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118話 すれ違いはここから始まる。

 

 翌日、俺は身嗜みを整えてギルドへやって来た。


 そして、目的の人物を探すも………見つからなかった。


 目的の人物とは勿論、僕の初恋の相手………その名をカオリさんだ。


 昨日、気のいい冒険者のおじさんに彼女について知っていることを幾つか聞いたのだ。


 彼女は冒険者であり、カオリという名前らしい。

 年齢はどうやら俺と同年代というから、なんとも嬉しい偶然だ。


 そんな彼女だが、情報では依頼を毎日受けている訳ではなく、その日の気分で受けているとのこと。そのため、ギルドに現れるのも不定期らしい。


 なんとも冒険者稼業を道楽にしている感じだが、その気ままさも何だか可愛く思える。


 さて、会えれば嬉しかったが、どうやら今日は来てないようだ。


 ガックリと肩を落とすが、直ぐに気を張り直す。


 今日の目的は、カオリさんに会うこと以外にも目的がある。というのも、カオリさんには何人かの仲間がいるらしく、その仲間達からカオリさんの情報を得ようと思うのだ。


 昨日の冒険者もカオリさんについてはあまり詳しくは知らないらしく、もっと知りたいならば仲間達から聞くのが良いと助言をもらったのだ。


 確かに、親しい人達からの情報の方が信憑性が高い。


 それにカオリさんの仲間と親しくしていて損はないだろう。昔の人も将を討つならまずは馬からと言っているしね。


 幸い、その仲間達の方は頻繁にギルドに顔を出しているらしく、会える可能性も高いとのことだし。


 よし!そうと決まれば、まずはカオリさんについての情報を仲間達から得て、それからデートに誘うプランやプレゼントについて考えてみよう!


 俺はカオリさんの仲間達の外見的特徴をメモした紙を見ながら、周囲を探した。


 そして、直ぐに見つけた。


 分かりやすい特徴だから直ぐに分かった。


「きっとあの人だな。教えてもらったとおりだ。『なんかでかくて黒い奴』………と」


 俺は意を決し、カオリさんの仲間とおぼしき人へと近付いていった………。






 ◇◇◇◇◇


「あ、あの。すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですが?」


 そう言ってドランが話かけると、食事をとっていた彼は手を止めてドランを見た。


「ハイ、ナンデスカー?」


 気さくな笑みを見せる男性。

 ドランが話かけた相手の名は、ボビー=オグリッド。身長二メートル程ある、黒人男性であり、南西部に住まうオゴンボゴロン族の屈強な戦士である。


 賢明な読者の方々は気付いているかもしれないが、完全な人違いである。


 ドランの目的の人物。なんかでかくて黒い奴というのは、無論ザッドハークのことである。


 黒くて、でかい奴違いだ。


 なんたる不幸か。


 しかし、この時点で気付かないのは仕方のない事故といえよう。


  まあ、普通に考えれば、真っ黒な骸骨の暗黒殲滅騎士よりも、よっぽどこっちの方が現実的と言える風貌だし、間違えるのも仕方ないだろう。誰が骸骨騎士など想像できるか。


 とはいえ、話していけばその内容から人違いであることにドランも気付くだろう。


 が、ここから不運の奇跡が起こることになる。


「あ、あの………突然すみません。あなたの仲間の女性について聞きたいことがあるんですが?」


「oh?女性?アア、カノジョニツイテデスカ?」


 偶然にもボビーには女性の仲間がいた。


「は、はい。あの………その女性の名はカオリさんでよろしいですよね?」


 恐る恐るとドランが聞くと、ボビーはニッコリと笑った。


「スコシ、ハツオンガチガイマース!姉ノ名ハ、タダシクハ、カ・オリーデス!」


「そ、そうなんですか?というか、お、お姉さんなんですか?!」


 ここで更なる偶然が発動する。

 ボビーの仲間の女性とは彼の姉であり、名前も実に良く似ていた。


「正しくはカ・オリーと言うんですか?」


 似て非なるものであるが、この時のドランには知る由もなかった。


「ソウデスー。私達ノ部族ノ言葉デ『孤高ニシテ気高キ人』という意味デース」


「孤高にして気高き人………」


 ドランは「ぴったりだな……」と呟きつつ納得した様子だが、違うのだ。違う人物なのだ。


「ソレデ、私ノ姉ガドウカシマシタカ?」


「えっと。その……カ・オリーさんについて色々と聞きたいことがあって………」


 モジモジとするドランの様子に、ボビーは色々と察した。姉に春が来たのだ………と。


 本当な人違いを察してほしいところだが、現状でそれは厳しいだろう。


 しかもこの時、ボビーは姉に訪れた突然の幸福に心底喜んでおり、とてもハイテンション状態であった。故に、細かいことに気づかなくなっていた。


 だから、この先で多少の食い違いがあっても、些細なことと気にも止めなくなっていた。


「ワカリマシタ!ナンデモ聞イテクダサイ!アッ、私ノ名前ハボビーデス、ヨロシク!マズハ席ニ付イテクザサーイ!サア、ドウゾドウゾ!」


 ボビーはドランに席を勧め、ドランは遠慮がちに席についた。


「じゃ、じゃあ失礼します………」


「ドウゾドウゾ!ソレデ、何ガ聞キタイデスカ?」


「えっと……そうですね。あの、失礼ですがボビーさんはカ・オリーさんがお姉さんと言ってましたが、あなたの年齢は………?」


 ドランから見て、ボビーは明らかに年上だった。

 ならば、その姉であるカ・オリーは更なる年上であるはずだ。


「私デスカ?私ハニジュウデス!姉ハニジュウヨンデス!」


「お姉さん24歳なんてすか?!」


 聞いてたよりも年上なことにドランは驚く。

 このまま話に不信感を覚えれば良かったのだが、ここでドランは年上と聞いて妙に納得してしまった。


(確かに。良く考えれば、あの凄みは十代で出せるはずがない。となれば、年上なのも自然が。あの冒険者の人達も情報が雑だなぁ………)


 と。


「なるほど。24歳と………。ところで、あんまりお姉さんと似てませんね?」


 ここで、またもターニングポイントが訪れる。ここで人達いに気づけば、ドランは戻れるはずだった。人違いに気付けるはずだった。


「ヨク言ワレマス。私ハ父親似デ、姉ハ母親似デス。姉弟デアンマリ似テナイヨ」


「そうなんですね」


 戻れなかった。

 ドランは納得した。

 納得してしまった。

 してしまったのだ。

 なぜ納得した?

 似てる似てない以前に、見た目から人種がまるで違うであろうに。


「なるほどなるほど。他にも、お姉さんのことで聞きたいことが山程あるんですが、大丈夫でしょうか?」


「ドンドン聞イテクダサイ!私、アナタヲ全力デ応援シマスカラー!」


「じゃ、じゃあ、カ・オリーさんの好きな料理はなんです?」


「ソレナラ間違イナク、アレデース!猿ノ脳ミソプリンデース!」


「へえ!ワイルドな料理が好きなんですね!」


 こうしてドランは照れながらボビーに質問し、ボビーはそれに素直に答えた。


 この、人違いの質問会は夕方まで続いたという。

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