119話 カオリ、モテ期到来?の巻
「あー……モテてぇな……。誰か告白してきて唐突なラブストーリーでも始まんないかなぁ」
ギルドに併設された酒場での女子会中、お茶を飲みつつそんな愚痴を溢せば、ゴルデが呆れたような目を向けてくる。
「あんた、いっつもそれ言ってるわね。だったらモテたいならモテたいなりに努力しなさいよ」
「努力した結果、モテなかった上に方向性見失った奴に言われたかないわww」
「ぶっ殺すわよ?」
オルタナティブを抜きながら凄むゴルデ。
この目………本気だ。
「ゴクリ………冗談冗談。つか、怖がってるわりに、まだその剣持ってたの?」
話題をそらす為に剣に話を振ると、彼女の肩がビクリと震えた。
おや?なんか反応が?
「この剣ね………。私も何度も手放そうと思ったわ………」
「じゃあ、手放せばいいじゃない?」
そう言うと、ゴルデは心底疲れたようにため息を吐いた。
「手放せないの。正確には手放しても、次の日には戻ってきてるのよ………」
「なにそれ、こわい」
いや、普通に怖いんだけど?
メリーさん人形かなんかかよ?
「メル婆さんに返しても、武器屋に売っても、川に捨てても、次の日には枕元にあるのよ………。しかも、今日なんて壁に赤い液体で『無駄なことはやめて、我を使え、我を握れ、我を振れ』って書いてあって………」
「ねえ、それ本当に聖剣?」
もう呪いの剣やんけ。
聞く限り、魔剣よりも禍々しいような気がする。
「もう、本当にこれどうしよう?」
真剣に悩むゴルデ。そんな彼女に私達はできる限りの助言をした。
「もう、そのまま使っちゃえば?レーザー以外な普通なんでしょう?それに剣に好かれてるようだしいいんじゃないww」
『レーザーなら、お姉さんの目からも出るわよ?気にしない気にしない。それよりモテ期到来よww』
『剣にモテてるようで羨ましい限りですよww』
『やったわねモテ期到来。その柄部分で処女捨てればwww?』
「まず、柄にしっかりと鑢をかけた方がよろしいですよ。引っ掛かれば大惨事ですからww」
「いちいち気にしなくていいでしょう。私の呪いの魔法少女ドレスよりはマシだし…ww」
「まあ……私達には特に問題はないですし、使えばいいのではww?」
「レーザーが何よ……。この首輪に比べればそんなもん………ww」
「あんたら他人事だと思って適当ほざくなよ?wwってうるさいんだけど」
ゴルデが据わった目で私達を見ながらオルタナティブを抜いた。
本気だ。目がヤバい。
「まあ、落ち着いて。冗談だから冗談。そんな剣が動くのが気になるならあれだよ。鎖で入念に巻いたあと、コンクリートで固めればいいよ。ピクリとも動かなくなるから。私も剣助がウザい時にはよくやってたし」
「剣虐待じゃない、それ?」
ゴルデがドン引いた目で私を見てきた。
果たして無機物にも虐待って適用されるのだろうか?
「ところで剣助は見つかったの?」
ゴルデの質問に私はペロリと舌を出しながら肩を竦めた。
「………いや、テヘペロッじゃいわよ。いいの?精霊の加護を得た剣を無くしてさ?」
「さあ?でも、重いし、でかいし、かさばるしで正直邪魔だったから、ぶっちゃけ清々する」
「あんたいつか呪われるわよ?」
そうかな?
「まっ、そのうち見つかるでしょう。あ、アリス。お茶お代わりちょうだい。濃いめで」
「畏まりました………」
この数日ですっかり従順になったアリスがカップにお茶を注いでくれる。
まっ。従順になったというか、色々諦めた顔なんだけど。
「う~ん。いい香り。香だけに香りには拘りがあるよね」
「そんなしょうもないこと言ってるからモテないのよ」
「モテたことないやつに、んなこたぁ言われたくないね」
「あんたもモテたことないじゃないの。だいたい、まともに男と話したことあんの?」
「ありますー。ザッドハークとかイシヅカとかジャンクさんとか」
「そのラインナップを『男』というジャンルで分けていいのかしら………?」
そう言われると、私も首を傾げざるを得ない。
「ところで、そのザッドハーク達は?姿が見えないけど?」
「新しくできた娼館に行くって。ミノタウロス族の血を引く、巨乳娘達の店だってさ」
「まだ真っ昼間よ?あいつら……本当に股間の本能の思うままに生きてるわね………」
「多分、股間に脳ミソがあって、頭のあれは呼吸するためだけの飾りよ」
呆れながらそう愚痴っていると、不意に背後に気配を感じた。
「あ、あの………カ・オリーさん!」
声をかけられ誰だろうと振り向けば、そこには一人の同年代とおぼしき男の子が立っていた。
ん?誰?はて?どっかで見たような?
というか、なんか名前を呼ぶときのイントネーションがおかしくなかった?
「?………えっと、どちら様だっけ?」
問いかけると、彼は一瞬悲しそうな顔をしたが、直ぐに真剣な表情となった。
そして………。
「カ・オリーさん!一目見た時から好きでした!僕と付き合ってください!」
彼はやたらと通るでかい声でそう言った。
◇◇◇◇◇◇
言った………言ってしまった?!
ついに僕は人生初めての告白をしてしまった!
カ・オリーさんがいるとの情報を得てギルドに来れば、彼女もお友達?と、ほのぼのとお茶会をしていた。
ここだ!と僕の本能が告げ、迷うことなく告白した!
周りに人の目もあって恥ずかしかったが、ボビーさんの助言通りに告白したので悔いはない!
ボビーさんは………。
『姉ハ、男ラシイ男ガ好キデス。周リニ人ガイテモ気ニセズ告白デキルヨウナ勇気アル男ヲ好ミマス!
』
と言っていたし………。
『我々ノ部族ハ、人前デ告白スルノガ一般的デス。周リニイル人達ニ見セツケテ周知サセルコトデ、アナタシカ愛サナイトイウ覚悟ト愛ノ誓イヲ立テルノデス!ダカラガンバ!』
と、親指を立てながら教えてくれた!
ならば、ここしかないと行動した!
男らしさを見せたはずだ!
………しかし、カ・オリーさんの反応は芳しくなかった。
特に反応せず、ただただ無表情に俺を見つめていた。
周りもピクリとも動くことなく、無表情にこちらを見つめている。まるで時でも止まったかのように、静寂が辺りを支配していた。
あ、あれ………?なんで誰も反応しないんだろうか?
だんだんと心配になっていると、不意に何かが割れる『パリーン』という甲高い音が響く。
音の原因はカ・オリーさんの近くにいた、やたらとカラフルなツインテールの女の子だ。彼女は手をしていたティーポットを床に落としてしまっまのだ。
手でも滑らせてしまったのだろうか?
そう考えていると、彼女はワナワナと震える手で顔を覆いながら、戦慄の眼差しで僕を見てきた。
そして、掠れた声で呟いた。
「ちょ………………あ、んた………正気?」
「えっ?」
何が?と思って彼女を見ていたが、気づけば周囲にいる全ての人達が同じような目を僕に向けていた。
そして、ひそひそと声が聞こえてくる。
「えっ………嘘だろ?」
「あ、あいつ………いまなんつった?」
「俺………耳が悪くなったかな?」
「冗談………だよね?」
そんなことが聞こえてきて何だか不安になっていると、カ・オリーさんが席から立ち上がった。
そして、僕の前に来るとジッと見つめてきた。
そ、そんな間近で見られれると、凄く恥ずかしいんだけど?と、というか、告白の返事は?
顔がだんだんと顔が熱くなるのを感じながら返事を待っていると、不意にカ・オリーさんが笑いかけてきた。
こ、これは?!もしや了承してもら………。
「誰の差し金だ!このド外道がぁぁ!!」
「ガッフ?!」
瞬間、カ・オリーさんの形相が修羅のようになると同時に、凄まじい衝撃が俺の顎を突き抜けた。
えっ………なにが起きたの?