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116話 追放劇は突然に

「ドラン!お前をこのパーティーから追放する!」


 依頼を終えて報酬を受け取り、ギルドに併設された酒場で仲間達と報酬の分配をしようとした矢先、いきなり僕らのパーティー……『白銀の牙』のリーダーであるジョエルが俺を指差しながら叫んできた。


「ジョ、ジョエル?それは何かの冗談か?」


「冗談なんかじゃねえ、本気だ。それにこれは皆の総意だ」


 周囲を見渡せば、これまで共に戦ってきた幼なじみのパーティーメンバーである全員が冷たい目で僕を見ていた。


「そ、そんな………なんで俺が追放なんだ?!」


「それはあなたが役立たずだからよ」


 普段は温厚で誰にでも優しいはずの僧侶であるシャーラが、これまで見たことないほどに冷たい目を向けながら言い放つ。


「攻撃も魔法も半端。囮役ぐらいしかできない奴は役立たず以外の何物でもないでしょう」


 おてんばだが心優しいはずの魔法使いのアカネまでもが、頬杖をつきながら面倒くさそうに吐き捨てる。


「ああ。正直、お前がいると邪魔なんだ。いつもいつも私達に付いてくることかできないハイエナが」


 活発で年上のお姉さん的立ち位置である剣士のサラまでもが、嫌悪に満ちた目で俺を睨んでいた。


「そ、そんな……訳を……訳を聞かせてくれ?!」


「だから言っただろ?お前が役立たずだからいらないってよ。俺達がこれから『白銀の牙』が更に上のランクに上がるためには、お前は邪魔なんだ」


 ジョエルが嫌悪感も丸出しの表情で宣言してきた。


「そ、そんな………村を出るとき、みんなで頑張っていこうって誓ったじゃないか?」


「プー!あんなのまだ覚えてたの?あの時は私達も世間知らずのガキだったから適当に言ってただけ。今となっちゃ、消したい汚点だわ」


「私もだ。こんな奴が同郷ということ自体が恥ずかしいことだ………」


「まったくですわ。見てるだけで虫酸が走る……。同郷だからと甘やかせば図に乗りおって」


 四人が四人共、まるで虫けらを見るような目で俺を見てくる。


 確かに、俺にはみんなみたいに突出した才能はなく、広く浅く物事をこなすしかない器用貧乏な能力だし、あまり役には立っていなかったと思う。それでも雑用なんかを必死にこなし、貢献してきたはずだ。


 それをこんな………追放なんて………。


 ガックリと目線を下げた時、不意にジョエル達の手に目がいった。


 そのジョエルや彼女達の薬指には、揃いの指輪がはめられていた。


 それを見て察した。


 ああ………ハハハ。なんだ、そういうことか。だから、僕は邪魔なんだ………。


 ジョエルは僕の視線に気づいたのか、サッと指を隠した。


「チッ!前々から思ってたが気持ち悪い奴だ。とっとと俺らの前から消えろ!」


 イラつき気味に放たれたジョエルの声に俺は我に返った。


「そ、そんな?!消えろだなんて?!俺はこれからどうすればいいんだ?!それに、今回の報酬や俺の貯金がパーティーの共通財産に入って………」


「知るか!それに金は当然これまでの迷惑料に決まってるだろ!お前に渡す金なんて硬貨一枚もない!」


「そ、そんな横暴な話があるか?!」


「うるせぇ!とっとと消えろ!」


 なおも追い縋ろうとする俺に業を煮やしたのか、ジョエルがテーブルの上にあったパイを手にし、それを僕目掛けて投げつけてきた。


 が、力み過ぎていたのか狙いが大きく外れ、パイは俺の横を通って背後へと飛んでいった。


「あ、危ないだろ?!」


「うるせぇ!テメェがとっとと消えねぇか……ガフラァァァァ?!」


 尚も俺に文句をつけようとしてたジョエルだが、突如として悲鳴をあげながら背後へとぶっ飛んでいった。そして壁にぶつかり、ズリズリと床へと崩れ落ちる。唖然としつつ様子を見れば、彼は白目を剥き、口から泡を吹き、完全に失神していた。しかも、なぜか右の脛を抑えながら。


「「「ジョエル?!」」」


 唖然とぶっ飛んでいったジョエルを見ていたシャーラ達だが、直ぐに我に返ると彼へと駆け寄っていった。


「い、いったい………な、何が?!」


 何が起きたのか分からず戸惑っていると、背後からとてつもない殺気を感じた。

 全身から冷や汗が吹き出し、ガクガクと体が震える。それでも、何とか首を動かして殺気の原因を探ろうと振り返れば……。


 そこには女の子がいた。


 状況的に見て、どうやら彼女が何かしたらしい。


 彼女の年齢は見た感じ俺と同じくらいで、茶色の髪を肩まで伸ばした見た目は普通の女の子だ。


 だが、その纏う雰囲気と……なにより目が違った。


 暗く、鋭く、かつ空気が質量を伴ったような、恐ろしい雰囲気を放っている。

 そして何より、彼女の目には一切の光がなく、まるで奈落を覗いたかのような暗く深い、底知れぬ瞳をしていた。


 これは………様々な絶望を………地獄を見てきた修羅の目だ………。


 そんな、ただならぬ恐ろしい雰囲気を醸し出す謎の女の子だが、その頭には先ほどジョエルが投げたパイがついていた。


 ああ………。さっきのパイが、この子に被弾したんだ………。


 頭についたパイを見て察していると、彼女の瞳がギョロリと僕へと向けられた。


 心臓がドキリと跳ね上がる。


「ひっ………あの………」


「お前はあいつの仲間か?私にパイを投げつけてきた糞野郎の………」


 女の子がボソリと呟いた。


 俺は必死に首を横に振った。


「ち、違う。さ、先ほど追放されたんだ……。もう、仲間じゃない………」


 そう言うと、彼女は『追放?そうか』と無機質に言いながら僕から目を放した。


「あれらは奴の仲間か?」


 今度はジョエルに駆け寄るシャーラ達を見ながら呟く。


「あ、ああ。まあ、仲間というより、恋人だな…」


 瞬間、この場から今すぐ逃げたしたくなる程の凄まじい殺気が彼女から溢れ出た。


「あ゛?いまなんつった?」


「ヒッ?!こ、恋人だと………」


「誰と誰が?」


「あ、あそこにいる、ぜ、全員が……。そ、揃いの指輪をしてるだろ?そ、そういうことだよ。いわゆる、ハーレムってやつだろうね………」


 恐る恐るとそう言うと、彼女は充血した目でジョエル達を睨んでいた。

 そして、おもむろに手を上げて指をパチンと鳴らす。その瞬間、周囲から黒づくめの集団が現れた。


 な、なんだこいつら?!いつの間にこんなに?!


「「ジェラシィィィイ!!」」


「私にパイをぶつけただけでなく、リア充でハーレムだと?ふざけおって。その行いは万死に値する。連れていけ!」


「「「ジェラシィィィイ!!」」」


 女の子が指示を出すと、黒づくめ達が嬉々としてジョエルへと飛びかかっていった。


「な?!なにをするのですか?!」


「な、なによ?!離せ!離して?!」


「貴様ら一体?!やめろ!!剣を返せ?!」


 黒づくめ達はシャーラ達が抵抗する間もなく、あっという間に拘束すると、そのままギルドの外へと運び出していった。


 最後に、女の子は倒れ伏すジョエルの片足を掴むと、雑にズリズリと引っ張りながらギルドの出口へと向かっていった。


 暫し唖然とその様子を見ていた俺だったが、なぜだか自然と女の子に声をかけていた。


「あ、あの!!そ、そいつを………ジョエルをどうするんてすか?!」


 女の子はピタリと歩みを止め、僅かに首を動かして横目で僕を見た。


「地獄を見せる。異論でも?」


 俺は首を横に振った。

 ジョエルや彼女達に対し同情もある。

 が、先ほどの行いを考えれば怒りが増していた。

 非道かもしれないが、俺には簡単に許すことはできなかった。


「そう。なら、行くわ」


 再び歩み出そうとす彼女に向かって、俺は叫んだ。


「あ、あの………君は一体?」


 そう問うと、彼女は今度は振り返ることなく、毅然とした声で答えてくれた。


「私は解放を願うもの。そして、この世全ての不幸にして持たざる者達を救わんとする者」


 言っている意味がわからない。


 だが、何故だか自然と涙が溢れ出た。


 彼女は一瞬だけ俺を振り向くと、クスリと笑った。


「持たざる者よ。不幸にして哀れなる子羊よ。お前もこの世を……報われた幸福な者達を憎むならば、我らが組織の門を叩くがよい。我らの門は不幸なる者達全てに開かれている」


 それだけ言うと、彼女はジョエルを引き摺ってギルドから出ていった。


 俺は暫らくの間、呆然と彼女が去っていった扉を眺めていた。


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