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124話 私が知ってるのとは違う

「えっ?いたの?!」

 

 もう見つけたの?!ゴルデの持ってきた果物無駄じゃんww

 

 そう思って振り向くと、そこには……。

 

 黒光りする重厚な甲殻。

 

 二股に分かれた立派な角。

 

 ずっしりした体格に、力強い手足。

 

 間違うことなきカブトムシの特徴を持つ虫がいた。

 

 

 

 

 

 

 が…ただ、それが人型でなければ完璧だった。

 

 それはカブトムシの特徴を持っていた。が、カブトムシではなかった。どっちかと言えば人間だ。カブトムシを模した鎧甲冑を着た人間と言った方が早い何かが腕組みしながら、そこだけは虫らしい無機質な目でジッとこちらを見ていた。

 

「…………フッ」

 

 思わず笑いが込み上げた。

 

 なんとなくこうなる気がしていた。

 カブトムシを捕まえにきて、普通のカブトムシが私達の前に出てくるはずがないのだと。

 

 絶対、何かしら変なのが出てくるのが私達の運命なのだ。

 

 というか、特徴が若干似通って同じに感じただけで、あれが異世界の普通のカブトムシなのか?

 

 その可能性もあるよな……。

 

「……参考までに聞くけど、、ゴルデ。あれがこっちの世界のカブトムシなの?」

 

 一応、異世界現地人たるゴルデに聞くと、彼女は首を横に振った。

 

「んな訳ないでしょ……。何あれ、コスプレ?」

 

 違った。

 

 ゴルデから見てもカブトムシの格好をした人間にしか見えないらしい。だよね。

 

 取り敢えず、あれを変だと感じるのが私だけじゃないことに安心していると、カブトムシの格好をした奴が無駄にハスキーな声で呟いた。

 

「ほう。私を捕まえにきたか人間共」

 

「いや、違います」

 

 カブトムシを捕まえにきましたが、カブトムシの格好をした人を捕まえる予定はございません。

 

「なに?違うのか?しかし、先程カブトムシを捕まえにきたと言ってただろ?」

 

「言ってました」

 

「ほれ、見ろ。私を捕まえにきたのだ」

 

「だから違う」

 

 私が捕まえたいのは手のひらサイズのものであり、成人男性並みの体格をしたカブトムシっぽい何かではない。

 

 カブトムシっぽい奴は不服そうにフンと荒く息を吐いた。

 

「何が違うのだ?カブトムシを捕まえにきた。となれば、カブトムシたる私を捕まえにきたということだろうが」

 

「私の知ってるカブトムシは人型ではないし、そもそもそんな流暢に喋らない」

 

「それはそうだ。私は500年に一度生まれるというカブトムシ達の真なる王者。普通のカブトムシなどとは一味違うのだよ」

 

 一味どころじゃないと思う。そもそも料理のジャンルすら違うだろ。

 

「という訳で、そんな最強のカブトムシたるこの私……スーパーカブトムシを捕獲に来たのだろう人間め!」

 

「私がほしいのは普通のカブトムシです。そして名前がダサい」

 

 なんだ、静かな怒りにでも目覚めたカブトムシなのか?そのうちツーだの、スリーだの、ゴッドだの、身勝手な極意だのでも会得すんのか?

 

 すると、スーパーカブトムシを名乗る不審人物は、心外だとばかりに鼻?を鳴らした。

 

「フンッ!この私ではなく普通のカブトムシが欲しいだと?馬鹿め!あんな雑魚共を欲しがってどうするのだ?奴らは私の百分の一にも満たない力しかないのだぞ?」

 

「体格が違うからね」

 

「奴らは角で戦うが、私だったら角を使う必要すらない。指だけで充分だ」

 

「体格が違うからね」

 

「奴らが群れようが、私には無意味だしな」

 

「体格が違うからね」

 

「ただ、交尾相手が中々見つからんがな……」

 

「体格が違うからね」

 

 そもそも生物としての分類が違いそうだ。

 

 そう考えていると、自称カブトムシが香ばしいファイティグをとった。

 

「という訳で、最強のカブトムシたる私を捕まえに来たのだろう。しかし、簡単に捕まる訳にはいかない!どうしても私を捕まえたいならば、私を倒して力を示せ!さあ、来い!」

 

「どういう訳か知らないし、どうしても捕まえたい訳ではないのでいいです。じゃあ、さよなら」

 

 そう言ってその場を離れようとしたが、自称カブトムシに肩を捕まれてしまった。

 

「さっきからなんなんだ?!私の何が不満だ?!」

 

「敢えて言うなら存在自体が不満だよ!?私が捕まえたいのは手に乗るサイズのカブトムシなんだよ!!無駄にでかいお前に用はねぇ!!」

 

「乗ろうと思えば手に乗れるぞ!こう、ヒョイと爪先立ちすれば!!」

 

「乗れりゃいいってもんじゃねーよ!?よしんば乗ったとして、手が潰れるわ!?」

 

「鍛えろ!!」

 

「知るかっ?!」


 なんなんだコイツ?!無駄に絡んでくるけど、本当は捕まりたいんじゃないのか?!

 いや、そもそも本当にカブトムシなのかよ?!カブトムシを自称するだけの中身人間じゃないのか?! 

 

 そう予想していると、私の心中を読んだかのようにゴルデが質問をした。

 

「あ、あの……そもそも本当にカブトムシなの?カブトムシの格好した人間じゃないの?」

 

 すると、自称カブトムシことスーパーカブトムシが憤ったように息を吐いた。

 

「ふざけるな!?このわたくしが人間だと?!どっからどう見ても立派なカブトムシだろ!!」

 

「どっからどう見ても怪しい格好した人間だよ?!」

 

 ゴルデやアリス達ですらウンウンと頷く。

 ただ、ザッドハークだけが奴の角を見て『我のイチモツの方がでかいな』と、無駄に勝ち誇っていた。死ね。

 

 そんな中、自称カブトムシが大きく息を吐いた。それから落ち着き、諭すような口調で語りかけてきた。

 

「いいか。まず、落ち着いて聞け」

 

「ここ最近で一番落ち着いている自信があるんだけど」

 

「まあ、聞け。お前らの話を聞く限り、子供の為にカブトムシを捕りにきたのだろう?」

 

「そうだけど」

 

「では、想像してみろ。家でカブトムシの到着を待つ子供。そこに届けられる私。……ほら、子供の喜ぶ顔が目に浮かぶだろ?」

 

「驚く顔しか浮かばない」

 

 それも驚愕に引きつった子供にあるまじき顔が。

 

「驚き?喜びのあまりってやつか!!」

 

「困惑と未知なる恐怖に対する驚きだよ?!無駄にポジティブだなコイツ!?つーか戦いなんだのと言って、捕まりたいのか?!捕まえてほしいのか?!」

 

 よしんば捕まえても、喜ぶのは子供じゃなくて甲冑とか集めてるコレクターぐらいだよっ!!

 

 しかし、話してて段々苛ついてきたな?!もう放って帰るか?

 

 そう考えた瞬間……。

 

「ククク……必死だなぁ、カブトムシ」

 

「?!この声は……」

 

 カブトムシが木の上を見上げる。私もつられて見れば、木の上には何かがいた。その何かは空中にピョンと飛び上がると、そのまま降りてきてZ戦士と同じポーズでトンっと軽やかに着地した。

 

 そして現れた何か。その正体は……。

 

「貴様は!クワガタムシ!!」

 

 カブトムシ人間のクワガタバージョンだった。

 

 ……ぶっちゃけいるとは思った。カブトムシといったら絶対クワガタが登場するのが伝統だからだ。黒と白。善と悪。零と無限。相反する対となるもの存在するように、カブトムシとクワガタは昔から二つで一つのセットなのだ。

 

 いることに驚きはない。

 

 ただ、面倒な展開になることは予想できた。

 

「なんの用だクワガタ!」

 

 カブトムシが鋭い声で叫ぶと、クワガタは余裕のある笑み?を浮かべた。

 

「ククク……用というほどの用はない。ただ、無様に喘ぐ貴様の姿を嘲笑いにきただけだ」

 

「なんだとっ!?」

 

「ククク……カブトムシよ。そうまで必死に売り込まねば人気を獲得できないのだからなぁ。なんとも無様よ。人気がないというのは本当に辛いなぁ!」

 

「馬鹿を言うな!カブトムシの人気がないはずないだろ!夏の子供達のヒーローだぞ!馬鹿も休み休み言えっ!」

 

「だが、実際そこにいる人間達はお前を捕まえようとしない!ならば、貴様に人気がないと言っているようなものだ!」

 

「ぐっ……それは……」

 

「それはそうだろ。カブトムシなぞ角があるだけで、あとはデカいだけの不恰好な虫!ガン○ムで言えばド○!キャプ○ンなら近○!北○の拳ならば山のフ○ウ!歴史上、そんな図体ばかりデカい奴らは人気がないだろう!」

 

「ぐぐ……い、いいじゃないか近○!味わいのあるキャラだろうが!!カブトムシだって親しみと味わい深いシンプルな造形だろうが!!」

 

「ものはいいようだな!対して俺を見ろ!このシャープにして繊細かつ野生味溢れるデザインを!この雄々しく伸びるハサミを!ガン○ムならユニ○ーン!キャプ○ンならイ○ラシ!北○の拳ならレ○を彷彿とさせる格好の良さを!これぞ、誰もが憧れ、子供に大人気のクワガタというものよ!」

 

「ぐっ……ユ、ユニ○ーンは言い過ぎだろう!?せいぜいW○ぐらいだろ!だいたい何が繊細だ!ただヒョロイだけじゃねーか!ハサミだって言う程カッコよくねーし!そう思うだろ人げ……ってどこ行く気だ?!」

 

「ちっ…………」

 

 言い争ってる隙に立ち去ろとしたが気付かれてしまったか。

 

「すんません、私はもう行くんであとはお若い二人でどうぞ」

 

「見合いじゃねーぞ!!」

 

「そもそもオス同士だ!!」

 

 そそくさと去ろうとしたが先回りされた。

 無駄に機敏だな、コイツら。

 

「さっきからなんなの?私にどうしてほしいのよ?」

 

「簡単なことだ!このカブトムシとクワガタ。どっちが格好いいか判断してくれ!!」

 

「カブトムシ!はい、さよなら!」

 

「「気持ちがこもっとらん!!」」

 

 ハモんなや!?メンドイなこいつら?!

 

「じゃあ、どうすれば納得するのよ!?」

 

「簡単だ。これから私とクワガタが戦う。公平を期すためにその戦いの審判をしてほしい」

 

「帰る」

 

「何故帰る?!このクワガタとカブトムシ。虫の王者同士の誇りをかけた白熱したバトルを間近で見れるのだぞ?!」

 

「興味ないわ!?だいたい審判したところで私にメリットはあるのか?!」

 

「ある!!勝った方の虫を連れていける!つまり、虫を渡して依頼を達成できると同時に、子供の笑顔がついてくるという訳だ!お得だろ?」

 

「いるかっ!?つか、なんで捕まる前提なんだよ?!そこんところは王者のプライドはないのかよ?!」

 

「子供の笑顔のためならば王者のプライドも捨てさろうぞ」

 

「子供の笑顔には敵わないからな」

 

「立派だな?!子供は喜ばないだろうけどな!!」


 人型の虫なんて連れてったら間違いなく喜ばない。絶対戸惑うだろうな!!

 

「という訳で、これから森のバトルコロシアムに移動する。そこで勝負をつけるぞ」

 

「望むところだ。真なる虫の王者を決めるぞ。さて、行くぞ人間よ」

 

「いや、行かない…袖引っ張んな?!私は行かない!絶対に行かな…『バッ!ブブブ!』って、飛ぶな?!降ろせぇぇぇ?!」

 

「カ、カオリ?!ちょ、追うわよ!?」

 

「人間界の虫って、魔界の虫より怖くない?」

 

「分かりマス……。それヨリ追いましょう。ナンカ首輪がカチカチ鳴ってるカラ……」

 

「発動させやがった!?ちくしょうがぁぁぁ?!」

 

 こうして私は半ば連れ去られる形で森のコロシアムへと行くことになってしまった……。

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