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126話 戦いの足音……


 薄暗い部屋の中、激しく何かを叩く音と、何者かの荒い息づかいが響いていた。

 

「フッ!フッ!フッ!」

 

 ドカ!バキ!ドカ!!

 

 部屋の中央……そこで、息づかいを吐く主は、ただ一心不乱に木製の人形を攻撃をしていた。

 

 蹴る。殴る。蹴る。殴る。

 

 途切れぬことなく連続で繰り出される打撃の応酬に耐えきれず、人形がミシミシと悲鳴をあげる。

 

 やがて……。

 

「チェストォォォ!!」

 

 バキャアアア!!

 

 一際勢いの乗った蹴りが放たれた。その蹴りはしなるような動きで人形へと迫り、その首を勢いよく跳ね飛ばしてしまった。

 

 人形の首はゴロゴロと転がり、部屋の入り口付近の壁にぶつかり止まった。

 

 蹴りを放った主は、その転がった首を横目でチラリと見たあと、激しく息を吐いて呼吸を整えた。

 

「シュハァァァァァァァァ……」

 

「仕上がったようだな」

 

 息を吐いていた人影がチラリと振り向く。

 

「お主か」

 

 人影が振り向いた先。そこには壁に寄りかかる人影があった。

 

「調子はよさそうだな」

 

「ああ。やっと納得のいく仕上がりとなった」

 

「では?」

 

 壁に寄りかかる人影が、キラリと目を光らせる。部屋の中央に佇んでいた人影がコクリとうなずく。

 

「行くぞ。今こそ復讐の時」

 

「了解した。見届けさせてもらう」

 

 佇んでいた人影は、もう一つの人影を伴い、重苦しい足音を立てながら部屋から出ていった。

 

 そして、薄暗い部屋の隅……そこに取り残された人形の頭部。そこにはこう書かれていた。

 

『カオリ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、とある浜辺において……暗い海の中から、何かが浜辺へと上陸していた。

 

 それは2つの人影であった。2つの人影は海から浜辺へと上陸すると、辺りをキョロキョロと見渡したした。

 

「この地にいるのか。例の者は?」

 

 一つの人影がそう問うと、もう一つの人影は首を横に振った。

 

「いや、もう少し先を行ったところにある国だ。この先の森を真っ直ぐに越えるのが近いようだ」

 

 そう言って指を差す方向には森が広がっていた。

 

「森か……。草やら虫やらがわんさかいる、鬱陶しい地か……」

 

 片方がそう言いながらため息を吐けば、もう片方は頷いた。

 

「そうだな。これだから陸は嫌なのだ。だが、ここを越さねば先には進めぬ」

 

「ならば、仕方あるまい」

 

 そう言って、2つの人影は木々が鬱蒼と生い茂る森へと足を踏み入れていった。

 

 そして、森の闇の中へと溶け込む寸前、片方の影が呟いた。

 

「お役目とはいえ厄介なことに巻き込まれたものだ。まあ、対象を早々に始末すれば良いだけだな。カオリとかいう人間をな……」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 魔王軍暗部所属のペトラ。彼は今、アンデル王国の近くにある森の中にいた。そこで彼はとある者達を待っていた。

 

「はぁ……き、緊張する……」

 

 ペトラが胸を擦りながら呟けば、肩に乗ったアベッカが呆れたように肩をすくめた。

 

『そんな緊張する程の相手でもないでしょう。たかだか魔王軍最高幹部のメンバーでしょう?』

 

『なあ、自分で何言ってるか分かってる?アベッカ愛してる』

 

 ペトラは化け物でも見るような目でアベッカを見た。

 

 ペトラ達が待っている人物……それは、先程アベッカが言った通り、魔王軍最高幹部である十三魔将……そのうちの二人だった。

 

 前回、十三魔将の一角にして実力第二位のアリスが勇者に敗れたことを最高幹部達は重く見た。故に、最高幹部たる十三魔将のうち武力に優れた二人を送り込んで勇者を抹殺しようというのだ。

 

 当初は二人と言わず、軍を送り込んでアンデル王国もろとも勇者を亡き者にするべきだという意見もあった。

 

 が、軍を動かす唯一の権限を持つ魔王がいまだ部屋に引き込もっており、その許可を得られなかったのだ。魔王軍は色々と大丈夫なのだろうか?

 

 というわけで、色々と話し合った結果、幹部の中でも戦闘力に特化した二名が選ばれ、アンデル王国へと勇者抹殺のために派出されることになった。

 

「しかし……いったい誰が来るのだろうか?まさか序列第一位のあのお方が?第二位が敗れたのだから充分にあり得るな……。アベッカ愛してる」

 

『いや、奴は来ないわね。あいつは魔王の側近としてのプライドが高いから、魔王が動かない限り魔都から離れることはないわね』


「そうなのか?……って、第一位を奴呼ばわりとか魔王様を呼び捨てとか、不敬じゃないか?アベッカ愛してる」 

 

 ペトラが辺りを見渡しながらビクビクと震える。

 

 対してアベッカは堂々としたものだ。

 

『あんな奴らを怖がる必要はないわ。それよりも怖いのは、第……あら、来たみたいね』

 

 何かを言いかけたアベッカが目を向けた先。そこにはいつの間にか緑色の髪をした女性が立っていた。

 

 女性はゆっくりとペトラ達へと近付くと、鋭い瞳で二人を……正確にはペトラを見据えた。

 

「あなたが現地アドバイザーにして暗部のペトラですか?」

 

「は、はい!暗部所属のペトラでございます!」

 

「そうですか。私は通訳を務めますリリアナです。以後お見知りおきを。これからよろしくお願いします」

 

「つ、通訳?は、はい。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 そう言って差し出された手を、ペトラは無造作に握り返した。

 

 返してしまった。

 

『あら、浮気?』

 

 肩に乗ったアベッカが肉切り包丁を構えたのは、ペトラが握手をしたのと同時であった。

 

 他の女との握手。そんな行為をこの嫉妬に狂った鬼が許すはずかなかった。

 

「ひっ?!」

 

 しまった。ペトラがそう思った時には遅かった。

 

 ヤンデレアベッカのボルテージは、既に嫉妬メーターを振り切っていた。

 

『嫁の前で堂々と浮気とはいい度胸ね。さっそく世界の剥製展で得た知識が役立ちそうね』

 

「ひぃぃぃ~?!違う!違うんだ?!アベッカ愛してるぅぅぅ?!」

 

 アベッカが包丁を振るい、ペトラが真剣白刃取りでなんとか受け止めた。

 

 この男……伊達に揉まれてない。


『あら、やるようになったわね。じゃあ、私も少し本気出しちゃおうかな』

 

 そう言うと同時に、アベッカが包丁を持つ手に力を込めた。すると、ペトラの体がギリギリと圧された。

 

「お、押される?!ま、まさか?!いままで本気じゃなかったのかぁぁぁぁ?!」

 

 アベッカの肉切り包丁がペトラの眉間に迫る。そんな修羅場が繰り広げられるなか、リリアナの態度は淡々としたものだった。

 

「では、次にこの御二方をご紹介させていただきますね」

 

「いや、ちょ?!助けて……って、二方って?幹部を?!このタイミングで?!ちょ、待っ……」

 

 必死に真剣白刃取りをして耐えるペトラを他所に、リリアナが二人の人物を呼び寄せた。

 

「では、こちらが十三魔将の御二人のビッグ=ボーイ様とキレルジャナイーノ様です」

 

 そう言ってリリアナが紹介したのは、巨大な卵形に手足を付けたような体に大きな口を持つ異形と、全身に漆黒の鎧を纏って剣を構える騎士であった。

 

「オデ、ハラヘッタ」

 

「我が剣に斬れぬものなし」

 

「御二人は『よろしくお願いします。共に勇者を打ち倒そうぞ』と言っております。」

 

 勇者抹殺にやってきたのは、よりによって会議でも言葉が通じてるかどうか分からない、この二名であった。

 

 1人は序列第十二位ビック=ボーイ。もう1人は序列第十一位キレルジャナイーノの二人であった。

 アリスよりも序列が低い二人を送って意味がないと思われるが、この二人の実力………とくに対人戦においての戦闘能力は実は十三魔将の中でもとっぷりクラスなのだ。

 

 だが、会話が成立しないことと、成立しても予想外の行動をとりまくり、何を考えてるか分からなさ過ぎて扱いが難し過ぎるということで、低い序列となってしまっていたのだ。

 

 とはいえ、実力は相当なもの。なので二人で纏めて勇者に当てれば勝てる筈、というのが上層部が下した判断だった。

 

 苦労するのは案内役のペトラだけであった。

 

「通訳って、なんのことかと思えば、このことかぁぁぁ!!って、誰かアベッカを止めてくれぇぇぇぇぇぇ?!」

 

「オデ、ハラヘッタ」

 

「我が剣に斬れぬものなし」

 

「御二人は『さあ、勇者を倒しにいざ往かん』と仰っています」

 

「早っ?!早すぎますよ?!まずは作戦を……って、その前に助けて?!勇者のとこ行く前に逝っちゃうから?!早く助け……いや、勝手に先に行かないで?!だから、ちょ?!置いて……行かないでえぇぇぇ!!待ってぇぇぇ!」

 

 こうして様々な者達が様々な思惑を持って、勇者香を狙い、続々とアンデル王国へと集結しつつあった。

 

 アンデル王国に嵐が吹き荒れようとしていた……。

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