12話 異世界飯はやっぱり変だった。
「……………………」
「そう不貞腐れた顔をするでない。詫びにトゥルのスープを大盛にしてくれたのだ。機嫌を直せ。この翼竜の塩手羽先も中々に美味ぞ?」
無言で目の前のスープの中にある青いミニトマトのような野菜……トゥルという野菜らしい……を木匙で弄ぶ私を、ザッドハークが手にした私の腕程はある巨大な手羽先を差し出しながら慰めてくる。
ザッドハークなりに私を気遣ってくれているようだ。
一応はその巨大手羽先を受け取り、大皿を二枚並べ、その上に置いておく。
でかいなこれ?流石は翼竜だ。
だが、私のテンションはそれでも上がらない。
それもこれもムッチョリムチャムチャのヌッチャヌッチャのせいだ。
だって、結局あれだけ議論した謎の料理……ムチャムチャムッチョリのヌッチャヌッチャが品切れしたために、その正体も味も知ることができなかったのだ。
せっかく興味が湧いてきて、楽しみにすらなっていたというのに!
というか、名前を聞きすぎて耳に残ってんだよムチャムチャムッチョリのヌッチャヌッチャ!!どんな料理かメチャメチャ気になるわ!!
あー!!悶々するぅぅぅ!!
木匙で更にトゥルをつつく。
スープの中でトゥルがコロコロと転がっていく。そのトゥルは、器の中にある他のトゥルにぶつかって止まる。
ムチャムチャムッチョリのヌッチャヌッチャを出せないお詫びと、店主から山盛りにされたスープの中には、全部で10個のトゥルがゴロゴロと転がっている。
紫色のスープの中に、青……しかも、マリンブルーに近い鮮やかな青色のミニトマトらしき野菜が入っているスープというのは中々に壮観だ。
人は、色によってこれ程に食欲が失せるものかと感心すらしてしまう。
「フム。食物を弄ぶような行為は感心せぬな。一体何が気に入らぬ?」
ザッドハークが手にした手羽先にかじりつきながら、オカンのような事を言ってくる。
「いや、あんだけ議論しておいてムチャムチャムッチョリのヌッチャヌッチャが無いだなんて生殺しだよね!?気になって気になって悶々するのよ!」
「無いものは仕方あるまい。代わりにスープがきたではないか?それに他にも色々とあるではないか」
そう言って私の前にあるスープを指差してくる。
「いや、それはありがたいけど……これもこれで予想外なのよね!?手羽先は私の腕と同等の大きさだし、ステーキは図鑑か?!ってぐらい分厚いし。何よりも、このスープの見た目が紫と青のコントラストって何なのよ?何でこんな色なの?なんでしちゃったの?!完全に食べ物に使っちゃいけない色ランキング上位を使いにきてるよね!?しかも2色も!!食欲失せるわ!!」
「そういうもの故に仕方あるまい」
「しかもこれ……」
手にした木匙を1つのトゥルに押し当て、力を入れて潰し、その実を割る。
すると……。
『グギャオロアラホラァァァ』
「叫ぶんだけど?!」
トゥルの青い丸い実が真っ二つに割れると、そこから赤い液体を吹き出しながら叫ぶのだ。
まるで青いパッ〇マンが、吐血しながら断末魔の叫びを上げているようだ。
「そういうもの故に仕方あるまい」
「どういうもんだぁぁ?!さっき知らずに1つ食べちゃったんだよ?!そしたら噛んで飲み込む途中……喉仏付近で叫びだしたんだよ?!気分悪いわ!?どんな進化や品種改良をすりゃ、こんな奇怪な野菜ができるのよ?!しかもさ……」
私は立ち上がると、自分のお腹をのけ反らせる。そして、シッーとザッドハークに静かにするようにジェスチャーする。
ザッドハークもそれに応じ、二人で耳を澄ませる……。
すると…………。
『ダ……カ……タス……テ……』
「まだ叫んでんだけど?!」
胃に納めた筈のトゥルは、未だに腹の中で叫んでいるのだ。
「しかもこれ、助けもとめてない?!『誰か助けて』って叫んでないこれ?」
腹の中で叫ばれるのも嫌なのに、更に助けを呼ばれた日には死にたくなるわ!?私は人間を丸のみにする蛇かドラゴンか!?
「トゥルは所詮は木の実よ。そこに意思も自我もない。意味ある言葉など喋れぬし、知恵もない。単なる貴様の勘違いか空耳よ」
「そ、そうなの……?そう言うなら信じるけど……」
『ウラ……ンデ……ヤ…ル……』
「絶対自我あるよなコレ?!今喋ったよね??器のやつ恨み吐いたよね?」
「気のせいだ。早く食せ」
「いや、こんなの喰え……」
『『『『セメテハヤクコロセ』』』』
「全部勝手に割れて喋ったぁぁぁぁぁ?!」
◇◇◇◇◇◇
「フム。やはり食後はこのバトフン豆の茶にかぎるな」
食後、ザッドハークは片手にその巨大と比べたらお猪口サイズのカップを片手に、優雅にお茶を飲んでいた。
「ウム。この香り……素晴らしい。おっと勘違いするでないぞ?香りは香りでも、匂いの香り故にな」
「うっ……うぅ……お腹の中で……お腹の中でトゥルがコーラスしてるよう……」
「フム。ツッコム気力もないか」
うぅ……お腹の中でトゥル達が大合唱してて気持ち悪いよう……。結局、全部食べてしまったよぅ……。
残したかったけど、あの後に気のよさそうな店主さんが来て『先程はすみません。トゥルのスープのお味はどうですか?今日のは会心の出来なんですよ』って、自信満々にやって来るんだもん。
あんなキラキラした目で見られたら、食べるっきゃないでしょう……。
悔しいけど、味はよかった。
でも、トゥルが歌ってるよぅ。胃が微振動して気持ち悪いよぅぅぅ。
なんで皆、あんな変なもんを食べれるのよぅ。
異世界の人って絶対に胃がおかしいよ……。
「フム。次回からトゥルを頼む際は、生ではなく焼きとするがよい。あれならば、トゥルも黙っているからな。というより、普通は焼きを頼むのだがな。気持ち悪い故に」
「それを先に言えぇぇぇぇぇぇ!?」
なんでんなもん喰わしたぁぁ?!道理で店主さんや周りの奴が途中から口元やお腹を押さえていた筈だぁぁ!?吐きそうになってたんじゃねーか!?
単なるそゲテモノ料理じゃねーか?!
「何。初の異世界料理故に、新鮮な物を食して貰おうという、我なりの気遣いよ」
「そんな気遣いドブに捨てちまえ!」
ありがた迷惑のくたびれ儲けとはこのことだわ!!
「ところで話は変わるが、これからの事だが」
「本当に突然だな?!」
こちとら、まだ腹の中のトゥルの合唱に悩まされているのに、本当に何の予兆もなく話を切り替えてきたな?!
音速どころか光速ばりの切り替え速度だわ!!
「まずは、そなたのその貧相な成り……あぁ、勘違いするでないぞ?貧相とは肉体のことではなく、装備のことだ。確かに肉体も女性的に貧相だが、今はそれはよい。我が言いたいのは装備を整えるべきだと言うことだ」
「成る程。話の内容と喧嘩を売っているということは分かった。よし。表出ろ」
「失言だった。反省しよう。故に、蹴りの構えをとるな。分かった。我が悪かったのだ。我が誇りに賭けて誓おう。反省し謝罪する。故に、それは止めろ。いや、止めようではないか?そればかりは、よそう。その蹴りは、何故か我にも………アッーーーー」
◇◇◇◇◇
「まぁ、つまりは最初は武器とか鎧とかを揃えることから始めようって訳ですね」
「さ……左様……」
ザッドハークが脛をおさえながら同意する。
よほど痛かったのか、猫耳っ娘の女給に氷を持ってきてくるように頼んでいた。
冷やすつもりらしい。
てか、氷……あるんだ。てっきり中世ヨーロッパぐらいの文明力と思ってたけど、魔法の力で結構高い文明をこさえてるらしい。
魔法すごいな。
まぁ、脛のことは置いておいて。確かにザッドハークの言うとおりだね。
まず、装備を整えなきゃ戦いにもなりゃしない。
格闘家を目指すならともかく、乙女の私が素手で戦いなんてできる筈がないし、防具もなく攻撃を受けることなんて絶対に無理。
やっぱり、しっかりと装備を揃えるところから始めないとね。
資金も充分過ぎるくらいあるし。
「うん。それでいいですね。そうしましょう。まず、装備を整えましょう」
「フム。理解したのなら何よりだ。ウムそこ……もっと下だ。そう……そこを……よし、そこで氷を固定せよ。ウム……故に、まずはこの王都にある店で、汝に合う装備を整えようぞ。そういった店を幾つか知っているのでな」
自信ありげにそう語るザッドハークに私は安心を覚える。
最初……いや、今でもだが、見た目がアレだし、洗脳なんて使ってたし、口も悪いし、こいつ大丈夫か?……って心配だったけど、何だかんだで意外と頼りになりそうだ。
この店も、料理の内容はアレだったけど味は良かったし、雰囲気も悪くない。
一応はしっかりと下調べをしてくれていたようだし。
私のためかは知らないが。
更にはこういった提案も率先してしてくれる。
見た目や言動。能力や正体は置いといて………かなり置きすぎたか?まぁ、いいや。一応は、普通に頼ってもいいかもしれないね。
ただ、猫耳っ娘に脛に氷を当ててもらっている姿は些かシュールなんで止めてもらいたい。
猫耳っ娘もすっかりザッドハークにも慣れたもんだ。
「分かった。じゃあ、お店選びについては任せます。土地勘も知識もないし。あっ………一応聞くけど、最初の街だからって扱ってる装備が貧相ってことはないですよね?」
「?どういう意味だ?」
ザッドハークが不思議そうな様子で聞いてくる。
まぁ、ただのゲーム知識なんだけど、某RPGゲームだと、最初の街や村には録な装備がないからね。
一応は聞いておきたい。
「いや………私が知っている話では、最初の町や村の武器屋では、弱い装備しか売ってないというのが常識でして。……例えば、売ってる武器がひのきの棒とか銅の剣だったり、防具が鍋の蓋や布の服だったり……みたいな?」
「その町は余程物資に困窮しているのか?」
「壺に硬貨を隠しているぐらいだから、そうかもしれません」
「不憫な………」
やはりあの世界の武器屋はおかしいらしい。
まぁ、よく考えなくとも、棒を買うくらいなら拾うか作るなりした方が安上がりだし、鍋の蓋なんて家には絶対にある。布の服については………考えてみれば、装備前は何を着ているんだろうか?布以外に着るものはなんて……まさか、真っ裸………ということはないよね?
「まぁ、所詮は作り物の世界……創作の物語のようなものの話なんで気にしないで下さい」
「その作者は相当に貧困な生活を味わったに違いないな」
「もうその話は置いときましょう。話が進まなくなる」
ちょいちょい変な所を気にしだすからな。ザッドハークア。
「フム。承知した。して……装備と一言でいっても色々とある。武器においては剣に槍に弓……その他にも魔導師ならば杖といった風に、職種や戦い方によって多種多様に様々な武器がある。それに剣と一重に言っても、長剣に短剣に片刃刀……果ては双剣などと、1種のものでもその分類は多岐に渡り、その中から自らにあった武器を選ばなければならぬ。加え、必然的に防具も、武器や戦闘方法によって合わせねばならぬ。故に、ただ強力な物をつければ良いというものではない」
「は、はぁ……な、なんか選ぶのだけでも一苦労ですね……」
「左様。装備選びとは、本来は苦労するものなのだ。なぜならば、己が命を守るためのものであるからだ。獣で言えば爪や毛皮といった狩りや戦いには必要不可欠なもの。故に、選ぶ際には己のこれまでの経験を踏まえて、時を掛けて一切の妥協も許さずに選ぶもの。例え高価でも。例え不恰好でも。己が扱い易く、少しでも身体に馴染むものを見つけ厳選することこそ重要よ」
「成る程………」
思ってたよりガチだった。
いや、ゲームの世界じゃないんだから、そういったことは理解してはいたけど、それでもガチだった。
なんか適当に強い装備を着ければそれでいいかなー……みたいに感じてたけど、そんなに甘くなかった。
いや、確かにそうだよね。陸上競技やなんかでも、選手達は自分にあった靴や道具を揃えるんだ。命を掛けた戦いをする装備を、適当に選ぶ道理でなんてないよね。
うん。認識が甘かった。未だにゲームの知識で動いていた自分を反省。
でも、それで考えると、ゲームの主人公達って、拾った過去の人達の装備を……ようは、お下がりを着けてることが多いじゃない?
あれってサイズ合うのかな?てか、衛生的にどうなんだろうか?
「フム。理解したならば良い。して、本来ならば苦労して選ぶ装備だが……我は長らく戦いの場に身を置いたために、そういったものを選ぶ鑑識眼に優れておる。筋肉の質や体格……そこから最適な装備を選ぶことが可能だ」
「おおっ!」
それは助かるな!!
服を選ぶのとは勝手が違うからね。
正直、身体に合ったものと言われてもピンとこないし、選ぶ知識も経験もないからね。
それを最適なものを選んでくれるなら願ったり叶ったりだ。
「是非ともお願いします」
「ウム。承知した」
コクリと頷いてからお茶を一口啜ったザッドハークは、「ところで」と語り掛けながら手のカップを置いた。
「我の見立てでは、汝はこれまでに戦いらしい戦いをしたことがあるような身体付きではないように見受けられるのだが?」
「そうですね。戦ったことなんてないし、戦いとは無縁で育ってきましたから……」
「フム………」
顎に手を当てて何やら考え込むザッドハーク。
どうやら何かを考える際には、顎を押さえるのが癖らしい。
某、少年探偵みたいだな。
実際は、何か良からぬことを企む悪の帝王のようだが。
しかし、何を考えてるのかな?やっぱり勇者とは言え、素人に装備を選ぶのは困難なのかな?
「あの……やっぱり問題がありますよね?」
するとザッドハークはと視線を私に合わせ、ゆっくりと首を左右に振る。
「いや、問題ない。例え戦いに縁遠い地のものであろうと、その者の体格に合った装備を選ぶのは我には容易いことだ」
「そうですか」
ならよかった。素人に戦闘は無理だなとか言われなくてよかった。
そしたら何の為に召喚されたんだってーのって話だからね。
「だが、1つ確認しておきたい。この世界には不可能を可能とする特殊技能……所謂、スキルというものがあるのだが……それは理解しているか?」
「はい。それは」
現に、あなたの脛を痛めつけたのも私のスキルだからね。
「左様か。一応は説明するが、スキルとはその個人が持ちうる技であり、様々な能力を行使できるものだ。日常生活に役立つものであったり、戦闘に役立つものであったり、それ以外の特殊なものであったりとな」
「ふんふん」
「通常、スキルは例外を除き、長年の訓練や修行によって身につけるものだ。例えば……日々、剣の修練をすることで、剣の技と力を補正する『剣技』を習得したりなどな。そこからスキルを上乗せした更なる戦闘方法が確立できるのだ」
「ほうほう……」
考えてみれば、女神から貰ったスキル以外では、私も『速読』や『小物作り』ってのがあるけど、これは向こうの世界での行動が反映されたものなんだろうな。
本を読むのが好きだし、小物なんかも結構作ってたしな。
戦闘には役立ちそうにないな。
「鍛えた肉体や技術とスキルは切っても切り離せぬ関係。故に、如何なるスキルを持っているかも装備に影響するのだ」
「はぁ……スキルも……ですか」
「左様。例えて言えば……全身を常に鉄のように硬化できる人間に、鉄の鎧は必要か?」
「邪魔ですね」
「左様。動きを阻害するだけだ。なれば、身を固めるよりも、何らかの魔術対策の装備を身に着けた方が良いというもの。まぁ、些か極端な例であったがな」
成る程なぁ……。確かにそうだよな。私の世界の昔の人間なら、鎧を着て身を守るのが当然だけと、異世界にはスキルやら魔法なんて超常の力があるんだもんな。そりゃ、戦闘にも影響するよな。
私が納得の表情をすると、ザッドハークも満足したように頷く。
「フム。大まかな話は理解できたようだな。して……ここからが本題なのだが、スキルはそのほとんどが修行によって習得する。だが、例外のスキルもあるのだ」
「もしかして、固有スキルとか特殊スキルとかですか?」
「左様。話が早い」
まぁ、その特殊スキルを持ってますしね。それに、王子様を鑑定した時にも見ましたから。
「これらの特殊なスキルは習得条件は分かっておらず、大抵は生まれながらであったり、何らかの影響で目覚めたりと様々だ。しかも、大抵のスキルは何とも突飛な能力のスキルがほとんどで、習得者との肉体条件や関連性が全くなかったりしておる。我の知っている者では、ひたすら筋肉を鍛える事が趣味の男が、ある日筋肉鍛練中の事故からの昏睡状態から目覚めたら、『大賢者』というスキルを習得したのだ」
「究極の宝の持ち腐れですね」
何で筋トレマニアが大賢者を習得するんだよ?!全く関連性がないじゃないの?!寧ろ、正反対じゃないのよ?!
「様々な知識を忘れることなく脳内に蓄え処理し、その収めた知識から様々な問題の回答や解決方法を導き出すというスキルとのことだ。魔術士や政務に携わる者ならば垂涎もののスキルだな」
なんでそんなスキルを筋トレマニアが覚醒したのだろう。謎だ。
「まぁ、今はその大賢者を活用し、より効率的に筋肉を成長させることができる魔法の粉を開発することに腐心しておる。なんでも、鍛練後に水に溶いて飲むものらしい。薬でもないのに見事に筋肉が成長するらしいぞ」
プロテインンンンンン!!
なんでそんな凄いスキルでプロテイン製造してるのぉぉぉ!?もっと世のために使えよぉぉぉぉ!!
それこそ、魔王退治とかにぃ!!
なんで中世ヨーロッパぐらいの世界でオーバーテクノロジーのプロテインを量産してんだよぅ?!
「フム。それで我が何を言いたいかと言えば、特殊スキルを持っていると、肉体からの情報だけでは装備を選ぶことができぬのだ。予想外の力を発揮するものがある故にな」
「成る程。話は分かりました。ということは………」
「勇者であらば確か特殊なスキルを習得しておる筈。だとすれば装備選びにも影響する。故に、差し支えなければ現状、どのようなスキルがあるのか教えてくれぬか?無論、他言する気は無いので安心せよ」
やっぱ、そうなるか。
スキルを教えなきゃ駄目だよねぇ。
しかし、スキルかぁ………。教えたくないなぁ……。いや、仲間として今後の戦いの連携にも必要だから、教えるのはやぶさかではないが………。
このスキルをねぇ……。
もっと格好いいスキルだったら悩む必要はないんだけど……。
「むぅ?如何した?教えてはくれぬか?確かにスキルは重要なもの故に、秘匿したくが利口なことだ。然れど、我と汝は今後は共に行動する故に情報の共有は大事ぞ?我の力も後で教えるのから安心せよ。それとも我の裏切りを考慮してか?だとしたら見くびるな。我は共に歩むと決めた者を裏切る程に堕ちておらぬ。我が名に誓おう」
あのやたらでかい黒剣を掲げて誓いそうを立てるザッドハーク。
いや、そういうんじゃないけど。
てか、店内では止めようよ?後ろの人達がギョとしてるから。
「うーん……別に教えるのはいいんだけど……」
「ならば如何したというのだ?何か教えるのが問題でも……?!まさかそなた!?何やら、いかがわしい性的なスキルでも……」
「それはねぇ?!」
急に大声で何言ってんだこの骸骨!?誰が娼婦スキルを習得してるか!?
してねぇよ!!
だからこっちをニヤニヤしながら見んなドワーフのオッサン共!!相手しねぇーからな!!
「フム………では何なのだ……」
なんでお前まはガッカリした様子なんだよ?期待してたのかよ?
よしんばそんなスキルを習得してたとして、絶対にお前には使わんから安心しろ。
骸骨のサービスなんて絶対にせん。
「まぁ、その………公にはちょっと言いづらいスキルだから………」
「言いづらい?何故?」
「………ちょっと耳貸して」
キョトンと不思議がるザッドハークに、おいでおいでと顔を近付けるように招く。そして、耳というよりかは黒い角を突き出してきたので、そこに向かってコソコソと自分のスキルを告白する。
『今、習得してるスキルは、『脛殺し』と『王殺し』、それと『暴食王』の三つ』
コソッと言い終わると、ザッドハークは暫くそのまま態勢で止まっていたが、ゆっくりと動いて元の態勢となった。
そして、そのままカップの茶を一口啜ってから一息ついた。
「なぁ、カオリよ」
「何ですか」
「そなた………勇者………であっておるのだな?」
「そのようですが」
迷いなく返事をする私に、ザッドハークは再びカップの茶を啜って一息つく。
「そうか」
そう一言呟くと、ザッドハークはそのまま天井を仰ぎ見た。
「勇者とは………」
うっせぇ!?自分でも分かっとるわ!?
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