ、美味しいの?てか、ゴールデン・トゥルキング?名前ダサッww」

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

 拳をギリギリと握りながら激昂するトゥルキング。今にも殴りかかってきそうな勢いであったが、それを止めるかのように、トゥルキングの肩に何者かが手を置いた。

 

「落ち着け、トゥルキング」

 

「ぬう……バハネロか……」

 

 トゥルキングが振り向いた先に私も目をやり……私は固まった。

 

 そこには何とも言えない人物……いや、人なのか?取り敢えず、人が立っていた。

 

 身長は2メートルほどで、よく鍛え上げられた鋼のような筋肉を纏った肉体をしている。肌の色は真っ赤だ。身に纏う装備は真っ黒なブーメランパンツと、同じく真っ黒なマントを羽織っている。

 格好だけ見れば間違いなく変態だ。だが、数多くの変態達に揉まれた私が、半裸でマントを羽織った程度の変態に怯むはずがない。

 問題は顔だ。その変態の顔……それは、ハバネロを使った有名な某お菓子のパッケージに出てくるキャラクター。その顔、そのままであった。

 

 そんな、某ハバネロマスコットに似た顔の人物は、私に向かって優雅に礼をした。

 

「お初にお目にかかる。当方の名は『暴君バハネロ』。世界樹様を守る十代植傑の一柱にして、世界中の香辛料の王なり。此度は我が同士の戦いの立ち会いをするべく参じた」

 

「そうきたかぁ~」

 

 トゥルの実。キノコ。タケノコときて、次はバハネロできやがったか……。香辛料で攻めてきやがったかぁ。しかし、今のとこ、普通の植物キャラがいないなぁ十大植傑。


 てか、顔がまんまなんだけど。これ、もしも……もしもだけど漫画化した時とかどうすんのかな?

 

 そんな明後日の方向の心配をしていると、バハネロを名乗る人型バハネロが私の前へと進み出た。

 

「まずは同胞の不躾な態度を謝らせてもらう。申し訳なかった」

 

 そう言ってバハネロは私に向かって頭を下げた。

 

「バ、バハネロ?!何を?!」

 

「トゥルキングよ。同士よ。復讐に焦る気持ちは分かる。が、最低限の礼儀はあろう。彼女が先ほど言ったように、お主に理由はあっても、そちらにメリットがなければ戦う意義が見いだせぬだろう」

 

「ぐっ……むっ……確かにそうだった……。事を焦り過ぎたか……。申し訳ない、カオリ……」

 

 そう言ってトゥルキングも頭を下げてきた。

 

 ほう。このバハネロとやら、中々に常識的で交換が持てるじゃない。格好は非常識だが。

 

「分かればいいのよ、分かれば。私と戦いたいならば、それなりの代価を持ってきなさいな。ホホッ!」

 

「ギギッ……」

 

「カオリ……煽らないで。めっちゃプルプル震えてるから……。というか、黙って見てたけど知り合いなの?」

 

 そういや、ゴルデはトゥルキングは初見だったか。

 

「バハネロの方は初見だけど、トゥルキングは以前にちょっとね。こいつらは、ほら、あれ……ボ○キング。あの卑猥キノコの仲間」

 

 そう言うと、ゴルデは分かりやすい程に顔をしかめた。以前、酷い目にあったのを思い出しているのだろう。

 

「あんた……本当にまともな知り合いがいないわね……」

 

「私だって知り合いたくなかった」

 

 なるべくなら永遠にね。

 

「それでカオリとやら。当方としては是非とも盟友であるトゥルキングと戦い雌雄を決して欲しいと願う。何、ただでとは言わぬ。汝が勝ったならば、相応の物を渡そう」

 

「ほう……」

 

 話が早いじゃないか暴君バハネロ。暴君というより名君じゃないか。格好は迷惑だが。

 

「そうさな……汝が勝ったならば、香辛料一年分を送ろうぞ」

 

「ほう……」

 

 ……難しいところを突いてきたな。即決で決めることも断ることもできない微妙なラインだ。

 料理をするわけじゃないから別に欲しい訳ではないが、こっちの世界じゃ香辛料ってそこそこ良い値段するから、転売すれば結構な額になるのでは?

 

 一年分………総額いくらになるかな?

 

 そう悩んでいると、何を勘違いしたのかトゥルキングが手を上げた。

 

「まだ足りぬというか!ならば、トゥルの実を一年分──」

 

「ぜってー戦わねぇ!!」

 

「何故だ?!」

 

 何故だ?!じゃねーよ!!

 

「誰があんな気色悪い木の実のために戦うか?!貰わなくて結構!!よしんば貰ったとして、目の前で廃棄処分にしちゃるわ!!ぐちゃぐちゃにな!」

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!我が子孫に向かってよくも!」

 

「その子孫を報償にしようとしてんじゃねーよ!ブァァァァカァァァァ!!」

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!?」

 

 こちらに殴りかかろうとするトゥルキング。

 それをバハネロが背後から羽交い締めにして止めた。

 

「落ち着かぬか、トゥルキングよ!!」

 

「これが落ち着いてられるか!我はこの日のためにどれだけの修練を積んだと……!?お前を越えねば、我は先に進めぬのだぁぁぁ!!」

 

「知るかww」

 

「カオリィィィィィ!!」

 

 トゥルキングが手足をジタバタとさせながら怒りの雄叫びを上げる。

 

 こいつ、早く帰んねーかな?

 

 そう思った時だった……。

 

「ほう……。カオリとは、その女のことか?」

 

 不意に渋い声が辺りに響いた。

 

 今度は誰だ?そう思い、声のした方を見れば、ギルドの入口付近。そこに、異様な二人組がいた。

 

 二人共、トゥルキングに勝るとも劣らぬ鍛え抜かれた肉体をしていた。雰囲気も、歴戦の強者の重く鋭い空気を纏っている。明らかな戦士。

 

 ただ、懸念事項として、彼ら?の全身は……銀色の鱗で覆われていた。

 

 もっと言うなら、片方の顔は鮭で、もう片方の顔は鯖だった。

 

「………………」

 

 そんな異様な姿の二人組の登場に、私も、仲間も、他の冒険者達も、トゥルキング達さえも唖然としていた。

 

「おや?妙に静かになったな?」

 

「フッ……恐らく我々の発する闘気に当てられたのだろう……」

 

「シャケケケケ!なるほど、ならば納得だ」

 

 鮭頭の不審人物が奇妙な笑い声をあげながら私のもとへと近付いてきた。

 

「貴様がカオリで間違いないか?」

 

「あっ……はい……」

 

 思わず頷くと、鮭頭の目が鋭くなった。

 

「フン……。こんな女に奴は敗れたのか。情けない話だ」

 

「サバババ……。そう言ってやるな。奴は所詮は尖兵に過ぎない弱者。我々と一緒にするのも可哀想であろう」

 

「然り然り。シャケケケケ」

 

「サバババ」

 

 奇妙な笑い声を上げる魚人?に唖然としていると、何故かいち早く我に返ったトゥルキングが魚人達の前に立ちはだかった。

 

「なんだ貴様らは!我は今、この娘と大事な話し合いをしているのだ!どこかへ失せろ!」

 

 いや、あんたも失せて。

 

「お前こそなんだ?こちらこそ、そこのカオリとかいう女に用があるのだ。貴様こそ失せろ」

 

 私に用があるのは変なやつばっかだなぁ。なんか前世で悪いことしたかなぁ。

 

「なんだと?!この我を知らぬのか?我こそは世界樹様に仕える十大植傑が一柱!ゴールデン・トゥルキングであるぞ!」


「同じく、バハネロである!」 

 

 変態二人が名乗りを上げると、魚人の二人は顔を見合わせてから失笑した。

 

「知らぬな。どこの雑魚だ?」

 

「な、なんだと?!この大地の護り手である我らを知らぬだと?!」

 

 なんで周知されてる前提なんだ?結構、誰も知らなかったぞ?

 

「大地のことなど知らぬわ。我らが主は海を制す真なる覇者。陸上のような狭苦しい所でイキがる雑魚の名など知らぬわ」

 

「な、なに??海の覇者だと?!」

 

 驚くトゥルキング。対して私は冷静だった。

 

 海……かぁ。まあ、多分あれだろなぁ。

 

 気持ち的には、くるべきものが遂にきたかという感じ。もっと言うなら、なんで来客重なるんだよ、と愚痴を言いたい。

 

「そう!我こそは海を制する海鮮帝国より遣われし、海からの刺客!その名をサーモンマン!」

 

「同じく、シメ=サバ!」

 

 香ばしいポーズをとる二人を見ながら思った。

 

 やっぱりな……と。

 

 海鮮帝国。いつか、サーモンウルフが言ってた謎の国。なんか、サーモンウルフが事切れる前にごちゃごちゃ言ってたが、本当に来やがった……。

 

 いや、魚頭の奴が来た時点でなんとなく想像はついてたけどさ……。

 

 私は思わず天を仰いだ。

 

 そんな私の心情を構わず、サーモンマンがビシリと指差してきた。

 

「という訳てカオリとやらよ。我々はお前と戦いにきた。サーモンウルフ如き雑魚がやられた程度、なんとも思わぬが、あれでも海鮮帝国の末端に席を置くもの」

 

「それがやられたとあっては海鮮帝国の名折れ。ならば、その汚名を濯ぐため、諸悪の根元たる貴様を打ち倒すのみ!さあ、戦うぞカオリよ!」

 

 そう叫んでファイティグポーズをとる二人。

 

 そんな二人に待ったがかかった。

 待ったをかけた者……それはトゥルキングであった。

 

「待て!カオリと戦うのは我だ!あとから来て何を言っている!」

 

「そうだ。当方らが先に来たのだ。順次をわきまえよ」

 

 バハネロも腕組みしながら不快そうに言う。

 が、サーモンマン達は馬鹿にしたように肩を竦めた。

 

「ハッ!樹木の出来損ないみたいな奴らが何を言ってるのか。順次どうこうなどは関係がない。こちらは国の威信がかかっているのだ。我らが優先されるは道理よ」

 

「左様。そちらこそ引っ込んどれ。我らの用事が済んだ後に戦えばよかろう。まあ、その頃にはカオリはこの世におらぬだろうがな?サバババ!」

 

「なんだとっ?!この養殖野郎がっ?!」

 

「誰が養殖だっ?!純度100%の天然ものだ!貴様こそ農薬たっぷり使われた薬中植物だろうが!」

 

「貴様ぁぁ!?我は完全無農薬だぁぁ!!そんなことより、カオリと戦うのは我だ!疾く失せろ!」

 

「貴様こそ失せよ!カオリは我らのものぞ!」

 

「いや、我の!」

 

「いやいや我の───」

 

「いやいやいや我─────」

 

 不毛な言い合いをする四人に辟易して天井をぼんやりと見ていると、ザッドハークが近付いてきた。


「カオリよ。これはもしやモテ期到来というやつなのでは?」

 

「これがモテ期なら自殺するわ」


 樹木と魚類にモテても何も嬉しくねーよ。

 

 ザッドハークに本気の脛殺しを放とうか悩んでいると、ギルド中に響く声で何者かが叫んだ。

 

「我が剣に斬れぬものなし!!」

 

「オデ、ハラヘッタ!!」

 

 ギルドの入口には卵のような形をした異形と、ザッドハークの下位互換みたいな奴がいた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ